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太陽を抱け

怪獣映画でもお馴染みの高島忠夫と宝田明が共演した宝塚映画らしい明るい音楽映画

そこに、歌手の神戸一郎、雪村いづみ、朝丘雪路、浜村美智子ら、さらに「キングコング対ゴジラ」で高島忠夫と共演していた有島一郎までも出演している。

内容は良くあるサクセスストーリーで、取り立てて目新しい感じはないが、馴染みの安酒を飲むと気が大きくなると言う有島一郎演じるキャラクターが楽しい。

今観て、どうも今ひとつ乗り切れないのは、バンドマン役の宝田が自ら作曲したと言う設定のジャズの曲が、あまり魅力的に聞こえないことがある。

古い演歌調の歌謡曲を打破しようと作った設定なので、対比的にフレッシュで魅力的に聞こえなくてはいけないはずなのに、どう聞いても普通の歌謡曲にしか聞こえないのだ。

確かに演歌調ではないことは分かるが、かと言ってジャズにも聞こえない。

しかし、当時の映画に登場する日本語のジャズと言うのはみんなこんな感じのような気がする。

いみじくも、劇中でバンドマスター役の椎名が、日本人が作ったジャズなんて意味があるのかね?と言っているが、それはこの映画を観る限り、説得力があるように思える。

音楽には疎いので専門的なことは分からないが、こういう時代の日本語ジャズを経て、その後の日本のポップスは生まれたと言うことなのかも知れない。

本作でバーのママ花世を演じている浜村美智子は、「バナナボート」と言う曲で有名な人らしいと言うことくらいしか知らないが、今観ても、その容貌とスタイルは群を抜いている。

この当時の雪村いづみは超売れっ子だったためか、シーンによって目が腫れぼったく写っていたりして、かなり顔の印象が違って見える人なのだが、本作での高島忠夫の妄想と言う設定での未来風のコスチュームを着ているのは可愛らしい。

一瞬、モデル風で、別人か?と思ってしまうほどである。

演出面で気になるのは、クラブ「ビート」でのシーンが、ほとんど強い「紗(しゃ)」がかかっていること。

特に回想シーンや幻想シーンとかでもないのに、あえてソフトフォーカスにしている意図が良く分からなかったりする。

後半、有島一郎扮する中原と娘と一緒に電車に乗って来た節子が「京都まで見送る」と言うのが一瞬奇妙に思えたりするのは、登場人物たちが皆標準語を使っていたり、中原が名古屋に転勤させられたことを「左遷」と言ったりしていることから来る錯覚だろう。

この映画の舞台は、まぎれもなく「大阪」である。

オリオンレコードの会社は淀屋橋にあると言っているし、写っている風景も大阪である。

名古屋に行かされるのを「左遷」と言っているのは、大阪本社から名古屋営業所へ行かされるためである。

宝塚映画は、東宝が全国に向け配給をしていたこともあり、作品によっては、地方色をあまり出さないように作っていたと言うことかも知れない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、宝塚映画、赤坂長義+蓮池義雄+京中太郎脚本、井上梅次監督作品。

突然の銃撃の後、部屋に残った机の上には、被害者らしき人物の遺品らしきトランプとトランペットが残っていた。

そのトランペットはすぐに故買商の店頭に飾られ、それを1人の青年が買いに来るが、値段が折り合わず追いかけされる。

その直後、赤いドレスの女がそのトランペットを購入し、外でがっかりしていた青年にプレゼントする。

青年は喜びその場でトランペットを吹き始める。

舞台下の楽団席でトランペットを吹いていたのは、森山忠(宝田明)だった。

同じ楽団でドラムを叩いていたのは、塚本俊平(神戸一郎)だった。

舞台上では、赤い女に恋をした青年のその後が演じられていた。

青年は、町のチンピラたちとの喧嘩に巻き込まれていた。

赤い女はギャングに連れ去られようとするが、青年はギャングたちに撃たれて死んでしまう。

不思議なことに、死んだ青年の横に落ちたトランペットがひとりでに鳴り出し、やがて空中に浮かぶと止まる事なく演奏を続ける。

喜んだ赤いドレスの女は、その音楽に合わせ踊り始めるが、彼女も又ギャングに撃たれ、その場に倒れるのだった。

客席から拍手が起き、緞帳が降りるが、すぐに又上がって、ステージに劇団員全員が並ぶと、今日のチューリップ座最後の舞台を惜しむファンたちの別れの言葉が投げかけられる。

実は、その日が、舞台「カードとトランペット」の千秋楽であると同時に、チューリップ座そのものの解散の日でもあったのだ。

団員たちは、マネージャー三条節子(久慈あさみ)が用意してくれた数本のビールで乾杯をする。

団員たちへの解散手当を払ったら、酒を買うだけの余裕すらなくなってしまったからだった。

別れて行く団員たちの大半は、すでに次の働き口を見つけていたので、節子への挨拶を終えると、全員帰ってしまう。

残ったのは、節子と節子の妹真理(野辺小百合)、まだ次の勤め先が決まっていない森山、塚本らだったが、節子は、飲み足りなさを補うため、昔うちで歌っていた花ちゃんのバーに行きましょうと言うことになる。

バーで「ビート!」と歌っていた花世(浜村美智子)は、自分がピーピーしているとき助けてもらったからと言い、珍しくやって来た節子たちを歓迎してくれた。

森山と塚本の就職先が見つからないことを知った花世は、たまたまその時店にやって来たオリオンレコードの文芸課長中原正三郎(有島一郎)を節子らのテーブルに招き、引き合わせてくれる。

森山は、紹介されたオリオンレコードが、歌謡曲専門の古くさい会社であることを知っており、あまり気乗りしない様子だった。

中原の方も、バンドのことは椎名さんの担当だから…と、自分は畑違いであまり役に立てそうにないことを最初に断りながらも、節子の顔を見るなり、あなたは紅麗子さんではないですか?昔からのファンだったんですと喜ぶ。

節子は、自分は5年前に引退し、今では、チューリップ座のマネージャーをやっているのだと説明する。

そんな中原は、いつもビールでは効かないので、「タイガーブランデー」と言う安くて強い酒を花世に持って来させ飲み始めるが、やがて酔いが廻って気が大きくなったのか、良し、明日うちに来たまえ。我が社は三流会社だが、かえって、若い人にとってはやりがいがあるはずだと言い出す。

それを聞いた森山は感激し、私も一肌脱ぎましょうと約束する。

中原はさらに、うちの社長は、時間と服装にはうるさいので、明日の9時に遅れないようにと、森山と塚本に念を押す。

しかし、翌朝、森山と塚本は共に二日酔いで寝過ごしてしまい、バスに乗り遅れてしまう。

後ろからやって来たタクシーを止めようとしたが失敗し、どうしようかと焦っている時、同じく背後から一台の自家用車が近づいて来たので、前に飛び出して強引に止めさせると、勝手に乗り込んで、後部座席に乗っていた中年紳士に、遅刻しそうなので淀屋橋まで乗せて行ってくれと懇願する。

中年紳士は、鷹揚に森山と塚本の言うことに従いながら、どこへ行くのかと聞いて来たので、2人はオリオンレコードなのだが、三流会社に限って時間にうるさいらしく、文芸課長がそう言っていたなどと説明する。

ようやく9時ぎりぎりにオリオンレコードに到着することが出来た2人は、さっそく、文芸部の中原を訪ねるが、強度の二日酔いに悩まされていた中原は、2人が来ても、何の用事かといぶかしそうだった。

夕べバーで会い、バンドマンとして雇うから来いと言ったじゃないですかと2人が説明すると、バンドマンのことは椎名さんの権限だし…と、完全に、自分が言ったことを忘れていたらしき中原だが、酒の上のことだとは言え、自分が言ったことに責任を感じたらしく、取りあえず紹介だけはするからタレント課の方に行ってくれと言う。

廊下で迷った2人は、通りかかった青年にタレント課の場所を聞き、その部屋に入ると、応募して来たらしき大勢の若者たちで室内は溢れていた。

目の前にイスに座っていた女性は、邦千香子(朝丘雪路)と名乗ったので、その隣に座ろうとした2人だったが、その席は自分の場所だと、松本京一(柳沢真一)なる青年が割り込んで来る。

そこに先ほど廊下で出会った青年が入って来て、茶が欲しいなどと言い出したので、会社の人間かと思った森山は茶を出そうとするが、それを観ていた松本が、その人も応募者の1人だとおかしそうに教えてくれる。

青年は、サックスを吹く千葉隆彦(高島忠夫)だと自己紹介をする。

そんな部屋に、バンドマスターの椎名(有木山太)と大久保(立原博)、そして中原が入って来て、椎名に2人を紹介してくれる。

さらに、社長が来たと言うので、全員緊張して迎えると、部屋に入ってきたのは、朝、2人が車に乗せてもらったあの中年紳士だった。

社長の津村恭介(加東大介)は、我が社はいつも優秀なタレントを求めている。オリオンレコードは、部課長ですら三流会社と公言しているようだが、そう言う部課長にこそ、一流会社になるため張り切ってもらいたいね、中原君…と嫌みを言う。

さっそく、試験が始まり、サックスを吹き始めた千葉の腕が確かなので、森山と塚本も一緒に演奏してみるように勧められる。

3人は一緒に演奏し、その腕を見込んだ椎名は、その場で3人を採用してくれる。

さらに、千香子も椎名が推挙すると言い出す。

森山は喜びながら、自分が書いた譜面「太陽を抱け」を椎名に観てくれと差し出すが、椎名は、日本人が書いたジャズなんて意味ないと思うな…などと疑問を口にしながらも受け取ってくれる。

試験を終え、会社を後にした森山と千葉は、後から出て来た千香子を誘って酒でも飲もうと言うが、千香子は松本から先に誘われていたので…と断って、去って行く。

振られたと分かった千葉は、実は自分は無一文なので、誰か良い奴を捕まえようと思っていた所だったなどと言い出し、妻が待っているからと嫌がる塚本の「みどり荘」まで図々しく付いて来る。

夫がいきなり、森山ばかりでなく、見知らぬ千葉まで連れて帰って来たので、ビールを用意して待っていた新妻の塚本みち子(環三千世)はむくれてしまう。

森山は、あのバンマスはどうも気に入らない。センスが古過ぎるなどと、椎名の悪口を言い始め、千葉と一緒にお暇すると、隣の自分の部屋に戻るが、何故か、千葉も当たり前のように付いて来て、自分でさっさと布団を敷くと寝てしまう。

それを酔った目で観ていた森山は、自分が部屋を間違えたと思い込み一旦は部屋を出るが、又戻って来ると、自分の布団で勝手に寝ている千葉に抗議するが、千葉から、自分は半年分の家賃を溜めて追い出されたと説明され、好きな所で寝ろよと言われると、黙って従うしかなかった。

隣り合って寝ることになった2人は、1枚しかない掛け布団を取り合う。

翌日から、森山、千葉、塚本らは、オリオンオーケストラの1員として練習に参加するが、森山は渡された譜面の3小節目が、昨日自分が渡した曲をそのまま流用していることに気づき、やって来た椎名に抗議する。

すると、椎名は、確かに参考にさせてもらったので少しお礼をしようと言い出すが、使うなら生かして浸かって欲しいと森山が申し出ると、そこまで言われるのは不愉快だと大久保に言って、その日の練習を中止すると、千香子を連れて出て行く。

森山の方も面白くないので、鬱憤ばらしに何所かに飲みに行こうと千葉と塚本を誘って出かける。

「ビート」と言うクラブで演奏に参加した3人は、いつしか見知らぬ娘が一緒に歌っているのに気づくが、そのまま意気投合し、「太陽を抱け」の譜面を見せ、一緒に歌い始める。

店の外に出ても歌い続けていた4人だったが、君は誰?と聞くと、娘は私、ズベ公と言うだけ。

その時、旅館から走り出て来た邦千香子に森山らは気づく。

後から追って来たのが、バンドマスターの椎名と知った森山は、口説かれたな…と直感。

気がつくと、今まで一緒だったズベ公もいなくなっていた。

バーのママ花世は、帰りかけていた中原から、たまっている「つけ」を聞かれ、7000円くらいと教えるが、全部は払いきれないから、今日はこのくらいと数1000円を受け取っていた。

そこにやって来たのが、森山、塚本、千葉たちで、課長のおごりで飲みましょうなどと言い出したので、飲むのならうちで飲もうと言い出した中原は、「タイガーブランデー」を2本ママから貰い受け、彼らを自宅に連れて帰る。

通いの婆やが酒の準備をしてくれた後、帰ってしまうと、中原の家に残っていたのは、まだ幼い娘の照子(伊藤春美)だけだったので、奥さんは?と森山らが聞くと、2年前、ぽっくり逝かれたと言う。

塚本は、再婚されるべきでは?と勧めるが、女房なんて面倒くさいもんだ。あんな三流会社なんか、いつ、首になるかも知れんし…と中原は悲観的なことを言う。

しかし、側で聞いていた照子は、うちのパパは、最初はいつもそうなの。もう少し飲むと元気出てくるわよなどとおませ名ことを言った後、寝床に付くが、その照子の言う通り、安酒「タイガーブランデー」を飲み進んだ中原は泥酔し、明日の営業会議で、職を賭して社風の刷新をやってやる!いつまでも、歌謡曲ばかりではレコード売れやせんのだ!などと大きなことを宣言する。

それを聞いた森山も、さすが僕等のボスだと感心する。

しかし、翌日の定例営業会議の席に、中原の姿はなかった。

洗面所で必死に顔を洗い、酔いを覚まそうとしていたのだ。

そこに駆けつけた森山、千葉、塚本らは、社風を刷新すると言っていたではないですかと、夕べの中原の発言を思い出させ、会議室に送り込む。

会議室では、最近、ヒット盤がない。新しいことに挑戦しなければ…と悩んでいた津村社長に、柴田専務(多々良純)が、従来の方法をてこ入れする方が良いのではないか?新しいことをやろうにも、肝心のタレントがいませんと意見を述べていた。

椎名君が褒めていた娘はどうですか?と津村社長が千香子のことを聞くと、大久保が、声が低くて歌謡曲は無理ですと答える。

社内に有能なタレントがいると聞いたんだが…と津村社長が言うと、中原課長が、それは、千葉、森山、塚本のことではないかと答える。

それを聞いた津村社長は、わしはやる!プレイヤーを呼んで来たまえと中原に命じる。

会議室にやって来た3人を観た津村社長は、有能なるプレイヤーと言うのは君たちのことだったのか…と驚きながらも、森山が差し出した「恋の急行列車」と言う新曲の譜面を受け取る。

その時、部屋に入ってきたのは、夕べ出会ったズベ公だった。

譜面を読んだ彼女は、ご機嫌よパパ、これ売れるわと太鼓判を押したので、津村社長は、中原君、やりたまえ!と命じる。

ズベ公だと思っていたのは、実は津村社長の娘、津村洋子(雪村いづみ)だったのだ。

さっそく、邦千香子が歌を担当し社内試聴が行われるが、5万枚は堅いなどと好評だった。

いつものように、勝手に、塚本の部屋で一緒に飯を食っていた千葉の前で、塚本は、1枚2円の印税として、10万枚売れたら20万にはなるなどと捕らぬ狸の皮算用を始め、それを聞いていた妻のみち子も、あれこれ買いたいものを夢見始める。

さらに、みち子は、子供が欲しいなどと言い出し、塚本は、無神経に部屋に居座っている千葉に、僕たちは結婚して1年も経たない新婚なんだ!と抗議する。

隣の森山の部屋に戻って来た千葉は、何か考え事をしているような森の様子を見て、お前、邦千香子に惚れたんだろう?と勝手に決めつけ、好きな女の前では口がきけないんだとぼやく森山に、酒を飲ませておだてろ!そして最後に「アイラブユー」と言うんだなどと、恋の手ほどきを伝授する。

そして、僕も恋をしているんだ。相手は社長令嬢、一休みした後、出かけると言うので、森山は先に部屋を出る。

森山が向かったのは、クラブ「ビート」だった。

森山は、そこにいた洋子に、今、千葉に聞いて来た通りに酒を勧め、おだて始める。

しかし、酒はあまり飲めないと言っていた洋子は予想外に酒に強く、かえって森山の方がばて気味になる。

その内、逆に洋子の方が森山を褒めるようになり、とうとうすっかり酔いつぶれた森山をボーイに寝かせてもらっていると、そこへ千葉がやって来て、森山と同じように、洋子をおだて始める。

やがて、すっかり酔っぱらった洋子は、千葉も褒め、酔っぱらって来た千葉は、ソファの後ろに寝ている森山に気づく。

その後、「みどり荘」の管理人のおばさん(吉川雅恵)は電話を受け、「ビート」と言うクラブまで2人を迎えに来てくれと頼まれる。

森山と千葉は、完全に酔いつぶれてしまっていた。

ところが、その後レコード発売された「恋の急行列車」は、予想に反して全く売れなかった。

逆に、椎名作曲で松本京一が歌った「涙の波止場」と言う演歌調の歌謡曲の方が売れ、営業会議では、中原課長が柴田専務から絞られていた。

しかし、津村社長は、「恋の急行列車」は玄人筋からは褒められているなどと中原課長を弁護し、これからも新しい分野に挑戦すると発言する。

柴田専務は、この際、文芸課を2つに分け、大久保君を昇進させたらどうか?と提案する。

かくして中原は、ジャズ部門を担当する第2文芸課長に任じられる。

屋上で1人佇んでいた中原は、やって来た森山たちに、この会社は今まで9割方は歌謡曲だった。僕の首は君たちにかかっているようなものだ。よろしく頼むよと挨拶する。

その森山に、千香子が、練習をしてくれない?と頼みに来るが、それを聞いた千葉は、森山は洋子さんに夢中なんだ。代わりに僕が練習してあげようか?と口を出す。

そこにやって来た松本が、僕が出した曲が売れて10万円ももらったのでプレゼントを持って来たと千香子に差し出すと、千葉は、この人には僕が付いているんだと言って、プレゼントを突き返したので、人に誤解されるようなことを言ってもらっては困るわ。かえって迷惑よと、千香子は千葉に文句を言う。

その日、塚本のアパートの部屋で一緒に食事をしていた千葉は、飯が咽を通らないなどと珍しいことを言い出すほど元気がなかった。

千香子さんの楚々とした姿に惚れたんだと言う千葉は、妄想の中で、未来的なコスチュームを着た洋子とお姫様風のドレスを着た千香子の間で揺れ動く自分を観ていた。

それを横で観ていた森山は、オーバーな奴だと呆れる。

ある日、森山らを呼び出した津村社長は、中原君がコネクションを作ってくれたので、今度「中央劇場」の出し物として「恋の急行列車」をやる事にしたと伝える。

しかし、それほどの大劇場でやるには、オリオンレコードのバンドマンだけでは不足だった。

森山は、チューリップ座と洋子さんにも手伝ってもらいましょうと提案する。

話を持ち込まれたチューリップ座の三条節子、真理姉妹は、全面的に応援すると約束をする。

舞台での練習中、客席に着ていた中原の娘照子が眠くなると、隣に座っていた節子が優しく面倒を見る。

森山が演出する舞台では、巨大な機関車の車輪のセットが廻り、駅名の表示板に「情熱の恋」の文字が出ると、花世が歌い出す。

「浮気な恋」と言う駅名が出ると洋子が歌い、「悲しい恋」の駅名が出ると千香子が歌う。

最後は3人で「恋の急行列車」を合唱し、舞台は大成功を収める。

花世の店で行われた打ち上げの席では、津村社長が中原を第2文芸部長にすると言っていたともっぱらの噂で話に花が咲く。

花世が歌う曲に会わせ、森山は一緒に踊り始めた洋子に、一度ゆっくり話があるとささやき、千葉も千香子と踊っていた。

そんな中、節子は照子を連れて、中原と共に自宅に送って帰る。

その後ろ姿を観ていた塚本はお似合いだなと喜んでいた。

洋子は自家用車で先に帰り、電車で一緒に帰る千香子は、途中の駅で乗り換えるため、千葉らと別れるが、それを見送っていた千葉は、じゃあ、僕はやるぜと森山に言うと、思い切って千香子の後を追い、ホームで話しかける。

絶対幸せになる方法がある、それは僕と結婚することだよ。さあ、電車が来る。到着するまでに答えを出すんだ。こんなチャンスは2度と来ないよ。僕のような男性は2度と現れないよと千香子に迫る。

千香子は、ホームに入って来た電車を観ながら変事に窮するが、あと20秒、あと5秒などと千葉にせかされているうちにとうとう首を立てに振ってしまう。

イエスだね?これで君は日本一の幸せ者だ!と千葉に言われ、電車に乗り込んだ千香子は、思わず脱力し、席に座り込んでしまう。

プロポーズに成功し、意気揚々と戻って来た千葉は、森山に洋子さんの所へ行って来いと勧める。

洋子の自宅にやって来た森山は、玄関ブザーを押し、お手伝いに洋子を呼んでもらうと、先ほど千葉から教わったように、一旦5歩後ずさり、心の中で突撃ラッパの音を聞くと、再び5歩前進して、玄関先に出て来た洋子に接近すると、思い切って頬にキスをする。

驚いた洋子は、嫌い!と言って、森山も頬を叩くと家の中に逃げ込んでしまう。

翌日の会社の屋上では、中原課長が、無事カップルになった千葉と千香子を祝福していた。

一緒にいた塚本から、節子さんのことどう思います?と問いかけられた中原は苦笑する。

その日、花世の店に来た中原は、森ちゃんたちが中原さんに良い奥さんを紹介すると言っていると聞かされると、かえって寂しくなるよとぼやく。

そこにやって来たのが、柴田専務と大久保らで、中原を同じテーブルに招くと、連れて来た客を太平洋電機の関口常務(大江真砂夫)だと紹介する。

柴田専務が言うには、近々、太平洋電気はレコード部門に手を広げることになるそうなので、やがて我が社は吸収合併される。君も自分たちと一緒に太平洋電機に移って来れば出世を約束すると言うことらしかった。

それを聞いた中原は、それは社長は承知のことなんでしょうか?と聞くが、社長には内密で、我が社の創立10周年記念式典の後にやりたいと言う。

成り行き上、断りにくくなった中原だったが、いつものように「タイガーブランデー」を飲み進むうちに気が大きくなって行き、あなたがやっていることは裏切りだ!と柴田専務に言い出したので、柴田専務は、さっきのお約束は撤回しますと答える。

翌日、会社で柴田専務に呼び出された中原課長は、夕べの話は酒の上の冗談ですから、絶対他言しないようにと口止めした上で、しばらく、名古屋の出張所へ行ってくれないか?と頼まれる。

中原は、夕べのことは絶対しゃべりませんと誓い、左遷に抵抗しようとするが、一緒にいた大久保は、あんたは酒癖が悪いから…と睨みつける。

かくして、中原の名古屋左遷が決定し、引っ越し準備をしていた中原の家にやって来た森山たちは、どうしてこうなったのかと事情を聞く。

しかし、中原は答えようとしなかったので、森山たちは、せめて引っ越しの手伝いをするくらいしか出来なかった。

そんな中、中原は森山に頼みたいことがあると言う。

それは、花世に、これまで溜めて来たツケを払いに行くことだった。

花世は、中原が左遷されたのはこの前のことだわ…と事情を知っている風だったが、森山から聞かれても、お客様の秘密を話すわけにはいかないと言って断り、何とか、中原さんから言わせた方が、みんなのためになるわと助言する。

「月光園」で行われた「オリオンレコード10周年記念祝賀会」に出席した中原の側にいた森山、千葉、塚本、洋子、千香子らは、何とか「タイガーブランデー」を飲まそうとするが、酒の失敗で左遷されたことが身にしみている中原は頑として飲もうとせず、その日は日本酒だけを飲むと言って聞かなかった。

千香子がどんどん日本酒を勧めていると、感激した中原は泣き出したので、森山は、ダメだ、泣き上戸になって来たと顔をしかめ、千葉は、お銚子に、こっそり持ち込んで来た「タイガーブランデー」を密かに詰めて、中原に飲ませ始める。

最初は、味が変わったのに怪訝そうな顔をした中原だったが、すでに酒が回っていることもあり、勧められるがまま、お銚子が進んで行く。

酒をどんどん飲ませていた森山が、今日は無礼講だし、言いたいことを言いましょうと言うと、すでに目が座っていた中原は、急に、大声を上げ、柴田専務の悪事を暴露しようとし始める。

それに気づいた柴田専務は、ここらでお開きにしましょうと津村社長に声をかけると、自ら音頭をとって、万歳三唱で締めようと立ち上がるが、太平洋電気に合併吸収させようとするなんて裏切り行為は止めて下さい!正々堂々とやって下さい!と中原は呼びかける。

それを聞いた大久保は会場を逃げ出そうとするが、森山、千葉、塚本らがそれを阻止する。

大久保は、私は無関係ですと否定するだけだった。

津村社長の面前で言いたいことを言い終えた中原課長は、その場で寝てしまう。

その中原を前に、困りきった表情の柴田専務を、困惑した津村社長が見つめていた。

後日、その中原は、名古屋に向かう列車に乗っていた。

同行したのは娘の照子と、妹たちから頼まれ京都まで送って行くことになった節子だった。

その節子は、名古屋行きを、ちょっとしくじりまして…と恥ずかしがる中原に、一番大事なのはくじけないことですわと言いながら、森山から預かって来た手紙を渡す。

そこには「人生は勇気です。酒に頼らずにプロポーズして下さい。照ちゃんの幸せのために 森山」と書かれてあった。

何も知らない照子は、叔母やんも一緒に来るの?と節子に無邪気に聞いている。

それを目にした中原は、勇気を振り絞って、節子さん!と呼びかける。

その頃、オリオンレコードの社長室に柴田専務を呼んだ津村社長は、その場に座っていた太平洋電機の山本社長(瀬川恭助)と関口を紹介すると、愕然として立ちすくむ柴田専務の前で、今、山本さんと腹を割って話した所、対等の出資で合併に賛成してくれたとの報告をし、わしが踏ん切りを付けられたのも君のお陰だ。今後ともわしの片腕としてやってくれと握手を求めて来る。

首を覚悟していた柴田専務は、津村社長の温情に感激し、泣きそうになりながらも強く手を握り返すのだった。

同じく津村社長に呼ばれた森山たちも協力を求められるが、自分たちは独立して芸能企画社を立ち上げたいと答える。

列車に乗っていた中原に車掌が電報を持って来る。

そこには「転勤取り消し 文芸部長を命ず」と書かれてあったので、喜んだ中原は、やっと僕の価値が分かって来たらしいと節子に伝えると、それを聞いていた照子が、パパ、大きなことを言わないのと注意する。

その後、クラブ「ビート」で、おおいに歌い、演奏する森山、千葉、塚本らの姿があった。