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痴人の愛('67)

基本、男の妄想物語であるが、同時に男と女の本質的なものもリアルに描き出している。

発端は、コミックなどでも一時期流行っていた「自分好みの可愛い女性と誰に気兼ねするでもなく同棲生活する夢物語」のように見えるが、原作は実話を元にしているらしく、男側の身勝手な幻想だけでは終わっていない。

女側にもちゃんと血肉が備わっているのだ。

それもしたたかな本能と計算を伴った血肉が。

真珠のネックレスを欲しがるナオミが、「女だから色んな手を使うわよ!」と言い放つのは、その後の展開の伏線にもなっている。

河合は自分が上位の立場におり、若いナオミを育てているつもりで、逆に、ナオミの女としての魅力の虜になっていたのだ。

後半は、その逆転の構図に河合が苦悩する様が描かれている。

若い女性を年上の男が自分の理想の女に仕立て上げると言うのは、「マイフェアレディ」などでもある通り、中年男特有の願望なのかもしれないが、親子の関係もそうだが、育てる側の論理がいつまでも通じるはずもない。

主演の小沢昭一は、当時、38歳くらいで31歳の河合役を演じているので、十分中年に見える。

大楠道代は、吹き替えも使っているように見えるものの、裸体をさらけ出す、かなり大胆な演技に挑んでいる。

当時大映新人だった倉石功が熊谷役で、田村正和がいじけた浜田役と言うのも面白い。

浜田役の方が若干演技力がいる役なので、こういった配役になったのかもしれない。

当時の倉石功の演技力では、浜田役は無理だろう。

大映末期の作品なので、いかにも予算が少なそうに見え、キャスティングも含め、全体的に地味な仕上がりだが、本来脇役タイプの小沢昭一や大楠道代ファンには見逃せない作品だと思うし、七三分けの若き田村正和の姿なども観られるのは貴重かもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、大映、谷崎潤一郎原作、池田一朗脚色、増村保造監督作品。

工業地帯にある会社

昼休み時間中、他の技術者や社員たちはバレーボールをしている。

そんな中、ベンチに座っていた河合譲治(小沢昭一)に、バレーボールはしないのかね?と、隣に座っていた波川課長(早川雄三)が聞く。

スポーツは全くダメなので…と河合が答えると、君は酒は飲まないし、麻雀、競輪、競馬にも縁がないまれに見るまじめ人間らしいけど、我々技術者は、何か発散しないとノイローゼになるぜ。君は31だったはずだが、せめて結婚でもと勧めてみても見合いは嫌だと言うし…波川課長は呆れたように言う。

すると河合は、気晴らしにペットを可愛がっているんですと言い出し、雑種の猫で、可愛いんですよと相好を崩す。

バスで帰宅した河合を、バス停の側に停まっていた車の中から、近所の開業医の花村医師(内田朝雄)が、往診の帰りなので乗りませんか?と誘ってくれる。

その言葉に甘え自宅前まで乗せて来てもらった河合だが、顔色が悪いが、栄養注射でもしてやろうか?などと花村医師に勧めらる始末。

自宅に入った河合は、誰もいないはずなのに、ただいま!今帰ったよなどと室内に呼びかけて何者かを探し始める。

やがて、寝室のベッドの所に来た河合の背後から、水着姿の女が抱きついて来る。

河合は嬉しそうに、そんな女ナオミ(安田道代=大楠道代)の写真を撮り始めるのだった。

タイトル

「ナオミの日記」を開く。

ナオミを初めて観たのは行きつけの喫茶店だった。

18歳

名前が気に入った。

引き取って育てようと思った。

立派な女性になったら結婚しよう。

家は飲み屋で、夜はそこで働いている。

貸別荘を借りて、そこで暮らしている。

結婚した訳ではない。

私は親切なおじさんとして暮らしている。

寝室は別だ。

ナオミは一夏で泳ぎを覚えた。たくましい。まるでイルカのようだ。(…と、ナオミを写した写真を背景に河合のつぶやき)

ナオミのを風呂で洗ってやりながら、河合は、子猫のようにピチピチとしたナオミの身体の感触を楽しんでいた。

君はボクの理想通りになって来たが、利口になるよりお嫁さんになりたいと言い出したナオミに、もっと賢い大人になってからだと河合は言うが、ナオミの方は、ここでお嫁さんにして!と迫って来る。

飲み屋から預かって以来、1年間も我慢して来た河合だったが、さすがにそこまで言われると抱いてやるしかなかった。

そんな2人の風呂場での様子を、隣の花村医師が双眼鏡で覗いていた。

そこに、妻の保子(穂高のり子)もやって来て、夫の行為に呆れながらも、好奇心には勝てず、自分も双眼鏡を取り上げてのぞき始める。

翌日、河合はナオミを連れて、実家の酒屋を訪ねる。

ナオミの母正子(清川玉枝)は歓迎し、2階へ2人を上げてくれる。

河合は、正式にナオミさんを頂きたい。夕べ夫婦になったもので…と申し込むが、もう1年前にやっているつもりの正子は、1年間も河合がナオミに手を付けなかったと聞き、逆に驚く。

河合は今、月給7万6000円だし、田舎には山を持っているので、ナオミさんに苦労はさせないつもりだと頭を下げる。

そこに、ナオミの姉のマリエ(紺野ユカ)が1ヶ月振りに帰って来て、トルコ風呂を止めて今度からストリッパーになるのだと言いながら、タンスを漁り始める。

近くの鉄橋にやって来たナオミは、いつもここに来て泣いていた。あの汚らしい家が大嫌いで…と昔話を打ち明け、私って運が良いのね。譲治さんに拾われてなどと可愛いことを言うので、僕こそ…と河合も感謝する。

お母さん、認めてくれるかしら?とナオミが心配するので、大丈夫だよと河合は答え、私を棄てないでねとナオミはすがって来たので、君の望みは何でも叶えてやると河合が約束すると、私も、英語もピアノも習ってきっと気に入る女になるからと約束する。

河合は母親の承認も受け、ナオミと籍を入れ、寝室も1つにしたが、おおっぴらな結婚式は2、3年先にすることにした。

ナオミの身体は日に日にきれいになって行ったが、賢い女になりそうな気配はなかった。

けばけばしいだけで品がない衣装に夢中になり、20万もするピアノを買ってやったのに、先生が気に入らないとすぐに止めてしまう。

食事は作らず、外から取り、こいつは1つ締める必要がある。

ある日、ベランダに日光浴をしているナオミの背中にオイルを塗ってやっていた河合は、つまんない!何か美味しいものが食べたい!私、死ぬほど退屈しているのよ!何とかして!など、又わがままを言い出したナオミを室内に入れると、英語の教科書を読ませようとするが読めないので、2年間も勉強していて、こんな簡単な英語も分からんのか!と河合は叱る。

すると、ナオミは癇癪を起こしたように教科書を破り、その場で足で踏みつけ始める。

それを観た河合は、勉強して立派な女になると言うのは噓だったのか?じゃあ、結婚は止めだ。あの汚い家に戻れ!出て行くんだ!それとも悪いと思って謝るか!と詰め寄る。

すると、実家には戻りたくないのか、河合の言う通り手をついて謝る振りをしたナオミだったが、どうせ勉強するなら、イタリア語をやりたい。近くにケインさんと言うアメリカの将校さんの家があるじゃない?あそこの奥さんがイタリア人なの。私は英語が嫌いだから、わざと出来ない振りをしていたのよなどと言い出したので、一応、河合が、偉いね君は…と褒めてやると、じゃあ馬になりなさいとナオミは言う。

河合はいつもしているように、四つん這いになり、ナオミを乗せると、尻を叩かれながら、居間のテーブルの廻りを廻り始める。

その後、河合は工場で、波川課長に給料の前借りを願い出ていた。

波川課長は、君は冬のボーナスをカタに、借金しているそうじゃないか?と怪訝そうな表情だったが、まじめな河合の勤務態度を考慮して認めてくれる。

その日早めに帰宅した河合は、自宅のベランダで、見知らぬ青年に、大胆に露出した背中をかいてもらっているナオミの姿を観かける。

その青年は、すぐに帰るが、その青年から身を隠していた河合は、家に入ると、居間の若い男は誰だ?と詰問する。

すると、ナオミは悪びれた風もなく、浜田と言う経済大学の学生で、イタリア語を奥さんから習っている生徒仲間で、今日は今週の日曜日に行われるパーティに誘いに来ていたのだ。あなたも招待されているのよと言う。

もうカクテルドレス買っちゃったなどと、いつの間に買ったのか、新しいドレスを見せると、アクセサリーなしじゃ首元が寂しいのなどと甘えて来る。

アクセサリーならいくらでもあるじゃないかと河合が言っても、あんな安物じゃドレスに合わない。どうしても真珠のネックレスじゃなくちゃと言うので、値段を聞くと、20万くらいなどと言うので、頭に来た河合は、僕は君がめちゃめちゃに使うから毎月赤字で、会社から借金しているんだと怒ると、じゃあ、サラリーマン金融を利用したら、どんどん踏み倒して…などとナオミはいけしゃあしゃあと言い出す。

じゃあ、トランプで勝ったら買ってよなどと言いうと、ナオミは洋服を脱ごうとしたので、そんな事されたら気が散って勝てないじゃないかと河合が慌てて服を着せる。

ナオミは、女だから色んな手を使うわよ。姉さんは男の人と花札する時いつもこうやってたわよ。花もトランプも何が違うのよ!と睨みつけて来る。

お金がないなら、田舎の土地を売ったら?などとまで言い出したので、あれは母さんのものだと言うと、じゃあ、家で母親に会った時噓を言ったのね?私の望み、何でも叶えてやるっていったじゃない!じゃあ、私も立派な女になろうとするのは止める!イタリア語も全部止めてやる!とナオミは居丈高になって来る。

そして買ったばかりのカクテルドレスを破ろうとしたので、河合がそれを止めさせると、ベッドに倒れ込み泣き出す。

河合は、そんなナオミに負け、ネックレスを買ってやると言い出す。

本当?でも、それじゃあ、田舎のお母さんに悪いわ…などと殊勝な事を言いながら、河合にご褒美でも与えるようにキスをしてやる。

その後、帰郷した川合は、仕事、機械相手だろう?ミスっちゃって…などと金の無心をする。

すると、母親の澄江(村瀬幸子)は、足りない分、毎月送ってあげようか?1万円ずつ…などと言ってくれるが、河合は、30万ばかり一度にくれないかと切り出す。

すると澄江は見透かしたように、ナオミが欲しいのは車かい?それともダイヤかい?あんまり甘やかすと、手がつけられなくなるよと注意するが、河合は、俺は母ちゃんが一番好きだった。だからナオミを母ちゃんの代わりにするんだと言う。

何とか、真珠のネックレスを買ってやった河合は、次の日曜日、上機嫌でカクテルドレスとそれを付け、車を呼んで頂戴と言い出す。

ケインさんの家まで1000mもないじゃないかと河合が呆れると、こんな格好で山を歩かせる気?こんな時、車持ってると便利なんだけどな…などとナオミは言う。

それから、パーティの席では、自分の事を呼び捨てではなく、ナオミさんと呼んでくれ。私はレディなのよとまで要求する。

ケイン家のパーティに行ってみると、大学生らしき熊谷政太郎(倉石功)と、先日、ナオミの背中をかいてやっていた浜田伸夫(田村正和)がナオミを待っていた。

浜田は、なおもに妙に馴れ馴れしい熊谷が苦手らしく、少し距離を置いている風で、河合に酒は何にするか聞いて来るが、飲めないと知ると、ジュースを手渡し、ナオミと一緒にゴーゴーを踊り出した熊谷が達者ですねと河合が感心すると、あいつはプレイボーイですからねなどと言う。

そんな浜田の所へ戻って来たナオミは、ウィスキーコークと注文したので、河合は、お前、いつの間に酒を飲むようになったんだと驚く。

そんな河合はナオミに強引に引っ張られ、無理矢理ゴーゴーを踊らされるが、不器用な河合に踊りなど踊れるはずもなく、下手ね、気分壊れちゃう!とナオミは膨れると、また熊谷と踊り始める。

それを呆れたように見つめる河合に、あの人は度胸がありますから…と浜田が告げる。

パーティ後、泥酔したナオミを、河合と浜田が肩を貸し、熊谷の車に乗せて自宅まで送る事になるが、何故かその途中で、熊谷が車の調子がおかしいと言い出す。

熊谷と浜田は、東京まで帰らなければ行けないのだが、浜田は200円しか持ってないと言い出す。

それを後部座席から聞いていたナオミは、うちに泊まれば良いじゃないといきなり言い出し、河合の事など無視するかのように、寝室に来ると、ベッドに男3人が、熊谷を真ん中に、左右に河合と浜田と言う川の字に寝、その頭上にナオミが腰掛けると言う奇妙な体勢になる。

ナオミは女王様気分にでもなったのか、男たちを寝かせまいとあれこれ挑発したりし始め、自分は3人の頭上に身体を横たえ、河合の方に頭を向けたり、浜田の方に頭を向けたりしながら、3人を寝かそうとせず、1人眠った振りをしている河合にまで執拗にちょっかいをかけて来る。

翌朝、先に起きて、自分で珈琲とトーストの朝食をとっていた河合は、まだ熊谷と浜田が寝ている事を気にかけながらも会社に出社するしかなかった。

その日、会社の昼休み、河合がいつものように1人ベンチに腰掛けていると、波川課長と同僚2人(渡辺鉄弥、森矢雄二)が近づいて来て、河合君、君のなかなか隅におけないね。君のペット、猫の正体が分かったよ。恋人がいるのならそう言ってくれれば良いじゃないか。随分グラマーなペットですねと波川課長や同僚が言い出す。

恋人じゃないんです…と河合が抗弁すると、単なる浮気だって訳か?、そいつはますます良い。結婚でも考えているのなら意見してやろうと思ったんだがなどと言い出す。

それはどう言う事ですか?と河合が聞くと、同僚の弟もケインの奥さんからイタリア語を習っている生徒で、ナオミはその生徒たちを片っ端から荒らしている「共同なんとか」とあだ名されているとの事。

意外な話を聞かされた河合は、その日帰宅すると、ナオミに問いつめる。

するとナオミは急に笑い出し、そんなバカバカしい噓、信用したの?私が男と2人きりの現場でも観たの?私があなたに隠し事をしていると思うの?などと言い返して来て、あげくの果てに、あなた、そんなに疑うのなら、私の身体、汚れているかどうか観てよ!と言いながら、服を脱ぎ出したので、河合は止めさせる。

それでもナオミは我慢できぬように、イタリア語もピアノも止めて、この家に閉じこもっているどうせ私なんか、子供の頃から友達なんていなかったんですもの…などと言い出したので、子供を生んで母親になってくれと河合は頼むが、それに対しては嫌よと拒否し、もう愛してないのね?ねえ、昔のように馬になって…などと甘えて来る。

仕方なく、また馬になってナオミを背中に乗せ、居間を廻ってやった河合だったが、その後、ベッドで寝入ったナオミが、もう行っちゃうの?いくじなし!まだ帰って来ないわよ、あの人。いいや…、じゃあ、又明日…などと寝言を言うのを聞くと我慢ならなくなり、ナオミの衣装をトランクに詰めると、電話線も切り、トランクを隣の花村医院に持って来ると、このトランクを預かって欲しい。そして、家に誰か来たら会社に電話して欲しいと花村に頼む。

しかし花村は、仕事があるし、往診にも出かけなくてはならんのでそんな事は無理だと断ると、先生がいつもそう頑強で家の風呂場をのぞいている事を近所に言いふらしますよと脅し、無理矢理承知させる。

その後、目覚めたナオミは、河合のやった事に気づくと、畜生!やりやがったな!と叫ぶ。

その時、酒屋(井上大吾)がやって来たので、バスタオルを巻いただけの姿で門まで出ると、東京の浜田伸夫に電話をして欲しいと頼み、顔にキスをしてやる。

その日、会社にいた河合の元に花村医師から電話があり、若い男が1人、こっそり君の家に忍び込んだとの連絡が入る。

タクシーで急ぎ帰宅した河合が家の中に入ってみると、寝室のベッドに、浜田がパンツ1丁の姿で眠っている。

アイスピックを握りしめ、浜田を起こしてナオミとの関係を聞くと、驚愕した浜田は、確かに自分はナオミと関係していたが、あなたとは結婚しておらず、同棲しているだけと聞いていた。関係しているのは自分と熊谷だけではなく、みんな熊谷に騙された連中で、ナオミが一番好きなのは熊谷で、今、ナオミは自分の服を着て、熊谷とモーターボートで出かけたと告白する。

激怒した河合は、浜田に自分のスーツを脱いで、それを来て帰れと命じると、自分は海パン姿になって、近くの海辺に出かけ、近くの岩場に係留してあるモーターボートを発見すると、そこまで泳いで渡る。

アイスピックを片手に、岩場の向こう側をのぞき見ると、案の定、ナオミが熊谷と裸で抱き合っていた。

河合は悔しがり、アイスピックを岩場に何度も突き刺していたが、2人に声をかける事なく、そのまま2人が乗って来たモーターボートを奪って海岸まで帰る。

岩場にいたナオミと熊谷は、モーターボートの音で、河合に見つかった事を悟る。

自宅に戻り呆然としていた河合は、浜田の服を着たナオミが戻って来ると、君は僕が磨き上げたものを汚したんだ。私は我慢してたんだ。お前は私の妻なんだぞ!と叱りつける。

するとナオミも、私を寝込みたいに家に閉じ込めていたくせに、あなたが欲しいのは私の身体だけでしょう!と反論する。

謝れと河合が迫ると、これ以上縛られたら息が詰まって死んじゃうわ!とナオミは拒否したので、じゃあ、出て行け!帰れ!あの汚らしい家へ!もうお前なんかに用はない!と殴りつける。

じゃあ、出て行くわ!でもこんな格好じゃ外を歩けない。着替えさせてとナオミが言うので、そのまま出て行け!荷物は後でお前の望む所へ送ってやると河合は言って、ナオミを追い出す。

ナオミは、熊谷のオープンカーに乗って東京のホテルへ向かっていたが、途中で熊谷が降りろと言い出す。

熊谷は、気が変わった。人間って奴は、遊ぶときは遊ぶが、まともになる時はまともにならなくちゃダメだ。おれも学生だからでたらめだが、卒業したら大まじめに働くつもりだ。お前もここらで考えないとなどと言うので、調子のいい男だね!あんた…と怒ってビンタすると、今夜の塒はどうするんだ?河合さんの所へ戻りなと言う熊谷に、渡しだっておんなさ、泊まる所なんていくらでもあるよと吐き捨てて別れる。

河合はその後、会社で波川課長から、最近仕事のミスや遅刻、欠勤が多くなった。まじめな男ほど、女に溺れると深みにはまると言うが、やっぱり共同便所は止めた方が良い。堅気の嫁さんを紹介してやるから、頑張れ。これ以上評判が悪くなると首だぞと忠告されるようになる。

その後、ナオミの実家の飲み屋を訪ね、ナオミの所在を聞いた河合だったが、正子はここにはいないと言うし、店の主人加山良平(三夏伸)は、あの程度の女ならいくらでもいるから、乗り換えた方が利口だねなどと言って来る。

家で、1人馬の真似をし、今をぐるぐる回る河合だったが、ナオミを失った喪失感に襲われ泣き始める。

そこに電話がかかって来たので、ナオミか?と飛びついた河合だったが相手は田舎のおじさんで、母親の澄江が重態だと言う知らせだった。

急ぎ帰郷した川合は、床に付いた澄江が、そうかい、ナオミはそんな女だったかい。育ちが悪いから、地金が出たんだろう…と言うと、違うよ、おれが甘やかし過ぎたからだよ。悪いのは母ちゃんだよ。ナオミを母ちゃんの代わりにし、抱かれて甘えたかったんだ!と河合は枕元で答える。

それを聞いた澄江は、悪者は私か?私は早く死んだ方が良いんだね…と笑いながら息を引き取る。

その時になって、ひどい事を行った事に気がついた河合だったが、もう母親は戻らなかった。

葬式を終え、帰宅して来た河合に声をかけて来たのは、先日スーツを借りて帰った浜田だった。

浜田はスーツを返しながら、ナオミさんの様子も分かったんですが…、あなり芳しい噂じゃないので…と告げるが、河合に聞く気がないようなので、そのまま一旦は帰りかける。

しかし、そんな浜田を呼び止めた河合は、せっかく来たんだから一杯やって行かないかと誘って来る。

酒は飲めないのでは?と浜田は戸惑うが、自宅で一緒に飲み始めると、結構、浜田も飲める事が分かる。

酔った浜田は、偉いな、河合さんは、ナオミの事を忘れられて…、僕はダメだ…などと言い、今、ナオミは、男から男へ渡り歩いており、それも日本人だけじゃないようです。今は、ハマをうろついているそうですよ、それもひどい姿で…などと知っている事を打ち明け、それでも好きなんです、初恋の人なんです。例え一時でも、あんなに楽しい思いをさせてくれる女なんていませんよと言う。

それを聞いていた河合は、満足そうに、私が育てたから…と呟く。

どうして追い出しちゃったんです?あんな素晴らしい人を?見捨てないで下さい。このままでは堕落してどん底まで堕ちますよと浜田は嘆く。

河合はそんな浜田が気に入り、あなたは良い人だ。これからもたびたび遊びに来て下さいと頼む。

その夜、河合はベッドに、ナオミのヌードを撮りためたアルバムを何冊も開き、その中で眠っていたが、物音がしたので目覚める。

すると、どこから入ってきたのか、ナオミが自分の衣装を選んでいたので、どうやって入った?と聞くと、鍵を持っていた。洋服を取りに来たのと言うので、帰る時鍵は置いて行け、服は全部持って行ってくれ。1週間以内に取りに来なかったら、母さんの所へ送るぞ、ここは引っ越しするつもりなんだと河合は告げる。

ナオミは、又すぐに撮りに来るんだから良いじゃないと甘えて来るが、河合は表情を変えなかった。

翌日、会社で河合は、仕事を辞めると波川課長に申し出る。

母が死んで遺産が入ったので、田舎でひっそりと暮らしたいと言うと、家は貧乏だから…と波川課長はうらやましがる。

家に帰ると、また、ナオミが洋服を漁っていたので、どうやって入った?と河合が気色ばむと、合鍵を作っていたとあっさり教えたナオミは、2、3日おきに来て取りに来る。来るなと言われれば、なお来るわよ!と開き直ったように言う。

河合は、君は色んな手を使うからな。第一目の毒だと言うと、これからは、ただの友達として付き合いましょう。嫌ならここで脱ぐわよなどとナオミは言い出す。

河合は、本音と建前の間で苦悩するが、結局、ナオミの言うことを聞く事にする。

その後、1人になった河合は、ナオミのヌード写真を触りながら、ナオミ!じらさないでくれ!と叫ぶと、いきなり暴れ始める。

翌朝、悄然としていた河合の様子を見に来た花村医師は、随分やつれましたな、栄養注射を射ってやりましょうなどと言いながら上がり込んで来て、あの女は男を食いつぶすタイプで、別れれば15年は寿命が延びますよなどと親切そうに語りかけて来るが、杭殺されて本望ですよ!あんたのような覗き屋に分かるもんか!と言いながら花村医師の首を絞め始めると、帰れ!と怒鳴りつけて庭先に押し出したので、花村医師は、こりゃ重症だ…と驚いて帰って行く。

ベッドに倒れ込んだ河合はいつしか眠っていたが、誰かが電気スタンドを付けたので目を開けると、傍らにナオミがバスタオルを身体に撒いて座っているではないか。

いつ来たんだ?と聞くと、少し前、良く寝ていたからバスを借りたわ。ついでに襟足を剃ろうとしたけど自分では巧く行かなくて…、譲治さん剃ってくれない?とカミソリを渡して来る。

良いよと承知した河合は、身体には触らないでよと無理なことを言うナオミの言葉に何とか従い剃ってやると、今度はここよと、脇毛を見せてくる。

ここも?と驚いた河合だったが、とうとう我慢できず、嫌だ!と言うとナオミに襲いかかると、ナオミの肩に噛み付き、昔と同じ夫婦になってくれ!と哀願する。

そんな河合を殴りつけたナオミは、嫌なら、僕を殺してくれ!とまで言う河合に、キ○ガイなんて相手にするもんか!と嘲る。

じゃあ、馬で良い。僕の背中に乗ってくれ!それだけで良いと河合は頼むので、ナオミは勝ち誇ったかのように、私の恐ろしさが分かったか?これから言うことを聞くか?もっと立派な家に住ませるか?好きな事をさせるか?誰とでも付き合って良いか?私をナオミさんと呼ぶか?と次々に条件を突きつけて来る。

馬になってナオミを背中に乗せて今を廻り始めた河合は、もう逃さんぞ、ナオミ!一生離さんぞ!と叫び、河合の尻を叩くナオミの方も、譲治さん、私だって、あなたしかいないのよ!と河合の背中にしがみついて来るのだった。

居間のテーブルには、そんなナオミのモノクロ写真が散らばっていた。


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