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新書・忍びの者

人気シリーズ第8弾

これまでの、石川五右衛門、霧隠才蔵とは違った、霞小次郎と言う新キャラクターを主演にし、時代も幾分遡った時代で新しい展開になっている。

とは言え、忍者が歴史上有名な武将に関わり、自らの復讐を遂げる…と言う大まかな骨格は同じなので、新味はあまりない。

この作品では、後年、黒澤明の「影武者」(1980)でも有名になった武田信玄の最期が描かれている。

この信玄に扮している石山健二郎は、黒澤明の「天国と地獄」(1963)で、禿頭の田口部長刑事(ボースン)を演じたことで有名な人だが、本作では、肖像画で知られる信玄そっくりの風貌になっているのが楽しい。

この作品でヒロイン役になる千歳は冨士眞奈美、茜は大楠道代であるが、大映作品に数多く出ていた大楠道代に比べると、この当時の冨士眞奈美の姿を観るのは珍しい。

当時28くらいで、派手な顔立ちと言うこともあり、まだ十分美しいのだが、すでに肥満が始まっており、デビュー当時の痩せて清楚な美貌とは違う妖艶な風貌に変化している。

主演の市川雷蔵の方も当時35才くらいで、20代の小次郎を演じるには、若干顔や体系がふくよかに見える。

その雷蔵が、劇中、バック転を披露するシーンがあるが、これは吹き替え(スタンドイン)を巧く使った編集マジックで描かれている一種の特撮である。

左太夫の屋敷で練習を重ねた小次郎が、正面向き(スクリーンに雷蔵の顔が見える)にあぐらをかいた状態からバック宙の体勢になり、次の瞬間、体系の良く似た別人がバック宙をしているフィルムに変わり、そのスタンドインは後ろ向き(顔が見えない)状態であぐらをかき、すぐに又バック宙をし、そこから着地する雷蔵のフィルムに繋げてある。

目を凝らして観ていると、編集した部分が微妙にずれているのだが、動きの途中での編集であるため、ほとんど気づかず、実際に雷蔵自身がバック宙を連続してやっているように見える見事なシーンになっている。

他にも、白黒作品と言うこともあって、巧妙な絵合成が使われており、月夜の晩、外で横笛を吹く茜のそばに小次郎が近づいて来るロマンチックなシーンとか、崖の上に建つ二俣城の外観などは絵合成と思われる。

本作では、乱波としてはまだ未熟な小次郎が、左太夫の元で忍術の修行に明け暮れると言う訓練期間の描写が多いことや、穴掘りをして敵陣の井戸を涸らす作戦が描かれている辺りが異色と言えるかも知れない。

1作目で強烈な印象を残した伊藤雄之助が、又、重要な役所で再登場しているが、このシリーズを良く知る人には、途中から薄々オチが分かるような部分がある。

それでも、伊藤雄之助の独特のキャラクターは魅力的であり、かなりマンネリ気味になって来たこのシリーズをかろうじて支えてくれているような気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1966年、大映、高岩肇脚本、池広一夫監督作品。

天文年間末期ー

将軍足利家の実力は日増しに衰え、天下制覇を狙う武将たちは各地に蜂起し、俗に言う戦国時代に突入した…

山奥の小屋の中で火薬の研究を進める霞勘兵衛(須賀不二男)の側には、息子の小次郎が、熊の人形で無邪気に遊んでいた。

その小次郎が、木彫りの熊の人形の足が取れたので父親に持って行くと、膝の上に抱いた勘兵衛は、今度、国中に出たらもっと良い玩具を買って来てやる。後3日寝れば、この火薬が完成する。霞峠を越えれば、国中まで11里、お殿様の新原稿にこれをお渡しすれば、お父は大金持ちになると話しかけていたが、その時、人の気配を感じた勘兵衛は、地面に耳をつけ、相手は5人と知ると、小次郎を納戸の中に隠し、声を出すなと命じると、火薬を入れていた瓶を床下に起き、急いで、小屋中の窓を閉めて、入口の脇で身構える。

やがて、刺客が中に侵入して来たので、2人は斬り殺すが、鎖がまを持ち、顔の右頬に大きな傷のある男が勘兵衛の右腕を斬り落とす。

それを納戸の戸の隙間から見つめる小次郎。

続いて、別の刺客が、勘兵衛の両目を刀で斬り裂く。

苦しんで倒れた勘兵衛を、最後の1人がとどめを刺し逃げ出すが、床下の火薬の瓶を見つけた2人は何とか持ち去ろうとする。

しかし、逃げろ!爆発するぞ!と言う声が聞こえ、全員が逃げ出した後、小屋は大爆発で砕け散る。

タイトル

星霜流れて20年…

武田信玄(石山健二郎)は乱波(忍者の意味)による情報収集と神出鬼没の戦略で勢力を広げていた。京の地に風林火山の旗印を掲げるべき虎視眈々と機会を待ち受けていた。

一方、徳川家康(内藤武敏)は、織田信長の庇護のもと、ようやく戦国武将としての第一歩を踏み出した若干31才の武将だった。

乱波として成長した霞小次郎(市川雷蔵)は、ある日、信長の使者が馬で近づいて来たのを木の上から狙っていたが、目の前で銃声が響くと、その使者は馬上より落下し、そこに駆けつけた見知らぬ乱波が、先に密書を奪い去ってしまう。

小次郎は、その乱波を追うが、残されていたのはまだ煙が残っていた鉄砲だけだった。

師匠の元に戻り不覚を詫びた小次郎だったが、師匠は、それは甲斐の乱波に違いないと言う。

小次郎は、親の仇を討つために、もっと術を教えてくれと頼むが、師匠は、もう自分にはお前に教えることはない。お前は甲斐に行け。そこには黒戸左太夫と言う優れた乱波がいるはずだと言う。

しかし、その黒戸左太夫はどこにいるのかは、師匠も知らないとのことだった。

山を降り、京に出た小次郎は、見覚えのある鎌を研いでいる研ぎ師を観かける。

すると、その研ぎ師の元に、その鎌を取りに来た美しい女がおり、後をつけてみると遊女だったので、小次郎は買うことにする。

女が酒を取りに部屋を出た後、押し入れの中に先ほどの鎌を隠しているのを確認した小次郎は、千歳(冨士眞奈美)と名乗ったその遊女と寝ることにする。

小次郎が寝入った振りをしていると、添い寝していた千歳は起き上がり、押し入れの中から鎌を取り出すと、窓の外にいた人影に手渡しながら、何事かを告げる。

相手は男らしく、本当か?と囁いて去って行く。

その後、何食わぬ顔で、布団に横になった千歳だが、気がつくと、小次郎から小刀をのど元に突きつけられており、今の男は誰だ?言え!と迫って来る。

あんたやっぱり乱波だったのね。飲み屋で会った時からそう思っていたと千歳が答えると、今の奴は信長方の忍びの者か?矢伏の猪十(五味龍太郎)か?と小次郎は問いつめる。

猪十だったらどうだって言うんだい?と聞くと、小次郎は殺す!お前にだって親はあるだろう?俺の父親は、あいつに殺された。親爺の右腕を切断した血の滴る鎌を持って笑っていたあいつの顔が20年間焼き付いている!と小次郎は教えるが、その時、部屋に近づいて来る足音に気づいたので、急ぎ起き上がると、千歳に金を置いて窓から外へ逃げ去って行く。

部屋に乱入して来た役人たちは、畳の上の撒かれていたマキビシで足の裏を刺されて足止めを食らうが、金をもらったことで気持ちが揺れ動いたのか、千歳は、猪十なら姉川に出立したよと外に向かって声をかける。

天下統一の執念に燃える信長は、その達成を阻むもの全ての抹殺を計った。例え、妹お市の方を嫁がせた浅井長生ですら一遍の容赦もなく、家康との連合でこれを討ち果たした。姉川の合戦である。

戦の陣の天幕の外に1人出て来た徳川家康は、乱波の斑夜叉丸(井上昭文)を呼び寄せると、信玄の館に足利義昭公より急使が、信長殿追討の御内書が届いたとの報告を受ける。

それを聞いて驚いた家康は、ただちに浜松に帰り、武田信玄の動静を逐一知らせるようにと斑に命じる。

その姉川に向かってひた走っていた猪十は、森の中で火手裏剣に襲撃され、先回りしていた小次郎と出会う。

小次郎は、貴様から取らねばならぬものがある。その右腕だ。お前は20年前、霞勘兵衛の右腕を斬っただろう?俺はその息子の霞小次郎だと名乗る。

どうやら、火薬の盗みに行ったときのことを思い出したらしい猪十だったが、まだ若い小次郎を侮ったのか、得意の鎖がまで襲いかかって来る。

まだ未熟な小次郎は防戦一方だったが、猪十の鎌が木の幹に刺さり一瞬動きが止まったので、その鎌を持つ猪十の右腕を切断し、相手が倒れた後、その懐から密書を抜き取った直後、自らも精根尽き、その場に倒れてしまう。

気がついた時、小次郎は、河原に倒れており、川の水を飲んでいると、傷を負っていた左腕の手当がしてあることに気づく。

傷は癒えたか?お前は誰の手のものだ?これを誰に届ける?信長か?家康か?と聞いて来る男があった。

その男の手には、小次郎が猪十から奪っていた密書があった。

その男が自分の手当をして、ここまで運んで来てくれたらしいことを知った小次郎だったが、それを届ける先は、甲斐の黒戸左太夫様だと答え、これを手みやげに乱波に加えて頂くのだ。急がねば役に立たないと言って立ち去りかけると、もう届いている。わしが黒戸左太夫だとその男(伊藤雄之助)は答える。

小次郎は自分の名を名乗ると、自分を一人前の乱波にして下さいと頼む。

何のために?と左太夫が聞くと、親の仇を討つためでございますと答えたので、それを聞いた左太夫は頷く。

左太夫はその後、小次郎から入手した密書を武田信玄に届ける。

それを読んだ信玄は、息子の勝頼(舟木洋一)に、家康が浜松に居城を移したのは、この信玄1人を敵にするつもりなのじゃと教える。

その頃、左太夫の屋敷で修行をすることになった小次郎は、逆さ吊りにされている所だった。

左太夫が、その部屋にやって来て、良し!と命じると、小次郎は、自らの手首や足首の関節を外し、縄抜けをやって床に降りると、又、自ら間接を戻して行く。

やっと身につけたなと声をかけて来た左太夫だったが、まだまだ後2人の仇を倒すにはそのくらいの技では及びも付かないと釘を刺すのだった。

ある日、庭先で火を焚いていた小次郎は、近くから聞こえて来る横笛の音色に気づき、屋敷内の小屋の中を覗き込むと、そこで笛を吹いていたのは茜(大楠道代)と言う娘だった。

しかし、茜は小次郎に気づくと窓を閉め、見とれていた小次郎の肩に手を置いて来た仲間の鬼笛の音吉(伊達三郎)は、近寄ると命が危ないと謎めいたことを言う。

その時、左太夫が帰って来たので、仲間たちは、お頭様の部屋に集まる。

左太夫は、いよいよ御館様と家康との戦が始まるので、我々、乱波としても働きがいがある。忍びは誰のためにも働かず、ただひたすらにおのれのために働くと定められているが、信玄殿は忍者に取って得難い理解者、それに報いるためにも自分は全力を挙げるつもりだと伝え、小次郎だけをその場に残して、他の家来たちは下がらせる。

上座に座った左太夫は、刀を小次郎に渡すと、斬って来い。どこからでも構わん。目の前にいるのは、父の仇と思えと命じる。

言われた通り、小次郎が目の前の左太夫に斬り掛かるが、相手は瞬時に身体を移動させ、刃が宙を斬ってしまう。

左太夫は、湯のみの中の茶で、足袋の裏を濡らして座り治ると、もう1度斬って来いと命じる。

小次郎はまたも斬り掛かるが、同じように、相手の身体は瞬間移動したかのように別の場所に移っていた。

その左太夫が上を向いたので、小次郎も上を見上げてみると、天井の横木に、濡れた足跡がくっきり残っていた。

左太夫は、瞬時にジャンプしながら身体を回転させ、天井の横木を踏んで別の場所に回転しながら飛び降りたと言うことが分かる。

それからと言うもの、小次郎はその技を会得するため、昼夜を問わず、黙々と練習に励むようになる。

ある日、茜の笛の音を側で聞いていた左太夫は、何を考えておる?今日は笛の音に乱れがあったと指摘する。

小次郎様と言う方は、まだ続けているのでしょうか?と茜が気にするので、人の何倍も努力して鍛え抜かねばならないのだ。わしは何としても、あの男をものにしてやりたい。茜には関わりのないこと。分かっているだろうな?と言い聞かせる。

しかし、1人で練習を続けていた小次郎の元に粥と猪肉を持ってやって来た茜は、早く食べて!とせかすので、お頭様に内緒でこれを?と不思議がりながらも、じっと茜を見つめながら食べ、何をそんなに観ているのです?と聞かれると、あまりお頭様には似ていないと思って…と小次郎は答える。

すると茜は、本当の父ではないから。私はお父様に殺された伊賀者の子なんですと言うではないか。

それを聞いた小次郎は驚き、くノ一になってでも仇を討とうとは思わなかったのですか?忍びの者だからこそ、父の恨みを晴らすべきなのです。お頭様が憎くないのか?と問いかけるが、小次郎様が今の茜だったら仇討ちしますか?と茜は逆に聞いて来たので、討つ。何としてでも討たねばならんと力む。

その時、茜が笑っていたので、何がおかしいのですか?と聞くと、小次郎が腰に下げていた熊の人形を指す。

その時、左太夫が茜を呼ぶ声が聞こえて来たので、茜は立ち去るが、小次郎は、あの…、馳走になりましたと礼を言うのだった。

その後も、小次郎の忍術修行は続いた。

丘を駈け、飛び、礫を命中させると言うあらゆる術を会得すべく、小次郎は1人で黙々と練習を続ける。

満月の夜、横笛を外で吹いていた茜の元に寄って来た小次郎は、近づくと命がないと言われたと明かす。

2人死にました。お父様が、忍びの者と一緒にはさせぬと言って殺したのです。私もお父様の気持ちがわかるような気がします。忍びの者と付き合いたくありませんと茜は打ち明ける。

しかし、この小次郎は近づいた…と小次郎は呟く。

その後、いよいよ武田信玄は、2万8千の軍を率いて進撃を開始した。

それと同時に、忍者同士の血みどろの戦いも火ぶたを切っておとした。

しかし、小次郎だけは、まだ敵と五分に渡り合えるだけの域に達してないとの判断から、左太夫の屋敷に残されていた。

敵に勝つためには、まず臆病になること。その方が、いかに逃げるかを考えるので勝ちに繋がるのだと教えた左太夫は、いきなり刀で小次郎を斬って来る。

すると、小次郎は、天井の横木に回転してジャンプすると、別の場所へ見事移動し終えていた。

会得したな…と満足した左太夫は、すぐに支度をしろ、連れて行ってやる。敵はおそらく、信長か家康が放ったものの中にいる。お前が狙うのは、岡崎の山中、信長の使者だと告げる。

山伏の姿に着替えた小次郎の元にやって来た茜は、やはり行くのですね。死んではなりませんと言いながら抱きついて来ると、自分の髪を切ったものをお守りとして小次郎に渡すと、茜の心はいつもお側にいますと言うので、小次郎も、自分の木彫りの熊の人形を茜に渡し、出発するのだった。

浜松城では、徳川家康が、主要な道が2本あるうちのどちらを武田信玄が選ぶかに付いて家臣たちと検討していた。

兵力では、信玄方の半分にも満たない数しか持たない家康に取って、頼みの綱は、信長からの援軍であった。

その頃、岡崎の山中に潜入した左太夫と小次郎は、信長からの密書を運ぶ急使を襲撃、密書を奪い取っていた。

それを床下に潜んだ斑から聞いた家康は激怒する。

逆に、信長からの、出来るだけ早く援軍を送る、総大将は平手ひろ秀、兵は5千、勝ち戦の知らせを楽しみに待つと書かれた密書を左太夫から受け取って確認した武田信玄は上機嫌になり、左太夫の功績を褒めると、さっそく二俣城を攻め落とすように家臣たちに命じる。

信玄はさらに、左太夫の部下18名にも全員すぐに飛ぶよう付け加える。

二俣城は、谷向うの崖の上にそびえる城で、そこにたどり着くには、一つしかない跳ね橋を渡るしかなさそうだった。

小次郎は、夕方、跳ね上がる橋の裏側に飛びつき、闇に紛れて城内に潜入する。

用意しておいたネズミを放ち、見張りの侍たちがそちらに気を取られている間に、さらに城内深く忍び込み、石畳の一カ所が地下への通路になっていることを発見する。

そこに入ってみると、谷を越え、近くの林に抜けられることも分かる。

その小次郎からの報告を元に、二俣城の絵図面で作戦を考えていた左太夫は、その抜け穴の途中から、城の中にある唯一の井戸に向かって穴を掘り、その掘った土で、抜け穴の城内の入口方向を埋めれば、城内の水が枯れるし、城から抜け穴を使っての逃走も防げると考える。

相当きつい仕事になりそうだと部下の乱波たちに伝える。

かくして、18名の乱波たちは、二交代制で、昼夜を問わず穴掘り作業を開始する。

やがて、抜け穴から掘り進めた穴は井戸に到達し、そこから水が抜け穴の方に流れ始めたので、城内の井戸はたちまち涸れてしまう。

それを伝え知った信玄は、一斉に撃ち込め!と攻撃を開始させる。

信玄側の鉄砲攻撃に対し、二俣城側も鉄砲隊が応戦するが、井戸が涸れているため飲み水はないし、米はあっても飯が炊けないと言う兵糧攻めに苦しめられる。

信長の援軍は木曽川を渡ったとの知らせが信玄に届く。

信玄は左太夫に、さらに井戸への道を掘るように命じるが、疲労困憊の部下たちが、出水が激しく、穴の中が崩落する恐れでこれ以上作業を続けることは不可能と感じた左太夫がそう進言すると、ようやく信玄も作業の中止を言い渡す。

ところがその直後、休んでいた左太夫、小次郎、音吉は、抜け穴方向から爆発音が聞こえて来たのに気づく。

信玄が、まだ穴の中で作業中の仲間がいるにも拘らず、爆薬を仕掛けて穴を崩壊させたのだった。

それに気づいた左太夫たちは、今まで信じていた信玄に裏切られたことを知る。

二俣城は間もなく陥落する。

勢いに乗る信玄は、徳川家康の居城がある浜松へと進軍を開始する。

仲間たちの墓を作って弔った左太夫は、許してくれ、左太夫傷害の不覚だった…。おのれ、信玄、生かしてはおかん!お前らの仇は取ってやる!と誓い、鬼笛の音吉は、今度、この横笛の聞こえる晩だと言い、笛を奏でてみせる。

信玄軍は、三方ヶ原に留まり、信長の援軍が岡崎まで近づいたとの知らせを受けていた。

信玄は、家康は武将として売り出すために、必ず討って出て来ると読んでいた。

その想像通り、浜松城では、家臣たちが止めるのも聞かず、家康は攻撃しようとしていた。

ここで自分が動かなければ、様子をうかがっている各地の地侍たちは信玄側に付くと読んでいたからだった。

その後、1人で考えるべく庭先に出た家康の前に現れたのは小次郎であった。

小次郎は、信玄の腹は地侍と殿との気持ちを離反させるつもりなのですと教え立ち去ろうとするが、家康から名を尋ねられたので、霞小次郎と名乗る。

その直後、斑夜叉丸が信玄は京に上ると報告に来たので、霞小次郎と言う乱波を知っているか?と家康が尋ねると、知らないと答えたので、うかつもの!と激怒した家康は斑を殴打する。

その後、家康は三方ヶ原に撃って出たが、打ち破られ、浜松城に敗走した。

一方、夜叉丸は、右手を失った矢伏の猪十と出会っていた。

戦死者からものを盗む戦泥棒に身をおとしていた猪十は、夜叉丸に、自分を拾ってくれと頼むがあっさり断られる。

そんな猪十を案じていたのは、猪十や他の仲間たちと共に京を脱出していた千歳だった。

列を離れたままなかなか戻って来ない猪十を探しに戻った千歳は、目の前で、自らの刀の柄の頭部分を木の幹にあてがい、その刃でおのれの腹を貫いて自害する猪十を発見する。

驚いて駆け寄った千歳に、気の下に倒れた猪十は、小次郎に会ったら、仇の1人は斑夜叉丸…、3人目はここに…と左足の向こうずねを指し、そこに傷がある…と伝え、息絶える。

千歳は、猪十の死体に抱きついて泣くのだった。

累々と死体が残されていた戦場跡で、小次郎は斑夜叉丸と出会っていた。

2人は戦うが、夜叉丸が逃げ出したので小次郎が後を追うと、死体の下に隠れていた夜叉丸が、鉄砲で走り去って行く小次郎の背中目がけて発砲する。

小次郎は転倒したように見えた。

武田信玄は、家来たちは戦勝に受かれ、夜になっても騒いでいるのを、息子勝頼と共に散策中、嬉しそうに眺めていた。

夜明けと共に浜松城に突撃する腹づもりだったので、兵たちの一時の憂さ晴らしを許そうと言うのだった。

その時、どこからともなく、横笛の音色が聞こえて来たので、血なまぐさい戦場に、風流な奴もいるものよのう…などと、勝頼とと共に耳を傾ける信玄だったが、その笛を吹いていたのは鬼笛の音吉だった。

その音吉の隣で身を隠していた左太夫は、崖の上に現れた信玄、勝頼親子の姿を確認すると、鉄砲で狙い撃ちにする。

その銃弾いた折れた信玄を、驚いた勝頼は陣内に運び入れるが、信玄は、騒ぐな!騒いではならん!騎兵たちに知らせぬよう、しかと申し付けるぞ!と言って聞かなかった。

その様子を近くまで確認しに来ていた音吉はほくそ笑むが、立ち去ろうとしたとき、持っていた横笛をおとす音を敵に気取られてしまい、その場で射殺されてしまう。

その頃、浜松城内では、家康と家臣たちが飯を食っている所で、これで死に花が咲かせられると、近づく最期を覚悟していた。

そこに、斑夜叉丸が、信玄の軍は、今、長篠街道に向かっている。勝頼や穴山の話を漏れ聞いた所、甲斐に戻っている模様との報告をもたらす。

家康は、訳が分からず、夜叉丸に真相を突き止めるよう命じると、信玄たちに何事かが起きたに違いないが、とにかく助かったぞ!と大笑いし出す。

翌日、急いで信玄軍を追っていた夜叉丸は、途中で、避難の旅を続けていた千歳と会う。

千歳は、猪十が自害したことを教え、お前がやったんじゃないのかい?と斑を睨んで来ると、霞小次郎って知ってるかい?と聞く。

夜叉丸は、知らんな、そんな奴…と答えるが、その時、崖下の小川の側に立つあばら小屋に目を留める。

その小屋の中では、左太夫が、夜叉丸から撃たれて負傷した小次郎の傷の手当をしてやっていた。

左太夫は小次郎に、3人目の仇は思い出したか?と聞き、いつかは思い出すと言い聞かせると立ち去って行く。

千歳と同行していた仲間たちは一服すると言い出したので、夜叉丸は咽が渇いたと言って川に降りて行く振りをし、あばら小屋に近づくと、中の様子を覗き観る。

中には、小次郎が1人いたので、斑は、眠り薬を中に吹き込む。

茜の髪を観て、懐にしまった小次郎は、眠り薬を吸ってしまい、身体が動かなくなってしまう。

小次郎は、茜が、自分が持っていた木彫りの熊人形を観て笑ったときのことを思い出していた。

そんな小次郎に、侵入して来た夜叉丸は刃を突き立てようとするが、駆け込んで来て小次郎の身体をかばった千歳を刺してしまう。

小次郎はかろうじて正気付き、煙玉で小屋の外に逃げ出すと、小川の水で顔を洗い、正気を取り戻そうとする。

そんな小次郎のとどめを誘うと、夜叉丸は近づいて来るが、よろめきながら小屋から出て来た千歳が、小次郎の刀を放って来る。

それを拾おうとする小次郎を邪魔する夜叉丸は、火炎攻めを仕掛けて来る。

小次郎は、拾った刀を抜いて夜叉丸に投ずるが、避けられてしまう。

力尽きたかに見えた小次郎にとどめを刺そうと近づく夜叉丸だった、小次郎は、足の脚絆に隠していた小柄を2本投げ、相手の両目に突き刺す。

立ち上がった小次郎は、もがき苦しむ夜叉丸に対し、苦しいか?苦しむんだ!それが20年前に俺の親爺が受けた苦しみだ。もっと痛がれ!もっと苦しめ!と迫る。

もう1人、情け容赦なく、親爺に刀を突き刺した男がいた。誰だその男は?と小次郎は聞くが、夜叉丸は自らの腹に刃を突き立てる。

小次郎は、倒れていた千歳を抱き起こすが、もう余命幾ばくもない千歳は、小次郎さん…、あんたの父さんを殺したのは…、左足に傷が…、猪十が…、そう言ってた…と最期の言葉を振り絞って息絶える。

千歳!と呼びかけた小次郎だったが、気がつくと、瀕死の夜叉丸に近づき、その心臓にとどめの刃を突き刺す左太夫が見えた。

ひと思いに息の根を絶つ…、時によって、それは慈悲になるのだと呟く左太夫だったが、その姿に、小次郎は、父親に最期のとどめを刺した男の姿がだぶって見えた。

左太夫は、信玄は蓬莱寺にいる。わしは奴が死ぬのを見極めに行くが、お前はどうする?と聞いて来たので、小次郎は、行きます!お頭様と一緒にと答える。

蓬莱寺では、勝頼が、医者の長庵はまだか!と穴山に聞いている所だった。

信玄は、わしはまだ死なんぞ…と、横たわった姿でうめいていた。

例え、わしがこの世を去っても3年間はこれを隠し、領内の静謐を計れ。葬儀は一切無用!遺骸に具足を着せて、諏訪湖に沈めろ…、しかと申し付けたぞ…と信玄は遺言を残す。

天井裏に忍び込んでいた左太夫と小次郎は、長庵が到着し、信玄の傷の具合を診始めた所を監視していた。

小次郎は、針に毒を塗ると、それを吹き矢の要領で、はだけていた信玄の傷に撃ち込む。

家臣は驚くが、とっさに1人が槍で天井を貫く。

左太夫は、左足を突かれるが、とっさに血だけは拭き取る。

苦しみ出した信玄は、京の地に、風林火山の旗印を…と呟いて息絶える。

左太夫の切り裂かれた左足を観た小次郎は、そこに、20年前、父親にとどめの一太刀を刺した男と同じ傷跡があるのを発見するが、取りあえず、傷ついた左太夫の身体を支えて、一緒に屋根の上まで逃走する。

3人目の敵が自分であることを気づかれたと悟った左太夫は、小次郎、斬れ!この日のために教えたのだ…と言うと、自ら斬り掛かって来る。

屋根の上で戦う師弟。

ジャンプした小次郎の懐から落ちた茜の髪を観た左太夫は驚き、その一瞬の隙を観て、小次郎は左太夫の胸を突き刺す。

左太夫は、俺はお前に斬られたのではない…、茜を頼んだぞ…と告げると、自ら転がり屋根から落下する。

そこに集まっていた信玄の家来たちに惨殺される左太夫。

敵討ちを終えた小次郎は、にこやかな顔になって、茜の待つ山に駈けて戻るのだった。