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眠狂四郎無頼剣

シリーズ8作目。

本編の魅力は、何といっても、天知茂演ずる愛染のキャラクターに尽きるだろう。

復讐の執念に燃える狂気を孕んだ男であると同時に、幼女との約束を守り、彼女に手渡そうと、手作りの玩具を最後まで懐に忍ばせていた優しさが観るものの心を打つ。

しかし、気になる点もないではなく、狂四郎にあれこれ報告に来る髪結いの小鉄や武部仙十郎と狂四郎との間柄が良く分からなかったりする。

この2人のキャラクターに関しては、これまでの作品で説明がなかったような気がするからだ。

勝美に付いたり、日下部玄心に付いたりしている多兵の役割や、最後、何故、同じ売り家に、愛染一派と日下部玄心一派が合流しているのかなど、今一つ分かりにくかったりする。

円月殺法同士の対決と言う見せ場は、すでに、前作である「眠狂四郎多情剣」でも披露されている。

この作品は、大塩平八郎の乱や石油精製を巡る復讐劇と言う時代劇には珍しい素材を取り入れているせいか、従来の作品に比べると、やや地味な印象がないではない。

それでも、狂四郎が名探偵よろしく「判じ物」を解いてみせたりするサービスもあり、決して凡作というわけではない。

吹き替えを使っているとは言え、裸になるシーンや軽業を披露するなど、角兵衛獅子を会得したと言う藤村志保の役所もなかなか興味深い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1966年、大映京都、柴田錬三郎原作 、伊藤大輔脚色、三隅研次監督作品。

屋敷の奥の部屋で縛られて倒れている弥彦屋彦右衛門(香川良介)とその女房お菅(橘公子)。

その隣の部屋では、長女のお曽代(三木本賀代)も同じように縛られて転がされていたが、自力で転がって雨戸をこじ開けると外に転がり出、助けを呼ぶ。

かくして、油問屋弥彦屋に白昼堂々賊が侵入したことが判明し、たまたま近くにいた常廻りの同心天城(原聖四郎)が店の中に入り、まだ賊が外に出ていないことを家人たちから確認、蔵の方は、下のお嬢様が遊んでおられるので、賊は別の方に言ったのだろうと言う。

蔵の前を確認してみた役人は、確かに、まだ幼い次女のおつうが、壁に向かって、かくれんぼの歌を歌っているので、賊はこちらには来ていないと判断する。

しかし、そのおつねの様子をじっと観ていた彦右衛門は、まあだだかい?と言う娘おつうの声に、まあだだよと答える男の声が蔵の中から聞こえて来たのに気づく。

まあだだかい?と聞いたおつうの声に、もう良いよと声が聞こえて来たので、おつうは蔵の中に入り、そこで書類を読んでいた愛染(天知茂)を発見する。

彦右衛門も入口から、その姿を確認するが、おつうがその浪人の側にいるので声を立てられない。

愛染の方もそれを承知のようで、鬼の目にも涙。捕り物騒動が終わるまで届けぬことだと彦右衛門に語りかけると、おつうを抱き上げると、京の数え歌を押してあげようと言いながら、蔵の二階へ上がって行く。

彦右衛門は長女お曽代が、一文字屋に嫁ぐことになったので、同じ「一文字」と銘のある井戸茶碗を見つけ購入しようとしたが、法外な値を吹っかけられ、それを断ったことから賊に襲われたのではないか?…などと、外は雨が降り出した中、「飲み屋「蛸平」の奥で飲んでいた眠り狂四郎に、事件の顛末と推理を話していたのは、廻り髪結いの小鉄(工藤堅太郎)だった。

賊が狙っていたのは、証文や書き付け、あるいは絵図面の類いなどと話す小鉄に、何故、そんな内情をお前が知っているのだ?と狂四郎が問うと、自分もお得意の1つである弥彦屋には目をつけており、越後の名酒「延命酒」でもあるに違いないと思って蔵の中に潜んでいたのだと言う。

その時くすねて来たと言う小樽の中味を、自慢そうに升に注いだ小鉄だったが、匂いを書くと、これは腐っていると顔をしかめて店内に撒いてしまう。

何かに気づいた狂四郎は、自ら加えていたキセルのタバコをその捨てた水の上に落とすと、たちまち燃え上がり、店内は騒動になる。

店の女が水をまいて消そうとしたが、かえって火は勢いを増す。

その時、軒下で雨宿りをしていた1人の女が、持っていたゴザを火の上にかけあっという間に消してしまう。

その女は、客たちから感心されると、これは越後の地の底から湧き出る油の一種で、「臭水(くそうず)」や「くさみず」と呼ばれるもので、水をかけると、かえって油が浮いて火は消えませんなどと詳しく説明したので、あんた、越後の人かい?と聞かれると、これは人から聞いた話で、私は越後生まれの角兵衛獅子ですとおどけて店を出て行く。

その女勝美(藤村志保)は、道で出会った商人風の老人多兵(水原浩一)に、あの店の奥のつい立ての後ろにいた侍は格之助そっくりに見えたと打ち明ける。

2人の角兵衛獅子も、勝美と多兵の後について来る。

大阪でさらし首になっていた格之助様は、やけどで人相が分からなかったし、今でも生きていて、江戸のどこかで生きているような気がして…と、同じ銀杏長屋の一室に帰って来た勝美は多兵に話していたが、そんな会話を、付けて来た小鉄が、外で立ち聞きしていた。

多兵がそれとなくそのことを知らせると、勝美も、「蛸平」からずっとつけて来ていると小声で答える。

小鉄は、急に2人の角兵衛獅子が現れ、目の前で曲芸をしてみせたので、その場を立ち去る。

夜、川岸に接岸していた船の中に灯が灯っており、そこにやって来た浪人数名が川に石を投じて合図をすると、中で待っていた愛染と合流する。

彼らは、大塩平八郎の乱の残党だった。

貧民救済のために、大塩忠斎・格之助父子が考案した、越後の草水を精製してペトロール油を作る方法を盗んだ弥彦屋や一文字屋から1万両を要求し、最後には殺そうと打ち合わせしていた。

彼らが狙う究極の敵は商人たちではなく、東町奉行跡部の実兄である老中水野忠邦だと愛染は言い切る。

その時、遅れて来た仲間の1人、志麻(酒井修)が加わり、弥彦屋が動き出したと報告するが、愛染は、その志麻の話を怪しみ、身体に聞いてみろと仲間たちに命じる。

その場で、仲間たちが志麻の着物を脱がせてみると、背中に無数の傷跡があったので、用心棒らに気づかれ、拷問されて音を上げたことが分かる。

この本拠地が向こうにバレたのなら新しい住処が必要だが…と愛染は言い出すが、ちょうど良い所がある。

病死と夜逃げで、2軒続きで空いている部屋があると仲間の1人が教える。

そんな船の近くで中の様子をうかがっていたのが多兵で、戻る途中、釣りにやって来た眠狂四郎とすれ違うが、その狂四郎の顔を観た多兵は驚く。

その後、多兵は、日下部玄心(遠藤辰雄)に、愛染ら残党の情報を伝えていた。

志麻が戻らないことを怪しんでいたが、その志麻は、船の中で殺されており、その背中には「そちらに入用な者はそちらに返す」と書かれた紙が貼られていた。

愛染らと共に川岸を歩いていた仲間の1人は、たまたま狂四郎が放った釣り針が頭に引っかかってしまい激怒する。

狂四郎は、小舟から川岸に上がって来ると、膝をついて詫びるが、その顔を観た仲間たちは、一斉に、若先生!格之助様!と驚きの声をあげる。

その後、帰宅していた狂四郎は、いつぞや「蛸平」で見かけた勝美ともすれ違うが、勝美も又、格之助様!と呼びかけて来る。

何度も同じような人違いをされたことを不思議に思っていた狂四郎は、格之助とは大塩格之助のことではないかと気づき、懇意の武部仙十郎(永田靖)の書庫で大塩平八郎の乱の資料をひもとくことにする。

そんな狂四郎を訪ねて来たのは小鉄で、愛染たちが、銀杏長屋に住み込んだと報告する。

その愛染らが、長屋内で計画を相談しあっていると、外で勝美が立ち聞きしていた。

中の浪人が気配に気づいて出て来たので、とっさに簪を側に落として、それを探していた振りをしてごまかすと、多兵に、連中は弥彦屋を狙っているらしいと教える。

その頃、弥彦屋では、おつうが愛染から教わった京の数え歌を歌っていたが、姉のお曽代がそんな悪い人から教わった歌は止めなさいと注意すると、そんな悪みたいな人じゃなかった。あのおじさんはきれいなお土産を持って来てくれるって指切りの約束をしたと言うので、何を持って来るの?と姉が聞くと、言えないわ。指が腐ってしまうとおつうは言う。

同じ頃、一文字屋の巳之吉(上野山功一)は弥彦屋彦右衛門に、くそうずからペトロール油への精製方法を記した図面を示し、内容は間違いないが、器具などに不備があるためか、まだ灯油として使うには黒い油煙を消すことが出来ていないと、実験を交え説明していた。

すぐにでも、長崎に発って、ポルトガル人の知恵を借りなければいけないと焦る巳之吉に対し、弥彦屋彦右衛門の方は、大塩平八郎の残党も何か画策しているようだし、息子の格之助も江戸のどこかに生きていると言う噂もあると言い、今は下手に動かない方が良いと忠告する。

そこに、多兵が訪ねて来て、江戸中に配らせる予定の格之助の人相書を手渡す。

ある夜、橋を渡っていた狂四郎は、一文字屋と同行していた日下部玄心一行と遭遇する。

狂四郎は、やむなく円月殺法で相手をするが、その様子を近くから観ていたのが、小鉄と、反対側にいた愛染だった。

峰打ちで日下部玄心以外の連中を倒した狂四郎だったが、そこに武部仙十郎の駕篭が近づいて来たので、やむなく玄心は立ち去る。

その後、誰もいなくなった橋の上に姿を見せた愛染は、今観た狂四郎の円月殺法を、そのまま真似てみせるのだった。

武部仙十郎は、眠と店じまいしていた「蛸平」で2人だけになると、大塩の残党の事を知りながら、黙っていたとはけしからん。こちらの味方になってくれと頼んでくるが、狂四郎はあっさり断る。

説得に失敗した武部は、最後まで諦めきれないようだったが、渋々、外に待たせていた駕篭に乗って帰って行く。

その直後、1人「蛸平」に残っていた狂四郎は、家の中に隠れて盗み聞きしていた角兵衛獅子の男の子に出て来るように呼びかけ、銀杏長屋まで送って行ってやる。

そこには、勝美が門の内側の暗がりで待ち受けていたが、狂四郎は、何を企んでいるか知らんが、幼い者を使ったりするのは感心せんと門の外から語りかけると、その背後から近づいて来た愛染が、同じ長屋の住人として、子供を送り届けて頂いて礼を申し上げると狂四郎に声をかけて来る。

しかし、武部某と御昵懇となれば、我々は違う道を歩いていると伝え、狂四郎は帰って行くが、愛染は暗がりの中に立っていた勝美にも、ちょこまかするのは大怪我の元だ。こちらの邪魔をすれば、待ったなしに消すぞと釘を刺すのだった。

そんな勝美は、帰っていた狂四郎に橋の上で追いつくと、自分の手助けをしてくれと頼む。

狂四郎は、わしはまともな人間ではない。それを承知の上でなら…と条件をつける。

勝美は、大塩平八郎とその息子格之助が、庶民の灯油や煮炊きの役に立てばと、臭水からペトロール油と言う油を精製する方法を研究していたが、それを知った弥彦屋などの商人がだまし取ったのだが、自分はそれに加担したのだと打ち明ける。

格之助様のペトロール油を作るため大阪について行ったが、なお馴染みの一文字屋巳之吉から結婚の約束をされたのに目がくらみ、格之助様の元から大切な者を盗み出してしまったと勝美が続けると、あげくの果てに巳之吉から棄てられ、その恨みを晴らすために江戸の来たのか?女の細腕でどうやってやる?と狂四郎は問いかける。

近づくことさえ出来ますれば…と言いながら、勝美は短刀を取り出すが、狂四郎が突然刃を抜いて、行くぞ!と言い出したので驚く。

しかし、狂四郎が斬ったのは、草陰に身を隠していた浪人たちだった。

狂四郎は、俺はおふくろの顔さえ知らぬが、女の腹から生まれて来たのに違いない。そのおふくろと同じ女に手を出す者は許さんと言いながら斬って行く。

すると、そこにやって来た愛染が、残りは俺が頂戴する。長屋の女人に手を出すとは…と言いながら、残りの浪人たちを、覚えたばかりの円月殺法で斬り捨てて行く。

後日、勝美と多兵は、本家から急な呼び出しがあったらしい一文字屋巳之吉が乗った駕篭を見つけていた。

勝美は、その駕篭が近づいて来ると短刀を出すが、待て!まだその時ではない!とそれを止めたのは狂四郎だった。

手を見せてみろと勝美に迫った狂四郎は、その手のひらを見ると、自分と同じような手の筋だ。この手の筋だけは母と同じだと、母を知る者から聞いた。そなたの手は母者の手と同じと言うことになる。その手を血で汚させたくない。女が自分で手を汚さなくてはいけないと言うことはないと諭す。

では誰が?と勝美が問いかけると、天が…、天の命を受けた者が天の運命を受けた時に…と答えた狂四郎だったが、自らの言葉に何かひらめいたものがあったのか、今日は、子丑…そうか!未申酉戌…、おそらく決行は…と呟いていた。

同じ頃、愛染は、10月発の亥の日に、1年に1度の夜、大名たちが千代田城に登城する。時刻は申の刻…、7時から7時半の間…、やるならその時が良かろうと愛染も仲間たちに、計画実行の期日に付いて話していた。

弥彦屋の油蔵を焼く係などを次々に仲間内で決めて行く。

辻向うの女芸人が嗅ぎ付けている。身体に聞いてみるか?などと話し合っていたが、その会話も、物陰から勝つ水戸小鉄が盗み聞いていた。

その直後、立ち去ろうとした小鉄が物音を立ててしまったので、気づいた浪人たちは、急に笑い出し、中の1人が槍で、襖を突き刺す。

しかし、小鉄と勝美は、一瞬早く逃げ出していた。

その後、飲み屋にいる狂四郎を探し当てた小鉄は、勝美たちが長屋から姿を消したと報告する。

小鉄と共に勝美らの住まいにやって来た狂四郎は、部屋が荒らされていないことから、連れ出されたのではなく、自分たちで出たらしいと推測する。

気がつくと、行灯の表面に、何やら謎めいた文字のようなものが書かれており、その墨は、指先に付く所から、まだ半時ほど前に書かれたものだと推理した狂四郎は、天井に「裏見」と言う文字が鏡文字として逆さに書かれているのを発見、行灯に書かれた文字が「こいしくば」と読めることに気づく。

「裏見」の反対は「みうら」、「こいしくば」は「葛の葉」の書き出しと気づき、「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森のうらみ葛の葉」の「信太狐の住処」の場所を指しているだと読み解く。

そこに行ってみると、はたして「三浦屋」と言う売り家があったので、中を探索してみると、二階に、布団に横になった勝美を発見する。

子供と老人はどうした?と狂四郎が聞くと、私が逃げさせましたと言うので、1人だけ残った御主が捕まるまでに行灯に謎文字を書く隙があったのか?と不思議がると、否応無しに書かされましたと勝美は答え、あの謎文字が罠であったことを知る。

その格好は何とした?と聞くと、布団の下は裸だと言う。

一文字屋のペトロール油を教えろと迫られ…と言うので、狂四郎は、掛け布団の布を切り裂いて、四角い布状にすると、それをまとって起きるのだと命じる。

その時、そうはさせんと言いながら、銃を手に入って来たのは愛染だった。

さすがに、頭の良さを見せて、良くぞここまでたどって来たと言う愛染に、何のシャレだ?と狂四郎が問いかけると、今夜の仕事の邪魔をされんようにだと答えた愛染は、夜間登城の時間である申の刻までだと教える。

弥彦屋の油蔵の爆発で、八百八町は火の海だ…と計画を打ち明けた愛染に、罪科のない町人を巻き添えにするつもりか?と狂四郎は問いかけるが、愛染から脇差しを預かっておこうと言われたので、やむなく刀を畳に突き刺す。

その間、愛染の動きを追っていた勝美は、一瞬の隙を観て、掛け布団から斬り取られた布を身体を巻きながら、部屋の隅に転がり、窓から下の川に見事飛び込む。

そこには、小鉄が小舟で近づいており、すぐさま裸の勝美を救い上げる。

愛染は、刀を失った狂四郎に、いかな円月殺法でも、こいつを受ければおさらばだぞと言いながら、拳銃を突きつけると、俺は初志を貫くと言うと、狂四郎が立っていた畳が回転し、狂四郎は地下牢に墜落してしまう。

そんな狂四郎に愛染は、眼が慣れて来たら、小窓から隣の部屋を覗いてみろ。用心棒役だったはずの日下部玄心一派が、俺らが受け取るはずの1万両の何割かを取ろうとして、弥彦屋彦右衛門と一文字屋巳之吉を逆に捕まえたのだ。だが、分け前をいくらにするかなどと言った計算が出来るはずがない。1万両と言うのは、時を稼ぐために駆け引きなんだ。1万両が大べらぼうとも気づかず…と、悪党どもの知恵の浅さを嘲るように上から教える。

その頃、弥彦屋では、なかなか戻って来ない彦右衛門を案じながらも、おつうが、近所の子供らと共に、亥の子餅をつく遊戯歌っていた。

お菅が、集まった子供らにご祝儀を渡すと、おつうは、他の幼女が手の甲に乗せて遊んでいた竹人形を観ており、七つの鐘が鳴ったを聞くと何かを思い出したらしく、おじさまと約束したのは、亥の子の日の七つ時、もう少しでお土産を見せてあげるわと言い出す。

その時、近くから地面を揺するような地響きが聞こえて来る。

裏の油蔵が爆発したのだった。

同時刻、千代田城に登城している大名たちを見物人たちが観ていた。

水野越州様だ!と見物人の間でざわめきが起こるが、その時、その中から走り出た愛染が、駕篭に向かって銃を発砲するが、中は空だと気づく。

かねて用意してあった鉄砲たちが前に出て、愛染を狙う。

火事騒ぎに気づいた日下部玄心は、物干し台に弥彦屋と一文字屋を連れて来ると、火の手の奉公が弥彦屋の油蔵であることを知る。

しかし、日下部玄心は、屋敷が焼かれ狼狽する弥彦屋に、1万両はどこにある!と迫る。

弥彦屋が、そんなものはない。捕らぬ狸の皮算用をして、俺らを捕まえて…と嘲り、金が欲しくば、愛染を捕らえろ。大塩の残党だ。見事捕らえたら、幕府から恩賞をもらえるぞと伝える。

一方、巳之吉の方は、油蔵を焼かれたと知ると、茫然自失の状態になる。

その間、狂四郎が捕らえられていた落とし穴に、着替えた勝美が、上で小鉄が押さえた綱を伝って降りて来る。

日下部玄心一派は、屋敷に現れた残党相手に斬り合いを始めるが、物置代に縛られていた巳之吉は綱を切って1人逃げようとするが、浪人たちに斬られてしまう。

彦右衛門も綱が切れたので逃げ出そうとするが、そこにやって来た愛染が銃を撃ち射殺してしまう。

愛染に気づいた仲間たちが、水野は?と首尾を聞くと、残念、計られた!と言って、愛染は作戦が失敗したことを伝える。

日下部玄心は、大塩の残党たちに串刺しにされて果てる。

屋根の上に上った愛染を待ち受けていたのは狂四郎だった。

やったな!と責める狂四郎に、おうよ、やるといったらやる。観てみろ!燃え盛るあの火を…、風が変われば城も焼けると愉快気に語る愛染。

しかし、狂四郎は、80万庶民は何とするのだ?主張はどうあれ、この暴挙は許されんぞ!と迫る。

仲間たちも応援に駆けつけるが、愛染は俺に任せろと言い、彼らを遠ざけると、狂四郎との一対一の勝負に臨む。

狂四郎が円月殺法を始めると、鏡に映したように、愛染も同じ円月殺法を始める。

2人は同時に斬り結ぶが、やがて身体を組み合い、愛染の刀を弾き飛ばした狂四郎は、相手の胴を切り払う。

屋根瓦の上に倒れた愛染は、持っていた銃を狂四郎に向けるが、やがて諦めたように銃を捨てると、懐の中から、手製の竹人形を何本も取り出し、渡してくれ、これを…、弥彦屋の下の娘に必ず持って来ると指切り約束したのだ…。今日がその日、初の亥の子…と言った所で息絶える。

狂四郎は、残りの3人の残党を斬り捨てていた。

死んだ愛染の手からこぼれ落ちた竹人形は、瓦を滑り落ち、下に小鉄と共に駆けつけて来た勝美の側に落ちて来る。

勝美は無意識に、その竹人形を受け止めていた。

江戸の町には半鐘が鳴り響き、狂四郎は厳しい表情のまま、屋根の上に立ち尽くしていた。