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座頭市海を渡る

シリーズ第14弾。

「海を渡る」と言っても、四国へ渡るだけである。

しかも、本格的な四国ロケをしているかどうかも定かではなく、メインとなる舞台は、どこにでもあるような普通の村である。

しかし、海の向こうと言う響きに触発されるように、西部劇風の設定になっている所が面白い。

クライマックスは「真昼の決闘」を連想させるような展開になっている。

地方を舞台にしているせいか、全体的にのんびりした展開で、サスペンスフルなアクションシーンは少ない。

闇夜に眼が見えない市にわざと提灯を持たせ、それを目印に襲撃するなどと言うアイデアも、すでに出ている手法の繰り返しである。

その代わり、市と市が斬ってしまった男の妹とのほのかな恋慕の情と、農民たちのずる賢さをじっくり描いている。

一見、農民たちが争いを嫌いだと言う割りに、腹の中では、事なかれ主義で人任せで虫が良い、嫌な人間たちと言う風にも観える。

だが、農民たちのそうした姿を批判的に描いているように観えて、実は、意外と肯定しているようにも観えないではない。

確かに娯楽映画として考えると、百姓たちが立ち上がり、市と一緒に藤八たちに立ち向かう…と言う風な展開になれば、「七人の侍」風になり、痛快だし、面白く感じることは確かだろう。

しかし、リアルな感覚で考えれば、この映画の中の農民のようにするのが普通だろう。

一時の勢いで戦いに参加し、殺されたあげくに、農家の男手がなくなったりしたら、その家全体が悲劇に見回れることになる。

貧しい時代、近所の誰が、働き手を失った家族を助けてくれると言うこともないだろう。

この作品では、三島雅夫が、いかにもずる賢く嫌な感じの名主を演じているので、農民たち全体も嫌なイメージに観てしまいがちだが、農民たちの姿勢は正しいようにも思える。

あなたたちは出て来なくちゃいけないの!と呼びかけるお吉の方が無責任なのである。

なぜ、彼女はそんな無責任な正義感を振りかざすのか?

それは、彼女に守るべき家族がいないからである。

彼女に惚れている安造は、彼女の無責任な呼びかけに応じてしまったばかりに命を失い、母親たちの暮らしを閉ざす結果になっている。

市の、安造さん、あんたは死んで行きたんだ!と言う呼び掛けも、何だか、きれいごとを語っているだけのような気がする。

その辺、脚本を書いた新藤兼人氏の意図がどの辺になったか、解釈は色々出来るはずである。

市を慕うようになるお吉を演じている安田道代は、北野武版「座頭市」で、やはり、市が居候する農家の老婆役を演じた大楠道代の若い頃である。

つまり、彼女は、勝新とたけしの二人の座頭市映画に出ている事になる。

この作品の頃はピチピチの娘時代。

キリッとした勝ち気な顔だちと、まだあどけなさが同居したような初々しさが魅力。

このシリーズお馴染みのお色気シーンとして、今回は、この安田道代が泳ぐシーンがあるが、健康的で嫌らしさはない。

むしろ、犬かきを披露する市のユーモラスな泳ぎの方に目を惹かれるくらい。

その安田道代に好意を抱いている安造役の東野孝彦も、この頃はまだ痩せているせいか、角度によっては、驚くほど、父親(東野英治郎)そっくりな容貌である。

人を喰ったような地方の悪役を演じている山形勲や、にやけていて小狡い役柄を演じさせたら天下一品の三島雅夫等、適材適所の配役で、安心して観ていられる娯楽作品に仕上がっている。

達者な役者が出ている中、主人を失って、市に付いて来る馬もなかなかの名演技だし、風呂に入っていた市が、お吉が持って来た果たし状を受け取り、あたかも目が見えるように受け取り目を通すが、結局「読めないね…」と呟く辺りのギャグ感覚は、「兵隊やくざ」の大宮のようでおかしい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1966年、大映京都、子母沢寛原作、新藤兼人脚本、池広一夫監督作品。

帆掛け船が水平線に浮かぶマットアートを加えた海辺の風景にタイトル

船上のセットを背景にキャストロール

四国へ渡る船の中で、一人の男(田中邦衛)が面白おかしく話をしている。

それを興味深そうに聞いている金比羅参りの旅人たち。

座頭市(勝新太郎)は、一生懸命握り飯を頬張っている。

何でも、逢阪の関で、17、8の娘が乗った駕篭かきが、赤鬼のような雲助だったので大ピンチ…というような話。

あまりにも勿体ぶって、その男が話を途中でじらすので、客たちが先をせかすと、その雲助の前に立ちはだかったのは自分だと言い出す。

あまりにも意外な展開に、聞いている客たちが半信半疑の顔をすると、男は、自分は本当の事を話していると自慢げに続けようとする。

すると突然、大波を横っ腹に受けた船が大きく傾き、客たちは一斉に転がりはじめる。

座頭市(勝新太郎)などは、横に座っていた女の股の間に顔を突っ込んでしまう始末。

お客様、相済みません、突風をまともに受けまして…と船頭が詫びに来るが、金比羅参りが危うく地獄巡りになる所だった!などと客から罵声が飛ぶ。

その最中、一人の男が、財布を掏られたと騒ぎ出す。

掏ったのはその男だ!観たんだ!と名指しされた男(千波丈太郎)は、開き直ったように、その場で裸になるが、そこに財布が隠してあったのを見つかると、その掏りは、恐れ入るどころか逆に威丈高になる。

そして、みんなが観ている中で、堂々と奪い返された財布を又奪い取ると、文句があるかと、客たちの頭をその財布で殴りはじめるのだった。

もちろん、先ほど、自慢話をしていた男も、隅で震えているばかりで何も出来ない。

あまりの剣幕に客の中にいた子供が泣き出す始末。

その男が脱いだ着物を着ようとすると、目の前に座っていた市が笑い出す。

お前さん、堂々と人のものを取んなさったね?しかも威張ってなさる。立派だね。その財布、返してやっておくんなさいなと市は頼む。

このやろう!メ○ラ蛇に怖じずとはお前のこった!と言いながら、市の頭を殴ろうとしたスリだったが、市が素早く身を交わし、刀で斬りつけて来た男は、次の瞬間、自分の左腕先がなくなっていることに気づく。

スリの左腕は、照明用の行灯の枠にひっかかっていた。

お前さんはスリだ。金を他人様から取る玄人だ。玄人なら玄人らしく、もっと上手にやりましょうや…、そのくれえの腕で一人前のスリだなんて威張っちゃいけねえや。もうちっと腕を磨いて出直しなさいな…とおだやかに言い渡し、取り戻した財布を持ち主に差し出す。

客の間から、その一部始終を凝視していた男新造(守田学)がいたが、眼の見えない市にその事が気が付くはずもない。

四国金比羅神社の石段の下に着いた市は、長い石段をゆっくり上り始めるが、そんな市を、先ほどの船中で見張っていた新造が近くから凝視していることには気づかなかった。

一歩一歩登って行きゃ、知らない間に付いちまうだろう…などと言いながら、市は石段を上り始める。

頂上の神社にたどり着いた市は、金比羅さん、あんたは神様だから分かって頂けると思いますが、聞いてやっておくんなましな。私は斬りたくて斬った奴は1人もおりません。

何で斬っちまったのか自分でも分かりません。

教えてやっておくんなましな。どんな悪いやろうでも、死んじまえば仏様でございますね?

でございますから、その菩提をともらうために、四国八十八ヶ所を廻るつもりでございます。

ですから、ねえ金比羅さん、これから人を斬るようなことにならねえように一つお願い致しますと願をかけるのだった。

しかし、旅を始めた市の動きを山頂から馬に乗って監視していた男が、その後も追跡し、橋の脇の川を馬で先に渡り、馬から下りると、背中に背負っていた刀を抜いて、橋の反対側から市に近づいて来る。

市は、あんた、座頭市だな?と自分を名指しして来た栄五郎(井川比佐志)と名乗った男が、すでに刀を抜いていることに気づいていた。

どんな訳か知りませんが、止めときなさい、お止めなさいと言い聞かすが、栄五郎は容赦なく斬り掛かって来る。

避けた市と栄五郎は、共にバランスを崩し川に落ちると、水中で市が栄五郎を斬る。

市は栄五郎の遺体を岸に引き上げて来て、栄五郎さん、お前さん、一言あたしに言わなきゃいけない事が残ってるんじゃないかい?何故、俺を斬ろうとしたんだい!と呟く。

しかし、既に死んでいる栄五郎が答えるはずもなかった。

そこへやって来たのが、男が乗って来ていた馬。

主人の遺体の側に来て、その死を確認したのか、悲し気に嘶いたその馬は、主人栄五郎の死体を川に流し、悲しそうに見送っていた。

さらに、その馬は、市が歩き始めると、その後を付いて来る。

主人を殺した市を恨むように後を付いて来たその馬は、「切幅宿」と書かれた道標の所でいなないたので、俺に用かい?と市は振り返る。

すると、馬はいななきながら、二叉路の片方の道を進んで行く。

今度は市が、その馬の後を歩く事になる。

馬に近づいた市は、俺はここで別れるぜ。俺はお前さんに付いて行きたくないんだと話しかけるが、馬はそのまま歩くので、仕方なく市も付いて行くしかなかった。

やがて、馬は一軒の家に入って行く。

土間に入った馬がいななくと、家の奥から1人の娘が姿を現す。

1人で戻って来たの?と馬に話しかけたその娘に、お前さん、栄五郎さんの?と市が問いかけると、

すると娘は、それに乗って出かけたはずの兄が、目の前に入る男に殺されたと瞬時に悟り、奥の部屋から刀を持って来ると、にわかにそれで市に斬り掛かるのだった。

市はそれを避けなかった。

右肩を斬られてその場に踞った市を見た娘は、何故、避けないの!と驚く。

市は、お吉(安田道代)というその娘の家で、傷の看病を受ける事になる。

こうなると思ってた…、あなた、何故、斬られたんです?私を斬ろうと思えば斬れたはずなのに…と傷の手当をしながら聞くお吉に、何故だか分からないけど、お前さん観ている内に避ける気がしなくなっちまったんだね…と市は答える。

見る?見えるんですか?あなた…とお吉が聞くと、いや…、見えやしないけれど、分かる…と市は言う。

そんなお吉の元へ、心配した近所の農民、安造(東野孝彦)が様子を見に来る。

さらに、馬に乗ってやって来たカギ松(伊達三郎)らが、栄五郎は帰って来たかとお吉に聞きに来る。

戻って来ません!とお吉が答えると、親分の所にも戻って来ない…、栄五郎の奴、ずらかりやがったかな…?等とカギ松が言うので、兄さん、そんな卑怯者じゃありません!とお吉は言い返す。

栄五郎が戻ったら、親分の所へ来るように言ってくれとお吉に言うと、カギ松は仲間たちと馬に乗って帰って行く。

聞いたでしょう?兄さんは、山向うの荒駒の藤八という男に頼まれて、あなたを錐に行ったんですよと奥の部屋に隠れていた市にお吉は教える。

兄はあなたに殺されたかったんです。みんな、奴らの思うつぼにハマったんですとお吉は言う。

そんなお吉の様子を、一旦外に出てうかがっていた安造が家に入って来る。

兄さん、その藤八の言うことを聞かなくてはいけねえ理由でもありなすったのかい?と市が聞くと、兄は藤八の計画を知って、恨みも何にもないあなたを斬りに行ったんです!30両の金のために!とお吉は悔しそうに言う。

あんた!栄五郎さん、どこで斬った?と安造が聞いて来たので、お嬢さん、その人は誰ですか?と市は聞き返す。

安造は、おら、百姓だ!と答えたので、その藤八ってのは、どんな男です?と市は尋ねる。

山向うの谷を押さえてるごろつきだよ!と安造は吐き捨てるように答え、牧場には馬が5~60頭はいます。暴力をふるい、欲しいと思うものは何でも手に入れる男なんです!とお吉も付け加える。

その藤八があたしにどんな恨みがあるんです?あたしがこっちに旅をしてるってのも、どうして知ったんです?と市は不思議がる。

カギ松たちが住処にかえっ来ると、藤八(山形勲)は、入口から入って来たカギ松たちに向け、弓を放ち、栄五郎は市にやられた、思った通りだ…と言う。

座頭市は関東はおろか、上方まで名の知れ渡った居合いの名人だ。そう簡単にやられる相手じゃない。この客人を観ろ、市に弟をやられた仕返しに、四国くんだりまで市を付けて来た…。だが付けて来ただけよ。手も足も出やしねえ…、あいつが俺に市を斬ってくれって訳だ…と藤八が嘲った客人と言うのは、船の中で市を監視していた新造だった。

俺は引き受けて栄五郎にやらせた。栄五郎は今朝から市を付けていたはずだ。矢切橋まで付けている。いずれにしても昼までにはこれは決まる。だが奴は戻って来ねえ。奴はやられたんだ…な?市に奴は斬られたんだ…と藤八は得意げに子分たちに言い聞かせる。

親分の思う通りになりましたね…と禿頭の子分が答える。

そうだ、思う通りだ、俺は何でも思う通りにやるのが好きだ!そのために俺は生きてる!と藤八は言い、酒を飲み始める。

座頭市はどこに行ったんでしょう?と新造が聞く。

座頭市はどこへだって行くさ。栄五郎を斬ってしまえば、今のところはそれで良いんだと藤八は言う。

一発、芹ヶ沢に押し掛けるか!と禿頭の子分が槍をしごいたので、まあ待て!慌てることはねえと藤八が制する。

市は熱を出し寝込んでいたので、お吉が濡れ手ぬぐいを市の額に乗せ、看病を続けていた。

すいませんね、お嬢さんと市は床に寝たまま礼を言う。

すまないのは私の方です、あんなことをしてしまって…とお吉も詫びる。

私はあなたの兄さんを斬った仇だ。あんたが斬るのは無理のないことだよ…と市は言う。

兄を、私は止めたんですけど…、聞けない所まで兄は追い込まれてしまって…。たった2人きりの兄妹なんです。私、1人になってしまいました…と、お吉は縁側で蚊取り線香を焚きながら寂し気に言う。

兄さん、根っからのやくざじゃなさそうですね?…と市が聞くと、うちは、この芹ヶ沢では一番古いうちなんです。父が生きているときは使用人もたくさん使って、大きな百姓をしていました。

でも父も母も死んでしまい、兄さんが博打で身を持ち崩して…、田も畑もみんな人手に渡ってしまったのです…とお吉は説明する。

この辺りの芹ケ沢と呼ばれる土地は、もともと、お吉の家の田畑だったのだが、兄が博打で身を持ち崩して、名主の権兵衛(三島雅夫)に取られてしまい、今はスイカ畑になってしまい、藤八は、その土地を欲しがっているとも。

あげくの果てに、名主の権兵衛から30両の金を借りてしまい、それを返すために藤八から借りるようなことになったんですとお吉は言う。

そうですか…、そう言う訳があったんですか…と市は床から答える。

ああ良い月ですわ…、十三夜かしら…と夜空を見上げたお吉は言うので、市は見えないながら床から起き上がってみる。

藤八に取って、兄がここにいることは邪魔になったんです…と、翌朝、市の右腕の包帯を代えながらお吉は続ける。

それは…、どうして邪魔だったんです?と市が聞くと、藤八は、芹ヶ沢のこの土地を自分のものにしたいんですとお吉は言う。

この辺の人たちは、藤八の言うがままになって来たんですけど、兄だけは、悪いものは悪いと、藤八に盾を突いて来たんです…とお吉が言うので、栄五郎さん、良い男だったんですね…と市は感心する。

欲の皮の張った奴ですね…と市は答える。

ええ、しようのない兄さんだったけど、私は兄さん、尊敬していましたと嬉しそうにお吉は言う。

藤八が欲しがっているその土地と言うのはね、とっても良い土地で、以前は私の家のものだったんですよ…、今は権兵衛の水瓜畑ですわ…と、お吉は市に朝飯を振る舞いながら続ける。

村の一連の収入のほとんどがその土地から上がるんです。そこを取られてしまったら、この村の人たちは暮らして行けなくなるんです。否応なく藤八の言うことを聞かなくてはいけなくなるんですの…とお吉は言う。

まだ腕は痛みますか?とお吉が聞くと、もう私の方はすっかり良くなりましたと市は旨そうに飯を平らげ答える。

良かった!と喜んだお吉に、お吉ちゃんの腕じゃ、あんまり斬れませんや…と市は冗談で返す。

私ねぇ、血が吹き出たときは、気絶しそうになっちゃった!とお吉も笑う。

私もあの時にはね、ちょっとくらくらっとしました…などと市も調子を合わせる。

私ねえ、弱虫のくせに、すぐ、かーっとのぼせちゃう性分なのとお吉は言う。

私はね、その藤八って男に一度会ってみたくなっちまったんですがね…と市は言い出す。

そんな村に、藤八一味が馬で乗り付けて来る。

おい、いるか?とカギ松 が藤八を従えてお吉の家に入って来たので、他所のうちに入るときは、こんにちはとかごめん下さいとか挨拶がいるんじゃないですか?と言いながらお吉が応対に出ると、申し訳ない!今後はそうすることにすると、藤八はからかうように頭を下げ、答える。

お前さんはお吉さんだな?驚いたな~…、良い女だ…と藤八が喜ぶと、お前さんが藤八さんだね、どんな男かと思ったら、馬糞の匂いがぷんぷんしそうだとお吉はやり返す。

俺は馬喰の親分だ。馬糞の匂いがするのは当たり前だと笑った藤八は、どうでぇ?この匂いは案外良いぜ。抱かれてみる気はねえか?と藤八はお吉に迫る。

どっちを向いて行ってるのか知らないけど、私ゃ、馬糞の匂いがラッキョより嫌いだよ!とお吉は言う。

ラッキョより落ちちゃ仕方がねえな~…と、藤八は子分たちを見回し笑う。

ところでだ、お前さんの兄ちゃんは30両のカタに座頭市をばらす約束をした。成功したら30両は帳消し、失敗しても帳消しという良い条件だ。で、予想通り失敗した。

…と言う訳だ、お吉っぁん、栄五郎が死んでしまったんだから、これからはこの芹ヶ沢の縄張りは俺が支配する、それを念のために言いに来たんだと藤八が言うと、その話は、私の後見人にして下さいとお吉は言い返す。

後見人?と藤八が怪訝そうに聞き返すと兄さんのお友達ですわとお吉は平然という。

で、そのお友達はどこにいるんだい?と藤八が聞くと、こちらにいます。この方ですわ…と紹介したのは、囲炉裏の前に座っていた座頭市だった。

一緒に、藤八に付いてきた新造が、驚いて藤八の袖を引くが、藤八はすぐにそれが噂の座頭市だと気づく。

あんた、座頭市さんで?と藤八が聞くと、私は座頭の市と申しますと市は丁寧に答える。

お前さん、栄五郎を斬りなすったか?と藤八が聞くと、私が栄五郎さんを?と市が恍けたので、じゃあ、どうしてここにいなさる?と藤八は聞く。

栄五郎さんとは以前から友達でございますから、私、八十八カ所巡りの途中にちょっと寄せてもらいました。栄五郎さんは三日前に旅にでなすったんですけども、留守をくれぐれも頼まれまして。ええ、近所に馬糞臭え悪い奴がいるから、そいつにはよくよく注意しろと、そうおっしゃいまして…と市はへらへらと答える。

俺がその馬糞臭え藤八だ!と藤八が答えると、えっ、あなたが…、その馬糞臭え藤八さん!こりゃどうも…、失礼をば致しました…と笑いながら市は会釈する。

今日からはここは俺が支配するからな!留守番のお前に良〜く言っとくぞと藤八が良い聞かせると、あの〜…、支配をするって、何を支配するんです?と市は聞き返す。

もちろん、この縄張りだよと藤八が言うと、ああ、この辺にず〜っと、縄なんかお張りになる?と市は空っとぼける。

この俺がどう言う男か、その内たんまり分かるだろうが、ちょっぴり触りを言っとくとな、つまりは、何ごとも俺の命令で行われると言うことだ!分かったか?と藤八は市を睨みつけながら言い聞かす。

分かりました。するってえと、あなたは水瓜畑を狙っているのでございますね?ろ市が念を押すと、その通りだ。お前は頭の回転は良い方だな?と藤八は答える。

ええ、回転は良い方なんで…と、市も笑って答えると、ところで、親分さん、あの水瓜畑は、名主の権兵衛さんの持ち物でござんすね?そんなことは構わないんでござんすか?と確認する。

ああ構わねえ。俺の趣味はな、こうしたいことをこうすることだ。良し、お前の目の前でそれを見せといてやろうと言い出した藤八は、一緒に来い!と市に命じる。

良いか、分かったな?あの土地はこれから俺が作るぞ!と、市とお吉を連れ、権兵衛の家にやって来た藤八が権兵衛に言い渡すと、まあまあそう急に…、私たちとしましてはな…、つまりその〜…、何と致しましてもですな…、そうそう…、水瓜の初物が採れましてな…、今年は出来が良いようですわい。あれを観て下さいなどと、当の権兵衛はヘラヘラ笑っているだけで、取りつく島もない。

俺はな、40軒ばかりの百姓を支配しておる。俺に支配されるようになってから百姓どもは安心した顔をしておる。つまりこういうことだ。力のねえ弱い奴は、力のある強い奴に支配される方が幸せなんだ…などと藤八は言い始める。

弱い者も1人でいると不安なんだ。分かったかね?いずれ、この芹ヶ沢も俺が支配してやる!良いな!と藤八は権兵衛に命じる。

それでも権兵衛は、まあ、そう言うことはよくよく相談致しましてな…などと笑うだけ。

何ごとも、物事は話し合いと言うものが肝心でしてな…とへらへら権兵衛が言うので、話し合いは俺は大嫌いだ!俺に反対のものは俺と戦う以外にはないんだと藤八が言うと、私は争いごとと言うのは嫌いでして…と権兵衛はのらりくらり笑いながらごまかす。

俺はな、手前の話を聞いているとぶん殴りたくなるんだ!俺の話は分かったろう!帰るぞ!と藤八はいら立つ。

まあまあ、せっかく来て頂いたんだから、水瓜でも一つ、今年は肥やしを工夫致しましてな…、大きい奴が採れましたわい。まあ、味をみて下され…などと権兵衛が引き止めるので、藤八の禿頭の子分が、槍でそのスイカを投げ付けるや、権兵衛の前に転がったスイカには、藤八が放った矢が刺さっていた。

驚いた権兵衛が、これは見事な御腕前ですな〜と冷や汗をかきながら褒め、まあ一つ食べてみて下され、良い味をしておりますわいと言いながら、そのスイカに触れようとすると、水瓜はいつの間にか4つに切れていた。

こりゃ、どうした訳じゃ!水瓜が四つに切れておる!と権兵衛は腰を抜かすが、藤八は、背後に座っていた市を睨みつける。

このすごい腕を目の当たりにしたお吉は、たちまち市にぞっこんになる。

自宅に戻って来たお吉は、後から入って来た市をわっと脅し、私だって驚いたんですもの…、でも凄いわね、市さんって…と、お吉は喜ぶ。

お吉っちゃん、あたしが斬ったのが見えたかい?と市が聞くと、ううん、でも感じちゃった!あなたの横顔を観て、あなたが斬ったと思ったのとお吉は答える。

本当に凄いわね〜、藤八の奴、びっくりしてたわ〜とお吉は市に寄り添って来る。

すっかり客人扱いになり、夜、庭先で入浴していた市は、嬉しそうなお吉が熱い湯を何度も入れてくるし、若い娘の前で出るに出られず少し参っていた中、あんた、本当に長湯が好きね〜等と言われたので、あたしゃメ○ラでも、お前さんはメアキ…、ちょっと出難いやと言うと、そうか!と気づいたお吉はその場を離れる。

その時、馬のひずめが近づいて来て、玄関戸を叩く音が聞こえて来たので、市は緊張する。

馬のひずめが遠ざかって行った後、市さん!藤八から!とお吉が手紙を持って来たので、市は風呂の中でそれを読もうと拡げる。

読めないね!と言う市。

藤八の今までのやり方を観ると、力づくで己の欲しいものをみんな手に入れとるんじゃ…と、翌日、近隣農民たちを集めた権兵衛は説明する。

今はわしの土地を狙っとるが、いずれはこの芹ヶ差わを支配するつもりだろう。わしらは善良な百姓じゃから争いごとは好まんと権兵衛は笑う。

そこでじゃ、今、お吉の所にいる按摩の剣術使いな、おれは座頭の市と言うてな、やくざ仲間じゃ日本中に名が知られとる妙な男だそうじゃ。わしの考えとること、お分かりかの?と権兵衛は農民たちに聞く。

あの按摩に藤八を?と1人の老人が聞くと、そりゃええ、良い考えじゃと思うと、さすが名主さん!と農民たちは感心する。

悪い所の養生は按摩さんに限りますよと権兵衛は笑う。

俺の招待を受けて、良く来て下さったなと、藤八は、手紙で呼び付けた市を前に、丸ごと焼いた獣肉を切り分けてやる。

俺と栄五郎は随分長い付き合いで、可愛がったり面倒を見てやったりしたが、お前さんが栄五郎と友達とは、随分おもしれえ取り合わせだな?おまえさん、これからもずっと、お吉の後見人でいるつもりかい?と藤八は言う。

市は肉を嬉しそうに頬張って、適当に頷いていたが、そりゃそうですよ親分、座頭市はこれで結構助平なんですよ。お吉をものにするまでは、この土地にいますよとカギ松が口を挟むと、メ○ラは情が深いって言うからねと他の子分もからかう。

バカタレ!メ○ラが若い娘に惚れてどうなる?と藤八も調子づいて話に加わると、メ○ラだって男だから、女に惚れますよとカギ松が応じる。

お吉が別嬪かお多福か、メクラにゃ分かりゃしねえよと藤八がしつこく言うと、メ○ラは匂いで女の善し悪しが分かるんですよとカギ松が答える。

それじゃあ、お吉は良い匂いをしとるっちゅう訳かの?と誰かがげびた調子で聞き、子分たちは笑い出す。

酒を火に投げ捨てた市は、どうも喰い慣れないもんばかり喰わして頂いて、おおきに、ごっつぉう様でございました…と礼を言い、帰ろうとする。

何だ、今日は座興にお前の居合い抜きでも見せてもらおうと思っていたんだが、もう帰るのか?と藤八が声をかける。

ええ、皆さんの話を聞いているうちにね、すっかり眠くなっちまったものですから…と市は笑って答える。

一日中目をつぶっていて、まだ寝足りねえのか?と藤八がからかうと、なあに、お吉の匂いを嗅ぎたくなったんじゃろと子分が混ぜっ返す。

子分たちがみんなで馬鹿笑いをする中、市が塒を出ようとすると、市!何も慌てて帰ることはありはしねえよ。匂いだけなら逃げやしねえ。どうだ?俺と博打をやらねえか?と藤八が声をかけて来る。

ええ、博打は私も目の根恵方でございやしてね…と、入口の前で立ち止まった市が振り向かずに答える。

俺の博打は命のやり取りだぞ!と藤八は念を押して来て、子分たちはめいめい刀を手に取り出す。

へえ、博打は身体を張るに限りやすね…と、子分たちに囲まれた市も落ち着いて答える。

いくら張る?と藤八が聞くと、栄五郎さんの香典代わりの30両…と市が答えたので、おめえ、やっぱり栄五郎を斬ったのか…と藤八は頷くと、気に入った!と叫び、巾着袋を市の足下に放ってやる。

市は杖で、その巾着袋を足下に引き寄せる。

その時、藤八は矢を放つが、市は居合い刀を縦に構え、それを真っ二つに斬り裂いてしまう。

なるほど!世の中には偉い男がいるもんだ。これからもずっとこの土地にいてくんなと感心する藤八は、ええ、ずっといるつもりでおりやすと答えた市に、おお、夜道は物騒だ、提灯を貸してやんなと子分に命じる。

それを受け取った市は、親分さん、メクラに提灯、これは随分皮肉でございますね…と笑う。

な〜に、向うから来る奴の目印になるからな…とうそぶく藤八。

おおきに、ごっつぉうさまでございましたともう1度挨拶をした市は、提灯片手に入口を出て行く。

藤八は、客人!と新造に呼びかける。

今の俺の扱いが分からねえのかい?俺は客人に花を持たせてえんだ。闇夜に提灯、目をつぶってたって斬れるぜ。市を斬ったら、奴が持ってる30両、そっくりそのままくれてやらあ…と焚き付ける。

親分!ありがとうござんす!と礼を言って出て行く新造。

おい、5〜6人、客人について行ってやれと、子分たちに声をかける藤八。

藤八が付けてくれた助っ人と共に、藤八の名が入った提灯を目印に斬り掛かった新造だったが、とっくにそんな計略はお見通しだった市が、提灯の柄の部分にさらに長い枝をくくり付けて、自分の身体のずっと先の方に突き出していたので、空振りに終わってしまう。

その直後、提灯を捨てた市は笑い出す。

暗くなりゃこっちのもんだ。どっかからでもかかって来なと市は言い、あっという間に全員返り討ちにしてしまう。

そんなある日、歌を歌うお吉と市は近くの湖に遊びに来ていた。

先を歩いていたお吉が、前と同じように、木陰に身を伏せると市を脅かそうと身構えていたが、お吉ちゃん?どこへ行ったかな?などと探す振りをしていた市は、お吉が脅かそうと立上がった瞬間、逆にわっ!と言って脅かすと笑う。

市はそれでも、お吉ちゃん、ありがとう、兄さんを斬った私にこんなに親切にしてくれて…、お吉ちゃんが気を使って、あたしに兄さんのことこれっぽっちも口に出さない心遣い、あたしゃ、身にしみてありがたいと思ってるんだよと市がまじめに礼を言うと、お吉も、市さん…と絶句する。

水辺に降りて来た市は、お吉の前に膝まづくと、お吉ちゃん、こんなことで勘弁してもらおうなんて思っちゃいないけど、藤八から取った香典だ。これで栄五郎さんの墓の一つも立ててやっておくんなさいと巾着袋を差し出し頭を下げる。

ありがとう市さん!頂くわ!と感激して、市の手を握るお吉。

納めてくれますか?これであっしの気も晴れた…と安堵する市。

さ、これで過ぎたことは忘れましょう。ね?とお吉が言うと、市も、ええ、もう忘れました!と答える。

するとお吉は、きれいな水!私、泳ごうっと!と言い出すと、その場で着物を脱ぎ、湖の中に入ると泳ぎだす。

お吉が投げて来た着物の匂いを嗅いだ市は、俺も泳ごうかな…と呟き、一緒に湖に入ると、犬かきの要領で泳ぐのだった。

お吉は一瞬、市の姿が見えなくなったので廻りを心配そうに見渡すが、そのすぐ横に浮かび上がった市が、両手に魚を掴んでいたので笑い出す。

その夜、市は布団の中で、幼い頃、裸で泳いだ女の子との思い出を夢見ていた。

兄さんを殺した奴じゃないか!と言う男の声で、夜中市は目覚める。

藤八に酷い目に遭うに決まっているのお吉に、村を逃げ出そう。俺と一緒に海の向うに行こうと誘いに来ていたのは安造だった。

あんた、この芹ヶ沢を捨てるつもりなの!百姓のあんたがそんな所に言って何が出来るのよ!とお吉が反論すると、お吉ちゃんが災難に会うのを防ぐには、こうするしかないじゃないか!と安造は説得する。

しかし、お吉は、あたし、ここにいたいの…と答え、その声は寝床の市の耳にも届いていた。

市は苦しそうな表情になる。

翌日、藤八の使いとしてカギ松がやって来て、明日の昼までにお吉に親分の所へ来い。にょうぼうになるためじゃ。もう1つは、明日の昼までにこの家を空けろ。明日からは親分がこの芹ヶ沢を支配することになると一方的に言う。

さらにカギ松は、おい、座頭市!親分がお前が生きとるのは許さん、言うとったぞ!長い命じゃねえってなと奥に声をかけ、帰って行く。

お吉ちゃん、いよいよやってきましたね…と、キセルをくわえた市が言う。

いよいよ、藤八と勝負しなければならなくなったと覚悟したお吉と市は、権兵衛や他の農民たちの家に、藤八たちは明日の昼からこの村を支配すると言ってます。皆さんはそれで良いんですか?黙ってみて良いんですか?あの悪党共をのさばらせておく訳でもあるんですか?と、加勢を頼みに行くが、自分達は暴力は嫌いなんだ。力づくで戦うのは嫌なんですよと権兵衛はにやけた顔で答えるだけ。

でも、戦わなければ、この芹ヶ沢は取られてしまいますよとお吉も説得しようとするが、暴力を振るうものは暴力に滅びるんじゃなどと権兵衛は盆栽をいじりながら言う。

それはお言葉通りでしょうが、ここが奴らの手に渡ってしまうってえとお終いでございましょう?と市は丁寧に問いかける。

とにかくね、力づくの争いは好みませんと権兵衛は笑って首を振る。

他の農民たちも同じだった。

力づくで争うのは良くない。権兵衛さんの言われる通りじゃ、わしらは百姓じゃ。喧嘩は出来まへんの。わしらは弱い百姓じゃからの〜…などと異口同音に断わるので、お吉はいら立ち、弱かったら、どうして力を合わせないのよ!と叱る。

あんたは若い。年寄の考えとも違うと思うわ!弱い力でも、一つに集めればどんな相手にも向かって行ける!とお吉が味方にしようと出向いた安造までも、藤八とじゃ、いくら集まっても負けるに決まっとる!と言い、母親(小林加奈枝)と共に家に籠ってしまう始末。

意気地なし!とお吉は安造に叫ぶ。

市は、村人たちのずる賢さを身に染みて感じ、自分一人で敵に立ち向かう事を決意するのだった。

塒に戻って来たカギ松たちから、確かに伝えてきました。座頭市も奥にいましたと聞いた藤八は、いよいよ明日は対決だ!と言う。

久しぶりに一暴れできますわい!と禿頭の子分が張り切ると、村の百姓どもが、座頭市の味方して向かってくるようなことになったら面倒ですなとカギ松は案ずるが、いや、それはねえや、名主の権兵衛はずるい奴だからな…と藤八は苦笑いする。

その言葉通り、権兵衛は、座頭市さんにやってもらおうと笑顔で呟いていた。勝つか負けるかそれは分からん。勝ってくれれば儲け物じゃ。もし座頭市がやられても、こちらには関係ないから…、まあ、ゆっくり藤八と掛け合おうなどと、近所の農民たちと談笑していた。

その頃、お吉と二人で飯を食い終えていた市は、お吉ちゃん、人の困ってることと言ったら、何十年でも黙って観ていられるものだね。あたしだってね、人が困っていることなら、もう何十年だって目をつぶっていられる。もっとも私は見えないけど…と笑ってみせる。

でもね…、今度は何だか見えちまったな〜…、人間ってのは…、ねえお吉ちゃん、ふと向きさしならねえ所へ追い込まれちまうもんだね。

人間には良い奴と悪い奴がいる。

悪い奴は悪い顔して堂々と悪いことをする。けども、良い奴ってのは…、あんまりこう…、良い顔はしてるんだけれども、良いことはしねえもんだね…

お吉ちゃん、あたしのこの顔ってのは、どんな顔してるんだろね?と、市は自分の顔を触りがらか聞く。

良い顔してるわとお吉が真顔で答えると、そう…、じゃあ、良いことしなくちゃいけねえのかな?

どうせ藤八は、私がこの宿場のために身体を張ろうが、黙ってこの宿場を出て行こうが、放っといちゃくれねえだろう。

あいつらに勝つか負けるか知らねえけど、一つサイコロでも振ってみようか?と市が言うと、止めて!村の人たちは何にもしないで幸せになろうとしてるんだわ…とお吉が言う。

あんなずるい人たちのために命をかけることないと思うわ。

お吉ちゃん、俺はね、俺は人間ってものを信じていたいんだよ。だから、俺が賭けるこの博打を観ていて、この村の人たちが、まだずるさを持っていられるかどうか…と市。

あなたが死んでしまったら…、私はどうなるの?とお吉は聞く。

お吉ちゃん…、縁側でそう声をかけた市は、あのね、もし明日お別れになるようなことになったらね、ここに10両ばかりの金がある。これ使って、利根川のほとりに行ってもらいたいんだけどね。

海の近くに、ここと同じ芹ヶ沢って所があるんだよ。

その村に、お吉ちゃんと同じ名前のお吉って人がいる。

私はその人にこう伝えてもらいたいんだ。

市は随分人を斬ってしまった。金比羅さんにも言ったんだけども、斬りたくて斬った奴は1人もいねえ。が、血は浴びちまってる。随分身体中に浴びちまってる。

そのお吉さんのように無垢できれいで穢れを知らない人を、この市が汚しちまったんじゃ、神様の罰が当たるんだ。

なあお吉ちゃん、お吉ちゃんに市がこう言ってたって伝えてもらいたんだ…と市が良い終えると、

夕暮れの縁側に腰掛けていたお吉は、そのお吉ちゃんは、血を浴びたあなたが好きだと言うわ!と泣きながら振り向いて答える。

きっと言うわ…、きっと…と、市に近づいたお吉は答える。

ああ…、すっかり暗くなっちまったね…と、市は自分を見つめるお吉の視線を感じてか、顔を背けようとする。

翌日、藤八一味が馬を駆り立てて村に向かう。

その頃、市はわらじを履き、お吉の家を出ようとしていた。

お嬢さん、表に出ちゃいけませんよとお吉に伝え、市は出て行く。

表に出た市は、家に閉じこもり、こそこそ話をしている農民たちの声を聞いていた。

村の前まで馬でやって来た藤八たちは、村は無人のように人気がなく、座頭市だけが道に立っている姿を観る。

市!お前は1人だな?誰も味方はいねえようだな?おめえはたった1人だ。俺の勝ちだ!良し!勝負をつけよう!と、市に呼びかけた藤八は、相手はメ○ラだ。時を稼いでゆっくり仕掛けろと子分たちに命じる。

馬を降りた藤八たちが村の中に入って来て、市に近づく。

いきなり藤八が矢を放ち、それを避けた市が、横にいた子分たちを切り払って行く。

家の中では、お吉が必死に祈っていた。

市は、藤八の矢と子分たちの襲撃から懸命に逃げて行く。

それを、戸の隙間から観ていたお吉は外に飛び出すと、権兵衛の家の雨戸を叩き、手を貸して下さい!と呼びかけるが、権兵衛は家の置くで黙って立ち尽くしていた。

市は孤軍奮闘、

市さんはみんなのためにやってるんです!と、お吉は、他の家の戸も叩いて廻るが、みんな家の中から動こうとはしなかった。

お吉は、安造の家の戸も叩いて名を呼ぶが、母親が、安造!出て行くんじゃないよ!と家の中で止めていた。

市は、槍を使う禿頭の男と戦っていた。

市は、道に置いてあった荷車に足を取られてバランスを崩すが、荷車の反動を利用して大きくジャンプすると、空中から禿頭の男を斬り捨てる。

あんたたちは出て来なくちゃいけない!とお吉は安造に呼びかけていたが、その声に耐えきれなくなった安造は、刃物を持って家を飛び出す。

母親は、お前一人馬鹿を見るぞ!と制止しようとするが、家を飛び出した安造は、を廻っていた。

市さん!俺もやる!と言いながら、しゃがんでいた市に近づいた安造だったが、それに気づいた藤八が放った矢が安造の胸を貫く。

倒れた安造に、安造さん!お前さん、死んで生きたんだよ!お前さんをみんなが観ていたぜ!と呼びかける市。

その様子を見守る農民たち。

市は、藤八以外の子分たちを全員斬り捨て、それを合図に、権兵衛や村人たちが戸を開けて外に出て来る。

藤八!どうやらお前の負けらしいな…と市が呼びかける。

バカ!勝負はまだついちゃいねえ!俺は生きてるじゃねえか!と答える藤八

その藤八に歩み寄る市

藤八が矢を放ち、市の左腕を貫いたと同時に、市は踏み込み、藤八を斬り捨てる。

弓を斬られ、背中の刀を抜こうとした藤八だったが、抜き終えないうちに息絶える。

そんな市に駆け寄ろうとするお吉。

村を去って行く市の後を、馬に乗って追って来たお吉は、それに気づき微笑んだ市に、もう1度さよならを言いたかったのと言う。

そう…、さようならと答える市。

さようなら!とお吉が良い、馬も悲し気にいななく。

夕方、市は遠ざかって行く。