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悪名十八番

シリーズ第14弾

前作で、それまで自ら禁じて来た刃物を持った刃傷沙汰を起こしてしまった朝吉なので、この回からは前科者同然の扱いになっている。

体中を刺されて死線をさまよっていたはずの清次まで再登場しており、さすがに、まだ傷が直り切ってない状況と言う設定ながら、かなり無理がある話になっている。

朝吉の家族構成までこれまでとは変わっているようで、両親が既に他界したと言うのはともかく、兄1人しかもう肉親がいないようなことを言っている。

朝吉には確か姉(義姉?)がいたのではなかったか…?

兄が住んでいる場所も、八尾ではなく田尾市と言うことになっているし、劇中でも、もう「八尾の朝吉」と言う通称は使っていない。

ひょっとすると、選挙絡みの話であり、しかも、そこにヤクザが立候補して、色々裏工作をすると言う荒唐無稽な展開なので、実在する地名を使うと何かしら支障があるかもしれないと言うことでの配慮かもしれない。

根はヤクザであっても、表面上は堅気の興行の仕事をしているように見える男中沢が、地元の市会議員の補欠選挙に立候補する…、ここまではまだ良い。

奇妙なのは、その中沢が選挙の対決候補になった辰吉を貶めるために、執行猶予中の弟、朝吉に暴れさせるよう、子分たちを焚き付ける辺りである。

子分の増造に、やるからには徹底しろと言い含め、結果的に殺人を犯させてしまった時点で中沢の立候補者としての生命は終わったはずである。

なぜなら、鈴子の証言で朝吉は無関係で、真犯人の増造が捕まったと言っているのだから、その後の取り調べで、増造が子分を殺す動機を掘り下げられるはずで、その段階で中沢の関係などすぐにあぶり出されるはずだからだ。

いくら増造が口を割らず、仮に中沢は選挙で無事当選したとしても、誘拐された鈴子に詳しく事情を聞けば、荒雲に誘拐されたことや、中沢の家に最初に連れて行かれたことなども、いずれは警察に分かるはずで、そうなると中沢が責任を問われないですまされると言うことはないだろう。

…とすれば、増造逮捕後も、平然と中沢が選挙を続けていたり、さらには、対立候補である辰吉を暴力で脅したり消そうとするなど、自分で自分の首を絞めているようなものである。

しょせんは地方の選挙だし、中沢は頭も良くなかったと言う、何だか戦前ののんびりした地方の寓話風にしたかったのかも知れないが、時代はどう観ても現在(1968年頃)だし、いくら何でも選挙期間中に、候補者自らが対立候補の殺害現場にいるなどと言うのは荒唐無稽過ぎるだろう。

何故こんな不自然な展開にしたのか?

それはおそらく、増造逮捕で万事全てが収まったのでは、朝吉が暴れるアクションシーンが描けないだからだろう。

では、朝吉が暴れるアクションシーンが付け加わってすっきりした気分になれるかと言うと、これがなれないので困るのだ。

朝吉は、自らも執行猶予中の身であることもあるし、兄が選挙期間中と言うこともあり、言わば身動きの取れない謹慎中のようなものである。

その禁を結局守りきれなかった…と言うのも確かに朝吉らしいと言えば言えるが、兄が連れ去られた居場所を子分に吐かせた時点で警察に連絡していれば、万事巧く収まったはずなのである。

元々、警察は嫌いと公言していた朝吉だが、この時点では既に殺人犯扱いされている訳でもなく、兄の命が危ない緊急時だし、自分は執行猶予期間中の身と言うこともあるのだから、警察に知らせてまずい理由は何もないはずなのである。

それでも、警察を呼ばないと言うのは、やっぱりそうなると、朝吉が暴れるアクションが描けないからだろう。

結局、朝吉を暴れさせると言う見せ場を作るために、あれこれ不自然を承知で話を持って行っている感じであり、そういう所がこれまでのシリーズではまだ魅力だったのだが、前科者扱いになっても同じでは、観客もそろそろ呆れて来る。

刃物や飛び道具を使わない喧嘩も、すでに主人公自ら刃物を持ってしまった過去があるだけに、以前ほど、こだわり感や痛快感がなく、かと言って、当時流行っていた日本刀で殴り込む健さんの任侠映画のような洋式美もない。

もはや、地方の昔気質の暴れん坊が活躍すること自体無理な時代になって来たのに、無理矢理シリーズを続行しようとあがいている…と言う感じがしないでもない作品である。

森光子、藤田まこと、芦屋小雁と言った過去のシリーズにも出たお馴染みたちが、ここでは別の役で再登場しているし、「兵隊やくざ」「座頭市」にも登場している安田道代(=大楠道代)もヒロイン役として登場している。

お好み焼き屋の夫婦役で、元夫婦漫才の鳳啓助、京唄子が出ているのが懐かしく、この当時の京唄子は、喋らないと確かにきれいだったと再認識させてくれるし、朝吉の兄、辰吉を演じているのは「交渉人 真下正義」で線引き屋として登場していた金田龍之介であるのも貴重で、この当時の若い姿は初めて観たような気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1968年、大映、今東光原作、依田義賢脚色、森一生監督作品。

岡山のお十夜経営の料亭に殴り込んだ清次(田宮二郎)だったが、敵の子分たちに刺されて倒れる。

そこに駆けつけた八尾の朝吉(勝新太郎)は、清次が握っていた血染めのドスを奪い取る。

清次は、親分、あかん…と止めるが、朝吉はそのドスでお十夜を刺してしまう。

入院した清次は付き添って来た朝吉に、俺が鈍なばっかりに親分に刃物持たせてしまいましてすみません。でも正当防衛でしたやさかい…。わいは、三途の川の途中で、裁判の結果を聞かせてもらいまと呟くが、朝吉は、お前みたいなスカタン、三途の川、渡してもらえんわい!と叱りつける。

留置所に入った朝吉に面会に来たのは、今や、1人だけ残った肉親である兄の村上辰吉(金田龍之介)と弁護士の上野だった。

極道三昧の末に刃物沙汰までしやがって…、死んだ親爺に顔向けが出来るんか!と怒る兄は、その場の成り行きと言うもんがあるさかいなと言い訳する朝吉に、弁護士の上野はんに出来るだけのことはしてもらうけど、後はどうなっても知らんぞと辰吉は伝える。

タイトル(繭玉をバックに)

キャバレーで、女性歌手(八泉鮎子)が歌っている中、隅のテーブルでホステスにも興味を示さず、酒と料理を貪り食っている男がいた。

ビール1ダース、ウィスキーの角瓶1瓶、テキにフライまで平らげたと言う荒雲(松枝錦治)と言う、博打の女で身を持ち崩したその元相撲取りを、子分が社長の中沢政兵衛(西村晃)の元に連れて来ると、競輪も好きだろ?と聞き、今度、この田尾に競輪場作ろうと、俺は市会議員の補欠選挙に出るつもりなんだが、競輪場設置反対同盟を作って邪魔をしてる奴がいるんやと、将棋をしながら中沢は話しかける。

子分が出して来た写真に写っていたのは、相撲取りの格好をした村上辰吉だった。

河内では昔から相撲が盛んで部屋はたくさんあるんや、社長はんの所は黒鶴部屋、この辰吉は花川部屋と言うのを持っているブラシ工場の主や。痛めつけたいんやが、自信はあるか?と荒雲に問いかける。

ブラシ工場の広間で相撲の稽古をしていた辰吉に、事務員の鈴子(大楠道代)が電報を持って来る。

あのガキ、儲けやがったな…と呟くと、そこに従業員で相撲もやっていた芳太郎(伊達三郎)が近づいて来たので、朝吉が執行猶予になるそうや、明日の朝出るそうやから、今日発たな…と辰吉が教えると、まさかここへ連れて帰って来る気やないですやろな?あんさんが競輪場設置反対同盟作りなはったから、中沢がカッカしとるそうですんで、そこへあんな向う気の強い人連れて来たら一騒動起きますでと芳太郎は忠告する。

前科もんはあかん言うたらどうや!と切れた辰吉は、従業員の万吉(木村玄)1人を従えて夕方、駅に向かうが、その途中、荒雲に襲撃され負傷してしまう。

弁護士の上野は来てくれたが兄が迎えに来ないことを朝吉は不思議がるが、何か事情があって来られないんだろうと上野に言われると、1人で留置場を出ようとする。

そんな朝吉に、裁判すんだ人はここで会えますやろか?と聞いて来た娘がいたので、聞いて来てやるわ、名前は何と言う人やと朝吉が訪ねると、村上朝吉と言うではないか。

近くの食堂で、久々に好物のカレーをかき込みながら、兄貴をそんな目に遭わせたのはどこのどいつやと朝吉は、事情を話した鈴子に聞く。

何でお前が迎えに来たんや?と聞くと、朝吉さんは女に弱いよって、付いて来るだろうって社長さんが言ってましたと答えた鈴子は、朝吉はんって可愛らしいわと微笑むので、朝吉は照れてしまう。

右手を吊っていた辰吉の家にやって来た朝吉は、えらいすんまへん。お陰で出させてもろうて…、おおきにと礼を言い、みんなの話では、こんなことしたの保元町の中沢らしいちゅうやないかと、すぐにでも仕返しに行くようなことを言う。

すると、辰吉は、お前、無罪放免になったのと違うぞ。又暴れてたら猶予消えて刑務所へ戻るんやど。もう親もないお前を心配するのはわいだけやぞ。今俺は、家や工場を抵当に入れて、市会議員の補欠選挙に出る決心したんや。お前にはおとなしゅうしてもらわなあかんのやと説教する。

朝吉は、鈴子に工場へ案内してもらい、従業員を前に、これから世話になると挨拶をする。

一方、辰吉が選挙に出ると聞いた中沢は驚く。

その後、町内相撲の結晶戦が行われ、前年度優勝の花川部屋と、前年度準優勝だった中沢たちの黒鶴部屋が再び相まみえることになる。

5人ずつ、選手が土俵に入場して来るが、その時、花川部屋の一員として入場した万吉は、相手チームの首相が、先日、社長を襲った暴漢だと気づき、すぐに工場に戻ると、将棋を朝吉と指していた辰吉に知らせる。

すると、それを聞いた朝吉は勝負を止め、俺が行くと言って立ち上がると、若者と一緒に相撲の会場へと向かう。

相撲は、荒熊が圧倒的に強く、花川部屋では、最後の芳太郎が土俵に上がろうとしている所だったが、戻って来た万吉が、審査員に声をかけ、急遽、選手交代を告げると、朝吉が土俵に上がることになる。

朝吉の姿を観た中沢は、あいつ、岡山で挙げられたんと違うか?調べて来いと子分に命じる。

朝吉は、荒雲を倒して勝つ。

その夜、辰吉の家では祝勝会が行われ、河内音頭の声が響いていたるが、鈴子が、縁側でぽつんと1人でいる朝吉に近づいて、あかん。今日のヒーローが来なあかんと声をかけるが、わい、酒が飲めへんし、わいが土俵に上がったんで、兄貴の機嫌が悪いんや。相手が相手やから、負けといた方が良かったらしいんやとぼやき、みんなに言うたらあかんぞと釘を刺していた。

その頃、中沢は、事情を調べて来た幸吉(水原浩一)から、朝吉が執行猶予で出て来たと聞き喜んでいた。

ブラシ屋も可哀想やな。そんな前科者の弟持って市会議院立ったら大きな傷や。又人騒ぎなどしてみい、世間は誰も相手にせんわと中沢が嘲ると、幸吉も、せいぜい朝吉が暴れるよう、若い奴にしむけますわと来ますとが答える。

中沢は、一緒に黙々と手酌で飲んでいた増造(守田学)に、仕事が1つ増えたな。中途半端はあかんで。やるならとことんまでやれと命じ、酌をしてやろうとするが、増造はそれを受けようともせずマイペースに飲み続ける。

夜まで台所仕事を手伝っている鈴子を見た大宮が、兄貴の世話から事務所の仕事まで大変やな。どこに住んどるんや?と聞くと、近くの中島と言うので、何でこんなとこ泊まってるねん?と朝吉が不思議がると、家に帰りたくないんですなどと鈴子は言う。

それでも今から着物を取りに帰ると言うので、送りがてら朝吉は、久しぶりにお稲荷さんの中を通ってみることにする。

途中、鈴子はおみくじを買うが、今日だったと言い、近くの木の枝にそのおみくじを結ぶ。

お前、好きな人いるのか?と朝吉が聞くと、今度入らはった人、女に甘い人やと言うので、わいのことやったらやめとけ、もっと若うてええのがいるやろと照れる。

その時、中沢の子分が3人、朝吉に、勝負しろと絡んで来る。

鈴子は朝吉に、兄さんと約束しはったでしょう?暴れんといてと頼むが、朝吉も分かっているらしく、相手から手をついて謝れ!とからかわれても、その通り、地面に手をついて謝ることにする。

神社内で大勢の人が観ている中でと言うこともあり、子分たちは、ど根性なし!と吐き捨て、その場を去って行く。

鈴子は、偉かったわ、朝吉さん、良く我慢したわねと褒めるが、そんな2人が人気のないだるま池の側に来た時、又してもさっきの子分3人が近づいて来て、今度は鈴子の方にちょっかいを出して来る。

さすがに鈴子に手を出そうとして来たので、朝吉は堪忍できなくなり、3人を相手に殴り合いを始めると、権太を池の中に放り込んでその場を立ち去る。

その直後、岸に上がって来た権太を引き上げてやった増造は、何を思ったか、その場で権太を蹴り始め、蹴殺した後、再び池の中に蹴り落としてしまう。

それを観ていた清は怯えるが、増造は、朝吉の奴、ひどいことをしやがった。朝吉の奴が権太を殺したんやな?清!と迫って来る。

鈴子の家の前まで送り届けた朝吉は、今日はここに泊まりと勧めるが、鈴子は、さっきの仕返しに来るのんと違う?と心配する。

一方、増造からこのの次第を聞いた中沢は、その娘を野放しにしといてどないなるねん。唯一の証人やないか!と増造に叱りつける。

増造の方も、鈴子を見逃してしまったのはうっかりしてましたと、自分の落ち度を認める。

朝吉は、一旦、兄の自宅に戻って来るが、何となく入りづらく、そのまま又出かけてしまう。

翌朝、だるま池で権太の死体が発見され、警察が現場検証を始めていた。

そんなこととは知らず、自宅から会社へ出勤していた鈴子に、車の中から降り立った増造が、中沢のものですが、夕べは、若いもんがご迷惑をおかけしたそうで、夕べ、朝吉さんが見えまして、証人になって欲しいと言うことで…と話しかけて来る。

鈴子は、朝吉の無実を証明するため、増造の車に乗り込むと中沢の家まで向かうが、そこで降りた増造は、社長と朝吉さんは大阪の店の方に行ったらしいので、荒雲に連れて行ってもらいますと言い出したので、さすがに鈴子も話がおかしいと警戒するが、もう手遅れだった。

その頃、兄の辰吉の元には、警察から太田刑事(塩崎純男)が訪ねて来て、池で見つかった中沢の子分は投げられる前に死んでいた。朝吉はいるか?と聞いて来るが、帰ってないと知ると、執行猶予中の身で帰ってないとなると、逃げたと言うことになり身上悪くなるしな…と言うと、帰って来たら出頭させてくれと言い残して帰って行く。

その頃、朝吉は、郡山の城の前に来ていたが、そこに呼び出していた旧友のチンドン屋佐太郎(藤田まこと)が懐かしそうにやって来る。

佐太郎がおごると言うので、近くの寿司屋で寿司をごちそうになることにした朝吉だったが、後ろのテーブル席に座っていた女が、朝吉が注文する、トロ、鯛、赤貝と、全く同じものを注文して来る。

佐太郎が、お前、かかもろたんか?と聞き、朝吉がまだだと答えると、気に入ったわ!と後ろの女が声をかけて来て、自分は「月留」のお染(森光子)と名乗り、朝吉が無視するので、そのまま先に店を出て行く。

佐太郎は、もっと優しゅうしてやれや、今売れっ子やどと朝吉に教える。

勘定を聞いた佐太郎は、300円と聞くと凍り付き、今度払うわと言いながら席を立とうとするが、朝吉が自分で金を出すと、取っとかんかいと偉そうに主人に声をかける。

2人は、その足で、お染がいる「月留」に行ってみることにする。

本部屋に招かれた2人を前に、お染は茶を立て始める。

その内、朝吉が佐太郎に、お前、忙しいのと違うか?などとわざとらしく聞いて来たので、否、チンドン屋は昼は暇やなどと答えていた佐太郎も、ようやく意味に気づいたのか、急に用事を思いついたわなどと言い出し、先に帰って行く。

やっと2人きりになった朝吉は、床の間の花もあんたが活けたんか?等と言いながら話しかけ、お菓子を先に食べるのよなどと作法を教わりながら、茶をすすり始める。

お染は、もうすぐ、こんな商売も辞めんといかんそうやし、あんたの嫁はんにでもなろうかしらなどと言い、朝吉の方も、帰って来て初めてゆっくりした気分になったなどと答えたので、何の商売?とお染は聞いて来る。

色んなことやったけど、ちっとも身に付かんかったと朝吉が反省すると、お染は、急に朝吉に抱きついて来る。

翌朝、お染は、朝刊に、だるま池の殺人事件の容疑者として朝吉の写真が載っているのに気づく。

まだ寝ていた朝吉の側に来たお染は、何となく朝吉に探りを入れて来るが、朝吉は全く何も気にしていないようなので、新聞を差し出して読ませる。

すると、さすがに朝吉も、何や?わしが人殺しになっとるやないか!と叫び、飛び起きる。

すぐに、田尾のブラシ工場へ電話を入れると、芳太郎が電話に出て、朝吉からだと知ると驚愕する。

わしは潔白や。鈴子に聞けば分かる!と朝吉は興奮して大声で伝えるが、芳太郎が言うには、その鈴子も会社に来ていないと言うではないか。

そんな朝吉の会話を、お澄は親子電話で盗み聞きしていた。

その頃、鈴子は、荒雲に連れられ大阪に来ていた。

荒雲は、中沢さんから、ええ女やるさかい好きにしろと言われた。一目で好きになったんや!わいのかかにする!と、怯える鈴子に迫っていた。

翌日、又、寿司屋で1人、飯を食っていた佐太郎は、昨日、お澄とすれ違いに店に入って来たとある組のチンピラ2人が店の主人を外に呼び出したので、こっそり窓際に近づき、外の会話を盗み聞く。

その後、「月留」の朝吉とお澄の部屋に駆けつけた佐太郎は、兄弟!大変や!千歳組の奴らが昨日の店で、あんたの居所を聞いとったと知らせる。

あない新聞に出てしもうたら、逃げも隠れも出来んやないかと朝吉は膨れ、何か知恵はないか?と

その頃、辰吉のブラシ工場にやって来たのは、入院中だった清次だった。

新聞を読んで来たらしく、朝吉を探していると言うが、応対した芳太郎が、朝吉さん留守ですわ。行き先は知りまへんわと言うと、隠したら、この家に火をつけるぞ!などと興奮した清次は息巻く。

一方、沖山の方は、郡山も千歳組からの連絡で、東禅寺の遊郭に朝吉がいるとの情報を得ると、ただちに増造を向かわせる。

「月留」の周辺には、千歳組の子分たちが見張っていたが、そんな中、人力車を引いた佐太郎が「月留」の前にやって来る。

朝吉の元にやって来た佐太郎は、若い衆が表を見張っていると教えると、朝吉を変装させるために、女房の着物を差し出すが、朝吉は、チンドン屋用の森の石松の方の衣装を着ると言い出す。

お染は、白塗りをした朝吉の姿を観ると、成駒屋!などとはしゃぐが、佐太郎の方は着物を着て女装すると、石松に変装した朝吉と共にこっそり店を抜け出す。

しかし、すぐに千歳組の連中に見つかったので、公園内でチンドン屋の真似などしてごまかそうとするが通用せず、仕方なく、朝吉は若い衆相手に暴れ始める。

そんな朝吉は、増造が突き出した拳銃を目にすると動きを止めるが、その時、背後から駆けつけて来て、増造の銃を奪い取ったのは清次だった。

千歳組の若い衆と増造を追っ払った後、朝吉は清次の姿を観て、清次!お前足あんのか?と驚く。

その頃、逃げ出していた佐太郎を、心配して店の外に出ていたお染が見つけ、公園に連れて行ってもらう。

公園では、すでに、朝吉は顔を洗って変装を解いていた。

清次が言うには、医者も驚くほどの回復振りで、予定より2週間も早い退院だったと言い、今の出入りの相手、どこの組だんねん?と首を突っ込んで来るが、朝吉は、そんなことより、探さないかん女がいるんやと答える。

清次は、指名手配状態の朝吉が動き回ることを案ずるが、警察に追われるようなこと、わいは何もしとらんと朝吉は否定する。

そこに佐太郎と一緒にやって来たお澄は、あちこち電話して聞いた所、鈴子はん言う人が誘拐されたんやて、荒雲に大阪に連れて行かれたんやて…と教える。

それを聞いた朝吉は、すぐにでも大阪に行こうと言い出すが、大阪と言うだけでは雲を掴むような話だった。

そんな中、佐太郎が、こちらで行司をしていた男が店を出しているはずやと思い出したので、取りあえずそこに行ってみることにし、清次にも同行を頼む。

すると、佐太郎も連れて行ってくれと言い出したので、朝吉は、初対面の清次に佐太郎のことを紹介すると、気持ちだけ受け取っとくわと佐太郎に伝える。

そして、清次と2人で歩き始めるが、清次が急にしゃがみ込んで苦しみ出したので、お前、病院、抜け出して来たんやないのか?大阪へは1人で行くと伝え、清次の手を握る。

その時、清次が真剣な目で見返して来たので、お前、本当に直ったんやな?と朝吉が聞くと、清次は、頼んまっさ、連れて行ってくんなはれと必死に頼むので、仕方なく連れて行くことにする。

大阪

朝吉と清次は、昔、地元相撲で行司をやっていた勝三(鳳啓助)とその女房のおしん(京唄子)がやっていたお好み焼き屋「大関」にやって来る。

田尾の花川部屋の親方の弟さんやと朝吉を紹介した清次は、荒雲がこの辺にいるそうやが知らんか?稲妻と言うのが店出しとるそうで、そこに荒雲が出て入りしているそうなんだがと尋ねるが、心当たりがないと言いながらも、おしんは一目で朝吉が気に入ったようで、勝三と清次を外に探しに行かせると、自分は嬉しそうに朝吉と二人きりになる。

清次は、相撲取りが店やっとるなら、何か相撲に関係した名前じゃないのか?と勝三に聞くが、勝三は思い出せない。

その頃、辰吉の方は、選挙カーで町内を走り回っていたが、中沢の選挙カーとすれ違うと、殺人犯を弟に持つような奴に貴い一票を入れないようにしましょうなどと言われてしまい、選挙カーに同乗していた芳太郎などは、こうなったら殴り込みをかけましょうなどと興奮したりする。

朝吉にべったり迫って来たおしんは、今日は店は締めた。前からあんさんみたいなええ男を吸い込んでみたかったんや!などと迫って来ると、そして、あんさんに一つ頼みがあるんやわ。家の宿六どやしつけて欲しいのや。あの年になっても浮気の虫が収まりませんのやと言うと、あんさんも、花川部屋の弟さんなら相撲くらい取るでしょうから、上手投げでも下手投げでも、やぐら…と言いかけて、何かを思い出したようで、そうや「里やぐら」と言う店や!と荒雲がいる稲妻の店の名前を思い出す。

その「ちゃんこ 里やぐら」の二階に連れ込まれていた鈴子は、お前に逃げられては困るんじゃ。三朝の芸子にはめ込むまで自由にさせられんのじゃと荒雲に迫られ、キ○ガイ!ケダモノ!と必死に抵抗していた。

外に飛び出した朝吉は、清次と勝三に会うと、「里やぐら」やと教え、一緒にその店に向かう。

主人の稲妻(芦屋小雁)に、荒雲、来ているそうやな?と声をかけた勝三は、行司と知って懐かしそうに顔を出した荒雲に、田尾の中沢さんから聞いて来た。公園で使いの人が待っていると言い呼び出す。

しかし、公園で待っていたのは朝吉だったので、荒雲は帰ろうとするが、身を潜めていた清次が出て来て荒雲を痛めつけ、鈴子はんはどこやったんや?と問いつめると、「里やぐら」の2階にいると答える。

すぐに「里やぐら」に取って返した清次は、稲妻に、鈴子を出せと迫るが、稲妻は、荒雲の許可を得なければダメだと言うので、大声で鈴子に呼びかけ、降りて来た鈴子を連れて公園に戻って来る。

公園では、こんこんと朝吉から言い聞かされた荒雲が、素直に反省していた。

2人がちょっと、水を飲みに場所を移動した所にやって来た鈴子は、朝吉に会いたくないと言い出すが、清次は、親分は人殺しにされとるんや!と説得し、ようやく朝吉が姿を現すと、何でもっと早く来てくれへんかったの?朝吉さん、嫌いや!と鈴子は責める。

すっかり改心した荒熊は、そんな鈴子に詫びる。

後日、「だるま池殺人事件捜査本部」の戒名は取り外される。

鈴子の証言により、真犯人の増造が捕まったからだった。

辰吉のブラシ工場に戻っていた朝吉は、中沢が又殴り込んで来るかも知れんで…と忠告するが、辰吉は、そんな朝吉に、選挙はわしがするんじゃ。お前、手も足も出したらあかんぞと釘を刺す。

朝吉は鈴子には礼を言ってくれと辰吉に頼むと、清次には、選挙なんかに興味はないと茶化しながら、一緒に工場を出て行く。

一方、中沢は、朝吉なんてほんの雑魚や、ちゃんと先の手は打ってある。楽しみに観てもらいたいなどと仲間内で話していた。

その夜、朝吉の寝室にやって来た鈴子は、大阪に連れて行かれたことを何で黙っていたの?うち分かっている。うちのことが嫌いやったんや。あの人に無理矢理に…と言い始めたので、朝吉はそれ以上言わさず、犬にかまれたようなもんやと慰めるが、鈴子は、抱いて欲しいねん。内みたいね傷もんで良かったらと言いながらすがりついて来るが、朝吉は応じようとはしなかった。

鈴子は哀しそうに飛び出すと、その会話を外で聞いていたらしい清次が入って来て、親分、あんさん、もうちょっと女心を分かってやらんと…などと説教を始めるが、朝吉はそんなことより、中沢がこのまま黙っていると思うか?と心配していた。

その予感通り、翌日、お澄の所にやって来た幸吉は、朝吉をここへ呼び出せと脅しつける。

お澄は、ブラシ工場に電話をするが、出たのは鈴子で、その場にいたのは、選挙運動中、握り飯を食べに戻っていた辰吉だけだった。

鈴子から電話を受け取った辰吉は、兄だが…と伝えるが、お澄は、わざと朝吉に電話をしているように、うち、ちょっと遠くに行くことにしたんや、布袋屋はんにいますと一方的に告げて電話を切る。

受話器を置いた辰吉は、誰だか知らないが、兄だと言っているのに、わしを朝吉で通したのは何のためか…?と考え、自ら布袋屋に行ってみることにする。

布袋屋のお澄の元にやって来た辰吉は、脅されて呼び出したと謝るお澄と、隣の部屋から、朝吉を呼ぶつもりだったが、おんどれが来てくれたので手間が省けたわと喜ぶ幸吉と銃を突きつけて来た子分に会う。

明日の選挙で当選したかて、候補者が死んだら何にもならんなと幸吉は言い、こんな所で騒いだり、わしを殺すようなことをすると、当選がダメになるぞと反論すると、自動車事故で死んでもらうねんと辰吉を脅す。

中沢の選挙事務所前の和菓子屋で茶を飲みながら見張っていた朝吉と清次は、中沢が車に乗って出かけるので、何かあったと感じ、一旦ブラシ工場へ戻ってみる。

すると、辰吉が女の人から電話を受けて出かけたと鈴子が教えるので、布袋屋に行ってみることにする。

お澄は、銃を突きつける子分に見張られており、朝吉がやって来た事を知るとパニック状態になり、襖が開きそうになったので、朝吉はん、入ったらあかん!と呼びかけるが、朝吉は、横の襖から入って来て、子分が持っていた銃を取り上げると、口にその銃を突っ込んで、辰吉の居場所を吐かせる。

人気のない場所で辰吉と会った中沢は、話し合いで、あんたが降りてもらうのがええと思うのやが…などと言って来るが、辰吉が拒否すると、両手を縛られ、道の真ん中に宙づり状態にすると、その横を自動車が何度も通り過ぎて脅かし始める。

それでも、辰吉が言うことを聞かないので、とうとう、両手を吊り上げていたロープの根本を斧で切断し、辰吉は道の中央に倒れ込み、そこに車が突っ込んで来る。

その時、銃声が響き、車のフロントガラスに数発撃ち込まれたので、間一髪、車は辰吉を轢く直前で脇にそれてしまう。

銃を撃ったのは清次で、朝吉は、飛び道具は捨てろ!と警告するが、中沢の子分たちが言うことを聞こうとしないので、清次が銃で援護をする中、朝吉は殴り合いを始める。

子分はあっさり片付け、良っしゃ!一騎打ちじゃいと中沢と対峙するが、中沢はあっさり膝をつき、わしの負けや。どうとでもしさらせ!と吐き捨てたので、朝吉は、帰れ!と怒鳴りつける。

朝吉は、幸吉や子分らを連れてすごすごと引き上げて行く。

清次には、お前、腹痛いんやろ?とからかい、辰吉には、あいつら、4、5日は足腰立たへんわと安心させるが、辰吉は、お前らの手を借りんでも選挙勝てるわ!もう、この町うろちょろするな!と叱りつけ、さっさとその場を立ち去って行くので、心配して付いて来ていたお澄は、社長はん!と呼びかけながら後を追う。

すると、辰吉は、旅費の足しにとくれてやれと言って、自分の財布をお澄に託したので、兄の気持ちを察したお澄は泣きそうになる。

その夜、鈴子とお澄で、清次と朝吉のささやかな送別会と称し、食堂に集まっていた。

酒が飲めない朝吉は、1人でさっさと飯を食うと、ぼちぼち出かけるか。取りあえず大阪に行って、船に乗るか汽車に乗るか決めようやなどと清次に話しかけ、鈴子には、ええ婿はん探すんやと励ますが、それを聞いていたお澄は、うちみたいな嫁はんもらうのが男やでと朝吉に笑いかけると、自分はこれから道後温泉へ行くと打ち明ける。

借金、積もり積もって、洗い直しや、その途中であんたにお別れが言いたかったんやと告白し、店を後にしようとするが、そんなお澄の後を追うように、鈴子も、うち、工場を辞めさせてもらいます。大阪か神戸で働かせてもらいます。うち、もうこの町にいたくないんです!と朝吉に告げると、店を出て行ってしまう。

何で鈴子まで行きよったんやろな?と朝吉は呆れるが、親分のおらんこの町にはいたくない。哀しい記憶だけが残る…、色男やな〜と清次が説明すると、何や、送別会やと言うのに、自分らが先に帰ったんじゃ逆さまやないか。

お前、金持っているか?と朝吉が聞くと、兄さんの餞別や言うてお澄が預かっとりましたんやと言いながら財布を取り出してみせたので、朝吉は急にしんみりとなる。

数日後、船に乗っていた清次は、トランジスタラジオから聞こえて来る、田尾市の選挙速報を聞くと、一緒に載っていた朝吉に、親分!おめでとうはん!社長はん、通りましたで、と教える。

そして、親分観てると、何や女運ないな…、鈴子はんもお澄も…と清次が付け加えると、しゃあないやないか、染み込んだ悪名や…と朝吉は答える。

海の水面に、女の歌声が重なる。