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眠狂四郎悪女狩り

シリーズ第12弾であり、市川雷蔵版としてはシリーズ最終作。

主演の雷蔵自身、亡くなる半年足らず前ほどの撮影で、体調が既に万全ではない時期の作品のせいか、全体的に暗さと幻想性に溢れ、これまでとは違う雰囲気の作品になっている。

この種のシリーズ物には良くある「偽者騒動」を中心に、隠れキシリタンと大奥に巣食う権力を持った悪女と言った素材を絡めてあるが、どれも過去の焼き直しのようなもので、鮮度が感じられない。

特に、偽者の姿が妙に中途半端にリアルな市川雷蔵似の仮面などかぶっているので、不気味と言うか、生理的に受け付けにくい部分がある。

雷蔵自身が元気な頃だったのなら、こういう趣向も面白かったかも知れないが、既に余命を意識していたに違いないであろうことを知っているし、又実際に画面に写っている雷蔵の表情も全体的に生気が感じられないので、対決する両者とも死の仮面をかぶっているように見えるからだろう。

小夜が墓参りをするシーンの夢幻的なセットとか、中条流と言う堕胎医が繁盛する世情、狂四郎が伊賀者の薬で幻想を観るシーンなど、全体的に「死への不安」を暗示させるようなイメージが多く、偽狂四郎のデスマスクのような仮面も意図した演出だったのかも知れないが、観ていてあまり気持ちの良いものではない。

ひょっとすると、ポーの怪奇小説「ウィリアム・ウィルソン」(自分の影を観たものは死ぬと言う話)辺りに触発された物語なのかもしれない。

ラストの偽狂四郎こと川口周馬との対決は、自分自身の影との戦いの象徴のようにも見え、その数ヶ月後、主役の雷蔵は夭折する…

久保菜穂子や藤村志保と言ったシリーズの常連組から、松尾嘉代、朝丘雪路と言った新顔も含め、相変わらず女優陣はたくさん出演しているが、今回、特にインパクトのあるキャラクターはいないような気がする。

タイトルにある悪女と言うのは、錦小路の局のことを指しているのかも知れないが、久保菜穂子の悪女振りは既に何度か観ており、今回のキャラクターが特に際立っていると言う印象もない。

あえて言えば、世継ぎ争いの果てに正気を失ってしまうお千加を演じた松尾嘉代だろうか。

本来、世を忍ぶ闇の軍団であるはずの伊賀者が、日中、人だかりの前で狂四郎を襲撃したり…などと言うかなり荒唐無稽に見える部分もあるが、その辺は通俗な大衆娯楽と割り切って観る所だろう。

この作品を観る限り、仮に市川雷蔵の健康状態に問題がなく、この後もずっとシリーズが続行されていたとしても、基本的な趣向のマンネリ化は避けようがなかったような気もする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1969年、大映、柴田錬三郎原作、高岩肇+宮川一郎脚本、池広一夫監督作品。

般若の面を背景にタイトル

江戸城 大奥

お火の番が火の用心を告げながら通る深夜

錦小路(久保菜穂子)の部屋では、お千加の方の部屋子千鶴(矢代洋子)が天井から吊るされ、鞭打たれていた。

それを、並んで観させられていた部屋子の中の1人、小夜(藤村志保)は、お止めくださいと申し出るが、部屋子の分際で…と無視され、錦小路は、自ら懐剣を使い、千鶴の腕に傷を付けると、犬はどのみち死なねばならぬ…とうそぶく。

夜、1人で歩いていた町奉行与力神谷清十郎は、待ち受けていた十字紋の着物姿の浪人の円月殺法に倒される。

その浪人、その死体にの上に、「断 眠狂四郎」と書かれた紙を捨てて行く。

又ある時は、すすき野の中を逃げ惑う女を捕まえ、その場で犯すと、その身体に「眠狂四郎これを犯す」と血文字を残して行く。

ある夜、歩いていた眠狂四郎(市川雷蔵)を追う武家の娘らしき女1人とその助っ人らしき侍数名がいた。

一瞬、狂四郎を見失ったかに見えたが、気がつくと背後に立っており、石内ならば理由を聞かせてもらおうと聞かれたので、神尾清十郎の娘志乃!と女が答えると、神谷清十郎?初めて聞く名だ。これまで刃にかけた相手の名を記憶に止めておく菩提心に欠けていた。いつどこで斬ったか思い出させて頂こうと苦笑する。

今月7日、谷中天王寺の裏、父の死体の上に「断 眠狂四郎」と書かれた紙が置かれていた。知らぬとは言わせぬ!と志乃が教えると、相手が仕掛けて来ぬ限り、こちらから仕掛けた覚えは1度もないと狂四郎は答える。

しかし、侍たちは問答無用と叫び斬り掛かって来たので、やむなく倒した狂四郎は、娘の着物を斬り裂くと、女であることを思い出させようとする意図に他ならん。女には女としての生き方があるはず、義理立てよりおのれの幸せ考えることだと言い残して立ち去って行く。

寝ていたお菊(朝丘雪路)の横から起き上がった狂四郎は、窓辺に座り、店の裏側にある中條流の裏門に目をやっていた。

お菊は、あんた…、まさか…?そうじゃないわね〜…と言い、世間じゃ、眠狂四郎は、血と女に狂ってしまったと大騒ぎしているのに…と語りかけると、狂四郎が2人いてはいかんという定めはないと冷めたように狂四郎が答えたので、やっぱり偽者なのねと安堵したお聞くは、何で偽者が出て、あんなひどいことをするのかしら?と呟く。

しかし、狂四郎は、知らぬ。悪行には慣れておる…と答えるだけ。

そのとき、「元祖中条流 月水早流し」などと看板が出た木戸から入る、金を渡す若衆と泣いている娘の姿が見えた。

それに気づいたお菊は、又1人、赤ん坊が闇から闇に葬られる。この節はどこの中条流も大繁盛なんですって、嫌な世の中なったもんだ…と嘆くが、狂四郎は、人のことは言えまい。中條流が孕んではならぬ腹の子を流して金儲けをする商売で、その向かいがまともでは抱き合えぬ男と女に床をあてがって金儲けする出会い茶屋がある。良い取り合わせだ…と皮肉を言う。

止してよ、人聞きの悪いとお菊が顔をしかめると、女中が飛び込んで来て大変です!松の間のお客さんが!とお菊に伝える。

お菊が女将を勤める出会い茶屋の一室で男女の心中未遂騒ぎがあったのだ。

その2人は、御家人の2男坊と岡場所の女らしく、捕まって見せしめのため、市中で互いに杭に縛り付けられることになる。

金持ちは中条流で子供を堕ろしていると言うのに、貧乏人はいつまでもこの様だなどと町人たちが嘆きながら観ている中、通り過ぎようとした狂四郎は、橋の上と背後に立ちふさがった旅人姿の男たちが、一斉に仕込み武器を取り出したので、お庭番とは無縁のはずだが…と言いながらも、相手をし始める。

お庭番の1人が放った鎖がまが、杭に縛られていた女の首筋を貫通し、女は悲鳴を上げる。

大奥では、お千加の方(松尾嘉代)が錦小路に、自分の部屋子である千鶴を知らないか?と尋ねに来ていた。

錦小路は、名前さえ知らないと答えるが、お千加は幾野殿らしきお方が連れて行かれる後ろ姿を観たものがいるので…と迫るが、側に控えていた幾野(長谷川待子)は知らぬと言うので、それ以上追求する証拠もなく、上様のお種を宿したのを盾に言いがかりをつけるのなら、こちらとて環(行友圭子)が妊っておる。返事のしようによってはそれ相当の覚悟をせねばならぬと錦小路から威嚇されると二の句が継げず、思い違いでしたと詫びて帰るしかなかった。

錦小路は、お千加の腹は大分目立って来たな?あちらは5月、環は4月であったな?と苛つくが、何としても男の子を生まねばならぬと断ずる。

その後、納屋の中で、大奥の女同士が抱き合っていたとき、天井から血が滴り落ちて来ているのに気づき見上げると、天井近くの棚から千鶴の死体がのぞいたので、女どもは悲鳴を上げ逃げ出す。

部屋子であった千鶴の遺体を前にしたお千加は、さぞ悔しかったであろう。証拠が掴めないばかりに…許しておくれと詫びると、何としてでも若を生んでみせると、老女の滝山(橘公子)に伝える。

その時、小夜が千鶴に焼香させてくれとやって来たと知ったお千加は、なりませぬ!錦小路の部屋子の分際で!よう、おめおめと来られたな!と言って追い返す。

小夜は仕方なく、後日の夜間、千鶴の墓参りに来るが、そこを通りかかった狂四郎を観ると、兄上!と思わず声をかけ、人違いと知ると、失礼しましたと詫びながら幾野の墓前に向かう。

墓に手を合わせていると、いつの間にか狂四郎が側に立っており、狂四郎の分身の兄についてに聞きたい。無辜の血が流されているのは許せん。知らんとは言わせんと聞いて来る。

神様があのような人をお許しになるはずがありませんと小夜が答えていると、近くの墓にやって来たおこそ頭巾の女が、線香の火を地面に押し付けると、そこから火が走ったので、狂四郎は、思わず小夜を抱いて、石の墓の背後に身を隠す。

次の瞬間、千鶴の墓は大爆発を起こす。

伊賀者やくノ一に命を狙われる覚えはないが…と狂四郎は不思議がるが、その時、お許しくださいと言いながら、小夜は逃げ去ってしまう。

狂四郎は、その小夜が落として行ったらしき、意匠にキリストと十字架を仕込んでいた簪を見つける。

錦小路は、駕篭でおらんだ屋惣兵衛の屋敷を訪れると、そこにいた周馬と呼ぶ男と対面し、そなたの働きによって願望成就の日も近いと伝える。

その時は、かねてのお約束通り…と周馬が返すと、首尾よくそうなれば、そなただけではなく隠れキリシタン58人の命も保証してとらす。大目付、板倉将監様も承知しておる故、間違いないと錦小路は答える。

周馬が、ルソン行きの船の手配は?と確認すると、内々でおらんだ屋に申し付けてあるとも付け加えた錦小路は、13年前のことは決して忘れはせぬ。私はそなたにすまぬと思っている。だからそなたのために、隠れキリシタンを逃がしてやろうとしているではないか。私が大奥に上がらねば、そなたもキシリタンには知ったりしなかったであろうと言うと、偽狂四郎は、思い上がりは止せ!と叱る。

そなたも男盛り、女の肌が欲しいとは思わぬか?と錦小路は迫るが、周馬は帰ってしまう。

その直後、おらんだ屋惣兵衛(伊達三郎)に案内されて、錦小路の部屋に来た板倉将監(小池朝雄)は、さすがの大奥総取締も自分の色事には弱いと見えると錦小路に皮肉を言うと、何の、一昔前の古傷じゃ…と錦小路は答え、それよりも緊急の用向きとは?と聞く。

将監は、眠狂四郎の悪評が高まり過ぎた。これでは本物が黙っておるまい。下手をするとこちらの命取りになると忠告する。

元々、本物を怒らせるのが狙い故始末に悪い。伊賀者を選りすぐり、本物を消す手はずはどうなった?と錦小路が聞くと、再三襲わせたがなかなか手強いと答えた将監は、今にして思えば、周馬が狂四郎になることを承知したのがまずかった…と悔む。

錦小路は、大目付ともあろうものが、すんだことを悔むより今後の対策を講じることじゃ。お千加の出産まで後5月…、若さえ生まれなければ…と言うが、上様が、最近とみにお千加の出産を待ち待ちわびておられるのに乗じ、お側用人の土屋丹後が、もし姫がお生まれなら、御三家より御養子を招け御養子にと進言したのだと将監が教えると、丹後はお千加と地脈を通じておるに違いないと悔しがる。

狂四郎に似せた仮面をかぶって出かけようとする兄周馬に、錦小路の指示を伝えに来た小夜は、兄上様、もうお止めください。兄上様はどうしてお局様のお言い付けを聞かなければいけないのです?と迫る。

すると、周馬は、神の僕たちの尊い命のためだと答えるが、小夜は、いいえ、それだけでは…、お局様と兄上様の間には、私の知らない何か…と案ずる。

俺の肩には58人の生死がかかっていると周馬は言う。

でも、デウスの戒律を犯し、人を殺し、その罪を眠様に押し付ける…、そんな恐ろしいこと…と行くと、周馬 は、お前はまさか眠狂四郎をかばうのではあるまいな?お局様は何と言われた?言え!次は誰なんだ?と問いただす。

やむなく小夜は、御用人、土屋丹後様…と告げる。

雨降る夜、丹後の乗った駕篭の前に立ちふさがった偽狂四郎は、付き人たちと丹後を全員斬り殺してしまい、いつものように「断 眠狂四郎」と書いた紙を置いて行こうとした時、本物の狂四郎が側に立っていることに気づく。

傘で顔を隠そうとした周馬に、あえてその顔をみようとは思わん。眠狂四郎に成り済まし剣を振るう。まさか酔狂ではあるまい?と狂四郎は尋ねる。

不服か?と周馬が問いかけると、不服だ。何の為の非行だ?と狂四郎が言うので、そのように貴様の怒りをかき立て、いつか必ず勝負をしたいと周馬は申し出る。

狂四郎は、無駄な努力と言っておこう。俺を怒りをかき立てるより、御主自身の怒りが爆発せぬようにしろと言い捨てて立ち去る。

ある日、お千加の方は老女滝山を連れ、尼寺に来ていたが、尼寺の中で出された茶を飲んだ途端、中に薬が仕込まれていたらしく眠ってしまう。

お千加の身体は、侍たちによって駕篭に乗せられると、秘密裏に中条流の家の裏門にやって来る。

その間、ずっと様子をうかがっていた狂四郎は、眠っているお千加を縛り付け堕胎しようとしていた中条流の老婆(小林加奈枝)に当て身を加え気絶させると、桶の水をかけてお千加の目を覚まさせると、捕縛を刀で斬ってやる。

気がついたお千加は、目の前に刀を下げて立つ狂四郎に気づき、無礼をすると許さんぞ!と叱りつけるが、はしたなく下半身をさらけ出し、無礼はそちらだろうと狂四郎に言われると逆上し、誰か!無礼者を捕らえろ!とわめき始める。

それに対し、やかましい!と一喝した狂四郎は、安産祈願に名を借りて、その実、中条流で闇から闇に子を堕ろす。そうはさせぬぞ。生め!生むのだ、親子もろとも精一杯苦しむが良いと告げて立ち去る。

若…、若をきっと生む…と口走ったお千加だったが、その目はもう正気のものではなかった。

錦小路に呼ばれ、再び、おらんだ屋惣兵衛の屋敷にやって来た板倉将監は、寝室に坊主と同衾していた錦小路に会う。

錦小路は、自分の仕込み簪の中からコップに何やら薬を入れ、それに水を注いだものを隣で寝ていた坊主に無理矢理飲めと命じる。

先日の件以来、上様のお千加に対する憐憫は日に日に強まっている。本日、お千加が生んだ子が若ならばお世継ぎにすると申されたと将監が伝えると、誰がそのようなことを言ったのじゃ?と錦小路は問いただす。

坂井対馬守…と将監が教えた時、布団にいた坊主が突然苦しみ出し、吐血して息絶える。

狂四郎が邪魔をしさえしなければ、お千加の子は流れていたはずなのに…と悔しがった錦小路は、さしあたっては、坂井対馬守の動きを封ずることじゃと命じる。

庭先で矢の練習をしていた坂井対馬守の的の前に立ちはだかったのは偽狂四郎姿の周馬だった。

どけ!と叫びながら、対馬守が矢を射かけると、それを避けた偽狂四郎は、小柄を投じ、それは対馬守の額に突き刺さる。

驚いた御用人が狂四郎を斬ろうと向かって来るが、その足下に「断 眠狂四郎」の紙が置かれているのに気づく。

とある場所で、マリア像を祈るキシリタン衆徒の一団がいた。

その背後に立っていたのは、偽狂四郎に化けた周馬だった。

そこに遅れてやって来た小夜は兄の周馬に会うと、狂四郎様の名を騙り、罪をない人を殺めるのことなど、神様に御心を踏みにじることです。デウス様のお怒りに触れる悪魔の行いですと諭す。

しかし、周馬は、罪なき人だと?神谷も土屋も金や一心の栄達のため、神を裏切り、デウスの僕を死に追いやった悪魔ばかりではないか。そいつを神を罵る狂四郎の名の元に斬るのは、神の御心に沿うものだと反論する。

間もなく俺の任務は終わる。そうすればルソンに行って永劫の安らぎを得られる。それまで錦小路の局の命令を聞かねばならぬのだと言う周馬に、小夜は、最近あの方を信用できなくなりましたと言う。

それを聞いた周馬は、何を言う、現にこうして安全を保っているではないか。そなたがどう言おうと、俺はあの人たちの命を担っているのだと告げる。

大奥では、錦小路がやって来た滝山に密かに南蛮渡りの「ハンミョウ」と言う毒薬を手渡していた。

その頃、既に正気を失っていたお千加を往診に来た御典医は、今日から薬を替えましょうと言っていた。

その部屋に戻って来た滝山は、隣の部屋の火鉢にかかっていた薬湯の入った茶瓶の中にこっそり毒薬を投入するが、薬湯を用意しに来た御典医の弟子が、新しい薬を入れた隣の茶瓶の方を持って行ったのに気づかなかった。

御典医が、その薬湯をお千加に勧める様子を側で固唾をのんで見守っていた滝山は、緊張のあまり咽が渇いてしまったので、隣の部屋に残っていた茶瓶からお茶を飲む。

しかし、その茶瓶こそ、先ほど自分が毒薬を投じたものだったので、飲んだ滝山は血を吐いてその場で絶命する。

狂四郎が横になっていた住まいの庭に、白鳥と鴉のような白と黒の衣装を着た者たちが何人も降り立ち、狂四郎を部屋から連れ出すと、不気味な能面をかぶった者たちの部屋に案内する。

その部屋には、椅子に座った小面姿の女がおり、仮面をかぶった女の1人が、良うおいで下さいました。たってのお願いがあり、かような途方もない手だてを考えたのでございます。

私の夫は、「たんけい」と言う面作りでしたが、一世一代の重いを込めた面を作って死にました。その面があれですと言いながら小面の女を指す。

しかし、哀しいかな、どうしても魂が入りません。お願いです。眠様、あの娘はまだ春を知りません。女の喜びをお教えいただければ、あの面にも血が通います。あの娘とお契りくださいませと頼む。

そして、周囲にいた仮面の女どもが、狂四郎の大小を抜いて、床に腰を降ろさせると、小面の女が立って近づき、どうぞ口づけを…、お願いです。この面に口づけを!と迫って来る。

すると狂四郎は、この熟れたからだが生娘か?この面の唇に毒を塗り誘う…、おろかなことだと言うなり、相手の小面をはぎ取り、面を裏返しにして、女の唇に押し付ける。

小面の女は以前、墓を爆破したくノ一らしかったが、他のものたちと共にその場を逃げ去る。

狂四郎は、逃げ遅れたくノ一を捕まえると、面の唇に塗られた毒を押しつけ殺す。

仕掛けが破られたと知った面をかぶった者どもは一斉に、狂四郎目がけて火焔手裏剣を飛ばして来る。

彼らは伊賀者だったのだ。

床に刺さった火焔手裏剣で周囲が燃え始まると、狂四郎は飛び上がり、天井の柱に剣を突き立て、それを支点に身を振り子のように振って、屋根の上に飛び上がると、逃げ出したくノ一が、裏手のお堂の中に入り込むのを見届ける。

自分もその中に入ると、中には誰もおらず、闇の奥に、もう1人の狂四郎が立っているのが見えた。

狂四郎が刀を振り上げると、山の奥の狂四郎も同じ構えになる。

狂四郎はそのまま相手に駆け寄ると、一刀両断に刃を斬り降ろす。

すると、前にあった鏡が割れ、その奥に隠れていた先ほど逃げたくノ一が、額を割られながらも狂四郎を睨み、お前は自分の影を斬っただけ。この次はその影がお前を斬ると言うと倒れる。

その言葉通り、入口付近に自分そっくりな仮面をかぶった周馬が立っていた。

周馬は、デウスよ、デウスを冒涜した眠狂四郎に天罰を降したまえ!と叫ぶが、狂四郎は、お前こそ、デウスを利用し犯した殺戮と姦淫を償わせてやると言い返す。

2人はお堂を出て外で対峙すると、偽狂四郎は円月殺法を始める。

その時、狂四郎の足下に白い霧のようなものが漂って来て、やがて狂四郎の全身を包み込むと、狂四郎はその場に崩れる。

気がつくと、狂四郎は手足を縛られ、錦小路の布団の中に横たえられていた。

横に添い寝していた錦小路は、どうじゃ?羽化登仙の夢心地は?さしもの狂四郎も伊賀者の薬玉には兜を脱いだな?と嘲ると、大奥取締の錦じゃと自己紹介をすると、お前を嬲って、嬲って、嬲り殺してやると迫って来る。

そして、この世の別れに盃を取らそうと言うと、酒を狂四郎の口元に運ぶ。

飲みにくいか?ならば私が飲ませてやると言い出した錦小路は、自ら盃の酒を口に含むと、それを口移しで狂四郎に飲ませながら、相手の耳を愛撫したりする。

しかし、狂四郎が全く燃えないことを知った錦小路は、憎い奴!と呟くと、懐剣を取り出し、殺してやる!と叫びながら突いて来る。

立ち上がってそれを避けた狂四郎は、足を縛っていた綱と手を縛っていた綱を、錦小路の突き出して来る小刀で斬って自由の身となる。

そして、相手から奪い取った懐剣を、錦小路の芦の間に突き刺すと、又を斬るのに手間はいらんと言いながら、当て身で相手を気絶させ、部屋に置いてあった葛篭に錦小路の身体を入れてしまう。

そこへ、小夜が、狂四郎の刀を持って来て、兄の罪の償いですと言い、お火の番が廻ってる大奥の中を案内する。

そして、棺桶が置いてある部屋に来た狂四郎は、その中に入れてあった滝山の死体を取り出すと、それを隠し戸の床下に収める。

その頃、小夜の方は、滝山の遺体を錦様が一刻も早く家族に引き渡すように命ぜられたと噓を言い、棺桶を城から外に運び出すよう手配する。

小夜が先導し、城の外へ出て来ると、そこに待ち受けていたのは、兄の周馬が化けた偽狂四郎であった。

周馬は、棺の中は狂四郎か?と聞くと、刃を棺桶に突き刺す。

抜いた刃には血が付いていたので、小夜は驚愕するが、周馬は何度も棺桶を突き刺すと、最期に棺桶をまっ二つに斬り割ってみる。

中から転がり出たのは、縛られて猿ぐつわをかまされた見知らぬ侍だった。

その時、いかなる場合も用心を怠らぬものだな…と言うものがいた。

棺桶の護衛役に化けていた狂四郎だった。

棺桶の中で斬られたのは、狂四郎が入れ替わった護衛役だったのだ。

その狂四郎が、偽狂四郎に化けた周馬の仮面を斬ると、中から現れたのは、額には十字の焼印を押され、右額には醜いやけどの痕がある周馬の素顔だった。

周馬は、その場を立ち去る。

後日、58人の隠れキシリタンは、ルソンに渡る船の用意がされた場所に集まっていた。

周馬は、みんな、いよいよルソンに行ける日が来たと喜ばし気に仲間たちに語りかける。

明日からの俺たちには苦しみがない。誰はばかることなく、デウス様をあがめることが出来るのだと伝えていたが、その時、宗徒たちは、周囲の草むらから鉄砲隊と役人たちが近づいて来たことに気づく。

役人たちは、宗徒たちを一斉に捕まえて来たので、みんなは我勝ちに逃げ始める。

1人も逃がすなとの将監様のお達しだ!と叫ぶ役人の声を聞いた周馬は、自分がこれまで利用されていただけだと事を知り驚く。

周馬は必死に抵抗し、小夜は、用意されていた小舟に宗徒たちを乗せようと案内するが、全員、役人たちに捕らえられてしまい、小夜も斬られてしまう。

そんな小夜に近づいて来た狂四郎だったが、死にかけた小夜は、兄をお許しくださいと言いながら、十字架をあしらった簪を握りしめると、サンタマリア、サンタジョセフ、デウス様、グローリアと祈り始める。

狂四郎は、この世は地獄だと呟くと、神があると信じるならあの世に行って確かめるのだと語りかけるが、その言葉を聞きながら、小夜は静かに召されて行く。

その頃、錦小路、板倉将監は、おらんだ屋惣兵衛の屋敷で、キリシタンの奴らは、これを神の血と言ってありがたがるそうですと惣兵衛が説明するワインを飲もうとしていた。

そこに乱入して来たのが、役人の手を逃れて来た川口周馬であった。

何をしに来たのじゃ!と錦小路が叱責すると、約束を踏みにじったな!ルソンに行かせると言うのは、俺を利用するための噓だったのか?と憤怒の形相も凄まじく周馬は吐き出すと、その場で将監と惣兵衛を斬り殺す。

錦小路は怯えて命乞いして来るが、殺しはせん。ひと思いに殺したのではこの胸が癒えんと言いながら周馬は詰め寄る。

その後、懸案に決着をつける旨を記した周馬からの書状を受け取った狂四郎は、そこに書かれていた地図に従い、昼なお暗い森の中に入って行く。

そこには、畳のように敷いた木の上に、白無垢姿の錦小路が座っており、狂四郎、待ちかねたぞ…、契ろうぞ、狂四郎…、私を抱いておくれと囁きかける。

光陰の果ての醜い姿、当然の報いに苦しめと狂四郎が嘲ると、早よ!そなたの思い通りに、好きにするが良いなどと誘って来る。

この狂四郎、据え膳は食わぬことにしていると断ると、狂四郎、お願いじゃ。存分にもてあそんでたもれとすがりつくその目は既に正気のものではなかった。

狂四郎が、口が動く動かないは料理人次第…、料理人、面を出せ!と呼びかけると、どこからともなく、狂四郎!抱いてやれ!野望に燃え狂ったその女の喜びを精一杯味わわせてやるのだ!と呼びかける周馬の声が聞こえて来る。

すると狂四郎は、せっかくの馳走だ、毒味をいたそうと言いながら錦小路に近づくと、相手が抱きついて来るに任せるが、その隙に、刀の小柄をそっと抜いていた。

次の瞬間、貴様も食らえ!と言いながら振り向きざまに小柄をある方向に投げつけると、木の上に隠れていた周馬が地面に降り立ち、引き絞った矢を射る。

その矢は、狂四郎が盾にした錦小路の胸に突き刺さる。

狂四郎は、地面に置かれた畳と落ちていた錦小路の衣で周馬の矢を防ぎながら接近すると、互いに剣を斬り結ぶ。

救いを差し伸べねば手で、冷酷無惨に命を絶つ。それでもデウスの僕か?これまでは狂四郎は何人いようと構わんと思っていたが、その了見が変わった。狂四郎はやはり1人でなければならんと狂四郎は告げる。

すると周馬は、死ぬのはお前だ。神を冒涜した狂四郎の悪行は永劫に残る。この時の来るのを待っていた。俺の円月殺法見事受けるか!と言い放ち、構えを始める。

狂四郎もそれに合わせ、円月殺法を始めるが、刃を顔の前に立てたその時、周馬の目には、狂四郎の刃が放つ光が十字に見えた。

その光に向かって行った周馬は、狂四郎の剣に斬られる。

周馬は刀を落とし体勢を崩すと、俺は…どんな拷問も耐え、ついに転ばなかった…と呟き、デウスよ、我らの罪を許したまえ…、願わくば、身元…と言いながら息絶える。

死んだ錦小路の横に倒れた周馬を見下ろしながら、貴様を救う神があるか!俺も試しに行きたいものだと言い捨てると、その場を立ち去って行くのだった。


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