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おヤエの身替り女中

おヤエシリーズ3作目で上映時間54分の中編。

森川信、武智豊子は相変わらず登場しているが、今作から藤村有弘、岡村文子、渡辺篤などが加わっている。

ユーモアとペーソスが入り交じったこのシリーズも3作目ともなると、お人好しでまじめ一方のおヤエのキャラクターにすっかり愛着が沸き、このシリーズの魅力にもハマって来た感じがする。

他人に優しく、陰ひなたのない働き者で可愛く明るい性格と言う得難い好人物であるにもかかわらず、その好人物振りが逆に災いし、本人の意思とは裏腹に、どんどん不幸になってしまうと言う展開に、我が身を重ねる苦労人も多いのではないか。

特に、地方から都会への出稼ぎが多かった当時には、おヤエさんに共感する地方出身者が多かったのではないかと想像する。

本作では、藤村有弘扮する女好きな若旦那が、一見泥臭いおヤエの事を掘り出し物だと気づき、アタックする設定になっているが、これはあながちギャグとばかりは言えないような気がする。

もちろん、今風のモデル顔とか美人女優と云った感じではないが、この当時の若水ヤエコは、それなりに若々しく魅力的だからだ。

他の映画などで見せる、ちょっと意地悪そうな雰囲気もなく、性格も良さそうに描かれているので、さらに魅力的に見える。

それだけに、騒動に巻き込まれてしまった後、おヤエが言う「誰が悪いんでもない。こういう巡り合わせになっただけ…、ケセラ・セラ…」と言うセリフが奥深い。

いかにも人生の辛酸をなめて来た人が言うようなセリフだからだ。

一見駆け出し女中に見えるおヤエも、実はもう何年もの苦労を重ねて来たと言う事を暗示しているのだろう。

それだけに、最後に大切な職を失ったおヤエがお堀の側で見せる泣き笑いの表情も物悲しい。

若水ヤエ子と言う女優を知る上で、このシリーズの存在は大きいと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、日活、高橋二三脚本、春原政久監督作品。

武蔵小山商店街を歩く女中のおヤエこと若水ヤエ子(若水ヤエ子)は、赤ん坊の晴れ着を見つけると1200円出して買う。

店を出たおヤエを追って来た女子店員は、福引き券を手渡す。

福引き所に向かったおヤエは、景品が積まれている場所を眺めて、8等の下駄を観ると、欲しかったんだものだったので、当たるように祈って福引きを回すが、出て来た玉は8等ではなく熱海旅行と云う副賞付き1等だと云うので、がっかりしたおヤエは下駄に替えてくれないかと頼む。

無事、下駄をもらったおヤエは喜んで吉場病院に来ると、お産で入院していたふさ子奥さん(潮京以子)と見舞いに来ていた今井家のご主人(弘松三郎)に、今買って来た晴れ着をプレゼントする。

そして自分は福引きで1等当たったけど、明後日出発する3泊4日の温泉旅行なんて私のガラじゃないので、8等の下駄をもらって来たと報告すると、それを聞いた今井とふさ子は驚いて、どうせふさ子が出産して退院したら忙しくなり、今はそれほどでもないのだから、骨休みに行って来なさいと勧める。

そう言われたおヤエは、交換しなければ良かったと初めて後悔する。

しかし、今井が福引き所に説明してくれたのか、無事、おヤエは旅行に行ける事になり、他の当選者と共に商店街に集まり、グループの旗をおヤエが託される。

他の家族や近所の住民たちに混じって今井も見送りに来てくれていて、おヤエに小遣いを渡そうとすると、おヤエは貯金を下ろして来たから…と遠慮する。

しかし、そうか…と今井が財布に紙幣を戻そうとすると、惜しそうな顔をするので、今井は苦笑して小遣いをおヤエに握らせると、4日後には戻って来るんだよとしっかり言い聞かせる。

当選者はおヤエも含めて5名で、大人顔負けの巨漢小学生金二郎(清水義之)、お酉婆さん(武智豊子)、女好きな若旦那の達之介(藤村有弘)、保険屋の波川(小泉郁之助)がいた。

旗を掲げたおヤエを先頭に、軍艦マーチが鳴り響く中、一行は大勢の住人たちに見送られ、元気に旅行に出発する。

列車に乗った一行は、波川が配るミカンなどをもらうが、その波川は、ちょっと離れた席に着いていた若旦那に、今回は若旦那にとっては残念なメンバーでしたねと耳打ちすると、そうでもないよ。あのおヤエと云う事はなかなか掘り出し物だと言うので、それじゃこの旅行中、彼女を若旦那が口説き落とすのが早いか、私が保険の契約を取るのとどっちが早いか、1000円で賭けをしませんか?と申し出、達之介も受けて立つ。

熱海に到着し、駅から出ていた一行を出迎え、おヤエが持っていた旗を受け取ろうとする客引きがいたので、おヤエが怒ると、その客引き留吉(神戸瓢介)は、皆さんのお世話をする「つるや」の従業員であると自己紹介し、全員をバスに乗せる。

旅館に到着すると、留吉が、これが有名なお宮の松ですと教えたので、達之介とおヤエは「貫一お宮」になり切って手をつなぐと、仲良く「金色夜叉」の歌を歌いながら入口に入って行く。

入口には、主人(森川信)と女将(岡村文子)そして大勢の仲居たちが居並んでいたので、おヤエは恐縮し、正座して挨拶をすると、1人ずつチップをやると言い出して、手を差し出した仲居たちに10円ずつ渡し出したので、仲居たちはあっけにとられるが、初めて人にチップを出す身分となったおヤエの方は満足げだった。

早速女風呂に入ったおヤエは「月の砂漠」など歌いながら贅沢気分に浸っていたが、それも何故か、女風呂なのに金次郎が我が物顔で湯船を泳ぎ廻っているので台無しになる。

ここは女風呂だよ!とおヤエが注意すると、ボクは男女共学だなどと金次郎は言う。

夕食の準備がすんだ部屋に戻って来たおヤエを交え、5人の当選者たちを一緒に自慢のカメラで記念写真を撮ってくれたのはお酉婆さんだったが、手元がひどく震えているので、ちゃんと撮れてるんだろうねと達之介は冷やかす。

おヤエは、夕食をたくさん食べるためにと縁側で帯を緩め始めるが、その時お銚子を持って部屋に入ってきた仲居の姿を観ると「お清ちゃん!」と声を上げてしまう。

お清(中村万寿子)と呼ばれた仲居の方も、おヤエを観ると驚いたようで、2人は部屋の真ん中でひしと抱き合って再会を懐かしがる。

どうやら同じ村の出身らしい。

両親の事をおヤエに聞かれたお清は急に泣き出し、おヤエに電報を見せる。そこには父危篤の文字が!

しかしお清は、旦那様が帰郷を許してくれないのだと言う。

事情を聞いたおヤエは、主人や女将の元を訪れ、何とかお清を国に返して欲しいと頼むが、番頭が言うには、お清はもう二月も前借りをしており、そのまま帰って来ない可能性があるなどと言う。

主人も、偽電報などを使って、そう言う事をする例が増えているのだと言うので、おヤエは、お清はそんな子じゃないと弁護するが、女将も心から信用できない様子。

覚悟を決めたおヤエは、では自分がお清の身替わりでここに残り、もしお清が戻って来なかったら、彼女の前借り分も含め、自分がここで3ヶ月働きますと宣言する。

その申し出を面白がった主人は、お清の帰郷を許してくれる。

表まで送って行ったおヤエは、今井からもらって来た小遣いを、そっくりお清に渡してやりながら、きっと明々後日までに帰って来てねと頼み、お清も、お父さんの顔を見て来るだけなので、明々後日の昼の12時までにはきっと帰って来ると約束して出かけて行くのだった。

その頃、出て行ったおヤエを待って夕食を待っていた当選者たちは空腹に耐えかね、食事を始めようとしう事になり、仲居さんにご飯を持って来てもらう事にする。

すると、そのご飯を運んで来たのはおヤエではないか!

おヤエが、今日から自分はここで身替わりとなって働く事になったのだと説明すると、お酉婆さんは、あんたは生まれて初めて旅行に来たと言っていたのに偉いんだと感心し、達之介は、お清が帰って来なかったら大変な事になるよと忠告する。

それでもおヤエは、なるようにしかならないんだと言うだけ。

仲居の部屋に連れて来られ、他の仲間たちに紹介されたおヤエは、さっき渡したチップは返してもらった方が良いと思うんだけど…と言い出し、仲居たちも、それもそうねと言って、全員返してくれる。

翌朝、次の旅館に向かってバスに乗り込もうとしていた達之介は波川に、あの賭けは止めますと言い出すが、保険屋の波川の方は承知しなかった。

おヤエはバスに乗り込む当選者仲間に、金坊の事をよろしくと頼み、達之介には自分が託された旗を持って行ってくれと頼む。

その後、おヤエは、主人である今井三郎宛にハガキを書き、それを投函しようと外に出るが、留吉が付いて来るので怪しむと、見張っていろと言う主人の命令だと言う。

呆れて、郵便ポストの所まで来ると、ハガキを投函したおヤエだったが、一緒に付いて来た留吉に近づいて来た老人(村田寿男)が、この辺に安くてサービスの良い宿はないかと聞いて来る。

しかし留吉は、今時そんな宿があるかいと冷たくあしらうが、話を聞いていたおヤエが、自分が良い所へ案内してやると言い出したので、そんな爺さん連れてっても商売にならんよと注意する。

それでも、おヤエが優しく老人お荷物を持ってやると、感激した老人は、連れがいるんだと言い出し、突堤の方を指差すと、そこには50人もの老人たちが手を振っていたので、慌てて留吉も老人に愛想良くなるが、もう老人の方が留吉の相手をしなかった。

一挙に大量の客を連れて来たおヤエの功績は主人の耳に入り、食事の盛りつけの手伝いをするおヤエの腕前を褒めに来る。

そんなおヤエは料理を運ぶ事になり、「百合の間」に行くように指示されるが、初めて客室に向かうおヤエは勝手が良く分からず、3階だと聞いてやって来るが迷ってしまい、通りかかった泊まり客に「百合の間」の場所を聞く始末。

何とか「百合の間」にたどり着いたおヤエだったが、部屋の中には客はおらず、このままだと料理冷めてしまうと持って帰る途中、こっちの部屋の料理はまだかと催促する泊まり客2人組に遭遇したので、これ幸いと、持っていた「百合の間」用の料理を渡してしまう。

調理場に戻ったおヤエは、今度は「アヤメの間」だと言われて別の膳を渡されるが、そこにはもう配って来たと今の顛末を話すと、「百合の間」の料理と「アヤメの間」の料理では値段が違い、「百合の間」の方がずっと高級なのだと注意される。

主人の部屋に呼び出されたおヤエは、とんだ不始末をしでかしたと主人から叱られ泣き出すが、そこに主人に会いたいとやって来た2人組は、さっきおヤエが「百合の間」用の料理を渡した泊まり客たちだった。

おヤエがいる事に気づいた2人組は、さっきの飯はうまかったと褒め、自分らは全国農業組合のもので、今回は下検分にやって来たのが、宿はここに決める事にした。会員は全部で500人おり、これから毎年来るつもりだと言うので、それを聞いた主人は仰天してしまう。

しかし、バカ正直なおヤエだけは、さっきの料理は3000円の…と言いかけるが、上客を掴んだと知った主人は、そのおヤエの上に乗っかり、口を塞ぐのだった。

その夜も、1人黙々玄関で靴磨きをしているおヤエのまじめな働き振りを見かけた主人は、すっかりおヤエの事を気に入ってしまう。

伊東にある「旅館 川良」から、カメラを方にぶら下げ、散歩に行くと言って出てきた1人の男(渡辺篤)が、その足で熱海の「つるや」の中に入り込んで来たので、廊下で出会ったおヤエは客だと思い込み挨拶する。

その直後、自分が持っていたほうきの柄にその客のカメラが引っかかっていた事に気づき、カメラを取り外そうとしていると、裏蓋が開いて、その中からフイルムではなく、鍵の束などが転がり落ちて来る。

階段を上りかけていた男は、カメラがない事に気づく戻って来ると、おヤエが鍵の束などを不思議そうにいじっていたので、慌てて取り上げる。

その後、男は二階の無人の部屋に入り込むと、机の上にあった菓子をつまんだり、貴重品を入れる金庫を、鍵束の合鍵で開けると、中から財布を取り出したりして出て行く。

そこで又、男は料理を運んで来たおヤエと遭遇したので、写真を撮ってやるなどと言い出す。

喜んだおヤエは、持っていたお膳を窓際に置くと、カメラを構えながら後ずさって行く男に言われるがままポーズを取り始めるが、その時、お膳の料理を狙った猫が近づいて来たので、慌てて、この泥棒!と叫ぶ。

すると、男は腰を抜かせたように階段から転がり落ち、泥棒と言うおヤエの声に慌てて駆けつけて来た従業員や客たちに取り囲まれてしまう。

一方、おヤエには二階の客が慌てて近づいて来て、ちょっとトイレに言っている間に、部屋に置いてあった金を盗まれたと申告する。

驚いたおヤエが階段を降りて来ると、さっきの男が観念して、取った財布などを取り出して謝っているではないか。

何事かとおヤエが聞くと、従業員仲間が泥棒だと言うので、そこにやって来た主人にもその事を教える。

おヤエは泥棒を捕まえた功績を認められ、地元署の署長から表彰状をもらえる事になり、主人も女将も、部屋に呼んだおヤエに、これからもずっといてくれないかと頼み込む。

しかしおヤエは、自分は今、東京の屋敷に雇われているので帰らねばならないのだと事情を打ち明けると、うちはそこの2倍給料を出そう、いや3倍出そうなどと主人と女将は言い出す。

それでもおヤエは、お金の問題ではないのですときっぱり断って仕事に戻って行く。

話を聞いていた留吉は、自分に考えがあると言い出し、主人と女将に、とにかく、おヤエをここに引き止めておけば良いんでしょう?と提案する。

その頃、伊東にいた波川は、達之介との賭けに勝つために、昔の戦友である地元の船乗りに保険を無理矢理勧誘し、契約書にハンコを押させる事に成功していた。

喜び勇んで、「旅館 川良」に戻って来る途中、波川はヤクザ風の男にぶつかり、ちょっとビビってしまったりする。

部屋に戻って来た川浪は、金坊やお酉婆さんに、契約が取れたのでおごってやると上機嫌で言うが、肝心の賭けの相手の達之介がいないのでどうしたのか?と聞くと、一足先に帰ったとお酉婆さんが言うではないか。

しかし、達之介は帰ったのではなく、「つるや」で働いていたおヤエの元に戻って来て、必死に口説き落とそうとしていたのだった。

おヤエは仕事中にそんな話されても困りますと迷惑がるが、達之介は、じゃあ、お風呂で「俺は待ってるぜ〜♬」などと一方的に言い残して去って行く。

その後、浴室の湯船に浸かっていた達之介は、入って来た女性客をおヤエだと思い込み抱きつこうとするが、それは夫と一緒に入って来た見知らぬご夫人だたので、悲鳴を上げられ、その後入って来た夫に殴られてしまう。

思わぬ怪我をしてしまった達之介は部屋で寝込んでしまうが、その看病をしてくれたのはおヤエだった。

達之介は、私、真剣なんだよと食事を口に運んでくれていたおヤエに訴えるが、お清ちゃんが帰るまで、勝手に帰れないし、彼女は自分を裏切るような友達じゃないとおヤエは説明する。

そのお清は約束通り、熱海駅に到着していたが、それを待ち構えていた留吉は、近くのオープンカフェに連れて行くと、主人の命令で、すぐに伊東の別館の方へ言ってくれと伝える。

しかし、お清は、一目おヤエさんに会っていかなければ…と躊躇したので、おヤエさんなら、あんたが国に戻った後、1日で主人に許してもらい、とっくに帰ったのだと留吉は噓を言う。

留吉は、お清の足止めに成功したと「つるや」の女将に電話で連絡する。

その日の昼、主人の部屋に呼ばれたおヤエは、留吉からの連絡で、お清は昼過ぎの列車にも乗っておらず、戻って来なかったようだ。やぱっり諦めた方が良いよ。後3ヶ月だけ働いてもらおうと説得する。

その話を廊下で立ち聞きしていた達之介は、部屋に入って来るなり、自分がその3ヶ月分に利子を付けて払いましょうと主人に告げる。

しかし、主人は、お金の問題ではないとおヤエさんが言っていたはずだが…と言い出し、おヤエは、それはそうですけど…と言いつつも、泣き出してしまう。

その頃、留吉に言われた通り、伊東の「太平洋 川良別館」にお清は到着していた。

おヤエは、東京の主人今井三郎に電話をし、友達の償いのため、3ヶ月間こちらで働く事になってしまった。もうおヤエの事はお忘れください。他の女中を雇って下さいと、そんな事困るよと困惑する主人に一方的に告げると電話を切り、その場に泣き崩れてしまうのだった。

そんなおヤエを、付き添っていた達之介が慰める。

一方、「太平洋 川良別館」の部屋に逗留中だった波川が仲居を呼ぶと、やって来たのはお清だったので、互いにどうしてこんな所にいるのかと驚き合う。

おヤエの事を聞かれた波川は、あんたの身替わりとして、いまだに熱海に居残っているのだと教えると、話しが違うとお清は驚く。

その話を聞いていた金二郎は、これは何かカラクリがあるんだよ。ボクは推理小説のファンなんだと生意気な事を言い出す。

「つるや」では達之介が、自分が手引きするから逃げなさいと必死におヤエを説得していたが、おヤエはそんな事は出来ないと拒否していた。

そんな「つるや」の玄関に、必死に止めようとする留吉を押しのけながらやって来たのは、お清を先頭に、お酉、波川、金二郎ら当選者一行だった。

お清とおヤエは、互いの姿を観ると、感極まって抱き合って泣き出す。

その様子を観ていた主人と女将は、何もかも、おヤエさんを引き止めたいためにやった事で、つい留吉の口車に乗ってしまったんだと謝罪する。

その場にいた全員は留吉を責め始めるが、それを制止したおヤエは、誰が悪いんでもない。こういう巡り合わせになったんだから…、ケセラ・セラ…と悟り切ったようなことを言う。

おヤエの身替わりは放免され、他の当選者たちと共に、無事東京へ帰ることになる。

武蔵小山商店街に戻って来たおヤエは、生まれて来たはずの赤ん坊に渡すため、風車を20円で購入すると、いそいそと今井家に向かう。

ところが、その玄関先で掃除をしている見知らぬ少女(刈屋ヒデ子)がいることに気づく。

いつから働いているの?と聞くと、今日から雇われた。自分は信州から出て来たけど、なかなか仕事がなかったんで、本当に良かったと少女はお国訛混じりで喜んで答える。

姉ちゃんはどこの人なの?と少女が聞いて来たので、何でもないの、あんたは陰ひなたなく働いてね。早く標準語になってねと言い残し、風車を赤ちゃんに渡してと少女に託すと、すごすごと立ち去って行く。

お堀端にやって来たおヤエは、泣き笑いのような表情になって、肩のショールを脱ぐのだった。