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眠狂四郎無頼控 魔性の肌

シリーズ9作目

音楽の雰囲気が変わったせいか、やたらにお色気シーンが登場するためか、一時期のテレビの2時間ドラマでも観ているような安い印象を受けないでもない。

このシリーズは、元々、伝奇色の強い娯楽時代劇ではあるが、今回の邪教集団が次々に襲って来ると言う設定はかなり劇画的と言うか荒唐無稽でもあるので、余計にそう感じるのかも知れない。

危機また危機の連続と言う昔ながらの通俗活劇だけに、ご都合主義の連続と言ってしまえばそれまでだが、取りあえず、マンガでも楽しむような気分で気軽に観る分には肩のこらない作品にはなっている。

狂四郎役の市川雷蔵は、顎の下の部分を、白塗りと言うほどではないがうっすら白く塗ってあるのが歌舞伎の化粧のようで気になる。

少し雷蔵が肥えて来たので、顔をいくらか細く見せるためだろうか?

シリーズで過去何度か登場している久保菜穂子が、又、違った役で出演しているが、ヒロイン役は松竹出身の「ノンちゃん雲に乗る」のノンちゃんこと鰐淵晴子だろう。

この時期の彼女は、やや濃い顔つきながら美しいし、異国の血を引いている人にしては、意外と時代劇の装いや髪型が似合っている。

特に、若侍姿はなかなか可愛らしい。

悪役は、成田三樹夫と金子信雄と言うシリーズとしては新顔。

2人とも、この当時にはまだ悪役イメージは定着していなかったはずで、悪役としては初期の作品だと思う。

お色気サービスと言い、主役に襲いかかるピンチの連続と言い、全体の雰囲気としては、当時流行っていた007シリーズを彷彿とさせるような展開で、時代劇版ジェームズ・ボンドとでも言いたくなるような作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、大映、柴田錬三郎原作、高岩肇脚色、池広一夫監督作品。

得体の知れない禍々しい絵がかかった部屋の中

蝋燭に囲まれ、闇の中に浮かび上がる素っ裸の女体…

その身体に近づいた宣教師のような異国の男が何やら呪文を途絶えながら、裸の女体に覆いかぶさる…

白い着物を着て横たわった女の側には生まれたばかりの赤子がいたが、母親らしき白衣の女が、涙を流しながら自ら懐剣を胸に刺し自害すると、急に泣き出すのだった。

表の路地を通りかかった子守り少女におんぶされた赤ん坊の泣き声で白昼夢から目覚めた狂四郎は、出かけようとして縁側を降りる時、軒下に下がっていた花瓶代わりの釣瓶を斬って落とす。

浄閑寺を出た狂四郎を、門の外に隠れていた侍が尾行し始める。

狂四郎がやって来たのは、馴染みの女おえん(久保菜穂子)がいる矢場であった。

おえんは、嬉しそうに奥へ狂四郎を連れ込むと、お銚子でしょう?と聞くが、狂四郎は、酒はいらん。帯を解け!と昼間からいきなり言い出す。

おえんは、恥ずかしがりながらも、惚れた弱みからか、素直に狂四郎の言うことを聞く。

事を終えた狂四郎に、おえんは、あんたのお父っつあんってどんな人?と聞いて来たので、何故だと狂四郎が聞き返すと、その顔、観れば観るほど異人さんみたいに見えるからよとおえんが言うと、急に立ち上がった狂四郎は、俺の一番しゃべりたくないことを聞いたと言いと、不機嫌そうに帰ってしまう。

すでに暗くなっていた外に出た狂四郎は、頭巾をかぶった侍たちに立ちはだかれる。

中央に立った男が、眠狂四郎か?と聞いて来たので、答えるまでもなかろう。寺を出てからずっとその御仁が付けていたではないかと答えると、隠れていた男が石灯籠の背後から姿を現す。

覚悟は良いか?と言う頭巾の男に対し、理由を知らないと覚悟のしようがない。今時、俺に天誅を加えるなどと言う酔狂な奴もおらんだろう。理由を隠さねばならん、そこに理由があるらしいと言うと、狂四郎は数人の侍とその男の頭巾を切り裂き、顔を明らかにすると、天誅は後日のことになさるが良かろうと言って立ち去る。

その後、狂四郎は、とある屋敷の門前に発つ美しい娘から呼び止められる。

門が開いて、その内側に立っていたのは、先ほど狂四郎から頭巾を斬られた中央の男であった。

屋敷の中に通され、先ほどの娘ちさ(鰐淵晴子)を従えて、狂四郎を前に、手を畳に付き頭を足れたのは、この屋敷の主、闕所物奉行朝比奈修理亮 (金子信雄)であった。

父は、あなた様のお力添えを頂かなければ死ぬより他はございませんとちさがまず口火を切ると、朝比奈は、先ほどの非礼を詫び、公儀より内々に御沙汰を受け、京へある品を運ぶ退任を仰せつかったと説明し出す。

無事に任務を遂げるにはぜひとも、眠殿のお力にすがり…と願い出るが、御止めくださいとその言葉を封じた狂四郎は、あの時、この私を斬るのは私事ではないと申された。それが噓であったとは…。当方の腕を試されたとは朝はか…、私は人から試させるほどおのが技を売り物にしてはおらんと、先ほどの脅しに不快感を示すが、せめて仔細なりとお聞きいただきたいと朝比奈は頭を下げると、金のマリア像を取り出して狂四郎に見せる。

今を去る90年、島原の乱のみぎり、籠城軍の士気鼓舞のため、はるばるポルトガルから天草四郎に送られたものだが、今まで闕所物奉行の係にゆだねられて来たが、このたび、政治的な意向もあり、京の和田小路様に差し上げることになった。もとより内々の決定ゆえ厳重な極秘であったが、どこで聞き及んだものか、黒指等の一味の知ることなったと言う。

過ぎる年、某が行った厳しいキリシタン狩りを逃れた手だれ30人ほどが地下に潜り、昨今では黒指党と名乗る淫祠邪教と化しております。祖奴らがどこで漏れ聞いたものか、私の命とこの像を狙っておるとか、彼らに対抗できるのは眠殿しか…と朝比奈は頼むが、お断り申す。私は故あってキリシタンにはいささか敵意を抱く者、それがマリア像を守るため剣を振るうなど途方もないこと…と言って立ち去ろうとする。

朝比奈は、出発までまだ5日ござるので、考え直しを…と声をかけ、廊下を追って来たちさも、この任務を仰せつかってから、父は心痛のあまり人が変わってしまいました。眠様、なにとぞ御願いいたしますと重ねて頼んで来るが、狂四郎は答えず帰ってしまう。

ある日、浄閑寺の門前に門付の女が立ち、三味線を奏でながら歌っていたが、そこに顔を出した留守番の下男が、ここに今いるのは、この年寄と墓石と卒塔婆だけだと言って追い返す。

その女を取り囲んだのは、この近辺を縄張りにする門付仲間の女たちだった。

女たちは、誰に断ってここで商売をしている?と因縁をつけて来ると、いきなり、着物を脱がされいたぶられる。

裸になり逃げ回っていた女を引き倒し、門付の女たちは、それつけ!やれつけ!臼をつけ!と餅つきの真似をしながら蹴飛ばしていたが、ついているのはお前たちの焼きもちだといきなり背後から男の声がかかったので、全員驚く。

そこに近づいて来たのは狂四郎で、おのれより美しい女を嫉む女心はまだ同情するが、そこまでやるのは、おのれの醜さをおのれ自身でさらけ出しているだけだと声をかけると、門付には門付の掟がございますなどと、女たちが言うので、総じて男は、美人の肩を持つものだ。臼をついてみせるのはお前たちと言うことになる…と言うと、狂四郎の刃が唸り、一瞬後、女たちは、自分の着物が斬られていることに気づき、悲鳴を上げて逃げ去る。

その場を立ち去りかけた狂四郎に、ひょっとしたら狂四郎様ではございませぬか?と声をかけて来たのは、腰巻き姿にされて虐められていた門付女だった。

狂四郎が怪訝そうに振り返ると、良かった…、江戸について3日、やっとお目にかかりましたと、その女は喜んだので、なぜ俺が狂四郎だと分かった?と聞くと、お顔がお姉様そっくり!と言うではないか。

志乃(長谷川待子)と言うその女を飲み屋に誘って、酒を飲みながら、話を聞くことにした狂四郎だが、俺に姉がいるなどとは到底信じられないとその態度は冷めていた。

しかし、志乃は、お姉さんの話では、狂四郎様のお母様がキリシタン屋敷にお出かけになる時、肉親との縁を切ったそうです。捨て子だった私が今こうして行きておられるのも、お鶴さんのお陰、そのお鶴さんも半年前からお加減が悪く、嵯峨野の尼寺に床について以来、狂四郎様に会いたいと言うようになり、私はお鶴さんに内緒で江戸に来たと言う。

俺が礼を言うと思ったかと答えた狂四郎は、ご苦労だったが、余計なことをしたな。俺は肉親とのしがらみに背を向けている。否むしろ憎んでいる。それが返事だ…と言い残すと店をさっさと出て行ってしまう。

赤い鳥居のトンネルの下を歩いていた狂四郎は、突如小走りになると、脇から出て来た刺客と切り結ぶ。

刺客はそのまま逃げ去るが、狂四郎は確かに手応えを感じていた。

ふと石畳に目をやると、そこには、爪が黒く染められた手の小指が切断されて落ちていた。

インヘルノをしろしめすジアボよ、我らの切なる誓いに耳を貸したまえ!大願成就の暁には即刻命をめさるるともつゆいとうなき、願わくば我らをして朝比奈修理亮を討たしめたまえ、聖マリアをこの手にめさしめたまえ!

怪し気な祈りを捧げていた黒指党の首領三枝右近(成田三樹夫)は、小指を切られた男が戻って来ると、近いの黒指をなくし、ようおめおめと立ち返ったな?と叱責すると。いきなり鞭でその男を叩き始める。

朝比奈は眠狂四郎を引っ張り出すべく狂奔している。何が立ちはだかろうと、我ら黒指党はあくまでも誓いを貫き通さねばならん!との右近の言葉に、30名の衆徒たちは一斉に祈りを捧げ始める。

一方、切断した指を狂四郎から見せられた朝比奈は、まさしく黒指党、貴殿の護衛を御願いしたのをいち早く察知したと思われる。京まで御届け願えれば、お望みのものを差し上げます。金も女、何なりとおっしゃって頂きたいと言う。

すると狂四郎は、何なりとと言われるなら、そのちさ殿を頂きたいと言い出し、妻にと申されるか?と驚く朝比奈に、自分は終世、妻と名のつくものは持たぬことにしている。操が欲しいのだと言う狂四郎の言葉に狼狽する姿を観ると、どうやらこの交渉、打ち切りと見えると言って席を立とうとする。

すると、朝比奈は承知したと言い出すではないか。

屋敷を後にした狂四郎を、おこそ頭巾をかぶった女が追って来て、自分は、ちさの母親の園枝(木村俊恵)と名乗ると、どうぞちさを御守りくださいと願い出るが、狂四郎は頼む人間を間違えている。朝比奈殿は、依頼を果たす代償として、ちさ殿の操を下さると申されたと教えると、さすがに園枝は凍り付いてしまう。

その夜、床についた園枝は、夫朝比奈が迫って来たのを観ると、怯えたような顔になる。

その寝室の横を通りかかったちさは、障子の隙間から見えた父親が母親の寝間着を剥ごうとする様子を見てしまい、驚いて逃げ去る。

翌日、狂四郎の元に、老下男が手紙が届いたと持って来る。

箱に入った手紙には、そのえの宛名が記してあった。

朝比奈の屋敷では、ちさの悲鳴が響いていた。

驚いて駆けつけた朝比奈が観たのは、妻そのえが自害した姿だった。

そのえからの手紙を読み終えた狂四郎は、矢文が打込まれたので、それを開いて読むと、黒い手形の上に、黒指党見参と書かれていた。

外を観ると、向かいの塀に、同じような黒い手形の紙が貼付けたったので、誘いだと知った狂四郎は、その手形の指し示す方向に沿って進んで行く。

やがて、狂四郎は、神社の中にやって来て、石階段の上に黒い手形が貼ってあったので、その階段を上りかけるが、その途端、石階段が傾き、狂四郎は落とし穴に落ちてしまう。

穴の上に姿を現した三枝右近は、さすがは狂四郎、良くぞ黒指党の招きを受けたと言って名乗ると、我らが主ジアボの洗礼を見事受けるか?と聞いて来る。

ジアボとは何だ?と狂四郎が問いかけると、釈迦もイエス・キリストも及ばぬ全知全能の神!万人の心に潜む邪悪の心の中に聖なる御霊が宿っている!と答えた右近は、神などないと否定する狂四郎に、生け贄はお前ばかりではない。観よ!と天井を見上げる。

すると、そこから手首を縛られた志乃が吊り降ろされて来る。

何故、その女を生け贄にする?と狂四郎が聞くと、理由はお前自身にある。お前を京に誘った罰だ。誘いを受け、朝比奈の味方になるお前も、この女と同じ姿になると言った右近は、志乃の胸に十字の印を切り刻むと、主よ、我ここに生け贄を捧げまつる。願わくば我らが願いを貫かせ賜らんことを!と祈り始める。

狂四郎は、右近の周囲を固める一党に対し、そいつの言うことを聞くのか?と問いかけるが、彼らも又、邪教に洗脳されている事を知ると、神が人を作ったのではない!神こそ、人によって作られたのだと言い聞かすが、右近たちは祈りを始めながら志乃を狂四郎のいる地下牢まで降ろす。

主を裏切るものは、たちどころに主の御手が落ちる事を知るが良い!と呼びかける右近に対し、狂四郎は、お前の身体には異人の血が流れているのではないか?と問いかける。

流れていたらどうだと言うのだ?と聞き返す右近に、お前は神を信じることで、お前自身をごまかしているだけだ。俺はお前の行く末を自分の目で観たいと突きつけるが、そんな時間はないと言って、右近は爆薬の上に短い蝋燭を立てて立ち去る。

狂四郎は、死んだ志乃の身体を結わえていた縄を引き下ろすと、それを投げ縄のように、火薬の上に置かれた蝋燭の炎目がけて投げつける。

その後、無事落とし穴から脱出したらしく、狂四郎は、おえんの家で横になっていた。

おえんは、観音様に行っておみくじを引いたら…と言い出したので、凶が出たと言いたいのだろう、俺は凶を背負って行きている男だと狂四郎は答え、旅立ち悪し…とおえんが読むと、では行こうと立ち上がる。

どこへ?とおえんが聞くと、京へだ。この目で確かめたいことがあるんだと狂四郎が言うので、おえんは私も付いて行くと甘えるが、狂四郎から拒否されると、良いわよ、勝手に付いて行くからと言い出す。

いよいよ、朝比奈邸から、京に向かって8人の使者が旅立つ日が来る。

それを、途中で待ち受ける黒指党の面々。

そこに近づいて来た商人姿の仲間が、狂四郎はざっと半日後ろですと報告する。

右近はそれを聞くと、8人の使者を襲撃し、マリア像を探すが、彼らは誰も持っていなかった。

その8人の死体が残る街道にやって来た狂四郎は、行け!囮は露見した。奴らはどこに潜んでいるか分からんぞと、そこまで同行して来た侍姿に身をやつしたちせとお付きの老人に命じる。

その後、身の丈より高い草むらの中を進む狂四郎は、手裏剣攻撃に会い、刀を回しながら手裏剣を弾き飛ばし進んで行く。

その時、黒指党は最後の1人になろうとも目的を達する。忘れるなと言う右近の声がどこからともなく聞こえて来る。

その後、水車小屋で落ち合ったちさは、狂四郎様に届いた母の手紙には、自害する訳は書いてなかったのですか?と聞くが、狂四郎は首を振り、マリア像をちさ殿に持たせたのはお父様の考えか?と聞く。

すると、ちさは、家にいると恐ろしいので自分から願い出たのだと言い、狂四郎様こそ、どうして、今回の件をお引き受けなさったのです?と聞き返す。

狂四郎は、その理由は聞くまでもなかろうと言いながら、ちさに目を向けたので、狂四郎様はいつからそのような方になったのですか?と聞くと、最初に人を斬った時からだと狂四郎は答える。

それほど悪い人だったのですか?とちさは食い下がるが、狂四郎は、もう良い、行け!今後俺を観ても他人を装うのだと命じたので、ちさは小屋を出る。

夜、森の中で火の周りに集結した黒指党は、8人が囮だったとすると、誰がマリア像を持っているのか協議していた。

狂四郎ではないと右近は推理していた。

翌日、旅を続けていた狂四郎は、首から「母者 買うてください」と書かれた木札を首からぶら下げた男の子が立っているのに気づく。

興味を覚えた狂四郎は、買おうと声をかけ、男の子に案内を頼むが、その子は口がきけないようだった。

お堂に連れて来られた狂四郎が中をのぞくと、武家の女らしきものが1人いたので、言い値を言えと言うと、金子では売りませんと言うので、何で売る?と聞き返すと、侍1人殺して欲しいと言い出す。

相手は夫の仇で黒指党の大沼伊織で自分はその妻だと言い、つまり、その大沼が自分を手に入れるために前夫を殺したらしい。

現在の夫を殺せと言うのか?と狂四郎が問いかけると、大沼は無変流の槍の使い手、女の私に復讐するすべはなく、生き恥をさらして、夫を殺してくれる相手を3年待ち続けていた。あなたに断られれば、二度と大沼を討つことは出来ませぬと言うので、狂四郎は、そこに寝てもらおうと告げる。

女は驚いたようだが、狂四郎が、もとより無頼の徒、操を頂戴するのに場所は選ばんなどと言うので、諦めたようにその場に身を横たえる。

その女に添い寝した狂四郎は、なぜ目を閉じる?目を開けて俺を観ろ。丸で生娘のようだな?身体を強張らせ…、ほら震えているではないか?悶えに悶えるほど抱きがいがあるのだと女をいたぶる。

その直後、床下から刃が突き出て来たので、あらかじめ予測していた狂四郎はとっさに身を交わし、床下に身を潜めていた大沼伊織(五味龍太郎)を突き殺す。

お望み通り、大沼伊織は討ち取ったと言いながら狂四郎が立ち上がると、女は、畜生!と言いながら短刀で突いて来る。

それの小刀を奪い取った狂四郎は、壁際に立った女の又の間に小刀を突き刺し、立ち去る。

女は悔しがり、小刀で壁に縫い付けられた着物を裂きながら前進しようとするが、勢い余って転んでしまい、大沼が床から突き出していた刀の上に倒れてしまう。

その後、旅籠に泊まった狂四郎だったが、お連れ様がお着きですと宿のものが言いに来たので目を上げると、そこにいたのはおえんだった。

どうして分かった?と狂四郎が問うと、黒い着流しで、ぞっとするほど良い男と言えば、看板をぶら下げて歩いているようなものですものとおえんは笑う。

あんたって、女に惚れたことはあるの?とおえんが聞くので、狂四郎は1度あるが、相手は死んだ。俺に近づいた女は例外なく不幸になった。これからもそうだろうと言うので、おえんは、先のことだってどうでも良い。今が幸せなら、それで良いのさ…と言いながら、しなだれかかって来る。

翌日、峠の茶屋で休息した狂四郎だったが、店主が持って来た湯のみを受け取る際、わざと落とすと、その店主は落ちる茶碗を空中で掴み、素早くお盆の上に伏せながら、これはとんだ不調法を…と詫びたので、狂四郎は、何の不調法か、絶妙な技の冴えだと言いながら、自らの刀に付いた銀の飾りが、今の茶を浴び変色しているのを相手に見せる。

すると、その店主は奥に引き込み、刀を持ってかかって来たので、狂四郎はその店主と、障子の奥に隠れていたもう1人も突き殺す。

破れた障子の奥には、縛られた本物の主人が見えた。

その直後、その店に近づいて来たおえんは、死体が転がっているのを観て逃げ出す。

その夜、山奥の温泉場で、女が一人着物を脱いでいた。

内輪を持った狂四郎がその場に近づくと、腰巻き姿になったその女が、お侍さん、とても気持ちの良い湯ですよ。私に遠慮なさらず、汗を流してお行きなさいと声をかけて来たので、狂四郎は着物を脱ぎかける。

その時、女が飛びかかって来たので、身を交わすと、その女は湯に落ち悲鳴を上げる。

さらに、襲いかかって来た2人の刺客の目を、内輪の先に仕込んだ刃で切り裂いて倒す。

その時、狂四郎は、「毒湯 入るべからず」と書かれた看板を観る。

湯の中には、女の死体が浮かんでいた。

その後、山道を歩いていた狂四郎は、小さな祠に寄りかかっていた傷を負っているらしい男から、お侍さん、俺の話を聞いてくれと声をかけられる。

俺はいかさま賽に取り憑かれ、精魂込めて作った、思い通りに目が出るいかさま賽を作った。ところが、半次郎の奴は、ドスを突きつけやがって、その賽子を奪いやがったと言う。

俺は奴に噓の目を教えた。丁、半、丁…の次は、丁と出るのを半と教えたんだ。半次郎はあの賽で釜屋の大勝負に行くに違いない。釜屋に行って半次郎に勝ってくれ。丁半丁丁、これを繰り返す…と言い終えると、その男は息絶えてしまったので、最後に会ったのが、この狂四郎、よくよく運のない男だと狂四郎は呟く。

釜屋の賭場の外では、賽子を振る中盆が半次郎に、この賽子を使うには10両寄越せと脅していた。

その様子を遠くから観ている狂四郎。

賭場の中では、釜屋(遠藤辰雄)が、大勝負を始めましょう。今夜の賭けものはこれでございますと、客たちに見せたのは、縛られた女だった。

ちなみと言うその遊女は、3日前に100両を踏み倒して足抜けしようとしたと言う。

その時、賭場に小判をばらまき、二本挿しでも良いだろう?と言いながら狂四郎が入って来る。

鎌谷は歓迎し、勝った岡谷はちなみと60両差し上げると言い、さっそく博打が始まる。

狂四郎は、森の中であった男の言う通り、丁、半、丁…と勝ち進み、とうとう半次郎と一騎打ちの勝負となる。

半次郎は予想通り半と言い、狂四郎は死んだ男の言う通り丁と言い、結果は狂四郎の勝ちとなる。

釜屋は、お侍さんおめでとうございますとちなみを連れて来るが、ちなみは半次郎に駆け寄り、あんた〜!と呼びかける。

俺は負けたんだ…と悔しがる半次郎を観た釜屋は、ヒモはてめえだったのか!出てけ!と怒鳴りつけ、賭場から追い出してしまう。

ではもらって行くぞと言い、ちなみを外に連れ出した狂四郎は、半次郎と言う男に心底惚れているのか?いかさま師で、人殺しでもか?とちなみに問いかけ、人を殺すと、1人では済まなくなる…と教えると、隠れていた半次郎がドスで付いて来たので、その右腕を斬り落とした狂四郎は、片腕がなければ、もういかさまは出来ぬが、好きな女は抱ける…と言うと、半次郎に駆け寄ったちなみの足下に小判を投げて去って行く。

京へ二十里と書かれた標を横目に旅を続けていた狂四郎は、竹林の中の道を登っている途中立ち止まり、やりおったな、待ち人来るか…と呟く。

次の瞬間、大量の竹竿が坂を転がって来たので、身を避けようと、竹林の中に入り込むと、地面の下から刃が突き出て来ると同時に、大量の槍が飛んで来る。

狂四郎は、とっさに自らの帯を解くと、その先端に刀の鞘を結わえたものを投じ、竹に引っ掛けると、それを引っ張り、反発力を利用して斜面の上に取り移ると、二刀流で、黒指党の面々を斬って行く。

その夜、京の近くの旅籠の物干し台で落ち合ったちさは、後3日経てば、ちさは女に戻れますと嬉しそうに言うので、京のどこへ持って行く?と狂四郎が聞くと、人目につかない和田小路様お出入りの問屋巴屋の染め場だとちさは答える。

京に付いたら、すぐ髪を結い上げます。江戸への帰り道はずっと一緒に付いて来てくれますねと上気したようにちさが聞くので、京に着いたら私は離れようと言う。

それでは父との約束と違えますとちさが哀しそうに言うと、人との約束には背を向けることにしている。今、俺は妙な気分になっている。月のせいかも知れんが、ちさ殿だけは不幸にしたくないのだと狂四郎が言い出したので、不幸かどうかは、ちさが決めることです!と言って、ちさは部屋に戻って行く。

翌日、湖畔を歩いていた狂四郎の足下に簪が投げ込まれる。

それを無視して歩く狂四郎に、いじわる!と言いながら、簪を投げたおえんが追いついて来る。

浜辺の小屋の中で抱き合う狂四郎とおえん。

おえんは、京に入ったら、あんたはきっと殺される。私と一緒に江戸に帰りましょうと頼むが、峠の茶屋でのお前の振る舞い観た時から、お前の正体は見え始めた。お前は黒指党だ!と指摘する狂四郎。

おえんは、殺す?どうせ逃げられっこないわね。ひと思いにやって!と覚悟を決めたようだったが、俺はお前を抱いている。黒指党かどうか問題ではないと狂四郎は言う。

江戸に帰って!マリアの造なんてどうでも良いじゃない!とおえんはすがりつくが、俺が京に行くのは、人の心を見極めるためだと狂四郎は答え、どうしても行くの?バカバカ…と言いながら、さらにおえんは狂四郎を抱きしめるのだった。

京に到着した狂四郎は、嵯峨野の尼寺を尋ねるが、そこにあったのは、吊るされて胸に十字を刻まれたおえんのしたいだった。

心からお悔やみを申し上げます。やったのは私たちではありませんと言いながら、2人の尼僧が近づいて来ると、お悔やみを申し上げることがもう1つあります。あなたには姉などおられませんと言うので、それも分かっていると狂四郎は答える。

では何故京に?と尼僧が聞くと、それをこの目で確かめるためだと答えた狂四郎は、尼僧が2人とも銃を向けて来たので、数珠を持たず、飛び道具を持った尼僧とは、恐れ入ったな…と苦笑する。

その頃、問屋巴屋の染め場に、娘姿に戻ったちさがマリア像を無事持って到着していたが、そこに父の朝比奈が来たので驚き、いつこちらに?と聞くと、昨日だ。石出の辺りで追い越したと言う。

マリア像を観た巴屋(稲葉義男)は喜び感心し、朝比奈様の方も、これでぬれ手に粟の3万両なら悪くはありますまいと笑うので、それを聞いていたちさは驚き、お父様、それは献上するのでは?と聞く。

みすみす金になるものを、埃をかぶらせておく訳もないと朝比奈が答えたので、ちさは騙されたと感じ、巴屋の手からマリア像を奪い取ると逃げようとする。

それを追おうとする朝比奈は、ちさをかばおうとした従者を斬ると、ちさに迫る。

追いつめられたちさは、信じられないと言う風に朝比奈を観ながら、本当にお父様なのですか?と問いかけるが、良くその顔を見ているうちに、違う!お父様ではないと気づく。

すると朝比奈はにやりと笑い、俺は修理亮とは双子だ。俺は両親に捨てられたので、両親と修理亮を憎みながら各地を渡り歩いたが、半年前江戸に戻って、修理亮と入れ替わったのさと言うので、では、お父様は?とちさが聞くと、俺が片をつけた、この手でな。誰にも気づかれなかったが、ある晩、園枝だけには気づかれた。女房だけにしか分からぬちょっとしたことでな…と言いながら、逃げようとしたちさを斬ってマリア像を奪い返す。

その時、銃を持った2人の尼僧と共に狂四郎が来たので、動くな!そのものたちは、5間離れて卵を撃ち抜く腕を持っている。これでお前も御用済みだ。後は死んでもらうだけだと言って笑う。

ところが、狂四郎も薄笑いを浮かべているので、さんざん踊らされた上あげくに命を絶たれる我が身を嘲っての笑いか?と朝比奈が聞くと、我と我が手で我が子を手に賭けた親を哀れんでいるのだと狂四郎は答える。

我が子を殺す親がどこにいる?と朝比奈が嘲ると、お前は18年前、家を出る前に園枝殿を犯した。その時妊ったのがちさだと狂四郎は答える。

噓だ!と信じようとしない朝比奈だったが、噓ではない、園枝殿の書き置きにはっきりしたためてあると言って、狂四郎は自分が持っていた手紙を朝比奈に読ませる。

園枝殿は、祝言の時、そのことを夫の修理亮殿に打ち明けた。修理亮殿は怒りと絶望に打ちひしがれたが、生まれて来る子供のことを想い、我が子として育てて来たのだ。俺はしがらみに背を向けている男だが、お前だけは許せんと迫ると、尼僧たちが発砲して来たので、畳を二枚跳ね上げ、弾を防ぐと、その場で朝比奈を斬り殺し、逃げようとした巴屋の後頭部にも、小柄を投げつけ倒す。

尼僧2人は悲鳴を上げて逃げ出して行く。

狂四郎は、よろけながら近寄ろうとするちさの身体を受け止めると、俺は約束を果たす。この通り、力一杯抱いているぞと声をかけると、抱かれたちさは、微笑みを浮かべて息絶える。

外に出た狂四郎は、色鮮やかな染め物がひらめく中、河原に黒指党の残党が待ち受けているのを観る。

出て来い!三枝右近!この世に生を受けて初めて自分から挑戦するぞ!と声を上げる狂四郎。

血を流すには美し過ぎる…と、周囲の染め物を見ながらつぶやいた狂四郎の目の前に姿を現した右近は、挑戦は確かに受けてやると答える。

狂四郎は二刀流になると、自らの周囲を囲んだ一党を次々と斬り倒して行く。

とうとう右近と二人きりになった狂四郎は、観ろ!神を信じ、神の加護をひたすら信じて来た奴らがことごとく屍と化した。これでも神があると言うのか!と狂四郎が問うと、右近はあると答える。

神の美名に隠れ、私利私欲に走る三枝右近は生かしてはおかんと狂四郎は詰め寄り、右近の方も、どちらが正しいかは、どちらが死ぬかで決まるのだとうそぶく。

同じ星の下で生まれたものの情として俺の手で斬る!円月殺法、良く観ておけ!と言った狂四郎の剣が円を描き始める。

狂四郎の剣が、2度目の円を描き始めた時、耐えきれなくなった右近は打込むが、その剣をはね飛ばされ、頭を割られて死ぬ。

河原に積まれた木が燃え盛る夕暮れ時

側でそれを見守っていた従者の老人が、惨い…、お嬢様…と嘆く。

暗い運命を背負って生まれた者がたどるのは、この暗い一本道…、むしろ、ちさ殿にふさわしいのかも知れん…と言い残し、1人狂四郎は立ち去って行くのだった。