我流の東北弁と、ちょっと意地悪なキャラクターで一時期人気者だったコメディエンヌ若水ヤエ子主演の中編(52分)映画。
主演映画だけに、若水ヤエ子のお馴染みのキャラクターを生かしたドタバタ喜劇だろうと勝手に想像していたが、意外にも、映画の中のおヤエさんは意地悪な所など全くない、純朴でしっかり者の優しい女性として描かれていた。
脚本が「昭和ガメラ」や「ボクは五才」などでお馴染みの高橋二三氏なので、この作品でも、子供を中心にした心温まる人情ペーソスものになっている。
女中として勤めた家の夫婦が共に欲深で性格が悪く、実の子すらきちんと育てていない現実を目の当たりにしたおヤエさんが、持ち前の優しさと生真面目さで改心させてしまうと云う展開は、柳家金語楼主演で、若水ヤエ子もレギュラーで出ていた同じ女中コメディ「おトラさん」(1957〜)などとはかなり趣が違う。
いざこざが絶えない家庭の人間関係を、外部からやって来た他人である女中が解決してしまうと云う展開は、後のホームドラマなどでも良く使われていたように記憶しているが、実はこの作品などがその走りのようなものだったのかも知れない。
笑いの要素としては、金持ちの叔父叔母を騙すために、家の主人の女房役をやる羽目になってしまうと云う辺りがミソなのだが、正直、そんなに大笑いさせるような部分はない。
せっかく、森川信、清川虹子、武智豊子と言ったベテラン連中が出てきながら、今ひとつ巧く生かし切れていないように感じるのも惜しまれる。
ヒロインたる若水ヤエ子にしても、我流の東北弁以外には特別なギャグのようなものを持っていたわけでもないし、コメディエンヌだけに派手なオーバーアクションのようなものも出来ないので、まじめな性格にしてしまうと、これと言って笑いのネタがないのだ。
容貌も、笑いを取れると云った不美人でもなく、意外と普通。
幼稚園で急遽挨拶を依頼され、選挙演説風の挨拶をしてしまうなどと云ったアイデアなども、特に、彼女でなければ成立しないと云うものでもないし…
では、この映画はトータルであまり面白くないのかと云うと逆で、後を引くと云うか、意外にもおヤエさんの誠実なキャラが予想外に魅力があるので、次も又観たくなってしまうような所がある。
まじめな若水ヤエ子と云うのも悪くないと云うことに気づかされるのだ。
何かの添え物的作品だったのだろうが、十分、添え物としての役割は果たしているように思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1959年、日活、高橋二三脚本、春原政久監督作品。 走る列車の噴煙をバックにタイトル 列車は上野駅に到着する。 その上野駅でタバコを吸い待ち構えている1人のサングラス姿の怪し気な男は、改札口から出て来て何やら紙切れを読んでいたおヤエ(若水ヤエ子)に声をかける。 おヤエは、世田谷区東沢町18番地串本という家に行きたいのだと云うので、その怪し気な男はそれなら自分が連れて行ってやると言う。 それを聞いたおヤエは、東京でこんな親切な人に出会えて嬉しいと喜び付いて行くが、外に出た所で、タバコを買って来るのでここで待っていてくれと男に言われる。 男が近くの売店に向かうと、先ほどの列車で一緒だったおばさん2人が声をかけて来て、あの男はぽん引きと云う女を騙して売り飛ばす悪い奴だから逃げた方が良いと忠告してくれる。 それを聞いたおヤエは自分の無知を恥じ、すぐにその場を逃げ出してしまう。 売店でタバコを買っていたサングラスの男は、おヤエの姿が消えてしまった事に気づき慌てる。 おヤエはその後、自力で目的の家までたどり着き、玄関に入ろうとするが、中から茶碗が割れるような音が聞こえて来たので、一瞬たじろいでしまう。 それでも勇気を奮って玄関を開けると、中では夫婦喧嘩の真っ最中だった。 妻らしき女があんた、誰?と怒鳴りつけて来たので、おヤエは福島からやって来た女中のヤエですと自己紹介するが、妻の花枝(高友子)は必死に詫びる夫の串本良吉(柳沢真一)に、今日こそは出て行きます!と宣言し、奥へ引っ込んでしまう。 良吉は、来たばかりでまだ上がってもいないおヤエに、仲裁をしてくれと頼んで来るが、おヤエはそう言う事は私の仕事ではないときっぱり断ろうとする。 しかし、結局、見かねて上がり込むと、荷造りをしていた花枝を手伝うと云いながら事情を聞くことにする。 花枝が言う事には、6年前、大金持ちの跡取りと言われて自分は良吉と結婚したが、自分が昔ダンサーだった事を理由にその約束を破られたらしい。 それを怖々聞いていた良吉の方は、叔父の家を継ぐ約束だったのだがダメになった。そのお詫びに電気冷蔵庫も洗濯機も買ってやったではないかと言うが、花枝は全部月賦じゃない!と機嫌は直らず、自分は青春を取り戻すのと言い残して家を出て行く。 その後を追って玄関を出たおヤエは、玄関脇の灌木から、お母ちゃん又出て行ったの?すぐ帰って来るの?帰って来ないの?と話しかけて来た女の子を発見する。 どうやらこの家の娘らしかったので、すぐ帰って来ますよとおヤエが答えると、以外にもその子は、帰って来るの?と悲しそうに言う。 近づいてその子の様子を見たおヤエは、転んだのかスカートが汚れ、膝小僧に怪我をしている事に気づく。 お母ちゃんに叱られるので我慢していたのだと云うので、どうやら彼女は母親に可愛がられていないらしい事に気づいたおヤエは、優しく家の中に連れて入り、亮吉に傷の手当をさせると、自らおんぶしてやったりする。 すると、その娘ミドリ(小林和子)は、お姉ちゃんみたいなの、お母ちゃんになって惜しいとおヤエの背中で言い出す。 その時、家にやって来たのは、上野駅でおヤエに声をかけて来たサングラスの男だった。 男は勝手に家に上がり込んで来ると、ミドリの頭をなでてやる。 良吉が言うには、その男はぽん引きではなく、本当に上野駅におヤエを迎えに行っていた花枝の弟一平(関口悦郎)だった。 良吉は、また出て行った花枝が今夜あたり、君の家に行くと思うと説明する。 すると、一平は、姉さんの宿賃を要求し帰って行く。 その直後、郵便屋がやって来て、応対に出たおヤエと良吉に速達を渡す。 その場で手紙を読んだ良吉は、おじとおばが自分の夫婦仲を観るため上京する。2人の仲が円満だったら遺産を譲る。不仲だったら、遺産は社会事業へ寄付すると書いてあったので慌てる。 すぐに一平のアパートへ向かった良吉は、花枝がいないようだったので、財産もらったら分け前をやるので、姉さんを説得して帰らせてくれと一平に頼んで帰るが花枝はカーテンの裏側に隠れていた。 良吉が帰ると、弟一平の前に出て来た花枝は、今の良吉の言葉は、自分を家に連れ戻す口実だと言い、無視する事にする。 その後、一平がバンドのドラムを叩いているキャバレーで客の相手をしていた花枝は、見せの入口に良吉が探しに来たので、呼びに来たボーイに、自分はいないと言うように命じる。 良吉は花枝を喜ばすために会社から金を前借りして帰宅するが、そこに叔父の串本熊左衛門(森川信)とその妻お繁(武智豊子)がやって来る。 2人は良吉を快く思ってないらしく、お繁などは、良吉は子供の頃から嘘つきだったなどと本人を目の前にして言いたい放題の有様。 そんな2人をかいがいしく家に上げたおヤエを熊左衛門とお繁は嫁か?と尋ねる。 それを聞いた良吉は、おヤエを台所に連れて来ると、あの2人がいる間だけ花枝になってくれと頼む。 しかし、おヤエは、人に騙されても人を騙してはいけないと母ちゃんから言われていると言い、きっぱり断ろうとするが、分け前はやると良吉が頭を下げ、これもみんな母親の優しさを知らずに育って来たミドリのためなんだと良吉が言い出すと、人の良いおヤエは承知するしかなかった。 再び熊左衛門とお繁の前に出て来たおヤエの事を、どこのキャバレーに働いていたんだ?と2人が聞くと、良吉は銀座だと答える。 そこに、おヤエさん!と呼びかけながらミドリが幼稚園から帰って来る。 熊左衛門とお繁は、孫が出来ていたのか!と驚きながらも、今のおヤエと云うのは?と聞いて来る。 おヤエは苦し紛れに、女中の名前だと答える。 良吉とおヤエから別室で事情を説明されたミドリは、お芝居ごっこは大好き!と言い出し、自分もおヤエの事を母親だと嘘をつく事を約束する。 そんな子供に嘘をつかせる事になったおヤエは、おっ母さん、許して下さい!と故郷の母親に詫びるのだった。 おヤエは、廊下の拭き掃除など始めるが、その様子を観ていた熊左衛門とお繁は、ありゃ三日坊主だと耳打ちし合い、信じていなかった。 翌朝、良吉が湧かした風呂に熊左衛門とお繁を案内するおヤエ。 そんなおヤエを呼んだ良吉は、今日は自分は会社を休めないし、お前があの2人を東京見物に連れて行ってくれ。前借りして来た1万円を全部使って良いからと頼む。 おヤエは、自分も東京なんて来たばかりで何も知らないと断ろうとするが、かえってその方が、まじめに家の仕事ばかりしている主婦らしくて良い印象を与えるに違いないなどと良吉は説得する。 結局、その日、おヤエは、ミドリと熊左衛門とお繁を連れて観光バスに乗り込むが、初めて観る皇居や二重橋などに自分の方が感動してしまい、熊左衛門とお繁に呆れられる。 浅草では、家から持って来た新聞折り込みの割引券を使って日活映画に2人を案内したので、熊左衛門とお繁はなかなか倹約家だと感心する。 昼になったので、近くの中華料理店に2人を案内したおヤエだったが、偶然そこに来合わせたのは、一平と彼女だった。 一平は、ミドリを連れて来ているおヤエの姿に驚くが、おヤエは一平の事を自分の弟だと熊左衛門とお繁に紹介し、何とかごまかす。 その熊左衛門は、1人店の料理を注文せず、自分たちが作って来たおにぎりを食べているおヤエの姿を観てますます感心するのだった。 その夜、帰宅して来た良吉に、おヤエは、預かった1万円のうち、使わなかった7290円の釣りと使った分の明細書を渡すが、とにかく熊左衛門とお繁に贅沢をさせ機嫌を取ろうと考えていた良吉は、何で全部使って来なかったんだ!と怒り出す。 しかし、その会話を聞いていた熊左衛門とお繁が2人の元へやって来て、お前には過ぎた女子だ!と良吉の方を叱りつけ、お前たちに財産を与えても良いと思っていると打ち明ける。 その頃、アパートに帰宅した一平から、おヤエが自分の身代わりを演じていると聞いた花枝は激怒していた。 一平は、熊左衛門とお繁を騙すための芝居と気づいていたので、今行ったらぶち壊しだよとなだめるが、短気な花枝は家に戻ると言い出す。 その頃、良吉はお繁の肩をもみ、おヤエは熊左衛門に灸を据えてやっていた。 熊左衛門とお繁はすっかり、2人に心を許していたが、そこに戻って来たのが花枝だった。 その姿を観たミドリは、あ、お母ちゃん!と口走ってしまい、慌てた良吉は、花枝を別室に連れて行くと、財産のためだと説得する。 再び、熊左衛門とお繁の前に戻って来た良吉は、今のはおヤエと云う女中だと教える。 おヤエは花枝のために、女中部屋に自分用の布団を敷いてやり、自分の寝間着を渡すが、部屋を出るとき、花枝がその寝間着の匂いを嫌そうに嗅いでいるのに気づき、何か?と問いかける。 良吉とおヤエの寝室の隣でミドリと川の字で寝る事になったお繁が、もう財産を譲ってやっても良いと思っていると呟くと、熊左衛門は、夫婦仲は昼間だけでは分からないからな…と意味深な事を言い出す。 その会話が聞こえた良吉は、隣で寝ていたおヤエに抱きつこうとするが、逆に投げ飛ばされてしまう。 良吉は隣の部屋を指差し、芝居だとジェスチャーで伝えるが、おヤエは、自分の手の甲を吸ってキスの音を出せば良いとこれまたジェスチャーで答え、2人の布団の間にテーブルを横にしてつい立てにしたので、仕方なく、良吉は自分の手の甲を吸ってキスの音を出し始める。 その音に気づいた熊左衛門とお繁は、思わず笑顔になる。 一方、寝室の廊下で、仲から聞こえて来るキス音に嫉妬していた花枝は、部屋に飛び込むと、寝ていたおヤエと疲れて寝入った良吉の手がくっついていたのを勘違いし、2人を叩き始める。 おヤエも良吉も、隣に聞こえてはいけないと、必死に我慢するしかなかったが、花枝はおヤエを廊下に追い出し、良吉にキスをする。 その騒動で目覚めた熊左衛門は、今夜は寝られないぞとぼやき、お繁を自分の布団に来ないかなどと誘い呆れられる。 翌日は、ミドリの通う「ゆりかご幼稚園」の春の学芸会が行われる。 おヤエは母親として、熊左衛門とお繁と共に見学に出かけるが、お遊戯が全部終わった後、挨拶に立った園長先生(清川虹子)がミドリがその日の一番上手だった子に選ばれたので、お母さんに挨拶して欲しいと言い出す。 おヤエは必死に固辞しようとするが、周囲に勧められ、やむなく壇上に立つと、諸君!日本中の大人の皆様!昔は誰でも子供でした。子供の頃、幸せだった人は、自分の子供も幸せにしてやって下さい。自分の子供時代が不幸せだった人は、なおさら子供を幸せにしてやって下さい!ぜひ清き一票を!などと選挙演説のような口調で言い出したので、聞いていた観客たちは大笑いする。 その夜は、熊左衛門とお繁が夕食の席で踊りを披露するなど上機嫌だった。 おヤエは、自分が準備した料理を、さも女中役の花枝が作ったかのように座敷に持って行かせる。 すっかりおヤエが気に入った熊左衛門は、宿泊料として10万円を良吉にポンと手渡し、財産はお前に譲る事にしたと言い出す。 そして、1つだけ注意しておく。この女中は感じが悪いので、すぐに辞めさせなさいと云うではないか。 これには良吉は困ってしまうが、おヤエが、この女中は自分のハトコなので、辞めさせる事が出来ないのですと必死に言い訳をする。 熊左衛門は、こんなおヤエ(実は花枝)なんか嫁にしたら60年の愚作だと悪態をつく。 そんな中、何故か、ミドリがぐったりしてしまったので、おヤエが額に手を当てると、すごい高熱を出している事に気づく。 それを知った花枝は、ミドリちゃん!と叫びながら我が子に抱きつき、ミドリもお母ちゃん…と本当の母親を呼ぶ。 花枝はおヤエに布団を敷かせるが、その様子を観ていた熊左衛門とお繁は、自分たちが最初から騙されていた事に気づき、良吉に手を差し出す。 今渡した10万円を返せと云う事だった。 良吉は無念そうに、何とかこの10万円だけは…と抵抗するが、熊左衛門は財産は社会事業に寄付する!と宣言し、即座に家を出ようとする。 花枝も、そんな熊左衛門とお繁に必死に詫びるが、2人は聞く耳を持たなかった。 そんな騒動に呆れていたおヤエは、静かにしろ!ミドリちゃんのためと言いながら、そんなにいらない子なら、私がもらって育てる!どけ!このウスラ馬鹿!と怒鳴りつけながら、洗面器に水を用意し始める。 その後、やって来た医者の話では、風邪による高熱だが、今夜が峠だと云う。 翌朝、目が覚めたミドリは、「お母ちゃん…」と呟く。 それを聞いたおヤエは、もうお芝居ごっこは良いのよと言い聞かす。 それでもミドリは、もっとお芝居ごっこをしたいのと言うではないか。 その言葉を横で聞いていた花枝は初めて改心し、許して下さい。私が間違っていました。あなたは私たちの恩人です。人の財産など当てにして…。これからは貧しくとも、不不仲良く暮らして行きますとおヤエに詫びる。 それを聞いていた熊左衛門とお繁も安堵する。 ミドリは起き上がると、おヤエに抱きつく。 熊左衛門は、やはり全財産派お前たちに譲ることにしたと言い出すが、すっかり改心した良吉は、欲を出すとろくなことはないのでご辞退しますと言うではないか。 その言葉を聞いた熊左衛門は、疑わしそうに、本当に社会事業に寄付しても良いのか?と念を押すと、良吉は考えた末、やっぱり頂くと前言を翻したので、やっぱりいるんじゃろうが…と熊左衛門も笑う。 おヤエはミドリに、お母ちゃんの所へ行きなさいと勧めるが、ミドリがイヤイヤ”お母ちゃんなんて嫌い!と言うので、おヤエは一大決心をし、お暇を頂きますと良吉、花枝夫婦に頭を下げる。 それを聞いた良吉や花枝、熊左衛門とお繁も驚くが、おヤエはすぐに荷物をまとめて家を出て行ってしまう。 それを追いかけるミドリ。 おヤエは自分の名を呼ぶミドリの声を背中に聞きながらも、自分がいたのでは、いつまで経っても、ミドリちゃんはお母さんと仲良くなれないと心の中で呟いていた。 そんなおヤエの後ろ姿に向かい、花枝も、いつでも帰ってらっしゃい!と声をかける。 良吉、熊左衛門、お繁、そしていつの間にかやって来た一平も、遠ざかって行くおヤエをいつまでも見送るのだった。 おヤエは、女中や女給の求人の貼紙が貼ってある壁を観ながら、また上野駅の方向に去って行くのだった。 おヤエさんはどこへ行く?の文字が画面にかぶさる。 |
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