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座頭市喧嘩旅

座頭市シリーズの1本。

本作では、ひょんなことから若い娘を江戸に連れて行く羽目になる市の活躍が描かれているが、これは後年、赤ん坊や子供を連れたりと言う「厄介なバディもの」バリエーションの元になる設定である。

娘や赤ん坊と言う無力なものを守るため、眼が見えない市は、さらにハンデを負いながらの戦いを強いられると言うサスペンスが生まれるわけだ。

娘役を演じている藤村志保は、この時期、「眠狂四郎」や「大魔神」と言った他のシリーズにも良く登場しているが、ここでは特に幼い小娘のようなキャラクターになっている。

大店の世間知らずな箱入り娘と言うことなのだろう。

下妻の藤兵衛を演じている沢村宗之助は、「続・座頭市物語」で関の勘兵衛をやっていた人で、その後殺されたと言う設定になっているため、最初から順を追ってみて来たものには、又(役者として)再登場したことにちょっと戸惑いを感じてしまう。

当時、悪役を演じる人は限られていたので、こうしたシリーズ物では仕方ないことだろう。

留五郎を演じている吉田義夫は、東映時代劇でも悪役として活躍した人で、TVの「悪魔くん」のメフィスト役でも有名。

この作品では、そうした常連風の悪役とは別に、お久と言う市を付けねらう女が登場しているのも異色である。

市は女を斬らないことを身上としているので、お久は何度でも市の前に登場し、その度に市をピンチに追い込んで行く。

居合いで瞬時に倒せないタイプの適役として、これは面白いキャラクターになっている。

観ている方も、このお久にはいら立ちながらも、心底恨めないように描いている。

クライマックスの宿場でのヤクザ同士の対決シーンは、いかにも良くあるパターンだし、特に印象的とも思えないが、全体としては、セットとロケを巧みに使い分け、安定感のある娯楽作に仕上げてあると思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、大映、子母沢寛原作、犬塚稔脚色、安田公義監督。

※文中に、今では差別用語と言われる言葉がいくつか出ていますが、それを省略しては話が通じない部分もあり、一部伏せ字にしてそのまま使用しております。なにとぞ、ご了承ください。

賭場で、壺を置いた中盆の手を押さえた座頭市(勝新太郎)、お前さん、サイコロ変えたね?目明きはごまかせても、メ○ラはごまかせないよと言うと、居合いで側の燭台に立ててあった蝋燭を縦にまっぷたつに切って、室内の灯を消す。

座頭市だ!と気色ばむヤクザ連中に、暗いんだから検討つけてかかって来るんだよと言いながら仕込み杖を構える市。

タイトル

キャストロールの背後で、旅をしていた市に仁義を切り挨拶をする喜助(越川一)

その後、立ち寄った茶店で餅を食いながら、それじゃあ、堂山までの旅籠代はお前さんが払って下さるんですね?二の膳付きなんですね?と嬉しそうに、喜助に確認する市。

そんな市に目を留めたのは、同じ茶店で茶を飲んでいたお久(藤原礼子)は同行していた3人の浪人。

喜助は、店の前の簾の影で見かけた男に怪訝そうな顔をするが、市の仕込み杖を引きながら出発することにする。

お久は、簾の影から出て来た岬の甚五郎(島田竜三)に、今の按摩の事を聞くと、座頭市だと言う。

市を先導していた喜助は、堂山の親分が一度市さんに会いたいと言ってなさるのだと説明していた。

そんな喜助に市は、あっしは喧嘩と見せ物の真似だけはしませんよと、再度確認していた。

先ほどの茶店では、甚五郎が3人の浪人たちに、下妻の藤兵衛の出入りの手伝いをしてくれないか?1人3両出す。さらに、今出て行った2人連れのメクラを斬ってくれれば1人2分付ける。あいつが今向かっている堂山と言う奴がうちの出入りの相手なんですと持ちかけていた。

すすき野を歩いていた喜助は、タバコ入れを忘れて来たと言い出すが、そこに3人の浪人が駆けつけて来たので、市は、タバコ入れを届けに来てくれたのかもしれませんよなどと喜ぶ。

しかし、浪人3人は2人を取り囲むと、邪魔になる喜助を先に斬り殺してしまう。

市は、かかって来た2人の浪人を瞬時に斬り殺し、残りの1人も倒してしまう。

それを甚五郎と一緒に近くで観ていたお久は、1人の浪人の死体に近寄ると、たった2分の命か…とつぶやくが、女か…と言った市に対して、お前さん、本当に、目、観えないだね?どうして私が女だって分かったんだい?と信じられないように聞く。

市は、目は見えないが、鼻だけは利きますと答え、このお侍さん方は、何で私を斬りに来たんです?と逆に聞き返す。

お久は、頼まれたんだよと答え、自分は今倒されたお侍の連れ合いさ…と教えると、それを聞いた市は、じゃあ、あっしは仇というわけですねとつぶやき、お久も、そうなるねと答えながら、浪人の懐から財布を抜き取ると、どうせ、あの世じゃ、用のないもんだとうそぶく。

市は、そんなお久に別れを告げ、その場を立ち去って行く。

その後、市は、若い娘を捜していると言う侍たちと出会い、途中で会わなかったかと聞かれる。

知らないと答えた市だったが、血なまぐさい匂いに気づき、少し進むと、地面に倒れていた老侍に気づく。

もう虫の息だったことは分かるが、捨てておくわけにも行かず、通りすがりのものですが、薬も何も持ってないので…と声だけはかけると、老人は、かすかな声で、お美津 を…、お助けください。何としてもお願いいたします…と言い残して息絶えてしまう。

そのお美津さんと言うのはどこにいるんです?と聞き返した市だったが、すでに返事はなかった。

お美津さん!と呼びかけてみた市だったが、その声で戻って来たのは先ほどの若侍たち。

娘はどこだ?と聞いて来たので、ここにいる人が呼んでいたので、代わりに呼んでみたんですけど…と市はごまかす。

侍たちが立ち去ると、どこにいるんだか分からなければどうしようもない。ほっとくか…と立ち去りかけた市だったが、その時、近くの小屋から、1人の娘が顔をのぞかしたので、気配で気づいた市が、そこにいなさるのはお美津さんですか?あっしは、この人にお前さんのことを頼まれたんですと声をかけると、お美津(藤村志保)は、爺や!お前を亡くしてどうすれば良いの?どうして江戸に行くの?と死体にすがりついて泣き出す。

市は、そんなお美津に、侍たちに見つかるとえれえことになるじゃないかと言いながら、死体から引きはがすと、又小屋の中に連れ込むが、そこに先ほどの若侍たちが戻って来て、あの小屋は調べたか?と言いながら小屋に近づく。

次の瞬間、2人の侍は小屋の中の市に斬られ、外で待っていた小者が悲鳴を上げながら逃げてしまったので、それに気づいた市は、しまった!と呟く。

翌朝、外に様子を見に行った市は、奴らはまだ探しまわっている、うっかり外に出られませんよと言いながら、お美津が隠れていた小屋に戻って来ると、もいで来た柿を渡して、自分も好物だと言いながら口にするが、それは渋柿だったことに気づく。

それにしても、簪で相手を付くなんて、随分思い切ったことをやったね。それに対し、手込めにしそこなったからって、仲間連れて殺しに来るなんて、こんな間色に合わない話はない。ところで、お前さん、江戸に行けば逃げる宛はあるのかい?と市が聞くと、お美津は小さな声ではいと答えたので、市は、初めて返事をしてくれたと喜ぶ。

その後、お美津を連れ旅を始めた市だったが、竹林の中で、侍たちが目の前で探しまわっているとお美津に教えられ、逃げようとするが見つかってしまう。

しかし、窪地に身を隠し、何とか窮地を脱すると、お美津は、申し訳ございません。ご迷惑をおかけして…と、ようやく思い出したように礼を言う。

市は、江戸まで波風立てないでいられるかい?と注意する。

その後、お美津を駕篭に乗せ、市は、その駕篭に結んだヒモを握って後ろから走って付いて行くことにしたので、その様子の面白さに、目撃した子供や女房たちが面白がる。

その夜、宿に泊まることにした市とお美津だったが、それを観たのが、同じ宿に泊まっていたお久だった。

松の間で一緒に泊まっていた甚五郎に市が来たことを知らせたお久は、おかしいんね?若い娘が一緒なんだよと不思議がる。

お美津と共に部屋に落ち着いた市は、やって来た女中に、実は持ち合わせが少ないんで、少し稼がせてくれないか?と肩を揉む真似をして頼む。

松の間にいた甚五郎とお久は、按摩の御用はありませんか?と言いながら廊下を廻っていた女中の声を聞くと、その按摩と言うのは、さっき泊まった奴かと確認した上で呼んでくれと頼む。

甚五郎は、あいつをどうにかして堂山に行かせねえようにできねえものか?と考え込む。

お美津に、絶対この部屋を出ては行けないと言い聞かせた後、松の間にやって来た市は、甚五郎の肩を揉み始めるが、その隙に部屋を抜け出したお久は、お美津が待っていた部屋に来ると、座頭市とはどこで連れになったんだい?などと話しかける。

一方、揉まれていた甚五郎は、お前さん、連れは座頭市って知ってるか?と聞く。

市は、気の毒な人です。斬れものなんて覚えちまったもんで人から狙われている。旦那さん、お前さんも座頭市を狙っていなさるんじゃねえか?さっきから震えていますぜと笑いかける。

その頃、お久はお美津が、江戸日本橋牡蠣殻町の鳴海屋の娘を聞き出すと、座頭市って男の本性をご存知ですか?などと悪口を吹き込みだす。

市は、甚五郎が身体の側に置いていた刀を奪うと、部屋の隅に放り投げて、これで震えは止まるでしょうなどと言う。

いくらだ?と甚五郎が聞くと、1両も頂かせて頂きましょうと市が吹きかけたので、甚五郎は抗議しかけるが、市の気迫に負けて払ってしまう。

市が部屋に戻る途中、階段を降りて身を隠したお久は、松の間に戻って来ると、一足先に行くよ。市の間抜けづらを良く観てやるが良いと甚五郎に言い残す。

それを聞いた甚五郎は、あのアマ、何かやりやがったな…と気づく。

部屋に戻って来た市は、お美津がいないことに気づき、膳を下げに来た女中に聞くと、松の間の女の人から頼まれて、あのお客さんも用があるって行って宿を出た。松の間の連れもその後出て行ったと言うではないか。

市は慌てて、篭屋はどこです?と女中に聞く。

女中は、この辺は駕篭留さんが仕切っていると教える。

その駕篭留で、江戸までの通し駕篭を頼んでいたのはお久だった。

しかし、夜の今からでは出せないと断られていた。

そこに、親方の留五郎(吉田義夫)が出て来て事情を聞くと、お久は追われてるんですと噓を言う。

そんなお久の会話を店の外で聞いていたのが甚五郎。

そんな駕篭留に市が近づいて来る。

座敷に上げたお久に、どこであの娘を拾ったんだ?鳴海屋と言えば、加賀百万石のお米蔵を預かっている大店だ。千両箱を拾ったようなものだと言うと、明日の一番の駕篭で送ってやるよと言いながら、抗議しようとしたお久を子分たちに外へ追い出させる。

お久は、ここは護摩の灰の巣なんだね!と店に向かって悪態をつくが、話がもつれたようだねと背後から声をかけられたので驚く。

声をかけたのが市だと知ると、やっぱりお前さんだったのかいと吐き捨てるが、メ○ラの私を騙すなんて悪い女だと詰め寄った市は、俺は女は斬らないんだと言いながら、逃げようとするお久をどこまでも追いかけ回す。

逃げ切れないと悟ったお久に、連れは誰だい?と市が聞くと、下妻の藤兵衛の代貸しで甚五郎と言う男で、お前さんが堂山の助っ人になったからだよとお久は教える。

そんな仕掛けになってたのかい…と、ようやく事情が飲み込めたらしい市に、あの娘を助けるつもりかい?相手は命知らずの人足たちだよと忠告するお久。

しかし、市は、駕篭留の店に何食わぬ顔をして入り込むと、博打をしていた篭かきたちや帳場にいた番頭たちに、親方の所に来ましたと言い、すんなり留五郎の部屋にたどり着く。

部屋の中では留五郎が灸を据えながら、あの娘を江戸に送り届ければ、ご千両はふんだくられると取り巻きたちに話している所だった、

そこに市が入って来たので、驚いて怒鳴りつけた留五郎だが、礼にうかがいましたと下手に出ながら座り込んだ市は、江戸の娘さんがいるはずです。鳴海屋さんの娘さんですよ。元々、私が頼まれて江戸へ送る途中、連れて行かれましてと挨拶をする。

河七(堀北幸夫)が市を追い出そうとすると、吸いかけていたキセルのタバコをその懐の中に吹き飛ばし、熱さでひるんだ河七を始め、その部屋にいた子分たちをあっという間に投げ飛ばした市は、夜に来て、手ぶらと言うのも何だから…と言いながら、懐に入れていた柿を取り出すと留五郎に渡す。

そして、居合いでその柿をまっぷたつに切断し、その方が食べやすいでしょうと笑う。

そこに来た甚五郎が、留五郎に、こいつが座頭市だと教えると、急に態度を変えた留五郎は、別室に監禁して来たお美津を連れて来させる。

市は留五郎に、私は眼が見えないので、表まで連れてって下さいなどと言い出し、留五郎に仕込みを引っ張らせたので、表で様子をうかがっていた子分たちも、市に手を出すことが出来なかった。

それを見送った甚五郎は、野郎、取り戻しやがったなと悔しがるしか出来なかった。

宿に戻って来た市は、あれだけ出るなって言ったのに…、私はメ○ラでも、頼りにされていると思うから一生懸命やっているんだ!それをあんな女の口車に乗るほど信用されていなかったかと思うと、情けなくて…と声を荒げる。

さすがに軽率な真似をしたと分かったお美津は、私が悪かったんです。命がけで私を守って下さっている市さんを裏切ったんですと泣きながらしがみついて来る。

そんなお美津に市は、こんな宿場から早く抜け出さなくては行けない。夜っぴいて歩くけど良いかい?と優しく言い聞かす。

翌日も、侍たちはお美津を追っていたが、その中の一人山田(丹羽又三郎)は、これ以上あの娘を追う気になれない。なぜあの娘を斬らなければならないかと言うことだと言い出したので、主命だと他の2人が叱りつけると、俺はそれが下らないと言うのだと反論し、1人追うのを止める。

その頃、市とお美津は、川の側で握り飯を食べていた。

すまなかったな、怒ったりして…と市は夕べのことを詫びると、お久と言う女はうんと脅しといた。俺はメ○ラだ。その弱みをつけ込まれると、無性に腹が立って…と言い訳をする。

お美津は、私、うちにいたら、一生、市さんみたいな人に会えなかったと思いますと言い出したので、市も、俺もこんなことがなきゃ、お美津ちゃんに一生会えなかっただろうな…などと笑顔で答える。

その時、お美津がトンボ!と言う。

川岸の草の先に留ったトンボを見つけたからだったが、市の方は、食べていた握り飯を落とすと、動くんじゃねえよとお美津を抱き寄せると、迫って来た3人の侍を斬り捨てる。

その後、次の宿場の飯屋で待っていたお美津に、戻って来た市は、駕篭を頼んで来た。俺は行かねえ。2人連れだと目だっちゃ行けねえ。ここらで別れ若例なった方が良いんじゃないかと思ってと伝える。

それを聞いたお美津は、市さん、江戸のうちまで来て、お父っつあん、おっ母さんに会ってもらいたいんですと頼むが、頷いた市を見ると、市さん、噓を言ってる。ここで別れて、もう家には来てくれないんですね?と悟ったように呟く。

店を2人が出て行くと、店の奥にいたお久と駕篭留の子分が見送る。

1人になって歩き出した市に、今の飯屋の女中が忘れ物だと言って、お美津の匂い袋を市に渡す。

その匂い袋を懐に入れ、渡し船に乗った市は、乗客たちが、下妻と堂山が出入りをやるらしいが、相打ちで両方死んでもらった方がありがたいなどと噂話をしているのを耳にする。

その頃、堂山の彦蔵(杉山昌三九)の所にやって来た留五郎は、助っ人になりそうな奴を大勢連れて来たから遠慮なく使ってくんなと話していた。

彦蔵も、こちらも喜助を呼びに行かせ座頭市を抱き込んだと自慢したので、留五郎は嫌な顔になり、座頭市に金づるの娘を取られたいきさつを話す。

それを聞いた彦蔵は、出入りの前にもめられちゃ困るぜと釘を刺す。

水戸街道を進んでいた市は、道標に刻まれた文字を指先で解読しながら、堂山を目指していた。

その頃、老人夫婦の駕篭について、江戸に向かっていたお美津の駕篭は、お久と甚五郎に呼び止められ、そのまま駕篭ごと拉致されてしまう。

やがて彦蔵は、座頭市が到着したが1人だと聞き、不思議に思いながらも出迎える。

市は、喜助さんは途中で斬られた。狙ったのは下妻の一家と分かっていますと伝えると、出入りがあるんですかい?あっしが助っ人をするんでしょう?でも、あっしは見せ物の真似と助っ人はしませんと喜助にも言ったんですよと説明する。

しかし、どうやら金次第でやりそうだと気づいた彦蔵は、10両じゃどうだい?と値段を提示するが、市は笑いながら、この辺じゃ相場でしょうなと言うだけ。

不服だと気づいて20両まで値を上げた彦蔵だったが、市は、あっしの相場はどでも30両もらってます。でも、相手は下妻…、ま、20両で良いでしょうと手を打つことにする。

なめられたと感じた彦蔵だったが、さっそく市が二の膳を要求して来たので、仕方なく用意をさせると、娘と一緒だったそうだな?と尋ねる。

誰からそのことを?と不思議がった市だったが、もう江戸に帰しましたと答える。

留五郎の元に戻って来た彦蔵はそのことを伝えるが、留五郎は信用しようとせず、どっかに隠しているに違いねえと勘ぐる。

膳と酒を運んで相手をし始めた松(中村豊)に、誰かお客さんが来ているんだね?と聞いた市は、狭山の駕篭留さんですと聞いて驚く。

彦蔵は留五郎に、出入りの後、眠らせておけば良いんだ。俺も手伝うぜと相談していた。

まだ18だと言う松に、好きな相手でもあるんだろ?と小指を立てて市が聞くと、おみつと言うのだ答えたので、そうかいお美津ちゃんと言うのかと言いながら、市は懐から匂い袋を取り出す。

それを見てきれいですねと松が世辞を言うと、目が見えたら、きれいな娘だっただろうな…と市は別れたお美津を思い出すのだった。

その頃、そのお美津をさらって来たお久は、あたいはあの市の鼻を明かしたいんだと言い、帰して下さい!私のことでこれ以上、あの方にご迷惑をかけたくないんですと言うお美津に、どうすれば帰れるのか、甚五郎にも聞いてごらんと答える。

2人は、下妻の藤兵衛(沢村宗之助)の屋敷に来ていたのだった。

その藤兵衛に、甚五郎が、堂山には座頭市が付いたと報告していた。

その頃、小舟で、下妻に向かっていた市に、一緒に乗り込んだ松は、駕篭留さんと何かもめ事があったんですね?恨まれているみたいですよ。気を付けて下さいと忠告され、礼を言っていた。

下妻に船が着くと、宿場で待ち構えていた下妻の子分たちが気づく。

出入りに向かう甚五郎は、お美津を引っ張って行こうとするので、一緒にいたお久は、こんな娘を喧嘩場に連れて行くなんて!と必死に止めようとするが、市をおびき出せさえすりゃ良いんだ!と言う甚五郎に振り払われてしまう。

下妻の宿場で待ち受ける堂山一家だったが、市の横にいた松が、まだ1人も出てきませんと教えると、市は後ろの方にいなせえ。こんな喧嘩で怪我したってつまらないと松に伝える。

その時、向こう側に、子分を従えて現れた藤兵衛が、市!お前に見せてえものがあると呼びかけたので、市は面白がって前に出ると、メ○ラに見せてえものって何です?と問いかける。

その時、市の耳に届いて来たのは、市さ〜んと呼ぶお美津の声だった。

市は、お美津ちゃん…と愕然とする。

市の背後に、彦蔵と一緒にいた留五郎が、5千両の娘だ!とこちらも驚く。

そんな娘をこんな出入り場に引っ張り込んだ所を見ると、手を引けって言うんですかい?と市が聞くと、向うがいくら出したか知らないが、こっちはその倍出そうと藤兵衛は言い出す。

それを聞いた市は、お美津ちゃん、あんたが悪いんじゃない。廻りが悪すぎるんだ。あっしはお前さんの助っ人をやりましょうと条件を飲み、助っ人料はいらねえ。その代わり、娘を帰して下さいよと頼む。

それを後ろで聞いていた彦蔵が、それじゃあ、渡世の仁義に外れやしねえか?と市を責めると、何が仁義だ!何のかかわり合いもない娘が出入りに巻き込まれたんだ!と市は怒りを込めて言い返す。

お美津を取り戻そうと近づいた市だったが、最後の取引は、出入りの決着が付いてからだと言い、返そうとしない。

市は、そんな藤兵衛に近づくと、貸元!相手は彦蔵と留五郎ですね?と確認し、お前さんもあっしの側から離れねえようにしていておくんなさいと言うので、藤兵衛がなぜだ?と不思議がると、あっしの居合いを良く観てもらうためですと市は答える。

さらに、子分の中に甚五郎がいることを知ると、お前さんは、彦蔵と留五郎を身内の連中から引き離すようにして下さいと頼む。

そして、向きを変え、堂山一家の方に向かって歩いて来た市は、あっしと勝負つけたい人、出て下さいと声をかける。

彦蔵は、誰かいねえか?と子分たちに声をかけるが、誰一人動こうとしない。

市は、それじゃあ、下妻の勝ちと決めてようござんすね?と嘲笑すると、5人が前に出て市を取り囲む。

その5人をあっという間に斬り殺すと、続いて竹槍を持った一軍が市に向かって来る。

市は、その連中も次々に蹴散らして行く。

その乱闘の近くに身を寄せていたお美津は、市さん!と呼びながら怯えていたが、そんなお美津の元にお久が駆けつけて、逃がそうとする。

井戸を見つけた市は、水を汲み上げるとそれを飲む。

乱闘騒ぎから離れた彦蔵と留五郎を路地に追い詰める市に、指示通り、藤兵衛も付いて来る。

追いつめられた留五郎は、俺は堅気だぜと命乞いを始めるが、評判の悪い奴だぜ。お前さん、素人の娘巻き込んで…どっちも生かしちゃ置けねえと市が言い出したので、ようやく一緒に付いて来た藤兵衛も、市にやられると気づく。

市は、彦蔵、留五郎、藤兵衛の3人を一瞬で斬り殺してしまったので、そこに駆け込んで来た子分たちは、どっちの親分も死んだことを知り、全員逃げ出してしまう。

逃げ出さなかったのは、若い松だけだった。

そんな松に、もう出入りは終わったんだ、もう帰りなと諭した市だったが、お美津の気配が消えたので狼狽する。

しかし、そんな市に駆け寄って抱きついたのはお美津だった。

良く逃げて来られたな〜と、市が喜ぶと、お美津は、お久さんが…と教える。

こんな所に長くいちゃいけねえと言い出した市は、側に付いていた松に、松戸の渡しに連れて行ってくれと頼むと、お美津と金も渡す。

しかし、市は、懐から取り出そうとしかけた匂い袋だけは元に戻す。

そんな市に、まだ生き残っていた甚五郎が近づいて来ていた。

松戸の渡しにお美津を連れて来た松は、なかなかやって来ない市にいら立ちながらも、あなたのことだったんですね、市さんが言っていたのは…とお美津を観ながら、それにしても、なんだっておいらに渡し賃渡したのかな〜…と首をひねっていた。

その頃、敵を全員倒した市は、1人別の道を行きながら、匂い袋を握りしめ、良いかみさんになってくれ…と呟くのだった。