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座頭市の歌が聞える

シリーズ第13弾

概して、シリーズもこのくらい回を重ねると、マンネリ化してつまらなくなりそうなのだが、座頭市シリーズに限っては、この時期の作品も出来が良く、完成度が高いので驚かされる。

今回の見所は、市と同じ、目が不自由な琵琶法師が、市にあれこれ禅問答のようなことを言う場面の面白さであろう。

人生経験から来たものか、含蓄が深く、市のひととなりの弱点をズバズバ突いて来る、観ようによってはイヤミな人間である。

自分が強い所を見せつけるのは、子供たちをダメにする…と言う法師の指摘は、実は、このシリーズの観客に対する反応も重ねているような気もする。

ただ闇雲に強いだけでは、ヤクザであり、人を殺している市を美化することになる。

客の中には、その姿に憧れるものさえ出て来るだろう。

初期の頃は、ヤクザとは言え、人を殺めると恨みを買い、裏街道をひっそり逃げ回っていた感がある座頭市だが、いつの間にか、相手がヤクザと言うことを免罪符に、虫けらみたいにめったやたらに斬り殺す、痛快ヒーローのように市は変化して来ている。

そう言うことに対する反省もあったのかも知れない。

市は、ヒーローであると同時に、そうしたフィクションに感化されやすい観客への責任も背負わされているというわけである。

結果、市は剣を捨てようとする。

さらに、市の耳の勘を奪おうとする権造たちの策略…

この辺の設定が、市の居合いに緊迫感を加えている。

子供が市に絡む話自体は、これまでにも何度かあったが、この作品の展開も興味深い。

第1作目の平手御酒以来、再び、天知茂が浪人役で登場しているが、今回の黒部と言う浪人も、お蝶役の小川真由美と絡ませることで、又新しい魅力を持った人物像になっているような気がする。

小川真由美の色っぽい演技も見逃せないが、おかん役を演じているベテラン吉川満子の名演技にも注目したい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1966年、大映、子母沢寛原作、高岩肇脚色、田中徳三監督作品。

夜の草原

1人の男が何かに追われているように道を急いでいる。

その草むらの前方で、先生、早くと頼んでいるヤクザの一団。

先生と呼ばれた浪人者黒部玄八郎(天知茂)は手を差し出し、小銭を受け取ると、何食わぬ顔で逃げて来て男の方へ向かい、すれ違った瞬間、男を斬り捨てる。

その後、歩き始めた浪人者は、前方からくしゃみをしながら近づいて来る按摩に気づくが、何も言わずそのまま通り過ぎて行く。

その按摩、座頭市(勝新太郎)は、前方で人声が聞こえるのに気づき、盗人はいけませんね。盗みの中でも追いはぎが一番たちが悪いと話しかけたので、斬られた男の持ち物を取ろうとしていたヤクザたちは気色ばみ、市に斬り掛かって来るが、全員斬られ、市がくしゃみをするのと同時に倒れる。

市は倒れていた男にも声をかけるが、男が「たいち…」と言うので、お前さん、太一と言う名かい?と聞くと、俺は為吉だ。たいちにこれを…と左手を伸ばした所で息絶える。

市は、その男の左手に握りしめられていた巾着袋を取ると、たいちとか為吉とか言っていたが、一体、どこのたいちか、ためいちなのか、まるで雲を掴むような話だな…。これはそこにあっても、どうせ誰かがねこばばするだろうから、持って行くか…と独り言を言うと立ち去って行く。

タイトル

翌日、茶店でたらふく飯を食った市は、200文と主人に言われ、昨日、死んだ男から受け取った財布を取り出すと、その中から200文を取り出して支払うが、その時、サイコロが1つ転がり落ちたと主人に教えられる。

店を出た市は、拾い上げたそのサイコロを歯で割ってみて、中を確かめると、あの野郎、イカサマがバレて追われていたんだな…と気づくと、そのまま旅を続けることにする。

とある場所にやって来た市は、大木の下に座っていた琵琶法師(浜村純)に、本街道はどっちかと道を尋ね、メ○ラなもんですから…と言い訳をすると、わしもメ○ラだよ。わしは生まれながらのメ○ラだが、あんたはそうじゃない。物心つく5、6つの頃までは見えていたはずだと相手が言うので驚く。

近づいて互いに触ってみると、琵琶法師だと気づいた市だったが、法師の方は、あんたの手には妙な所にタコがあるねなどと鋭いことを言うので警戒しながらも、どうしてあたしが生まれつきのメ○ラじゃないと分かったんで?と聞いてみる。

お前さんの勘では道を歩くのが精一杯、だから、私がここにいるのを立ち止まるまで気づかなかった。私の方は、1丁ほど先からお前さんが近づいて来るのが分かっていたよと言いながら、ところで頼みがあると言い出す。

実は腹がぺこぺこなんだと言うので、その法師を連れ、近くの茶店で焼きもちを馳走してやった市だったが、その法師は、生まれてこの方、ありとあらゆるメ○ラと出会ったが、お前さんほど代わったメ○ラは初めてだよと言う。

お前さんの勘はメクラの勘じゃない。だから、メ○ラはお前さんを怖がって仲間付き合いをしない。だからと言って、メアキはもちろん、お前さんをメ○ラ扱いする。つまり、お前さんはメ○ラでもメアキでもない、中途半端な人間なんじゃ。どちらにも入れない化物だななどと指摘する。

法師さん、これからどこへ行くんです?と聞くと、一の宮宿だよ。静かな宿だ。第一、やくざ者が1人がいないなどと言うので、市は、今頃そんな宿場があるんですかね?と問い返すと、明日から年に1度の祭りで、雷太鼓と言うのが名物だよと言う。。

そに祭りを当て込んでたっぷり稼ごうって言うんですかい?と市がからかうと、私は自分のために琵琶を弾いているんだ。人が聞いていようがいまいがそんなことは関係ない。だから昨日から一文無しだよなどと自嘲しながら去って行く。

食うだけ食って、人のことを化けもんだって言い嫌がって、どっちが化けもんか、メアキに聞いてみたいものだなどと、キナコまみれの口元の市は呟くが、俺も行ってみようかな…と思い立つ。

宿場に着いた市に、追いかけっこをしていた子供の1人がぶつかって転んだので詫びると、その子は良いんだよと言って立ち上がる。

すると、太一!又そんなに泥んこにして!太一、戻って来るんじゃ!と近くから呼びかける祖母らしき声がしたので、その茶店を訪ねてみることにした市は、お父っあんは為吉さんと言うんじゃ?と聞いてみる。

すると、その祖母おかん(吉川満子)はそうだよ、知ってるのかい?と嬉しそうに言うではないか。

市は、はい、大変お世話になりまして…と噓を言い、どこで会ったかと聞かれると、尾張の熱田で…などと適当に相づちを打っていると、あの子も辛抱していたら、一人前の板前になれたのに…とおかんが嘆くのを聞くと、立派な料亭で一人前の板前になってましたと言わざるを得なくなる。

太一(町田政則)が、いつ帰って来るの?と聞いて来たので、坊やがおばあちゃんの言うことを良く聞いていたら、直に帰って来るだろうと答えた市は、為吉さんからこれを渡してくれと言われまして…と言いながらおかんに巾着袋を差し出したので、おかんは感激、感謝する。

その時、面で騒ぎ声が聞こえて来たので、どうしたんだい?と市が太一に聞くと、板鼻の権造と言うヤクザだと言う。

ここにはヤクザが1人もいなくて、静かな宿場だと聞いて来たんですが?と市は不思議がると、この間までそうだったんだが、最近権造が乗り込んで来て、この門前町で商売をする8軒に、今まで通り商売を続けて行くなら権利金を出せと言うようになったのだとおかんは嘆く。

抵抗するものもいたが、結局、隣のように、50両、100両と言う血の出るような金を工面して自分で自分の店を買うしかなくなり、今では、3軒だけが残ってるだけなのだと言う。

太一は、遠くから聞こえて来た雷太鼓の音に気づくと、市を誘って祭りに出かけるが、太鼓の音を側で聞いていた市は、その音の大きさに耐えきれなくなり、その場を立ち去ろうとする。

心配した太一が訳を聞いて来たので、おじちゃんの耳は目の代わりだから、坊やの2倍も3倍にも聞こえるんだと市は教える。

神社からの帰り、市は権造の子分衆に行き当たり、からかわれる。

市は、坊や、大きくなっても、身体の不自由な人をからかっちゃいけないよ。こいつら人間の皮をかぶっているが、犬猫以下だ…と言ったので、それを聞いた子分たちはいきり立つが、次の瞬間、市は居合いで、子分の1人が持っていた「ふくべ」の文字が入った提灯を斬ると、中の蝋燭を刃の先に乗せ、どうだい?人間の面じゃないだろう?等と言いながら、あっけにとられて立ち尽くす子分たちの顔を照らす。

その様子を、近くにいた琵琶法師が聞いていた。

門前茶屋に太一と戻って来た市は、按摩の仕事を見つけるために一回りして来ると言って歩き始めるが、この宿場に引っ張り込んだのは、死んだ為吉さんの執念に違いねえな…。早く日当を稼いでおさらばするかと呟きながら、按摩笛を吹き始める。

すると、こんな宿場には珍しい「ふじのや」と言う女郎屋の二階から、お蝶(小川真由美)と言う女が声をかけて来る。

この宿場にこんな店があったとは…と市が聞くと、半月ほど前にこの店を始めたと言うお蝶に、姉さんほどの美人が何でお茶引いてるんです?とお愛想で聞くと、今夜、どなたか好きな人が来るんでしょう?と聞くと、一寸の虫にも五分の魂って言うだろう?女郎だって、年の2度や3度、人間らしい気持ちを持っても良いじゃないかなどとお蝶は呟く。

按摩さん、祭りを当て込んで来たのかい?と来て来たお蝶は、気の毒だけど、当て外れだね。多分、今夜辺りから、この宿場は大荒れに荒れるよとお蝶は教える。

喧嘩一つ起こらないで、役人も足を踏み入れたことがない宿場にまず女郎屋が出来るだろう?すると、若い者がたちまちうつつ抜かして通い始める。酒と女で気持ちがぐれ始めた時、板鼻の権造と言う奴が乗り込んで来て、メチャクチャに引っ掻き回して行くんだよと言う。

するとこちらも板鼻の権造親分が?と聞くと、直接関わっていないけど、繋がっているとお蝶は言う。

そんな話をしている部屋に、お春と言う女中が飛び込んで来たので、お蝶は、自分の金を追って来た「ふじのや」の主人に差し出し、ここに一晩くらいの金は入っているはずと言って追い払う。

お春もお蝶に礼を言いながら引き下がると、姉さん、心の温かい人なんですねと市が感心し、お蝶の方も打ち解けてくれて、酒を馳走してやる。

今から下仁田にでも行こうと思っていると市が言うと、ここに泊まって行って良いんだよとお蝶は言い、その時になって揉み賃をなくしてしまったことに気づくと、簪を抜いて、それを渡そうとする。

もう会うこともないだろうねとお蝶が呟き、市は、お身体大切にと言い残し、簪を受け取ると部屋を出る。

お蝶は、何のために身体を大切にしているのか…と空しそうに呟く。

市は、送り出してくれた先ほどのお春に、この近くに泊まる所はないかと聞き、あるにはあるけど、泊まれるかどうか…と言う返事を聞いて店を出る。

市が訪ねた宿の上州屋はもう戸が閉まっていたが、娘のお露(小村雪子)が中に入れてくれ、父親で宿の主人の弥平(水原浩一)も手が足りなくて…などと丁寧に出迎えてくれたが、足を洗おうとした市が、つい持っていた杖を落としかけ、慌てて握った時に、仕込みがバレてしまうと、急に態度を替え、うちではヤクザものは泊めねえことにしているんだと言い出す。

市が戸惑っていると、おじちゃん!と呼びかける声がし、太一が姿を現すと祖母を呼ぶ。

おかんは、不機嫌になった弥平に、この人は、今返した為吉の借金を持って来てくれた人だよと教え、何とか宿に泊めてもらえることになる。

わらじを脱いでいた市が持っていた仕込みに触ろうと太一が手を伸ばすと、市は小声で、坊や、こんなもん、触っちゃ行けないよと注意する。

しかし、太一は、先ほど市の凄技を観たことで興奮しており、あのおじちゃんが来てくれたら、もう権造なんて怖くない!などと、布団を敷いていたお露に話しかける。

太一が帰り、部屋で1人になった市が着替えをしていると、懐に入れていたお蝶の簪が落ちたので、それを拾って匂いを嗅ぐと、大事に手ぬぐいで包みながら、とうとう泊まっちまった…。足は早発ちにするかな…と呟く。

すると、隣の部屋から、早発ちできるかな?と問いかける声が聞こえて来たので、誰だい?と市は怪しむが、声で、昼間会った琵琶法師と気づく。

お前さんは、明日発たない。受け合うと法師が言うので、こんな宿場にね、もう長居はまっぴらだよ。それに寝転んで喋ることはないだろう?と市が声をかけると、どうして寝ていることが分かるんだい?と法師が聞いてきたので、声が下の方から聞こえるよと市は答える。

すると、法師が笑うので、何がおかしいんだい?と市が不機嫌そうに問いかけると、お前さんは言うこととすることが正反対だからさ。長居はまっぴらと言いながら、長居の種をまいている…。権造一家の奴らに、鮮やかな技を見せたんだろう?と法師は答える。

ついカーッとなっちまったものだから…と市が言い訳すると、そなたは、坊やをどうする気だ?と法師は聞いて来る。

子供と言うものは、強いものに憧れを持つ。今、坊やの頭の中は、そなたのことで一杯だ。ひょっとすると、そなたがしたことは、1人の人間をダメにしたかも知れん。子供の心と言うのは真っ白な紙のようなものだ。1度付いてしまった色は、ちょっとやそっとでは治らんぞと言うので、堪らなくなった市は、どうしろと言うんです!と、ふすまを開けて、隣で寝ていた法師の部屋に問いかける。

すると、法師は、わしにも分からん…、考えることだ。自分でまいた種は自分で刈らなくてはいかん…と答えるだけだった。

翌朝、宿場では、権利金を払わない店の女房が、権造一家の者に連れて行かれそうになり、騒ぎが起きていた。

女を返して欲しければ、たった80両の金を払えば良いんだなどと権造一家の半次(伊達三郎)が、店の主人に迫り、主人は女房を助けるために、金を払うと約束する。

その騒動を観ていた太一は、おじちゃんが来てくれれば良かったのに…と市の登場を期待していたので、その声を耳にした市は、宿を出るに出られなくなる。

翌日、市が宿で目覚めた頃、一の宮の宿場に、為吉を斬った浪人、黒部玄八郎がやって来る。

今日は、茶屋のおかんが権造一家の餌食になっていた。

それをかばおうとする太一の声を聞き、さすがに年寄りが虐められているのを観ていられなかった市は、お頼みがありますと子分たちに声をかけ、相手は年寄りと子供、そんなことをなさいませんように…。この茶屋を追い出されたら、生活すら出来なくなりますと頼み込む。

さらに、その場に来ていた板鼻の権造 (佐藤慶)に気づくと、昨日は、メ○ラの分際で、子分衆に生意気なことをしちまって…、堪忍して下さいと謝罪するが、子分たちに袋叩きにされる。

太一は側でじっとその様子を観ていたが、市は殴られ蹴られるだけで、一瞬、仕込み杖に手をかけようと仕掛けるが、結局一切抵抗しなかった。

それを見かねたおかんは、50両を払うと言い出し、権造は、今夜の4つまでに持て来るんだぞと念を押し、子分たちは愉快そうに、後1軒だけになりましたねと権造に話しかけながら帰って行く。

強いと思い込んでいた市が無抵抗だったので、太一は悔しさのあまり、走り去ってしまう。

小川に漬けられ濡れ鼠になった着物の代わりに、古い丹前をお露から着せてもらった市に、おかんは、巻き添えにしてしまって申し訳なかったと詫び、上州屋の主人弥平も、だから泊めなけりゃ良かったんだと悔しそうに吐き捨てる。

市は、姿が見えない太一のことを気遣い、外に探しに出かけるが、市がやって来たことを知った太一は、無言で逃げ去ってしまう。

権造一家は、とうとう上州屋にまでやって来て脅し始めるが、弥平は、明け渡すのは死んでも嫌だと抵抗する。

すると、権造一家の子分たちは、お露を連れて行こうとするが、そこに市が戻って来たので、半次は、野郎!叩き殺されてえのか!と凄む。

又しても、太一が観ていることを知っている市は、宿の裏手の方に子分たちを誘い込むと、そこで一気に斬り捨てて行く。

あまりの凄腕に怖じ気づいた権造は、ひとまず逃げ出すが、その市の技を、通りかかりに観ていたのは黒部玄八郎だった。

おじちゃ〜ん!と呼ぶ太一の声が聞こえたので、市は思わず物陰に身を隠す。

太一が駈けて行ったので、通りに出た市だったが、そこに近づいて来たのは琵琶法師だった。

とうとう斬ってしまったな?しかも、太一の観ている前で…と責めるように言うので、斬らずにいりゃ、どうなるんだい?と市は問いかける。

百日の説法1つ、下衆の知恵では分かるまい…と法師が嘲けるので、俺はお前さんほど知恵がないからね…と市は答える。

その時、又、おじちゃ〜ん!と呼ぶ太一の声が近づいて来たので、市は慌てて逃げ出すのだった。

上州屋に戻った市を見つけた太一は、このおじちゃんにず〜っといてもらおうよなどと、おかんや弥平、お露らに言っていたが、そこにやって来た黒部は、「ふじのや」と言う女郎屋があるか?と聞く。

子供がいるので、年寄りとお露は奥へ連れて行き、玄関口に残った市が行き先を教えてやると、その店に、お蝶と言う娘はいるか?と黒部は聞く。

市が知っていると言うと驚いたようで、2度あることは3度ある。もう1度会うと思う…と市に言い残して、黒部は「ふじのや」に向かう。

「ふじのや」で会ったお蝶は、俺と一緒に江戸に帰ろうと、自分を探してやって来た黒部から誘われても、もう手遅れだよ…。さんざん人に苦労させといて、今更連れて帰る?、今考えると、侍の女房になれるなんて考えるんじゃなかった。あんたが好きで好きで…、夢のような玉の輿だったものね…と過去を思い出す。

お志乃…と呼びかける黒部に、お蝶よ!お志乃と言う女はもうとっくに死んじゃった…とお蝶は怒るが、黒部は諦めず、頼む。お前が側にいてくれれば、立ち直れそうな気がする。お前を甲州から上州へと探しまわり、後2ヶ月で3年になると伝える。

しかし、お蝶は、3年前の黒部玄八郎は、酒飲みでグータラだったけど、まだ侍の根性があったよ。今は欠片もない、みじめなコジキ浪人じゃないか!何故来たんだよ?蓄えもみんな消えちまったよ!出て行っておくれ!と並べ、黒部を部屋から追い出してしまうと、1人さめざめと泣き始める。

黒部は「ふじのや」の主人に、お蝶を身請けしたいと申し出るが、50両は頂かないと…と言われたので、この宿場を仕切っている親分は何と言うのだ?と聞く。

この祭りから、板鼻の権造と言う人が仕切っていると主人が教えると、金は一両日中に返すと言い残して「ふじのや」を出る。

その足で、権造の家に向かった黒部は、何か俺に向いた仕事はないか?大至急50両がいると申し出るが、自分で売り込む奴に限って、ろくな奴はいないなどと嘲られる。

黒部は、背後から近づいて来た子分の刀を天井に跳ね上げると、その子分の帯だけを斬ってみせ、50両なら、決して高くはなかろう?と権造に迫る。

剛造は即座に買いましょうと言い出し、上州屋にいるメ○ラを斬ってくれと頼む。

高崎であいつに7人全部が斬られた…。あのメ○ラなら50両なら安過ぎた…と黒部は呟く。

その夜、草むらの中に座り込んで、市と琵琶法師は団子を食っていた。

観ている前で、婆さんがあんな目に遭わされているのを、黙って観ていられなかったんだ…と、市が、昼間の刃傷沙汰を言い訳すると、当たり前だ。人が殺されかかっているのを観ていられるのは人間じゃないなどと法師が答えたので、法師さん、お前さん、最初は人を斬っちゃいけないと言い、今度は人を斬るのは当たり前だと言う。どう言うことなんです?と市は混乱する。

すると、琵琶法師は、お前さんの知恵では、分からないのが当たり前なんだよと言い、今夜は月が出てないようだな…などと言ってはぐらかすと、お別れに、琵琶でも聞かせようか?と言い出す。

お別れ?と市が不思議がると、今があって、明日が分からぬのが人間だと言いながら、法師は琵琶を奏で始める。

そんな2人に近づいて来た黒部だったが、琵琶法師の演奏中、琵琶の糸が1本切れ、市は、側にあった杖に手を伸ばそうかと一瞬躊躇する。

しかし、黒部は、それ以上近づこうとはせず、黙って立ち去って行く。

演奏を終え、こんなに気持ち良く弾けたのは何年振りだろうなどと法師が感激しているので、途中で糸が切れましたね?と市は聞いてみる。

ああ、切れたよてん、糸にだけ頼っていたのでは琵琶は弾けないよ。お前さんも、仕込み杖に頼っていると生きて行かれないよと法師は言う。

いつかはやられるって言うのかい?と聞いた市は、お前さん、メアキよりも良く見えるようだけど、1つだけ見えないものがあるね?これだよ…と言いながら杖を持ち上げる。

すると法師は、それがただの杖だって良く知っていた。お前さんの吐く息、吸う息が、ただ事じゃなかったからね…と法師は言う。

市は、俺は怖かったんだよ。でも、中味がなければ斬らずにすむ…と答える。

「ふじのや」では、酒を浴びるように飲んでいるお蝶を、お春が止めようとしていた。

しかしお蝶は、夕べは何とかなったけど、もうお金ないんだよ。逃げるんだよ!良いから逃げるんだよ!とお春に言い聞かす。

その頃、権造一家の部屋の隅で酒を飲んでいた黒部は、何故やらなかったんだよ?怖じ気づいたか?などと権造に嫌みを言われると、あの法師が…、否…と口ごもる。

黒部が当てにならないと気づいた権造は、奴の居合いを封ずる手があると言い出す。

耳だよ、奴に取って耳は命だ。太鼓だよ。耳の勘を狂わしちまえばそれっきりと言うことだと子分たちに教える。

「ふじのや」から逃げ出そうと外に出たお春は、そこにやって来た市と出会う。

お春は、浪人が来なかったかと聞かれると、お蝶姐さんに会いに来たと教え、お蝶姐さんが幸せになんなさいって逃がしてくれたと打ち明けると、市は、饅頭でも食いなと言いながら小遣いを渡してやる。

お春は礼を言って去って行く。

その後、太一が、おばちゃんが!と言いながら市を呼びに来る。

行ってみると、おかんが権造一家の連中に縛られていた。

市は、お露に太一を部屋に連れて行かせると、親分さん、私にどうしろとおっしゃるんで?と権造に問いかける。

こっちの言うことを2つとも聞くんだ。1つは、上州屋を今日にも明け渡すんだ。もう1つは、てめえの杖をこっちに渡すんだと言い出す。

それを聞いた弥平は、上州屋を渡すと言い、市も杖を差し出そうとする。

子分の1人がその杖を奪い取った瞬間、市は、その子分の持っていた刀を奪い取ると、それで数人を斬る。

表に出た市は、権造一家の子分たちと斬り合いを始めるが、そこに、仕込み杖を持った太一が、おじちゃ〜ん!と言いながら近づいて来る。

市は、その杖を受け取ると、太一をかばいながら戦い、隙を観て、逃がしてやる。

その太一を、側に来ていた弥平が受け取る。

市は、仕込み杖で足下を確認しながら、刀で応戦しながら橋の上にやって来る。

その時、突然、大音響の太鼓の音が響いて来る。

子分衆が、鐘や太鼓を打ち鳴らしながら、橋の上の市を挟み撃ちにして来たのだ。

勘が狂わされた市だったが、必死に子分たちを斬り捨てて行く。

とうとう全員倒した時、近づいて来た黒部が、太鼓を1度とんと鳴らす。

見事だったなと市の腕を褒めた黒部は、お前に恨みはない。だが斬らねばならぬと言うので、市は、金ですか?と聞く。

黒部は隠さず、どうしてもいる…、50両…と言うので、何とか抜かずにすます方法はありませんかねと市は問いかける。

ない!と黒部が答えると、じゃ、あっしの方が斬るかもしれませんよと市は言う。

金のためでも、今夜は気持ち良く刀が抜けそうだ…と呟いた黒部は、市と共に場所を変え、河原にやって来る。

合図もなく2人は刀を抜きあうが、市は仕込み杖で黒部を倒すと、その死体の胸に、お蝶からもらった簪をそっと置いてやるのだった。

家に戻っていた権造は、こうなりゃ、とことんやってやる!と息巻いていたが、そこに市が来たと子分が知らせに来る。

権造親分さん、いますかね?と言いながら近づいて来た市の顔は返り血を浴びていた。

子分たちが息を飲んで見守っていると、どうかなさいましたか?いやに静かですね?と市はとぼけながら上がり込み、夜が明けると、親分さん、色々、忙しくなるんじゃないかと思って…と言いながら、権造に近づいて行く。

銚子の酒の匂いに気づいた市は、立ったまま、その銚子の酒を飲むと、権造にも酒を注いでやりながら、頂戴したいものがあると切り出す。

ここの7軒から集めた420両…、どうしても出さないって言うんですかい?と言いながら、仕込みを振るうと、権造の足下に置いてあった銭函がまっ二つになり、中から小判がのぞく。

これだけ貯めてりゃ、400、500両くれえ頂いても構わないでしょう?等と言いながら、市は金を袋に詰め始める。

さらに市は、もう1つ、黒部さんの50両…と言い出したので、それは仕事を果たした上のことだ。頼んだ仕事もしねえで…と権造は顔を歪める。

すると市は、宜しゅうございます。あしがその黒部さんの仕事を代わりにやりましょう。例えば、どこのどいつを叩き斬るとか…と言いながら子分たちを見渡したので、権造は諦めたように、もう良いんだよと言う。

50両を銭函から拾い上げた市は、あ、それから…、3両2分ばかり拝借させて下さいななどと言い出したので、そう好きにしろ!とやけになった権造だったが、銭函から市が鐘を拾おうとしていた時、背中から斬ろうと刀を抜いて近づいて来る。

次の瞬間、市は権造を振り向きざまに叩き斬ると、ドスを捨てろい!と凄んでみせたので、棒立ちで観ていた子分たちは、全員、持っていた刀を捨てる。

ところが、下駄を履いたまま上がり込んでいた市が、縁側から外に出ようとした時、足を滑らせて転んだので、子分たちは、一瞬、捨てた刀を拾い上げようとするが、市が照れくさそうに自分たちの方に笑いかけて来たので、手を止めてしまう。

明け方、権造一家に奪い取られた金を全額取り戻してもらえたおかんは、市に礼を言っていた。

しかし市は、これは元々皆さんの金なんですから…と説明し、この2両は、為吉さんの財布から拝借したものですと言いながら手渡すと、為吉さんのことなんですがね…と言いかける。

すると、おかんはそれを遮るように、分かっていますよ。為吉はもう生きていないんでしょう?私にとってはたった1人の倅、あんたが来た時から察してましたと言う。

市はすっかり恐縮し、太一坊やを立派に粗立ててやって下さいと頼み立ち去って行く。

「ふじのや」では、酔いつぶれていたお蝶を、新しい女中が起こそうとしていたが、お蝶はうるさいよ!と言うだけで起きようとはしなかった。

太一は、祭りが終わった神社の鳥居の下を1人歩いていた。

市も、1人で宿場を去って行く。