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座頭市関所破り

シリーズ9作目

12月30日公開の正月映画になっており、劇中でも、正月を間近に控えた年の瀬の数日間のドラマが描かれている。

正月映画だけに、漫才コンビ中田ダイマル・ラケットの出演などユーモアシーンも入っているし、子供から年配層まで楽しめるように、角兵衛獅子兄弟から儀十と言う老人まで登場させており、娘役も高田美和演ずるお咲、滝瑛子演ずるお仙と2人、用心棒役も、全く正反対なイメージの沖剛之助と奥瀬勘十郎の2人がいると言った贅沢な感じの設定になっている。

これだけ要素が多いと、ごった煮のようなうるさい感じになりそうだが、その辺は巧く処理してある。

メインの用心棒役になる平幹二朗は、天知茂が1作目に演じた平手造酒に通ずる薄幸な浪人イメージであり、その人柄に同情している市は、同じように、死骸に自分の上着を着せてやる。

平幹二朗演ずる沖剛之助は、人気テレビドラマ「三匹の侍」の桔梗鋭之介を彷彿とさせる姿かたちになっており、公開当時は「三匹の侍対座頭市」と言う2大人気キャラ対決だ思って観ていた客も多かったのではないか。

もう一つの本作の見所は、座頭市が自らの幼少期の父との別れを語っている所だと思う。

儀十の過去を、似ているが違うな…と言っている所から察すると、市も、父親と生き別れていたと言うことになる。

しかし、妙義山で見失ったと言う儀十の話に近いとするなら、シリーズ2作目の「続・座頭市物語」で登場した兄の渚の与四郎とけんか別れする話との整合性が怪しくなる。

取りあえず、市は、何らかの事情があり、父親とは生き別れたと言うことなのだろう。

タイトルが「関所破り」となっているので、あたかも市が自ら関所破りをやったかのような連想を生むが、本編を観てみると、別に市は関所を破っている訳ではない。

元々、市は凶状持ち(指名手配犯)なので、とっくに関所を無事通過できる身分ではないのだ。

常に、関所を避け、山越えなどをして旅を続けているはずなのである。

実際、これまでの作品でも、市が通行手形など差し出して、関所を通過すると言ったシーンはどこにもない。

つまり、今回の役人殺しは、関所を突破するためにやっているのではなく、あくまでも、極悪人の奉行とそれに癒着して甘い汁を吸っているヤクザの親分を懲らしめるためである。

それも、お咲とお仙と言う2人の娘に出会ってしまったばかりに巻き込まれてしまったものであり、その理不尽さを呪った市が吐くのが、最後の言葉なのである。

結果的に、市はもう、奉行まで殺してしまった極悪人と言うことになってしまっている。

お咲を演じている高田美和は高田好吉の娘さんで、「眠狂四郎」シリーズの方にも出ているし、この当時、角兵衛獅子兄弟の弟の方を演じている二宮秀樹と共に「大魔神」(1966)にも登場している。

中村玉緒、藤村志保らと共に、この当時のプログラムピクチャーを支えた若き女優の1人である。

さらに、この作品では、儀十を演じている伊井友三郎のアル中演技が見物。

相当なベテランのようだが、この作品での演技は絶品と言うほかはない。

まっ二つに崩れ落ちる碁盤や、廻りながらまっ二つに裂ける駒など、市の居合いの凄まじさを表現する仕掛け技術も進歩している。

全体的にものすごい傑作と言う感じではないが、盛りだくさんの要素を手堅くまとめた娯楽作品だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1964年、大映、子母沢寛原作、浅井昭三郎脚本、安田公義監督作品。

旅の途中、風が舞う中、野に1人佇む座頭市

ひでぇ埃だ…、目明きだったら困るだろうなぁ~…と呟く

タイトル

凧が揚がっている。

その内の一つが墜落したので、子供たち数人がその凧が落ちた方へかけて来ると、そこには、小屋の横に腰掛け、握り飯を食いかけていた市がいたので、驚いた立ち止まる。

市は、目の垂れ下がって来た凧を触り、最初は何かとおっかなびっくりだったが、すぐに凧と気づくとほっとして、近くの子供を手招きすると、1人の子供にその凧を渡してやる。

凧を受け取ったその子が手を振って、見えない事を知らせると、子供たちは、好奇心から市の廻りに集まって来るが、すぐにわ~い!おじちゃん、ありがとう!と言いながら、駈けて行く。

それを聞いた市は微笑み、子供は良いなぁ…、お天道様に恥ずかしくないのは子供だけかも知れないな…と呟いていると、小屋の横から出て来た頬かぶりの男新助(千波丈太郎)が市に気づき、おめえさんこれからどこへ行く?と聞いて来る。

笠間ですけど…と言うと、そいつは都合が良い。むさし屋って店の女中でお仙ってのに、これを渡してもらいたいと言うと、手紙をひねったものを手渡して来る。

市は、あ、なるほど…と笑いながら、メクラじゃ手紙読めませんからね…と言うと、そんな色っぽいもんじゃねえけど、人に観られたくねえんだと言う。

市は、どうせついでですから…と引き受けるが、相手が立ち去ると、妙なものを頼まれちまったな…とぼやいてみせる。

笠間の町では、もうすぐ迎える正月に向けて、妙義山を拝みに来る客目当てで、地方から芸人たちが集まって来ていた。

三河万才の大丸(中田ダイマル)ラケ吉(中田ラケット)コンビもその中に混じっていたが、女芸人たちに太夫は?と声をかけると、混まないうちにって1人風呂に入っているわと聞くと、一緒に入りに遺功などとするが、そんな芸人や商売人たちの前にやって来た島村一家の代貸鴨造(水原浩一)が、正月を当て込んで来たものは場割をするから集まってくれと声をかける。

俺たちには場割など関係ないのに…とぼやきながら、大丸、ラケ助も、大貸の睨みにビビリ、付いて行くしかなかった。

その宿場町にやって来た市の足下に、目なしだるまが転がって来る。

運んでいた露天商夫婦が、それはあげるよと言ってくれたので、礼を言ってだるまを持った市は、その夫婦にここがむさし屋さんですねと確認し中に入るとお仙を呼んでもらう。

お仙(滝瑛子)は、市から手紙を受け取ると、どこでこれを?他に何か…と言うだけで何も言わなかったので、泊まりたいんですけどと市が頼むと、今はどこでも芸人さんや商人で一杯でしょうから、何とか私が…と言って、若い娘お咲(高田美和)と、女芸人の花駒太夫(毛利郁子)の部屋に相部屋にしてもらえないだろうかと頼んでやる。

花駒太夫は、いくら眼が見えなくても男と一緒は嫌と断るが、お咲の方は良いと言うので、そのまま市はその部屋に泊まらせてもらうことになる。

お先はお仙に、私の連れ合いまだですか?と聞くが、まだと聞くとがっかりする。

市は、肩でも掴まらせてもらいましょうか?とお愛想を言うが、花駒太夫は、私は結構と冷たく断る。

そのむさし屋の松の間に集まっていた芸人、商人たちに、勘十郎は、今年から全員4文もらうと伝えていた。

それでは商売にならないと、大丸、ラケ助は隅で文句を言っていたが、勘十郎は、これは俺が言ってるんじゃない、郡奉行が言っているんだと睨まれると黙り込んでしまう。

そんな商人たちに混じって太った浪人奥瀬勘十郎(富田仲次郎)が一人混じっていたので、お前は何だ?と勘十郎が聞くと、わしを買わんかいと言うので、じゃ、親分の所へ付いて来いと声をかける。

残った芸人たちはこんなべらぼうな話はないよ、加島五郎太と言う奉行は因業な奴で、農民たちは泣いているらしいと言い出すと、女芸人も、島村の甚兵衛が景気が良くなったのも、奉行に賄賂を渡して十手捕り縄をもらったからだよと愚痴る。

むさし屋の玄関口に来た鴨造に、子分の1人が耳打ちし、新助の奴が島を逃げ出しやがって、こっちに戻って来たらしいと言う。

鴨造は、お仙の奴が何か知っているかも知れねえと言うので、ちょうど階段を降りて来ていたお仙を捕まえようとするが、そこに立ちはだかったのが市で、杖を巧みに使い、からかうように二階に上ろうとした子分たちをたちまち2、3人ばかり転がり落とす。

それを観ていた勘十郎は、そこから上に上がらんらしいなと面白がるが、じゃ、手伝って下さいよと鴨造から頼まれると、わしはまだ雇われておらんと惚け、鴨造たちと一緒に外に出る。

階段での市の活躍を観ていた花駒太夫は、あんた、強いんだねえと感心するが、市は恥ずかしがり、こっちが何にもしてないのに、向うが勝手に落ちてしまって…と笑い、ごまかすと、部屋に逃げ込んでいたお仙に、又何かあったら、ここへ逃げて来なさいと優しく声をかける。

それを観ていたラケ吉が、座頭市の真似をしてみせるうちに、目が開かんようになった!と急に慌て出したので、大丸が、金や!と畳を指差すと、ラケ吉はすぐに真顔になり、どこや?と探し始める。

お咲は、誰かをまだ探しているらしく、他の旅籠も調べてくれと仲居に頼んでいた。

誰か探しているんですか?と花駒太夫が聞くと、一座の娘らが来て、奉行所と甚兵衛に4分も取られるんじゃ商売にならないからって広間に来て下さいと呼びに来る。

人ごととは思えない!と今の話を聞いていたお咲は、郡奉行と手先になっている下村の甚兵衛部屋に農民たちは来る知れられていると言うので、市があなたは?と聞くと、藤岡の庄屋の清右衛門の娘です。1月ほど前、父は江戸表に上納金減免の嘆願のため村を出て、その消息がこの辺でぷっつり…と言う。

1人でですか?と聞くと、伍助と言うものが一緒だが、今は、篠崎に調べに行っているのだと言う。

一方、お仙は密かに兄の新助と会っていた。

新助は、人にばらさせやがって、島送りにまでさせた島村の甚兵衛を斬る!と島抜けして来た理由を妹に打ち明けていたが、そこに市が近づいて来たので、新助は今の話を聞かれたと気色ばむが、お仙は、この人は島村一家から私を助けてくれた人なのとなだめる。

それでも、ここでは話が出来ないと感じた新助は、二ノ山の炭焼き小屋で待っているとお仙に告げて立ち去って行く。

その頃、島村一家の賭場から追い出されている年寄りがいた。

アル中で、賭場の客が飲み残した酒を盗み飲みにいつも来る儀十(伊井友三郎)だった。

そんな儀十は、賭場を探しにやって来たと言う市と出会ったので、市が元(金)を持っていると知ると、これは好都合とばかりに、又賭場に一緒に戻って来る。

市が取り出した財布の膨らみを観た亥之吉(木村玄)は、胴元とさしでどうだ?と市に耳打ちして来る。

それを横で聞いていた儀十は、市を案じて、止めときゃ良いんだがな~…と呟く。

昼間の敵討ちをなさいますか?などと軽口を叩きながら勝負に臨んだ市は、賽子を改めると、壺の音に耳をすます。

市は、丁と張り、亥之吉は半!と言いながら壺を開こうとするが、その時市はその手を押さえ、瞬時に仕込みを動かすと、賽子は2つで勝負してくれるんでしょうね?と確認する。

当たりめえじゃねえかと言いながら壺を開いた亥之吉だったが、その下には、まっ二つに切断され4つになった賽子があり、中に鉛が仕込んであるのが見えたので、慌ててそれを拾い上げようとかがんだ所を又、市の仕込みが唸り、亥之吉の髷が斬り落とされる。

市はその髷の中から、2つの賽子を取り出して見せたので、亥之吉は焦り、雇われたばかりだと言う奥瀬勘十郎が近づいて来るが、市は、親分さんに会わせてくれ、座頭市が来たと言って…と名乗ると、賭場にいた連中は仰天する。

儀十も、座頭市か…と驚く。

座頭市が連れて来られた奥の間では、郡奉行の加島五郎太(河野秋武)と島村の甚兵衛(上田吉二郎)が囲碁をしており、全く市など無視していたので、待たせてもらいますと、案内役の子分を追い返した市は、隣の部屋で待つことにする。

そんなことに気づかない加島と甚兵衛は、新助は見つかったか?例のことがバレたらどうしましょう?すでに、物取りのあげくの殺しとしてわしが手を回してある…など話し込んでいたが、その時、急に、甚兵衛は市が隣の部屋にいることに気づく。

その時、いきなり市に背後から斬り掛かって来たものがいた。

加島の用心棒、沖剛之助(平幹二朗)であった。

市は、仕込みの握りの部分を斬られてしまったので、親分さん、今夜は引き取らせてもらいましょうと挨拶をして引き上げることにする。

加島がなぜやった?と聞くと、沖は、斬れると思ったんですよと言いながらも黙っているので、何を考えている?と加島が重ねて聞くと、囲碁の盤がまっ二つに切れて崩れ落ちてしまう。

それを観た沖は、表に走り出て市の行方を探すが、もう市はいなかった。

宿に戻って来た市は、花駒太夫がいなくなり、代わりに、元日までこの宿場で稼ぐと言う角兵衛獅子をやる2人の兄弟が泊まっているのを知る。

親がいないと言う兄弟の話を聞いた市は、自分も5つの時にお父ちゃんと別れたんだと話すと、だるまさんに目を入れて頼むといいよなどと無邪気なことを言われる。

そこへお仙がやって来て、兄さんの所に言った方が良いかしら?と聞いて来たので、行くときは私が一緒に行きますよと答える。

その頃、清右衛門の娘が座頭市と同じ宿に泊まっているとの知らせを甚兵衛は子分から聞かされていた。

金で抱き込むんだ、5両も出せば良いだろうなどと話していると、横で聞いていた奥瀬勘十郎が、わしは1両だなどとぼやいたので、まだ先生の腕前は観ていないと甚兵衛は答える。

その市は、角兵衛獅子兄弟と一緒に飯をかき込んでいたが、お咲から、篠田村までお父っつぁんのことを聞いてきますと言って出て行ってしまったので、後を追おうとするが、そこに来たお仙は、1人で大丈夫かしら?と案じる。

すると、角兵衛獅子兄弟が、自分たちが連れてってやると言い出す。

想像通り、宿場を離れたお咲は、すぐに島村一家の子分たちに拉致されてしまうが、そこに近づいて来たのが角兵衛獅子兄弟と市だった。

いけないね、真っ昼間から…。お天道様が観てなさるぜ…と言う市は、動けば、お前さん、まっ二つだよと脅したので、賭場での腕前を知っている子分たちは、担いでいたお咲を降ろして逃げ出してしまう。

角兵衛獅子兄弟は、おじちゃん、強いんだなぁと感心するし、お咲は、あの人たちはどうして私を襲ったのでしょう?と不思議がるが、市は、このまま村にかえって方が良いんじゃないでしょうかとお咲に言い聞かせる。

角兵衛獅子兄弟とお咲を連れむさし屋に戻って来た市は、そこに、沖剛之助が待っているのを知る。

昨日は斬り損なったが、俺と立ち会ってくれと言うので、正月も近いんだし、互いに怪我なんかしたくないですからと断る。

その時、市を守ろうと、畜生!と言いながら、角兵衛獅子兄弟の弟(二宮秀樹)の方が、市から買ってもらった駒を沖に投げつけるが、市は居合いを見せ、床に落ちて廻っていた駒がまっ二つに割れる。

市は出て来たお仙に酒の支度を頼むと、沖と酒を酌み交わし始める。

市が、あれだけの腕をお持ちなのに、奉行の用心棒などなさっているんですね?と聞くと、諸藩の5両2人扶持の軽輩の三男坊の俺には分相応かも知れんと自嘲すると、俺は自分より優れた奴に会いたい。俺はどうしてもお前と勝負したいんだと迫るが、あっしは妙義の山から御来光を観たいだけですと市は相手にしない。

しかし沖は、除夜の鐘が鳴るまでに勝負しようと言い残して帰って行く。

その後、市は、路上で準備していた行商のしめ飾りを盗もうとし、飯屋の主人からとっちめられていた儀十を助け、一緒に酒を飲ませてやることにする。

優しくしてもらったことがない儀十は感激したのか、ただ酒をごちそうになった礼にと歌を歌い出すが、それを聞いた市は驚き、その歌をどこで覚えた?と聞くと、俺の生まれた所の歌で、下川在だと言う。

子供はいたのかと聞くと、行きてりゃお前さんくらいになるはずだと言うので、良かったら聞かせてくれろ頼むと、18年くらい前、妙義山に御来光を見せに行った時、はぐれてしまいそれっきりだと言う。

儀十の名前を聞いた市はむさし屋に戻って来ると、話は似てるな?でも違うなと呟いていた。

そんな市に、お仙が、心配になって来たので、二ノ山に言って来ると言うので、市は、もう父はこの世の人ではないような気がすると言うお咲には部屋から出ないように、角兵衛獅子兄弟には、お咲を観ていてくれと頼む。

市は、心配顔のお咲を慰めるために、賭けましょうか?お父っつあんの無事な姿を見つけたら、このだるまに目を入れて下さいと言って持っていただるまを渡すと、お咲は、もう1つは、市さんの父さんが見つかったら入れますと言ってだるまを受け取る。

お咲に同行して、二ノ山の炭焼き小屋にやって来た市に気づいた新助は、ちぇっ、メ○ラに何が出来ると迷惑がるが、お仙が持って来た握り飯を食べながら、銭も受け取る。

その場に座り込んでいた市は、お前さんって人はバカだね。底の知れねえバカだね。こんな良い妹さんに苦労をさせて…と言い出したので、新助は怒って殴り掛かろうとするが、その時市は、いけねえ、付けられたようだね…とつぶやき緊張する。

その時、島村の子分が斬り込んで来たので、市は2人、又2人と倒していくと、新助を逃がしてやる。

市は、お仙を守りながら戦うが、逃げかけていた新助は、子分たちに斬られてしまう。

子分たちが引き上げたので、お仙は、兄さんは逃げてくれたかしらと心配するが、その直後、血まみれで倒れている新助を発見し、駆け寄る。

お仙…、俺、あの人の言う通り、底なしのバカだった。郡奉行と勘十郎に計られて大田村の名主をばらすように命じられた…と言い残して息絶える。

それを聞いた市は、しばらくあの旅籠には行かない方が良いとお咲に勧める。

その時、奥瀬勘十郎が側にいるのに気づいた市だったが、わしはやらん。わしは、1両で命を捨てるほどバカじゃない。又、どこかで会うかもな…、さらばと言い残して奥瀬勘十郎は去って行く。

その頃、市からお咲を守るように頼まれた角兵衛獅子兄弟は、懸命にお咲を見張っていたが、飯屋に戻って来た市は、えれえことを聞いちまったな…と悩んでいた。

一方、関所の中では郡奉行の加島五郎太は、新助のことは聞いてなかったな?島抜けと言ったら重罪だぞと甚兵衛を責めていた。

側にいた沖に、市のことを聞いてみた加島だったが、正直、五分と五分だと沖は答える。

むさし屋では、ようやく戻って来た伍助が、お咲に報告していたが、その間、市と角兵衛獅子兄弟は、気を利かせて、部屋の外の階段に腰を降ろしていた。

伍助が言うには、この月初め、お父様は藤岡の名主の所から田川へ行くと出かけて行かれたが、蓮池の辺りでお年寄りとヤクザ風の男が言い争っているのを、百姓衆が見かけたらしい。そのお年寄りは、その男に殺されたらしいが、薄暗い中での話なのではっきりしないと慰めていた。

それを聞いたお咲は、それがお父っつあんとは思いたくないと涙ぐむが、そこに入って来た市は、早く村に帰って方が良いと再度勧めたので、市さん、あなたは、父のことで何か知っているんですね?とお咲は問いかける。

市は仕方なく、夕べ、殺したと言う人に会ったので…と答えると、お咲は、その人どこにいるんです?と聞くので、死にました。昔の仲間に殺されて…と市は答える。

なぜ、教えてくれなかったのですか!とお咲は泣きながら責めるので、市は苦しそうに、すみません、言えなかったんですと謝ると、これ以上、お嬢さんにも下のことがあったら何ですから、藤岡の村に帰った方が良い。甚兵衛はお嬢さんの命を狙っていますと教える。

しかし、お咲は、帰りません。例え敵わぬまでも、父の恨みを…と言うので、それじゃあ、死んだお父っつあんが浮かばれません。悪い奴はいつまでもお天道様が許すはずがありません。帰ってやっておくんなさいと頼む。

市はその後、飯屋に儀十を呼ぶと、酒を飲ませながら、藤岡に娘さんを連れて行ってもらいたいんだが、番所の前も通りたくない。お前さんなら信用できるからと頼む。

儀十は分かったと言うと、市から小銭をもらって引き受ける。

お咲は、これをもらって行きますよ。当と梅を入れることが出来なかったけど、あなたの分が残っていますからと言って駕篭に乗り込むと、儀十の先導で、伍助と共に出発する。

ところが、その駕篭は、しばらく言った所で、島村の子分たちに襲われてしまう。

市はお仙のことを案じ、1人で、二ノ山の炭焼き小屋にやって来ていた。

宿場の中で角兵衛獅子を披露していた兄弟は、通りを抜けて行った駕篭から、だるまが転がり落ちたのに気づき、気になって、その駕篭の後を追ってみると、儀十と駕篭は、島村組の家の中に入って行く。

窓から中をのぞいてみると、儀十が甚兵衛から小判を受け取りながら、おめえでも役に立つことがあるんだなぁなどと言われ、笑っていた。

甚兵衛は娘を御奉行様の所へ運ぶんだと子分たちに命じる。

角兵衛獅子の兄の方は、だるまを持った弟をその場に待たせ、自分が市を探しに走り回るが、どこにもいなかった。

一方、弟の方は、島村組から、駕篭が出て来たので、そう使用かと迷うが、後を付いて行くことにする。

兄の方がそこに戻って来て、弟の姿も消えていることに気づく。

弟の方は、駕篭が関所の中に入り込んだのを目撃する。

その関所の中では、加島と甚兵衛が飲んでいたが、加島は、市と言っても、まさか関所まで来んだろうと笑っていた。

島村組の前で待っていた兄の元に帰って来た弟は、あの姉ちゃん、関所に連れて行かれたよと教える。

その頃、山を降り、飯屋に帰って来た市だったが、主人から、さっきから角兵衛獅子の子が何度もあんたを捜していたよと教えられる。

店内は満員で、みんな借金取りから逃げて来てるのさ。もうすぐ除夜の鐘だから、そうなると、何もかもご破算だからと主人は言う。

市は店内で酒を注文するが、そこに再びやって来た角兵衛獅子兄弟が、あの姉ちゃんが駕篭で関所に連れて行かれたと教える。

市は驚き、じゃあ、儀十さんはもやられちまったんだなと呟くと、儀十なら駕篭と一緒に甚兵衛の所に入って行ったと子供らが言うので、裏切られたことを知る。

1人、家の中でへべれけに酔っていた儀十の所にやって来た市は、お前さんって、ひどい人だったんだねと話しかけると、許してくれ、助けてくれと命乞いをして来たので、てめえでも命が惜しいか?と迫ると、哀れと思ったら、斬らねえでくれ!斬られたくねえんだ、死にたくねえんだ。助けてくれよ〜と泣いて詫び始めたので、つかの間だったけど、親爺の面影抱かせてくれたお前さんを斬れねえよ…と言い残して、外に出ようとする。

その瞬間、表戸の障子から2本、刀が飛び出して来たので、間一髪避けた市は、外に立っていた2人を斬り捨てる。

外に出るとさらに2人斬るが、1人だけ、死んだ振りをして倒れた男がいたので、市は手で行けと言う風に合図をし、それを観た1人は逃げ去って行く。

外は、雪が降り始めていた。

関所にやって来た市は、控え所で酒を飲もうとしていた役人たちに、罪もない娘さんがかどわかされちゃって、ここにいるらしいんだが案内して下さいと言いながら入って来る。

かかって来ようとした2人を斬り殺した市は、残った1人に刃を突きつけ、牢に案内させる。

底に閉じ込められていたお咲を解き放った市は、逃げようとした案内係を斬り捨て、一緒に付いて来た角兵衛獅子兄弟に、お咲を連れて帰らせる。

お咲は、宿で待っていますから、きっと来てくれますねと市に呼びかけながら外へ出て行く。

その直後、加島と一緒に飲んでいた甚兵衛の元に、市が娘を逃がしやがった!と鴨造らが駆け込んで来たので、沖が外に飛び出して行く。

沖は裸足で外に出ると、今までの借りを返す!と言いながら刀を市に向ける。

市は、沖の裸足の足さばきを必死に聞こうとしていた。

一瞬、2人は斬り結び、市はバランスを崩して倒れかかる。

その市に再度立ち向かおうとした沖だったが、その場に倒れると、まいった…と呟いて息絶える。

市は、自分が着ていた上着を脱ぐと、そっと沖の身体に着せてやる。

それを観ていた加島は、関所破りの大罪人だ!と叫び、横に付いていた甚兵衛も、御法を破りやがって!と市に呼びかけるが、それを聞いた市は、御法?お前たちは犯していないのか?新助に庄屋を殺させ、島流しにさせるなんて…と睨みつける。

市はかかって来た捕り手たちを次々と斬ると、闇の中に隠れる。

それを探していた鴨造は、どこ行きやがった?生かしといちゃ、こっちの身が危ねえなどと言っていたが、その横の小屋から飛び出して来た市に斬られてしまう。

側にいた甚兵衛、加島も、一瞬の内に斬り殺した市は、妙義のお山に御来光を観に来ただけなんだ…。この仕込みとは縁のない、穏やかな旅を続けようと思っていた俺だ。みんな、お前たちが悪いんだ!と吐き捨てると姿を消す。

関所からは、大勢の御用提灯を持った追っ手が飛び出して行く。

むさし屋では、おじちゃん、どうしたんだろう?きっと帰って来るよと案ずる角兵衛獅子兄弟と、市さん…と呼びかけるお咲が、いつまでも市の帰りを待っていた。

その頃、市は、妙義山の頂上から、1人御来光を拝んでいた。


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