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座頭市血煙り街道

シリーズ第17弾

タイトルロールで勝新が歌う主題歌が流れるし、又もや、旅芸人一座の荷車の上で中尾ミエが歌謡曲を歌っているし、チャンバラシーンの連続と言うよりも、子供と市との心のふれあいの方に重きを置いている…と言った感じで、何だかTVシリーズでも観ているような雰囲気になる。

通俗化と言えば通俗化なのだが、元々芸術映画だった訳ではなし、初期の頃は男性客を意識したような内容だったのが、人気が出て来たので、もっと幅広い層に向けてファミリー向けの大衆娯楽になったと言う事だろう。

中尾ミエ、なべおさみなどと言ったナベプロタレントや、東宝系の常連だった田武謙三なども出ていると言う事は、東宝が映画製作から手を引き出した時期だった事もあるのかもしれない。

ところが、前半のバラエティ風の雰囲気も、途中から徐々に雰囲気が変化して行き、クライマックスは、鬼気迫る凄腕の相手との壮絶なチャンバラになる。

この悪鬼のような形相の相手役を演じているのが、松方弘樹や目黒祐樹の父親である近衛十四郎で、通常、市と最後に対決する運命にある浪人とは少し違う役柄になっている。

通常の浪人役は、どんなに市と心を通わせようと、最後は市に倒される運命にあるのだが、ここでの赤塚多十郎は、市とは互角の腕である。

市は、相手に致命傷を与えられないまま自ら仕込みを捨ててしまい、最後は身体でぶつかって行く。

赤塚は、まだ左手で刀を振り上げる力を持っており、通常であれば、ここで赤塚の勝ちになるはずである。

しかし、赤塚は市を斬らなかった。

座頭市の情に屈した…と言うより、理解したのである。

それまでの悪鬼のような形相が、ふっと素の表情に戻るのは、人間の心を取り戻したと言う事だろう。

チャンバラの名人だったと言われる近衛十四郎と市との壮絶なチャンバラが凄まじく、この緊迫のアクションシーンを観るだけでも、この作品は価値がある。

憎々しいヤクザを演じている小池朝雄と、そのややコミカルな手下役を演じている田武謙三が目立つが、その分、小沢栄太郎、松村達雄、草薙幸二郎辺りは、やや地味な印象の役柄になっている。

女優陣は何人も出ているが、総じて顔見せ程度と言った感じで、これが本作のヒロイン!と言いたくなるような目立つ役柄は見当たらない。

あえて言えば、庄吉に惚れて逃がしてやろうとするお仙を演じている坪内ミキ子が印象に残るくらいか?

高田美和もヒロインと言うほどの重要な役ではないが、いつも通り愛らしく可憐な役を演じており、か弱い立場として、子役と共に、クライマックスの戦いの緊張感を強調する役目になっている。

娯楽映画としての出来は、シリーズの中では平均作と言った所ではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、大映、子母沢寛原作、笠原良三脚色、三隅研次監督作品。

旅を続けていた市の耳に、背後から走り寄って来る複数の足音が聞こえて来る。

同じく背後から歩いて来た浪人が、しゃがみ込んでわらじのヒモを結わえ直そうとした市とすれ違った直後、追って来たヤクザの一団が市を取り囲むと、市、覚悟しやがれ!おめえに斬られた親分の墓に、そのメ○ラ首をさらしてやるぜ!と啖呵を切り、斬り掛かろうとするが、瞬時に市の居合いで全員倒されたので、一瞬立ち止まり、後ろを振り向いた浪人赤塚多十郎(近衛十四郎)が、座頭!なかなかやるな!と呼びかける。

紅葉の森を背景にタイトル

勝新が歌う「座頭市の歌」が流れる中、キャストロール

「とらや」と言う旅籠に泊まった市は、相部屋になった相手が、男の子と病気で寝ているその母親らしいと気づくが、薬を子供に飲ませてもらおうとすると、もうその薬がないと言うので、じゃあ、水だけでも…と母親は頼み、起き上がって、水を飲もうとするが、その時急に苦しみ出す。

市は、その母親の背中をさすってやる事にし、子供は水を取りに部屋を出て行くが、苦しがる母親おみね(磯村みどり)は、何とか命あって、あの子を父親に会わせたくて…、前原宿の庄吉と言う絵描きなんです…と言い、市に飾りが付いたキセル入れのようなものを託すと息絶えてしまう。

その遺体を近くの寺に収めた市は、そのキセル入れを帯に刺した、良太(斎藤信也)と言う子供を連れて、前原宿まで連れて行ってやる事になる。

すると、良太が勝手に走り出したので、市は慌てて呼びかけるが、良太は、旅芸人一座の荷車に乗せてもらったと言い、役者のともえ(朝丘雪路)が、箕輪の宿まで行くので乗って行きなさいと、子供の連れだと言う市にも勧めてくれたので、市は恐縮しながらも、乗せて行ってもらう事にする。

荷車に乗っていた娘芸人のみゆき(中尾ミエ)が歌を歌い出す。

やがて、一服し、市がともえの肩を揉んでやっていると、みゆきが巧いわね~、太夫にそっくりよと良太が描いた絵を褒めたので、その子は絵が描けるんですか?と市は聞く。

一緒にいて知らなかったのかい?とともえは聞くが、そりゃ無理よ~とみゆきが横から口を出したので、市の目の事とに気づいたともえは恥ずかしがる。

その手の事に慣れている市は、笑いながら、目は見えなくても、太夫がきれいな事は分かりますよとお世辞を言う。

そこに、箕輪の親分から迎えが来たと座員が知らせに来て、3人の迎えが近づいて来たので、ともえは、親分さんはお達者で?と挨拶するが、子分衆はええ…と答えながらも、何故か顔を曇らせる。

その時、金井の万造一家が迎えに来たぜ、これからはこの万蔵一家が道案内だなどと言いながら、別の一団が近づいて来て、この方々は毎年、箕輪の惣兵衛親分が呼んでいる大切な一座だと立ちはだかった箕輪一家の者たちに乱暴を働き出したので、ともえは困惑し、金井の万造親分なんて観た事も聞いた事もない。私たちは箕輪の惣兵衛親分に呼ばれて来たんですときっぱり言い放つ。

すると、力づくでも連れて行くぜなどと万造一家がともえに手をかけて来たので、市は助けに行こうと立ち上がりかけるが、良太が仕込み杖にしがみついて離れない。

その時、通りかかった赤塚が、天下の街道で乱暴狼藉は許さん!と言うと、万造一家をあっという間に、峰打ちで痛めつけてしまう。

万造一家が退散すると、ともえが、赤塚の旦那!と浪人に呼びかける。

太夫に会うのは5年振りくらいかな?と応じた赤塚は、旅の一行が横を取り過ぎたのに気づくと、わしは先を急ぐので、達者で暮らせと言い残して立ち去って行く。

荷車の陰から起き上がった市がともえに、今のお侍さんの声は確かどっかで?と呟くと、浅草の奥山の小屋に出ていた頃、御贔屓にしてくれた方で、あの頃は立派なお侍さんだったんだけど、御浪人なすったのかしら?と言う。

みゆきが良太に、まだ震えているよと言い、それを聞いた市も良太、お前は臆病だぞ!からかうと、おじちゃんは眼が見えないからだよと良太は反論する。

それを聞いた市は、おじちゃんも怖かったんだ、眼が見えたら、お前を置いて逃げちまったかも知れないぞと良太の頭をなでてやる。

箕輪の宿に着き、惣兵衛親分(水原浩一)に挨拶に来たともえは、これで土地の衆との約束も果たすことが出来ましたと言う惣兵衛に、前原宿は親分さんの縄張りでしたね?と確認すると、恥ずかしい話だが、万造に追い出されてしまってね。せめて最後の思い出に、お前さんたち一座の興行をさせてもらおうと思いましたねと惣兵衛は寂しそうに打ち明けて来たので、ともえも沈痛な面持ちになる

ともえ太夫一座の小屋がかかり、座長の絵看板を観に来た地元の大工半三(なべおさみ)が座長のともえ太夫と言うのはえれえ別嬪で…などと仲間たちと喜んでいると、良太と一緒に絵看板を見上げていた市に気づいたので、お前さんのようなメ○ラで、あの絵看板が見えるはずねえだろうとからかう。

皆さんの話が耳に入るもんで…と市が答えると、半三は調子に乗り、俺は今業平と言われる色男で、大金持ちの1人息子などと大ボラを吹き、ちっとは俺の事が見えて来たかい?とからかう。

すると、あんまりメ○ラをからかうもんじゃねえ。お前さんは大工だろう?と言い当て、どうして分かったと聞かれると、大工道具の音がしていると答えた市は、半三の顔を手でなで、ひでえ色男だ…と顔をしかめながら、手ぬぐいで手を拭いてみせる。

かちんときた半三は、じゃあ、おめえさんに、こんな事が出来るかい?と市を呼び止め、一文銭をどっちの手に握っているか当ててみなと挑戦して来る。

当てたら百文やるし、当たらなければ百文もらうと言う。

市は、半三の右手から、左手に移し替えられた一文銭のトリックを見事に言い当て、百文出しなよと言うが、半三は、今持ち合わせがない。この通りだ、御メ○ラさんなどと言い出す。

三べん廻ってワンと言えば許してやるよと市が言うと、半三は仕方なく犬の真似を始めるが、その時、目の前に市が投げ捨てた一文銭が落ちている事に気づいたので、それを取ろうと手を延ばすと、市の仕込み杖の先で突かれてしまい、キャン!と鳴く。

おじちゃん、ともえ姉ちゃんの顔が観てえか?と良太が聞いて来たので、見えるもんなら観たいねえと市は答える。

すると、良太は市を近くの河原に連れて行き、砂に描いた女の顔を市に触らせ、ほら、見えるだろう?と言い出す。

しかし、市が触ってみると、痩せた貧相な顔に感じたのでそう言うと、おっ母ちゃんの顔だい。姉ちゃんの顔を描いていたら、おっ母ちゃんの顔になったんだいと言うので、それじゃあ、仕方ないな、もういっぺん描いてみなと市は勧め、棒を渡す。

ところが、出来たと言う新しい顔を触ってみると、鼻の下にひげが描いてあるので、市が怒ると、だって、おっ母ちゃんの顔の悪口を言うからだいと言って良太は逃げ出す。

市が一座に戻って来ると、前原の権造親分の所へ行けって言うんだ!とともえに命じている金井の万造(田武謙三)の声が聞こえて来る。

ともえが断ると、じゃあ明日の初日は変えられねえと言うんだな?俺の一存でこの興行を止めさせる事も出来るんだぜ?などと凄んで来た万造だったが、そこに茶を運んで来た市は、わざとその湯のみを万造に引っかけ、さらに、気がつかない振りをして身体もひっくり返してしまう。

激怒した万造が、俺を誰だと思ってやがると怒鳴ると、存じませんと市が素っ気なく答えると、前原の権造親分の弟分の柴の貞吉の盃を受けた金井の万造だ!などと威張るので、一口で言えば、ヤクザの手下の又手下ってことですな?と市はからかう。

万造は、利き腕を叩き斬ってやるから前に出ろ!と凄み刀に手をかけるが、気がつくと、左の眉毛が剃られていたので、おめえ、座頭市だな?と気づいた万造は狼狽する。

その面じゃあ、恥ずかしくて外に出られないだろうから、興行が終わるまでおとなしくしてなと市は言い、逃げ帰りかけた万造に、忘れ物だよと言って、みゆきが、落ちていた眉毛を額に貼付けてやる。

ともえは、市に凄腕に感心して礼を言う。

市はそんなともえに、今の事は坊主には言わないで下さい。あいつはこれをただの杖だと思ってますからと頼む。

ともえは承知し、これからも自分たちと一緒に旅してくれないかと頼んで来るが、あの坊主を一刻も早く、前原のお父っつあんに会わせてやりたいので…と市は断る。

そこに、大変だ!と言いながら血まみれの男が飛び込んで来て、惣兵衛親分が斬られなすった!権造一家がここにもやって来るかもしれねえので、すぐに出立するようにと…親分が…伝言する。

翌朝、市と良太は、土地を離れる事にしたともえたちの一座と別れる。

荒れた山道を登る時、良太が石があると教えるが、分かってるよと答えた市が蹴つまずいたので、おじちゃんは素直じゃないなと良太は呆れ、その良太の方も、転ぶぞと言われたのに聞かないでコケて痛がる。

いつまでも痛がるので、直るまで座ってろ、あばよと言って市が先に進むと、甘えていた良太も仕方なく立ち上がり、後を追う。

茶店で、1人分の握り飯を良太を分け合って食べていると、あの赤塚が横の台に座る。

腹が膨れた良太がその場で寝ると、その上をハエが飛ぶので、市は仕込み杖に手をかける。

それに目を留めて立ち止まったのは、又もや、通りかかった赤塚だった。

市が仕込みを抜いた瞬間、赤塚はや~っ!と大声を出したので、市は驚くが、ちゃんとハエはまっ二つに切られて落ちていた。

悪い冗談をしたなと赤塚が声をかけると、市は、先日はどうも、旦那は確か、赤塚多十郎さんとおっしゃいましたね?と市が当てたので、どうして知っていると赤塚が聞くと、旅芸人の一座と一緒におりましたので…と市は打ち明ける。

その前にも会っていると赤塚が教えると、覚えていますと市も笑う。

盲人の身で、あれほどの剣を使うとは、ただ者ではないなと赤塚は感心し、惜しい…、お前が常人の目を持った武士だったら…と隣に座って嘆く。

市は、握り飯代と草鞋を2足分と店の婆さんに払おうとするが、巾着袋の中に手を入れた途端、自分の草鞋は言いから、子供の分だけで言いと言い出す。

それを横で聞いていた赤塚は、肩を揉んでくれんかと声をかける。

赤塚の善意にすがる事にした市は肩を揉み始めるが、ともえ太夫の話によると、旦那、御浪人なすったとか…などと聞いてみるが、返事がないので、つまらない事聞いちまって…と謝る。

その時、旅の一団が前を通り、ここで一服しませんかなどと1人が言い出すが、この先にもっとましな茶店がありますよと言う者がおり、そのまま通り過ぎて行く。

すると、赤塚は、もう良いと言って、市に金を渡すが、過分な金額だったので、こんなに頂く訳にはいきませんと市が返そうとすると、わしの志だと赤塚は言う。

まだ、人のお恵みを受けたくありません。こんな事をすると気持ちがさもしくなりますと市は低姿勢に説明するが、わしも武士だ、一旦出したものを引っ込める訳にはいかん!通す!と我を張り出す。

困った市は、それじゃあ、肩だけお揉みしましたが、上下を揉んだと言う事で48文だけ頂きますと市が妥協案を出すと、変わった奴だ、好きにしろと言って、赤塚はその金額を渡し、店を出て行く。

メシ代と草鞋代で36文支払うと、受け取った婆さんは、これからどこまで行きなさる?と聞いて来る。

前原までだと市が答え、庄吉って知りませんか?知るわきゃないか…と一応尋ねてみると、確か、焼き物師の太兵衛の内の若ぇ衆が庄吉と言ったような…と婆さんは曖昧な事を言い出す。

それで、一応、市は、その太兵衛の家の場所を聞いて茶店を出る事にする。

良太にわらじを履かせると、良太は市の背中に飛び乗って来たので、そのままおんぶして旅を続ける事にする市。

焼き物師の太兵衛(松村達雄)の家を訪ねた市は、こちらに庄吉さんと言う方にお目にかかりたいんですが?と声をかけるが、いないと言うので、何時頃帰って来ますかね?と重ねて聞くと、そこに太兵衛の娘のおみつ(高田美和)がやって来る。

太兵衛は、ちょうど肩が凝ったから揉んでくれないか、家に泊まって良いからと言い出したので、市は、それは願ったり叶ったりで…と喜ぶ。

家の中で、太兵衛の肩を揉み出した市は、この子の母親が五日の宿で亡くなりまして、あっしはその時相部屋だったので、今際の際に、頼まれっちまいまして…。それで、よんどころなく、この子を父親の所へ連れて行く事になりまして…と説明する。

太兵衛は納得したようだったが、庄吉と言うのは、以前ここで焼き物の下絵を描いていたが、子供がいるような話は聞いていない。悪い奴に誘われて、権造の博打場に出入りするようになり、1年前から行く知れずだ。一時は、うちのと一緒にさせようなどと夢見たこともあったが…、バカな奴だ。多分、博打に負けて、粘土堀りの人足にでも使われているんだろうと言う。

すると、寝た良太の横で聞いていたおみつは、あの人はそんな人じゃない。気は弱いけど、ちゃんとした人よ。この子、庄吉さんの子供では?庄吉さんがうちに来たのは6年前、この子、あの人に似ているわ。この子が庄吉さんの子なら、事情によっては私が引き取って育てても良いわなどと言い出したので、太兵衛は怒る。

翌日、市は1人で、山の粘土掘りの場所へ行ってみるが、そこには権造の子分が見張っており、代官の許可がないと中に入る事は出来ないなどと言う。

それを聞いた市は、てっきり鬼権の許可があれば良いものとばかり…ととぼけたので、鬼権とは何だと子分は聞く。

鬼の権造のことで…、あたしが言ってるんじゃなくて、世間様がそう言ってなさるんで…と市が答えると、子分たちはいきり立ち、市を追い払ってしまう。

しかし市は、この辺の景色でも眺めるか…などと言い出したので、子分たちは呆れる。

市は、側の切り株に腰を降ろし、様子を見ることにするが、そこに近づいて来て横にしゃがんだのは赤塚だった。

市が、もう先に行かれたのかと思いましたが…と驚くと、ここが気に入ってな…と赤塚は答え、私は野暮用でここにいます。焼き物師の家にいますと市も教える。

お前の名は?と赤塚から聞かれた市は、市ってもうしますと答えるが、その時、堀場の中から3人の役人たちが出て来たので、赤塚も立ち上がり立ち去ろうとする。

旦那はどこに御泊まりで?と声をかけた市だったが、赤塚は、又会おうと答えるだけだった。

その頃、太兵衛の家に残されていた良太は、おみつにおじちゃんは?と聞き、岩場山の土取り場に行ったわ。ここで待っているようにって言ってたわと言い聞かせるが、良太は1人で、市が座っていた場所にやって来てしまう。

来ちゃダメって言っただろ!と市は叱るが、ご飯だから教えに来たんだ。ほら飴だよと言いながら拾った小石を渡す良太。

市は、飴か…と喜びながら口に入れるが、すぐに石だと気づく。

良太は愉快そうに笑い出すが、市が、その石を飴のようにしゃぶり、ごくんと飲んだように見えたので驚いて黙ってしまう。

しかし、市は、すぐに飲み込んだ振りをした石を口から出して観ると、わ~っ!と言いながら逃げて行き、市もその後を付いて家に帰る。

庄吉(伊藤孝雄)は、料亭「ふくべ」で、前原の権造(小池朝雄)に、出来上がった絵を見せ、自分はいつ帰してもらえるのかと聞いていた。

後10枚も描いてもらえば…などと権造が答えたので、それじゃあ、後1年もかかる。約束が違う!と庄吉が抗議すると、そこに代官手附、鳥越(小沢栄太郎)がやって来て、代官はお前のことを褒めておられる。辛抱して働いてくれと庄吉に頼む。

庄吉が下がると、出来上がった春画を観た鳥越は、あいつは名人だなと感心し、これを下絵に金泥の材料を使えば、加賀の殿さま辺りなら、5千両でも買い上げるだろうとほくそ笑む。

その時、江戸表より、釜場に使う下絵職人たちが着いたと権造は言い、部屋に入ってきた1人の職人は、気になる事があり、浪人が1人江戸からずっと付けて来ているようだと報告する。

それを聞いた権造は驚き、御公儀の…と推測するが、鳥越は、公儀が動けば情報が入るはずだが…、念のため、監視を厳しくしようと言い出す。

その料亭には、市に片眉を斬り落とされた金井の万造も来ており、用心棒と将棋を指していた。

なくなった眉は、筆で書き足してあった。

そんな万造から、絵描きって良い男らしいねぇなどとからかわれながら、女将のお仙(坪内ミキ子)は、奥の間に幽閉されていた庄吉の元にやって来ると、持って来た壺を見せながら、今度はこれに合うように絵を入れて欲しいんですってと頼む。

そして、上げ膳据え膳のように見えて自由がない身である庄吉に同情するように、私だって同じさ、力づくで権造に縛られて身動きできない…、できるなら、手に手をとって2人でここを出て行きたいと庄吉に迫って来る。

庄吉が答えないと、急に素に戻ったかのようなお仙は、バカだねぇ~、私は…、どうにもならない事を夢見てさ…、噓だよ、今の話は。だから、庄吉さんも聞かないことにしておくれ…と頼む。

そんな料亭にやって来たのは市だった。

中庭ですれ違った子分に、いたずらをやっているのはこっちですか?と聞いた市だったが、子分が何を!といきり立つのと同時に、仲居(毛利郁子)が、ちょうど今按摩さんを呼びに行く所だったんだよと近づいて来て、いきなり市を、鳥越のいる座敷に引っ張って行く。

鳥越は、役人仲間たちと花札をやっていたが、仲居が市を連れて来ると、さっそくやってもらおうと言う事になり、その場はお開きになる。

女将のお仙が市の手を引いて、鳥越の肩につかまらせると、前から聞こうと思っていたんですが、あの庄吉と言う人は、鳥越様が見つけ出して権造親分紹介なさったんですってね?などと聞く。

すると、鳥越は、お前、あいつに惚れてる訳ではあるまいな?二度とあいつの事を口にするな。わしは何も答えん!と不機嫌そうに叱る。

その鳥越が駕篭に乗って「ふくべ」を後にすると、すぐに、市が近づいて来て、加護かきを追い払うと、先ほどの按摩でございますと駕篭の外から話しかけ、ご無理を承知でお聞きしたい事があります。庄吉と言う人はどこにいるんでしょう?どうしても会わなくてはいけないので…と頼むが、さっきも聞いておったであろう。重ねて聞けば、お前の首が飛ぶぞと鳥越は駕篭の中から答える。

すると、市は、居合い斬りで駕篭をまっ二つに切ってしまったので、鳥越は驚いて外に出て来る。

旦那、たってのお願いでございます。庄吉さんの居所を…と重ねて尋ねるが、その時、鳥越の背後から近づいていた赤塚が、鳥越をあっという間に斬り捨てる。

赤塚の旦那でございますね?どうして闇討ちなさるんです?と問いかけるが、赤塚は、お前には関わりない事だと答えただけで立ち去って行く。

市は、死んだ鳥越の死体にすがりつくが、その様子を近くで目撃して逃げ出したのが金井の万造だった。

万造は権造に、鳥越様が市に斬られたと報告するが、その様子をじっくり聞いていた権造は、ひょっとすると、市は通りすがりで、その前に誰かが斬ったもかもしれんと想像し、本当に公儀の手が回っているのかもしれんと不安がる。

その後、万造は、太兵衛の釜場に近づき、帰って来た市を確認していた。

お仙は、用心棒を、親分が呼んでいると言って席を外させると、庄吉の部屋に忍び込み、見張りはいないからと言いながら、外へ連れ出そうとする。

そんな料亭に又やって来た市だったが、奥の方から、絵描きがいない!逃げたぞ!と、子分たちが騒ぐ声が聞こえて来る。

お仙は、庄吉を裏口から逃がそうとするが、外から子分たちが帰って来た事に気づくと、慌てて側の物置小屋の中に庄吉を隠す。

一方、市の方も、庄吉が逃げ出したに違いないと察しをつけ、勝手に料亭の中に入り込むと、中から物音が聞こえた裏の物置小屋の中に入る。

そして、そこにいるのは庄吉さんじゃありませんか?あっしは味方です。あっしと一緒に来ておくんなさいと声をかけ、中をのぞいて来た子分を倒すと、出て来た庄吉を連れて、裏木戸から出ようとする。

すると、お仙がやって来て、按摩さん、訳は知らないが、この人を頼みますと言って裏木戸から出すが、その直後、近づいて来た用心棒からお仙は斬られてしまう。

裏木戸から外に倒れたお仙に気づいた庄吉は戻ろうとするが、市はその手を引いて、近所の一膳飯屋に入り込み、権造の所から逃げて来たと事情を話すと、主人は、二階へ!と匿ってくれる。

庄吉は、自分が気が弱いばかりに、ずるずると引き込まれてしまって…と、お仙を死なせた事を悔いていたが、市は、持って来た飾りの付いたキセル入れを取り出して、お前さんのものですか?と聞く。

そうだと庄吉が不思議がると、おみねさん、知ってますね?と聞くと、これはその女にやったんですと庄吉は言う。

それを聞いた市は、良く覚えてやっておくんなさいました。それであの人も成仏するでしょうと答えたので、成仏?では…と庄吉もおかねが死んだ事に気づく。

あたしは旅先で知ったんだが、6年前、そのおみねさんに男の子を産ませたのを覚えていますね?と市が聞くと、庄吉は知らないと言う。

市は、今際の際に、おみねさんが、この子の父親は前原宿の庄吉と言ったんですが…と問うと、いくら言われても、覚えのない事は…と庄吉の方も戸惑っている様子。

それじゃあ、おみねさんとは何も出来てなかったんですね?と聞くと、そりゃあ、ありましたが…。ほんの1月ほどしか付き合ってないなどと庄吉が言うので、それだけ付き合えば子供は出来るだろう。この絵を観てやっておくんなさい。良太が描いたおみねさんの顔だ。どうです?と言いながら、懐から1枚の絵を取り出して見せるが、そこに描かれていたのは、どう観ても市の顔だった。

お前さんの血を引いて、巧いでしょう?と市が言うので、その子が描いたんですか?と庄吉が聞くと、旅の間、ずっと描いてたんです、何枚もね…。お母っちゃんだと言ってね。いじらしいじゃありませんかと市は言う。

しかし、それを黙って自分の懐にしまいながら、その子に会わせて下さい!と庄吉は頼む。

代官所では、江戸からやって来た隠密江見真之介(戸田皓久)が、絵皿を5枚、代官の前に並べながら、これらはいずれも絵師庄吉の元図によるもの、自分が職人となって、権造の釜場に入り、一切を確かめてあると、代官成山(杉山昌三九)に突きつける。

同じ場にいた赤塚も、悪党の権造と結んで、ご禁制の金泥を用い、ご禁制の絵皿を作り…、密かに裕福な大名に売り、さらに江戸の工商とも通じている…と追求すると、待て!、その事ならば、勘定奉行も御承知のはず…と成山が反論すると、されば類の及ぶ所計り知れず、関係者の命を絶って、一切、闇に葬る方針…と赤塚が言い、江見が刀を取ろうとした成山を斬ると、赤塚が、刀の鞘で絵皿を割って行き、残りは権造とその一味!と吐き出す。

その頃、太兵衛の家に乗り込んで来た権造一家は、庄吉をどこに隠した?と太兵衛に迫り、良太とおみつを縛って連れ出そうとする。

岩場の切り出しに連れて行け!と命じる子分たちを必死に止めようとした太兵衛だったが、背中から斬られてしまう。

その直後、庄吉を連れて帰って来た市は、倒れている太兵衛に気づく。

庄吉が抱き起こすと、岩場の切り出しにおみつと坊やが…、権造の子分に…と告げて、太兵衛は息絶える。

市は庄吉に、岩場に案内して下さいと頼む。

山にやって来た2人を、崖の上で待ち伏せしていた権造一家は、上から岩を下の道に落とし始める。

それに気づいた庄吉が市に危ない!と叫び、2人は、崖に身を寄せるが、庄吉は額に傷を受けてしまう。

そんな庄吉を連れて、切り出し場にやって来た市だったが、そこには権造一家が大勢で待ち構えていた。

市は、子分たちを次々に倒して行く。

生き残った1人の子分長吉(千波丈太郎)に刀を突きつけ、娘と子供はどこにいるんだ?と聞いた市だったが、そんなものはしねえと長吉がとぼけたので、刀を板に突き刺すと、相手の頬を叩いてさらに聞き出す。

えれえことになった。代官までやられたんじゃ、草鞋を履くしかねえと言いながら、逃げる支度をしていた権造に、万造は座頭市と庄吉を始末したのになってこったいと嘆き、用心棒の栗栖(草薙幸二郎)は、娘と子供はどうするんだ?と聞く。

行きがけに始末して下せえ、後腐れのないようにと頼んだ権造だったが、そこへ髷を斬り落とされ、ザンバラ髪になった長吉が倒れ込んで来て、その後から庄吉を従えて入って来た市は、この野郎と引き換えに娘さんと子供を返して下さいなと笑いながら入って来る。

よし分かった、栗栖さん、2人を連れて来てやっておくんなさいと、権造が指で斬る真似をしながら用心棒に頼むと、その栗栖の後から付いて来た市は、部屋の戸を開けようとした栗栖に、そこからは私にやらせて下さい。ばっさりやられては困るので…と言い、その言葉通り、刀を抜いて部屋の中に斬り込もうとした栗栖を邪魔すると、廊下で栗栖を斬り、おみつと良太が縛られていた部屋には庄吉が飛び込む。

市は、権造の子分たちを斬りながら、権造と万蔵を追いつめ、2人とも一緒に斬り殺す。

その直後、庄吉に縄を解かれた良太が、おじちゃ~ん!と呼びかけながら市に抱きついて来て泣き出す。

それをあやした市の背に、良太が負ぶさろうとして来るが、市さん、私におぶわせて下さいと庄吉が頼むので、自分の背中から離れようとしない良太を叱りつけ、庄三の背中におぶわせてやる。

雪が降って来た中、帰っていた市たちだったが、その時、市!と呼びかけるものがあった。

赤塚多十郎であった。

お前の側にいる庄吉と言う男を渡してくれと言う赤塚に、嫌ですねえ、薮から棒に…と答えた市は、庄吉に、このお武家様と何か関わりあいがあるんですか?と尋ねる。

しかし庄吉は、とんでもない、あった事もないと否定する。

赤塚は、その男を斬るのだと言うので、旦那、気でも狂ったんですか?と市は止めようとするが、公儀お役目で斬る。鳥越を斬って、お前に闇討ちと疑われたのもその一つ、権造はお前が斬ってくれて手数が省けた。こう言ったら、わしの役目も分かるだろうと赤塚は市に迫る。

権造と役人が悪党なのは分かりますが、この人に罪はありません。ただ脅かされて…と市はかばうが、御上ご禁制の絵皿作りに関わったのが身の不運。関わったものは、物と言わず人と言わず、証拠を一切断ち切って、騒ぎを防ぐのがわしの役目だと赤塚は言う。

この庄吉さんは、旦那もご存知の通り、あの子のてて親です。やっと子供と巡り会い、これから親子2人幸せに暮らそうって時です。見逃してやって下さい、後慈悲でございますと市は頭を下げるが、慈悲はかけられぬと赤塚の表情に揺るぎはない。

おみつも土下座して助けて下さいと赤塚に頼むが、邪魔立てすれば、女子供とて容赦はせぬ!と赤塚は動こうとせず、庄吉が、私は覚悟を決めました。良太とおみつさんの事、頼みますと市に言いながら前に出ようとすると、それを突き飛ばした市は、庄吉さんは渡さねえ!侍なんてのは勝手なものだ。自分の役目さえ果たせば、人はどうなっても良いんですかい?庄吉さんはどうやっても渡せねえ…と立ちはだかる。

許さんぞ!と赤塚も睨みつけて来る。

市は、良太に見せるんじゃねえ!と叫び、おみつと庄吉が良太を道の脇に隠す。

市と赤塚の壮絶な戦いが始まり、転んだ市は、斬り込んで来た赤塚の右肩付け根辺りを逆手に持った仕込みで突く。

そこに、江見が駆けつけ、庄吉の方へ向かったのに気づいた市は、自らの仕込みをその江見の背中に投げつけ刺し殺す。

それを見て驚いた赤塚は、悪鬼の形相になり、庄吉に迫ろうとするが、それを素手の市が抱きついて止めようとする。

赤塚は、そんな市に、左手一本で刀を振りかぶるが、やがてその鬼のような形相が和らぎ、市、わしの負けだ…と言い残して立ち去って行く。

積もり始めた雪には、その赤塚の身体から流れ出た血の痕が点々と付いていた。

村祭りの日、神社にお参りに来た市、良太、庄吉、おみつたちだったが、手を合わせた良太は、今まで横に立っていた市の姿がいなくなっているのに気づき、人ごみの中を追いかけて行く。

市に追いついた良太は、おじちゃん、おいらも行くと言ってすがりついて来るが、来るんじゃねえ!と怖い顔をしてみせ、良太、おめえのお父っつぁんはあっちだよと言いながら、良太を上に押しやると、又人ごみの中に紛れ込み、頬かぶりで顔を隠して神社の外へ抜け出て行く。

いつまでも、おじちゃ~ん!と呼びかける良太の声が追いかけて来るが、橋の上まで追って来た良太は、市の姿が見えなくなったので、おじちゃんのバカやろう!と叫んで、哀し気に帰って行く。

市は、その橋の下にじっと身を隠していた。

そして、良太が戻ると、市は又、1人旅立つのだった。