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大出世物語

先日、他界された小沢昭一主演の1本で、上映時間64分の中編作品。

珍しく、小沢さんが老け役を演じている。

吉永小百合のボーイフレンド役はお馴染みの浜田光夫だが、この当時のキャストロールには「浜田光曠(新人)」と書かれてある。

内容は、貧しい人々の心温まる人情ものとでも言えば良いのだろうか?

子供たちは皆純真で明るく、時代背景も含め、「ALWAYS 三丁目の夕日」的なファンタジー世界に近い内容になっている。

出て来る人物は基本的に皆善人ばかりで、心底の悪人や屈折した嫌な人間は一切登場しないと言うのが微笑ましい。

一見、悪役風で登場する榎木兵衛ら、くず屋仲間たちも、年老いた六さんにあっさり撃退されてしまうくらいの情けない小悪党として描かれているだけ。

六さんと口喧嘩が絶えない広子も、最初から好人物にしか見えない。

小百合さんや浜田光夫らは、いつも笑顔で愚痴一つ言わずまじめに働き、こちらも絵に描いたような優等生イメージ。

およそリアルとはほど遠い、きれいごとの世界観だと分かっていても、ついついその穏やかな世界に惹き込まれてしまう。

つまり、逆に考えると、「三丁目の夕日」の世界観と言うのは、かつての源氏鶏太の小説世界に近い部分があると言う事かもしれない。

派手さ等微塵もない地味な作品だが、観ていて清々しい作品である。

劇中に登場する映画館前のシーンで、「コルトが背中を狙っている」などと言う看板が、日活らしくて面白い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、日活、源氏鶏太原作、三木克巳脚色、阿部豊監督作品。

川の横をリヤカーを引いて帰っているのはくず屋の六さん(小沢昭一)だった。

「河野商会」とペンキで板塀に書いてあるだけの貧しい自宅に帰って来ると、出迎えた娘の高子(吉永小百合)が、近くで遊んでいた長男の武夫(瀬川雅人)を呼ぶ。

すると、その声を応じて、次男の信夫(小沢茂美)と三男の行夫も帰宅して来る。

タイトル

翌朝、いつものように「安井印刷」の裏口にリヤカーを引いてやって来た六さんは、顔なじみの守衛の本村(紀原耕)に挨拶をして社内に入ると、昨日のクズの中から見つけた拾得物を渡すので、本村はその生真面目さに感心する。

六さんと仲が良い使丁長の西田(河上信夫)は、自分が定年でここを辞めるまで後3日だと教える。

その時、六さんから金を借りている佐藤が、六さんを建物の中に呼ぶと、まだ返せそうにないと詫びるので、六さんはいつでも良いよと言ってやるのだった。

人事課長の吉川(高原駿雄)は、新しく会社に入った折原(木島一郎)と話をしていたが、ちょうどそこに持病持ちで体調が優れなさそうな安井社長(浜村純)が出社して来たので、折原を紹介する。

裁断の紙くずなどが集まる場所に日がな座って、紙くずが溜まると自分の駕篭に詰め替える仕事をしていた六さんは、働く社員たちから、水を持って来てと頼まれれば、水を汲んでもって行き、タバコを買って来てくれと頼まれれば、外に買いに行く雑用係も嫌がらずにやっていた。

そんな六さんが、ハイライトとしんせいを買いに裏口に来ると、いつもやって来る「日米商事」と言う名前だけは立派な闇屋の女社長広子(渡辺美佐子)が守衛室の前を塞いでいたので、その大きなお尻をどけてくれないと通れないじゃないかと冗談を言うと、それを真に受けた広子は怒り出す。

広子は、印刷会社の女子工員たちに、闇の化粧品や衣料類等を毎日売っていたのだった。

女子工員たちも皆一様に貧しかったので、分割で頼む者が多く、広子は自分の手帳に、その記載もしっかりしていた。

昼休み、弁当を食い始めた行員たちに茶を入れて配り歩く六さんの姿を観ながら、あの人は、終戦後、焼跡にバラックとしてこの会社が出来た当初から通い詰めている人物で、今まで15年間、無遅刻無欠勤のまじめな人物なんだと西田は他の工員たちに教える。

その六さんも、クズ置き場で、1人弁当を使っていると、そこに顔を出した広子が、さっき私のお尻が大きいって言ったけど、このお尻のどこが大きいのよ!と尻を突き出して文句を言って来る。

しかし、六さんは、おれは闇屋とは口を聞かない事にしていると言うので、ますます怒った広子は、自分は「日米商事」の社長なんだ!と息巻くと、あんたもただのくず屋じゃないか!と反論する。

そんなヤギひげなんか生やして!良く奥さんが許すわね!と、広子が六さんの顎から伸びているヒゲをからかうので、かみさんは7年前に亡くなったよ…と六さんは淡々と答え、そんなにおれに話しかけて来る所をみると、俺に惚れているのか?などと笑うだけだった。

そんな六さんは、吉川から封筒を届けてくれと頼まれたので会社を後にする。

六さんが裏口から出て行くとき、見知らぬ男(榎木兵衛)が守衛室の本村に、ここのクズはどこがやっているのかと聞くので、本村は、今出て行くあの人だよと教える。

川向こうの紙問屋に封筒を届けた帰り道、六さんは、ちょうど下校して来た高子たち高校生の一団に出会う。

その時、1人の男子高校生が、お父さんかい?僕に紹介してくれと高子に話しかけて来たので、安井健一 くん(浜田光曠=浜田光夫)と紹介して、安井が先に帰ると、お父さんが行っている会社の社長さんの息子よと教え、私の事が好きらしくて、時々ラブレターをくれるの等と言い出したので、近くの公園に高子を連れ込むと、ラブレターを出すような不良とは付き合っちゃいけません!と諭す。

しかし、高子は、不良じゃなくておとなしいからラブレターをくれるのよ、不良だったら、とっくに抱きついて来たりキスしたりしているわなどと反論するので、六さんは、お前、キスされたのか?!とますます慌てる。

高子は、そんな六さんの反応に呆れたようにあっさり否定して帰宅し、六さんは会社へと戻る。

終業後、1人印刷会社内に残った六さんが、いつも通り掃き掃除等していると、先ほど守衛室にやって来た男が、仲間らしき3人の男と共に裏口にやって来て、随分溜め込んでいるそうだな?いつからやってるんだ?明日から俺たちがここをやらせてもらうから、お前は手を引け。下手をすると加賀をするよ…などと脅して来たので、六さんは、15年もやって来た仕事を取られてたまるか!と言い返すと、会社内に逃げ込み、後から追って来たくず屋たちを、箒の柄で足を引っかけ転ばしたり、落ちていた木材で頭を叩いたりと、必死の応戦をする。

その時、近くでサイレン音が聞こえて来たので、くず屋たちはパトカーが来たと思い込み、一目散に逃げようとする。

それを裏口に追って来た六さんは、もう二度とここに来ないと約束するなら、警察と話をつけてやる!と言い、くず屋たちは、もう来ません!と約束して逃げ出して行く。

六さんは、腰が抜けたようにその場にへたり込むが、そこに近づいて来たのが、手持ちのサイレンを鳴らしていた守衛の本村だった。

その日、いつものようにリヤカー一杯のくずを積んで、川沿いを帰っていた六さんの姿を見つけた息子たちが駆け寄って来るとリヤカーに乗り込み、一緒に家に帰る。

夕食後、六さんは高子に、ラブレターを見せてご覧と頼み、高子が健一からもらったと言うラブレターを興味深そうに読み始める。

弟たちも読みたがるが、洗い物をしなさいと追い払われてしまう。

翌朝、他の女子高生と一緒に、高子を迎えに来た健一に会った六さんは、坊ちゃんは文章が巧いですねと褒めると、彼は叙情派の詩人なんですと側にいた女子高生がからかいながら、一緒に登校する。

その日、安井印刷所では、定年で勇退する西田の後任として折原が正式に紹介される。

六さんは、裏手に西田を呼び出すと、いよいよお別れですね。西田さんのお力添えがなかったら、出入り禁止になっていたかもしれないと礼を言うので、六さんが誠心誠意まじめにやって来たから、お天道様が味方してくれたんだよと謙遜する。

そんな西田に六さんは、ほんの気持ちなので受け取ってくれと言いながら、用意して来た封筒を手渡す。

困惑しながら封筒を開けた西田は、中に1万円もの大金が入っていたので、無茶するなよと言いながら、六さんに返そうとするが、足りなかったかね?金額が少なくて失礼だったかねなどと言うので、ありがたく頂く事にする。

その代わり、1つ頼みを聞いてもらいたいと六さんは言う。

その夜、近くの飲み屋で西田に接待した六さんは、今度の使丁長の折原に自分の事を、今後もいつまでもあそこで働けるように良く頼んでおいてもらえないかと頼む。

それを承知して西田が帰ると、入れ替わるように飲み屋にやって来たのは広子だった。

六さんは広子に、あんた良く観ると、良い顔してるね。仲直りに一杯やらないかと話しかけ自分のテーブルに誘うと、一緒に酒を酌み交わし始める。

あんたそんなヤギひげ等生やして、一体今いくつなんだい?と広子が聞くと、ひげは終戦の時から生やし始めたのだが、すぐに白くなって来た。年は42の厄年の時から取らない事にしていると言ってごまかすと、これからどうだね?1000円出すよなどと言い出す。

侮辱されたと感じた広子は激怒するが、少なかったら、もう500円出すよなどと六さんが真顔で言うので、私に淫売やれって言うのかい!と息巻き、店を後にする。

六さんが勘定を払おうと立ち上がると、店の外から、何かが燃えてるよ!と騒ぐ声がしたので、慌てて外に出てみると、そこに置いておいたリヤカーの上の紙くずが煙をあげていたので、慌てて店からバケツの水をもらい消火する。

側にいたおばさんが、さっきここにいた女がタバコの火を投げ込んだんだよと教えてくれる。

翌日、安井印刷で会った広子に、放火犯として訴えるぞ!と六さんが文句を言うと、私こそ、買収強要で訴えるわ!と広子も負けない。

2人が外で口喧嘩をしている時、社内では、新使丁長の折原が、あんな商売人を今後出入りさせたらいかんよと社員たちに言い渡し、そこに六さんが戻って来ると、あんた、西田さんに1万の銭別をあげたそうだが、ここには130人の従業員がいるが、あんたはその中に入ってない。これからは自分が使丁長なので、明日からもう来ないでもらいたいと言い渡す。

それを横で聞いていた工員の東野(山田禅二)らは、六さんは、部屋の掃除から使い走りまでやってくれているのだから…と味方しようとするが、そう言う事は本来自分たちでやるべき事なので、会社の規則を曲げるのはいかんと折原は言い聞かす。

それを聞いた六さんは、明日から参りませんので…と素直に折原に頭を下げる。

その日、下校していた高子に追いついて来た健一は、今度、自分の家に来てくらないか?両親に紹介したいんだと頼むが、あなたは社長の息子で、私はそこに出入りしているくず屋の娘、私たちには身分の相違ってものがあると思うのと高子は拒否する。

その頃、六さんは、吉川から呼び出され、大分、溜め込んでいるそうだけど、実は詰まらん事で穴を開けてしまったので、3万ほど都合してくれないか?その代わり、自分が人事課にいる限り、おっさんの仕事は保証するよと言うので、六さんは、自分は折原さんから今日限りで出入り禁止になったと打ち明けると、あいつは、前の会社でもこちこちで辞めさせられたので、自分がこの会社に入れてやったのだが、良く言い聞かせておくと吉川は呆れたようだった。

それを聞いた六さんは安心し、それなら4、5日中に何とかすると約束したので、吉川は土曜日までに頼むと、再度拝み倒す。

その後、吉川は折原を呼び寄せると、世の中には裏と表があるのだからと、六さんの事を遠回しに言い聞かせるのだった。

その時、外から帰って来た社員が社長室に駆け込んで来ると、社長!手形が!と安井社長に慌てて報告する。

次の土曜日、いつものように会社にやって来た広子に、六さんとは仲直りしたか?と聞いた吉川だったが、冷たい戦争中ですよと広子は言う。

ところが、肝心の六さんの姿が見えないので、吉川は不安がる。

今まで15年間無遅刻無欠勤だった六さんが、金を都合すると約束していたその日に来てないからだった。

やきもきし始めた吉川だったが、その時、受付に高子がやって来て、人事課長の吉川さんにお会いしたいと言っているので、自分がそうだと名乗り出ると、父から預かって来ましたと封筒を渡す。

中を確認すると、確かに約束の金が入っていたので安堵した吉川だったが、受け取り代わりにお名刺を頂いて来いと言われましたので…と高子から言われると、すぐに手渡す。

さらに高子が、発想部の折原さんにお目にかかりたいと言い出したので、連れて行って会わせると、高子が六さんの娘だと知った工員や、その場にいた広子が驚いたように見つめて来る。

年を聞かれた高子は、高校3年生だと答えると、父がいつも腰掛けている椅子の場所を折原に聞き、父の具合が悪いので、今日は自分が代わりに座るように言われてきましたので…と言って、クズ置き場に向かおうとするので、折原や工員たちは、俺たちがやっとくので良いよと止めようとする。

それでも、父から言われて来ましたからと言う高子は、セーラー服の上に持参のエプロンをかけて本当にクズ置き場に座ろうとするので、見かねた広子が歩み寄り、エプロンを借り受けると、自分がやってやるよと声をかける。

日米商事の社長さんですね?いつも父から聞いていますと高子が頭を下げるので、どうせ悪口だろう?と広子が苦笑すると、ちょっとばかり口は悪いけど、根は良い奴だって言ってますと高子は答える。

その日、広子は高子を手伝って、リヤカーを押して帰宅すると、家の中で、ラジオの株式市況を聞いていた六さんが出迎え、咽を腫らしちまったもので…と、やって来た広子に、高子を手伝ってもらった礼を言う。

広子はそんな六さんに、今日は文句を言いに来たと言い出し、年頃の娘にあんなことをやらせるなんて、ちっとは娘心ってものを考えてあげなよと注意する。

六さんは、自分の仕事を見せるのも良いかな?と思ったのだが…と言い訳するが、夢を壊しちゃ行けないよ。あの年頃は一番夢見る頃なんだから…と広子は引かない。

あんたは1週間でも10日でも、休んで身体を直しなよ、その間は私がやってやるよと広子が勧めるので、どうしてそんなに親切にしてくれるんだ?と六さんは笑顔で聞く。

すると、広子は、あの娘が好きだからさと答え、最近、貸し倒れが多くて、日米紹介もやっていけないのよと愚痴をこぼす。

それを聞いた六さんは、おれが融資してやろうかと言い出したので、どうしてそんなに親切なのさ?と今度は広子が聞き返す。

事によると、惚れているのかもなと六さんは笑うので、惚れている相手に1000円出すなんて言わないよと広子が膨れると、六さんは、台所で紅茶を入れていた高子に聞こえる!と口止めする。

すると、台所にいた高子が、聞こえないから大丈夫よ。プロポーズしたら?などと言って来たので、六さんは相好を崩し、娘もああ言っているし、どうだろう?と広子に迫る。

高子が紅茶を運んで来ると、長男の武夫が帰って来たので、広子は、高子には弟がいたことを知る。

しかし、その後、信夫、行夫と続けて帰って来たので、4人も子供がいる事を知り、広子は唖然とするが、外を通りかかった焼き芋やから武男が買って来た焼き芋を、行夫が真っ先に手渡してくれたので、広子は思わず微笑んでしまうのだった。

翌朝、早足でさっさと登校していた高子に追いついて来た健一が、どうして自分を避けるのか?と迫るので、身分が違うのよと高子は拒否する。

そんなのつまんない劣等感だよと健一が呆れると、例え劣等感でも、私は気になるのと高子は譲らない。

社長の息子がいけないんだったら、僕が裸一貫になれば良いんだね?あんな会社、潰れてしまえば良いのに!僕が労働者になって働けば良いんだろ?と、高子と共に土手に座った健一はすねる。

信夫と行夫が、川沿いにある土山でロッククライミングごっこをしていると、下を広子が通りかかったので、家に来てくれたと思い込んだ2人は、遊びを止め、広子に駆け寄って来ると、広子の持っていた鞄を持ってやると言って奪い取る。

しかし、近くにある日立の寮に向かっていた広子は慌ててその鞄を取り戻そうとするが、2人の子供があまりにも、自分を家に連れて行きたがっていたので、その気持ちに打たれ、2人を遊園地に連れて行ってやる。

その帰り、2人の子供は映画も観たがるが、姉さんが心配しているからと言い聞かせ、高子が待っていた河野家に連れて行く。

高子は、笑顔で広子を出迎えると、近くで釣りをしていた武夫も呼び寄せる。

家に上がった広子は、壁にかかった「今日1日恐れず…」などと書かれた額を見つける。

自宅脇での物置で、紙くずの整理をしていた六さんの元にやって来たのは、人事課の吉川だった。

来月末まで返す約束だった借金が、会社の状況が悪くなったので、返せそうにもないと言いに来たのだった。

そこに、同じく、六さんから借金している佐藤もやって来るが、吉川がいる事を知ると、又後でと言いながら帰って行く。

六さんの紙の整理を勝手に手伝い始めた吉川は、半年前、会社の拡張を狙った安井社長が、大和金融から1千万借り受けたのだが、その大和金融から印刷機械を押さえられており、安井社長は、今、金策に飛び回っている打ち明ける。

その時、高子が、夕食が出来たと知らせに来るが、六さんが黙ったままなので、何事か?と目を丸くする。

翌日、安井印刷では、このままだと人員整理があるかも…と、東野たち工員が不安そうに噂しあっていた。

吉川も力無さげに出社して来るが、安井社長からみんなを集めてくれと声をかけられる。

それを伝え聞いた東野らは、首かもしれないと、おどおどしながら、社長室の前に集まって来る。

社長は、主立ったものだけで良かったのだと言いながら、社長室に数人招き入れると、みんなも聞き及んでいるだろうが、この会社も機会を押さえられており危ない状況になっているが、会社を明け渡すまで1週間の猶予を頼んであると実情を打ち明ける。

その時、あのトレードマークのヤギひげを剃り、珍しくスーツ姿の六さんが受付にやって来て、社長にお目にかかりたいと名刺を差し出す。

それを安井社長に伝えに来ると、河野六左衛門と係れた名詞を観た安井社長は、知らない人だが、仕事の話と言うのなら、お目にかかろうと言って、部屋に通させる。

その名前を聞いた吉川や東野たちは、六さんの事ではないか?とざわめき出すが、社長室に入って来たのは、まさしくその六さんだった。

六さんは、人払いを頼んだので、社員たちを部屋の外に出し、1対1で応対した安井社長だったが、自分はここに出入りさせてもらっているくず屋ですがと自己紹介した後、ぶしつけですが、今この会社はお金に困っておられるとか?と六さんは切り出す。

安井社長が1000万は必要なのですと素直にそれを認めると、私が融資しましょうと六さんが言い出す。

それを聞いた安井社長は、驚きのあまり持病の喘息の発作を起こしかけたので、慌てた六さんは、部屋の外で固唾をのんで事態を見守っていた社員たちに水を汲んで来させる。

安井社長が薬をその水で飲み干して少し落ち着きを取り戻すと、自分は元海軍の軍人で、終戦後、妻と娘たちを養うために、西田さんのお世話になりくず屋をやらせて頂いて来たので、その稼ぎの一部を株式に投資して来た。この際、お宅へご恩返ししたい…と六さんは説明する。

御条件は?と安井社長が聞くと、株式1000万円分譲って頂きたいと六さんは頼む。

それを聞いた安井社長は、私はあなたに惚れました!と感激し、この会社をやってくれませんか?私に代わって、社長をやってもらいたい。株式投資にそんな才能をあるのでしたら、この会社をやって頂きたいと言い出す。

しかし、自分にはそんな度量はありませんと固辞した六さんは、銀行小切手で用意して来た1000万を安井に手渡すと、ご再考願えませんか?と食い下がる安井社長に、任じゃありませんからと、頭を下げて部屋を出ようとする。

その時、また発作を起こしかけ、薬に手を延ばした社長を見かねた六さんが、又、社員に水を持って来させると、社長室の前でその水を受け取り、再度薬を飲んだ安井社長は、そこに集まっていた全社員に向かい、報告するが、この河野さんが社長になられる事になった!といきなり宣言する。

それを聞いた吉川や東野が一様に、六さん、良かったな!と皆破顔し、安井社長が、みんなに一言お願いしますと振って来たので、もう断りきれないと覚悟を決めた六さんも仕方なく、よろしくお願いしますと頭を下げるしかなかった。

その後、折原を呼び止めた六さんは、今まで正しい事を言ったのはあなた1人です。これからも、末永く私の右腕になって下さいと頼む。

そこに、偶然やって来た西田も、おめでとう!と六さんを祝ってくれる。

翌朝、河野家では、いつものように、子供たちが朝食もそこそこに、登校して行っていた。

最後に、高子が、迎えに来た女友達と一緒に登校すると、先をさっさと歩いていた健一を観て追いつき、どうして待ってくれないの?と文句を言う。

すると、土手の脇に高子を呼んだ健一は、君はかまわないでって言うけど、付き合えなくなったんだよと説明する。

君のお父さんは大きな会社の社長さんだし、僕の父は、その社長のお情けで暮らしている身分だから等と言う。

境遇の違いなんてどうでも良いのよ、そんなのつまんない劣等感よと高子は呆れるが、それでも僕は気になるから仕方ないじゃないかと健一もムキになる。

その間、クラスメイトたちが、遅れるぞ!と2人に声をかけて登校して行くが、2人の話し合いは止みそうにない。

一方、六さんの家の前には、印刷会社からの迎えの高級車がやって来て、家の中から出て来たスーツ姿の六さんを、ご近所の住民が恭しく頭を下げて出迎える。

六さんは、車の後部座席に乗り込むと、会社に向かうのだった。

その頃、まだ議論しあっていた高子と健一だったが、チンドン屋が通り過ぎるのに気づくと、ふと我に帰ったのか、おい!遅刻するぞ!と健一が慌てて走り出すと、高子も、本当だ!と気づいて、その後を追って学校へと向かうのだった。