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のぼうの城

和田竜氏が木戸賞で受賞した作品を元にしたノベライズ版の映画化らしい。

TBS開局60周年記念作品らしく、久々に予算をかけた戦国アクションだが、元々の話自体も、映画化を前提に書かれたもののようで、全体的に見せ場が多い娯楽時代劇になっている。

登場するキャラクターなども、マンガの登場人物のように分かりやすく造形されているし、テンポも良いし、映像化に不向きな複雑な心理描写のような部分はない。

おそらく、その最初から映画化を意識した分かりやすさ、見せ場の数々が、少年マンガを読むような痛快さは感じるものの、逆に、何か物足りないと言う感覚を抱かせるのかも知れない。

例えば、この作品に登場している人物たちは、のぼうに限らず、全員、子供っぽいと言うか、無邪気に描かれている。

逆に言うと、大人が見当たらないのである。

一応、見た目的には、平泉成演ずるのぼうの父親成田泰季や前田吟演ずる農民のたへえなどが登場するが、彼らは大人と言うより老人である。

後は、佐藤浩市が演じている正木丹波守くらいが大人らしい立ち居振る舞いなのだが、後はみんなかなり子供っぽく描かれている。

それは、今の年齢イメージには近いのだが、従来の時代劇で描かれていたような、戦国時代の老成した人間たちのイメージではない。

これは、セリフなどにも現れており、全体的に、今風のしゃべり方、間の置き方なのである。

この辺の処理は、観る側の世代などによって、受け止め方が違って来るはずである。

今の若者のイメージに近いので親しみやすいと感じる人もいるだろうし、何だか、全体的に子供っぽく、時代劇としては嘘くさく感じる人もいるはずである。

演じている人たちが、テレビでお馴染みのタレント風の人が多いのも、何となく、豪華大作のイメージと若干そぐわないと感じさせる部分かも知れない。

VFXにしても、今ひとつ成功しているようなしていないような、微妙な仕上がりである。

水のシーンは、元素材が荒いせいか、全体的にクリア感が希薄だし、超ロングの引きの情景シーンなども空気感に乏しく、何だか平面的に見えてしまう。

全体的に、1.5流くらいの大作と言った感じである。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2011年(公開は2012年)、「のぼうの城」フイルムパートナーズ、和田竜脚本、犬童一心 + 樋口真嗣監督作品。

この物語は、400年前の史実に基づいている。

天正10年 備中高松

若き石田三成(上地雄輔)、大谷吉継(山田孝之)、長束正家(平岳大)らが必死に堤を登っている。

その上に立っている羽柴秀吉(市村正親)は、決壊させよ〜!と叫ぶ。

佐吉〜!佐吉〜と、石田三成の幼名と呼びかける秀吉

堤の上に到着した光成は、水攻めで陥落する城を間近に観て感動し、紀之介(きのすけ=大谷吉継の幼名)よ、俺も総大将としてこんな戦をしたい!と叫んでいた。

8年後…

羽柴秀吉は関白豊臣秀吉となり、日本の西方をほぼ掌握していたが、関東の北条氏攻撃にも着手する。

関東には、小田原城を始め、いくつもの北条方の支城があった。

天正18年

秀吉は家臣たちを集め、軍略会議を開いていた。

長束正家、徳川家康、九鬼嘉隆、浅野長政らに、次々に秀吉は攻撃する城を指示するが、そんな中、三成殿はまた後方でござりまするか?と嫌みを言うものがあった。

それを聞いた秀吉は、一手の大将を任せる。武州・忍城(おしじょう)の総大将として2万の兵を与えると宣言したので、その場にいた武将たちは驚く。

その後、光成ら親しい数人の家臣がいる所へ来た秀吉は、もう三献茶の三成などと言われるなと三成を叱咤激励する。

重責を担った三成は、さっそく軍略会議を開き、忍城の絵地図を家臣たちと吟味するが、湖に城が浮かんでいるとは…と感心する。

まこと、水に浮かぶか…

忍城は、現在の埼玉県に位置する場所にあったが、秀吉の攻略の目標の一つに定められた。

タイトル

忍城

馬を走らせ、城の佐間口や長野口を巡りながら、長親はいるか?あのバカを見かけたら、すぐ本丸に知らせろ!と声をかけていたのは正木丹波守利英(佐藤浩市)だった。

寺の住職(夏八木勲)が、いたずらした子供たちを叱っていると、そこにも正木がやって来て、長親を観かけなかったか?と聞く。

和尚が、のぼうのことか?と聞くので、いくら和尚でも、のぼうなどと呼ぶなと正木が注意すると、でくを付けぬだけありがたいと思えといなした和尚は、今日は下忍で麦踏みをやっているから、おそらくそこだろうと教えてくれる。

城下 下忍村

和尚の言う通り、のぼうこと成田長親(野村萬斎)は、農民たちが田んぼで麦踏みをしている横で寝そべっていた。

麦踏みをしている農民たちは、のぼう様と目を合わせるな。去年、長野村では、のぼう様に手伝ってもらったばかりに、全部やり直すことになったそうだと小声で噂する。

しかし、そう言っている側から、たへえ(前田吟)の孫、ちどり(芦田愛菜)が、怖いもの知らずに、働け!と長親を叱りつけたので、長親は嬉しそうに立ち上がると、田んぼの中に入って来る。

ところが、農民たちと一緒に並ぼうとしたとき、泥に足を取られ、転んでしまったので、みんなで助け起こさねばならぬ羽目になる。

そんな長親の姿を睨みつけていたのは、ちどりの父親であるかぞう(中尾明慶)であった。

そこに馬で駆けつけて来た正木は、小田原北条家より使者が来ている。北条家に加勢するよう来たのだと告げると、長親を馬の後ろに乗せ、そのまま本丸に急ぐ。

到着した馬から、正木が降り立った瞬間、背後から、まだ馬上にいた長親に棍棒で殴り掛かって来たのは、未だ実際の戦に出たことがないのに、自らを軍略の天才とうぬぼれている酒巻靭負(成宮寛貴)だった。

長親は額をこっぴどく殴られ、そのまま馬から落ちてふらつくが、いつでもかかって来いと言ったではないかと酒巻から言われると、自分が油断したと詫びるしかなかった。

そこに、巨漢の柴崎和泉守(山口智充)もやって来る。

屋敷の広間には、使者を前にして、長親の父成田泰季(平泉成)、兄、成田氏長(西村雅彦)らがすでに控えていた。

氏長は、使者の伝言承ったと答え、泰季も500騎引いて入城すると約束する。

使者が帰った後、泰季は、暗い表情になった家臣たちに、何を沈んでおる、戦ぞ!と叱咤すが、その途端、いきなり胸を押さえてその場に倒れ込んでしまう。

泰季が倒れたと知った、珠(鈴木保奈美)とその娘甲斐姫(榮倉奈々)が駆けつけて来る。

床に伏した泰季は、苦しそうにしながらも、気丈に出陣の支度を!と呟くが、氏長は、父上の話など聞きとうないと言い捨てて、部屋を出て行く。

その場にいた酒巻は、その時初めて観た甲斐姫に一目惚れするが、それに気づいた柴崎は、酒巻を外に連れ出すと、あの姫には近づかん方が良い。見かけと違い気性の荒いお方で、以前、百姓女を手込めにした家臣を斬り捨てたことあるほどだと教える。

百姓のために家臣を!?と驚く酒巻に、当然。家臣の一族は収まらなかったが、それを長親が黙らせた。それ以来、姫と長親殿は親密になられたと言う。

その柴崎は、鎧を着ていた氏長の元に来ると、この靭負もお連れくださいと頼むが、氏長は、わしは関白に内通すると言い放つ。

それを聞いた正木、酒巻、柴崎は唖然とするが、氏長は、関白に勝てるか?小田原城に行くのは、これまで北条家の庇護を受けて来た我々には義理があるからだと言い、構えて、このことを家中に漏らすなと口止めする。

成田氏長の弟成田泰高は、ろう城の備えだけはやっておけ。だが関白の兵を1人足りとて殺してはならぬと正木らに釘を刺す。

小田原へ旅立って行く兄、氏長の行列を、門の上の見張り台から、いつまでも長信は見送っていた。

本丸の中には農民たちが兵糧米を運び入れていたが、そんな中、戦の経験のない酒巻は興奮して刀を抜いてみせる。

しかし、そんな酒巻の身体を蹴飛ばした柴崎は罵倒するが、自らも、戦もせぬのに兵糧を運び込むのか!といら立つ。

そんな中、御館様が死んだと言う噂を言うものがおり、驚いた正木は、士気が落ちる!口外するな!と叱りつけるが、その場にいた長親は、隠せばかえって噂は広がる。かえって言いふらした方が良いのだと、自ら大声で叫ぼうとするので、それを止めた正木は、御館様は、関白に内通する気だ!北条家に逆らえば御館様の命がない。兵糧の運ぶのを続けろ!と命じる。

その言葉を近くにいた、甲斐姫やたへえたちも驚いたように聞いていた。

酒巻は、わしは戦に出たことがない!場を与えよ!さすれば天才を見せてやる!と1人いら立っていた。

その夜、

館の中で、泰季の側に寄り添っていた珠は、長親はうつけだと正木に話しかけていた。

そこに、関白たちは、箱根湯本に入ったとの伝令が届く。

箱根湯本

関白秀吉は、女が数人入っていた温泉に、1人堂々と素っ裸で入り、悲鳴を上げられていた。

一緒に入れと、秀吉は三成たちにも勧めるが、さすがに遠慮した三成に、強力(ごうりき)も着任したと知らせると忍に向かうよう命じる。

その時、もう1人、裸になって秀吉の横に入って来たのは大谷吉継だったが、秀吉は、紀之介頼むぞ。御主が後見になって佐吉に武勲を挙げさせてくれと頼む。

その頃、長親は、まだのんきに農民たちと田植え見物していた。

農民の赤ん坊が泣き出すと、自らそれを抱いてあやし始める。

そこに、又、正木がやって来て、こんな所で遊んでいる場合じゃないぞ!館林より使者が来て、関白は館林に到着したそうだ。もう忍城まで三里に迫っている!と叫ぶ。

その頃、雨中を進軍していた三成にもとに到着した使者が言うには、館林城は開城したと言う。

それを馬上で聞いた三成は、人とはこんなものか?と憮然としたように呟く。

圧倒的兵力の前には、抵抗する意欲さえ放棄する敵方の姿勢に納得がいかないようだった。

一方、たへえの息子かぞうは、娘のちどりを連れて家を出ようとしていたが、それをたへえと女房のちよ(尾野真千子)が必死に止めていた。

かぞうは、戦があるぞ!侍なんか嫌いだ!とわめいていたが、ちよは、あんたはお侍が憎いから逃げるんじゃない。私が手込めにされたから、いまだに忘れられないんだ。私は助けてくれたのぼう様と姫のために残ると言うので、昔のことなんか忘れた!と言いながらも、かぞうは、勝手にしろ!とわめくと、ちどりを連れて行くのを諦め、1人で去って行くのだった。

その夜、長親を始め、酒巻や柴崎らはやけ酒を飲んでいたが、そこに正木も合流する。

みんな、戦いもせずに、関白に城を明け渡すことに鬱憤を募らせていた。

その時、遠くから大勢のざわめきが聞こえて来たので、見張り櫓に登ってみた長親と正木は、遠くに見えるかがり火の多さを観て、2万はいるぞ…と唖然とし、長親も、500人に2万か…と声をなくす。

石田三成は、丸墓山古墳の頂上に本陣を構えた。

三成はさっそく、長束正家を軍使に指名するが、それを聞いた大谷吉継は耳を疑う。

長束は、強きものに弱く弱きものに強い男だぞ?と人選を間違えているのではないか?と確認するが、光成には何か考えがあるようだった。

一方、忍城では甲斐姫が、猿めに使者が来たと伝えに来たので、それを聞いた正木は広間で待たせておけと答えると、まだかろうじて息のあった成田泰季に、城代に申したき儀がござると伝えに行くが、泰季は、みんな良くやってくれた。御館様は関白に下るおつもりじゃな?良いのだ。城を開けい!と命じる。

そして、みんな、苦労をかけたの…、わしが頑固なばかりに…と詫びて来たので、正木も、面目次第もござりませぬと頭を下げる。

そんな中、甲斐姫に近づいた酒巻は、酒巻靭負は姫に惚れておりますと告白していた。

それを聞いた甲斐姫は、にこりと微笑んで、承知した!ありがとよと、あっさり礼を言う。

その間、広間に待たされていた使者役の長束正家はいら立っていた。

ようやく、成田長親や正木丹波守利英が到着し対面すると、長束は、まだ朝飯を食うてないなどと嫌みを言うと、和か戦か返事を迫る。

和するつもりなら、小田原攻めに参加して、甲斐姫は殿下に差し出すよう長束は迫る。

それまで、黙って聞いていた長親が、急に、今まで腹決めとらなんだが、今決めた。 戦は相まみえると申した!と言い出す。

横でそれを聞いた正木は仰天し、暫時、暫時!と言いながら、長親を別室に連れて行くと、乱心したか!と長親を叱責する。

すると、長親は、嫌になった。下るのがよ…。2万の兵で脅かし、和戦いずれかなどと、始めからこちらが屈服すると思ってやがる。嫌なものは嫌なんだ!武力あるものが武力なき者を、才あるものが才なき者を屈服させる。それが人の世か?わしは嫌じゃ!これが世の習い事ならわしは許さん!と言う。

その言葉を聞いていた柴崎和泉守はやろう!と言い出し、他の家臣たちも次々にやろう!と賛同する。

そんな中、1人、正木だけは、強い者に服するのは世の習いじゃないかとただめようとする。

しかし、柴崎から、お前はどうするんだ?と聞かれると、本当にやるのか?長親…と呆れ、やっちまうか!と言い出す。

これに、その場にいた家臣たちは、やろうぜ!やるぜ!と声を合わせる。

広間に戻って来た正木らは、この者の言う通り、我ら戦することに決めたと伝えると、聞いた使者の長束は、耳を疑うように、2万を相手に戦うと言うのか?と聞き返す。

それに対し、長親は、阪東武者の槍の味、存分に味あわれよととぼけたように答える。

この知らせを長束正家から聞いた三成は、戦うの言うのかと嬉しそうに聞き、麓の本陣にて討議だ!と命じながら、こうでなければならぬ!これが人と言うものよ!としてやったりと言った表情になったので、それを観た大谷吉継は、忍城の本心を試させるために長束を送ったのかと納得する。

その直後、長親の父、成田泰季が逝く。

その遺体の前に集まった家臣たちに、正木は、みんな城代に誓え。これより長親を城代とし、総大将とする!と発言すると、一同、承知!と答え、刀の柄を少し抜き、かちりと音を立て鞘へ戻す、「金打(きんちょう)」で誓いの意を表す。

その場に座していた珠 は、あのふぬけの言う言葉に不安はないと言い切る。

正木は、すぐに軍議を始める。

城の各出入口、長野口を固めるのは柴崎和泉守、佐間口は正木、酒巻靭負は柴崎の補佐に付くよう命じると、不平そうな酒巻は、老いた百姓が50人と矢が数本あれば良いと言い出す。

さらに、皿尾口、北谷口…と次々と人を配していく。

その後、城下のたへえの家に農民たちを集めると、成田家は戦をすると決めたので、百姓は城に籠るようにと正木は指示を出しに来る。

みんなが城に籠った後、村を焼き払うと正木が作戦を伝えると、お断りいたすとたへえが言い出したので、正木は唖然とする。

城方が負けるのは見えている。何様が戦をしようなどと申されるのじゃ!とたへえは迷惑千万と言った口調で聞くので、長親じゃと教えると、それがのぼう様のことだと気づいた農民たちはみな笑い出し、あの人がやると言うなら、百姓が助けにゃならないなとたへえは言い、甲冑を皆忘れるななどと言い出したので、正木はますます混乱するが、今は百姓でも、元は阪東武者だとたへえが毅然として言うので、正木は認識を改める。

その夜、3000人近い農民たちが、忍城の中に集まると、見張り台に立った長親をみんなが観て喜ぶ。

農民たちを眼下に見下ろした長親は、成田長親じゃ。父泰季は開場せよと最期の言葉を残したが、わしが無理言うて、戦にしてしもうた!みんな、ごめん!と言うなり、泣き崩れたので、横に立っていた正木は、士気が下がる!と注意した足せようとする。

父上!!と泣く長親を観ていたちどりは、のぼうが泣いている!と声をあげるが、抱いていたちよが、お父が死んだの…と教えてやる。

正木は重ねて、立て!と長親に促すが、その様子を観ていた農民たちの中から、時の声を挙げよう!声を出そう!と言う声が起き、徐々に、えいか、えいか、おー!と言う時の声が響き渡る。

いつしかその雄叫びは農民たちだけではなく、見張り台に立っていた侍たちも唱和するようになっていた。

それに気づいた長親は、いつしか笑い顔になっていた。

その騒ぎを、丸墓山古墳の上から、石田三成が眺めていた。

その横では、この城、敵に回しては、間違いか…と大谷吉継は呟いていた。

その夜、本丸の中には、数個の樽を積んだ荷車が農民らに酔って運び込まれていたが、何だ?と松明を持って近づいて来た男に、荷車の運び手は、近づくな!と止め、見張り台の上で興奮して一睡も出来ないでいる酒巻靭負に寝て下さいと呼びかける。

猿めの使者が、わしを妾に寄越せともうしたそうだな?ひょっとして戦をすると申したはわしのためか?と甲斐姫から聞かれた長親は、そんなわけないでしょう!と答える。

しかし、そうだろう?と迫る甲斐姫は、だから違いますってと否定する長親の片腕を取ってひねると、長親を床に這いつくばらせ、このたわけ!と叱りつける。

翌朝、長束正家率いる先陣は、佐間口に向かい、大谷吉継が長野口を受け持つことになる。

光成は嬉しそうに、戦は天下人の戦をしよう!と張り切る。

大太鼓が打たれ、ホラ貝が吹かれ、戦いの火ぶたが切って落とされる。

忍城の見張り櫓で観ていた正木は、これが天下の兵か…と、圧倒的な数の三成軍を前に感心する。

先手は鉄砲隊だった。

田んぼの中を鉄砲隊が進撃を開始する。

一方、忍城側からは、正木が馬に乗って出発しようとしていたが、柴崎から、馬乗りの誇りなどと下らぬことにこだわる奴はわしが叩っ斬る!と喝を入れられる。

門を明け、数頭の馬と共に出発した正木たちに、田んぼで待ち構えていた鉄砲隊が一斉に発砲する。

正木たちの周囲に着弾の煙が立ちこめ、鉄砲隊は息を飲んで成果を見守っていたが、白煙の中から正木たちが出現する。

何と!騎馬鉄砲だ!と驚き狼狽する鉄砲隊たち。

彼らが次の弾込めを焦っている間、正木ら騎手が一斉に前にかがむと、その後ろに乗り銃を持って構えていた鉄砲方が銃口を、長束側の鉄砲隊に向け、発砲する。

田んぼに無防備にしゃがんでいただけの長束側の鉄砲隊は、次々に射殺されて行く。

その後継を目の当たりにした光成は、正家!と叫ぶと悔しがる。

一方、広間の上座に座していた長親の元には、次々と伝令が走って来ては、佐間口で戦が始まりました!などと状況を報告するが、長親は、緊張のあまりか、ただ、はい!と頓狂な声をあげて返事をするだけだった。

長野口の方は、たへえら農民が待ち構えて緊張していたが、それを制していたのは柴崎だった。

長野口は、三成軍の先陣が大木で門を打ち破ろうとしていた、

長野口、劣勢!と使者が報告、又しても、長親は、はい!と返事をする。

酒巻靭負と農民たちは、長野口の内側で待機していた。

ついに、長野口の門が打ち破られ、一番乗りを挙げる大谷家の前野与左衛門が中に入って来ると、それを待ち構えていた柴崎は、槍でその前野を串刺しにすると、この長野口を攻めた不運を知れ!と言いながら、串刺しにした前田をいとも軽々と持ち上げる。

その頃、正木の姿を目にした長束軍の馬廻り役山田帯刀が名乗りを上げると、双方、槍を手に馬を走らせ、一騎打ちを始める。

しかし、正木の槍に山田の首は瞬時に切断されてしまう。

その頃、長野口の方は、槍を持った柴崎がただ1人その怪力で、光成側の先兵隊を押し返していた。

そこへ打込まれて来たのは、焼き石だった。

真っ赤に焼けた石を、投石機で次々と打込んで来る。

農民たちは、打ち捨てじゃあ〜!と叫ぶと、一斉に門から飛び出し、光成軍の歩兵たちに攻め込んで行く。

時今と観た柴崎は、見張り台から見下ろしていた酒巻に、行け〜!おのれの軍略を見せてみろ〜!と叫ぶ。

酒巻は、分かりました!と答えると、門の中に大勢の光成軍がなだれ込んで来る様子をじっと観ていた。

光成軍は門の中に入った途端、地面のぬかるみに足を取られて、全員転んでしまう。

滑って起き上がれぬ石田家馬廻役貝塚隼人は、地面のぬかるみの正体が大量の油だと知り慌てる。

そこに、見張り台の上から、酒巻が嫌を打込む。

油は、一瞬の後、三成軍の先陣隊を包み込み炎上する。

その炎の前に立ちはだかった柴崎和泉守と酒巻靭負は名乗りを上げ、忍城総大将は成田長親!と叫ぶ。

三成方の先陣は、一旦本陣に退却を余儀なくされ、忍城の中では、農民、侍らも、緒戦勝利の喜びに浸っていた。

和尚も正木のガキ大将、うるそうて寝られないじゃないかと正木に冗談を言って来る。

正木は、ちどりが配っていた握り飯をわしにもくれと声をかけるが、馬に乗って楽していたじゃないかと言われてしまう。

少しは働いたぞ…と言い訳をし、何とか握り飯を分けてもらった正木は、士気は高い。勝てるぞと呟くと、長親の元に来て、全ての守りで勝ったぞ、先勝だと報告し、その場にいた姫にも、御台様にも報告しろと伝えると、甲斐姫は、丹波、苦労!とねぎらう。

それまで緊張して畳床机に座っていた長親は、緊張が緩んだのか、その場に崩れ落ちるように眠り始める。

光成たちは、戻って来た長束らから、まるで野伏せりと戦をしているようだ。敵の総大将は成田長親と言っていたとと聞く。

ならば、かような戦いにふさわしい軍略があるではないかと言い出した三成は、水攻めに決したぞ!と言い出す。

それを聞いた援軍の将たちは、ならば最初からそうされてれば良かろうと次々に不満を口にしながら、本陣から去って行く。

大谷吉継も、水攻めにしたのでは、他の侍たちに功を与えられぬではないかと三成に進言するが、かつて秀吉が行ってみせた水攻めに魅せられていた光成は聞く耳を持たなかった。

その頃、小田原城にいた成田氏長は、忍城が秀吉軍に勝ったとの知らせを聞き、唖然としながらも、一緒に付いて来た弟成田泰高に、忍城では戦になって、しかも勝っている。これではもはや内通は出来なくなったと告げ、嘆く。

石田三成は、忍城の南北を走る利根川と荒川に注目し、堤で城を囲むよう命じる。

周辺の農民たちに金を払い、全長28kmにも及び巨大な堤が建設されるが、その人夫の中に、かぞうの姿も混じっていた。

その様子を、忍城の見張り台から観ていた長親は、変わった戦じゃのうなどとのんきに呟いていた。

一緒に眺めていた正木は、昔、備中で秀吉がやった水攻めよと教えるが、長親が無反応なので、驚かんのか?と聞くと、別に…と答えた長親は、丹波も意外とバカじゃの。あの堤を作っているのは誰だ?と聞く。

百姓だろう、銭をもらってやっているのだと正木が教えると、では案ずることはないではないかと長親は言う。

とうとう巨大な堤が完成し、光成は満足そうに、圧倒的な武力と金で挑む!と呟いたので、横に立っていた大谷吉継は、呆れたように、勝手にいたせと吐き捨てる。

三成は、かつて秀吉が叫んだように、決壊させよ!と命じる。

寺に戻っていた和尚は、地響きのような音に気づき、門の前でふと目を上げると、1匹の犬が走って来る。

その犬の背後には、洪水のような泥水が大量に迫って来ていた。

和尚は、周囲のみんなに本丸に逃げるように叫ぶ。

忍城の周囲の田畑は水没し、本丸は、集まって来た農民たちで溢れていた。

水は二ノ丸を沈め、本丸の中まで迫る。

城の中に上がれ!と言われてもさすがに、農民たちは恐れ多くて上がれない。

そこへ出てきた長親は、自分たち侍の足はきれいなままで、農民たちの足は泥だらけになっていることに気づくと、自ら泥の中に降り、甲斐姫も下に降ろすと、泥をすくって自分の顔を甲斐姫の顔に塗りたくり、唖然とした甲斐姫共々笑い出す。

一緒に笑って差がなくなったと感じた農民たちは、勧められるまま、城の屋敷の中に上がり込む。

本丸以外は水に浸かり、忍城は本当に水に浮かぶ城のような状態になる。

忍城の中では敗北感が蔓延し、やけになった農民たちの間で小競り合いが起こるようになる。

その様子を観ていた正木らは、田んぼを沈められたんで、その怒りがこちらに向かっているのだと分析する。

そんな中、死骸が本丸まで打ち寄せられていると言うので、様子を見に行くと、女や赤ん坊らの死体が乗った小舟が見つかる。

その死骸には、立派な剣が置いてあったので、御主が与えたのか!と長親に正木が問いかけると、下ると言うので、わしが渡した…と言いながら、赤ん坊の死骸を抱き上げて、泣き止まぬと言っては、良く来ておったと立ち尽くす。

下った(降参した)百姓や女を…許せん!と正木は激高する。

その時、長親は、水攻めを破ろう…、わしは悪人になる!…と呟く。

その夜、三成は、水の上を接近して来るかがりを焚いた小舟を目にする。

その小舟には、女人がかがんで乗っているようだった。

横に並んで進んで来た小舟に載っていた男が横笛を吹き始めると、女人に見えた者が、羽織っていた着物を脱ぎ立ち上がる。

それは、長親であった。

長親は、光成の軍勢が堤の上から注視する中、いきなり頓狂な田楽踊りを披露し始める。

夕べは飲み過ぎ、寝小便!

西のお猿が大放尿!などとおどけ始めた長親の踊りを観三成軍は全員笑い始める。

西のお猿と言うのが、秀吉を嘲った言葉であることに武将たちは気づき、憤慨するが、家臣たちはすっかりこの踊りに魅せられてしまう。

それを忍城の櫓から観ていた甲斐姫はたまらなくなり、城を抜け出す。

三成は、この狂言を観ながら、ますます面白い奴らだ。水攻めなど平気だと言いたいのだろうと愉快がる。

踊っていた長親は、漕ぎ手にもっと近づけと命じ、それに気づいた三成は、何と剛毅な!まだ船を寄せるかと感心する。

そんな中、柴崎と正木も小舟に乗り、長親の近くで様子をうかがっていた。

踊り続ける長親の正体を知りたがった三成は、知っている者を探せと命じるが、横に立っていた長束正家が、探すまでもありませぬ。あの者こそ、敵の総大将成田長親だ!と教る。

それを聞いた三成は唖然とする。

一方、柴崎たちも感心し、呆れたね、敵も味方も一瞬にまとめちゃたよと呟くが、長親の奇策を眺めていた正木は、あいつは死ぬ気だと直感する。

そんな中、三成の元に関白からの伝令が届き、秀吉が水攻めを見学に来ると言う。

それを聞いた大谷吉継は、まずいことになった。敵も味方もあの者に魅せられている。明らかにあちらの勝機だと苦悩する。

正木は、長親は自分が死んで味方の士気を高めようとしている。弔い合戦をさせる気だと気づくと、阻止しようと船を近づけさせる。

その時、三成の本陣では、幕の背後から雑賀衆が三成の元に巨大な銃を手に到着する。

三成は、あの者を撃ち落とせと命じたので、それでは敵の思うつぼになると感じた大谷は、すでに敵方は内通している。攻め落とまでもないのではないかと進言する。

しかし、石田三成はそんな言葉も聞かず、ためらわずに、撃て!と命じる。

左肩を撃ち抜かれた長親は、水中に落ちる。

それを救わんと、甲冑のまま飛び込む正木。

これでこの戦、泥仕合となったぞ…と大谷吉継は顔をしかめる。

案の定、のぼう様が撃たれたと言う知らせを受けた本丸では、農民たちが弔い合戦だ!と興奮し始める。

それを押さえ込もうとする酒巻。

館に連れ戻され、寝かされていた長親は目を開ける。

横に付いていた正木は、みんな、関白撃つべしと騒いどるわ、御主の狙い通りにな…と告げると、同じく側で案じていた甲斐姫は、馬鹿者!と言うと、いきなり寝ていた長親の身体に馬乗りになり胸ぐらを掴む。

それを止めようと、甲斐姫に近寄った側近たちは、みんな姫に投げ飛ばされてしまい、それを珠が笑いながら観ていた。

その夜は雨が降り出していたが、そんな中、堤の一角に近づいて来た農民が、土嚢を抜き、穴を開けている男を発見する。

1人、堤に潜り込んで穴を開けていたのはかぞうだった。

それを見つけた農民たちも全員、忍城に籠らなかった近隣の農民たちだった。

彼らは全員、のぼう様を撃った三成に対して憤慨していたのだった。

やがて、かぞうが抜いた最期の土嚢から水が噴き出して来る。

翌日、水が引いていると忍城でも騒ぎになる。

その様子を見た長親は、城外の百姓も味方さと笑い出す。

三成は、これに気づくと、意図的に堤を数カ所開け、水抜きを始めたので、正木は、攻めて来るぞ!と緊張する。

三成の元には、夕べ、堤を決壊させたかぞうが捕まり引き立てられて来ていた。

相当拷問を受けたらしく、全身傷だらけだった。

かぞうは、口にたまっていた血を吐き出すと、のぼうを撃たれ、田をダメにされた百姓が黙っていると思うか!と三成を睨みつけて来たので、天に転ばぬ者がここにもいると感心した三成は、この者を解き放てと命じると、水が引き次第、城を攻めると言い放つ。

三成軍は、全員で、土嚢をぬかるんだ田畑に敷き詰め足場を作りながら進軍を開始する。

忍城の中では、馬に乗った正木が、侍は百姓を守れ!と命じると、戦で死ぬなど馬鹿者のすることだと言うので、丹波様はどうして?と聞かれると、わしはその馬鹿者だからだ!と叫ぶと、単身、門の外に馬を走らせて出て行く。

その正木の馬の前に、待たれい!と叫びながら現れた秀吉軍の使者は、双方、待たれい!この先の戦は無用!小田原城が落ちた。忍城は速やかに開場せよと命じる。

支城が落ちる前に本城が落ちたか…と、三成も伝言を受け取って呟く。

忍城にいた柴崎も、もはやぜひもない、開城だな…と納得する。

城に戻って来た正木も、長親に良いなと確認する。

その後、使者として、石田三成本人が忍城に行くと言い出す。

周囲が止めても、わしはあいつに会いたい。敵の総大将に会いたいのだと言って聞かなかった。

忍城の広間で待ち構えていた長親や正木の元にやって来た三成に対し、右手を吊った長親は、このようなさまで面目ござらぬと頭を下げ、自らの名前を明かすと、三成も名乗ったので、その場にいた一同は驚き、柴崎などは、良い度胸してやがるぜと感心する。

 

三成は、開城の条件として、百姓は元の村に戻し、首領は去れ。正し、武将を辞める者はこの限りではないと伝えるが、一切の家財や米は置いて行けと同行していた長束正家がそれに付け加える。

それを聞いた、同じく三成に同行して来た大谷吉継が、どう言うことかと聞くと、占領品がなければ、殿に土産が出来んではないかと言う。

すると、長親は何か言いたそうな顔になったので、まだ、戦いが終わっておらんとでも言いたいのか?と柴崎が聞くと、それよそれ!と言い出す。

城の家財、米の持ち出し禁止と言われれば、飢えるしかありません。それでは困るので、飢え死にするまで戦います。軍勢を差し向けられよと長親は言う。

その会話を、広間の外に座って聞いていた甲斐姫は痛快がって喜ぶ。

三成は呆れて、持ち出しても良い。成田殿、そう苛めんでくれと頼む。

そんな三成に対し、長親は、こちらからも開城に際し2つ条件があると言い出したので、一同面食らう。

負けた側の将が、条件を出すなど前代未聞だったからである。

しかし、三成は面白がり聞いてみることにする。

1つは、三成軍が田んぼに敷き詰めた土嚢を全部撤去してもらいたい。百姓が困ると言うので、三成は承知する。

2つ目は、下った百姓を斬った者がいる。そのものの首を討ってもらいたいと言うものであった。

それを聞いた三成は驚き、許しがたい!どこの組に属する者であろうと、必ず探し出して処罰すると約束する。

話し合いは全て終わった…と思われたが、もう1つ条件が残っていたと思い出し、甲斐姫を殿下のお側に置かれるようと言い渡す。

それを聞いた長親は、一瞬、部屋の外に目をやるが、しばし考えた後、承知したと即答する。

話し合いが終わったので、成田殿、その手傷は戦で出来た傷か?と三成が尋ねると、これは田楽踊りでやられましてな〜だと長親が恥じるように答えたので、策ではありませなんだか?と三成が尋ねると、まさか!と長親は答え、両者は笑いあうのだった。

ではこれで…、三成たち使者が立ち上がり、部屋を後にしようとした時、北条方の城はいかほどが残された?と正木が尋ねると、この城だけだ。落ちなかったのは、阪東武者の働きは百年先までも語り伝えられるだろう。予期戦でござったと伝え、三成たちは帰って行く。

帰る途中、三成は、負けた、負けた、完敗だと爽やかに認めていた。

天下一の戦の指揮がしてみたいと言っていたい石田三成は、関ヶ原の大戦を画策するが敗北し、近江の地で捕まった後、今日で斬首された。

泣いていた甲斐姫の元にやって来た酒巻は、あの男、兵糧のことはあんなに食い下がっておったのに…と悔しがる姫に、いずれ猿に抱かれるのだ。まずは心底惚れた男に抱かれよと勧めると、そうするとあっさり答えて去って行きかけ、お前も馬鹿!と酒巻を睨みつけて行く。

甲斐姫はその後、大阪城で暮らしたが、落城の折、脱出したと言う噂もあるが、その後のことは分からなかった。

柴崎和泉守と酒巻靭負、両名のその後の記録はない。

城の内外にあった死骸を拝んでいた和尚の側にやって来た正木は、ふらりと帰って来たかぞうを観て、誰だ?と聞く。

側にいたちどりが、嬉しそうに正木を振り返ると、お父だよと言って、たへえやちよと共にかぞうに駆け寄って行く。

これからどうする?と和尚に聞かれた正木は、侍を辞め、佐間口の地に寺でも建てて、死んだ者の供養して生きると答えると、驚いたような和尚は、商売敵か?と笑うと、そうよと正木も笑う。

正木丹波守利英は、その後、高源寺と言う寺を作って一生を終えた。

見張り櫓の上に登って、下にいる甲斐姫を見つめる長親

成田長親は、家臣の仕官先の斡旋に勤めたが、徳川家康が俸禄を与え、大半を召し抱えたと言う。

その後、長親は67才で死んだ。

忍城は、その後、城主を変えながら明治維新を迎え、今では、三成が作った人口堤の一部が残るだけである。

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現在の忍城周辺の情景


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