TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

座頭市鉄火旅

シリーズ第15作

市の仕込み杖の剣には寿命が来ており、後、1人斬ったら折れると、元刀鍛冶から予言されると言う話なので、市がその刀を振るうシーンは極端に少ない。

市は、その予言を教訓に、真っ当な生活に戻ろうとするが…

こう書くと、何だかアクションが少ない、つまらない作品ではないと思われるかもしれないが、これがなかなかの秀作になっているからこのシリーズは侮れない。

市は、刀を持たなくても、色々器用にできると言うことを見せながらも、悪党役の遠藤辰雄と須賀不二男が、これでもか!と言いたくなるようなあくどい罠を真っ当な商売をしている旅籠と、そこで働いていた娘に対して仕掛けて来ると言う展開なので、見ている観客としては、剣を持たない市はどうなる?どうなると?ハラハラドキドキ、やきもきして来るように描かれているのが巧い。

そのピークになるのが、刀鍛冶の仙造が斬られ、駆けつけた市が仕込みの場所を聞こうとした時死んでしまう場面で、観客も、画面の中の市と同じように、一体どうなるんだ!と焦ってしまう仕掛けになっている。

ところが、カメラが引いた絵になると、死んだ仙造の左手が、何かを指差しているのに観客は先に気づく。

ところが、仙造の死を悲しんでいる市にはそれが見えない。

この辺りのじらし加減は、「座頭市地獄旅」での、苦労してようやく手に入れた高価な薬の箱を落としてしまった市が、それを探しまわるが見つからない。

諦めかけた市のすぐ横に薬箱があるのを気づいている観客は、イライラしながら、市の絶望する姿を見つめていると言う場面に近い演出である。

市は、普段は勘が良く、あたかも目が見えているように周囲の状況を見分けることもあるが、こうしたちょっとしたことはやはり「見えない」のだ…と言うハンデを巧みに強調したサスペンス演出と言うべきだろう。

続いて、仕込みを取り戻した市に聞こえる仙造の声は、観客に、市の剣は後1人で折れるんだぞと警戒させる演出でもある。

そして、桑山が手にした新しい仙造の剣と市の折れるはずの剣がぶつかりあった結果、言葉通り、剣は折れ、柱に突き刺さる…

この辺の演出は、唸ってしまうくらい巧い。

ラストの立ち回りもアイデアに溢れており、市の居合いは世間に知れ渡っていると言う前提で、次々と市の弱点を突くような攻撃が仕掛けられて来る。

ヤクザの娘として育てられた気丈なお志津の頼みを、それまでお志津にどこかしら恋いこがれていたはずの市が、心を鬼にして厳しい口調で言い聞かす辺りなどの心理描写も心憎いものになっている。

東野英治郎、遠藤辰雄、須賀不二男と言ったベテランを始め、実力派のベテランたちがしっかり脇を固め、それに、正月映画らしく、当時のテレビの人気者だった水前寺清子や藤田まことが花を添える…

市の色々な面を表現しつつ、アクションはアクションで魅せる…

実に円熟した感のある、見事な娯楽時代劇になっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、大映、子母沢寛原作、笠原良三脚本、安田公義監督作品。

旅を続けていた座頭市(勝新太郎)は、カラスが何羽も低空を飛び回っているのに気づく。

その直後、杖の先に、倒れている男が引っかかったので、もし?どうなさったんで…と聞くと、足利の…正太郎だ…とだけ答えて、男は息絶える。

えれえ所に通り会わせたものだとぼやいた市だったが、又カラスが死体を狙って降りて来たので、居合いで斬って追い払うが、その途端、やなもん、斬っちまったな…と呟く。

タイトル

道ばたで、握り飯を頬張っていた市の耳に、遠くから聞こえて来る娘の歌声があった。

やがて、旅芸人一座の先導をしていた男が、按摩さん、邪魔だよと声をかけて来たので、立ち上がりかけた市だったが、足を踏み外して田んぼに落ちてしまう。

詫びのつもりか、市は、濡れた着物の代わりに、役者用の着物を着せてもらい、旅芸に日ざの荷車に乗せてもらうことになる。

先ほど歌っていた娘に、どこで小屋掛けするんですか?と市が聞くと、芸人娘のお春(水前寺清子)は、富田宿のお夷様の境内で正月中打つのだと言い、按摩さんはどこまで行くの?と聞いて来る。

市が、これから足利の方へ行こうと思っていると答えると、お春は、富田宿とはすぐ目と足の先だから、観に来てねと誘い、すぐに、市が眼が見えないことに気づくと、ごめんなさいと謝って来たので、良いんですよ、聞きに行きますと市は笑いながら答え、さっき歌っていた歌をもう1度聴かせてくれとねだる。

お春は、荷車の上で、「いっぽんどっこの唄」を歌い始める。

富田宿のお夷様の境内の横で、下野の馬造(藤田まこと)は、博打の胴を勤め、駕篭かき連中相手に小銭を稼いでいた。

市が声をかけると、按摩さんもこれをやるのかい?と馬吉は聞いて来たので、目がないんですよと市が笑うと、最初から目なんてないやないかと馬吉は嘲りながらも、1勝負やってみるかい?と誘って来る。

市が嬉しそうに乗りかけた時、馬吉と見学していた加護かき連中は、岩隈一家が来たと言い出し、あっという間にその場を立ち去ってしまう。

境内にやって来た県の岩五郎一家の代貸・勘太(伊達三郎)は、そこに集まっていた芸人や商売人たちに、誰に断って、ここで商売をやってやがるんだと因縁を付けて来る。

旅芸人一座の座長が、随分前から、正太郎親分に商売をさせて頂いてますが?と言うと、今年から、県の岩五郎親分が取り仕切る。坪3分の所場代を出さないと商売させねえなどと言い出す。

お春が、全部は今出せませんが…と言いながら巾着袋を取り出すと、それをそっくり奪い取り、袋は投げ捨ててしまう。

その巾着袋は、側に来ていた市の顔に当たって落ちる。

勘太は、興行が始まったら毎日3部払うんだと言い残しその場を立ち去って行く。

その場に取り残された芸人や商売人たちは、正太郎親分はそうなさったんだろう?などと不安げに噂しあう。

市は、杖の先で、落ちたお春の巾着袋を探していた。

その夜、岩五郎の賭場にやって来た市は、隣で勝っていた男の逆の目を言いながら、次々に壷振半三(木村玄)相手に勝ち進み、8両を稼いだ所でさっさと帰ることにする。

勘太は、儲かったんだから、ツイてるときはやるもんだぜ?と声をかけて来るが、市は、これ以上やったら取られてしまいますと言って帰るので、勘太は、その場にいた用心棒に眼で合図をする。

その足で、近くにあった屋台に入り、うどんと酒を注文した市だったが、隣にはかなり泥酔していた仙造(東野英治郎)と主人から呼ばれている先客がいたので、自分の酒を勧め、ちょっといたずらをして、あぶく銭が入ったものだからなどと景気の良い事を言う。

うどんを食べ始めた市だったが、側に、人の気配が近づいて来たのに気づく。

今、あぶく銭って言ったけど、博打でもやったのかい?と仙造が聞くと、近くの鉄火場でチャチなイカサマの裏をかいて…と市が答えると 貸元は?と仙造が聞く。

確か…、県の岩五郎とか言いましたっけ?と市が思い出すと、岩五郎の奴、こんな所まででばって来たかと仙造は呟く。

その時、賭場から付けて来た用心棒と子分が、屋台の主人(寺島雄作)に退くように目で合図する。

次の瞬間、市は仕込みを抜き、背後から近づいて子分と、目の前に来た用心棒の2人を、屋台と共に一瞬に斬ってしまう。

市は、迷惑をかけちまって…と店の主人に詫び、1両を置いて立ち去ろうとするが、それを必死に止めたのは仙造だった。

うちに来てくれと言うので付いて行くと、仙造は今すぐ灯りを点けると言う。

父っつあんの仕事は、鍛冶屋だねと市は言い当てると、今は、鋤鍬専門の田舎鍛冶屋だが、昔は刀鍛冶だったと仙造は教える。

さっき、お前さんの刀を観た時、震いつきたくなった。見せてくれ。自分の眼が劣っていないかどうか試したいんだと仙造は頼み、市は黙って、仕込み杖を渡してやる。

仕込みの中の剣を、じっくり見つめた仙造は、う〜ん、やっぱりと呟き、これは俺の師匠の若い時の作だと言い出す。

その人は何と言うのかと市が聞くと、下野の高辰と言う、5本の指に数えられる刀鍛冶の1人だと言うので、ちっとも知らなかった。ただもんじゃねえとは思ってたんだが…と市も感心する。

やっぱり俺の目に狂いはなかった。お前さん、随分人を斬りなさったね?メクラのお前さんに、あんな腕があるとは思わなかった。今まであなたが生き延びて来られたのは、お前さんの腕もあるが、この刀の力もある。ただ、この刀はもう寿命が来ている。お前さんの腕ならもう1人くらい斬れるだろう。だが、斬った途端、この刀は折れると仙造は言いきる。

そして、この音を聞きなせいと言うと、刀の各部分を叩いて音を市に聞かせてみる。

すると、明らかに、1カ所の部分の音が違って聞こえ、鍔元から三寸の所に、目には見えないが傷があると仙造は断言する。

お前さん、まだこの刀を抜かにゃいけねえのか?まだ人を斬らなきゃいかんのか?考えもんだぜと言うので、市は、その傷は元へは戻らないもんですかね?と聞くと、なまくらならどうにでもなるが、良いものってのは直しが利かねえんだと言う。

それを聞いた市は、仕込みを返してもらうと外に出るが、そこには、先ほどの勘太らが市を探しまわっていたので、又、布団を敷いていた仙造の家に戻って来て、父っつあん、もうちっと話して行っても良いかい?と頼み、仙造から茶を出されると、こうやって、父っつあんに巡り会えたのも、何かの縁だよねなどと話し始める。

俺は、お察しの通り、ただの按摩じゃない。ヤクザでの飯を食ってるんだけどね。こいつとも長いこと一緒に旅したけれど、寿命が来ているとは知らなかった。命も随分助けてもらった。父っつあん、これ預かってもらえないかと市は言い出し、仙造は嬉しそうに、そうかい?じゃあ、師匠の形見だと思って大切に預からせてもらうよと市の仕込み杖を受け取る。

酒でも何でも生きてなくちゃ味わえねえなと市が言うと、そりゃそうだと仙造も笑い出す。

市は、どっか、俺にできる仕事はねえかな?と聞き、人並みに按摩の修行はして来たつもりだと言うと、だったら、足利の下野屋と言う店に明日連れて行ってやると仙造は言う。

翌朝、朝早くから外に出てうろついている市に気づいた仙造が、どこへいくんだい?と聞くと、杖がないと随分勝手が違うもんだねと言うので、仙造は家から心張り棒を持って来て渡してやると、それを持って一緒に下野屋に連れて行ってやる。

下野屋にやって来た仙造は、応対に出て来た娘に、お嬢さん、この按摩さんを、こちらに住み込みで雇っちゃもらえないでしょうか?と聞き、丹田さんに頼んでみるねと娘が言いながら奥へと消えたので、市は、今、お嬢さんと呼んだが、お嬢さんが自分の父親のことを旦那さんと言うのかい?と不思議がると、今のお嬢さんは、正太郎親分の娘さんで、色々訳があって、ここに引き取られたんだ。正太郎親分は、1月ほど前、日光の権現様に参った時、どこの誰かに斬り殺されたんだと仙造は教える。

そこへそのお嬢さんお志津(藤村志保)が戻って来て、自分に任されたが、お前さん、腕は確かかい?と聞いて来たので、お地蔵さんの肩でも揉みほぐしてみせますと市が軽口を叩く。

名前を聞かれた市は、ただの市でございますと答え、そのなりじゃ、汚れ市って所だねぇなどとお志津に皮肉られながら、朝飯を食っていた女中らや、主人に紹介されに行く。

下野屋源兵衛(北龍二)の部屋には、女将の他に、男が2人いたことに市が気づいたので、女将はお前さん、目が見えるのかいなどと驚きながらも、主人夫婦の息子真之助(山下洵一郎)とお志津の弟の清吉(青山良彦)だと教える。

その時、梅の間のお客さんが、旦那様と按摩を呼んで来て欲しいと言っていますと女中が言いに来たので、何事かと言いながら、源兵衛と市が向かってみる。

まず、源兵衛が部屋に入ると、客の女お柳(春川ますみ)は、明日から当分の間、部屋3つと大広間を借りたい。寄り合いに使うのだと言い出したので、事情を問いただすと、八州廻りの桑山様が見えるのだと言い、手付けとして5両を差し出す。

源兵衛は承知して去ると、市が変わって部屋に入り、お柳の肩を揉み始める。

1人旅ですかい?と市が話しかけると、あたしはここへ居続けさ。桑山盛助様って知ってるかい?あたしゃ、3月前まであの方の世話になってたんだなどと教え、今度、呼んでやるよと約束する。

その後、お志津から飯を出された市が頬張っていると、清吉が姉に、新之助さんと江戸に行って来ると言いに来たので、何しに行くのかとお志津が聞くと、足利学校の古書の写しが出来たので、お茶の水の昌平黌へ持って行くんだと小声で言う。

それを聞いたお志津は、あんたは、新之助さんとは立場が違うんだよ。お前は父親の跡目を継ぐ身なんだよと叱りつける。

そんな会話を飯を食いながら聞いていた市は、自分の部屋で布団の用意をしながら、弱ったな…、あの2人には話さない方が無事だな…などと独り言を言う。

翌朝、宿を出発しようとしていた清吉に、又しても、お志津が説教をしていたが、洗濯干場にいた市は、女中のお松お松(明星雅子)に、お志津さんは男勝りの人だねなどと話しかけ、お松は、お志津さんと新之助さんは親同士が決めた許嫁なんだよなどと教えてくれる。

新之助と清吉が出発した後、下野屋には、県の岩五郎(遠藤辰雄)と桑山盛助(須賀不二男)がやって来て、お柳と合流する。

お志津は、台所で里芋の煮付けを盗み食いしかけていた市に声をかけ、偉い人が来たから着替えるんだよと言って、お父っあんの形見を仕立て直したものだけど、大事に着ておくれなどと言いながら用意した着物を渡す。

お志津が部屋を出て行くと、男勝りとは言え、やはり女だな…。良い嫁さんになるだろうな…などと、市は嬉しそうに呟く。

梅の間の桑山の部屋に茶をもって来たお志津は、少し付き合え、酌をしろと桑山から言われたので、仕方なく相手をし始めるが、名前や生まれを聞かれたので、足利のお志津ですと答える。

桑山も岩五郎も、正太郎の娘と聞くと知っていたようで、旅先で死んで一家離散したと聞いたが、ここで女中奉公しているのか?と桑山が聞くと、いいえ、ここの旦那さんが父の幼なじみだったので、宿の手伝いをしているだけですと言い、正太郎の子供はその方だけかと聞かれると、弟がおり、父の跡目は弟に継がせたいと思っていますとお志津は答える。

すると、なかなか気丈な奴だ。わしが肩入れしてやろうか?などと桑山が言い出したので、お志津は驚く。

そこに市がやって来て挨拶すると、お柳が、さっき話していた按摩ですよと桑山に教える。

わしの方は、大抵のものが悲鳴を挙げる難症じゃぞと笑い、市に肩を揉ませ始める。

本当にお志津を肩入れなさるんで?と岩五郎が聞くと、あの器量でこんな旅籠に置いとくのは惜しいと桑山は笑う。

その時、岩五郎の子分紋次(高杉玄)がやって来て、仙造の刀はまだ出来上がっていないと岩五郎に知らせる。

それを聞いた桑山は、仙造が刀を作っていると聞いてもう半年、松平様からまだかまだかとの催促で、わしの面目が立たんと不平を言う。

紋次は、どう言う風の吹き回しか知らねえが、紋次は急にやる気を出したので、後4、5日で出来るようだと言う。

その後、市は一生の酒を手みやげに、刀を作っていた仙造の元にやって来る。

父っあん、今、刀研いでたね?お前さん、20年前に刀鍛冶を辞めたんじゃなかったのかい?と市が聞くと、俺も若い時分に、5振りほど、これはと思うものを世に出したこともあり、その頃は師匠より上と評判になり。実入りは良くなるし、お定まりの酒と博打で師匠から破門をくらい、上州館林をコ○キ同然にここに流れて来たんだ。親子心中寸前までなった時、ここの正太郎親分に助けてもらったんだと仙造は答える。

お志津さんの親爺さんだね?と市が言うと、実はお志津は俺の子で、正太郎親分夫婦が養女にもらってくれたんだ。苦労をかけたお志津のお袋が死んだ後にな。それで親分の恩返しのために、一世一代の刀を作ってやろうと思ったんだが、なかなか巧く出来ない。これはと思う先に親分が死んでしまったと言うので、その刀を桑山に譲る気になったのかい?と市が聞くと、とんでもねえ!ヤクザから賄取って腐れ縁結んでいるような役人に、俺の魂は渡さねえよ!と仙造は興奮する。

だが、岩五郎はその刀を狙っているぜと市が言うと、俺は刀が出来たら、清吉さんにやるつもりなんだと言うので、清吉さんは跡目を継ぐ気はないらしいぜと市は教える。

俺は自分の気持ちの筋道を立てたいんだよと仙造は力説し、市も、詰まらねえことを言って気を悪くしねえでくんなと詫びる。

仙造は市にも酒を勧めるが、止めとこう、昼間っから按摩が酒臭い息をしていたら、お志津さんに叱られると言って遠慮する。

仙造の家を出た市は、旅芸人一座にお春を訪ね、この前お預かりしたものを返しに来たと言う。

何のことか分からないよう様子のお春に、金のぎっしり詰まった巾着袋を返した市だったが、受け取ったお春は、私のは空だったはず?と戸惑う。

歌を聴かせてもらったり親切にしてもらったからと言い、市は、最近、岩五郎って奴はどうです?と聞くと、泣かされ通しだわとお春は答える。

まだ療治がありますからと言って市が帰りかけた所に、岩五郎の子分たちがやって来たので、市は杖でさんざん叩きのめして追い払う。

その頃、下野屋には、岩五郎の子分たちは白首の女たちが大量に予約していた大広間にやって来て、賭場を堂々と開帳していた。

帰って来た市は、台所で女中たちが走り回っていたので事情を聞くと、お松は、堅気で通って来た下野屋もこれで終わりよと言う。

主人の源兵衛は、うちは10代続いた旅籠です。そこで賭け事などをやられたのでは、お役人にでも知れたら大変です。5両はお返ししますから、この契約はなかったことにして下さいと岩五郎に頭を下げに来るが、俺は桑山様から十手を預かっている県の岩五郎だ。役人の心配などする必要はねえ!と怒鳴りつけると、源兵衛が返した五両の小判を源兵衛の顔に投げつけ流血させる。

そのことを女中から聞いた市は黙り込む。

大広間で開かれていた賭場に参加した市だったが、その顔を見た子分が岩五郎に代貸しから口止めされていたんだが、あいつに富田宿の賭場を荒らされたんで…と知らせに来る。

大広間の市の所へやって来た岩五郎は、何だ、宿の按摩じゃねえかと気づき、てめえ、ド○クラのくせにサイコロいじりするのか?とバカにして来る。

市はへらへらと笑いながら、メクラは私だけじゃありませんぜ。ここにいるのはみんな目の見えない方ばかりなので、てっきりメ○ラの賭場だと思って来たんですなどと言う。

そこに子分がドスを顔に押し付けようとしたので、持っていたキセルでドスを天井板に弾き飛ばすと、天井に刺さったドスに又キセルを投げて落とすと、そのドスは壷振半三の前に置かれていた壺に突き刺さる。

市が、その壺を開いてみると、中のサイコロの一つがまっ二つに切れており、中に鉛が仕込んであるのがバレたので、こういうのを仲間内で何と言うんでしたっけ?だるまって言いましたかね?と市はとぼけてみせる。

すると岩五郎は、子分から耳打ちされ、お前さんもしや、座頭市って言う人じゃねえか?と低姿勢になって聞いて来て、お前たち、一体誰がこんないたずらをして、俺の顔に泥を塗りやがったんだ!と急に子分たちを叱りつけると、御損をおかけしたお客様には金を返して、今日の所はお開きにするんだと命じると、市にはお近づきの印に、一杯やらないかと誘って来る。

おや、私にごちそうをして下さるんで?と喜んだ市は、お柳や岩五郎の子分衆がいる前で酒に酔い、踊って歌ったりしてみせると、あげくの果てに、わざと岩五郎の身体に酒を振りまいて、眼が見えないもんでなどと言い訳する。

市の正体が座頭市と知ったお志津は驚く。

市本人も、その夜、用心棒に夜襲をかけられ、応戦したものの、刀が折れて斬られてしまう悪夢で目覚める。

そんな市の部屋にやって来たのはお志津だった。

お願いがあると言い出すと、市さんの噂は、お父っつあんから聞いてました。私たち姉弟の力になって下さい!と言い出したので、私が言っちゃまずいんだけど、所詮ヤクザと五十歩百歩、お天道様の下を大手を歩けるような渡世じゃねえ、言わば天下の嫌われ者ですよ。そんな嫌われる渡世のために、あなたが命を張って、嫌がる清吉さんに跡目を継がせるほどのことはないじゃないですか?と市は答えるが、いいえ、私には弟に跡を継がせる義理があるんです。私は、足利の正太郎の実の娘じゃないんです。市さんをここに連れて来た仙造さんの娘なんです。死んだお父っつあんのためにも、岩五郎にお父っつあんの縄張りを取られたくないんですと言う。

市はそんなお志津に、そんな義理だとか恩などと言うのではなく、女は女らしく、好いた人と所帯を持ってさ、幸せになることだと市が説得すると、いいえ、私の幸せなんかとお志津は意地を張るので、私はね、恩も義理もない人のために、自分の大切な命は張りたくないって言ってるんですとわざとつっけんどんに言う。

すると、分かりました!市さんに来んなお願いをした私がバカだったんですと言い残し部屋を出て行くが、その時髪から落ちた簪を拾い上げた市は、そっとその残り香を嗅ぐのだった。

岩五郎の家にやって来ていた、桑山盛助の御用人、相沢忠左衛門(水原浩一)は、御前が下野屋のお志津のことを聞いていたと伝えると、あいつはいけません。まさか誘拐する訳にも行かねえし…と岩五郎が言うので、弟の跡目相続のことを聞いて恐れているのだろう?お志津に弟がいなかったらとしたらどうだいと聞く。

やれって言うんですかい?とその場で一緒に聞いていた紋次が言うと、相沢は、はっきり言うので困るなどと顔をしかめる。

しかし、岩五郎は紋次に、分かったな?と念を押す。

その後、下野屋にやって来た相沢は、主の源兵衛に取り次いでくれと応対に出たお志津に頼む。

そんなお志津に、二階から降りて来た市が呼びかけるが、お志津は不機嫌そうに、用があるなら、お松さんに言って下さいと言い残し、そそくさと立ち去って行く。

相沢に会った源兵衛は、お志津を桑山様にご奉公に出せと言われ面食らっていた。

お志津にしても、弟の跡目相続のことをお願いするにはまたとない機会だろう。この10代も続くと言う下野屋を潰すようなことにでもなったら誠に惜しいことだなどと、相沢から遠回しで脅されると、言うことを聞くしかなかった。

父親の四十九日に間に合うよう、一足先に家路を急いでいた清吉は、途中、紋次から声をかけられると、いきなりドスで刺されて殺される。

その頃市は、部屋に食事を運んで来たお松に、お志津さん、近頃バカに機嫌が悪いけど、何かあったんですか?と聞くと、知らないけど、桑山様から迎えの駕篭が来て、出かけたよと聞き、急に顔を強張らせる。

下野屋を出ようとしていた市は、飛び込むように帰って来た真之助が、大変だ!清吉が斬られて殺された!と出迎えた両親に伝えるのを聞き硬直する。

山川の土手で、人だかりがするので覗き込んだら清吉だった。お志津を呼んでくれと真之助は源兵衛に頼むが、桑山様の所に行ってしまったと聞かされると、私に黙って行かせるなんて!と怒り出し、連れ戻そうと表に飛び出そうとしたので、それを制した市は、お前さんが言っても無駄だよ。お志津さんは私がきっと連れ戻してきます。お前さんは、源兵衛さんを幸せにすることだと言い残し店を出る。

その頃、紋次は、仙造の家から出来上がったばかりの刀を盗み出していた。

そこにやって来た市は、仙造が斬られて倒れているのに気づき、抱き起こして、紋次が刀を盗んだ事を知るが、俺の仕込みは?と聞くと、もう仙造は息絶えていた。

絶望した市だったが、仙造の伸びた腕をたどって行くと、その指先が前方を指差していることに気づく。

急いでその押し入れを開けて中を調べてみた市は、布団の下に仕込みが置いてあるのを発見する。

この刀には寿命が来ている。もう1人くらいは斬れるだろうが、そいつを斬った途端、刀は折れる!と言う仙造の言葉が市の脳裏に浮かぶ。

市は外に出ると、そこにたむろしていた加護かき連中に、県までやってくれと頼むが、県は鬼門だなどと言って誰も行きたがらない。

そこにやって来たのが、馬子の馬吉で、県まで市が行きたがっていると聞くと、最初は恐れて自分も断ろうとするが、やがてみんなが市を無視しているのに腹が立って来たのか、市を馬に乗せ、乗せて行ってやると言い出す。

その頃、桑山は、岩五郎が持参した仙造の刀を見て喜んでいた。

岩五郎は、この相沢様のお骨折りですと謙遜し、例の下野屋のお志津も呼んでおきましたと伝える。

そして、岩五郎は、別室で待たせていたお志津に、御前様がお召しじゃと呼びに行く。

そんな庭先に市は潜び込むが、鍔先三寸、目には見えない傷がある…と言っていた仙造の言葉が又脳裏に蘇っていた。

岩五郎は子分たちの前で、これで万事巧く行った。後は下野屋だと言っており、座頭市の野郎はどうします?と聞かれると、御前様の旦那にお願いして、腕の立つ者を集めている。これから下野屋に乗り込むと答える。

居合いに勝つには、相手に先に抜かせれば良いんだなどと戦い方を話し合っていた用心棒たちに声をかけた岩五郎は、下野屋に出かけて行く。

お志津を無理矢理、抱いて手込めに仕掛けていた桑山は、表に人の気配を感じると、誰だ!と誰何する。

私でございますよと市が声をかけて、障子に影が映り、中に入って来ると、貴様だったのか?座頭市と言うのは!と桑山は叫び、何しに参った?と聞く。

何しに参ったはないでしょう?あっしは、そのお志津さんを迎えに来たんです。おっと、抜いちゃいけません。そちらさんがお抜きになると、こちらさんも抜きますよと冗談めかして答えた市だったが、部屋の隅にいたお志津に、こっちに来なさいと呼びかける。

しかし、市の意図が分からないお志津が動こうとしないので、来いって言ったら来るんだ!と声を荒げ、お志津が市の側に歩み寄ろうとした時、桑山は、持っていた新しい剣で斬り込んで来る。

市も応戦するが、その時刀が折れ、柱に突き刺さる。

斬られたのは桑山の方で、倒れたその手に握られていた刀は、鍔先三寸の所でポッキリ折れていた。

市は、仕込みの刃を触ってみて、そうか!父っつあん、ありがとう!おめえが精魂込めて作った刀を、俺の仕込みに替えといてくれたのかい!と呟くと、ありがたそうに刃を捧げ、丁寧に鞘に収める。

その時、相沢がやって来て、障子を開けるなり、桑山の死体を発見して腰を抜かしたので、立ち上がった市は、岩五郎に言っておけ。必ず首をもらいに行くとな…と相沢に言い残し、お志津と共に屋敷を後にする。

下野屋に乗り込んだ岩五郎たちは、源兵衛親子を前にして、いかようにお使いになっても依存はありませんと証文を書いたではないかと源兵衛に告げていた。

そんな覚えはないと源兵衛が否定すると、手付けの5両も受け取ったではないかと岩五郎は居丈高に告げる。

源兵衛は返答に窮するが、息子の真之助が、その証文を見せて下さいと食い下がると、俺の証文が偽物だとでも言うのか?と言いながら、真之助の顔を殴りつけて来る。

そこに、市の奴が、県に現れたそうです!と子分が駆け込んで来る。

玄関先にやってきた岩五郎は、そこに息も絶え絶えに座り込んでいた相沢から、御前が市に斬られた。お志津もさらって行った。お前の首も必ずもらいに来ると言っていたと聞かされると、紋次に、辻辻に張り込んで、奴が来たら叩き斬るんだと命じる。

放っておかれた相沢が、わしはどうなるんだと岩五郎に聞くが、面倒見てられねえ!と言い捨てて、岩五郎は離れて行く

村はずれの小屋の中に連れて来られたお志津は、市から、弟の清吉が殺されたことを聞き、私が意地を張ったばかりに…、市さん、私、どうしたら良いの?とすがって来るが、お志津さん、自分を責めることはない。悪いのは岩五郎だ。私には、仙造さんの刀が付いている。止めても無駄だ。やるだけのことはやらねえと気がすまねえと言い、何度も止めようとするお志津を振り切って、きっと帰って来る。きっと待ってるんだよと言い残して出かけて行く。

雪が降って来た中、辻で待ち受けていた用心棒と子分たちは、市が来た!と叫ぶ。

傘をさして近づいて来た市だったが、そこに、樽が次々に転がって来る。

足下を取られ転ぶ市に、子分たちが斬り掛かって来るが、地面に落ちた傘もろとも、まっ二つに斬られてしまう。

市が仕込みを抜いたことを確認した用心棒たちが市に襲いかかる。

てめえたち、侍だな?と気づいた市は、こっちはメ○ラだ、そっちから仕掛けて来い!と挑発する。

路地裏に逃げ込んだ市は、大きな樽の中に身をひそめるが、それに気づいた子分たちは、上から蓋をし、その樽を転がして、中にいる市の目を回す作戦に出る。

そして樽に近づいた子分だったが、中にいた市は、彼らが会話する声で相手の位置を見極めると、樽の中から剣を突き出し、樽もバラバラに切断して飛び出すと、ばかやろう!俺には廻る目がないんだ!と叫ぶ。

岩五郎の部屋に駆け込んで来た子分が市が見つからねえと報告すると、探し出すんだ!と癇癪を起こして自ら出かけようとするが、その目の前に現れた市が、探すこたあねえと言いながら、岩五郎の目の前に立ちふさがる。

今まで随分あくどい奴に会って来たが、お前ほどの奴はいなかったぞと剣を突きつけながら、岩五郎を背後に押しやって来る。

そこに待っていた子分たちは畳を持ち上げ盾代わりにするが、市は畳ごと斬って行く。

市さん!お志津さんは?とその場にいた真之助が聞くと、無事だよ。村はずれでお前さんが来るのを待っている!と言うや否や、岩五郎を叩き斬って、そのまま自分は下野屋の外に出る。

そんな市に、岩五郎一家の残党が駆け寄って行く。

朝までまんじりともせずに小屋で待っていたお志津は、そっと戸を開けて外を観ると、足下に転がっていた自分の簪に気づく。

それを拾い上げたお志津は、市さん…!と呼びかけてみる。

市はもう村を出ようとしていたが、按摩!おう、てねえ座頭市だってな?と呼びかけながら追いかけて来たのは馬吉だった。

座頭市を聞いたら黙っちゃおけない。勝負だ!勝負しねえか?と言うので、市は思わず仕込みを握るが、そんな市の手に渡されたのはサイコロだと分かったので、五一の丁!と言いながら、市はサイコロを馬吉の手のひらに投げ返す。

それは、言う通り、「5」と「1」の丁の目だったので、受け取った馬吉は仰天してしまうのだった。