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ジャズ娘に栄光あれ

「バナナボート」のヒットで「カリプソの女王」と称されたと言う浜村美智子の初映画主演作で、内容は良くあるスター誕生ものである。

さすがに、後年、ゴールデンハーフが再カバーした「バナナボート」の最初のカバーを歌っていた方と言うくらいの知識しかなく、懐メロ番組等でお見かけした以外、詳しくは存じ上げない方だが、モデル出身らしく、エキゾチックな美貌に、白黒映画なのではっきり確認は出来ないが、明らかに茶髪風の長い髪で、低音でぶっきらぼうに大阪弁をしゃべる、一見、ズベ公風の個性的なキャラクターである。

おそらく、歌手としても演技者としても初心者同然の人だったので、わざとセリフを少なくし、ぶっきらぼうで山出し風のおかしなキャラクターと言う設定にしたのかも知れないし、浜村さんは当時、本当にこんな感じの人だった可能性もある。

にこりともしないその無表情さは、元祖カルメン・マキみたいな雰囲気もある。

そんな当時としては最先端風の人気者を、ヤマカジさんことベテラン山本嘉次郎監督が、ちゃんと演出できるのだろうか?などと、失礼ながら若干危惧していたが、観始めると意外や意外、ナンセンス風のギャグ等も混じった楽しい音楽映画にまとまっていた。

さすが、エノケン映画等でも知られたヤマカジ監督の面目躍如と言うべきか。

人気者になり、本作が映画初出演と言う事は、この時点での浜村さんのヒット作は、ラストで披露される「バナナボート」1曲だった可能性もあり、仮に他に2、3曲の持ち歌があったにせよ、持ちネタが少ない新人で1本の映画にするには、色々工夫が必要だったろう。

ヤマカジ監督は、そこにユーモアセンスを持ち込んでいる。

そのために、単なる歌の羅列だけではない、あたかもマンガの実写化映画のような楽し気な雰囲気が生まれている。

特に、キャバレー「パゴダ」で美奈子が歌いだすと、客たちが全員踊りだし、その振動で下の階の天井が崩れると言うナンセンスや、お座敷ににわか芸者として登場した美奈子が、たった2、3人の客の前で正座しただけで足がしびれてしまい、着物姿にも関わらず、両足を前に突き出した珍妙な姿のまま両手で移動をしたり、益田喜頓扮するスケベジジイから抱きつかれかけた美奈子が、持っていた大量の癇癪玉を庭の狸の置物に投げ付け大爆発を起こす等と言ったバカバカしいスラプスティックギャグもおかしい。

お座敷で次々と披露する、生足を露出させた奇抜な和風衣装や、途中で美奈子が歌う「ラーメンの歌(?)」もシュールで愉快。

当時の大人たちからすると、今のキャリー・パミュパミュみたいな存在だったのではないかと想像したくなる不思議なキャラクターや音楽である。

当時の女体描写の限界なのか、劇中で登場している白黒のスチール写真では、ノーブラ、パンツ一丁の姿で、両腕で胸を隠しているようなポーズもあるが、動いている映像の方では、ビキニの水着シーンでも、バスタオルのようなものをブラから下げており、お腹の部分の大半は隠している。

これで一体、どこが「ヌード」撮影なのか、今の感覚では理解に苦しむ所ではある。

その分、足の方はレオタード姿のように全部露出していても構わなかったようである。

前半、美奈子を助ける民爺さん役の藤原釜足が、途中から全く姿を見せなくなったりと言う不可解な部分もあるが、全体的には、愉快で楽しい東宝らしい娯楽映画に仕上がっている。

宝田明や小泉博等と言う東宝特撮でもお馴染みの面々、さらに東宝特殊技術課が参加している事もあってか、南方のエキゾチックなイメージで売り出していた浜村さんが、当時ブームだった怪獣映画に出演しなかったのが不思議な気がする。

所属事務所が、ナベプロのような大手ではなかったためだろうか?

「南海の大決闘」等にはぴったりのキャラクターのように感じる。

ちなみに、この作品のキネ旬データは、かなり間違っている。

役名が本編中に登場しないケースは間違いとは断定しにくいが、名前を劇中で言っている役に関しては、配役表の役名とはかなり違っている。

特に、久慈あさみが扮している松島花枝などは、セリフでもはっきり「松島さん」と言っているし、最後の生中継のシーンでは、曲名と歌手名が書かれたテロップが登場している。

この映画が公開された1958年と言えば、NHKの放送が始まって5年目くらいの年であるが、もう、そのテレビ局を舞台にした、こうした映画が作られているのも興味深い。

流行の火付け役として、雑誌と共にテレビが欠かせなくなった当時の判断だったのだろう。

それは逆に言えば、もはや映画は、流行の発信源としては過去のものになりつつあると、当時の映画業界自体がすでに自覚しつつあった事にもなる。

そう言えば、山本嘉次郎監督ご自身、当時のNHKのクイズ番組等に良く登場されていた記憶がある。

司会者から名前を紹介されると、バッタのように肘を張ってテーブルに手を付き、頭を下げて挨拶しておられた、痩せた監督のお姿が目に浮かんで来る。

ヤマカジ先生は、そうした自らの体験から、テレビの影響力と言うものを人一倍理解されていたのかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、東宝、蓮池義雄脚本、山本嘉次郎監督。

OKテレビのスタジオで、バレエダンサーに扮した歌手の松島花枝(久慈あさみ)と山田真二(本人)のリハを見守っていた番組プロデューサーの秋田正夫(小泉博)は、インカムで、さっきから何か変な音を拾っていると言う指示を受け、アシスタントの長野五郎(江原達怡)に音の出所を探らせる。

スタジオ内のゴキブリかネズミを疑ったのか、五郎は箒でスタジオのセット等を叩いて廻るが、君が一番うるさいよと言われたので、スタジオの外に出て、局の玄関前でタレントたちに食べさせていた屋台のラーメン屋の民爺さん(藤原釜足)が吹くチャルメラの音だと気づき、注意しに行く。

しかし、爺さんは、商売なのに止められないよと言うので、五郎は、今日の分を全部買わせてもらうと申し出る。

爺さんは、1杯40円で25人分だから、ちょうど1000円になると言い、承知してくれる。

スタジオに戻って来た五郎は、秋田や他のスタッフたちに、今日の夜食はラーメンですと知らせる。

何だか気が抜けたなと言い出した秋田は、10分休憩を入れることにし、9時20分開始と全員に伝える。

残りのラーメンを調理途中、ネギの切りカスを側の植木に捨てかけていた民爺さんは、その薄暗い物影に立っていた謎めいた娘を見つけ驚く。

そんな所で何してるんだ?と爺さんが聞くと、その娘島村美奈子(浜村美智子)は、歌い手になりたいのと言うではないか。

じゃあ、そのチャーシューを待っていたのか?じゃなくて…、チャンスを待っていたのか?と爺さんが聞くと頷くので、一計を案じた爺さんは、注文されていたラーメンをスタジオ内に運び込む手伝いをさせる事にする。

廊下で、美奈子の姿が、先ほど門前払いをした娘だと気づいた気づいた守衛(沢村いき雄)が呼び止めようとするが、爺さんと美奈子は、ラーメンの乗ったお盆を持ったまま黙ってスタジオまで持って行く。

五郎にラーメンを渡した民爺さんは、連れて来た美奈子が歌い手になりたいらしいと紹介し、美奈子も、養成所に入れて下さいと頼む。

しかし、ここはそう言う所じゃないし…と五郎が断ると、がっかりした美奈子は、民じいさんと一緒にスタジオを出て行く。

その時、すれ違う形でスタジオにやって来たのは、番組スポンサーのスター芸能社の記者千葉栄子(白川由美)だった。

同行して来たカメラマンが、休憩中の山田や松下の写真を撮り始めると、栄子は秋田ディレクターに、今の人、面白いタイプじゃない?どっかで会った顔だわ。忘れられない顔だわ…と話しかける。

しかし、台本の確認中で、今スタジオに入って来た美奈子の事を観ていなかった秋田には、何の事やら理解できないようだった。

仕方がないので、五郎と一緒にテレビ局の玄関口まで探しに戻った栄子だったが、もう民爺さんの屋台はいなくなっていた。

その民爺さんが引く屋台に付いて来た美奈子は、お蕎麦ちょうだい。朝から何も食べたないのと言い出すが、今日の分は全部売り切れていた民爺さんは、家まで来るなら、茶漬くらいあるよと誘う。

民爺さんの家に上がり込み、茶漬をかき込みだした美奈子は、大阪のジャンジャン横町って知ってる?と言い、そこの焼き鳥キャバレーで歌っていたのと身の上話をする。

それを聞いた民爺さんも、俺も若い頃は絵描きの卵だったが、良い先生に恵まれず、ようやく見つけた先生が教えてくれたのはラーメンの作り方だったので、今はこの様だと教えるが、気がついてみると、もう美奈子は話を聞いておらず、膝を抱えて眠っていた。

翌朝、民爺さんが起きると、先に起きていた美奈子が、かいがいしく雑巾がけをしており、布団の所までお茶を持って来ると、朝食も出来ていると言うではないか。

アバズレ風の見かけとは違う美奈子の一面を知った民爺さんは驚きながらも感心する。

朝刊を拡げて読みながら、美奈子は、私、お金欲しいわと言いながら、その新聞の記事を爺さんに見せる。

そこには、歌手になるには一流の作曲家の先生に習うしかなく、その入門代だけでも2〜3万はかかると書かれてあったのだ。

どうしたらお金が稼げるかしら?と本気で考えている様子の美奈子を観た爺さんは、女が手っ取り早く稼ぐには、バーのホステスとか、芸者かな?などと言ってみる。

すると、それを真に受けた美奈子は、どこに行けば良いのかしらと言い出す。

スター芸能社に出社した千葉栄子は、OKテレビのスタッフルームに電話をかけ、秋田を呼び出すと、夕べの女性の写真を見つけましたと報告していた。

待ち合わせの喫茶店に秋田がやって来ると、美奈子を写した写真を見せながら、今年の夏、大阪に行った時に撮ったものですと栄子は説明し、ちゃんとした先生に付けたらすぐに売り出すわと褒め、興味を持った様子の秋田に対し、全然、見逃す手はないわなどと推薦するが、居場所については全く知らないので、蕎麦屋のおじさんを見つけたらすぐにでも聞いてみるわと約束する。

その頃、美奈子は、ホステスを募集している街のバーを探し歩いていた。

栄子は秋田に、ねえ、会いたいわ…と言い出すが、会ってるじゃないか?と秋田は呆れる。

今日は仕事だけど、仕事ではなくよと栄子がじれったそうに続けると、それなセリフ、革ジャンなんか脱いでから言うもんだよねと秋田はつれない返事をする。

銀座のバー「パゴダ」で働き始めた美奈子だったが、ビールを客席に運ぶ時、お盆を持った両肘をつっぱらかしているもんだから、カウンター席の客の背中に肘がぶつかってしまう。

客席にようやくビールを置いてもすぐに帰ろうとするので、客は呆れて、君はここに座って酌をするんだよと注意すると、美奈子は、一言、嫌!と言うだけ。

さすがに見かねたマダム染子(東郷晴子)が飛んで来て、今日山で獲れたばかりなので…と冗談まじりに客に詫びる。

美奈子が席の横を通る時、その尻を触った客(南道郎)は、皆さ〜ん!この人が変な事をするんです!と美奈子が大声で言い出したので唖然としてしまう。

慌てて、またマダム染子が謝りに来て、さっき檻から出したばかりなので…と冗談でごまかそうとするが、客は憮然としたまま。

もう客の前に出なくても良いと言われた美奈子は、入口での案内係を命じられるが、入って来た流しの2人に、いらっしゃいませと頭を下げてしまう。

呆れた染子が注意しに来ると、だって満員電車で変な事をされたら大声を出しなさいって学校で習いましたと美奈子は平然と答えるので、ここは銀座の一流バーよと染子は言い聞かせようとする。

すると突然、美奈子は、バンドや流しのギターに合わせロックンロールを歌い始めたので、客たちは喜び、ダンスを始める。

しかし、店内中の客たちが踊りだしたので、カウンターに置かれていたグラスのカクテルはこぼれるし、一階にある宝飾店の天井が崩れだす。

驚いた宝飾店の店員が、バーに上がって来て、マダム染子に教えると、驚いた染子は、止めな!と大声を出して美奈子の歌を制する。

テレビ局の守衛に、今日はラーメンの屋台と美奈子が来ていないかと尋ねた秋田、千葉、五郎たちだったが、何故か、その日、民爺さんの屋台も美奈子も来ていなかった。

秋田は、久しぶりに銀座に出て酒でも飲むかと誘うが、栄子は喜んだものの、五郎が行かないと言うので、秋田も諦めて、そのまま1人で帰る事にする。

民爺さんは、風邪で寝込んでいた。

バーを首になったと美奈子から聞いた爺さんは、国に帰るんだなと忠告する。

しかし、美奈子は、歌の勉強をするため、お金が欲しいとまだこだわっていた。

そこにやって来たのは、民爺さんの知り合いの周旋屋敬さん(堺駿二)だった。

敬さんは、見知らぬ美奈子が気になるようで、髪の色から外国人と思い込んだのか、おかしなアクセントで、あなた、お国はどちらですか〜?などとしつこく聞き、おっさん、何言うてはりまんねん?と美奈子に無表情に突っ込まれてしまう。

待合「今作梅」では芸者たちの踊りの練習をしている最中だったが、そこにやって来た敬さんは、女将おだい(一の宮あつ子)に、前にいて人気があった芸者が逃げてしまったので、今日は、代わりの女の子を見つけて来たと言い、連れて来た美奈子を紹介する。

ところが、部屋に入ってきた美奈子は開口一番、先生、月給いくらです?等と聞く始末。

唖然とするおだいだったが、その時、しゃく姉さん(飯田蝶子)から電話が入り、この前来たモダンな子が人気があったので又呼びたい。スーさんが、東京の珍しい芸を観たいっておっしゃっているんだよと言って来るが、その子がいなくなったおだいは困って、あの子以上の女の子がいます。ジャズだって何だって出来るんです。何だって乗りますからと答えてしまう。

廊下に美奈子を連れ出した敬さんは、芸者になると、嫌な事もあるだろうけど、そんなときは、癇癪玉でも投げてすっきりすれば良いんだよとアドバイスしてやる。

やがて、しゃく姉さんとスーさん(益田喜頓)、そして大勢の客が待つ座敷に、おだいの店の芸者たちが挨拶しながらやって来る。

最後に、明らかにカツラの日本髪が鬱陶しそうな美奈子もやって来て、隅の客から、酌をし始めるが、2、3人目でもう足がしびれてしまったので、足を投げ出し、つばを額につけてみたり、足をさすったりしはじめ、全然酌をしようとしなくなる。

立とうとしても、足がしびれてちゃんと立つ事が出来ないので、美奈子は着物姿なのに両足を前に投げ出し、両手の力だけで移動し始める。

そんな美奈子の不思議な行動に、何故かスーさんは惹かれたようだった。

それに気づいたしゃく姉さんは、美奈奴さん、余興をはじめて!と声をかける。

しかし、美奈子は立てないので、他の芸者たちが、両足を前に投げ出したまま座っている美奈子の身体を、ずるずると強引に奥へと引っ張って行く。

やがて、襖の絵柄が山の様子に変化し、両足をむき出しにした奇抜な衣装に着替え終わった美奈子が「会津磐梯山」を歌いながら登場する。

歌詞に「カリプソ」と言う言葉を入れた斬新な歌い方だった。

さらに、襖の絵が変化し、またもレオタード風の衣装に着替え終わった美奈子は「炭坑節」のカリプソバージョンを歌う。

続いて「ソーラン節」や「木曽節」のカリプソバージョン。

美奈子の奇抜な衣装と歌い方に、新しい物好きのスーさんはすっかり参ってしまったようで、横に座っていたしゃく姉さんに、何事かを耳打ちする。

どうやら、後で部屋に呼んでくれと言う催促らしかった。

1人部屋で待っていたスーさんは、不機嫌そうにやって来た美奈子が、いきなり日本髪のカツラを脱ぎ捨てたので、驚きながらも気を取り直し名前を聞くと、美奈子は平然と、知らない、忘れたと言い、1時間前に付けられたばかりだから等と言い訳する。

その間も、しびれた足をさすっていたので、それを観ていたスーさんがスケベ心を出して、わしがさすってやろうかと炬燵から出て抱きつこうとすると、危ない、危ない!と美奈子は言い出す。

やがて、スーさんの身体を押しのけた美奈子は、障子を開け、庭先に狸の置物があるのに気づくと、懐にしのばせて来た大量の癇癪玉をその狸に投げつける。

すると、大爆発を起こして、狸の置物は木っ端みじんに吹き飛んでしまう。

さすがに、それを観たスーさんは腰を抜かしてしまう。

スター芸能社で、テレビで放映中の「歌の夢 夢の歌」で、山田の歌のシーンに松島花枝が写り込むのを観ていた栄子は、やって来た秋田から、例の女性の事を聞かれ、まだ手掛かりがないが、大阪時代にいた「天袱」と言う天ぷら屋に問い合わせてみたと教えながらも、気づかない?今日は革のジャンパー着てないわよと意味ありげに誘う。

それでわざわざ呼び寄せたのか…と、秋田も栄子の目論みに気づくが、そこにやって来たのは、今、テレビ画面に映っていた松島花江だったので、君の出演部分はフィルム(合成)だったのかと秋田と栄子は驚く。

近くの喫茶店に栄子と秋田を誘っ花枝は、新婚旅行はどこにするの?等といきなり切りだして来る。

どうやら、2人に間柄に気づいた花枝が、愛のキューピッド役を演じるつもりらしく、2人を店に残し、自分はさっさと帰ってしまう。

その頃、民爺さんの容態は悪化していた。

美奈子は台所で必死に、氷嚢に入れる氷を割っていた。

そこに訪ねて来た敬さんは、医者が言うには入院させた方が良い。心臓が弱っているらしいと、爺さんの容態を美奈子に教える。

しかし、もう10円しか残っていないと明かした美奈子は、私、今日からお蕎麦屋さんするわと言い出す。

その夜、人気のない坂道の途中に店を置いた美奈子は、チャルメラを吹きながら、お月さんに引っかかるラーメン、ラーメン♬と哀し気なラーメンの歌を歌いだす。

そんな美奈子を、民爺さんと思い込み呼びかけて近づいて来た栄子は、チャルメラを吹いていたのが、探し求めていた美奈子本人だと知り驚くと同時に、これからテレビのテストを受けに行くのよと説明しながら、美奈子をOKテレビのスタジオまで連れて行く。

スタジオ前の喫茶部に座っていた花枝は、栄子が連れて来た美奈子を観ると、秋田さんは今いないわと言い、こうりゅうぶんげい(?)ありまして?と美奈子に尋ねるが、意味が分からないらしい美奈子が答えないと、歌のお稽古してないの?と驚く。

そして、哀れそうに美奈子を観ると、ごめんなさい、冗談だったの。秋田さんはいますと、正直に栄子に教える。

スタジオに入り、栄子から秋谷美奈子を紹介された秋田は、山田用に用意してあった楽譜を渡し、山田もピアノ演奏を買って出て、歌ってみて下さいと頼む。

しかし、美奈子は楽譜が読めないらしく、絶望したように顔を手で覆い泣きだすと、歌の勉強をしてきますと言い残してスタジオから飛び出して行く。

それを見送った秋田も事情を察し、しっかり基礎から勉強して来た方が良いよと、がっかりしている栄子に声をかける。

花枝も優し気に、うんと勉強するのよとスタジオの外にいた美奈子を励ます。

栄子の方もそれが良いと判断し、美奈子を連れて自分のマンションに連れて帰る。

民爺さんは、栄子が費用を工面してやり入院させる事にしたのだ。

美奈子は、栄子の豪華なマンションの部屋に驚きながらも、良い先生に付きたい。3万円欲しいと、入門代の事を気にしていた。

それを聞いた栄子は、今、自分の雑誌の表紙のモデルを捜しているんだけど…と思い出しながらも、でもあまりお勧めできないわ…、だってヌードなんだもの…と申し訳なさそうに説明する。

しかし、美奈子はそれに志願し、栄子に連れられ、「イシカワ写真工芸」と言うスタジオにやって来る。

栄子が帰ると、カメラマンの石川(三原秀男)は、新しいセンスのグラマーを世に送り出したいんだ。模擬盾の果物のようにピチピチした素材を…と熱く説明し、美奈子に水着に着替えるよう声をかけて来る。

そして、水着姿になった美奈子に、ラジオの音楽を流すと、このリズムに合わせ、好きなように動いたり歌ったりしてくれと指示を出す。

美奈子は言うがままに、歌い始め、石川はカメラのシャッターを押し続ける。

「カリプソ女王」と謳った美奈子の表紙の「スター芸能」は飛ぶように売れまくり、スター芸能社では、すぐさま島村美奈子特集第3号の企画に入るほどの盛況振りとなる。

「グラマーの彗星」「野生少女」など新しい謳い文句が生まれ、増刊号も続々売り切れてしまうほどの人気振りだった。

そんな美奈子の特集記事が載ったスター芸能を観ていた五郎は、スタッフルームに出社して来た秋田に見せるが、それを目にした秋田は、何だ、あれだけ歌い手になりたがっていたのに、もう諦めたのかな?側に付いている千葉ちゃんも千葉ちゃんだ…とぼやく。

スター芸能社の社長(清水一郎)は、上機嫌で美奈子との独占契約を交わし、10万円の契約金を手渡す。

それを受け取った美奈子は、これで歌の勉強ができるわ!と喜び、栄子に感謝するが、そこにやって来たのは、自分が最初に美奈子の才能を認めたのだと言いながら、自分の店に連れ戻そうとやって来たマダム染子、おだい、しゃく姉さんらだったので、栄子はマネージャーを名乗り、今先生はお忙しいので等とごまかしながら、3人が言い争いを始めた隙を観て、美奈子を裏門から外に連れ出す。

しかし、裏にも、パリ劇場やキャバレーの支配人が待ち伏せしており、勝手に車で美奈子を連れ去ろうとするので、慌てた栄子は、美奈子を連れ、近くの公衆電話に飛び込むと、五郎を呼び出し、あなたジープを持っていたわね?今、色んな人に追われているの。助けて!と頼む。

事情を察した五郎は、すぐさまジープで2人を拾うと、美奈子と契約しようと追跡して来る車を引き連れて逃げ出す。

やがて、後続車に差をつけた東京行きのバスの停留所近くで、栄子と美奈子を降ろした五郎は、そのままジープを走らせ、後続車の獲物になる。

その間、栄子と美奈子はバスに乗り込み、東京へと舞い戻るのだった。

マンションに戻って来た栄子は、もう歌を勉強する事なんてないのよ。この世の中に、人気者が出現したの!すぐにレコード会社やテレビ局と交渉を始めるわと「美奈子に言い聞かす。

さっそくスター芸能社に電話を入れてみた栄子だったが、「てんぷく」と聞かされ、五郎の車が転覆したものと思い込み、急いで美奈子を連れ出社する。

しかし、そこにいたのは、美奈子が大阪時代世話になっていたと言う天ぷら屋「天袱」の主人(南都雄二)とその女房(都蝶々)だった。

口達者な女房は、美奈子の出世を喜ぶ一方、自分たちの店はもう借金だらけでダメなので、これから2人で死のうと思う等と言いだし、店に戻って来てくれたら、月給は前の二倍出すわなどと頼み込む。

2人は明らかに、美奈子から金をせびる為に上京したようだった。

栄子は、これから美奈子はテレビのテストがあるのだと言って座を外そうとするが、そこに、巡業の話が決まった等と言いながら敬さんもやって来て、自分こそ東京で美奈子をあれこれ面倒見てやった等と言い出し、「天袱」の女房とどちらが金を受け取る権利があるかと意地汚い言い争いを始める。

呆れた栄子は美奈子を連れ、又もや裏口からその場を逃げ出す。

テレビ局に到着すると、またスタジオ前の喫茶部に花枝が座っており、秋田さんならスタッフルームにいると教える。

喜んでスタッフルームの中に入った栄子だったが、そこにいた秋田は、千葉ちゃん、もうその方は諦めたんだ。楽しみにしてたんだけど、無名の新人として売り出したかったんだと冷たく言い放つ。

それを聞いた栄子は憮然とし、私はジャーナリストとして、新しい才能にスポットライトを当て、世間に知らせたんです。私はあなたにとっても良い贈り物をしたつもりだったのに…と言って絶句する。

そんな2人の会話を後ろで聞いていた美奈子は絶望し、頭を抱えながら部屋を飛び出すと、スタジオの階段を駆け上って行く。

その様子に気づいた花枝は、何事かとスタッフルームを覗き込み、栄子と秋田の間に冷たい空気が流れている事に気づく。

テレビ局の屋上にやって来た美奈子は、夜空に浮かぶ月に向かい、寂し気に「ダークムーン♬」と歌いだす。

すると、屋上の物陰のベンチで台本を読んでいた宝田明(本人)が気づき、途中から歌に参加して来る。

歌い終わった美奈子に、フィーリングがとっても良いね。なんてお名前?と言葉をかけて来た宝田だったが、すぐに、目の前にいるのが今話題の島村美奈子と気づく。

しかし、美奈子は、名前が売れたばかりに歌い手になれないんです!と嘆きながらその場を去って行く。

宝田明は慌てて、君に相談があるんだと呼びかけながら後を追って行く。

翌日、スター芸能社の社長は、美奈子のスポンサーとなって電波に乗せると、栄子と美奈子に約束してくれる。

しかし、それを知った秋田は、スポンサーの圧力で彼女を番組に出すのなら、僕は降りるよとやって来た栄子に告げる。

その時、五郎が部屋に入ってきて、花枝さんがお話があるそうですと秋田に伝える。

やって来た花枝は、お詫びに来たんですと切り出すと、2人の仲を勝手に取り結ぼうとした自分の軽率さを詫びる。

それに対し、美奈子さんを他の道に進めようとしたのはこの人の考えですと、今回の件が、栄子の判断ミスで、それに対して怒っているのだと秋田は説明する。

そこにやって来た宝田と山田は、とにかく自分が録音した美奈子のテープを聴いてみて下さいと秋田に頼む。

そこまで言われた秋田は落ち着きを取り戻し、テープを聴きましょうと素直に応ずる。

その後の「歌の夢 夢の歌」では、まずは、松島花枝の歌「パリのにわか雨」からスタートする。

その録音の様子をスタジオの隅で見つめる秋田と栄子。

続いて、宝田明が「黄色い枯葉」を歌う。

歌い終わった宝田は、山田真二と共に、カーテンの前に立ち挨拶をすると、今日のゲストは、夢よりももっと素晴らしい方の登場です。皆さん良くご存知の、島村美奈子さんですと紹介し、カーテンの後ろから、麻袋を加工した衣装を着た美奈子が登場する。

そして。又カーテンの後ろに隠れ、顔だけカーテンから覗かせた美奈子は、曲に合わせ、「デ〜オ!♬」と「バナナボート」を熱唱し始める。

それを観ていた秋田は黙って、背後にいた栄子に手を差し伸べる。

栄子もその手をしっかり握りしめ、2人は仲直りの握手にするのだった。