TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

おヤエの女中と幽霊

おヤエシリーズの第5作で、上映時間52分の中編である。

今回観たフィルムでは、日活の会社ロゴは入っているものの、タイトルやキャストロール部分は失われていたのが残念。

主人公おヤエの職業がまた初期の女中に戻っているが、この回から監督が交代しており、それと合わせて、それまでの婆さんポジションの常連だった武智豊子が飯田蝶子にバトンタッチしている。

第一作からレギュラー出演しているのは森川信だけになったが、坊屋三郎など新顔も登場している。

いわゆる幽霊屋敷もののコメディだが、2体別々の幽霊が登場すると言う趣向が面白い。

鍋山家に伝わる猫の怪談は、もちろん、鍋島藩の化け猫騒動をヒントにしたものだろう。

猫が大好きな幽霊と大嫌いな幽霊の狭間に入って、ノイローゼ状態になるおヤエの姿がおもしろおかしく描かれている。

モノクロ作品だけに、幽霊の表現は初歩的なオーバーラップであり、特に特撮的に見応えがあると言うほどではないが、相変わらず高橋二三氏の脚本が良くできており、飽きずに最後まで楽しめる趣向になっている。

藤村有弘の、でたらめ外国語芸もたっぷり楽しめる。

本作ではドタバタ調が中心になっているので、ペーソスの方はやや控えめ。

職を求めて歩き回ったり、鍋山家に帰るシーンなどは、どうやら渋谷界隈らしく、当時の渋谷の様子が分かって興味深い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、日活、高橋二三脚本、小杉勇監督作品。

「蒲焼き、どぜう」などと看板を出している近所の魚屋にやって来た女中のおヤエ(若水ヤエ子)は、包丁を捌いていた馴染みの大ちゃん(近江大介)に、刺身とイワシ100gを頼み、勉強してよ、あんた、勉強する、するっていつも言っててしてくれないんじゃないのなどと冗談まじりに注文を付ける。

「雪印乳業 成城営業所」と書かれた牛乳箱から牛乳瓶を取り出して屋敷に入って行ったおヤエは、庭にいた黒猫のクロに、刺身買って来たよと優しく声をかけると、縁側から座敷に上がり、吸引器を前に大口を当てて首を傾けて眠っているかに見えた御隠居さん(飯田蝶子)の顔を真正面に起こし、口に吸引器がちゃんと当たるようにすると、私たちはイワシで、クロにはお刺身買ってきましたよと報告する。

次の瞬間、座っていたご隠居がばたりと倒れたので、慌てて助け起こし、すぐに医者と本宅のお子さんを呼んできますと声をかけたおヤエだったが、それを止めた御隠居は、我が子よりおヤエさんの方が尽くしてくれた。ここにダイヤの指輪がある。捨て値でも10万は下らない品物だがあんたにあげる。その代わり頼みがある。私が死んでも、クロを私に変わって育てておくれ。指輪はクロの養育費と思って…と良い残しと息絶えてしまう。

仕事を失ったおヤエは、クロを抱いて新しい仕事先を探して廻るが、猫付きで雇ってくれるような家はどこにもなかった。

お堀端で途方に暮れるおヤエだったが、そのとき、静かな湖畔の森のかげから♬と歌いながら、幼稚園児の一団が近づいて来るのを観かける。

その園児の一人が、バスケットに入れた子犬を運んでいたのを観たおヤエは、そうだ!バスケットだ!と思いつく。

蓋付きバスケットにクロを入れ、泣くんじゃないよと言い聞かせてやってきたのは、職業紹介所から紹介された鍋山家であった。

先輩女中らしき女性に案内され、大きな仏壇の前で対面した奥さんのリエ(新井麗子)は、一つ、女中は忠節を尽くす事。一つ、女中は礼儀正しくする事。一つ、女中はつまみ食いをせぬ事。一つ、女中はご用聞きと恋愛をしない事。一つ、女中はおしゃべりしない事などと厳しい規則をおヤエに約束させる。

先ほど、おヤエを出迎えた女中のような女性は桃子(香月美奈子)と名乗り、これから仲良くしましょうと手を差し出して来たので、おヤエも喜んで握手をする。

女中部屋に案内してきた桃子は、近くで猫の鳴き声が聞こえて来たので不思議がるが、おヤエは気のせいですよとバスケットの方を気にしながらもその場はごまかす。

台所で料理の準備を始めた桃子から、ビールを出してと頼まれたおヤエは、冷蔵庫から3本ビールを取り出すが、それをテーブルに思うとした時、それまで桃子が3枚の皿に盛っていた料理がきれいに消え去っている事に気づく。

どうしたんでしょう?と戸惑いながらも、急いで別の料理を作りましょうと言って準備を始めたおヤエは、今テーブルに置いた3本の瓶ビールの栓が全部一斉に抜け、中からビールが噴水のように溢れ出してきたので唖然とし、不思議なこともあるものねぇとため息をつく。

その頃、鍋山家の応接間では、主人の鍋山武之(森川信)とリエが、店の支配人の前川(坊屋三郎)が持ってきた見合い写真を観て満足していた。

前川が言うには、各国語が話せる人物らしい。

皿を洗おうと箱から取り出していたおヤエは、桃子からそのお皿は注意してねと言われ、蛇口の所へ持って来ようとするが、その蛇口の水は激しく出たり出なかったりと不思議なことがまだ起きていた。

皿を洗い始めたおヤエだったが、そのとき、調理台の恥じの方から鍋ぶたが飛んできたので、驚いたおヤエは思わず手を離してしまい、持っていた皿は床に落ちて全部割れてしまう。

驚いた桃子は、それは家のご先祖がお殿様から頂いた家宝の皿なのよと教え、おヤエは狼狽するが、そこにやって来たリエが、支配人にご挨拶なさいと桃子に言いつけ、何か異変を察したのか、床を覗き込んで、大切な皿が割れている事に気づく。

誰が割ったんです!と問いただすリエに、ためらいながらもおヤエが名乗りかけたその時、桃子が私がやりましたと答える。

全くあなたと言う人は!と起こりながらリエが去ると、どうして私をかばってくれたんですとおヤエは桃子に聞く。

そうでもしなければあなたは首よと桃子が言うので、あなたも首になるのでは?とおヤエが不思議がると、私は絶対に首にならないの。私は飼い殺しだから…と奇妙な事を言って、桃子は二階に上って行く。

その後を追いかけて行ったおヤエは、桃子が入って上着を脱いだ部屋が、とても女中部屋などではなく豪勢な事に気づく。

あなたは一体何なんですか?とおヤエが聞くと、私はここの一人娘なのと桃子が言うではないか。

それを聞いたおヤエは驚いて正座をすると、お嬢様、失礼いたしましたと詫び、でもどうして女中のような事をしているんですと聞いてみる。

私は芸者の子なの。お父様が若い頃に生ませたのであり、本当の母親は3年前に亡くなった。優しい人だったと桃子は告白し、生前の母親の写真をおヤエに見せる。

おヤエはその写真の裏には、見知らぬ好青年の写真が貼ってあったので、あれ?とおどけてみせる。

その後、桃子はリエから、鍋山家の恥ですよと、皿を割った不始末を強く叱られる。

そんな哀れな桃子の姿を観ていたおヤエは、ごめんなさい、御隠居様。おヤエは今日から、あのお嬢様を新しいご主人に決めましたと心の中で誓うのだった。

夜、女中部屋に戻って来たおヤエは。客の食い残しの刺身をクロに食べさせようとバスケットを開けるが、中はもぬけの殻だった。

慌てて、押し入れの中などを探しているとき、下から、誰だ猫なんて連れ込んだのは!と怒鳴るご主人の声が聞こえて来る。

書斎では、主人の鍋山武之がゴルフクラブで室内に迷い込んでいたクロを追いかけ回していた。

外は雨が降っている中、鍋山の狂乱振りは異常で、窓ガラスをクラブで割ったりしていたので、駆けつけてきたおヤエは鍋山にしがみついて、クロを助けて下さいと詫びる。

お前か猫を連れ込んだのは?捨てて来い、さもないと叩き殺すぞ!問答無用!捨てないなら、お前も家を出て行け!と怒り狂う鍋山を観ていたおヤエは、旦那様はどうしてそんなに猫がお嫌いなのですか?と聞いてみる。

その場にやって来たリエも加わり、鍋山家の歴史を聞かせてやると言い出した鍋山は、今から238年前、我がご先祖鍋山武左衛門(森川信-二役)は、あるお殿様(坊屋三郎-二役)に仕える家老だったが、その殿さまは、おつるの方(天路圭子)と言う奥方にすっかり入れ込んでいた。

おつるが熱海に別荘が欲しいと殿にねだるので、庶民は今、泣いておりますと家老として苦言を呈し、そのまま立ち去ろうとした時、子猫が足下にじゃれ付いてきたので、思わず足蹴にすると、その子猫は死んでしまう。

その子猫は、お鶴の方の愛猫タマであったため、驚き嘆いたおつるの方は、お殿様、タマの仇を討って下さいと言い出す。

それを聞いた殿さまは詫びる家老に、動物愛護精神に欠けておるので切腹を申し付ける。

かくして、家老鍋山武左衛門は、万斛(ばんこく)の怨みを抱きながら切腹する。

それ以来、この屋敷に猫が入り込むと不可思議な事が起こるようになったのだと鍋山は説明を終える。

事情を知った以上、猫のクロを屋敷に置いておくわけにもいかず、月夜の晩、おヤエはクロをバスケットに入れ、公園に捨てに行く。

バスケットの中には、好物の刺身を入れ、御隠居さん許して下さい。背に腹は変えられませんから…と詫びて屋敷に戻る。

すると、裏口の扉が開いたり開いたりする異変が起こったので、御家老様、もう猫は捨ててきたんですから、南無阿弥陀仏…と思わず祈るおヤエ。

女中部屋に戻り、御隠居の形見の指輪箱を観て、寝床を敷き始めたおヤエだったが、敷き布団に敷布をかけようとすると、何故か敷布が丸まってしまい、何度やっても出来ないし、電灯も点滅し始めたので、御家老様!許して下さい!と怯えたおヤエだったが、そのとき指輪の箱から煙が立ち上り、そこから出現したのは御隠居様の幽霊だった。

御隠居の幽霊は、あれほど人と約束しておきながらクロを捨てるとは…。この世に残り、恨み晴らさずに置くものかと言うので、おヤエは、お助け下さいませ、御隠居様と畳に頭をすりつけて詫びるが、御隠居は、これおヤエ、クロを拾って来れば良し。拾って来ないその時には…と脅して来たので、おヤエは思わず、拾ってきますと答えて、公園に起きっぱなしにしていたボックスの元に戻り、クロを抱えて屋敷に戻って来る。

ところが、今度は今の仏壇がひとりでに開き、そこから先祖の家老の幽霊が出現する。

良くも猫を持ち込んだな!取り殺してくれるわ、覚悟いたせ!捨ててくれば良し、捨てて来ぬその時は…と脅しながら刀を振り上げて来る。

結局、翌朝、全く眠れなかったおヤエは、クロを動物病院に持って行く。

クロを診察した医者は、どこも悪くない。むしろ、あんたの方が完全にノイローゼ状態だ。すぐに入院した方が良いと勧めるが、おヤエはクロをその医者に押し付けて、お願いですから預かって下さいと一方的に頭を下げると逃げるように帰って行く。

屋敷に戻り、真夜中の女中部屋の蚊帳の中に入ったおヤエは、御隠居と御家老に、猫は外に預けて来たので許して下さいと祈る。

そのとき、障子に怪しい影が浮かんだので、おヤエは怯えるが、入ってきたのは桃子だった。

どうしても寝付けないの。とても困っているのと言うので、おヤエは化物以外の事なら何でも引き受けます。心配事はしゃべっただけでも楽になりますからと優しく声をかける。

桃子は、明日お見合いがあるのだと暗い表情で言うので、他に恋人でもいるんですか?とおヤエは察する。

翌日、支配人の前川に連れられて貿易会社の青年社長と言うふれこみの葛原信輔(藤村有弘)が鍋山家にやって来る。

葛原は、出迎えた鍋山やリエの前で、でたらめイタリア語を披露した後、真珠を商っている鍋山に、その真珠を見せてもらえないかと申し込む。

鍋山は喜んで、支配人から鍵を受け取ると、金庫を開け、膨大な量の真珠を取り出して見せる。

総額どのくらいの価値がありますか?と聞かれた鍋山は、5000万くらいですかなと答える。

それを聞いた鍋山は、香港の某バイヤーから斡旋を頼まれているので、これを全部預からせてもらえないかと切り出して来たので、すっかり喜んだ鍋山夫婦は、この娘も一緒に…と言って桃子も押し付けようとする。

その頃、動物病院に来ていたおヤエは、今日半日だけ貸して下さいと頼み、クロを強引に引き取って屋敷に戻る。

葛原は、今度はでたらめフランス語を使って桃子に言い寄っていた。

桃子が化粧を直して来ると言って部屋の外に出る際、おヤエから受け取ったクロを、この猫は私の命から2番目に大事なものですと言って葛原に託して行く。

葛原がクロを抱いて待っていると、突然、窓のカーテンが閉まり、シャンデリアが点灯し始める。

さらに、応接間の隅に置いてあった甲冑から、御家老の幽霊が、猫を可愛がる不届きもの!と言いながら刀を振りかざし出現したので、驚いた葛原は部屋から出ようとするがドアが開かない。

実は廊下側から、おヤエと桃子がドアノブをしっかり押さえていたのであった。

別のドアに向かった葛原だったが、そちらも先回りしたおヤエと桃子が押さえつけており開かない。

パニック状態になった葛原は、こんな幽霊が出るような家なんて二度と来ません!と言い残して帰ってしまったので、席を外していた鍋山夫婦は玄関先で呆然としてしまう。

おヤエが猫を持ち込んだと知ったリエは、お前のお陰で何もかもメチャクチャです!出て行きなさい!と怒鳴りつけたので、桃子も一緒に出て行きますと言い、おヤエと共に屋敷を出る事になる。

外に出た桃子は、私はこの家に引き取られるまでは貧乏だったけど、五郎さんがいたから…と、恋人の存在をおヤエに打ち明ける。

人間誰でも、好きな人暮らせるのが一番幸せですからねとおヤエも同調する。

おヤエは、その桃子が連れて来た秋田五郎(広瀬研二)と3人で、とある旅館にやって来る。

五郎は、自分は今、会社の独身寮にいるし、アパートを借りるにしても、権利金などお金がかかる。田舎に仕送りしている事もあり、2人で一緒に住むのは難しいと事情を打ち明ける。

おヤエは、今日の所は秋田さんは独身寮に帰って、明日また検索しましょうと言うが、その五郎が5分ばかり2人きりにして欲しいと言い出したので、仕方なく、おヤエは、クロを抱いて廊下に出る。

その廊下にもメス猫が近づいてきて、クロが反応し始めたので、クロ、お前も青春だなと言いながら、廊下にクロを降ろしてやると、あまり遠くへ行くんじゃないよと言い聞かせて、自分は廊下の飛び石を寂し気に飛んでみたりするのだった。

その後、宝石屋に桃子を連れやって来たおヤエは、御隠居から預かった指輪を売ろうと店主(榎木兵衛)に見せるが、これはニセモノだが台は18金なので2000円くらいなら買い取ると言うではないか。

10万円を当てにしていたおヤエはがっかりするが。取りあえず、その2000円を桃子に渡すと、公園のベンチに力なく座り込む。

お前の養育費だった指輪が偽物だったので、もう義理はなくなった。どこへでも行きなとクロに言い聞かし、ボックスをそのベンチに置き去りにすると、桃子と2人で立ち去る。

おヤエは、私は女中をして前借りくらいしてみせますと言い出すが、桃子が私も女中をやるわと言うと、人の職場荒らしをしないで下さいと苦笑しながらたしなめる。

そのとき、車が横付けし、そこから降り立った2人の男が、桃子に鍋山桃子さんですね?と確認して来ると、有無を言わさず車に押し込み連れ去ってしまう。

驚いたおヤエは急いでタクシーを停めると、その車を追跡する。

途中、信号待ちをしていた車に追いつきかけたので、降りそうとしたおヤエだったが、すぐに信号が青になり、また追跡を始める。

桃子を乗せた車が到着したのは鍋山家の屋敷で、桃子は2人の男に連れられ、鍋山夫婦の前につれて来られる。

すぐ後に到着したおヤエは、タクシーを降りると、桃子を捕まえた男たちにつかみ掛かって行くが、それを止めた鍋山が、この人たちはわしたちが桃子を探してもらう為に雇った興信所の探偵さんだと説明する。

鍋山が桃子らに見せた新聞には、先日会った葛原が、実は密輸団のボスだった事が大きく報じられていた。

鍋山は、危うく、桃子を密輸団のボスの嫁にやる所だった。これこそ正に災い転じて福をなすと言う事だと、自分たちの不明を詫びる。

しかし、それを聞いていたおヤエは、このままでは仏作って魂入れずですよと言い出す。

やがて、秋田五郎を屋敷に招き、桃子と寄り添わせた鍋山は、これで魂が入ったわけかと納得し、リエも、後は結婚式の日取りを決めるだけねと喜んでいた。

そのとき、応接間に外から入り込んできたのは、銃を構えた葛原だった。

葛原は桃子の腕を捕まえ立たせると、ほとぼりが冷めるまで日本を離れ香港に行きます。花嫁の持参金として、金庫のパールを全部頂きましょうと鍋山に迫り鍵を要求するが、鍋山は鍵を渡しながらも、それだけでは開かないぞ。支配人の鍵と会わせないと開かない事は、この前あんたも観ていたはずだと言い出す。

それが噓ではないらしい事に気づいた葛原は、おヤエに丈夫なヒモと手ぬぐいを持って来るように要求する。

全員、手をヒモで縛られ、口は手ぬぐいで塞がれて、応接室に転がされると、葛原は1人で金庫を開こうとし始める。

縛られたおヤエは何とかしなければ…と考えていたが、そのとき、隣に転がされていた桃子が、何とか手ぬぐいを自分でずらすと、幽霊を呼ぶのよと囁きかける。

なるほど!と感じたおヤエは、ただちに御隠居を呼び出そうと、今日私はクロを捨てましたと心で念ずるが、やがて聞こえて来たご隠居の声は、それがね…、指輪が偽物だったので、恨むわけにはいかないんだよ。それじゃあ、さようならなどと言って消えてしまったので、おヤエは待って下さい!と心の中で叫ぶ。

そのとき、クロが1人で応接室に戻って来たので、良く戻ったねと感激したおヤエは、御家老様!早く出てきて下さいと念じ始めるが、聞こえて来た家老の声は、あんたらが見合いが壊してくれたんで、積年の恨みが消えてしまったのだ。どうもすみませんなどと詫びて来る。

最後の望みも絶たれたと知ったおヤエは癇癪を起こし、この役立たずのバカ猫が!と心の中で叫びながらクロを蹴飛ばしてしまう。

吹っ飛んだクロは、隅の鎧甲冑の飾り物の上に落ちてしまう。

すると、こらおヤエ!いくら何でもクロを足蹴にするとは!と起こった声がして御隠居の幽霊が出現し、家老の幽霊も、鎧を壊された事に激怒して同時に出現する。

2対も同時に幽霊が出現したので、縛られていた家族も全員パニック状態になるが、家老の幽霊は、おヤエを斬りつけたかと思うと、逃げようとしていた葛原の胸に刃を突き刺す。

全員気絶して倒れた時、表の車のエンジンがかかりっぱなしですが…と言いながら1人の警官が応接間にやって来て、そこの有様を発見すると、これは!と絶句する。

後日、桃子と秋田五郎の結婚式が行われ、クロを抱いたヤエも、ライスシャワーをまいているゲストたちの祝福の様子を離れた所から見つめていたが、桃子と五郎が車に乗り込むと近寄り、お嬢様、本日はおめでとうございました。贅沢を言うようですが、幽霊のデル家は性に合いませんので女中を辞めると伝える。

それを横で聞いていた鍋山も、無理もないなと諦める。

どこへ行ってもお便りだけは頂戴ねとおヤエに語りかけた桃子の乗った車が出発すると、それを涙ながらに見送っていたおヤエだったが、その肩を叩くものがいるので振り向くと、そこには御隠居と家老の幽霊が並んでたっており、わしたちはお前がたいそう気に入ったので、今後、お前が咆哮した家に必ず化けてでる事にした。よろしくなと挨拶して来たので、おヤエは、クロをその場に置き去りにすると、すたこら、国会議事堂前の並木道をすたこら逃げて行く。

その後ろから、2体の幽霊も追いかけてくるので、おヤエは思わず、芝居はもう終わったんだよ!と叫ぶのだった。