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鍵泥棒のメソッド

この内田けんじ監督作品の特長の一つに、DVDなどの記録媒体での試聴を前提に作ってあるかのような細かい伏線の挿入と言うのがある。

もちろん、1度だけの映画館鑑賞が前提で作っていた昔の作品でも、それなりの伏線等は敷いてあったのだが、うっかり伏線を見落としたような観客にも、再度その伏線を思い出させるような念押しシーンが後半に用意されていたりしたものだが、内田作品にはそう言う「念押し(再現)シーン」が用意されてない。

だから、スクリーンで観るだけだと、途中で「これは確か伏線があったはずだけど…」とくらいまでは気づくのだが、細かい所はもう忘れて思い出せないのでもどかしい思いに駆られる所がある。

スクリーンで1度鑑賞した観客にもDVDでもう1度確認したいと思わせる、ビジネス的にも上手い手法だと感じる。

さて、本作は、これまでの内田作品ほど「大どんでん返し」を強調したものではない。

一応、謎解きめいた部分は後半に用意されているのだが、これまでの作品ほど、前半のイメージを根底から覆す…と言うほどの大仕掛けにはなっていない。

その分、初心者にも分かりやすい展開になっており、一部のマニア向け単館映画風だった前2作よりは、より多くの一般客を意識したメジャー戦略になったと言う事かもしれない。

冒頭の「掴み」の部分は相変わらず軽妙で面白いし、その後の展開もスムース。

今回も、小憎らしいほど絶妙なストーリー展開になってると思う。

個人的には、映画撮影ネタがいくつか挿入されている部分に興味を惹かれたが、監督自身に一番身近なはずのこの映画絡みのシーンに、明らかにおかしい描写があるのが気になった。

それは、自分を桜井武史と思い込んでいたコンドウ(香川照之)が、鐘を稼ぐためにエキストラに参加するシーンである。

本物の桜井武史(堺雅人)は貧乏で、携帯もパソコンのようなものも何も持っていないと言う設定のはずである。

インターネットさえ良く知らないので、桜井はコンドウのマンションで「インターネットの使い方」の本を観ながら、パソコン検索をしている。

携帯を持ってないから、エキストラの集合場所を封書でもらったので、それを頼りにコンドウはロケバスが待っていた集合場所に向かったと言う事だろう。

問題はここである。

エキストラの集合場所が、封書で届くと言う話は聞いた事がない。

ボランティアであれ事務所エキストラであれ、今ではほとんど携帯かパソコンメールでの連絡が必須で、携帯を持ってない人間がエキストラに参加するのは非常に稀であるはずだ。

なぜなら、映画にしろドラマにしろCMにしろ、エキストラの集合時間や場所と言うのは、撮影日前日にならなければ分からない事が多く、封書等で連絡するような悠長な事はしてられないからだ。

エキストラの予定日がカレンダーにあらかじめ書き込んであると言うのはおかしくない。

前押さえで、この日に撮影が予定されていますと言うのは、事前に分かっている事が多いからだ。

しかし、撮影当日の集合場所や集合時間まで何日も前から分かっていると言う事はほとんどない。

だから、携帯を持っていない人は、撮影前日に電話かメール等で通知を受けるか、こちらから事務所なりスタッフに連絡を取って確認するのが普通である。

つまり、あのシーンを無理矢理解釈すると、桜井(堺雅人)は、知り合いのエキストラ仲間かなにかから、10月9日にエキストラの仕事があるよと封書で連絡を受け取っており参加する予定にしていた。

コンドウ(香川照之)は、その手紙を発見した手紙に書かれていたスタッフなり、エキストラ事務所の連絡先に電話をして、集合場所と時間を聞いた…と言う事だろう。

さて、コンドウは、記憶をなくす前の自分の事をコツコツ調べたい男だ。

受け取っていた封書には、エキストラ事務所なり友人の住所と名前が記されていたはずである。

なぜ後日、その事務所なり友人に会って、自分の事を聞かないのか?

聞けば本人ではないと言う事がすぐに分かってしまうので(事務所には写真登録されているはず)、演出上、わざとそこはごまかしているのだ。

退院後、近くに住んでいる可能性が高いアパートの管理人がアパートに一度もやって来ないと言うのも奇妙なのが、それも意図的に避けたんだろう。

小野武彦演じる香苗の父親の生前DVDのシーンも笑いを取る演出なのは分かるが、葬式の場に葬儀屋が他のセレモニー用のDVDまで一緒に持って来ていること自体不自然と言うしかない。

…と言う風に、気になる所を書き連ねて行くと色々出て来るとは思うのだが、その辺はこの種のユーモアものでは受け流すべき点であろう。

相変わらず香川照之の達者さ振りが目立っており、本作でも、得体の知れない便利屋としての顔と、記憶を失ったおとなしい桜井としての表情、物腰の切り換えには感心させられる。

堺雅人の始終へらへらとしているような雰囲気とか、広末涼子のお澄ましとおとぼけが共存しているようなキャラクターは、演技しているのか地なのか分からない部分もあるが、役柄には会っていると思う。

工藤役の荒川良々が、ちょっと迫力不足と言った所か…

香苗の父親役を演じている小野武彦の、スリーアミーゴ風の妙に軽い感じの演技も楽しい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2012年、「鍵泥棒のメソッド」製作委員会、内田けんじ脚本+監督作品。

編集者が提出した進行表に「良くできました」印を押した、雑誌「VIP」編集長水嶋香苗(広末涼子)は、自分の机の上に掃除旗をかけ立ち上がると立ち上がり、お先に失礼と言った後、私結婚する事にしました。結婚しても仕事は続けますと編集者たちにいきなり挨拶する。

女性編集者の1人がお相手は?と聞くと、まだ決まってません。誰か結婚したがっている独身男性がいたら紹介して下さいなどと言うので、男性編集者の1人が、社内から立候補しても良いのでしょうか?と立ち上がると、社内の独身男性は検討してみましたが、該当者はいませんでしたと香苗はきっぱり言い切る。

どんな男性が?と聞かれた香苗は、健康で、優しい方であればとだけ答えた香苗は、いつ頃までに?と言う質問には1ヶ月くらいは恋愛期間が欲しいので、12月半ばくらいまでにしたいと持っていますと希望を述べる。

編集者たちはにこりともせず、分かりました!と全員答え、香苗も頑張りましょう!と檄を飛ばしたので、編集者たちは拍手をする。

タイトル

とる団地の前に停まっていた車の運転席でクラシックを聴いていた1人の男コンドウ(香川照之)は、携帯が鳴ったので、それを合図に顔にマスクとサングラスをかけ、手には手袋、そしてビニールコートのフードを頭にすっぽりかぶると、車の外に出る。

その時、ちょうど車の後部に近づいて来た中年男性に近づいたコンドウは、腹を何度も叩くような動作をし、倒れ込んだ中年男の身体を車のトランクに入れると、運転席に戻って来て、ビニールコートには大量の血痕のようなものが付いて行った。

コンドウは急いで、用意してあったビニール袋に、今身につけたビニールコート、手袋、マスク、サングラスなどを放り込むと、すぐに運転席に座り車を発射させる。

その一部始終を、近くの物陰から見守っていたチンピラ風の男がいた。

どたっと言う音と共に、とある貧乏アパートの部屋に倒れ込んだのは桜井武史(堺雅人)と言う貧乏役者の卵だった。

泣きそうになりながらもため息をついた桜井は、財布に入っていた1円札1枚とコイン数枚を出した桜井は、その中に入っていた入場券を発見する。

自分の身体の匂いを嗅いだ桜井は、今財布から出した金を掴んでアパートを出る。

郵便受けを覗いた桜井は、納税催促状が入っていたので、一旦はそれを読まずに捨てて出かけようとするが、思い直して、その催促状を拾い上げると近所の銭湯に向かう。

その通路では、何か映画の撮影でもやっているらしく、スタッフが車両を止めていた。

その止められて待っている車の列の中に、コンドウの車があった。

コンドウは、車を止められた事に苛つきながらも、時間を観ようと腕時計に目をやると、そこに血痕らしきものが若干付着していたので、外窓の外を観ると、銭湯の煙突が近くにそびえているのが見えた。

コンドウがやって来た銭湯でロッカーの前に立つと、その隣で既に裸になっていたのが桜井だった。

洗い場に座った桜井は、となりの爺さんが使っていた石鹸を使おうと手を延ばしかけるが、その気配に気づいたのか、爺さんはその石鹸を自分の方に寄せようとして勢いあまり、石鹸は床を滑って湯船の縁に辺り跳ね返ると、ちょうど浴室内に入って来た男の足の下に入り込む。

それに気づかず踏んでしまったコンドウは、大きく滑って転ぶと、後頭部を打ってしまい気絶する。

その時、コンドウが持っていたロッカーの鍵が滑ってたどり着いたのが桜井の椅子だった。

思わずその鍵を拾った桜井は、呼ばれて駆けつけた救急隊員が、担架でコンドウを運び出す時、返そうとして、ついで気心で自分のロッカーの鍵の方を渡してしまう。

救急隊員は、その鍵で開けたロッカーの中に入っていた桜井の衣装を取り出すと、風呂屋の女将にこれで間違いないですねと確認して一緒に運んで行く。

もちろん、聞かれた女将が客の衣装等いちいち覚えている訳はなかった。

銭湯の前から救急車が出発した直後、何食わぬ顔で、今運ばれて行った男のスーツを着て銭湯から出て来た桜井は、ポケットに入っていた何かのスイッチを押してみると、近くから音がするのに気づく。

銭湯の前の駐車場に高級車が停まっており、音がしているのはその車だったので、自分が今押したのはその車のキーホルダーだと分かる。

近づいて中を覗いていた桜井は、いきなり車の警報ブザーがなり出し、同時に隣に停めてあった車が急発進したのでパニクるが、何とかキーホルダーのスイッチを押して、その警報ブザーを止める。

少し落ち着いた桜井は、その車に乗り込むと、銭湯から逃げ去るように出発する。

翌朝、気を失っていたコンドウは、病院のベッドで目覚める。

一方、桜井は、車に乗ってとあるアパートに来ると、そこに住んでいた男に借りていた2万円を返したので、驚いた相手は、お前も就職したのか?と聞いて来る。

その後も、ベーカリーの店員や数人の友人たちに借金を返しに行く桜井。

最後に、とあるマンションの前にやって来た桜井は、ゴミ袋を両手に持って中から出て来た女性に会う。

ミカと言うその女性は桜井の元カノらしく、引っ越すの?と聞いた桜井に、私、結婚するんだと教える。

そんな彼女にも借金を返すと、武ちゃんのお荷物はほとんど処分しちゃったけど、写真は残しているよと言う。

桜井が車に戻りかけると、ミカは、桜井が着ていた新品のジャケットの背中にタグが付きっぱなしである事に気づき、それを教えると共に、変わらないわねと笑い、写真だけでも持って行ってと言いながら、今手にしていたゴミ袋の中を漁り出したので、そこかい!と桜井は小さく突っ込む。

車の中で、ミカと楽しく過ごした日々の写真を観ていた桜井は、泣き笑いのような表情になり、思わず、貰った写真を全部窓の外に捨てて車を走らせる。

入院した男の事が気になった桜井は、昨日、男が来ていた服や腕時計を袋に入れ、病室に見舞いに行ってみる。

男はベッドで又寝ているようだったので、袋だけ置いて帰ろうとした桜井だったが、急に腕をベッドの中のコンドウから握られ、あなたは私の知りあいですか?と聞かれたので、凍り付いてしまう。

男は、ちょっと思い出せなくて…と頼りな気に言うと、頭を打ったらしくて…と言うので、どうやら記憶を失ったらしいと気づいた桜井は、おれも同じ風呂屋にいたもので、大丈夫かな~と思って…と答える。

コンドウは、桜井武史…と言うのが私の名前らしいんですが…と自分の服と一緒に運び込まれた納税催促状に記された名前を読みながら言うので、焦った桜井はお大事にと言い残して立ち去ろうとするが、これは?と床に置かれた紙袋を指されたので、慌ててもって帰ることにする。

病院の入口で、アパートの大家とばったり会った桜井は、あんた大丈夫か?と心配そうに聞かれたので、大丈夫です。滞納している家賃も今払いますと言いながら、大家を外に連れ出して行く。

その後、コンドウは診察した医者から、身体の方に異常はないですが、一応、大家さんの方に連絡しておきましたし、調べた所、あなたはご両親を亡くしており身内もないようで、今はアルバイトを捜しているそうですと教えられる。

病室に戻ったコンドウは、所持金として置いてあった千数百円の中から小銭を少し取ると、病院内の売店でノートとボールペンを購入する。

そして、自分に関して分かった事を事細かに記して行く。

コンドウは、納税催促状に書いてあった住所を目にする。

半年前から身体を壊し、コンドウと同じ病院に入院中だった水嶋香苗の父親(小野武彦)は、見舞いに来てくれた妻の京子(木野花)と娘2人に対し、自ら挽いた豆でコーヒーを飲まんかと笑顔で進めていた。

そんな父は、香苗が近々結婚すると言う話を聞いたらしく、相手の人にはいつ会えるのかな?などと聞いて来るが、香苗は、お父さんが退院したらちゃんと会わせるからと言い、これから約束あるからと言って帰りかけると、デートかい?楽しんで来るんだよと父親は笑顔で送り出す。

病院の前で姉のしょう子(小山田サユリ)と母はタクシーに乗り込んで帰宅するが、それを見送っていた香苗に、いきなり封筒に書かれた住所を観てながら、これってこっちの方向で良いでしょうか?と聞いて来たのは、胃又印して来たばかりのコンドウだった。

歩いて行けますかね?と聞かれた香苗は、30分以上かかりますよと答え、例を言ったコンドウがてくてくと歩き始めると、あの…と呼び止め、私車ですけど?と車のキーを出して見せる。

結局、コンドウは、香苗の車に乗せてもらって桜井が住んでいるアパートの前までやって来る。

車中、水島香苗が名前と34歳である事を打ち明けると、コンドウは、僕は桜井武史らしいんです。35だそうですけど、ちょっと老けて見えますよね?とバックミラーに自分の顔を映しながら自己紹介する。

らしい…と言うと?と香苗が不思議がったので、コンドウは実は覚えてないんですと良い、記憶をなくしている事を打ち明ける。

一方、本物の桜井の方は、コンドウの運転免許証に書かれていた「山崎信一郎」名義の住所にある高級マンションの部屋にやって来ていた。

アパートの前で車を降り、礼を言うと、香苗は本当に大丈夫ですか?と運転席から心配そうに声をかけて来る。

身体の方は大丈夫だそうですし、努力してみますと頭を下げたコンドウは、恐る恐る、鍵で自分の部屋の戸を開け、中に入ってみると、そこは乱雑な状態だったので、呆然としながら見ていると、さっき帰ったはずの香苗が、どうした訳か部屋まで上がって来て、あの…、何か分かりました?と聞いて来る。

取りあえず部屋に入ってもらったコンドウは、わずかに、懐かしいと言うか…と答えるしかなかった。

香苗は、携帯とかあれば、お友達に連絡取れるんじゃないですか?とアドバイスをし、コンドウの方は、壁に貼ってあったカレンダーの、10月9日の日に印がついている事に気づく。

今日は10月8日だった。

その時、部屋の中を観察していた香苗が、大本のようなものを発見し、ひょっとして役者さんだったんじゃないですか?私は出版社で働いているんですけど、うちの出版社で演劇の本も出していますから、聞いてみましょうか?と言ってくれるが、その時、香苗の携帯が鳴り出したので、又来ますと言い残して、香苗はアパートから出て行く。

香苗が向かったのは、編集者が用意してくれた合コンだったが、そこに出席していた男が、やっぱり男って経済力いるよね?そう思わない?と聞いて来ると、思いませんと香苗は即答する。

その夜、コンドウの方は隣の部屋の住民を訪ね、202号室の桜井と名乗り、自分に関して何か新しい情報でもないか?と尋ねるが、隣の桜井さんでしょう?ゲームの音、うるさいですか?等と言われるし、反対隣の部屋から出て来た暗そうな女も、猫のことですか?私、この子がいないと生けて行けないんです。管理人さんには黙っていて下さいなどと言うだけだった。

アパートの隣なんて日頃全く顔も会わせない関係なので、そうなる事は当たり前だった。

一方、コンドウ=山崎信一郎の高級マンションに居座っていた桜井の方は、さすがに自責の念に駆られ、勝手に冷蔵庫に入っていたビール等飲みながら、山崎宛ての詫び状等書きかけていたが、目の前にビデオカメラが置いてあることに気づくと、そのカメラを動かし、その前で、山崎さんのお金を取ったのは私です!死んでお詫びをします!と詫びる自分の姿を撮影し始める。

もちろん、この部屋で死ぬようなご迷惑はおかけしません。公園かどっかで死にますから…と録画し終わった桜井は、何かロープでもないかと、パーテーションを開けて奥の部屋を覗いてみると、そこにはありとあらゆる衣装や小道具の類いのようなものがきちんと整理され収納されていた。

コンドウの顔写真入りの各種の偽造身分証明書や手錠の類いも全部揃っていた。

そのコンドウの方は、すっかり整理整頓したアパートの室内で、ノートに「必要なもの」を書き出していた。

何よりもまず必要なのは「金」だった。

その後、すぐ横にある衣装ケースを何気に見ていたコンドウは、下に落ちていた1通の封筒を見つける。

その頃、桜井の方は、コンドウが書いていたと思われる「暗殺者ノート」のようなものや「銃」を発見していた。

その銃を手に取ってみた桜井は、それを自分のこめかみに当て、引き金を引こうとするが、その瞬間、大きな音響が流れたので飛び上がる。

それはコンドウのスマホの着信音だった。

恐る恐るそのスマホを手に取り耳に当ててみると、コンドウさんですか?藤本ですと言う声が聞こえたので、思い切って、ああ…と答えると、いつも留守電なのに珍しいですねと相手は驚いたようで、ギャラをお支払いしたいのですが、工藤さんからそちらが指示する通りに渡せと言われているもので…と言うではないか。

いくらだ?と聞くと、500万ですと言うので、どうやって渡すんだと聞くと、場所さえ指定してもらえば、明日の昼までに置いときますと言うではないか。

桜井はとっさに、自分のアパートの郵便受けの場所を教える。

その頃、コンドウの方は、衣装ケースの下から見つけた封筒に入っていた手紙を元に集合場所に出かけ、出欠に返事をした後、エキストラ用のバスに乗り込んでいた。

ロケ現場に行ってみると、エキストラの数を観た監督が、こんなにエキストラいらないんだよ!チンピラ役が欲しいんだよな?と探し始め、コンドウの顔を見るなり、彼に衣装を着せてやってと助監督に命じる。

その頃、水嶋香苗はと言えば、女性編集者がスマホで見せてた独身男性候補の写真を、ほとんど「ありです」と肯定している所だった。

あんまり香苗のストライクゾーンが広いので、唖然としたその編集者は、こんなのでも良ければいつでも合コンセットできますと返事してた。

同じように、もう1人の編集者のスマホを覗き込んだ香苗は、ぎりぎりありです…と返事をすると、その編集者は慌てて、これはうちの主人ですと答える。

その編集者は、劇団マッシュルームの事ですが、資金不足で2、3年前に潰れたそうですと、以前香苗から聞かれていた事を教える。

桜井が所属していた劇団の事だった。

翌日の午後、変装をして、自分のアパートの郵便受けを覗きに来た桜井だったが、そこにたまたま外出先から戻って来たコンドウと鉢合わせしてしまったので、思わず、直ったんですか!と桜井は尋ねるが、コンドウは、首を振り、身体の方は大丈夫だったので、住所を頼りにここへ戻って来たんです…と答え、まだ自分自身に対する記憶が戻っていない事を打ち明ける。

まだ自分の事がバレてないと分かった桜井は安堵し、どうしてここへとコンドウから聞かれると、大丈夫かな~と思ってと又ごまかす。

コンドウはそんな桜井を、銭湯であっただけの親切な見舞客くらいに思ったのか、2階の部屋に招き入れる。

そして、部屋にあったタバコを吸おうとしてむせたコンドウは、この銘柄の煙草を吸っていたはずなんですよね…と桜井に言い訳するが、身体に馴染まないようだった。

そこに、お客様ですか?と遠慮しながら部屋を覗いて来たのは香苗だった。

桜井は香苗に、病院の方ですか?と半分警戒しながら聞くが、いえ、病院の前で会ったんですと答え、コンドウは桜井の事を、お風呂場で、事故を目撃した方なんですと香苗に紹介し部屋に招き入れる。

香苗は、劇団、潰れたそうです…と会社で調べて来た結果をコンドウに知らせる。

そうでしょうね…とコンドウも予想していたように答え、私は死のうとしていたようですと言いながら、部屋で見つけた切れた紐と遺書を香苗に見せる。

「大家さん、迷惑をかけてすみません…」と、その遺書の内容を読み始めたコンドウから、何故か焦りながら遺書を奪い取った桜井は、でもこうやって生きているんだから良いじゃないですか!とコンドウを慰めるように言う。

コンドウは、風呂場で転んだと言うのも、わざと死のうとしてやったのかもしれませんと呟くと、さすがに香苗も、そんな不確実な事をするでしょうか?と疑問を口にする。

35にもなって職もなく、こんな所に住んでいたら、そりゃ死にたくもなりますよねと落ち込むコンドウの言葉を聞き、いたたまれなくなっていた桜井は、表でバイクの音が聞こえたの機に、部屋を出る事にする。

その際、先ほど奪い取った自分の書いた遺書は、捨てときますと言って持ち帰る。

後に残った香苗が、大丈夫ですか?とコンドウに聞くと、死にたいって気持ちも忘れましたと言うので、お腹空いていませんか?と聞いた香苗は、取材でこれからレストランに行くので、一緒に行きませんか?経費は会社持ちですと誘う。

その時、下の郵便受けを又覗いていた桜井は、いきなり背後に近づいて来た2人のチンピラから、コンドウさんですよね?実は工藤さんが直接渡したと…、車が用意してありますと声をかけられたので、断る余裕もないまま同行するしかなかった。

香苗は焼き鳥好きですか?とコンドウに聞いていた。

その頃、桜井は、工藤純一(荒川良々)なる怪し気な男の部屋に連れて来られていた。

子分が桜井の前に置かれたビールを注ごうとしてこぼすと、工藤はさりげなくがま口から小銭をテーブルに出し、その小銭を数枚握りしめた握りこぶしで、その粗相した子分の腹を殴りつける。

そうした工藤の凶暴さを、桜井は必死に堪えて平然を装っていた。

トランクの死体、始末したんだよね?といきなり聞かれた桜井は硬直するが、プロに聞く話じゃねえな。こいつが観てたそうで…と背後の控えたチンピラを指し、その男が、遠目でしたが、そりゃ鮮やかな手口で…と感心したように言うので、工藤はその話はそれ以上突っ込んで来なかった。

イワキの金がどこにもないんですと言いながら、1人の女の写真を桜井に差し出した工藤は、イワキの愛人で、コブ付きであの団地に住んでます。

すでに団地に1人忍び込ませているんですが、この女から金の事を聞き出せませんか?その後でこの女も始末して下さい。死体が見つからないように…、ギャラは前のと合わせて1000万と告げると、残念ながら、この依頼は断っては頂くわけにはいかないんですと、桜井の表情を観ながら工藤は迫る。

取材をレストランで終えた香苗は、待っていたコンドウの隣に座ると、家の雑誌は色んな分野の最高級のものだけを特集している雑誌で、今月号は椅子、来月号の特集は塩なんですと言うので、ひょっとして、家の塩をなめてませんでしたか?とコンドウは聞く。

どうやら、仕事の事に夢中になるタイプの香苗は無意識にやってしまったらしいと、ちょっと恥ずかしそうに言う。

やがて2人は、運ばれて来た焼き鳥を食べ、美味しいなと感動した様子のコンドウは、いつものようにその場でノートを出すと、「好きなもの」の欄に「焼き鳥」と書き込み、何ですかそれ?と香苗から聞かれると、自分の事で分かった事や、これからやるべき事なんかと書いているんですと説明し、香苗に見せる。

そこにびっしり書かれた内容を読んだ香苗は、普通、こんなに前向きになれませんよと驚いた様子だった。

精察に相談すれば、何か分かるかも?と香苗が助言すると、怖いんですとコンドウは言う。

人から自分の過去を教えられるんじゃなくて、自分で調べたいんです。これ以上、知らない方が幸せなのかもしれない…とコンドウは呟く。

香苗は、私も何でもメモするのが好きなんです…と言いながら、自分用のノートをコンドウに見せるが、そのスケジュールの12月欄に「結婚」と書かれていたのに気づいたコンドウは、結婚なさるんですか?と聞いてみる。

しかし香苗が、まだ相手はいませんと言うので、コンドウは戸惑う。

帰りの車の中で、香苗から受け取った名刺をじっくり観たコンドウは、相手が「VIP」と言う雑誌の編集長をやっている事を初めて知る。

桜井さんは役者さんなんですよね?と聞かれたコンドウは、成功してませんよね…、誰も私を知らないんですから…と答える。

その頃、本物の桜井の方は、アパート横に停めていた、コンドウの車の後部トランクを開けて中を怖々覗いてみていた。

しかし、中にはもう死体はなかった。

その代わり、血染めのビニールコートやナイフ等が入ったビニール袋を発見しビビる。

その時、アパートの前に帰って来たのが、香苗の車に乗ったコンドウだった。

車を降りたコンドウは、あの…、私の知り合いになってくれませんか?と頼むと、香苗は不思議そうに、もうなってますよと答える。

そんな2人の様子を、桜井は車の影からそっと観ていた。

帰宅した香苗は、夫と喧嘩したのか、何日も実家に戻って来て帰ろうとしない姉に、いつ帰るの?と聞いていた。

夫に非があると思い込んでいる姉は、まだ相手は見つからないの?と逆に聞いて来たので、まだ見つかってないけど、恋愛期間も取ってあるし…などと香苗が言い訳すると、あんた、恋して結婚するつもり?と姉は言い出す。

若い頃、胸がキューンとすることがあったでしょう?と姉が言うので、恋の経験がない香苗は、何それ?と聞く。

それが30過ぎると鳴らなくなるのよね…。多分壊れちゃったのねなどと恋愛談義をし、だから、別に恋愛しなくても結婚できるのよなどと経験者は語る。

コンドウのマンションに帰って来た桜井は、「はじめてのインターネット」と言う本を読みながら、パソコンのインターネットを立ち上げ、検索でイワキと言う人物や便利屋「コンドウ」の素性を調べようとしていた。

翌日、撮影現場でチンピラ殺し屋の役を演じてみたコンドウは、監督から良いね!と褒められる。

アパートに帰って来たコンドウは、いつものようにノートを取り出すと、「演技とは?」と書く。

香苗が勤めている「遊文堂出版」を出て行ったのとすれ違いで、刑事風の扮装をした桜井が受付にやって来て、偽物の警察手帳等を見せながら、便利屋「コンドウ」とは?と特集名が書かれた雑誌を取り出してみせ、この編集者に会いたいと申し込む。

面会した担当編集者が言うには、コンドウなる人物は依頼人さえ直接会わないしし、自分も会ったことがない謎の人物なのだと言う。

一方、香苗とコンドウは、「あすなろ劇場」と言う小劇場前で落ち合い、一緒に舞台演劇を見物していた。

桜井は、またスマホで、死体は?と工藤から聞かれていたが、おれは仕事を丁寧にするんだと答えていた。

翌日、桜井は、レジで働いていたイワキの愛人井上綾子(森口瑤子)に接触する。

イワキの事を聞くと、あの人殺されたんですか?と逆に聞いて来た綾子は、色々な人と付き合っていた人だから…と、予感めいていたかのように呟き、一応、行方不明と言う事にしているが、結婚の約束をしていたらしい。

桜井は、そんな綾子に、イワキから何か預かってませんか?と聞くが、綾子はあの家はあの人が…と、団地の部屋を買ってもらった事を教えるが、そう言うのじゃなくて、もっとまとまったお金のような…と聞き返すと、そんなお金があったら人を雇って、あの人の仇を取ってもらいます。あなたは本当に人を好きになった事がありますか?などと綾子は言う。

アパートに帰って来たコンドウについてきた香苗は、そこに分厚い演技の本が何冊が置いてあったので驚くが、コンドウが基本から勉強し直そうとしていると答えると、私、桜井さんの芝居を観てみたいですと伝える。

コンドウは努力しますとまじめに答えるが、しばらくバイト探さないと…と続ける。

すると、今うちで募集してますけど?桜井さんなら合格です!と香苗は即座に言い切る。

その後、香苗の手作りカレーを部屋で一緒に食べたコンドウは、急に感激したのか涙を流し、その場でノートを取り上げると、「涙もろい」と自分の性格を書き記すのだった。

そして、何とお礼を申し上げたら良いのか…とコンドウが、香苗の親切に感謝すると、結婚して下さい!ダメでしょうか?といきなり香苗が言う。

私たちなら巧く行くと思うんですが…とまで言われたコンドウだったが、でも…、私はこんな状態ですし…と返事に窮する。

結婚を前提に私と頑張ってくれませんか?と香苗が頼むと、頑張って良いのでしょうか…と自信なげにコンドウも答え、お願いしますと香苗は頭を下げる。

その頃、マンションにいた桜井の方は、手持ちの金がほとんどなくなっている事に気づき焦っていた。

何か食べようと、台所に言って棚を開けてみると、そこに大きなクッキー缶が入っていたので、それを開けてみると、中に入っていたのはクッキーではなく、札束を丸く束ねたものがいくつも詰まっていた。

コンドウのタンス貯金のようだった。

さらにクッキー缶の中には、コンドウと女性が一緒に写った写真も入っていた。

その時、又スマホから着信音楽が鳴り、出てみると、藤本です…と先日のチンピラの声が聞こえたので、一々報告はしない主義だと無愛想に答える。

出来れば早い方が…と相手がぐずぐず言うので、又いつか連絡するとだけ答えて、桜井は一方的に通話を切ってしまう。

翌日、コンドウは、「VIP」編集部のアルバイトとして、香苗から編集部員たちに紹介されていた。

桜井の方は、アパートの物件を見つけ、新しいベッドなどを購入したりしていた。

コンドウの方は、劇団に参加し、黙々と演技の練習を続けていた。

その後、ピザ屋のユニフォームを着て綾子の部屋に出向いた桜井は、ちょうど、林間学校に行くと言う、中学生の息子とすれ違う。

上がり込んだ桜井は、今度は間違いなくあんたが殺されるから逃げた方が良いと説明する。

いきなりそんな話をされた綾子は混乱し、なぜ私が殺されるんですか?あなたは誰ですか?と聞くが、桜井は、誰だって良いだろう!と切れ気味に答え、隠れる場所は自分が用意しておいたと、逃げる計画を話し始めるが、やぱり綾子は、どうしてあなたがこんな事をしてくれるんですか?と聞き返す。

すると桜井は、おれがやるしかないだろう!と怒鳴りつける。

コンドウは、出版社のビルの屋上で、香苗手作りの弁当を一緒に食べていた。

香苗は、探しておいたと言う結婚式場の候補リストをコンドウに手渡すが、それは膨大な量のファイルだったので、半ばあっけにとられたコンドウは、そんなに焦らなくても良いんじゃないかな?お互い、感情の盛り上がりを待つとか…と言ってみるが、この際そんな事は、結婚した後ゆっくりと…などと香苗は答えるが、その時、香苗の携帯の逆心音が聞こえ、その電話に出た香苗は明らかに表情が変わったので、コンドウは何事かと見つめる。

父が死にました…と香苗が知らせる。

香苗の父親の葬儀が執り行われ、コンドウも出席する。

式では、亡き父親が生前に用意していたDVDによる挨拶が流される。

母京子がこっそり姉妹に言うには、死を予感していた父は、スタジオを借りてわざわざ作っていたらしかった。

父が無理に笑顔を浮かべ、妻と2人の娘に恵まれた事に感謝の言葉を述べていたが、つい自分の言葉に感極まって泣き出してしまう。

それでも気を取り直して、再び真顔に戻った父は、香苗、おめでとう!と言い出す。

それを聞いた京子は、DVDが違う!と映写係に告げる。

映写係は慌てるが、父親が作っておいた生前遺言のDVDは何枚にもあった。

慌てた映写係がDVDを取り替えようとするが、思わず立ち上がってスクリーンの中の父親の姿に対峙した香苗は、香苗の夫になる人、香苗を幸せにしてやって下さい。幸せになっていなかったら、あの世から呪い殺します!と真顔で訴える父の姿に涙ぐんでいた。

自宅に戻り、父親の書斎で1人泣いていた香苗に付き添って来たコンドウは、大丈夫ですか?と声をかける。

ずっと、私の事心配してたんです…と香苗が父親の事を話すので、じゃあ、お父さんのために結婚しようと…とコンドウが聞くと、始めはそうでしたが、今は違うんです。私、根が臆病で、恋愛とか苦手なんです。人を好きになるなんて怖い事だと思いませんか?…と香苗は答える。

私も本当は好きな人と一生生きて行きたいんです。私、桜井さんとなら、ちゃんと好きになれると思うんですと続けた香苗は、これは父がものすごく大切にしていたステレオですと教えた香苗は、生前、父が好きだったと言うクラシックのレコードをかけてみる。

その音楽を聴いていたコンドウの表情に変化が起こる。

その曲が終わり、別のレコードにかけかえようとした香苗が後ろを振り向くと、もうそこにはコンドウの姿はなかった。

ロンゲのヅラで変装し、車で、綾子のマンションにやって来た桜井は、突然、助手席に工藤が乗り込んで来て、運転席の外には、藤本と言う男なのか、チンピラの1人が逃げ出せないように立ちふさがったので、身動きできなくなる。

盗聴器を仕掛けさせておいたんですが、逃がすってどう言う事なんです?と言いながら、先日、自分が綾子を逃がそうと計画を打ち明けていた会話を工藤が再生で聞かされる。

あの女、もう店にもいませんよね?と迫って来た工藤に、桜井は持っていた銃を突きつけ、外に追い出すと、藤本にも銃を向け牽制し、車を急発進して逃げ出す。

取り残された工藤は子分に、女の家を見張っているよう命じる。

マンションに戻って来た桜井は、部屋の中にコンドウが待ち構えていた事に気づく。

その表情は、これまで観ていたあの穏やかなコンドウの顔つきではなかった。

別人のような鋭い目つきのコンドウは、お前、この部屋でタバコ吸っただろう?と睨んで来る。

そして、パソコン画面で、マンション入口から入って来る工藤の姿を監視カメラ映像で観ながら、何で工藤がこの場所を知ってるんだ?尾行された事は?とコンドウは聞いて来るが、混乱していた桜井は、何も答えることが出来なかった。

しようがないと言う風に、コンドウはベランダに出ると、非常用パーテーションを回転扉のように開いて、隠れ家にしていたらしき隣の部屋に桜井を連れて来る。

部屋に入る時、鍵を閉めて来たか?とコンドウは聞いて来る。

今逃げて来た部屋に入ってきたときの事を聞いたのだが、桜井は、もうそれも思い出せなかった。

呆れたコンドウは、とにかく説明しろと言って、こうなった状況を聞こうとする。

隣の部屋には、鍵がかかっていなかったので、工藤と藤本が侵入していた。

一通り、桜井が新たに殺しを依頼された綾子を逃がそうとした事情を聞いたコンドウは、呆れたように、こんなずさんな計画が成功すると思っていたのか?そもそも何のためにこんな事をしようとしたんだ?一生に一度くらい、誰かに褒めてもらいたかったのか?と嫌味を言うと、さすがに桜井も切れて、うるさい!と怒鳴り返して来て、持っていたコンドウの銃を突きつけて来る。

しかし、コンドウは怯えもせず、あっさりその銃を奪い取ると、逆に桜井に撃って来る。

それは玩具の銃だったのだ。

コンドウは、おれが助けてやる。その代わり、お前の人生をおれが貰うぞと桜井に告げる。

その直後、隣の部屋にいた工藤の携帯が鳴り、工藤が用心深く耳を当てると、吉田と言う相手の男は、コンドウの子分だと名乗り、コンドウはもうダメです、狙われているんですと言い出す。

狙っているのは片岡組で、一昨年、幹部を2人コンドウから殺された事を嗅ぎ付けたらしいんです…と続けていたのは、実は、隣に潜んでいたコンドウだった。

この後、あの人に会うことになっているので、おれが奴をやるから、あんたの子分にしてくれと吉田と言う人物に成り済ましたコンドウは頼む。

工藤はその返事を考えているようだった。

隣の部屋で電話を切ったコンドウは、綾子と言うのは元々あの工藤の女だったのだと教える。

それでどうするつもりなんだ?と桜井が聞くと、あいつらの観ている目の前で、おれがお前を殺すのが一番だと、芝居でごまかすことを提案する。

さっそく、コンドウが桜井の腹をつく真似をやってみると、桜井は臭い芝居で倒れてみせるが、それを観たコンドウは、何だそれ?とダメ出しをする。

何度かやり直させたが、桜井の演技は下手で、呆れたコンドウは、ダメだ、お前は演技の基本ができてないと否定する。

おれの演技はストラスバーグのメソッドでやっているんだ!と切れた桜井に、お前のアパートにあったストラスバーグの本は、最初の8ページを読んだ形跡しかなかった。他の本も全部そうだ。お前は、教科書の一部をかじっただけで分かった気になっている一番ダメなタイプだろう?とコンドウは責める。

人殺しに説教されたくない!と桜井が逆襲すると、コンドウは持っていた玩具の銃で桜井を撃ち、桜井を黙らせる。

桜井はコンドウに、あんたは結婚してないのか?と聞くと、8年前に逃げられた。まだまともな仕事をしていたからな…。貧乏で…。あいつはどっかの金持ちと結婚したよ…とコンドウは答える。

そして、死ぬ気で演じろ!イワキ社長なんて巧くやったんだぞと言いながら、持っていたナイフが、押せば刃の部分が引っ込む玩具である事を実演して見せる。

おれは便利屋だ、殺し屋じゃないと打ち明けたコンドウは、今頃、イワキは沖縄でゴルフ三昧しているよと言って苦笑する。

先ほど工藤に教えた場所に車で向かう途中、雑誌社にコンドウと言う闇の殺し屋がいるかのごとく情報を流したのもおれだとコンドウは教える。

目的の場所に到着し、車を降りたコンドウは、工藤たちが目撃しに来るのを見計らって、桜井を殺す芝居を始めようと待ち構えていたが、そこに現れた車に乗っていたのは、香苗だった。

香苗は、自宅からずっとコンドウの跡をつけて来ていたのだった。

驚いたコンドウは、芝居のタイミングを失うが、そこに逆方向から、工藤の乗った車が近づいて来たので、作戦を中止し、桜井と車を降り近づいて来た香苗を乗せ、自分の車でその場を逃げ出す。

先ほどあれほど偉そうに自分を説教していたコンドウも、実は香苗に尾行されていた事に気づかなかった事を知った桜井は呆れるが、コンドウは、どっか安全な場所を探せ!と命じる。

すると、まだ、誰も引っ越して来ていなければ…と呟いた桜井は、自分が借りておいたアパートへ2人を案内する。

まだ何も置かれてない部屋に入って座り込んだ香苗は、かなり落ち込んでいる様子で、便利屋さん?とコンドウが打ち明けた素性をまだはっきり飲み込めない様子だった。

この人が本物の桜井さんなら…と、香苗が桜井の方を観ると、コンドウは山崎ですと自分の本名を明かす。

犯罪者なんですか?と恐る恐る香苗が聞くと、今までの仕事を思い出しながら、人の道から外れるような事はしていないつもりです…とコンドウこと山崎信一郎は答える。

混乱させられいら立っていた香苗は桜井に対し、遺書まで書いているならちゃんと死になさいよ!と説教する。

山崎は、おれが何とかする、あんたの車、置きっぱなしにして来たから…。おれが戻って来るまで、2人はここで隠れていて下さい。もし戻って来なかったら、警察に通報して下さいと言い残して、部屋を後にしかけるが、一旦立ち止まった山崎は、色々とすみません。あなたとなら、どんな男でも結婚したいと思うから大丈夫ですと香苗に告げて出て行く。

2人きりで残った香苗は、この部屋は何なんですか?と聞き、前に住んでたんですよと桜井は答え、あんた、惚れてるの?あの男と…聞き返す。

香苗は、結婚する予定なんですと答えるが、それは聞いたんだけど、惚れてんの?と聞き、香苗が答えなかったので、良かった。向うはあんたの事惚れてるみたいだけど…と桜井は呟く。

その時、桜井の携帯が鳴り、マンションに戻ったらしい山崎が、お前、おれのクッキー、全部食っちまったのか!と聞いて来る。

台所で、空になったクッキー缶を観て唖然としていた山崎だったが、そこに、藤本等が入り込んで来て山崎を殴りつける。

まだ繋がっていた山崎の携帯を奪った工藤は、コンドウさんか?女と金を持って来い。来なければ、この男を知っている情報と一緒に片岡組に渡すと伝える。

携帯を切った桜井は、あんたは大丈夫だよ。相手はあんたの事気づいてないからと香苗を慰め、とにかくあの女を捜さなきゃ…と呟く。

しかし、香苗はあの人と結婚する予定なんですと言い、自分も付いて来ようとするので、惚れてもないのに?と桜井は面食らう。

一方、マンションで、工藤は山崎のことを、コンドウの子分だと思い、事情を聞いていた。

それに気づいた山崎は。コンドウと女はおれが始末します。だから、その時には工藤さんの子分にして下さい!と芝居を続けていた。

その頃、桜井と香苗は、綾子のマンションにやって来ていた。

マンションの表には工藤の見張り役の子分が車の中で眠りこけていた。

先に綾子の部屋の中に入り、中の様子を観ていた香苗は、自分が作った雑誌「VIP」が何冊も積み重ねられているのを発見する。

そこに桜井がやって来たので、鍵が開いてましたと香苗が教えると、奴等が開けたんだと言いながら、桜井は室内に付いていた盗聴器を見つけて取り外す。

誰もいないと思われた部屋だったが、パーテーションの後ろに潜んでいた綾子を発見する。

桜井が、外に見張っている奴がいると教えると、綾子は、知ってるわよ。あんたたちこそ何なの?と聞いて来る。

その時、綾子は持っていたビニール袋を落とす。

そこには、何か赤いものが入っていた。

その頃、工藤は、山崎に運転させ、綾子のマンションに近づいていた。

その頃、マンションの外に停めた車の中の見張りは目を覚まし、盗聴器から聞こえて来る部屋の中の騒ぎを聞いていた。

止めて!息子だけは助けて!と叫ぶ綾子の声が聞こえていたからだった。

その直後、到着した工藤、山崎、藤本等が綾子の部屋に入ってみると、そこには桜井が悠々とした様子で台所に座っており、座席では血まみれの綾子倒れていた。

今、電話をしようとしていた所だ。仕事は美しくなくっちゃいけない。私には私のやり方がある。全ては順調に進んでいたんだ。それをあんたたち素人が焦ったお陰で予定が狂った…と桜井は語る。

左手の腕時計に付いた血痕らしきものを拭きながら、今回の仕事は美しくない…。子供は予定外でした…、でも仕方なかったと、コンドウになり切った桜井が言うので、隣の子供部屋を観ると、そこのベッドで息子らしき学生服の少年がうつぶせに倒れていた。

子供を利用して聞くしかなかった…。金はない…。息子の命をかけてまで嘘は言わないだろう。死体は家のものが始末する。その男、出来は悪いが、おれの子分だ。返してくれ…と、山崎を観ながら桜井は頼む。

しかし、それまでの話を黙って聞いていた工藤は、お前、嘗めてんのか?と言うと、倒れていた綾子の死体に近づき、その横腹を足で蹴飛ばす。

死体だと思っていた綾子は、うっと呻いて起き上がる。

お前、血まみれの死体とか観た事ねえのか?匂いがすごいんだから…、血の匂いが…。やるなら本物を使え!と言いながら、工藤は自分のがま口から小銭を掴むと握りこぶしを作るが、起き上がっていた綾子は、本当に金はないのよとふてくされたように答える。

じゃあ、息子さんに聞いてみようか?とすごんだ工藤が隣の部屋を向くと、そこには学生服を着た香苗が立ち上がっていたので驚く。

香苗は、この部屋の中に2億円くらいあるんですけど…と言い出し、その部屋に置いてあるエレキギターや骨董や絵画が皆超一流のビンテージレアものばかりだと教える。

綾子は、噓よ!と叫ぶが、香苗も負けじと、私、分かるんですと毅然として答える。

あんた誰だ?と香苗の正体を聞きかけた工藤だったが、まあ良いやと諦め、社長のアイデアか?と綾子の方に聞く。

そんな工藤に近づいて来た山崎は、コンドウの奴、まだ俺のことを信用しているようです。あいつの所に戻って、後はおれがやりますと耳打ちする。

工藤は、今度の事を黙ってくれたら何もしないと桜井に告げると、すぐに引っ越し用のトラックの手配を携帯でかける。

その後、綾子を山崎の乗って来た車のトランクに入れると、女はなるべく楽に殺してやってくれ…と山崎に頼む。

桜井と香苗も車に乗せ、運転席に乗り込んだ山崎は、その場から警察に、平沢団地の103号室に今空き巣が入っているみたいですと通報して出発する。

香苗が置きっぱなしにしていた車の場所まで戻って来る。

車を走らせながら山崎は、トランクの中の女はおれが社長の元へ送り届ける。お前が使った経費も含め、全部社長に清算させる。お前なんで逃げなかった?と桜井に告げると、後部座席に乗っていた香苗には助かったよと言葉をかける。

香苗は、車を置いていた場所に戻って来ると、黙って山崎の車から降りる。

山崎は、運転席から軽く手を挙げて去って行く。

平沢団地には、先ほどや真崎から通報を受け、警官2人がやって来ていた。

そこに、エレキギターや骨董を抱えて、工藤とその子分たちが間抜け顔で降りて来る。

惜しかったな、お芝居…、結構、俺は勘当したよと、桜井と2人きりになった車の中で、山崎は先ほどの桜井の狂言芝居の事を褒める。

桜井が、腕時計を返そうとすると、やるよ。今日のギャラだと山崎は笑う。

金がないくらいで死ぬ事ないぞ。役者の才能もないって訳じゃないしと山崎が言い聞かせると、金がない事くらいで死なないよと桜井が答えたので、ひょっとしてこれか?と言いながら、山崎は左手の小指を立ててみせ、本当に女のことで死ぬ奴なんかいるのか!と驚いたように笑う。

桜井のアパート前に着いた山崎は、自分が持っていたアパートの部屋の鍵を、車から降りた桜井に返す。

あんた、おれの人生を貰うって言ってたけど、それはあの女の人のためじゃなかったのか?俺のこと笑えるのか?と桜井は山崎に言葉をかけるが、山崎は、じゃあなとだけ言い残して車を走らせる。

トランクから出してやった綾子は、後部座席に移っていた。

工事中で停まったので、綾子が煙草を取り出して吸おうとすると、車の中は禁煙だ!と運転していた山崎が切れる。

何さ、あんただって吸ってるじゃない!と不機嫌そうに綾子が指摘する。

ダッシュボードの灰皿には、桜井が吸っていたらしき大量の吸い殻が詰まっていたからだった。

それを苛立たしそうに、閉めようとしていた山崎は、床に落ちていた一枚の写真を発見する。

それは、桜井が投げ捨てた、ミカと桜井が楽しそうに写っている写真の一枚だった。

一方、自宅に帰り着いた香苗の方は、自分がスケジュール帳に書いていた、12月14日の欄の結婚式の文字を自分で消す。

その時、助手席に置いていたバッグの中に入れ忘れていたコンドウこと山崎の書いたノートに気づく。

それを取り出し、ぱらぱらと中を読んでいると、「好きなもの」の欄に書かれたいくつかのものが×印で消されており、「水嶋香苗」と書かれた文字が丸でしっかり囲われていた。

その時、キュン、キュン!と言う警報ブザーと共に、香苗は自分の胸が高鳴り始めた事に気づく。

警報音は、近くの柱にぶつかって停まった山崎の車から出ていた。

車から降り立った山崎と香苗は、互いに近づくと、路上で抱きしめ合う。

そんな姿を他所に、ぶつかった車の後部座席に乗っていた綾子は、鳴り続ける警報ブザーにいら立ったように、左手のひじ打ちで車のドア部分を叩き、音を止める。

エンドロール

久しぶりに、自分のアパートの部屋に戻って来た桜井は、室内に猫が入り込んだ事に気づく。

その猫を追って来たのは、隣に住むあの暗い感じの女性だった。

すみません…と謝って来た女性は、これ君の猫?可愛いねと言いながら、猫を抱き上げた桜井の姿を観た瞬間、キュン、キュンと言う警報ブザー音と共に、思わず自分の胸を押さえるのだった。