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希望の乙女

冒頭にテロップが出る通り「美空ひばり芸能生活十周年記念」映画なので、20歳そこそこの美空ひばりの魅力全開だけではなく、お相手をつとめる高倉健さん出演音楽映画としても貴重な作品となっている。

バンマス(バンドマスター)を演じ、サックスを吹いたり(もちろんポーズだけ)、ラテン系の格好をした健さんなんてそうそう観れるものではない。

健さんは、同じ美空ひばり主演「べらんめえ芸者」シリーズなどでも何度かお相手役を勤めているが、これだけ共演していた2人が現実では浮いた噂もなく(当時はあったのかもしれないが…)、健さんが、ひばりさんと3人娘仲間である江利チエミさんの方と結婚されたと言うのも興味深い。

この種の音楽映画は東宝の方が作り慣れており、当時の東映としては珍しい部類の映画ではないかと思うが、セット等が若干、貧弱に感じる以外は良く健闘していると思う。

美空ひばりの母親である加藤喜美枝さんのアイデアらしく、ストーリーは良くあるサスセスストーリーで、大事な舞台にヒロインが間に合わないのではないか!とハラハラさせるようなクライマックスもお馴染みのものであるが、全編、お嬢ひばりの歌と踊りとファッションが万華鏡のように次々と登場する、ファンにとっては堪らないであろう贅沢なショー仕立てになっている。

ジャズからロックからマンボと、歌のジャンルも豊富で、和風のイメージが強い「べらんめえ芸者」シリーズとは全く違ったバタ臭さとフレッシュさが楽しめる。

はじめて出会った瞬間から、互いに相手をののしり、会うたびに口喧嘩をするが、本当は互いに惹かれ合っているペアと言う設定もラブコメみたいで楽しい。

しかし「く○くるパー」とか「おつむテンテン」等と言う子供のののしり言葉も最近とんと聞かない。

すっかり死語になった言葉だろう。

佐野透役の小野透は、別名かとう哲也と言う美空ひばりの実弟である。

基本的に「お嬢ひばり映画」なので、美空ひばりが中心になっているのは当然だが、高倉健さんを始めとする、当時の東映のニューフェイス初期の頃の新人たちが多数出演しているのも見所だろう。

江原真二郎や中原ひとみ、今井健二などの若々しい姿は貴重。

また、灰田勝彦やディック・ミネも俳優としてゲスト的に登場しているし、ヒロインをお姉様と慕う娘ピー公を演じているのは、後に議員になる山東昭子さんである。

当時、ひばりさんが21歳くらいで、山東さんの方はまだ16歳くらいだった事になるが、今観ると、かなり大人びて見える。

ちなみに、キネ旬データのキャスト表を観ると、この作品に雪村いづみと江利チエミも出ている事になっているが、今回観たフィルムには、2人が登場するシーンはなかった。

出ていたとすれば、クライマックスの「オールスターフェスティバル」のシーンではないかと思う。

「オールスター」と銘打ったショーにしては、ゲストがほとんど出ていないからだ。

カットされていたのかも知れないし、データのキャスト表の方が間違っていたのかもしれない。

映画冒頭のキャストロールには、雪村いづみと江利チエミの名前はなかったような気がするのだが…?

他にも、「劇場版 月光仮面」の大村文武や、初代テレビ版「七色仮面」の波島進など、多数、ゲストが出演している感じなのだが、顔を見ても判別できないケースも少なくない。

女優陣はさすがに馴染みのない顔も多く、「興安丸」の船上での演奏会のシーンでアップになっているテーブルに座った女優3人などは、明らかに当時の人気者か、東映が売り出そうとしていた新人のはずなのだが、個人的には見覚えがなく、誰なのか分からなかったりする。

山村聡の落ちぶれたピアニスト役と言うのも珍しいような気がするが、観ていると悪くない感じだ。

宇佐美淳也もそうだが、こうしたベテランがきちんと脇を勤めていたりするのも、単なるアイドル映画とは侮れないお嬢映画の底力かもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、東映、加藤喜美枝原案、笠原良三+ 笠原和夫脚本、佐々木康監督作品。

美空ひばり芸能生活十周年記念映画

私は東京に行くわ〜♬

北海道の牧場でスカーフを頭にかぶって馬に股がり歌っているのは、歌手になるのが夢の少女美原さゆり(美空ひばり)だった。

近くに停まっていたオート三輪の荷台に乗った仲良し男性4人組(ダークダックス)もその歌に加わる。

立派な歌手になるの〜♬

牧場に戻って来たさゆりを待っていたのは、音楽の松木先生(波島進)だった。

松木先生がおじさんの許しを得たよと伝えていると、そのおじさん()が出て来て、先生の粘りに負けたよ、作曲家の月村先生への紹介状を書いてもらったと言う。

母校の大先輩だしねと松木先生は笑う。

物心ついた事から二親とも亡くしていたさゆりを育てて来たおじさんは心配するが、どんなことがあっても負け内で生きて行くわ!バンザイ!とさゆりは喜ぶ。

1人、本州に向かう連絡船に乗ったさゆりは、お父様、お母様、私は東京で、絶対、魂を込めた立派な歌手になってきます。さゆりはきっとステージに立ってみせますと、天国の両親に誓っていたが、その時、誰もいないと思っていた甲板のどこからか、テナーサックスの音楽が聞こえて来たので、あら、演奏が始まったわ…と呟くと、その曲に合わせて歌い始める。

それに驚いて振り向いたのは、物陰でサックスを吹いていたバンドマスターの相原丈二(高倉健)だった。

さゆりは歌い終わると、当然と言う風に、相良の肩に手をかけてポーズを付ける。

唖然としたような表情の相良は、観も知らない人の方に手をかけるなんて非常識でしょう。まるでく○くるパーですよと抗議する。

すると、あらそうかしら?と憮然とした様子のさゆりは、愛に陶酔すると言う芸術家としての素質に欠けるおつむテンテンだわ!と反論する。

失敬な!と言いながら、自分の部屋に戻りかけた相良は、さゆりが床に置いていた旅行鞄に躓き転んでしまう。

こんな所に置いとくなんて非常識だよ!と起こりながらそのバッグを持ち上げようとした相良は、バッグの取ってが取れてしまったので、もっと丈夫な鞄を買いたまえ!とさゆりに文句を言って去って行く。

何よ!と怒って鞄を持とうとしたさゆりは、床の上に今の相良が落としたらしきライターを見つけたので、思わず拾って、海に放り投げようとするが、そこに船員が通りかかったので、そのまま仕舞っておく事にする。

東京タワーが見える東京の下町に到着したさゆりは、「危険!ここで遊ぶ事厳禁!」と立て札が立っているドブの周囲で遊んでいた子供たちに、月村先生の家知らない?と聞くが、こんな所で遊んじゃダメよと近所のおばさんがやって来て子供たちを追い払ってしまったので、返事を聞けなかった。

その近くのラーメン屋では、店主の弁さん(柳谷寛)や店にいた若者たちが、ラーメンを食べていた客の中年男に、リーダーになってくれと頼んでいたが、その男は断って店を出ると、ドブの横を通りかかったので、また、さゆりが、月村先生の家を知りませんか?と声をかけるが、知らんねと答えて、狭い階段を登って高台の方に上がって行く。

がっかりして迷っていたさゆりに、家を探しているの?と突然声をかけて来たのは近くに住むらしき娘で、さゆりが月村先生の家の事を聞くと、月村先生と言ったら今の人よと言うではないか。

高台の家に帰ってくた月村浩一(山村聡)は、棚の上に置いてあった亡くなった妻の写真立てを見入っていたが、その時、庭先に現れたさゆりに気づく。

先ほどはどうも…とさゆりは挨拶をし、持って来た紹介状を月村に手渡すと、それに目を通した月村は、君は松木君の教え子なのか?と聞くが、今すぐ北海道へ帰りたまえ、迷惑だと無愛想に言う。

どうしても歌手になりたいんですとさゆりは懇願するが、誰か他の人頼めば良いだろうと月村は取りつく島もない。

私、学校で習った、先生の曲「故郷の月」と「白百合」が一番得意だったんです。先生の音楽芸術に憧れているんですなどとさゆりは必死に口説こうとするが、何が音楽芸術だ!そんなものは音楽評論家がわしの足を引っ張るために作った戯言だ!今は1人にしておいてくれ!と言うなり、奥に引っ込んでしまう。

それでもさゆりは黙って家に上がり込むと、汚れ切っていた台所を勝手に掃除し、家政婦として居残る事にする。

その後、ピアノを弾き始めた月村の所にやって来たさゆりが、ピアノの上に置いてある写真立てを観て、奥様のお好きだった曲ではありませんか?と尋ねるが、月村は、まだいるつもりかね?僕の音楽はそう言う俗っぽい低級なものじゃないんだ!私だけのものなんだ!と不機嫌そうに答える。

その時、庭先から音楽が聞こえて来たので、覗いてみると、そこに若者等が楽器を持って集まって来ており、音楽を奏で始めたので、あれは何ですか?とさゆりが聞くと、下手の横好きと言うものだ。あんな奴に音楽が分かりゃ苦労しないよとバカにしたように吐き捨てた月村だったが、屋根裏にベッドがある。ネズミが出るかもしれないがね…と言い、さゆりが住む事を黙認してくれる。

一安心したさゆりは庭先に向かうと、若者等の音楽に合わせ、ジャズ風にアレンジした「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」を歌い始める。

歌い終わると、今日から月村先生のお弟子になった三原さゆりですと挨拶すると、昼間、声をかけて来た娘が、花屋のピー公(山東昭子)ですと自己紹介し、バンドのメンバーたち(シックス・ブラザース)も一人一人自己紹介を始める。

彼らは近所の商店街の若者らしく、パン屋、トンカツ屋、八百屋、牛乳屋、洗濯屋などだった。

ラーメン屋の主人弁さんも、バヤリースを持って応援に来ていたが、ここの月村先生に我々「あけぼの楽団」のリーダーになってもらいたいのだとさゆりに説明する。

我々は遊びでやっている訳ではなく、空き地が少ないこの辺の子供たちが裏のドブで遊んで危ないので、埋めてて遊び場にする資金集めのためにやっているのだが、先生はああ言う人だから、見向きもしてくれない。何とかあなたからも先生に説得してもらえないだろうか?と言うので、私もメンバーにしてもらえるわよねと頼んで、さゆりは承知する。

弁さんの話によると、月村先生は今、銀座の「キャプリコーン」と言う店で指揮をしているようで、生活は相当苦しいようだと言うので、私も働いて、先生を助けるわとさゆりは決意する。

するとピー公が、お姉さんにちょうど良い仕事があるわと言ってくれる。

ピー公が紹介してくれた第一演芸と言う花屋で働き始めたさゆりだったが、召しませ花を〜♬と歌を歌いながら店に来た青年紳士の胸にカーネーションを付けてやっていると、それを妬んだお供の有閑マダムが、店主(花澤徳衛)に言いつけて、すぐにその店を首になってしまう。

次にさゆりが勤めたのはガソリンスタンドで、車を洗車しながら、私は18♬、恋すりゃ楽し♬と歌っていたが、ホースの水が止まらなくなり、側に停車していちゃついていたカップル(杉狂児、星美智子)にその水をかけてしまう。

一緒に働いていた青年が助けに来てくれるが、ホースの勢いに押され、周囲にいた一般人や、注意しに来た店の主任(小杉義隆)にまで水をかけてしまい、2人揃って首になってしまう。

噴水前にやって来たさゆりは、そのトランペット吹きだと言う青年に、行く所あるの?と聞くと、ケセラセラさと言うだけ。

別れ際に名前を聞くと、野川でトランペットの透と言えば誰でも知ってるさとその青年佐野透(小野透)は言って去って行く。

商店街に戻って来たさゆりがラーメン屋の前でピー公に、せっかく紹介してもらった店を首になってしまったと詫びていると、何人ものチンピラが店の外を走り過ぎて行ったので、何事かと観に行くと、1人の若者が痛めつけられていた。

警察が来たぞ!と弁さんが叫びチンピラたちを追い払った後、残された傷だらけになった若者を良く観ると、佐野透ではないか。

やっぱり行く所がなかったねと呆れたさゆりに、人の後をつけるのが癖になっただけさ…と透はうそぶくが、今日から私たちのバンドでトランペットを吹いてねと頼むと、楽隊屋か…と気乗りしない風だった。

しかし、あっさりバンドに合流した透と共に、その夜も、月村邸の庭先で、「あけぼの劇団」は演奏を始め、さゆりも、大人は誰も知ってもくれないの〜♬と「ハイティーンロック」を歌い始める。

そこに、泥酔した月村が帰って来て、君も物好きだね。石になるまでここにいるつもりかね?とさゆりに聞きながら、キッチンで、焼酎をジョニ黒の瓶に移し替えたものを手に寝室のベッドに向かう。

先生、お鞄、どうなさいました?クラブにお忘れになって来たんですか?私が今からクラブに行って、すぐ帰って来ますと言い残して出かけるが、それを止めようとしかけた月村はもうベッドの中で動けなかった。

銀座の「CLUB CAPRICORN」にやって来たさゆりは、ボーイに支配人は?と聞く。

その店で演奏していたバンドでサックスを吹いていたのが相良だったが、さゆりは気づかない。

応対に出て来た支配人波田野(田端義夫)は、月村さんの鞄?とおかしな顔をし、先生は、ずっとこちらの店にはお見えになっていませんよ。先月一杯で解約されていますと意外な事を言い出す。

この店の経営者がバンドを変えるって言うのでね…と気の毒がる支配人は、何とか月村先生をここで使って頂けないでしょうか?とさゆりが頼むと、ここのバンド「ゴールデンエイセス」の編曲をするアレンジャーを探しているので、どうでしょう?今、バンドマスターの相良君を紹介しましょうと言ってくれる。

さゆりは喜び、その相良と同じテーブルに付くが、店内の照明が異常に暗かったので互いに相手の顔が見えない。

月村先生のお弟子さんと言う事はピアニスト志望ですか?と聞いて来た相良に対し、歌手志望ですとさゆりが答えると、月村先生は僕の先輩なんですと相良は言う。

あなたは、素晴らしくチャーミングな声をしていますねと続けた相良が、あなたとは1度お目にかかったような気がするんですが…と言いだしたので、夢の中でお会いしたのかも…とさゆりが乙女チックな返事をすると、踊りませんか?と相良は誘って来る。

その時、室内の照明が明るくなり、互いの顔をはっきり観た2人は、互いに連絡船の上で会った事を思い出し、相良は、その後、く○くるパーの方のお加減はいかがですか?などと嫌味を言って来る。

怒ったさゆりは店を出て行こうとするが、その時、柄の悪そうな客に手を掴まれ、おれと踊ってくれと無理強いされる。

嫌がっているんだから止めたらどうですか?と相良が止めに来ると、その男の子分らしき連中が相良を取り囲んで来る。

相良はその連中を殴り合いを始め、あっさりやっつけるが、さゆりの方は相良が笑顔を向けて来ても知らん振りをして店を出て行ってしまう。

帰宅したさゆりに、店に言って来たのか?とベッドに横になっていた月村が聞いて来たので、いえ、場所が分からなかったので…とごまかしたさゆりは、これを買ってきました。私も少しだけなら飲めるんですと言いながら、洋酒を差し出すと、いたたまれなくなった月村は、散歩に行って来ると言って立ち上がると、僕は御節介が嫌いなんだ。今度慎んでもらいたいとグラスを持って来たさゆりに言い聞かすと屋敷を後にする。

屋根裏部屋に戻ったさゆりは、自分の旅行鞄を開けると、その中に仕舞っておいた相良のライターを取り出し、火をつけてみる。

(夢の世界)赤いドレスを着たさゆりは、白い階段があるセットで歌い始める。

やがて、その海岸の後ろから、相良が現れたので、抱きつこうとすると、いつの間にか相手は別人に変わっている。

また相良が現れたので近づいて一緒に踊ろうとすると、又別人に変わっている。

相良は、白い階段を登りながら、さゆりの事を待ち構えているようだった。

(現実)いつの間にか、さゆりはベッドの中で寝入っていた。

ある日、月岡邸に来ていたのは、月村に立ち退きを迫りに来たこの屋敷の貸し主富永(柳家金語楼)だった。

もう半年も、月村ののらりくらりの言い訳で待っていたが、最近は、若いもんが妙な遊びをして、近所のものが困っておりますと、「あけぼの楽団」の事を引き合いに出し、月村に迫っていた。

それを聞いていたさゆりは、月村がクラブにも言っていない事も含め、月村が今、窮地に追い込まれているのだと言う事を、ラーメン屋に集まった「あけぼの楽団」のみんなに教える。

それを聞いた弁さんは、先生は、ちょっとやそっとでこちらの好意を受けてはくれないだろうし…と、気難しい月村への中途半端な援助の難しさを語る。

ピー公も、先生を助ける方法さえ思いつけば…と頭を抱える。

するとさゆりが、今日は、亡くなった奥様と先生が、初めて出会った日なの!と思い出す。

散歩から帰宅して来た月村は、妻の遺影の周囲に、沢山の供え物やごちそうが飾り付けられている事に気づく。

それが何人もの贈り物だと言う事に気づき庭の方を振り向くと、閉まっていたカーテンが開き、庭先で待機していた「あけぼの楽団」とさゆりが、歌声は〜虹のかなた〜♬を歌と演奏を始める。

それを聞いていた月村は、表情も和み、自分もピアノの前に座ると、伴奏を始める。

さゆりは、月村がようやく心を開いてくれたのを知り笑顔になる。

その日から、月村は「あけぼの楽団」のピアノを担当してくれながら、音楽の指導もしてくれるようになる。

さゆりは、大人は分かってくれない〜♬と「ハイティーンロック」を歌っていたが、そこに又、富永がやって来て、音楽をうるさそうにすると、先生、たいがいにして下さいよ!ドブを埋め立てて、遊園地を作るなんて…、こんな事は東京湾の真ん中ででもやって下さい!と嫌味を言う。

それを聞いていたピー公は、良い考えね!東京湾を巡る興安丸に乗って、募金運動をしたら?と思いつく。

その後、客がたくさん乗っている遊覧船「興安丸」の船上で「あけぼの楽団」の募金音楽会が始まる。

まずは佐野透が「ダイアナ」を歌っていた。

その船上で、「さゆりちゃ〜ん!」と声をかけて来たのは、北海道で一緒に歌っていた4人組だった。

彼らも歌手になるため上京していたらしく、もう1歩なんだとさゆりに近況を教えると、僕たちも一緒に歌わせてくれない?と頼んで来る。

演奏会の事を知った若い乗客たちは、誘い合ってステージ側に集まって来る。

セーラー服を着た4人組が登場し、青空に〜呼びかける〜♬と歌い始めると、同じくセーラー服を着たさゆりが歌に加わる。

チャンスを逃すな〜♬

ステージ下に集まった若者たち(江原真二郎、中原ひとみ、今井健二ら)は、さゆりたちの姿をカメラに収める。

そして彼らは、弁さんさんらが持っていた募金箱にお金を入れてくれる。

しかし、その募金総額は、15211円にしかならず、到底、ドブを埋め立て遊園地を作る資金にはならなかった。

船室に集まった月村、さゆり、「あけぼの楽団」の面々はがっかりするが、その時、「前田五郎左衛門」と月村に名刺を差し出して挨拶して来た紳士がいた。

今の演奏を聴いていて感動したので、ぜひ我が社と契約をして欲しいと言うのである。

月村は、この連中は素人の寄せ集めですよと教えるが、前田は気にしてないようで、地方巡業をやってみないかと言う。

月村はさゆりの意向を聞くと、先生のご判断に任せますと言う。

月村は、この際、君たちの腕を磨くには他流試合をした方が良いかもしれんと言い、前田の話に乗る事にする。

かくして、さゆりと「あけぼの劇団」、それに、あの4人組を合わせた素人楽団は、地方巡業の旅に出る。

アンデスの野菜売りの歌を歌うさゆり。

汽車で移動

トラの着ぐるみを着た4人組とライフルを持った探検家に扮したさゆりは、アフリカは私の〜♬と歌う。

ステージが終わって事務所に戻って来たさゆりに、ピー公が、大変よ!前田って男、今までのお金を全部持ち逃げしたのと知らせる。

そこにいた月村も、やっぱり私のような老人には世の中は渡っちゃいけなかったんだとがっかり力を落とす。

そこの支配人(ディック・ミネ)は許してくれたが、次の興行関係者らしきヤクザも事務所に来ていたので、さゆりは、お金はもらえなくても、勉強のためにやりましょう。私は先生さえいて下さったらちっとも心細くないわと決断する。

次の興行で、マラカスを持って、マンボを歌うさゆり。

2台のバスで移動する楽団。

明るい街角に〜♬と、シルクハットにタキシード姿で歌うさゆり。

そんな巡業先の休憩時間、近くの湖に1人やってきたさゆりは、草むらに寝転がっていた男の足に引っかかって転んでしまう。

怒って振り返ると、立ち上がって睨んでいたのは相良だった。

1ヶ月もこの地の宿に泊まって完成しかかっていた曲のインスピレーションがめちゃめちゃになったじゃないかと相良は言う。

さゆりの方も負けじと、こんな所で作曲している方がまともではありません!と反論する。

頭に来たらしい相良は、今日こそ、どっちがまともじゃないかはっきりさせましょう!と言うと、岸に並んでたボートの一艘に乗り込み、さゆりにもそこに座るように勧める。

望む所ですわ!と売り言葉に買い言葉でボートに乗り込んださゆりだったが、議論を始めようと互いに牽制し合っているうちに、ボートが岸を離れ湖面に流れ出していたことに気づく。

オールは岸におきっぱなしになっていたので、2人はどうする事も出来ず、湖の上で2人きりになってしまう。

そこへ近づいて来たのが、透とピー公だったが、2人のボートを見つけると、そっとしときましょうなどと変に気を利かし、自分たちはベンチに座って湖面を眺める事にする。

湖の沖の方に流されたボートに乗っていた相良は、ひょっとするとここが人生の終着点になるかもしれませんねなどと嫌な事を言い出す。

そして、じゃあ僕は1人で泳いで行きますから、君は1人でここにいなさいなどと冷たいことを言う相良に、さゆりは不機嫌になるが、冗談ですよ、僕も万一の時は死にますよ、君と一緒に…と言い出す。

私、色々失礼な事言ってごめんなさいとさゆりが素直に謝ると、僕の方こそ図に乗ってたんですと相良も素直になり、実は初めて君に会ったときから好きだったんですと告白する。

そして相良は、今度、金星劇場に出てみませんか?来週、オールスターフェスティバルがあるので、マネージャーの三島さんにご紹介しましょう。月村さんの同級生だったはずですからと誘う。

いつの間にか、相良の作曲用ノートは引き裂かれ、湖面にその紙片が花びらのように浮かび、さゆりもいつしか歌っていた。

岸部では、ベンチに座っていたピー公と透が、いつしか手を取り合い抱き合っていた。

その後、「クラブ カプリコーン」では月村指揮のもと、「あけぼの劇団」が演奏し、それを相良や三鳥雄策(宇佐美淳也)が聞いていた。

いつか寄り添う〜♬2人の影〜♬

相良は、おめでとうパスしましたよ!と歌い終わったさゆりに結果を知らせる。

三島は月島に、すごいタレントを発掘したねと声をかけて来て、事務所に誘う。

その時、相良が、さゆりさんをしばらくお借りしても良いですか?と聞いて来たので、どうぞと月島は嬉しそうに答える。

オープンカーで田園地帯にやって来た相良は、車を降りると、僕がコンタクトを振って、君が歌う…、今度こそ悪夢じゃないんでしょうね?などと冗談を言う。

さゆりは、煙草をくわえた相良に持って来たライターを差し出すと、あ!連絡船で…と相良は自分のものだと気づく。

これ、いつかお返ししようと思っていたんですけど、私にくれません?とさゆりが頼むと、大事にして下さいねと相良も承知する。

いつしか2人は、草の斜面に寝そべるのだった。

「クラブ カプリコーン」の事務所では、あの頃は君がクラシックで、僕が異端児だったけど、今は君はジャズをやっているとは…と月村が三島に話していた。

美原くんのサインをもらってくれと言いながら、三島が手渡した契約書に目を通した月島は、美原君個人との契約なのか?僕やあけぼの楽団は?と戸惑う。

正直、あの素人劇団が商売になると思うかい?僕は商売にならん事には興味がないよ。美原だけはプロにしてみせるなどと三島は言う。

その頃、曙町のドブを取材に着ていたのは新聞記者の伍東(大村文武)だった。

月村はラーメン屋に戻って来ていた透やピー公たちに契約の話を打ち明ける。

透は、僕たちはいつも先生と一緒だよと言い、ピー公も、私、さゆりお姉様だけでも出世してくれれば、その内、ここに遊園地を作ってくれると思うのなどと言う。

弁さんは、当分、楽団を解散しようと提案し、それに賛成した透も、さゆりさんも分かってくれると思うと答える。

その日、帰宅したさゆりは、月岡がまた酒を飲んでいるのを見つけ、うれしいわ。先生と同じ舞台で歌えるなんてと話しかけるが、月岡は巧く行く事を祈るよ…などと妙なことを言う。

なぜわしが、君のお先棒を担がなければいけないんだ?あけぼの楽団も解散した。君はプロになる。僕たちはアマチュアに徹するんだ。レコード会社から作曲の注文を受けているので、しばらく旅に出る事にした。君はここを出て行ってくれ。君を食い物にしているような誤解を受けたくないんだなどと月岡は言うので、先生がいらっしゃらなくては私1人では何も出来ません。旅に行かれるのなら私も行きます。あけぼの楽団のみんなと先生と一緒に、私は「虹のかなたに」を歌いたいんですと訴える。

しかし月村は、のぼせ上がるのもいい加減にしろ!といきなり怒り出した月村は、僕は楽団を30年もやって暮らして来たんだ。今までの業績を汚すような恥知らずな真似をしろと言うのか!出て行きたまえ!と怒鳴りつけるが、その姿は寂し気だった。

訳が分からないさゆりは、屋敷を出ると、相良の家を訪ねてみるが、応対に出て来た家政婦は、三島さんの事務所に行っておられますと言う。

「三島興行」の事務所に来ていた相良は、僕は、さゆりさんと月島先生、あけぼの楽団全員と契約するよう頼んでいたはずだと三島に抗議していた。

こんな契約破棄してくれないと、明日の初日はキャンセルですね!と言い捨てて、相良は帰って行く。

その後、事務所にやって来たさゆりは、はじめて、自分だけが契約の対象になっていると知ると断ろうとするが、月村さんが仮契約をしたので、明日の初日だけでも出て欲しい。全員をいっぺんに雇うなんてそんな話は聞いていないし、相良君にはのっけから、テストしてくれと言われただけなんだと三島は話す。

その頃、酔って町中を歩いていた月村に声をかけて来たのは、「クラブ カプリコーン」で支配人をやっていた岡本だった。

何でも、今度新しい店を持ったので来てくれと言い、断ろうとする月島を半ば強引に自分の店に引っ張り込む。

そこでは、あの4人組が歌っていた。

歌い終わった4人は、先生!と言いながら月島の側に寄って来ると、最近やっと売れ始めたんです。このマスターに拾われて…と自分たちのを話すと、さゆりさんには手紙を出したんですけど、頑張ってますか?と聞いて来る。

口ごもった月島だったが、カウンターの中にいた岡本の妻を紹介される。

月村邸に戻って来たさゆりは、月村がいないことに気づくと、家中を探しまわる。

(夢のシーン)

白いドレス姿のさゆりは、黒い木にピンクのショールをかけると踊り始める。

そこには「あけぼの楽団」のメンバーたちも一緒にいたが、そこに酔った月村が、もんを描いたセットから入りかけたので、さゆりが近づこうとすると、月村もさゆりに気づき逃げ出す。

相良がいたので抱きつくさゆり。

森の中では、赤いマントにマスクの不気味な4人組と一緒に踊り、彼らはさゆりの白いドレスをはぎ取ってしまう。

やがて、浜辺で綱を引いている裸の男たちがいた。

黒いドレス姿になっていたさゆりは、彼らと踊る。

やがて、ショールをかけていた黒い木の所に戻って来たさゆりは、青いドレス姿になっていた。

背後に、ラテン系のファッションをした相良が立っていたので、さゆりはその胸に抱かれる。

(現実)翌朝、「素人劇団、金星劇場へ」「三島氏の後援で」と大きく新聞に載る。

それを読んでいた相良の元にやって来た三島は、もうこんな記事が出たからには、ショーをやらないわけにはいかない。私を助けてくれ。何度でも謝るから…と頼んでくる。

相良は、うちのメンバーと音合わせをしましょうと立ち上がる。

そこに浩が一通の手紙を持って来る。

そこには「お世話になりました。あけぼの楽団によろしく」と書かれてあった。

さゆりの置き手紙だったのだ。

それを読んだ相良は、あなたがこそくな手段をとったからですよ!とその場にいた三島を責める。

しかし「第5回オールスターフェスティバル」は開催されてしまう。

金星劇場には、どんどん客が集まっていた。

あけぼの劇団は来ていたが、弁さんは、さゆりちゃんと月岡先生は?と心配する。

時間までに探しましょう!とピー公は言い出す。

会場内では、もう演奏が始まっていた。

せめて月村先生がいてくれたら、さゆりちゃんの居場所を知っているかもしれないのに…と弁さんは焦り、もし間に合わなかったら。僕に歌わせて下さいと透が名乗り出る。

その時、月村は、やはり気になっていたのか、金星劇場の前をうろついていた。

それに気づいたピー公が声をかけ、場内に連れ込もうとするが、月村は抵抗し、さゆりちゃんと会いたくないんです等と言う。

弁さんも先生に気づくと、さゆりちゃんがどこにいるかご存じないんですか?と言いながら近寄って来て、さゆりちゃんが出て来ないと大変な事になるんですと教える。

さゆりがいなくなったと知った月村は、何事かを思いついたのか、あ、そうだ!と声をあげる。

場内では、司会者(西村小楽天)が登場し、有終の美を飾りますは、相良丈二と「ゴールデンエース」とあけぼの楽団が演奏します!と紹介する。

その頃、さゆりは、岡本の店で北海道に帰る挨拶をしていた。

4人組と岡本は、もう1度考え直してみれば?と説得していたが、もうさゆりは北海道に帰る決心をして荷物も持って来ていた。

さゆりが店を後にしようとしていたその時、弁さん、ピー公らと一緒に月村がやって来る。

先生は、お姉様を舞台に立たせようとしてわざと冷たい態度を取ったのよとピー公が説明し、今、みんな舞台に出ているんだと弁さんは教える。

私の代わりに、みんなであの歌を歌っておくれてと月村も頼む。

金星劇場のステージでは、透が「ハイティーンベイビー♬」と歌っていたが、その様子を、指揮をしていた相良はヒヤヒヤしながら見守っていた。

金星劇場の前に停まったタクシーから、さゆりたち一行が降り立つ。

透が歌い終わり、呆然としていた相良だったが、その時、舞台袖から、来たよ!間に合ったよ!と笑顔で三島が伝えて来る。

司会者が再び中央に歩み出ると、いよいよフィナーレは、満都の注目を集める世紀の新星!美原さん、どうぞ!と紹介する。

王女様のようなドレスを身につけたさゆりがステージに登場し、歌声は〜虹の彼方〜♬と「虹の彼方に」を歌い始める。

舞台袖でその姿を嬉しそうに見つめる月村

舞台は噴水があるセットに代わり、空から雪が舞い降りて来ると、ホリゾントに大きな虹がかかる。

その真ん中で微笑むさゆりの姿があった。