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座頭市喧嘩太鼓

シリーズ第19弾で、大映製作作品としてはこれが最後になる。

これ以降は、大映から権利を買い取ったらしき勝新の個人プロダクション、勝プロ作品として製作されている。

すでに目新しさが薄れてきた頃の作品である。

宿敵となる浪人者(どこかしら同情すべき部分がある)との出会い。

お人好しで、世話好きな市の行動。

追って来るヤクザ一味との勝負。

賭場での一勝負…、主だったパターンは、本作でもほとんど登場する。

ただ、三田佳子が登場するためか、お色気サービスはない。

三田佳子が、自分がヤクザに狙われていることを承知しているのに、人に迷惑をかけまいと1人で行動しようとし、結果的にしょっちゅうピンチに陥り、かえって市に迷惑をかけまくるトラブルメイカーの役割を担っている。

昔の通俗時代劇には良く見かけたパターンで、世間知らずのお嬢様やお姫様などがこういうキャラクターに設定されているケースが多いのだが、三田が演じるお袖の場合は、女郎になるのを覚悟で、30両で男に抱かれた薄幸の娘と言う設定。

別にはすっぱ女というわけではないが、人に迷惑をかけまいとする気持ちが裏目裏目に出てしまう所がもどかしいと言うか、段々いら立たせるタイプの女に見えて来る。

市の方は、自分が殺めてしまった男の姉なので、その罪滅ぼしの意味も込めての必死に助けようとする。

筋立て自体はかなり古くさいと言えば古くさいのだが、勝新が演じると不思議と飽きずに最後まで楽しく観る事が出来るのも、あれこれ細部にわたって工夫が凝らされているからかも知れない。

闇夜で先が進めなくなった荒熊の子分たちを先導して、市が道案内を勤めるシーンや、お袖と出かけた宿場の遊戯場で、玉川良一と曽我町子扮する夫婦が開いていた「だるま落とし」の遊戯に挑戦した市が、面白いようにだるまを落として、夫婦を慌てふためかしたり、賭場で仕込んだイカサマが見破られ、簀巻きにされてしまった市が、そのままの姿でヤクザ達と戦ったり、後半、再会した新吉と、衣装を取り替える事によって、彼らを捜す地元のヤクザ達の目をくらませたり、天井窓から逃げようとする市が、紐から滑り落ちて尻餅をついたりといった…といったユーモア表現も随所にちりばめられている。

本作の見所としては他にも、市が針仕事をするシーンや、市が馬に乗って走るシーン、クライマックスのチャンバラで、明かりを消した真っ暗闇の中で、市の姿だけが龕灯(がんどう)の明かりでスポットライトのように浮かび上がる演出などがある。

タイトルの「喧嘩太鼓」とは、クライマックスでのサスペンスの暗示であるが、この趣向も、シリーズでは特に目新しい訳ではなく、似たような前例もある。

佐藤允の浪人は、似合っているようないないような、ちょっと微妙なものがあるが、相変わらずの笑った笑顔は魅力的である。

作品としては平均的な出来と言った所ではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、大映、子母沢寛原作、猿若清方+杉浦久+吉田哲郎脚本、三隅研次監督作品。

3人の子供達がすずめ捕りのために仕掛けていたザルを、歩いて来た市がうっかり踏みつぶしてしまう。

子供たちは、餌の米粒を市が踏んづけなくなったので謝り賃を出せと要求するが、市が懐から出して子供等に渡したのは豆だった。

この豆に酒を染み込ませて置いとくと、雀が食べて酔って寝てしまうからと市が説明するが、子供たちは信用しない。

噓かどうかやってみな…と笑って教えた市は、橋の板が壊れて途中でなくなっている小川にさしかかる。

その後ろから、深い所があるから気をつけろよと子供達は注意するが、市は、それを子供の噓だと思い込み、歩き出そうとしたので、川に落ちてしまうが、じたばたする市の頭上を、そ知らぬ顔で浪人者が飛び越えて行く。

(鮮やかな原色の上に、白文字だけと言うシンプルな)タイトル

熟し柿が目の前に落ちて来たので、又誰か命落とすな…と呟く市。

荒追の熊吉(清水彰)の代貸勘造(伊達岳志=伊達三郎)から、お袖を寄越せと家の前で迫られた宇の吉(水上保広)は、姉はいねえ、金の工面に行っていると答えた宇の吉は、子供の使いじゃねえんだ!と凄んで来た代貸しに斬り掛かり暴れ出したので、仕方なく代貸たちは帰ることにする。

新吉(藤岡琢也)という渡世人と共に、その熊吉の家で貧相な飯を馳走になる市。

新吉は、一口でメザシを食い終わると、市が三つにちぎっていたメザシの残りをこっそりつまんで取ろうとするが、市はまっすぐ飯の丼を持った手を新吉の方へ延ばし、メザシを取り戻すと、新吉がひっくり返した湯のみに、茶を注いでやる。

食事が終わった2人は熊吉に呼ばれて部屋に向かう。

熊吉が言うには、小紋流の宇のと言う奴が、金がいると言うので、30両貸したが、日限が来ても100の銭も返さねえ。客人、同じ渡世人としてどう思う?今も、代貸が客人を連れて行ったが、まるでキ○ガイ犬だ。ヤクザの風上にも置けねえ奴は叩き斬らなきゃならない。手を貸してもらいてえとのこと。

新吉は、先日も同じような事があり、草鞋脱いだ先で6人自分が叩き斬ったと自慢し、今日の相手は1人だと聞くと、ちょっと拍子抜けやけど行こうと言うので、熊吉は草鞋銭と称して、新吉に1両、市には2朱投げて寄越す。

こいつも連れて行くんでっか?と新吉が驚くと、メ○ラでも、一宿一飯の渡世人なら、義理は守ってもらわなくちゃいけねえと熊吉は力説する。

市は、2朱を受け取ると、そちらさんの草鞋銭は?と聞くので、新吉が小判を市の頬に押し付けると、一両!と市は驚く。

月夜に出発した一行だったが、同行した子分の六助(勝村淳)らは、眼が見えない市が見届け人として同行させられたのが面白くない。

新吉は、向こうに着いても手を出すんじゃないよ。俺とは値段が違うんだからと念を押されたので、市は、素直に手を出しませんと答える。

悪く落ち着いてやがると市の態度にいら立った子分たちは、おメクラさん、急ぎやすが良いですか?と言い、目で互いに示しあわせて、急に走り出す。

しかし、市は新吉の肩に杖をしっかり乗せて、歩調を合わせ、しっかり後をついて来る。

市を振り切れないと悟った子分たちは、いつの間にか、月が隠れてしまった事に気づき、提灯を持ってくれば良かったと悔み出す。

足下が暗くて見えなくなって来たからだ。

それを聞いた市は、どうやら私が役に立つ時が来たようで…と声をかけて来たので、子分たちは、何を!と反発するが、結局、市が先頭に立ち、その着物を握って、子分たちは一列になって後を付いて行くしかなかった。

ようやく、目指す家にやって来た一行だったが、気配で気づいた宇の吉は、家の中の明かりを全部消してしまう。

これでは、新吉たちも何も見えなくなり、蛮勇を奮って中に入り込んだものの、全員、手傷を負ってしまう。

新吉も、左足を切られたらしく、引きずりながら家から出て来る。

勘造は、メアキは不自由ですねなどと嘲笑する市に、それだけ言うんだったら、お手並みを拝見しようじゃねえかと言い出す。

市は前に出ると、手出しはいけませんよ。メクラの事ですから、誰彼なしに斬っちまうかもしれませんからと言って子分たちを下がらせると、玄関口で、お前さんには何の恨みもないけれど、渡世の義理で斬る事になりましたなどと家の中に向けって説明する。

宇の吉が入って来いと叫んだので、市はゆっくり入口を入るが、その途端、横から飛びかかって来た宇の吉を居合いで斬り殺してしまう。

その直後に帰宅してきたのは、身を売って金を工面して来た宇の吉の姉のお袖(三田佳子)であった。

お袖は、弟の宇の吉が斬られている事に気づくと、驚いて駆け寄り、お金は出来たんだよ!お金はこうして作って来たのに…と勘造を睨みつけ、お金は返すよ!その代わり、宇の吉の命を返して遅れ!と迫る。

そんなお袖をつかまえた勘造は、払いが遅れりゃ、利息がいるんだ。利息はお前の身体だ!と言い出したので、最初から私の身体が目当てだったんだね?とお袖は気づく。

そんな会話を聞いていた市は、お袖を捕まえようと邪魔をしようとした六助に、お前さん、ドメクラって2度言いましたよねと確認する。

そして、お袖を捕まえようとした子分の指を2本斬り落とすと、その子分は、宇の吉を斬ったのはその男だぞとお袖に教える。

市は新吉に、新さん、娘さんのことは聞いてませんでしたね?と確認し、聞いてなかったと言う新吉にお袖を任せて、代貸たちと共に熊吉の元へ迫ろうとする。

しかし、新吉はもうブルってしまい、あんな所へはもう帰りたくないと言い出したので、市は黙って自分1人で代貸たちと一緒に熊吉の家に戻る事にする。

お袖を置いて来たと聞いた熊吉は、それでもてめえは渡世人か!どの面下げて帰って来やがった!あの女は本陣の旦那が御用なんだ。おれのためだけにしてるんじゃねえ。どうしてくれるんだ!と市を怒鳴りつける。

観ると聞くとは大違い。親分風吹かすにははや過ぎらぁ。お前さん、ヤクザの風上にも置けねえ奴は叩き斬らなきゃならないって言いなすったね、そうすると、おめえも斬らなくちゃならねえ…と市が言うと、六助が又、このドメクラ!と斬りつけて来たので、市は居合いで斬ると、ドメクラを三度言っちゃいけませんと呟く。

そして、子分たち3人の刀を天井にはね飛ばして突き刺す。

荒熊は、その天井の刀が次々と、自分目がけて落ちて来たので腰を抜かす。

市は子分たちを斬ると、旅立って行く。

(勝新の歌が流れる)

本陣の旦那こと猿屋宗助(西村晃)を訪ねた熊吉は、お袖の事は何とかしますから、甲府のお城の仕事の方はよろしくお願いいたしますと頭を下げる。

猿屋は、お袖の事はどうでも良いんだ。お城の仕事は三日の内に決めよう。女の話は別だよ?期限は三日で良いね?と念を押してくるが、それは、3日以内にお袖を連れて来いと言う暗黙の指示だと分かった熊吉は、分かりましたと頭を下げながらも顔を強張らせる。

市は旅を急いでいたが、その後から付いて来る女がいた。

とある宿に泊まった市は、女が相部屋を許してくれたと知り、恐縮しながら部屋に入ると、女の方の1人旅じゃ大変でございましょう?などと話しかけるが、相手は何の返事もしない。

市は、懐からミカンを取り出すと、それを半分に割り、そっと相手に差し出す。

そして、自分はミカンを食べながら、何も言わない相手に向かい、召し上がって下さいなお袖さん。私と知って相部屋を承知なさったんでしょう?憎んでなさるでしょうねと話しかける。

自分の正体を気づかれていたと知ったお袖は、そりゃぁたった1人の弟の事ですから…、あの子は酒を飲むと人が変わり、気が荒くなるたちなもんですから…、1日もは約足を洗わせようとしていたのですが…、間に合いませんでした。

ですから気になさらないで下さい。ましてやあなたは助けて下さったご恩があるんですから…とお袖はようやく口を開く。

窓を開けてみたお袖は、ちょうど向かいの宿に入りかけていた追手の勘造たちに気づき、慌てて窓を閉める。

市は、お袖の慌て方が気になったのか、どうしたんです?と言いながら、自分も窓を開けて観るが、そんな市の姿に下の追手たちが気づく。

市は窓を閉めると、旅は道連れともうしますから、これをご縁に道中ご一緒しませんか?とお袖に声をかけるが、せっかくですけど、私1人で参りたいと思いますとお袖は断る。

翌日、小袖は駕篭に乗って出立するが、すぐに追って来た勘造らに取り囲まれてしまう。

しかし、そのすぐ横で草鞋など選んでいた市が邪魔に入ったので、市の腕前を承知している勘造らは悔しがりながらも手が出せない。

市とお袖が連れ立って歩き始めると、1人の浪人がお袖の前に立ちふさがり、お袖を抱こうとする。

少し後ろから付いて来ていた市は、道で羽子板をしていた女の子たちの羽が飛んで来たので、杖の先で跳ね返す。

その羽が浪人の方へ飛んで行くと、浪人は瞬時に刀を抜いてまっ二つに斬ってしまう。

羽根つきをしていた女の子たちは逃げてしまい、杖の先で地面に落ちた羽を触ってみた市は、可哀想に…と呟くと、何事もなかったかのようにお袖を連れてその場を立ち去る。

その様子を観ていた勘造らは、その浪人柏崎弥三郎(佐藤允)に近づくと、すごい腕前ですね。一つ頼みを聞いて頂けませんか?あのドメクラを斬ってもらいたいんで…と声をかける。

柏崎は、すぐにバカな!と一笑に付すが、勘造の話をじっくり聞くと市に興味を持ったようで、金次第だと匂わせて来たので、10両では?と勘造が言うと、桁が違うと言うので、100両!と驚くと、1箱(千両)だ、嫌なら止せ!と言い捨てて去って行く。

間もなく行くと、子分仲間の1人が、猿ぐつわを噛まされ木に縛られている事に気づき、勘造たちは慌てて助け出す。

次の宿で、夜、外に出歩いてみた市とお袖は、だるま落としをやっているのを見つけ、お袖がやってみると言い出す。

店の主人長八(玉川良一)は、お袖の美貌を観て鼻の下を伸ばし、だるまの回転をゆっくりにしてやろうとするが、焼き餅焼きの女房お仙(曽我町子)は、すぐに亭主の魂胆に気づき、商売忘れて!と怒りながら玉を亭主の尻にぶつけ、自分でだるまを回し始める。

結果、お袖はあっという間に玉を投げ終わり、1つも当たらなかった。

すると、今度は市がやってみると言い出したので、長八は、眼が見えない市に出来るのかい?と怪訝そうに声をかけるが、それを押しとどめたお仙は、ここで儲けないでどうするのさ!と亭主に囁きかける。

お袖に玉を1つずつ自分の手に乗せてくれと頼んだ市は、次々に回転するだるまを倒して行き、さらに玉のお代わりなどと言い出したので、お仙は泣きそうになりながら新しい玉を渡す。

追加の玉も1つずつ市に渡していたお袖は、最初は市の腕前に喜んでいたが、段々、弟が斬られた時の事が脳裏に浮かび、いたたまれなくなってその場を離れてしまう。

全部命中されたお仙は、泣きそうになりながら景品を全部市に渡そうとするが、市の方は、お袖の気配が消えたので、慌てて店を離れてしまう。

お仙が、大したあんまだね~と感心すると、あんまりだよ…と長八は嘆く。

お袖は近くの天台に座っており、市に、お酒飲みましょうよと声をかけて来る。

しかし市は、宿に帰りましょうと勧め、相部屋のお袖の方に、自分でお銚子を1本持って来てやると、自分はさっさと布団の中に入ってしまう。

お袖は、そのお銚子を観ているうちに、又、弟の宇の吉が殺されたイメージが脳裏を掠め、宇の吉の遺髪と一緒に持参していたドスを抜くと、隣で寝ている市の胸を突き刺すイメージに駆られる。

そのまま市の寝床に向かったお袖は、ドスを抜いて市に襲いかかるが、市は起き上がると、枕で受け止め、どうなさったんです?とお袖を落ち着かせながら、寝かせようとするが、その時、お袖が熱っぽい事に気づく。

夜中、目が覚めたお袖は、隣で、市が自分の着物を繕っており、そっと残り香を嗅いでいる所を目撃してしまう。

朝、市が部屋に戻って来ると、お袖は目覚めており、市は安堵して、お医者様も、ただの風邪だから、2、3日も寝ていれば大丈夫だと言ってましたと伝える。

お袖はそんな市に詫び、弟を殺したのは荒熊親分だと言う事が分かりましたと言い出したので、市も、今の言葉で胸のつかえがすーっと降りましたと喜び、どこへ行くのか改めて尋ねると、諏訪で、明神前で叔母が店をやっているのだとお袖は教える。

その時、宿の主人が、泊まり賃を催促に来たので、市は外で話しましょうと廊下に出ようとするが、お袖が、自分の簪を使ってくれと言って市に渡す。

市が向かったのは賭場だった。

しかし、運に見放されたのか、さっぱり勝てない。

仕方なく市は、代貸の鈴屋の蝶次(戸浦六宏)に頭を下げて、自分の命から2番目に大切な杖を方に3両ばかり貸してくれないかと願い出るが、ただの杖と思っている蝶次が、そんな大金貸すはずもなかった。

その時、賭場にいた浪人がおれが貸してやると声をかけて来る。

柏崎弥三郎であった。

柏崎は3両を市に渡すと、これは10両の価値があるぞと言いながら、仕込み杖である事を見せたので、蝶次は失敗したと悔しがる。

市は、自分に壺を振らせてもらえないか?そして1対1の勝負がしたいと申し出たので、蝶次はおれが相手になってやると言い、柏崎は見届け人になると名乗り出る。

市が「かぶらせて頂きます!」と言いながら壺を振り、蝶次は「半」と言う。

柏崎が一刀両断で壺を斬ってみせ、市が「戒名は?」と聞くと、ピンぞろの丁だと柏崎は答える。

市は、金を受け取ろうとするが、その時柏崎はにやりと笑うと、メ○ラ、良い腕だなと言いながら、サイコロの側を刀の鞘で叩くと、サイコロの一つのまっ二つに割れて、その中には鉛が仕込まれているのが見せる。

それを観た蝶次は、イカサマだ!と言い出し、市は観念し、借りた本物のサイコロを取り出すと、子分等のなすがまま、あっと言う間に簀巻きにされてしまう。

その市が外に運び出されるのとすれ違う形でやって来たのが勘造たちで、簀巻きの中身が気になり、一緒に河原まで着いて来る。

柏崎もその後を付いてきていたが、その姿を見かけて、柏崎だ!と声を挙げた3人組の侍がいた。

簀巻きにされた市は、投げ込むときは遠くにお願いしますよ。近いと石で怪我をしますんで…などと注文をつけていたが、いきなり地面に落とされたので驚く。

落とされたのは、追って来た勘造が蝶次を呼び止め、市に聞こえない場所に呼び寄せたからだった。

勘造が、あいつは荒熊の看板に泥を塗った男なので譲っちゃくれないかと頼むと、蝶次はあっさり承知する。

勘造は礼を言い、酒代を渡して蝶次たちを帰すと、簀巻きにされた状態の市をやろうと近づく。

簀巻きの中で、南無妙法蓮華経と呟いていた市だったが、急に頭を踏みつけれて来たので驚くが、急にその簀巻きが起き上がって、ぴょんぴょんと逃げ出したので、勘造たちも驚いて追いかける。

簀巻きに斬り掛かろうとした子分の1人が、中から突き出した簪で指を突かれる。

市が持っていたのは、お袖の簪だった。

簀巻きの藁がほどけ、市は自由の身になるが、持っているのはその簪だけ。

その時、その市に杖を放ってきたものがいたので、市はそれを掴むと、勘造たちは慌てて逃げ出してしまう。

杖を放ったのは柏崎だったが、近づいて来た柏崎に、冗談がお好きで…と言いながら、市は今手にした杖を折ってしまう。

それは仕込み杖ではなく、ただの木の枝だったのだ。

あっしの杖を返して下さいと市が頼むと、柏崎は地面に仕込み杖を突き刺し、欲しければ取れ!と声をかけて来る。

市はじりじりと杖に近づき、柏崎の方は、刀に手をかけていたが、抜いて斬ったのは、背後から近づいていた3人組の侍の1人だった。

侍の1人井川大作(木村元)は、御指南番を斬った罪は免れんぞ!と柏崎に声をかけて来る。

しかし、柏崎は、あっという間に2人の追手を切り倒してしまう。

倒れた侍の脈を観た市が、とどめを刺すには及びませんと制止しようとするが、斬りたいのはお前だ!と言いながら、柏崎は刀を収める。

市は、私はメ○ラですから、逃げも隠れも出来ません。どうでもこれから諏訪に行かなければなりません。たって勝負をお望みなら、そこで…と願い出ると、あの女も一緒か?と柏崎は聞き、その場を立ち去る。

市は宿に戻るが、何故かお袖はおらず、やって来た主人が、すでにお連れの方は発ち、これをあなたに…と手紙を渡したので、主人に読んでもらうと、やっぱり1人で参ります。お世話になりました。あなたもお達者で…などと書いてあったので、市は慌てて宿を飛び出して後を追う事にする。

市は、途中ですれ違った馬を連れた農民に無理を言い、馬に乗せてもらうことにする。

しかし、農夫は馬子ではないので、ゆっくり馬を引くだけなので、じれったくなった市は、馬の腹をけり、無理矢理走らすと、自分はその首にしがみつく。

やがて、案の定、勘造たちに捕まっていたお袖に追いつくが、お袖が市さ~ん!と呼びかけても、今度は馬が止まらない。

結局、無理矢理馬から飛び降りた市は崖下に落ちてしまう。

それを勘造たちが呆れて観ていた好きに、お袖は崖を下り逃げ出す。

下まで来たお袖は、ボロ小屋の中に隠れるが、その奥にいたのは柏崎だった。

柏崎はお袖に抱きついて来る。

そうとは知らない勘造たちが小屋に入って来ると、柏崎が外へ追い出す。

その間に、お袖は、小屋の置くのボロ壁を破って外に脱出する。

一方、何とか崖から這い上がって来た市に気づいたのは、たまたま通りかかった草津の新吉だった。

新吉は、肩を貸してくれと市から頼まれたので、迷惑そうに断ろうとするが、おそでさんが荒熊一家にさらわれたんだと聞くと、手伝うしかなかった。

その頃、荒熊こと荒追の熊吉は、再び猿屋宗助の元を訪ね、お約束の三日ですと頭を下げる。

猿屋は、もう決まっているよと優しく笑い、荒熊が安堵すると、勝沼の太平さんに決まったんだと言い出したので、それじゃあ、今までお尽くし申し上げて来たのも水の泡で?と荒熊はいきり立つ。

しかし、猿屋は、お前だって、私の名を使って散々甘い汁を吸ったじゃないか。お袖もメ○ラに邪魔されて逃がした事は調べてあると睨みながら部屋を出ようとする。

激高した荒熊は立ち上がって猿屋に迫ると、口を押さえて背後から突き刺してしまう。

付いて来ていた子分が中の異変に気づき、親分、大変な事を!と驚くが、そこに茶をもった女中が入って来たので、付き人が押さえ、荒熊はその女中も一緒に殺してしまう。

荒熊と子分が外に逃げ出すのとすれ違う形で、市と新吉が屋敷の側に来るが、市は血の匂いに気づき屋敷の中に入っている。

すると、そこに猿屋と女中の死体が転がっていたので、暗がりではっきり確認できない新吉が、お袖さんじゃないのかと言い出す。

女中の身体を調べた市は、違うと言うが、その時、岡っ引きを連れた荒熊が戻って来て、市と新吉を下手人だと言いながら捕らえようとする。

市は居合いで数人を倒し、新吉と一緒に屋敷を飛び出して行く。

その頃、お袖は何とか、諏訪の明神前にある叔母のお早(ミヤコ蝶々)の店に到着していた。

宇の吉の遺髪とドスを見せられたお早は、死んだんか…、こんな事なら、あんたが身体まで売って金作る事はなかったんや…と嘆き、金平楼からは毎日の催促やと教える。

その時、その金平楼の従業員である地元ヤクザが店に来たので、お早は何とかお袖を隠そうとするが、ヤクザに必死に抵抗している叔母の姿を見かねたお袖が自分から姿を現し、明日行きますと約束する。

勘造らも諏訪に到着しており、市の行方を探していたが、そんな彼らの前に、三度笠姿の旅ガラスと藁で身体を包んだ男が通りかかったので、見逃してしまう。

しかし、それは、新吉の衣装を借りた市と新吉の変装だった。

新吉は、おもろかったけど、これ以上あんたについて行くと何があるか分からないので、ここで別れまっさと言い出し、市も、新さん、ありがとうと礼を言って橋の所で別れる。

その後、早駕篭に乗った荒熊が諏訪に乗り込んで来て、地元の明神の佐七(五味龍太郎)に会うと、市を探してくれと頼む。

市は、街道を通らず山を越えていたが、下の道を、佐七の子分たちが、荒熊が当地に来て、佐七と共に自分を捜している事などを噂をしながら通り過ぎて行ったので身を隠す。

同じく、その話を、草鞋の紐を道ばたで結びながら聞いていたのは、笠をかぶった柏崎弥三郎だった。

翌朝、お袖は駕篭に乗せられ、女郎屋の「金平楼」へ向かう。

それを見送ったお早はがっくり肩を落とし、1人やけ酒でも飲もうとしていたが、そこに駆け込んで来たのが市だった。

市は、お袖さんのおばさんですか?とお早に確認すると、自分は旅の途中で知り合ったものだが、これをお預かりしたんでお返しに来たんですが…と言い、簪を取り出して見せる。

それを観たお早は、これは確かにお袖のものやけど、あの娘は、この諏訪で一番の女郎屋「金平楼」と言う店に自分から行きよったんやと教える。

すると、市は、今お早に渡した簪を又取り上げ、外に駆け出して行ったので、お早は、けったいな按摩やな…と唖然とする。

遊女の姿に着替えさせられたお袖に女将のお勝(近江輝子)は、今日から花車と言うのがお前の源氏名だよ。それにしても初店から願ってもない良い旦那が付くなんて…家宝者だよと言い聞かす。

功のお貸元だよ、粗相のないように。親分は明神の御貸元の所にいるから迎えに行って送れと女将は男に言いつける。

その直後、「金平楼」にやって来た市は、お袖さんはいませんか?と店の者に尋ねるが、市のことを聞いていた店の者は互いに目配せして、いないと答える。

しかし、玄関口に立った市は大声でお袖の名を呼ぶと、驚いたお袖が出て来る。

お袖は、左目の辺りにに大きな痣がある市の顔を見て、あの時馬から落ちて…と心配するが、市が少し話があると頼むと、女将に願い出て二階の部屋に挙げてもらう。

もちろん女将は男衆に目配せして、明神の佐七の元へ知らせに走らせたのは言うまでもない。

部屋で2人きりになった市は、お袖さん、お前さんのしている事は間違っているぜと言いながら、窓を探し始めたので、天窓が1つあるとお袖が教えると、その天窓を開く。

そして、逃げるんだとお袖に言いながら、市は、杖に部屋のタンスにあった何枚かの着物を結びつけて天窓に投げて引っ掛ける。

そこに、知らせを受けた勘造らが駆けつけて来て、二階の部屋になだれ込むが2人の姿はいない。

すぐに天窓から逃げ出したと気づくと、外へ飛び出して行く。

その騒ぎを聞きつけ、別の部屋から出て来たのはだった。

外へ連れ出し、神社の小屋の前にお袖を連れて来た市は、市さん、どうして私のためにこんな事まで…と聞かれると、お前さんの幸せを台無しにしたのはあたしだ。その償いをさせてもらうのは当たり前…と市は答え、夜が明ければ元日だ。明神様の一番太鼓鳴るまでには戻って来ますと約束して、お袖を小屋の中に隠す。

佐七の家でお袖に逃げられた子分を荒熊が叱りつけて来ると、そこに市本人がやって来る。

市は、荒熊の顔に刀を押し付けながら、本陣の旦那をやったのはお前だな?と詰め寄り、白状させると、お前さんにもらいたいものがある。お袖さんの身請け料だと言い出す。

荒熊は困惑顔の佐七に30両をを出してくれと頼むが、市は冗談じゃない、利子が付くと粘る。

佐七は仕方なく、小判の包みを取り出すと、市の側の台の上にわざとそれを置いて行く。

市はその小判を取るために、仕込みを畳に突き刺し、手を延ばそうとするが、その隙を狙って斬りつけようとした荒熊は、すぐに仕込みを手にした市からなます斬りにされてしまう。

佐七はやっちまえ!と叫ぶが、市は部屋にあった行灯を斬り、部屋の中を真っ暗闇にする。

暗くなりゃ、こっちのもんだ。大バカやろう!と叫んだ市は斬りまくるが、そこに龕灯(がんどう)の灯が当てられる。

さらに、鉄砲を持った子分が市を狙っていた。

市は、勘造らを次々に斬って行くが、龕灯の灯の熱を感じると、その持ち手を斬り、鉄砲を狙っていた子分と佐七も叩き斬る。

朝方、大変だぁ〜!親分と井沢の親分がやられた〜!と叫びながら子分たちが走り抜ける声を聞いたお袖は、隠れていた神社の小屋から出てくるが、いつの間にか背後に近づいていた柏崎弥三郎がおいと声をかける。

その時、目の前に市が近づいて来たので、座頭!その女はおれがもらう、約束の諏訪だ。お前の命ももらうぞと言う。

市は、抱きついて来たお袖に、お前さん、あの男が好きですかい?好きなら何にも言いません。嫌いなら、このまま言いなりになっている訳には行きませんと言ってお袖の身体を遠ざける。

市は、柏崎の足が立てる落ち葉の音を頼りに戦い始めるが、その時、明神様の一番太鼓が聞こえて来る。

市は、柏崎の足音が聞こえなくなってしまい、背中の着物を斬り裂かれてしまう。

苦戦を強いられた市だったが、その時、ふと太鼓の音が止み、斬り込んで来た柏崎を、市は間一髪斬る。

柏崎は、うめき声を悟られまいと懐から出した手ぬぐいを自分の口にくわえ、声を押し殺して再度市に向かうが、やはり市の居合いの前に敵わなかった。

柏崎が倒れると、市さんと言いながらお袖が駆け寄って来る。

市は、そんなお袖に、もう何もかもすみました。幸せになって下さいと声をかけるが、お袖は、そんなことを言ったって、市さんがいなくなったら…とすがろうとする。

市は、お袖の髪に、持って来た簪を挿してやる。

その時、又、太鼓の音が聞こえて来たので、ああ威勢の良い音だ…、今年も豊作に間違いなし…と市は嬉しそうに呟く。

その時、「金平楼」の男衆がやって来て、あ、いた!と言いながら近づいて来る。

市は、さ、これをと言いながら、お袖に手ぬぐいに包んだものを手渡す。

男衆は、てめえの身体には大枚の金がかかっているんだ。その金を返すまでは勝手に帰さねえ!と言いながら、お袖を連れ去ろうとするが、その時、お袖が持っていた包みが落ち、大量の小判が散らばったので、男衆たちは我勝ちに拾い始める。

お袖が振り向くと、そこにはもう市の姿はなかった。

お袖は、市さん!と呼びかける。

1人先を急ぐ市の顔を、初日の出が照らしていた。