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兵隊やくざ

暴力が全てを制する理不尽な軍隊という組織、全ての人間を不幸にする戦争というものに対する批判精神を、とんでもないキャラクターを登場させる事によって、面白おかしく見せるという事では、松竹の「拝啓天皇陛下様」(1963)などに通じるものがある。

シャバではまともな生活ができない落ちこぼれ人間が、軍隊の中では生き生きとしだす…という所は、「拝啓~」での渥美清扮する山田正助も、本作の大宮貴三郎も同じである。

「拝啓~」で、そんな正助に優しく読み書きを教えるインテリの柿内二等兵(藤山寛美)がいたように、本作では大宮を補佐する上官のインテリ有田が存在する。

しかし、有田はただ親切な人情家というだけではない。彼も又、屈折しているのである。

であるから、「拝啓~」で、正助と柿内二等兵が時期が来れば別れるのに対し、有田と大宮は別れられない。

彼ら二人は、互いに相手が、自分に足りないものを持っている事を本能的に察知している。

それは、共に、厳しい現実を生き抜いて行くために不可欠なものだという事も…。

そういう理屈はともかくとして、とりあえず、娯楽映画として、本作は痛快無類である。

今回改めて観ていると、同じ勝新太郎主演の「悪名」の八尾の朝吉が、出征して軍隊生活を送っている間の物語のようにも見える。

頑強な肉体と精神を持つ大宮のキャラクターは、超人的でさえあり、そのデタラメ振りには溜飲が下がる。

大宮が「鉄人28号」や「ジャイアントロボ」であり、有田がそれを操縦する少年みたいなものである。

「やれ!大宮!」と有田がいえば、大宮はにやりと笑ってそうするし、「止めろ!大宮!」と命ぜれば、おとなしくそれに従う。そのコンビネーションの面白さ!

しかし、大宮は単なる知能のないロボットではない。

ある意味で、インテリの有田よりも、したたかで狡猾な知恵を持っているのである。

この二人が、戦争という過酷な現実にどう立ち向かって行くか…。

見始めたら、止められないほどの魅力を持った物語である。

その一方で、兵隊同様、否、もっと哀れな待遇の女を演じている音丸役の淡路恵子も印象に残る。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1965年、大映東京、有馬頼義「貴三郎一代」原作、菊島隆三脚本、増村保造監督作品。

兵隊の話はもうごめんだって?私も同感だ。

20年経った今でも、カーキ色を観るたびに胸くそが悪くなる。

何しろ、故国を何百里も離れた満州の北の果て、ソ連に近い孫呉と言う町で4年も兵隊の生活していたのだから…

タイトル(白骨化した日本兵の死骸をバックに)

孫呉は、町と言うより兵営だった.

4万もの軍隊と、兵隊相手の酒場と女郎屋しかなかった。はるか南の都会とたった1本の鉄道で繋がり、逃げようにも逃げられない荒野に孤立した巨大な刑務所だった。

その中にに、猛烈な訓練と厳しい軍律で有名な部隊があった。

入隊した初年兵たちは、地獄のような訓練に耐えきれず、良く脱走して失敗しては、自殺したり、逮捕されたりしていた。

否、たった1人例外がいた。大宮貴三郎と言った。

その大宮の話をぜひ皆さんに聞いてもらいたい。

昭和18年、早春、太平洋戦争も始めの連戦連勝が、ミッドウェイで破れ、ガダルカナルで躓き、雲行きが怪しくなった頃だった。

言い忘れたが、自分は有田上等兵と言う幹部候補兵の試験にはわざと落ちた3年兵。

仲間たちは軍曹や伍長になっている中、来年除隊して、自由の身になることを楽しみにしている。

とにかく、軍隊は大嫌いだった。(…とここまで、有田上等兵の独白のようなナレーションで語られる)

有田上等兵(田村高廣)は、初年兵係の石井上等兵(藤山浩二)から、中沢准尉(内田朝雄)がお呼びですと伝え、部屋に向かう。

そこには、阿部軍曹(仲村隆)も同席していた。

中沢准尉は、4付きに初年兵が来る、うちの内務班に6名引き受けることになったが、この中に1人とんでもない奴がいる。貴様が戦友になって面倒見てくれと言う。

上官を上官とも思わず、下士官を投げ飛ばしたりして、徹底的に反抗するそうだ。バカ力があり、兵隊になる前は良くない商売をやっていたらしい。丸々一家とか言う奴だ。初年兵係の石井と協力してやってくれと言うので、何故私が?と有田がいぶかしがると、柔良く剛を制すの例え通り、大学出のお前なら何とかできるはずだ。来年3月には無事除隊だ。引き受けてくれと一方的に命じられてしまう。

有田上等兵は、大宮の身体は自分に預けてくれますね?と念を押す。

この年の初年兵は400名おり、12の中退に分けられると6つの内務班に配られた。

その日、風邪気味で寝込みさぼっていた時、石井上等兵が、初年兵を並ばせ、名前を1人ずつ言わせていたが、最後の大宮貴三郎(勝新太郎)になると、声が小さい!とビンタをし始めたので、初年兵うるさいぞ!と有田は叱りつける。

石井は、こちらがお前の面倒を観てくれる有田上等兵だと大宮に教えるが、大宮は有田のベッドに腰掛け、勝手にタバコを吸い始めたので、石井は又ビンタをするが、自分の手の方が痛そうで、関東軍のビンタはこうだ!と言って、グーで殴り始める。

この部隊では明けても暮れてもビンタなのだった。ここでは、バカやキ○ガイにならないと勤まらない。

すぐに、初年兵たちの厳しい訓練が始まる。

石井は、大宮を殴ろうとするが、手では聞かないので、棒を持って殴ろうとするが、その右腕を大宮に掴まれてしまい、大宮は、つまんだだけですと言う。

帰って来て石井は有田に、つまんだだけと言われたが痣になったと右手を見せるが、それは棒を使ったお前が悪い。手以外で殴るのは1昨年から禁止されていると有田は教える。

大宮は別に悪い兵隊じゃなかった。

その大宮たち初年兵の姿が見えないので、どうしたと聞くと、入浴に行かしたと言うので、今は、こちらに決められた時間じゃないはずだが?と有田が心配すると、通信の教育で来ている砲兵隊と混浴だと言う。

その頃風呂場では、入って来た砲兵隊の1人が、先に入っていた初年兵を湯船から追い出すと、洗濯物をしていることに気づき、初年兵は風呂の中で洗濯していいのか!と怒鳴りつけると、いきなり初年兵の1人野木(森矢雄二)を殴り始める。

それを湯船からじっと観ていた大宮は、いきなり風呂から飛び出すと、その砲兵隊員を風呂の蓋に使う板で殴り始める。

さらに、湯船に入っていた砲兵隊員も殴り出す。

大宮が風呂で喧嘩を始めた事を知った有田は、浴室に向かうが、そこには累々と、血まみれの裸の砲兵隊員が倒れていたので、有田は必死に大宮を探すが、大宮は、気絶した砲兵隊員の下敷きになっていた。

有田が助け起こすと、まだ無意識に殴りつけて来る始末。

この事件以来、大宮の名は部隊中に広まり、英雄になった。しかし、軍隊では1つ隊が違えば仇同士、ましてや、歩兵と砲兵はアカの他人なので、砲兵たちは大宮を付けねらい、復讐の機会を待ち受けていた。

ある日、大宮が、洗濯物を屋外で干していると、背後から近づいて来た黒金伍長(北城寿太郎)が、貴様、何故敬礼しなかったと因縁をつけて来る。

見えませんでしたと大宮が言い訳しても、軍隊では星1つで神様だ。見えませんでしたで済むと思っているのか!と怒鳴りつけて来る。

大宮は、自分の靴下を繕いながら、そのチェックを有田にしてもらうと、上等兵殿は、自分に文句を言ったことも殴ったこともありませんね、何故です?と聞いて来るが、有田は、そうかいと答えただけだった。

そこにやって来た石井が、下士官室に砲兵隊の黒金伍長が来て、大宮を呼んで来いと言っていると知らせに来る。

俺も行くと起き上がった有田は、黒金が何年兵か調べてくれと石井に頼んで、大宮には、軍隊では無理が通って道理が引っ込む。何を言われても我慢しろ。絶対に手を出すなと言い聞かせると共に下士官室に向かう。

そこには阿部と黒鉄がおり、黒金伍長は、貴様は今日、俺に敬礼しなかったのに、それを班長に報告していない。そんなお前を俺が可愛がってやる。砲兵隊の制裁を教えてやると言うと、顔を殴り始めるが、効き目がない事を知ると、噂通りタフな奴だな。だが俺のビンタも普通じゃないぞと言うと、いきなりボクシングスタイルで大宮を殴り始める。

その時、ノックがして白井がやって来たので、廊下に出た有田は、黒金が乙官の二年兵で、大学時代、ボクシングの選手だったそうだと言う情報を得る。

部屋に戻って来た有田は、阿部に、班長、席を外してくれ、大宮の身柄は俺が預かっているので、ここは任せてもらおうと言う。

阿部が出て行くと、おい伍長!と黒金を呼びつけにしたので、おい伍長とは何だ!上等兵のくせに!と黒金は怒って来る。

しかし、有田はひるまぜ、お前は軍隊の飯を何年食っている?と問いかける。

3年だと黒金が答えると、噓だ!2年しか食ってないだろう。お前は大学を出て幹部候補生を経て伍長になっただけだ。調べは付いていると有田は続ける。

だったらどうだと言うのだ!と黒金が聞くと、俺は関東軍最古参兵でコケのはえた上等兵だ。4年飯を食っている。軍隊は階級じゃねえ、メンコの数がものを言うんだ。刑務所と一緒だ。お前はインテリだそうだから教えてやるが、お前は砲兵、大宮は歩兵、お前は大宮の直接の上官じゃない。とすれば、これは決闘だ。決闘は禁止されている。要するにお前は余計なことをしたんだ。決闘の報復なら、大宮がお前を痛めつけても、上官を侮辱した訳でも反抗したことにもならんと畳み掛ける。

形勢逆転と分かった大宮は、血まみれの顔でむっくり起き上がると、上等兵殿、やっても良いですか?と聞いて来る。

怪我はさせるな。内蔵は滅茶苦茶にしても良いが血を出すな。骨は折っても良いが、殺すな。静かにやれと有田が許可を与えると、一番痛い奴やりますとにやりと笑った大宮は、ボコボコに殴りつけて倒した黒金の手の指を折り始める。

その時、大宮もう良い。お前は内務班に帰れ。俺はこいつを始末すると有田は命じる。

黒金の身体を助け起こした有田は、医務室に行ったら、転んだと言うんだ。指の骨折は大宮を殴っておれたと言え。お前はばりばりの伍長だ。いくら何でも初年兵に殴られたとは恥ずかしくて言えまいと脅し付ける。

有田は、この時やった行動は正しかったと思っている。こうしなければ、軍隊のような無法で理不尽な組織では生き抜くことは出来なかったからだ。

結局、黒金伍長は泣き寝入り、ますます大宮は有田を尊敬するようになる。

3ヶ月後、大宮たちの師団演習が始まる。

完全軍装、8貫目の荷物を背負い、70里あまり300kmを歩く、人間の能力体力を越えた殺人的なスケジュールだった。

大宮は喧嘩は得意だったが、歩くのは苦手なようだった。

1日目は1時間に4kmのペース、2日目になると、1時間に6〜8kmのペースで駆け足状態になり、早くも大宮はバテ始める。

それでも2日までは何とか耐え抜いた大宮だったが、3日目は出発時からすでに倒れる寸前だった。

同行していた有田は、落ちちゃいかん!狼にやられるぞ!と大宮を叱りつけるが、もう限界に近い事を知ると、阿部班長に、大宮を少し休ませたい。落伍者が出たら、お前の点数が悪くなるぞ。俺が近道に連れて行き、夕方までには合流するからと説得する。

その後、大宮を抱えながら近道を進んでいた有田は、演習終わったら何がしたい?と聞くと、酒だと大宮が言うので、良し、本物の菊正宗を飲ませてやると約束し、否、女ですと言うので、きっと抱かしてやるから頑張れよ!と励ます。

上等兵殿は何で俺に親切なんですか?と大宮が聞いて来たので、お前みたいなとんでもない奴は放っとけないんだと有田は答える。

煙草を大宮にくわえさせながら、お前、入隊前は何をやっていたんだ?と有田が聞くと、四谷に露天ががあったでしょう?その所場代を集めていたのだと言う。

何か面白いことがあったかと聞くと、女の子を共同便所に連れて行ってやったことがあり、その時は膝ががくがくしましたと大宮は笑う。

始めは浪花節語りやるつもりだったんですけど、しょっちゅう喧嘩していたせいで1年で破門になったけど、喧嘩の腕っ節を見込まれて親分に拾われたらしい。

2人は、何とか夕方、縦隊の露営地に到着する。

有田は、東京の方を眺めるために丘に登ると、そこには黒金がおり、貴様か、あの時の親切は忘れんぞと皮肉を言って来る。

有田は、この前のことは謝りますと言うが、黒金は軍曹になったらしく、今では拳銃も携帯しており、お前は今敬礼をしたが、俺が敬礼しなかったと言ったら、みんなは軍曹の言葉の方を信じるだろうと言い出し、俺はその制裁をしたとしても誰も文句は言うまいと言い、有田を殴り始める。

そして、大宮と言う奴に、明日の朝6時にここに来いと言えと命じる。

傷だらけになった有田は何とか露営地までたどり着くが、それに気づいた大宮がどうしたんです?と聞いて来る。

有田は、転んで、木の幹で腹を打ったんだと弁解するが、これは只の打撲じゃないと大宮は興奮する。

とにかく聞かないでくれと有田は頼むが、相手は誰です!この前の砲兵隊の伍長でしょうと言い当てる。

有田は、これで貸し借りなしだ。俺がお前に殴らせたのだからと大宮を諭すが、俺をかばった上等兵殿をこんな目にあわせやがって…、許せねえ!と大宮は息巻くので、俺は復讐は嫌いだ、きりがない。俺は除隊が近い。内地帰還を延ばしたくないんだと有田は哀願する。

それでも大宮は聞きそうにもなかったので、有田は阿部班長に、俺たち3年兵を集めてくれ、向うは兵隊集めて来るはずだと頼む。

阿部は、集団で喧嘩などしたら軍法会議になるぞと驚くが、同期の俺の仇を取ってくれと有田は頼む。

翌朝、大宮は、有田に肩を貸しながら丘に登って来る。

そこには案の定、砲兵隊の仲間を従えた黒金軍曹が待ち構えていた。

有田は黒金に、あんたに謝らせるつもりでやって来たと告げ、大宮は無抵抗の印に、両手をポケットに入れたまま立っていたが、黒金が大宮に殴り掛かって来たので、大宮はつい両手を出して構える。

そこに他の砲兵たちが飛びかかろうとしたので、待て!これは大宮と軍曹の喧嘩だ。お前たちが手伝うと懲罰だ。営巣行きになるぞ、それでも良いのか?と有田は相手を験する一方、大宮!謝ると言うのに殴るのなら問答無用だ!売られた喧嘩は買え!と命じる。

一方、黒金軍曹の方は、入浴場の仇を取れ!こんな奴、のさばらせといたら、砲兵隊の名が廃るぞ!と檄を飛ばす。

たちまち、大宮は砲兵隊と大乱闘になるが、そこに3年兵たちが登って来て、その中にいた阿部班長が、おい、2年兵!俺たち3年兵に手が出せるならやってみろ!どこの砲兵か知らんが、俺たち歩兵の古参兵をやれるか!満州にいられなくなるぞ!と叫び、加勢の砲兵たちを取り押さえる。

黒金と1対1の勝負になった大宮は、相手の両腕をへし折ると、倒れた相手の背中に飛び乗り、背骨もへし折ろうとしたので、見かねた有田は、大宮、止めろ!怪我をさせるな!と制止する。

大宮は黒金の身体を抱き起こすと有田に持たせ、徹底的に殴りつけると、上等兵殿、これで貸し借りなしです!と血まみれで腫れ上がった唇を嘗め、にやりと笑う。

これで、砲兵隊と歩兵のにらみ合いはけりがついた。

しかし、有田たちの内務班は中隊長から叱られ、8時間の外出許可が禁止されてしまう。

鬱憤がたまっていた石井は、野木の元に届いた恋人からの手紙を読ませろと横取りすると、その中に入っていた陰毛を発見すると、女子大生だと言う彼女と野木をからかう。

その時、有田は、阿部から准尉殿が呼んでいると知らされる。

中沢准尉に行くと、公用腕章が1つ見つからん。誰か無断で持ち出し外出した奴がいると言う。

有田が、大宮ですか?と聞くと、脱走したに決まっとる。今年の初年兵はだらしない。これで3人目だなどと中沢准尉が嘆くので、大宮は脱走するほどバカでもないし、気も弱くありません。町に行ったに違いありません、目的は女です。自分が必ず連れ戻してきますから行かせて下さいと答え、許可を得る。

「いろは」と言う遊郭にやって来た大宮だったが、やりて婆のおくめは、ここは将校専用だからダメだと断り、それでも無理に入ろうとする大宮ノ前に用心棒が立ちふさがる。

しかし、その用心棒をあっさり痛めつけた大宮を観た遊女の音丸(淡路恵子)は、上がんなさいな、強い兵隊さんと声をかけ、大宮を部屋に連れて行く。

その後、乙丸の横でぐっすり眠っていた大宮を起こしに来たのは、迎えに来た有田だった。

何故無断で外出した?と有田が聞くと、俺は、自分で自分が始末できないことがあるんですと言い訳する。

このままでは脱走と言うことになるぞと有田が言い聞かせると、今国に帰っても、両親も友達もいないので、もう少しここにいますと大宮は言う。

金が余っているので、上等兵殿もどうですか?と音丸を勧めるので、有田は共同便所は嫌だと断り、音丸の方も、私だって、好きな人と好きなことするくらいの自由はあるわと言い返す。

軍に戻って来た有田は中沢准尉に対し、今回の大宮を不問にしてやって下さい。処分すればますます凶暴になります。するなら、私を罰して下さいと願い出る。

中沢准尉は、それを飲む代わり、お前が制裁しろ。お前が大宮をぶちのめせば、他の兵隊も納得すると命じる。

有田は、洗濯干場に大宮を呼び出すと、俺は制裁は大嫌いだ。しかし、今は殴る。竹刀でやると伝えると、大宮は、分かりました。お願いしますと言うので、1発顔を殴るが、それだけで嫌になった有田は、もう良い帰れ!と言うと自ら去って行く。

大宮はその場に残っていたが、何を考えたのか、近くに落ちていたレンガを拾い上げると、自分で自分の顔を殴り始める。

その後、有田の元にやって来た中沢准尉、お前を見直した。今、大宮が来て制裁を受けたと言って来たが、良くやったと褒めるので、不審に思った成田は、再び大宮を外に呼び出し、その顔は何でやった?と聞く。

大宮は、上等兵殿がおやりになったんでしょうととぼけるので、お前、バカだな…と有田が伝えると、大宮は急に浪花節をうなり出す。

やがて、夏が過ぎ、秋が来た。

大宮は一等兵になり、戦争の方は、アッツ島玉砕など、アメリカ軍は総反撃に転じていた。

ソ連もドイツを撃退し、満州に目を向けていた。

そんなある日、第8中隊第2班の新兵たちは、炊事班に食器を返しに行き、その中に飯粒が1粒残っていたと因縁をつけられ、全員、殴られると言う事件が発生する。

その時、大宮は有田のひげを剃ってやっている所だったが、阿部班長が飛んで来て、有田に大変なことになったと言う。

お互い、もう内地へは帰れんぞ。来年満期除隊しても、即召集だ。世界を相手に戦っているんだ。兵隊はいくらいても足りないと伝える。

それを聞き、呆然とする有田に、上等兵殿、そんなに東京に帰りたいですか?などと大宮は聞いて来るが、ヤケになった有田は、その晩飲んだくれていた。

そんな有田と大宮は、野木が脱走したと言うので、石井らが捜索の準備をしているのに遭し、いっぺんに酔いが冷めてしまう。

阿部班長は、部隊を中心に北の方を探すと命じ、有田と大宮も捜索に参加するが、こんな荒野を逃げたとしても、逃亡者に待ち受けているのは飢え死にか凍死か、狼に食われることくらいだった。

しかも、広い荒野をわずか10〜20人くらいでは到底見つかるはずもなく、捜索隊に諦めの気分が漂い始めるが、大宮1人は諦めようとせず、野木の名を大きな声を呼びかける。

しかし、阿部班長は、止せ、呼ぶと、怯えて自殺するぞと声をかけるが、大宮は言うことを聞かず、又、野木〜!行きて戻れよ!と叫ぶが、その瞬間、銃声が聞こえて来る。

その音の方に向かった捜索隊は、木に持たれ、口に銃をくわえて自殺している野木を発見する。

有田は大宮に、野木を担げと命じる。

部隊に戻り、白木の箱に野木の遺体を収めた大宮だったが、上等兵殿、俺が呼んだから、野木は引き金を引いたと言うので、有田は偶然だよとなだめる。

しかし、大宮は、俺が殺したんだな…。俺は実は1人殺しているんです。東京で出入りがあった時…、そいつは悪い奴だった。すぐ自首するつもりが、身替わりが代わってくれ、今、刑期10年を食らってますと打ち明ける。

弱いものは死に、強い奴は生きる、軍隊はそう言う所だと有田は言い聞かせようとするが、人を殺したことは忘れませんよと大宮は落ち込んでいた。

その遺体を観に来た憲兵(成田三樹夫)は、今年の初年兵はだらしないななどと嘲ったので、思わず番をしていた大宮は銃剣を持って立ち向かおうとしたので、有田は、3人目を殺す気か!と必死になって止める。

興奮した大宮は、侮辱されて黙っていられるか!警察と憲兵は大嫌いだ!と吐き捨てる。

野木の死体は荼毘に付され、白骨化した片腕だけが東京に送られた。

その後、「いろは」にやって来た有田と大宮があまりに落ち込んでいるので、事情を知らない音丸は、何があったの?と聞く。

初年兵が1人脱走して死んだと教えると、可哀想な話は私たちにもたくさんあるわ。肺病で死にかかっているのに最後まで客を取らされていた女の子なんか、死んで持ち上げたら、布団にその子の身体の形のまま油が付いていたり…と語り、急に明るく、遊びましょうよ、へそだけでも良いのよと2人を励ます。

へそって何だと有田が聞くと、へそに酒を注いで、こぼれた酒を嘗めるんですと大宮は教え、お前のへそは形が悪い。酒が両脇の方に流れる。酒は下に垂れなきゃ面白くないと音丸に文句を言う。

すると、音丸は、少し身体を起こし、これなら出来るでしょうと誘うが、それに乗りかけた大宮は、やっぱり気分が乗らないようで、今夜は上等兵殿に任せるなどと言い出したので、有田はバカを言うなと答える。

音丸は、こんな時は動物になるのよと励まし、上等兵も私にも、満期や除隊はないのよと寂し気に呟く。

仇を取ってやる!と大宮は言い、部隊に戻って来ると、炊事場で、野木をやったのは誰だ!と怒鳴りながら炊事班相手に大暴れし始める。

あげくの果てに大釜で煮えたぎっていた湯を柄杓で浴びせかける大宮は、とうとう包丁を持って炊事班たちに立ち向かって行く。

これを知った有田は阿部班長に、大宮が炊事班に殴り込みをかけたと報告すると、炊事班は命知らずのならず者ばかりだからなと阿部は困った様子。

炊事軍曹の石上は何年生だ?と聞くと、俺たちより1年古い4年兵だと言うので、5年兵を集めてくれと有田は頼むが、無理だよ、俺の言うことなんて聞くもんかと今回は断らり、そもそも炊事班が歩兵を殴るのは、明治大正以来の伝統だなどと諦めた様子。

それを聞いた有田は、もう頼まん!俺1人でやる!と言い、炊事班に向かうと、炊事場は誰もおらず、下士官室で笑い声が聞こえるので行ってみると、石上炊事軍曹(早川雄三)が笑いながら、こいつは偉い!うちの兵隊10人相手に戦ったなどと言い、愉快そうに大宮に酒を飲ませているではないか。

有田は、石上班長殿ありがとうございましたと頭を下げ、大宮を貰い受けて行くが、途中、石上軍曹の奴、本当に仲直りすると言ったのか?と大宮に確認すると、奴は、炊事場で喧嘩をすると班長を辞めさせられるので今回はやらなかっただけだ。部下の兵隊をやられて黙っているような奴じゃない。二度と炊事場には近づくなと言い聞かす。

その後「いろは」にやって来た有田は、今日は公用だと断ると、炊事班長の事を知らないかと音丸に聞く。

音丸は、みどりちゃんの所に良く来るわと言って呼んでくれる。

そのみどり(滝瑛子)に有田は、班長から何かもらったことはないか?俺は憲兵じゃないから心配するなと聞くと、砂糖だけではなく、欲しいものは何でも袋で届くので、ここでは一番の客だし、私もここでは良い顔が出来るのと教えてくれる。

その後、部隊に戻って来た有田だったが、大宮の姿が見えないのでどうした?と部下に聞くと、炊事班の兵隊が呼びに来たと言うではないか。

すぐに、石上軍曹の所へ行くと、大宮はどこにいる?中隊長に報告して、部隊中を捜索させるぞと問いつめると、石上軍曹は、会わせてやると言い、有田を外に連れて行く。

そこでは、大宮が、炊事班10人に囲まれ、スコップを武器に戦っていた。

有田は石上に、止めさせろ!軍法会議にかかるぞ!貴様、砂糖の横流しをやっているそうだな?トラック1台分、「いろは」や他の店にも流し、ぼろ儲けをしているそうだな?憲兵隊に引っ張られるのが怖かったら止めさせろと突きつける。

すると、石上は、他の兵隊を遠ざけ、大宮と1対1になると、これで文句あるまい?上等兵!と言って来る。

大宮と石上の喧嘩が始まるが、形勢不利になった石上は、部下の腰から短剣を奪うと、それで大宮に迫って来る。

有田は、自分の短剣を大宮の前に放ってやる。

剣を拾った大宮は、石上を半殺しの目に遭わせ、お前で3人目だ!と言いながら本当に殺してしまいそうになったので、有田は、殺すなと叫ぶ。

大宮は、すみませんでした上等兵殿と詫びるが、有田は、こんなことはもうたくさんだと吐き出す。

又助けられましたねと喜んだ大宮は、今度は俺が助けます、その内、きっと助ける時が来ますと言うのだった。

戦況はますます悪化し、有田たちの部隊にも、南方に移動する時期が迫っていた。

そんな折、慰問団で来た「第二櫻隊」の芸人の中に、大宮の浪花節の師匠桃中軒梅竜(山茶花究)がいたので、大宮は久々の対面を果たしていた。

こっちより、東京の方が大変らしいと言う師匠は、大宮が親分のことを聞くと死んだと言う。

身替わりになっている影山は?と聞くと、まだ勤めているが、女房と3人の子供が苦労していると言うので、大宮は溜めていた金を、その家族に届けてもらえないかと渡す。

その晩、1人1合の酒が、全員に配られた。

阿部班長は、南方に送る人員を、2年兵の清水と山本、1年兵の柿本、安川、大宮と発表する。

それを聞いていた兵隊たちは、南方に行ったらまず戦死は間違いないと直感していた。

かと言って、ここもソ連が侵入してくれば最前線になる場所だった。

南方に送られると知り落ち込む安川に、大宮は、逃げたいか?逃がしてやると耳打ちして来る。

有田は、大宮を南方に送るんですか?と中沢准尉の所に抗議に行くが、クズは出すと言うので、あいつは兵隊の仲では評判がいいですと有田は弁護する。

しかし、中沢准尉は、ダメだ、天皇陛下の命令だと言うので、どうして私に相談してくれなかったんですか!と有田は食い下がるが、お前はグータラな三年兵だろう。内示に対して文句を言う立場ではない!と叱責されてしまう。

大宮の前に戻って来た有田は、いよいよお別れだな…と言うと、大宮は、まだまだ分かりませんよと謎めいた風に言う。

それでも有田が、もう俺の身の回りの世話はせんで良いと伝えると、志願して南方へ行きませんか?薄情だね、自分を見捨てるんですか?などとからんで来たので、仕方ない、天皇陛下の命令だと、准尉と同じ言い方をする。

その後、師匠に会いに来た大宮は、女の子たちは?と聞くと、将校に呼ばれて夜のお相手をしていると言う。そして明日発つと言う師匠にお願いがあると言い出し、ちょっと言いにくいんですが…と頭をかく。

翌朝、慰問団のトラックが出発するが、その後の点呼で、安川と大宮がいなくなっていることが判明する。

阿部班長は、又脱走かと言い、今日の週番将校は若造の新米だから、俺がごまかす。その間に探せと石井に命じると、有田に近寄り、とうとう大宮も脱走か、やっぱりやくざだなと嘲って来たので、あいつは絶対に脱走しない。あれがあいつを見捨てても、あいつは俺を見捨てないと有田は言い切る。

大宮はその後「いろは」の音丸の所にいた。

南方行っても無茶しちゃダメよ。親切な上等兵さん、もういないんだから…。寂しくなるわね、嫌だ嫌だ…と音丸が言うと、兵隊なんて命令一つでどこへでも飛ばされるんだと大宮も憮然として答える。

それを聞いた音丸も、私も18の時、博多を振り出しに、大連、新京、ハルピン…、ここから北には、日本の女の子、3人しかいないそうよとため息をつく。

そこにやって来た有田は、やっぱりここにいたか。安川はどうしたと言うので、女に化けてハルピンから列車に乗ったはずですと大宮が答えるので、どうしてお前は逃げなかった?と聞くと、女に化けて逃げるなんてつまらんとうそぶくと、帰りますよ、上等兵殿が来られるのを待っていたんだと言う。

俺は南方には行きませんよ。俺はこの町が気に入っている。俺は嫌なことはしないと大宮が言うので、天皇陛下の命令でもか?と有田が聞くと、いきなり大宮が殴りつけて来る。

気絶した有田の身体を外に置き去りにした大宮は、見送る音丸に、すぐ縦隊に知らせろ。俺が上等兵を叩きのめしたってなと言って帰って行く。

部隊で阿部班長から看病されていた有田は、大宮は中隊長に自首したと言うので、南方に派遣する大隊は?と有田が聞くと、今、営門を出た所だと言う。

大宮もとうとう行ったか…と有田が無念がると、あいつは今、営巣入りだと阿部が言うではないか。

無断外出とお前を殴った罪で入れられたそうで、代わりに別の初年兵が他の班から行かされた。中隊長殿が残したんだ。あんな程度の悪い奴は外に出せんと…言ってと阿部が苦々し気に説明すると、あいつそこまで読んでいたかと有田は感心し、確かにあいつは馬鹿じゃないと阿部も同意する。

営巣に入れられていた大宮に食事を運んで来てやった有田は、黙って食え、飯の下に牛肉が入っている。営巣は何日だと聞くと7日間ですと言うので、毎日持って来てやると言いながらも、お前、計画的に俺を殴ったな?と聞き、戦中は不利だ。どこへ飛ばされるか分からんぞと言うと、先にオコトは考えていないと言う。

何か欲しいものはあるかと言うと煙草だと言うので、後で持って来てやると有田は答える。

やがて、部隊に師団参謀がやって来る。

晩飯と煙草を持って来てやった有田は、出られるぞ、明後日だ。もう営巣どころじゃない。意弾参謀が来て全軍出発だと知らせる。

もう軍隊から逃げられん。白木の箱でも入らなければ東京に帰れんぞと有田が愚痴ると、大宮は、脱出しましょうと言い出す。

お前は俺のために脱出するのか?と聞くと、否、俺もシャバに出たいし、身替わりになっている奴の家族の面倒も見ないと行かないと大宮は言う。

安川は新京で女の格好のまま捕まったぞと教えると、弁当、拳銃、支那服を各2つずつそろえて下さいと大宮が言うので、思わず有田は躊躇するが、大宮はそんな有田に、黙って俺に付いて来い!と喝を入れる。

有田は決意し、良し、付いて行こう。俺もお前とは別れたくないんだと答える。

その後、「いろは」に向かった有田は、寝ている将校のベルトから盗んだ銃を音丸から受け取る。

すまんなと感謝する有田に、いいわね、あなたたちは…。私たちは戦争が終わっても堅気にもなれず、日本にも帰れず…、成功をお祈りしますと言ってくれる。

出発の日、満州に冬が来た。

軍用列車で移動することになった有田は、隣に座った大宮から、今のうちに寝ておいて下さいと言われる。

ハルピンを過ぎた列車は雪原の中に停まったので、窓から外を眺めた中沢准尉は、軍用列車は駅ではなく、原っぱばかりに停まるとぼやくと座席で居眠りを始める。

新京に近づいた時、そろそろ小便に行きましょうと大宮が言い出し、有田と2人で席を立つが、有田はその時、3年間一緒だった仲間たちに別れを告げる。

1年後、レイテ島で、彼らは全員戦死した。

連結部分で、以前、野木の死体を侮辱した憲兵が、どこへ行く?と詰問して来たので、良い所で会った!と喜んだ大宮は、その場で憲兵を殴り倒すと、便所の中に憲兵の身体を詰め込む。

もう思い残すことはねえよと吐き捨てた大宮と有田は、石炭車を越え、先頭の機関車に乗り込むと、拳銃で機関士たちを脅し、連結を外すよう命じる。

石炭車の後ろの客車部分は外され、その場に停まるが、中沢准尉は又窓の外を眺めると、良く停まる列車だとぼやき、又眠り始める。

上等兵殿、こんな胸くその悪いカーキ色ともおさらばしましょうぜと言うと、大宮は脱いだ軍服を釜の中に突っ込み焼いてしまう。

部隊の連中が気づいて騒ぎ出した時には、こっちはこの機関車を捨て、どっか町の中だ!と大宮は言うので、どこへ行くんだと有田が聞くと、大陸は広いですよと言うので、シャバを生きる知恵はお前の方がある。これからはお前が俺の上官だ、何でも言うことは聞く。何でも命令してくれと有田は大宮に告げ、全くとんでもない奴だな、お前は…と感心する。

石炭車の上に立ち上がった大宮は、音丸に見せたかったな、この脱走!と嬉しそうに叫ぶのだった。

雪の中、機関車は遠ざかって行く。


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