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座頭市血笑旅

シリーズ8作目。

目が見えないだけでハンデなのに、手のかかる赤ん坊を連れているという事が、さらに市のハンデとなって、その後の展開をサスペンスフルにして行く。

実は、この回は、シリーズお馴染みの強力なライバル的侍が登場しない。
襲って来るのは、チンピラやくざ達ばかりである。

つまり、本作の面白さは、赤ん坊を連れて、降り掛かる火の粉を払わねばならない市のピンチの連続と、その市が赤ん坊にどんどん感情移入して行く様の微笑ましさにある。

本当に、子供好きな市の人柄の良さが、後半になるにつれ、観客の胸を締め付ける事になる。

ヤクザで身体的ハンデを持つ市と赤ん坊は、いつかは別れなければならない事を知っているからである。

市は、途中で、訳ありげな女、お香(高千穂ひづる)と出会い、やがて、一緒に旅をするようになる。

お香も又、赤ん坊に感情移入して行くようになる。

ここに至って、市とお香の間に、子供の事をめぐる小さな諍いが起こったりして、これ又微笑ましくも哀れである。

お香とて、赤ん坊を育てられるような、真っ当な暮らしをしている訳ではないからである。

一見、平凡な着想の物語なのだが、全編、アイデアが詰まっており、飽きさせない。

赤ん坊を抱いたまま博打をする市の姿は、サスペンスフルであると同時に滑稽でもある。

一晩雇った遊女に赤ん坊の世話を頼みながらも、相手が信用できずに、なかなか寝付かれない市の子煩悩振りは、単なるユーモア表現という段階を越えて、観るものの胸に食い込んで来る。

ラスト、三たび再会した按摩集団に声をかけず、ひっそり隠れるように彼らをやり過ごす市の心情の複雑さ。

市の人間性、その心根の奥に潜む限り無い寂寥の念に迫った、シリーズ屈指の名作である事は間違いない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1964年、大映京都、子母沢寛原作、星川清司+吉田哲郎+松村正温脚本、三隅研次監督作品。

※文中に、今では差別用語と言われる言葉がいくつか出ていますが、それを省略しては話が通じない部分もあり、一部伏せ字にしてそのまま使用しております。なにとぞご了承ください。

縦書き2行のタイトル

キャストロールで、歩く市(勝新太郎)の足下のアップ

とある場所に来ると、その足がぴたりと止まり、奇妙な足の動きで馬糞を避ける。

本編

メ○ラでございます〜と先頭を行く按摩が声を上げながら、善光寺参りでもするのか、按摩の一団が通る。

その一団に、座頭市はいないか?と声をかけて来たのは、文殊の和平次(石黒達也)とその子分たち。

しかし、按摩の中から名乗り出たのは、座頭の松の市、杉の市…、あげくの果てに、全員が「座頭」の「市」でございますと答える。

子分たちは、側の屋敷の壁に按摩たちを一列に並べて顔を確認するが、目的の座頭市はいなかったので、不機嫌そうに立ち去って行く。

その直後、先頭を歩いていた按摩が、家の中に隠れていた座頭市の杖を引っ張って合図をする。

自分をかばってもらった礼をする市に、他の按摩たちは、目明きをからかって面白かった。目明きには気を付けなさいよと声をかけてくれる。

その後、旅を続けていた市は、帰り道なので安くするからと、土平(沖時男)と馬助(越川一)から、声をかけられ駕篭に乗る事になる。

それを遠くから見かけたのが、湧き水で顔を洗っていた和平次の子分たち、和平次は、間道を先回りすることにする。

ところが、土平と馬助は、しばらく走る内に、急な持病で苦しんでいた赤ん坊連れの旅の女おとよ(川口のぶ)と遭遇。

事情を知った市は、自分の代わりにその親子を駕篭に乗せてやる。

先回りしていた和平次一味は、近づいて来た駕篭を取り囲み、駕篭の上から串刺しにするが、中から聞こえて来たのは赤ん坊の泣き声だったので、驚いた和平次らが中を見ると、そこには赤ん坊を抱きしめたおとよが死んでいた。

逃げてきた駕篭かきから事情を聞かされた市は、驚いて現場に駆けつけるが、もうおとよは事切れており、赤ん坊が泣いているだけ。

事情を聞いて駆けつけた庄屋喜右衛門(南部彰三)の家に赤ん坊を連れて行き、母親の身元を市は尋ねる。

おとよが持っていた道中手形と、借用書を確認した喜右衛門は、死んだ女はおとよと言い、夫は、宮木村に住んでいる繭の仲買をしている宇之助と言う堅気で、おとよは、5両の借金のカタとして預けられていたのを、働いて返して帰る所だったらしいと教える。

自分の取った行動が、結果的に母親を殺してしまったのだと悔やんだ市は、生き残った乳飲み子を自分が、25、6里以上あると言う宮木村の父親へ届け詫びると言い出す。

それを聞いた喜右衛門は、土平と馬助に一緒について行くよう命じる。

赤ん坊を連れ出発した市と土平、馬助らの様子を遠くから観ていた和平次は、今はまずい。この近くでは、あの女殺しの下手人を探している最中だろうから…と、子分たちにしばらく様子を見るよう命じる。

その後、飯屋で赤ん坊と土平、馬助を待たせ、側の便所で小便をしていた市だったが、そこに近づいて来た和平次たちは市を襲撃しようとする。

足音で気づいた市は、5人かい?てめえたちだな、あの子のお母さんを斬ったのは…?あっしを斬ると言って、金でももらっちまったのかい?と声をかける。

あっしは今、赤ん坊をお父っあんに届けなけりゃいけないので、それまで待ってくれないか?と頼んだ市は、分かってくれたのなら通してくれと、和平次の子分衆の間をすり抜けようとするが、斬り掛かって来たのでやむなく1人切り倒し、それでもてめえらは人間かい?てめえの懐が膨らんで、てめえの面さえ立てば、他人はどうなっても良いのか?他人の赤ん坊はどうなっても構わないのか?と詰め寄り、和平次は、文殊一家はこれまで狙ってしそこなったことはねえ!と捨て台詞を残して、その場は去って行く。

飯屋に戻って来た市は、赤ん坊がいるだけで、土平と馬助がいないので、店の女に聞くと、さっき飛び出して行ったと言う。

2人に逃げられたことを知った市は、やむなく、赤ん坊を抱いて、1人で宮木村へ向かうことにする。

途中、農作業中の女房にもらい乳し、子守り娘(原田清子)が歌う子守唄を覚え、口ずさんでみる市。

そんな市を遠目に監視していた和平次に声をかけて来たのは、偶然通りかかった麻古女の半五郎(杉山昌三九)とその子分たちだった。

市は、なれぬ手つきで、1人、赤ん坊のおしめを替えていたが、飲み屋の中で座頭市のことを明かした和平次は、半五郎に手を貸してくれと頼んでいた。

その後、田んぼの側に来た市は、側を通りかかった1人の女お香 高千穂ひづる)に声をかけ、近くにかかしがないかと聞く。

あると答えたお香に、その場所まで連れて行ってくれと頼んだ市だったが、お香は、市にかかしの位置だけ教え、まっすぐ行けば行き当たると告げて、自分は去って行く。

しかし、気になったので市の行動を振り向いてみると、かかしに突き当たった市は、そのかかしを倒し、着ていた着物だけを盗んで、その後は、元の通り、藁のかかしを立て直していた。

市はその後も、無人の神社の幟などを盗んで、お堂の中で赤ん坊のおしめとして使っていたが、そこに忍んで近づいて来たのは、半五郎一家だった。

市は、まずは3人を斬り殺すと、おしめくらい、ゆっくりさしておくんなさいよ!と怒鳴ると、さらにお堂の中に入り込んで来た半五郎一家の子分を、赤ん坊の上に股がってかばいながら、半五郎を含めた助っ人たちを全員叩き斬る。

まだ4人さん、残っておりやすね?と市が外に声をかけると、和平次たちは恐れをなしてその場を立ち去る。

賭場に立ち寄った市は、赤ん坊を膝の前に寝かせて丁半博打を始めるが、面白いように勝ち進む。

中盆を勤める嘉七(堀北幸夫)の隣には、昼間、市がかかしの在処を聞いたお香も座っていた。

途中、赤ん坊がウンチをしたのに気づいた市は、その場で堂々とおしめを替え始める。

それを聞いた胴元勘十(玉置一恵)は、後で頂きゃ良いんだと子分に耳打ちし、その後、自ら市とさしで勝負しないかと言い出す。

市は、他の客も、運が付いている自分に乗って良いと勧めたので、その場にいた全員が市と同じ丁に賭ける。

勘十は、中盆嘉七(堀北幸夫)に、俺は半だぜと目で合図する。

嘉七は、握った賽を高く放り上げ、横柱の上に隠してあった別の壺の中に入れると、懐から素早く別の賽を出し、それを壺の中に入れてかき回し始める。

すると市は、壺の音色が変わりましたね?と言い出し、あっしは目は悪いが耳は確かなんで…と言いながら、いきなり、赤ん坊を斜め前に座っていたお香に放ると、居合いで上の横柱ごと隠し壺を斬り、中の賽子を落とし、目の前の壺の賽をまっ二つに切断すると、鉛が埋め込まれたいかさまを暴くと、その賽子でやって下さいと前の賽を指す。

仕方なく、嘉七がもう一度前の賽で壺を振ると、出た目は丁だった。

市と同じ丁に賭け、勝った客たちは大喜びする。

市は、お香に礼を言い、赤ん坊を受け取ると、札を金に替えて外に出ると、いつの間にか寝付いた赤ん坊を、そっと藁の上に横たえる。

背後からは、今、金を取って来た勘十の子分たちが怒鳴りながら迫って来るが、しっと黙らせながら、市は全員叩き斬って行く。

斬られた最後の1人が悲鳴を上げても、市は、しっ!と言って黙らせる。

その晩、地元の女郎屋に泊まった市だが、女郎(毛利郁子)に金を渡すと、一晩、この赤ん坊を泣かさず寝かせてくれりゃ良いと言って、自分は何もせず隣に枕を並べて寝る。

しかし、その方が楽だと言いながら女郎が赤ん坊に添い寝をしてやると、すぐに起き上がって来た市は、おしめを替えといた方が良いと思うとか、泣いたら、これを使ってあやしてくれ等と言い、穴空き銭をヒモで繋いだ手製の玩具を女郎に渡したりし、何度も起き上がって来る。

最後には、疲れた女郎の方が先に寝てしまうが、市は赤ん坊が気になってなかなか寝付けないようだった。

翌朝も、女郎より先に起きて、市は赤ん坊を抱いていた。

旅を続けていた市の前に、侍から逃げて来るお香が抱きつき、赤ん坊を受け取ると、この人は自分の亭主ですなどと言い出す。

どうやら、お香は侍から懐中物を掏り取って逃げて来たようで、市は、とっさに自分に渡された荷物の中から財布を取り出して返すと、こいつは自分の女房ですので許して下さいと、その場に土下座する。

しかし、野呂平太夫(伊達三郎)なるその侍は興奮状態で、どうしてもお香を許せないと息巻くので、それでは親子3人とも斬って下さい。女房に死なれたんでは、赤ん坊が育てられませんと頼んだ市は、さらに1枚の紙を所望する。

野呂が、懐紙を1枚取り出すと、瞬時に居合いで3枚に斬ってみせた市は、その3枚の紙に3人の戒名を書いて、近くの寺に収めてくれと頼む。

あまりの凄技に息を飲んだ野呂は、これほど見事な腕の亭主を持っているのなら、性根を入れ替えろとお香に言いつけて、そそくさと立ち去ってしまう。

お香は赤ん坊を市に返すと、その場を立ち去ろうとするが、市はそのお香に、これで何か買ってお食べと言い添えて小銭を渡そうとする。

お香は、市が持っていた巾着袋を覗き込むと、急に欲が出て来たようで、助けてもらったお礼に、その赤ん坊の面倒を見てあげようか?と言い出す。

金なんかいらないなどと殊勝なことを言うお香の魂胆を見抜いた市は、1日1両の日当を払うからと自ら条件を出し、赤ん坊を任せることにする。

その後、川でおしめの洗濯をするお香だったが、市は、そのおしめを自らの手でもう一度洗い直すのだった。

宿に一緒に泊まると、以前助けてもらった按摩の一団と遭遇、市が挨拶をすると、赤ん坊がぐずり、お香がせかせたので、按摩たちは、市に女房と子供がいると勘違いし、うらやましそうに言葉をかけてきて宿を出て行く。

その同じ宿に、和平次たちも泊まり、夜、障子に穴を開け、親子のように川の字になって寝ている市とお香の姿を確認する。

翌朝、お香は、旅立って行く、行商人の背中の荷物から、うぐいすを象った笛を1本くすねて部屋に持って来ると、赤ん坊に吹いてみせたので、市はそのお香の手を叩いて笛をたたき落とすと、いい加減に目を覚ましてもらいたい。他人様のものを盗んでこの子が喜ぶと思うかい?と説教する。

それを聞いたお香は不機嫌になり、あたしが洗ったおしめを又洗い直したりするのはどう言うことだい!気に入らないのなら出て行くよ!と言うなり、着物を着替えて出て行こうとするが、おしっこだったよ。お前さんにさせてもらいたがっているんだよと、市が赤ん坊のことを指摘すると、今まで険しかったお香の顔が緩み、素直に赤ん坊を抱くと、二階の渡り廊下からおしっこをさせてやるのだった。

ところが、ちょうどそのとき、真下を通りかかった関取の小手丑(天王寺虎之助)の顔にかかってしまったので、気づいた小手丑は激怒し、降りて来いと怒鳴りつける。

それを聞いた市は、自分が下に降りて行って謝るが、その様子に気づいた和平次たちは、近くで見物と洒落込む。

小手丑ともう1人の関取は、市を投げ飛ばして鬱憤ばらしをするが、そのとき、和平次らが近づいて来て、こいつには恨みがあるので、後はこちらに任せてくれと声をかける。

市が意外と手強いことを知った関取2人は、これ幸いとその場を立ち去り、和平次たちは、市が置いていた仕込みを遠くに放り投げてしまう。

市は一瞬焦るが、かかって来た和平次たちの腕に必死にしがみついて刀を避けながら、徐々に、仕込み杖が落ちている辺りににじり寄ると、仕込みを拾って和平次の子分3人を斬ってしまう。

そこに赤ん坊を抱いたまま駆けつけて来たお香は、感極まって、市っつあん!と抱きつくのだった。

その後、お香と共に宮木村へ向かうことになった市だったが、お香が近所でもらい乳をしに行っている間、赤ん坊を抱いていた市は、自分の乳を含ませようとする。

赤ん坊が乳に吸い付くと、くすぐったそうな表情をする市。

そこへ、乳をもらって来たお香が戻って来るが、市は、もう寝ちまったよと言って、お香を静かにさせる。

お香は、赤ん坊の寝顔を観ているうちに、可愛いね〜…、私、スリは辞めるよ、金輪際…、本当だよ、市さん。この子の寝顔を観ていたら、私、恥ずかしくなって…、今朝のこと、堪忍しておくれよ。とうとう言ってしまった。これで胸がすーっとしたと語ると、この手をぶっておくれと市に頼む。

市は、よ〜し!ぶつぞ!と言って手を振り上げるが、お香が目をつぶると、寸止めして、優しくチョンと叩いただけだったので、思わず2人は笑い出すが、赤ん坊に気遣って、思わず口をつぐむのだった。

いよいよ、目的地である宮木村に到着した2人は宿に泊まるが、お香は急に赤ん坊と別れたくない。もう1日だけ一緒にいて明日親に返そうなどと言い出す。

しかし、市は、これで俺はすーっとしたよ。お父っあんに渡せば、この子とは何の関わりもなくなる。こんな手のかかるのってないね。俺は赤ん坊は大嫌いなんだよ。責任があるから面倒見ているだけなんだなどと言い、この子の着物を買って来てくれとお香に命じて金を渡すと、部屋から追い出してしまう。

そして、赤ん坊と2人きりになった市は、今、おいちゃんが言ったのは噓だよ。おいちゃんはお前と別れたくないんだ、一生…。良い子になってくれよ。俺はおめえの顔を覚えられないから、おめえの方がおいちゃんを覚えていておくれよと言いながら、赤ん坊のもみじのような手を取って、自らの顔を触らせ、これがお鼻だよ。これがお口…、これは…と目を触らせて、ないんだよ…と言い添えると、はりこや〜すいたかじゅんさい♩と覚えた子守り歌を歌い始める。

着物を買って帰って来たお香は、部屋に入ろうとして、中から聞こえて来る子守唄に気づくと、市の身上を察し、もう一度静かに階段を下りると、わざと大きな足音を立てて帰って来る。

市は慌てて、抱いていた赤ん坊を座布団の上に寝かせると、お香が買って来た上等の着物の肌触りを確かめる。

赤ん坊の着物をお香に着替えさせると、市は旅支度を始める。

日東と祝儀を無理矢理市が渡そうとするので、良くもそんな冷たいことを平気で…とお香は抗議するが、俺たちはこれ以上、一緒にいちゃいけないんだよ。俺はメクラでヤクザの流れもんさ。どうやって、これから赤ん坊の面倒が観れる?と市は反論する。

そのくらいの稼ぎは私が何とかするからさ…とお香が言うと、お前さん、スリ辞めたんじゃないのかい?きれいに暮らさないと、この子に恥ずかしいじゃないか。俺たちも、この子のことを良い思い出に、きれいに別れようじゃないかと市は説得する。

その後、赤ん坊を抱き、父親宇之助がいると言う柊屋にやって来た市だったが、中の様子が堅気の家とは違っていることに気づく。

市は横柄な口の聞き方をする子分らしき男に、宇之助さんにお会いしたいと申し出るが、親分への用事は自分が受けると相手が言ったので、親分?と不思議がる。

そのとき、その親分らしき男が出かけようと玄関口に出て来たので、繭の仲買をしている宇之助さんでしょうか?と市は声をかけてみる。

宇之助(金子信雄)は、以前はそんなこともやっていたが…と言いながら、赤ん坊を抱いた市をうさん臭そうに睨みつける。

おとよさんのことでうかがいましたと言いながら、おとよの形見である道中手形と借用書を取り出してみせ、お前さんのおかみさんは、この赤ん坊をかばって死んでしまいました。この子はあなたの子ですよと市は説明するが、聞いていた宇之助は、俺はおとよなんてしらねえ。てめえ、養い料でもせしめようと思って来やがったんだな?等と言い出し、市が取り出したおとよの遺髪も、蹴飛ばしてしまう。

市はそれでも、赤ん坊を子分たちに見せながら、この赤ん坊の顔、親分さんに似てませんか?などと言ってみるが、宇之助は、間もなく、立派な親分の娘が輿入れすることになっているんだ!と怒鳴りつけて来る。

それを聞いた市は完全に諦め、この子は私が育てますと言うと、ガキはくれてやるから、とっとと出て行きやがれ!と宇之助は言う。

足下に落ちていたおとよのか遺髪を拾い上げ、外に出ようとした市は、目の前でこちらを睨みつけている和平次に気づく。

和平次はその場を立ち去るが、店から出て来た市に駆け寄って来て、どうしたんだい?と聞いて来たのはお香だった。

市は、あんなのは人じゃねえよ。畜生にも劣る奴だ。借金のカタに入れた時から、おとよさんと縁を切るつもりだったんだ…と悔し気に説明する。

それを聞いたお香は、私たち2人でこの子を育てようよと嬉しそうに言い出すが、彼女が酔っていることに気づいた市は、これ以上、あっしに付いて来ないでくれと言い聞かす。

涙を流しながら、了承したお香が、これからどうするんだい?と聞くと、この子のお母っさんの髪を寺に収めないと…と市は答えるだけだった。

その頃、訪れた文殊の和平次から座頭市のことを教えられた宇之助は、あいつを斬れば評判が上がるぜと焚き付けられていた。

手はずは?と宇之助が尋ねると、メ○ラの頼りは耳だ。その耳の勘さえ狂わせればこっちのもんだと和平次は薄笑いを浮かべる。

寺の住職了海(加藤嘉)は、この子のためならどんなことでもしてやろうと思うと、すっかり赤ん坊に情が移ったことを打ち明ける市に、その子は鷲が預かろうと言い出す。

あっしが育てられないとでも?とむっとした市に、お前さんはメクラで1人者、ヤクザの流れもんだ。そんなお前と一緒で、その子がいつまで無事でいられると思う?よしんば無事だったとしても、その子までヤクザの流れ者になっても良いのか?本当にその子を想うのなら、その子をわしに預けなさいと了海は言い聞かす。

その時、小坊主がやって来て、宇之助親分が座頭市を出せ。墓の裏で待ってると言っています。出さなきゃ、寺に火を放つって…と知らせる。

市は了海に赤ん坊を託すと、読み書き算盤の出来る一人前の人間にしてやって下さい。相手ってのは、その子の親なんです。話せば何とか分かりますから…と言い残して、墓の裏に向かう。

そのとき、持っていた、穴明き銭の玩具を了海に渡そうとし、すぐに思い返して懐に戻す市。

墓の裏に来てみた市は、その場に和平次もいることに気づき、宇之助さん、やっぱり、お前さんだけの才覚じゃなかったんですね?と声をかける。

次の瞬間、市の周囲を取り囲んだ子分たちは、大きな火の付いた松明を市に向けて来る。

熱気と炎が立てる音で方向感覚を失う市。

必死に応戦を始めた市だったが、その着物に火がついてしまう。

転がり回って火を消す市は、かかって来た和平次を斬る。

そして立ち上がった市は、もう1度聞く。どうしてもあの子は、お前の子じゃないんだな?と宇之助に迫る。

敵わないと気づいた宇之助は、子分たちに刀を引かせると、その場に土下座をし、あの子は確かに俺の子だ。子供が生まれたことは、おとよからの頼りで知っていた。俺が育てるから斬らないでくれ!噓じゃない!この通りだ!と言いながら、命乞いをして来る。

市は、その言葉を信じたのか、落ちていた仕込みの鞘を拾い上げ、刃をしまうが、そのとき、背後から宇之助が斬り掛かって来たので、瞬間的に居合いで斬り殺す。

赤ん坊を抱いた了海に頭を下げ、寺の石階段を降りる市。

下では、そんな市の様子を見つめるお香が立っていたが、互いに何も言わないまま、市はその場を立ち去って行く。

子守唄を歌い、穴明き銭の玩具を1人でいじりながら旅を続けていた市は、聞こ覚えのあるメ○ラでございます!と言う声を間近に聞く。

以前助けてもらった按摩の集団が近づいていたのだった。

しかし、今の市には、彼らに声をかける気持ちの余裕はなく、黙ったまま、横を通り過ぎて行く彼らをやり過ごすのだった。

そして、霧の中、市は遠ざかって行く。


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