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座頭市果し状

シリーズ第18弾

勝新が歌う歌が、タイトルやクライマックス前の盛り上げ用にかかったり、敵役も、いかにも劇画風なキャラクターになっている事もあり、何だか作風が、リアリズムよりけれん味優先と言うか、テレビドラマ調と言うか、徐々に70年代風に近づいているのが興味深い。

待田京介、井上昭文、土方弘と言った、それまで日活で活躍していた俳優たちが大映作品に出ているのも、興行が弱かった会社同士が組んだ、後の「ダイニチ配給」などを連想させる。

本作で一番注目すべきは、医者順庵の娘お志津から、いつから眼が見えなくなったのかと聞かれた市が「8才くらい」と具体的な年齢を答えている所だろう。

「続座頭市物語」で、市には恋人がいたが、目が不自由になりだした途端、その恋人は兄に乗り換えた…と説明しているのと、ちょっと年齢的にずれているような気がするが、(兄に取られた彼女と言うのが8才当時の相手だったとすると、出会った大人の女に、その彼女のイメージを重ねると言う「続座頭市」の設定の方が、若干不自然になるような気がするのだが…)はっきり年齢を言っているのは、シリーズ全体を考える上では貴重な部分だろう。

この作品の頃の市は、すっかり髪も伸び、「悪名」の朝吉と区別が出来ないようなセットした髪型になっている。

本作での見所は、やはりベテラン志村喬と勝新の共演だろう。

志村喬は、この作品で「赤ひげ」風の医者を好演している。

この後のシリーズで、勝新は、森繁や三國連太郎、そして三船敏郎と言った、東宝から離れた俳優たちと次々と共演するようになる。

野川由美子の悪女振りも見物で、着物の胸元を市に斬られ、豊満な身体が見えそうになる…と言うお色気サービスも披露してくれる。

今回、敵役がグループなので、いつもながらの用心棒的役割である待田京介が、ちょっとキャラクター的に弱いのは致し方ない所か?

銃弾を受け、瀕死の状態で、大勢の敵と戦うと言う、いつものスーパーヒーローらしからぬ戦いを強いられる市の姿も魅力的。

堅気の人を助けながらも、結局、その堅気の世界には戻れない、市の孤独さが強調されたラストもなかなかであるが、要所要所で勝新の歌が重なる趣向は通俗過ぎて、賛否があるような気もする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1968年、大映、子母沢寛原作、直居欽哉脚色、安田公義監督作品。

道中、いきなりのにわか雨に遭遇した座頭市(勝新太郎)は、近くのあばら屋へ雨宿りのため逃げ込む。

誰かいませんか?と声をかけた市だったが、奥に1人の女の先客お秋(野川由美子)がいる事には気づかないまま、ずぶぬれになった着物を脱いで、乾かそうとする。

その際、巾着袋を柱にかけたのだが、それに目をやったお秋は、市が入口の方へ市を変えた際、そっと柱に近づいて、その巾着袋を取ろうとするが、すぐに市が戻って来たので諦めるしかなかった。

雨が上がり、念仏河原の道ばたで握り飯を頬張っていた市に気づいたごろつきの亥之吉(堀北幸夫)と伝次はイタズラ心を起こし、そっと市に近づくと、土を手に取り、それを市が持っていた握り飯の上からかけてしまう。

市は、泥のついた握り飯を頬張り、じゃりじゃり噛んでいたが、急に亥之吉の顔にその口の中の飯を吐きかけると、一瞬のうちに2人を斬り殺してしまう。

その様子を、あのあばら屋にいたお秋はじっと観ていた。

市は、何事もなかったかのように歩き始める。

タイトル(勝新の歌が重なる)

市が、大きな木下の木陰に座り、水を飲んでいると、そこに1人の浪人小鹿野弦八郎(待田京介)が通りかかる。

弦八郎は、市の頭上の枝に蛇が絡まっているのを発見する。

その蛇は市の頭上に落ちた瞬間、市の仕込みが唸り、蛇はまっ二つに切断され地面に落ちる。

それを観た弦八郎は、見事だな…と市に声をかけて来たので、市は照れくさそうに、メ○ラ蛇に怖じずでございますと返す。

とある家からヤクザ風の男たちが数人出て来ると、家の中では、その男等に襲われた主人が血を流して倒れており、女房が泣きながらすがりついていた。

近くを通りかかった市は、異変に気づき、家の中に入って来て倒れていた亭主の様子を知ると、これは大変だ、早く手当をしないと…と言う。

市は、その家の息子に案内代わりにヒモを引かせ、市自ら大八車に乗せた亭主を、医者の家まで運んで来る。

それを見かけた住民たちは、メ○ラが大八車を引いていると驚く。

医者の順庵(志村喬)の所で父親が治療を受けている間、市は表で、子供に、誰がやったんだい?ヤクザかい?黙って観てたのかい?などと聞いていたが、子供は、だって、相手はヤクザだぜ…と答えるだけだった。

順庵の娘お志津(三木本賀代)は、急所は外れているので命に別状はないが、2、3日は動かせないんですって…と、容態を聞いた市に教える。

新作を運んで来たのはお前さんかい?不自由な身体なのに良く運んでくれたねと順庵も、市に声をかけて来る。

子供は、帰る市に、おじちゃん、ありがとうと礼を言う。

「よしだ屋」と言う宿に泊まった市は、二階が騒々しいのに気づくが、その時、按摩を頼まれる。

その依頼主は、二階で、女たち相手に傍若無人に騒いでいたごろつきたちの1人、源太(北城寿太郎)であった。

市は、座っていた源太の側に近寄るまで、畳に置かれていたお銚子などを巧みに避けてみせたので、面白がった仲間の1人が、刀の刃を市の足の下に置いて試すが、市はそれも器用に、足の裏で押し倒して踏んでみせる。

お客さんたちは、どこかのお身内ですか?と、肩をもみ始めた源太に聞いた市だったが、俺たちはヤクザじゃねえよと言われると、じゃあ、ごろつきか…、堅気じゃござんせんね?大体見当はつくんですが、それを言って命を取られたら困るので…と挑発してみせたので、その場にいた連中は急に気色ばむ。

市は、わざと、痛い筋を押してみせたので、怒った源太はもう良いと言い出す。

市は仕方なく、上だけですから10文頂きますと申し出ると、源太は、ろくに揉まないで…、帰れ!と怒鳴りつける。

市がそれでは困るとごねると、源太は10文を市の前に放って来る。

それを拾おうとした市は、自分の顔に、刀が数本突きつけられているのに気づき動きを止める。

刀を突きつけていたごろつきたちは、面白がって、市の顔に傷をつけて行く。

耐えかねた市は、仕込みに手をやろうとするが、その時、何をしている?と言いながら部屋に入ってきた浪人がいた。

小鹿野弦八郎であった。

市が帰って行った後、弦八郎は、俺の来るのがもう少し遅かったら、お前たちの首は飛んでいたぞと忠告するが、源太らは、その言葉を信用しなかった。

一方、宿を出た市を観ながら、あの按摩か?兄貴をやったのは…と、お秋に確認していたのは、勘造(小松方正)と一緒に身を潜めていた粂次(井上昭文)だった。

お秋は、ただの按摩じゃないね…と、市の後ろ姿を観ながら言う。

飲み屋に入った市は、そこで1人飲んでいた順庵と再会する。

順庵は、市の傷が付いた顔を見て、どうした、その顔?と聞くが、市は、何でもありませんと答える。

宿でも追い出されたのか?と聞かれた市が、こっちから出て来ちまったんですよ…と言うと、それじゃ、寝る所を決めんといかんな。良し、わしの所へ来い。

按摩鍼灸も医者のうち、当分わしの所を塒にして稼ぐと良いと言うので、先生の所で稼げますかね?と市は問いかけるが、順庵はすっかり市を気に入ったようだった。

その頃、地元の岡っ引き大宮ノ松五郎(土方弘)の家に訪ねて来たお秋は、親分におすがりしたい。匿ってもらいたい私の仲間6人がいると頼む。

それを聞いた松五郎は、まさか、お手配中の?と察するが、御上から十手捕り縄を預かっている大宮ノ松五郎と知って来たのか?と呆れるが、そこに、当の6人が、銃を構えた源太を先頭に乗り込んで来る。

勘造は、関八州見回りがこの宿を通り過ぎるまでだと期限を伝えるが、松五郎の方も、こっちの頼みも聞いてもらいたいと交換条件を匂わせたので、下手な小細工をすると一蓮托生になることを覚えておけと勘造は釘を刺す。

市は、順庵の家で、患者たちの接客などの手伝いをするようになる。

患者から鯉をもらった市は、これを肴に酒が飲めると喜んで順庵に伝えるが、順庵はそれを、乳の出が悪い女の患者に持たせてやれと言う。

お志津も、治療費を受け取るどころか、その女に、鯉に加えて、もらった野菜などまで渡して帰したので、市は驚いて、患者さんにいつもものを上げるんですか?と聞き、お志津がそうよと答えると、それで商売になるのかな?と呆れる。

やがて、関八州見回り役人が、松五郎の家に投宿する。

役人は松五郎に、例の兇党一味が武州へ来たと聞いておるか?と聞くので、川越、熊谷、寄居で起きた事件も一味の仕業と聞いておりますと返事をし、何か伝えようとするが、そこに、頼まれてもいないに、酒を持ってきて居座ったのはお秋だった。

女子供を平気で刺し殺す残忍非道な輩だと役人は教え、最近は、絹で景気が良いようだな?と、お秋を観ながら松五郎をからかうと、自分は1日で引き上げると伝える。

その頃、松五郎がやっている機織り場にやって来た老人五助が、娘のお清に合わせてくれと、見張り役をやっていた松五郎の子分に頼んでいたが、けんもほろろに追い出されてしまう。

その機織り場の二階にごろつきたちは閉じこもっていた。

松五郎って奴はひでえ奴だな、飯も食わせないで働かせてやがる…と、近隣の娘たちをこき使っている機織りの実態を知った勘造がぼやく。

そんな勘造に、亥之吉と伝次をやったのは、市と言うのは本当か?とヨサが聞く。

ワケが言うこった、まさかウソじゃあるまいと勘造は答えるが、それを聞いていた源太は、じゃあ、昨日の按摩かな?相手はメ○ラよ。これでズドンとやれば…と、手持ちの単筒を取り出して笑う。

粂次は、得意の手裏剣を窓際のトンボ目がけて投げつけ、串刺しにする。

そこにやって来たお秋は、見回り役は1日で帰るよ。あの按摩は、順庵とか言う医者の家にいると報告すると、弦八郎が、順庵?と聞き返し、すぐに、何でもないとごまかす。

市は、お志津について、熱冷ましに効果があると言う野草摘みに来ていた。

何とか集まったので、一休みする事にしたお志津は、市さん、いつから眼が見えなくなったの?と聞く。

すると市は、8つくらいの時ですかね…と答え、始めのうちは、青も赤も覚えていたんですが、忘れまいとすればするほど段々消えちまって、暗闇だけが残りましたと打ち明ける。

お志津の方も、自分には兄がいるんだけど、江戸にいる時、家を出てしまって、もう5年になると教えると、ボン祭りがすむまでいても良いんでしょう?と市に聞く。

2人は、白い花が咲く野原を愉快そうに一緒に帰って来る。

すると、家の前に、五助が出かけた順庵を待っていたようで、娘のお清が病気で寝ていると聞いて機織り場に行ったが会わせてもらえず困っていると言う。

それを聞いた先生は?お志津は、松五郎さんの折り場なんかにやるからよと忠告する。

そんな2人の会話を、横で汗を拭いていた市もそれとなく耳にしていた。

市は、その後、その機織り場に出かけ、松五郎の子分たちに、松五郎の折り場は地獄だって聞いたんで、見せてやっておくんなさいと言いながら、中に入ろうとしたので、見たいたって、お前見えるのかよ?見せてやるよ、痛い目をなどと子分たちはからかおうとするが、市は居合いで脅かすと、お前んとこの親分に言っとくんだ、座頭市が挨拶に来たって…と言い残して帰る。

その様子を観ていたお秋は、粂次に、按摩だよと知らせる。

竹林にやって来た市を待ち受けていた粂次は、てめえを仇に狙うものだ。念仏河原でおめえにやられた2人連れの1人は、俺の兄貴だと声をかける。

メクラをさんざんからかって来た上に、向うから切りかかって来たのよと市が説明しても、聞く耳を持たない様子。

市の背後にも、もう1人ごろつきが現れ、市をからかう。

粂次は得意の手裏剣を投げようとするが、そこにやって来た弦八郎に、命を捨てる気か?真っ向から立ち向かって討てる相手ではない。お前の手裏剣が手を離れる前に、あいつはお前の目の前に来ていると忠告し、止めさせる。

粂次は、闇夜の礫ってこともあるんだぜ!覚悟しておけ!と市に言うと、メ○ラに闇夜はねえよと市は苦笑する。

粂次が去った後、その場に残っていた弦八郎は、又会ったなと市に声をかける。

その後、飲み屋にやって来た弦八郎は、市がいる事に気づくと側に来て、順庵と言う医者の家にいるそうだが?以前からの知りあいか?と聞く。

市が、あんな先生は初めてだと褒めると、人の良さは外見では分からん。人間、心の裏は他人には覘かせぬものだなどと弦八郎が言うので、お前さん、あの先生に恨みでもあるんですかい?と問いかけ、帰り際、酒代にと弾いた小銭を、弦八郎が持っていた盃の酒の中に見事に投げ入れると、一緒に払っといて下さいと言い残して先に帰って行く。

その日の診察を終えた順庵の肩を市が揉んでいると、そこに突然やって来た松五郎の子分仙之助(水原浩一)が、市に仁義を切ると、若えもんが無礼を働いたそうで、お詫びの印に一献親分がさせ上げたいと申しておりますと言って来る。

それを聞いていた順庵は、お前さんはヤクザだったのかい?わしはヤクザが大嫌いでね…と、市に言い聞かす。

市は黙って、子分等が用意して来た駕篭に乗ると、ちょっと寄り道させてもらうよと子分に頼む。

松五郎は、やって来た市が、五助を一緒に連れて来たので面食らう。

この地に来たんなら、堅気の家に泊まらなくても…と松五郎は市に、うちに泊まってくれりゃ良かったとでも言うように話しかけるが、市は、親分さんの所にわらじを脱ぐような用がなかったもんですからと市は笑うので、松五郎は、渡世人は渡世人同士じゃないかと市に言い含めようとし、何だい?その連れは…と聞く。

市は、この人の娘さんが、親分さんの所の折り子としてお世話になっているそうなので、挨拶させようと連れてきました。その娘さん、ちょっとここへ連れて来て下さいと言い出す。

仕方なく、松五郎は仙之助に、この父っつあんを織り場に連れてってやれと言いつけるが、市は、ここに連れて来てくれって言ってるんですよとしつこく迫り、その娘さんの年期を棒引きにし、証文もこの父っつあんに返してやってくれと言うので、お前さん、ここへ何しに来たんだ?と松五郎は不機嫌になり、他の織り子たちに示しがつかないと言う。

すると市は、つかない方が、他の織り子さんも喜ぶんじゃありませんかね?と言うので、さすがに我慢して聞いていた松五郎も気色ばむが、市も、あっしも手ぶらじゃ帰れませんよと言いながら、仕込みに手を延ばし、松五郎が、酒を勧めると、そのとっくりを、縦十文字に切り割ってみせ、もう1度、娘さんを連れて来ておくんなさいよと申し出る。

さすがに肝をつぶした松五郎は、やむなく、お清を呼びに行かせると、市に言われるがまま、証文も渡す。

市は受け取った証文を拡げ、五助に中身を確認させると、目の前にあった火鉢でその証文を燃やしてしまう。

その頃、お秋は、仲間たちから、仲間内では大した男らしいと言う座頭市の事を聞いていた。

お清が連れて来られると、市は五助に、松五郎親分に礼を言わせ、そのまま娘と一緒に帰らせる。

おおきに、ごっつぉうさんでしたと市も礼を言い、家を出る。

夜道を帰っていた市は、後ろから付けて来たお秋に、何か用ですか?と聞き、この匂い、どっかで嗅いだ事があるな…、土砂降りのとき、破れ小屋にいた人と同じ匂いだと言ったので、お秋は知っていたのかい?と驚く。

さらに、お前さん、仲間がいるね?と見透かされたお秋は、メクラでヤクザで居合い抜きの名人で…、得体の知れない人だね、お前さんって人はと口を開き、命は1つだ。気をつけなよと警告して帰って行く。

その後、市は、闇の中から手裏剣を投げられ、それが当たって倒れたかに見えた。

待ち伏せていたごろつきどもが、やったぞと喜びながら近づいて来るが、そのとき、ふいに立ち上がった市の仕込みに、手裏剣が刺さっていた。

市は居合いを見せると、命は1つだ。気をつけなよと、さっきお秋から言われた言葉を返すと立ち去って行く。

それを呆然と見送ったごろつきたちの着物は全員斬られており、1人は素っ裸になってしまう。

その頃、順庵の家にやって来たのは小鹿野弦八郎だった。

はじめは、誰だか分からなかったお志津だったが、すぐに、兄さん!と気づく。

しかし、薬を引いていた順庵は、そんなものはおらん。あいつは5年前、江戸で人を斬って行方をくらました。それも、詰まらん喧嘩沙汰で…、生きていても、どうせろくな暮らし方はしておるまいと相手にしない。

相変わらずだな…と呟いた弦八郎はお志津に、いつからここにいると聞き、3年よ、兄さんは今?とどこと定まる所はない。順庵と言う医者がいる事を聞いてふとやって来たが、もう2度と来ないと言い捨てて帰って行くので、お志津は、お父さんに謝って!と止めようとする。

俺は親爺のように薬を引いて暮らせんたちだ。お前は小さい頃とちっとも変わっておらんな。親爺を頼むぞと言い残して帰って行く。

玄関口で泣いていたお志津の元に帰って来た市は、どうしたんです?先生に叱られたんですか?などと聞きながら、一緒に家の中に入る。

順庵に訳を聞いた市だったが、内輪の事だ、聞かないで欲しいと順庵は不機嫌そうに言うが、市が詫びると、誤解せんでくれよ。お前さんに怒っているんじゃない。さっきはヤクザと知ってあんな事を言ってすまんかった。お前さんはわしたちには按摩の市さんとしての付き合いしかしておらんと謝る。

そして、どうだ。お前さんも立派な腕を持った按摩だ。ヤクザの足を洗って落ち着くつもりはないか?秩父の里も住めば都だなどと勧め、内輪の事に口を出すなと言っておきながら、差し出がましい事を言ってすまんなと照れながら、気兼ねなく、ここにいてくれと頼む。

ある日、村で眉市が立つが、そこにやって来た松五郎一家が今年から俺たちが仕切ると言ったはずだと因縁を付け、店を壊し始める。

見かねた名主の徳左衛門(南部彰三)がやってきて、そんな話は承知していない。こうなったら、お役人様に申し出て、お裁きをつけてもらうと毅然と抗議をする。

その後、松五郎は、機織り場の二階のごろつきたちに、徳左衛門を斬って欲しい。ちゃんと逃げ道は作ってあると申し出る。

お前の頼みってのはこれだったのかと、勘造は苦笑する。

外は雨が降り始めていた。

徳左衛門の屋敷に押し込んだごろつきどもは、徳左衛門を始め家人たちを皆殺しにし、帰り際、偶然すれ違った荷車を引いた夫婦者まで惨殺し、荷車の上の駕篭の中にいた赤ん坊まで泣き出したので刺し殺そうとするが、勘造に呼ばれたので、止めて去って行く。

順庵に付いて徳左衛門の屋敷にやって来た市は、その場にいた松五郎に、親分さんも寝覚めが悪いね。普段、諍いの相手がこんなことになって…と嫌味を言い、親分さんの機織り場の2階に、妙な野郎がうろうろしてますよ。メ○ラはメアキに見えねえものが見えちまうもんですからねと笑いながら耳打ちする。

屋敷から出て来た順庵が、もう医者の出る幕じゃないと言って帰るので、お前さんも気をつけるこったね…と松五郎に言い残して市も帰る。

ドメ○ラめ…と悪態をついた松五郎だったが、いつ等あいつが嗅ぎ付けたって、とっくにホシは消えちまっていますよと仙之助に慰められる。

ところが、役人に走り回され疲れた松五郎が家に戻って来ると、あのごろつきどもが家の中に戻っているではないか。

勘造は、猪野田の手前まで言ったが、そっから先はすっかり手が回っていたぞと睨んで来る。

松五郎は、俺が罠を仕掛けたんなら、ここの戻って来るはずないでしょうと弁解する。

それでも勘造が、しばらくここにいさせてもらうぞと言い出したので、それは困る、役人お出入りも多くなるし…、早急にもっと安全な所をこしらえますから移ってくれませんかね?下手をすると、あっしの首まで飛ぶんですからねと松五郎は頼む。

取りあえず、又機織り場に来た松五郎が、お秋にも別の場所を探すと伝えて帰った後、お秋は、織り場の中で物音がしたので、猫のタマがいるものと思い込み中に入って探すが、そこにいたのは市だった。

お秋は暗闇の中で下駄を脱ぐと、別々の方向にそれらを投げて市の耳を狂わそうとするが、市にそんな小手先の技が通ずるはずがなく、あっさり捕まると、名主の屋敷を襲ったのは二階にいる連中だなと市から聞かれる。

知るもんか!どうとでもしろ!と強がりを言ったお秋だったが、お前さんは生まれ変わるんだよと言いながら市が居合いを見せると、息を止める。

しかし、彼女は斬られておらず、着物の胸元だけが斬り裂かれており、この切っ先が後5寸も伸びてたら、お前さんの命はなかったとこだぞ。今からでも遅くねえ、生まれ変わるこったと言い残して市は立ち去って行く。

戻って来た粂次たちは、機織り場の中で腰を抜かしていたお秋の異変に気づくと、外に走り出る。

そこには、市と対峙していた弦八郎がいた。

弦八郎は、手出しをするな!と仲間たちに声をかけるが、源太の撃った銃で、市は左肩を射抜かれる。

それでも必死に弦八郎の剣を防いだ市は近くの川に飛込み難を逃れる。

そこに松五郎も駆けつけ、川に落ちた。生死は分からんと弦八郎から聞くと、子分を使って、小舟を繰り出し、市の行方を探し始める。

子分たちは、川沿いの漁師たちにも、市を見つけたら知らせるんだぞと命じて帰るが、その漁師が小屋に戻った途端、奥に隠れていた手負いの市に気づき怯える。

市は、漁師たちに、焼酎をくれと頼むと、自ら仕込みの剣を抜き、その切っ先で自らの傷口を斬り裂き、中に入っていた銃弾を抜き取ると、もらった焼酎を吹きかけ、あまりの激痛に気を失う。

漁師たちは、その市を順庵の所に連れ込むと、自分で弾を抜いたと教える。

順庵は、松五郎の子分たちにやられたに違いないな。わしに迷惑かけまいとやったんだろう。バカな奴だと呆れながら手当をする。

一方、松五郎は、あの野郎が生きていたら面倒な事になると心配していた。

お志津は、何とか気がついた市を看病しながら、乱暴だわ、市さん、自分で弾を抜くなんて…と叱り、市は神妙に、すみません。かえって面倒かけちまって…と謝る。

市が順庵の家にいるとの知らせを子分から受けた松五郎は、やるんだ!と命じる。

ところが、仙之助ら子分たちが順庵の家に駆けつけると、市はいない。

どこにいるんだ!と詰問しても順庵は答えようとしないので、子分たちは、お志津と順庵を松五郎の家に連れて行く。

それを観かけたのが、以前、市に父親の新助を助けてもらったあの子供だった。

子供は、両親の家に走って帰ると、順庵先生とお志津さんが、松五郎の子分たちに連れて行かれたよと教える。

しかし、両親は、市さんに知らせるんじゃねえと止める。

市は、その家の奥に寝ていたのだが、子供の言葉をしっかり聞いていた。

機織り場に連れて来られていた順庵とお志津は、子分たちに拷問を受け、市のいる場所を聞かれていた。

松五郎は、口を割らない順庵に、今夜一晩経ったら、娘の身体がどうなるか…などと脅す。

その頃、薬を持って奥の部屋に来た子供は、寝ていたはずの市がいなくなっている事に気づく。

市は、風が強まり、稲光が走る中、満身創痍の状態で松五郎の家に向かっていた。(そこに勝新の歌が重なる)

雨が止んだぜと、機織り場に残っていた松五郎の子分が、戸を開けた瞬間、倒れる。

見張りを全員倒した市は、先生!と呼びかける。

市っあん、ここだ…と呼びかけた順庵は、お志津さんは?と聞かれたので、松五郎の家だと教えるが、よろよろと市が向かおうとすると、市っあん、その身体で!と止めようとする。

しかし市は、この身体は粗末にしませんと頭を下げ、機織り場を出て行く。

いかん!市っあん、行ってはならん!と止めようとした順庵だったが、こちらも動けなかった。

その頃、松五郎は、家に連れて来たお志津を、素っ裸にして吊るしとけ!と子分たちに命じる。

悲鳴を上げるお志津の着物を剥ごうと子分たちが迫っていると、1人の子分が急に倒れる。

駆けつけた市に気づいた子分たちは、次々に市に斬られて行く。

お志津を助け出した市だったが、そこにやって来たお秋が、さ、私が案内してやるよと言う。

市がためらっていると、一旦、お前さんに斬られたこの私、助けたいんだよと頼むと、市は黙って、お志津を引き渡す。

信じてくれたんだねと喜ぶお秋に、機織り場に先生がいるんだ。お志津、間違いなく頼むよと声をかけた市は、騒ぎに気づいて駆けつけて来た子分たちを斬って、2人を外に逃がす。

そこへ松五郎がやって来て、子分たちが斬られた惨状を目撃する。

仙之助たちは、畳に落ちていた血痕の後を追って市の居場所を探すが、いきなり横の暗がりから出て来た市は、地獄から迎えに来たぜ。てめえが一緒じゃねえと、三途の川も渡らせてくれねえ。閻魔様がお待ちかねだと良いながら松五郎に迫ると、あっさり仙之助の咽を突いて殺す。

市は、右肩から出血しながら、ふらふらになりながらも子分たちを斬って行く。

松五郎は、斬れ!と残りの子分に命じながらも自分は奥の部屋に逃げ込む。

外が静かになったので、そっと別の戸から逃げ出そうと移動した松五郎だったが、外に先回りしていた市から、引き戸ごと斬られる。

お秋とお志津は、機織り場で順庵を助け出すが、順庵は、わしは大丈夫だ。それよりも市っあんだ!あの身体で!と心配する。

市が、出血した右肩を縛っていると、そこに粂次の手裏剣が飛んで来る。

何とか、それを避けた市だったが、決着を付けてやらあ!と叫びながら近づいて来たごろつきに囲まれる。

市は、最後の力を振り絞って、勘造を斬り、粂次の左腕を斬り落とす。

今度こそ逃さんぞ!と言いながら対峙した弦八郎だったが、市の居合いの前に倒れる。

そんな弦八郎に、兄さん!と叫びながら近づいて来たお志津が泣きながらしがみつく。

それを近くから呆然と見るお秋と順庵。

市は、その悲痛なお志津の声から逃れるように、後ずさりしながら、黙ってその場を去って行く。

その姿は全身血まみれだった。

そんな市に順庵も、何も呼びかけられなかった。

よろよろと立ち去って行く市に、勝新の歌が重なる。