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眠狂四郎女地獄

人気シリーズ10作目

冒頭からアイデアは豊富に盛り込まれているので、単品としてこの作品を観れば、それなりに楽しめる娯楽作になっていると思うが、延々とシリーズを観続けて来たこちらにすればマンネリ気味かな?と思わないでもなく、前半の旅をする狂四郎に、次から次へと女が近づき…と言う辺りや、権力争いをしている2つのグループに巻き込まれ…などと言った設定は、何となく見飽きた感じがしないでもない。

それでも、途中から、伊藤雄之助演じる野々宮甚内が登場すると、その人物像の面白さで引き込まれて行く部分がある。

陣内は、単なるとぼけたコメディリリーフではない。

飄々とした性格とは裏腹に、一流の腕は持っている使い手なのだ。

もう一方の宿敵、田村高廣演じる成瀬辰馬はシリアスなキャラクターに造形されており、全く違ったタイプの陣内との対比が興味深い。

辰馬の方は辰馬の方でなかなか興味深い設定なのだが、復讐の念を抱いている影のある男と言うのは、時代劇には割と良くある設定だけに、陣内と一緒に出てしまうと、やや印象が薄いのが惜しまれる。

2人は互いに異なった目的があるが、最後の最後で彼らの運命は決まる。

悪役は、小沢栄太郎と安部徹と言った癖のある強面同士が演じているが、安倍徹の方が意外に弱いのが虚を突かれた感じである。

5作目の「眠狂四郎炎情剣」での悪役振りが強烈だったので、今回は抑え気味なキャラクターになったのかも知れない。

凝ったセットと屋外ロケーションが、巧く融合した作品だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1968年、大映、柴田錬三郎原作、高岩肇脚色、田中徳三監督。

タイトル

馬に乗った侍が近づいて来る。

その様子を、編笠をかぶった狂四郎が観ていた。

すると、その馬に乗った侍を、見事待ち受けて斬った浪人者がいた。

成瀬辰馬(田村高廣)であった。

馬から落ちた侍に近づいて来た数人の侍たちは、あったぞと斬られて倒れた侍から何かを取り上げ、狂四郎がそちらに近づくと、引け!と言って立ち去って行く。

倒れていた侍は、抱き起こした狂四郎に、拙者は田所源次郎(五味龍太郎)と名乗り、佐伯家家老堀采女正様に届けて欲しい…と言いかけて息絶えてしまう。

狂四郎は、その侍の背負い荷物を改めてみると、中から、侍が持つにはふさわしくない赤い手絡(丸髷の根本に結い付けるちりめんなどの飾りきれ)が出て来たので、それを懐に入れる。

狂四郎は、まだその場に残っていた成瀬辰馬に、御主の仲間が見つけたのは偽物だと教えると、それを堀采女正に届ければ、金も仕官も望みのままだと言うので、残念ながら、どちらも望まんと言い捨てて立ち去ろうとする。

そんな狂四郎の編み笠を斬り裂いた辰馬は、御主の流儀、無法と観た。後日必ず…と告げる。

田所から奪い取って来た密書を家臣たちから受け取り広げてみた稲田外記(安部徹)は、中には何も書いてなかったので、何だ?これは!と怒鳴りつける。

その場に同席していた辰馬は、それは偽物だそうだと言い、本物は浪人者が持って行ったと報告したので、何故斬らなかったと外記が叱ると、田所源次郎を斬れ、私があなたからうかがったのはそれだけだとうそぶく。

一方、堀采女正(小沢栄太郎)の方は、戻って来た関口(草薙幸二郎)渡辺(北城寿太郎)の2人の家来から、密書はもう1人の浪人が持ち去ったと聞かされていた。

狂四郎は、護摩の灰に金を奪われそうになっていた角兵衛獅子姉弟を救っていた。

茶店に寄って話を聞くと、2人は実の兄弟ではなく、佐伯藩の領地に行く途中で、姉のように見えたおちか(織田利枝子)は、どうしても会いたい人がいるのだと言う。

そんな2人が出発しようとしたので、狂四郎は、持っていた手絡をおちかの髪に結んでやり、御主の髪をきれいにするのが、この手絡にはふさわしいと言って別れる。

その様子を、近くの木の間から観ていた侍がいた。

その夜、泊まった旅籠の風呂から上がって部屋に戻って来た狂四郎は、見知らぬ女が手をついて待っていたのに気づく。

武家の娘らしきその女は、勝手に入り込んだ詫びを言うと、あなた様におすがりして仇討ちをお願いしたい、兄の恨みを晴らしてくれと言うので、無縁の相手に刃を向けるなど途方もないことと狂四郎が断ると、無縁ではございません。兄は田所源次郎でございますと言うではないか。

田所の妹を名乗るその女に、そなたの操を頂こう。手を打つ、打たぬは、そちらの勝手次第と狂四郎は言ってみる。

すると、女は拒もうとせず、成瀬辰馬を斬って下さいませんか?と言うので、相手の着物をはぎ、肩を出すと、お前が男に抱かれたかどうかすぐ分かる。お前は妹ではなく、金をもらった女芸人だろうと指摘すると、着物の裾を斬り払う。

女の太ももに彫られた蛇の刺青が見えたが、すぐに女は隣の部屋に逃げ込んだので、お引き取り願おうと狂四郎が声をかけると、隣の部屋に隠れていた関口と渡辺が入って来て無礼を詫びると、曲げてお力添えを頂けないか?と頭を下げて来て、堀采女正に味方して、逆臣稲田外記を倒して欲しいと言う。

狂四郎は、田所が持っていた密書は偽物だし、稲田にも渡っていないと教える。

翌日、昨日の角兵衛獅子姉弟のその後が気になった狂四郎は、とある茶店で、2人が通らなかったかと聞くと、昼過ぎに通ったと言う。

そこに、1人の浪人が入って来て、佐伯藩まで後どのくらいあると主人に聞き、15里くらいと聞くと、酒を頼んでいたのを飯に替えてもらう。

その浪人野々宮甚内(伊藤雄之助)は、狂四郎の刀に目をやると、類いまれなる技ものだな、だが…と語りかける。

狂四郎は、剣の相が不吉…と自ら答えると、左様…、持ち主を不幸の底に引きづり込まぬには置かぬ刀だと続けた陣内は、狂四郎も仕官目当てで佐伯藩に向かっている仲間と思い込んだのか、佐伯藩の藩主越後守は中風で寝込んでおり、それに乗じた、城代家老の稲田外記と国家老の堀采女正が権力を争っており、自分は采女正に勝たせたいとなどと一方的に話しかけて来る。

しかし、飯が届いたので、一瞬目を離した陣内が再び目を戻すと、もう狂四郎は店を出る所だった。

林の中を歩いていた狂四郎に、道連れになって頂きたいと後ろから近づいて来た侍がいたが、そう観ても男装した女に見えたので、その足で道連れは迷惑だと言うと、狂四郎は足を速める。

その後、川にたどり着いた狂四郎は、見覚えのある角兵衛獅子の衣装が落ちていたので近くを探すと、あの男の子が倒れており、おちかも倒れ、その懐を侍が漁っていたので、斬り殺すと、もはや瀕死のおちかを抱き起こそうとする。

おちかは、兄がお父様を殺します。殺させないで…と虫の息で呟いたので、兄の名は?と狂四郎が聞くが、すでにおちかは息絶えていた。

側には「ちか」と書かれた御紋入りのお守り袋が落ちており、赤い手絡を拾った狂四郎は、それを川の水で洗ってみる。

すると、墨文字が浮き上がり、そこには、小夜姫が江戸屋敷を失踪、国元に帰った模様、手配されたし…と書いてあった。

後ろから近づいて来た男装の女剣士は、その言葉を読む狂四郎の声に表情を強張らせる。

子供とおちかの死体を埋めてやった狂四郎に、女剣士が、このような目に何故だろう?と聞くので、俺のせいだ。俺が殺したんだ…と狂四郎は呟く。

関口と渡辺は、道で出会った女剣士を追っていた。

渡辺の方が、あの男とはどこかで観たことがある。小夜姫に間違いないと言う。

そして、この辺りの泊まりと言えば、先にある湯治場しかなかった。

狂四郎は、又、部屋に入って来た女剣士から、悪者に追われている。しばらく匿って欲しいと頼まれたので、ここの方が危険かも知れんぞ、俺は女は抱くものとしか思っておらんと言うと、佐伯の城下までお送りくださいと言うので、やはり正体はこれか、出て行け!と叱りつける。

その時、関口と渡辺がいきなり部屋を開けたので、女剣士は隠れる。

今度はどんな芝居が始まるんだ?と狂四郎が入って来た2人に声をかけると、飛んだ失礼を!と2人は詫びて下がる。

その後、狂四郎の前に出て来た女剣士は、確かに私は佐伯越後森の娘小夜ですと正体を明かす。

しかし、狂四郎は、お姫様のために一肌脱ぐなど途方もないことと言い、これほどお頼みしても?と姫が頭を下げても、断る!と言うだけだった。

翌日、1人で森を歩いていた狂四郎は道に迷ったので、一軒の山小屋に入ると、そこにいた老婆に一晩泊めてもらえないかと頼む。

すると、その婆は、路銀はいくら持っていると聞いて来たので、20両ばかりと狂四郎が答えると、では2両だと言うので、狂四郎は、正気か?と驚くが、奥の部屋から目の不自由な女が出て来て、老婆は、盲(めしい)の女は情が濃いなどと言う。

奥の部屋で狂四郎が横になっていると、その目の不自由な女が抱きついて来る。

女、お前の仕掛けた罠は何だと狂四郎が聞くと、いきなり、女は含み針を吹いて来て、ろうそくの明かりを消してしまう。

真っ暗闇になった部屋の中で、狂四郎は、自在に動き回る女に翻弄される。

その時、導火線が着火し、強烈な光が爆発したので、その閃光に目をやられた狂四郎は、逃げ出そうとした女を斬って外に出る。

入口の周囲には狂四郎を待ち受けていた侍たちが集結していたが、目をやられていた狂四郎は、勘で戦うしかなかった。

眼が見えなくても手強い狂四郎には敵わないと知った残党は逃げ去って行く。

翌日、狂四郎が川で目を洗っていると、又もや1人の女が近づいて来て、お手をお貸ししましょうなどと言う。

若い女人に手を引かれるのは面映いと狂四郎は断るが、女1人、道を取り違え、途方に暮れておりますと言うので、では杖を拾ったつもりでと狂四郎は女に手を引かれ、とあるお堂に到着する。

その中で寝ようとした狂四郎だったが、女は寝付けぬのか、途中で外に出ると、しばらくして戻って来て、お許しください。眠れぬまま、月を観て参りましたと言うので、そなたは人妻か?と狂四郎は聞くと、夫は輿入れして半年もせぬうちに亡くなりましたと女は言う。

抱いてしんぜようか?お前が眠ってくれんと、私も眠れんと狂四郎が誘うと、女は素直に身を寄せて来る。

狂四郎は、1人、月を観ていたそなたの身体には男の匂いが染み付いている。お前の男は強いのか?目が見えるようになったのが不運と言うことになると言うと、いきなり刀を振りかざしお堂の中に飛び込んで来た侍の目を斬り裂く。

今日からお前が精一杯、その男の目になってやるのだと言い残し狂四郎が出て行くと、目を斬られた夫に抱きつきその女は号泣し出す。

娘姿に戻った小夜姫は1人で旅を続けていたが、町外れで待ち受けていた成瀬辰馬ら外記の配下たちに拉致されてしまう。

稲田外記の屋敷に連れて来られた小夜姫は、なぜ、お城に行くのを妨げるんですか!と抗議するが、辰馬は、まこと、心底から父のお側に行きたいと思うか?憎しみが父と故の絆になっていることもあるなどと言う。

外記に早く城へ連れて行くように迫っても、城は堀采女正の手のものが固めており、あちらに捕らえられれば佐伯藩14万石は奴の懐に入ってしまいます。そのためにも、姫のお身体は、しかと外記がお引き受けしますなどと説明する。

佐伯藩に入り、飲み屋に入って来た狂四郎は、そこで、殺された角兵衛獅子に良く似た角兵衛獅子コンビが舞を披露しているのを観る。

先客として野々宮甚内も1人で飲んでおり、一緒に飲もうと誘って来るが、狂四郎は酒は1人で飲むことにしていると言い断る。

そんな陣内に一緒に飲んでも良いとすり寄って来たのはお園(水谷良重=二代目水谷八重子)だったが、俺には近々後ろ盾が付きそうなんだと上機嫌の陣内は、歓迎する。

そこに、成瀬辰馬までやって来たので、お園は、あの人はいつも冷や酒3杯、水を飲むように飲んでいくの。稲田外記が手付金100両で買ったんですってと陣内に耳打ちする。

そんな辰馬に、あの男もお前の仲間か?采女正に売り込みに来たのであろう?などと狂四郎のことを聞くが、辰馬は答えない。

その時、1人の浪人者が血相を変えて店の中に入ってきて陣内に近づいて来ると、出ろ!と凄んで来たので、お前が断られたのは御主が未熟だからだと陣内はいなし、飛びかかって来た相手の小刀を抜き取って、それを相手の腹に突き刺す。

店の中に倒れた死体を観たお園は、外にほっぽいといてと男たちに頼む。

陣内は、1人で飲んでいる辰馬に、とっくりを差し出し一緒に飲もうと誘うが、酒は3杯、他人の酒は飲まんと言うと、からむ陣内を避けるように、刀をきらめかせ、とっくりを切断してしまったので、狂四郎も陣内もその腕前に目を光らせる。

そこへ、関口が仁愛を呼びに来たので、前金は渋るのに、人使いが荒いなとぶつぶつ言いながら一緒に店を出て行く。

お園は、今度は狂四郎に話しかけて来るが、狂四郎は、ここへ人を探しに来た。あいにく男だと答える。

夕暮れ時、狂四郎は、おちかが持っていたお守りと同じ紋の入った灯籠がある屋敷を見つめていた。

堀采女正の屋敷であった。

その采女正は、呼びつけた陣内に、召し抱える条件として提示した百石で何が不足なのか?と問いただしていた。

陣内は、100石で命をかける訳にはいかない。せめて300石に加え、指南役に取り立てていただきたいと条件を提示する。

そこに、眠狂四郎なる浪人が会いに来たとの知らせが届き、例の奴だなと気づいた堀采女正は、会うことにする。

狂四郎は、数日前、田所源次郎の臨終に会った所、遺言を頼まれ、手絡を采女正にと…と伝え、表を通り、ふとあなたのお顔を観たくなったのだが、思った通り、死相が出ていると伝えると、采女正は不愉快そうに、脅しか?と答えるが、解釈はそちらのご自由にと言って変える。

その直後、別室で待っていた陣内は、前金として10両ばかりと采女正にねだると、狂四郎の円月殺法、今まで破った奴はいない、俺が倒すので、500石頂きますと言い出す。

家来たちも、狂四郎は采女正に加担するのは間違いないと外記に進言するので、外記は辰馬に、狂四郎を斬れるか?と問いかける。

森を歩いていた狂四郎は、虚無僧の一団に出会うが、敵と感じると、すれ違い様、次々に斬り捨てて行く。

全員、斬り捨てた狂四郎に、辰馬が近づいて来る。

狂四郎は、自分が斬られたときのことを考えたことあるか?剣に生きるものは、剣に死ぬことを知れと話しかけ、お手は目的果たすまでは死なんと辰馬は答える。

狂四郎は円月殺法を披露するが、斬り結んだかに見えた辰馬は、狂四郎の背後の大木の後ろで隠れていた刺客を斬り殺す。

俺は後ろから迫る殺気を知りながら、それを捌く隙を見いだせなかったと狂四郎は言い、お前のために俺はこいつを斬ったのか…と辰馬は吐き捨てると去って行くが、狂四郎は、辰馬が落とした印籠を拾い上げる。

その印籠にも、おちかのお守り袋に入っていたのと同じ、堀采女正の紋が入っていた。

町に戻って来た狂四郎は、曲芸を披露している角兵衛獅子の姉弟らしき2人を観て、弟の方に金を渡してやる。

同じく、おひねりを弟に与えたお園が近づいて来て、角兵衛獅子を目を細めてみていたあなたと、今のぞっとするような目、どっちが本当なのかしら?と狂四郎に囁きかける。

どっちも俺だと答えた狂四郎は、俺に近づいた女は必ず不幸になると言うと、副火葬じゃないかは本人が決めることよとお園は迫るが、狂四郎がついと離れて行ってしまったので、どこへ行くのと問いかける。

日が暮れた中、狂四郎は、角兵衛獅子の姉の方から手紙を受け取る。

そこには、「お助けください 小夜」と書かれてあり、角兵衛獅子の少女は、こちらでございますと言いながら、今日素人とある屋敷の中に案内する。

廃墟らしきその屋敷の灯の灯った部屋にやって来た狂四郎は、畳に横たえられた十字架に縛り付けられ、口元も布で縛られた娘を発見する。

女は、お助けくださいましと声をあげるが、次の瞬間、畳の下からと天井から、次々と槍の束が飛び出して来る。

狂四郎はそれを交わし脇に飛ぶと、十字架に縛られていた女は、突き出た槍を握り、狂四郎に襲いかかろうとするが、バランスを崩し、畳に落ちると、その畳が反転し、落とし穴に落下して行く。

その後、狂四郎は飲み屋の二階で、お園と2人きりで酒を飲んでいた。

抱いて…とお園は迫って来るが、その場にやって来たのは陣内だった。

無粋は承知の上だと面目なさそうに入って来た陣内は、前金をせしめた。たった5両だがなと嬉しそうに教えると、お園に酒を持って来させる。

1千万石まで上げてみせると欲をかく陣内に、狂四郎は、5百石で手を打つことだ。御主には俺を斬れぬと言うと、陣内が気色ばみ、斬る!と睨むので、円月殺法を竹みつで破る気か?と問いかける。

やっぱり見破っておったか…と陣内はバツが悪そうに笑うが、そこに又、関口が呼びに来たので、何しろ1千石かかっているからなとぼやきながら、一緒に出かけて行く。

陣内と堀采女正の一派が神社に駆けつけると、そこには辰馬を中心に、稲田外記一派が集まっていた。

両者は斬り合いを始まる。

陣内は、相手方の刀を奪うと戦いに参加する。

辰馬も斬りまくり、とうとう陣内と一騎打ちになる。

そこへ、娘が奪われました!と稲田外記側の家来たちが騒ぎ出し、狂四郎が小夜姫を連れて行った事を知る。

狂四郎は、その小夜姫をお園の家に連れて行く。

狂四郎は小夜姫に、お家のためだの忠節などと言う奴が鼻持ちならなかっただけだと言い、小夜姫は、今の家に生まれたことが恨めしくてなりません。父上に会えないなら死んだ方がマシですなどと言うので、死ぬまで生きるのが人だ。どんなに苦しくても生き抜かねばならんと言い聞かすのだった。

陣内は采女正に会うと、外記を斬れ、狂四郎も斬るか?と言われたので、貰い扶持は千石とお書きいただきたいと書状を要求し、「斬れる斬れないは、武運の定むる所と言うしかありませんなととぼける。

そして、町の古道具屋に向かった陣内は、10両の刀を勧められるが、3両の刀の方を買い、心配いらん、7両分は腕で補うと、そんな刀では…と案じる主人に言う。

稲田外記は、殿の名を使い、強権を発するしかない、登城だ!と家来たちに告げ、駕篭に乗り込むと夜の闇に乗じて城に向かう。

そんな外記一行を待ち構えていた陣内は、いきなり列に割り込むと、次々護衛の侍を切り倒すと、駕篭の持ち棒ごと、中の外記を斬り裂く。

お園は狂四郎に、惚れたのね、小夜姫…と語りかけると、お願い。止めて、御節介は…と語りかけるが、返事がないので、もう良いわ、何も言わない。冷えるわね…、雪が降りそうなどと言いながら、寝そべっていた狂四郎に布団をかけて来る。

お前もやはりそうだったな。俺に近づく女は例外なく不幸になると言う狂四郎に、お園は抱いて…と迫るが、狂四郎が布団を跳ね上げると、その中に潜んでいた毒蛇が、お園の方の足をかむ。

狂四郎は、小柄で蛇の頭を縫い付けると、苦しみ出したお園の足の傷口を吸ってやり、やっぱりお前は采女正の女だったか…と問いかける。

お園は、殺せと言われた…、良かった…、姫は…、どうしてもあなたには渡したくなかったと言うと息絶えたので、狂四郎は、小夜がいるはずの部屋に来るが、無人の部屋の壁には、「円月殺法所望 逢魔ヶ淵にて見参 陣内」と書かれた神が貼ってあった。

逢魔ヶ淵に向かった狂四郎は、待ち構えていた陣内に対し、円月殺法を披露し始める。

しかし、陣内は動こうとせず、おれは吸い込まれん。円月殺法破るには、この一手しかないとかねがね考え抜いていたと叫ぶが、狂四郎は突然相手に打ち込んで行き、陣内が防ごうと横に構えた刀をまっ二つに折ってしまう。

あっと驚いた陣内は、3両は3両か…とぼやく。

その後、酒屋で1人考え事をしていた辰馬は、やって来た狂四郎に、御主と剣を交えることもなくなったようだな…と語りかけるが、ではさっさとこの城下から立ち去るべきだ。稲田外記が斬られた以上ここにいる理由はあるまいと狂四郎が答えると、俺の目的はこれからだと辰馬は言う。

その目的を果たした時、御主は救いのない不幸に落ちると狂四郎が忠告すると、救いのない不幸か…、俺の母親がそうだった。、屋敷奉公に言った先で、そこの主人に孕まされ、捨てられたと辰馬は打ち明ける。

采女正を斬るなとおちかが言って、死んで行った。外記の手のものに斬られたのだと狂四郎が教えると、田所の手絡を何気なくおちかに与えてしまった。それが死に導いてしまった。おちかの悲願だけは叶えてやれ、そして俺が斬りたければ斬れば良いと辰馬に諭す。

しかし、辰馬は、俺は是が非でも父を斬る!と言い切る。

その後、関口らと酒を酌み交わしていた堀采女正の元にやって来た狂四郎は、おちかのお守りと、辰馬の印籠を差し出すと、小夜姫の登城、送らせた方が良い。辰馬が駕篭を襲うと教え、何故そんなことを言いに来たと聞かれると、辰馬に父を斬らせたくないだけだと答える。

どうやって防ぐんだ?と采女正は問いかけると、狂四郎は、道はある!と答える。

その後、雪が降りしきる中、堀采女正の屋敷から城に向かう駕篭の一団があった。

それを待ち受けていた辰馬は、護衛たちを倒すと、駕篭を突くが、その直後、駕篭の背後に立ち上がったのは狂四郎だった。

狂四郎は、引け!と命じるが、采女正は?と聞いた辰馬は、物陰に隠れていた采女正から撃たれて倒れる。

采女正は、わしの行く手を妨げるものは何人たりとも容赦はせぬ!と言い、短筒を狂四郎に向けると、刀を捨てろと迫る。

狂四郎は刀を捨てるが、小刀もだと言われる。

その時、倒れていた辰馬が起き上がり、父の采女正に斬り掛かろうと抱きつき、又しても銃声が轟く。

狂四郎は捨てた刀を素早く拾い上げると、采女正を斬り捨てる。

その様子を近くで観ていた陣内は、思わず狂四郎に駆け寄ると、その刀を奪い取ろうとするが叶わず、自らの竹みつを抜いて斬り掛かって来る。

しかし、狂四郎は、俺は、斬られたくて斬って来るものをいまだに斬ったことがないと言い身体を交わしたので、陣内は、死ぬことも叶わんのか…と言うと、その場で竹みつを折ってしまう。

雪の中に倒れた辰馬は、小刀を握りしめ、死んだ父親に斬り掛かろうと這って行くが、狂四郎が、辰馬!采女正を斬ったのは俺だ、分かるか!と声をかけた時には、顔を上げようとして事切れる。

そこに別の駕篭が近づいて来て、中から顔を出した小夜姫は、眠様、ありがとう存知ます。あなたのお陰で佐伯家は…と礼の言葉をかけて来るが、狂四郎は、市井無頼の徒、佐伯家とは無縁だと言葉を遮ると、この恩は、小夜、一生涯…と言葉を続けようとする小夜姫に、行かれい!と告げる。

陣内は雪の中に座り込み、采女正からもらっていた千石を約束した書状を破り捨てる。

狂四郎は1人、雪の中に消えて行くのだった。