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おヤエの女中の大将

おヤエシリーズの第6作で、上映時間53分の中編、このフィルムも、日活の会社クレジットは入っているが、タイトルやキャストロールなどは欠落している。

前作がかなりドタバタ色が強くペーソス要素が少なかった反動か、今作はかなりベタなペーソス(泣かせ)映画になっている。

しかし、このシリーズをずっと観てきた印象から言うと、おヤエシリーズの魅力は、どちらかと言うとユーモアよりペーソスの方に味があり、そう言う意味で本作はシリーズ中でも特筆すべき佳作になっているように思える。

冒頭部分に出て来るテープレコーダーとか、新聞記者が博士をヨイショする時に使う「兵隊の位で言えば大将」と言う山下清画伯の言葉で有名なセリフを伏線とし、ラストで巧みに再登場させる巧さには唸らされた。

裏木戸に付いた鈴の扱い方なども巧い。

臭いと言えば臭い演出なのだが、泣ける事は確か。

英二郎を演じている、元アイドルグループ「スリーファンキーズ」の手塚茂夫の愛らしい童顔が、英二郎の精神的な幼さに良くマッチしており、その分悲しさを増幅させる。

「狼少年」的な行動を繰り返す英二郎が招く災いなどは、薄々途中で気づくレベルだが、そこをオチとするのではなく、もう一ひねり加えて、人情溢れるお涙ラストに持って行っている所などは憎いと言うしかない。

シリーズ途中から参加の藤村有弘は、珍しく、おとぼけ一切なしのシリアスな博士役を演じている。

レギューラー出演者である森川信の出番が少ないのがちょっと寂しいが、それを補うように、本作では、アコこと沢村みつ子の若々しい歌声がたっぷり聴けるサービスが用意されている。

この沢村みつ子と言う人は、当時としては珍しかった沖縄出身の歌手らしいが、そのパンチのある歌声が聴けるのは貴重。

飯田蝶子も、一見脇に徹しているように見えるが、最後の最後に名台詞を言う重要な役柄を演じている。

短い作品ながら、前々からアイデアマンで巧い脚本家だと認識していた高橋二三氏の真骨頂を見せられた思いがする作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、日活、高橋二三脚本、小杉勇監督作品。

授業中の高校に入り込み教室の窓から合図をする高校生柴崎英二郎(手塚茂夫)をハラハラ見つめる女中のおヤエ(若水ヤエ子)

英二郎は、数学の先生(山中大成)の授業をテープレコーダーと写真に収めていた。

その講義を録音したテープと、黒板を映した写真を元に、自宅の英二郎の部屋でノートに清書をさせられているのはおヤエだった。

おヤエは、こんな事をしていたら、御自分に実力がつきませんよと注意するが、英二郎はおヤエさんに実力がつくから、卒業証書をもらったら、半分おヤエにやるよと笑いながら遊びに出かけてしまう。

その後、おヤエは、もう一人の女中お徳婆や(飯田蝶子)と共に、大量の古本を、やって来たくず屋に売ったりする。

おヤエが勤めていたのは、地球物理学の権威柴崎英介(藤村有弘)の屋敷で、その夜も、新聞記者が、エリートぞろいの家族にインタビューをしにきていた。

長男英一(石丘伸吾)も、城南大を主席で卒業し、父の後を継ぐ研究者のエリートだし、長女絹子(香月美奈子)も、庭球部の部長をしている才媛として有名だったからだ。

博士は、兵隊の位で言えば大将のようなお立場ですねと、ヨイショをしていた記者(三原一夫)が、もう1人、お子様がいらしたはずですが?…と口にした時、ドアを開けて顔を見せたおヤエと婆やは、恐縮そうに主人の英介を呼び寄せると、実はこんなものが学校から届きました…と、困った顔の英二郎を前に、一枚の紙を見せる。

それは、英二郎の学校からの呼び出し状だった。

自分も教授時代は出来の悪い学生を呼びつけたものだが、まさか自分が呼び出される事になるとは思わなかったと英介が嘆いていると、英一と絹子もやって来て呼び出し状を読むと、あいつは兵隊の位で言うと二等兵以下だ。お母さんが泣いてるわよと英二郎をバカにする。

後日、その亡き母の命日に、1人墓参りにやって来た英二郎は、僕みたいなみそっかす、どうなっても良いんだと自虐的な泣き言を訴えていた。

その時、父と兄や姉、おヤエがそろってやって来たのに気づいた英二郎は、こっそり逃げ帰るが、その姿を遠目に見つけた英介は、来とったのか…と呟くと、おヤエにまとまった金を渡し、自分はしばらく家を空けるが、これで今後の生活と英二郎の事を頼むと伝える。

家を任されたおヤエが、ある日かかってきた電話に出ると、英二郎が学校で鉄棒から落ち骨折したので、取りあえず5000円とサンドイッチと果物、紅茶を魔法瓶に詰めたものを表参道のちょっと入った所まで持ってきて欲しいと言う伝言を受ける。

慌てたおヤエは、サンドイッチを婆やに作らせると、自分は5000円を用意し、表参道まで持って行く。

すると、待ち受けていた英二郎の友達数名が、いきなりおヤエを道に停めていたオープンカーに押し込むと走り出すが、運転席に隠れていた英二郎の姿を確認したおヤエは、まんまと騙された事に気づく。

助手席に乗ったアコ(沢村みつ子)と友達たちは、憤慨するおヤエを他所に、明るく歌い出す。

鉄橋を渡ったオープンカーを発見した白バイが、スピード違反に気づき追跡を開始すると、反対奉公から歩いてきた牛車を避けきれなかったオープンカーは、脇道に突っ込み、牛車を引いていた農民も、おヤエたちも全員道に投げ出され気絶してしまう。

そこに、追跡してきた白バイが到着する。

警察に呼び出された柴崎英介は、警察署長から、息子さんは無免許に速度制限違反では情状の余地がなくて…と説明され、ただ無言で聞いている他はなかった。

その夜の家族会議で、兄、英一は、もう英一郎は少年院にでも送った方が良いよとさじを投げ、姉、絹子も、今進んでいる北小路様との縁談が壊れてしまうわと、迷惑を被るのを露骨に嫌がるり、いっその事、信州のおじ様の所へ預けたら?とか島流しにしてやれば良いんだなどとまで言い出す。

それを脇で聞いていたおヤエは恐縮し、これからは私が命がけでお守りしますと頭を下げると、英介は、明日からは他の事はしなくても良いから、英二郎の監視だけをしてくれとおヤエに頼む。

翌朝から、英二郎は、登校までぴったり付いて来るおヤエにうんざりするようになる。

テープレコーダーの文章起こしのときも、おヤエは自分の足と英二郎の足をヒモで繋ぎ、逃げ出さないようにしていた。

その時、婆やが英二郎に電話ですよと声をかけて来る。

仕方がないので、ヒモを外してやると、英二郎は二階の電話に出る。

相手はアコからで、6時までに私んちまで来なよと言う誘いだった。

しかし、その会話は、1階の親子電話で婆やが盗み聞きしていた事を英二郎は気づかなかった。

勉強部屋に戻って来た英二郎は、これから、車で衝突したおじさんの見舞に行くと言い出したので、それは立派と褒めたおヤエは、自分も病院まで付いて行く事にする。

しかし、婆やが、情報を100円で買わないかと言ってきたので、100円札を渡すと、実は今の電話はアコからで、6時にアコちゃんちに行くんだよと言うではないか。

それ本当なの?と疑うおヤエであったが、私はこの年まで噓と言うものは言った事がないと婆やがいるので一応信用する事にする。

牛車を引いていたおじさんが入院していると言う病院にやって来た英二郎は、仲間たちが来ているかどうか観て来ると言って、おヤエを玄関前に待たせると、自分だけ病院に入り込んで、そのまま裏口から抜け出すと、アコこと「沢村綾子」が歌っている店にやって来る。

店には、仲間の健(越石洋一)やトンちゃん(多川壌二)も来ており、彼らのテーブルに合流した英二郎は久々の開放感に浸ろうとするが、ふと観ると、別のテーブルですましてジュースを飲んでいるおヤエがいるではないか!

慌てた英二郎は、ボーイにウィスキーを頼もうとする仲間を制止する。

沖縄の民族衣装で歌っていたアコは、スラックス姿になりジャズを歌い始める。

興に乗ってきた英二郎は、ボーイにウィスキーを頼むが、運ばれてきたウィスキーは、近づいて来たおヤエがその場で飲み干してしまう。

さらに、他の仲間のウィスキーも全部飲み干してしまったので、すっかり酔ってしまったおヤエは、アコの歌う歌を「あんなの西洋の安木節じゃない」とバカにし、自分からボーイにウィスキーを注文し出す。

完全に泥酔したおヤエは、満員の客の中でソーラン節を歌い始め、最後にはステージにまで上がって、バンドをバックに歌い続ける。

しかし、その後はへろへろになり、英二郎たちが支えて帰らなければ行けない羽目になる。

悪酔いしたおヤエは途中で戻したりする。

翌日も二日酔いの頭痛の中目覚めたおヤエだったが、介抱してくれていた婆やに今何時かと聞くと、もう昼過ぎだと言うので、慌てて飛び起きると、学校に行かなければ…と言いながらタンスの方に向かうが、婆やが呆れたように、今日は日曜日だよと教えると、おヤエはまた布団の中に倒れてしまうのだった。

一方、英二郎の部屋に集まったアコたちは、楽器を弾きながら愉快に歌って騒いでいた。

どうしておヤエさんに、店にいる事がバレたんだろう?と不思議がる英二郎に、あんたの所、親子電話だろう?注意注意!とアコが教える。

夕食時、家族で食事をしていると、電話が鳴ったので、絹子は北小路幸彦様からだわと喜ぶが、婆やが英二郎様にですと知らせに来る。

1階の電話に出た英二郎は、相手が昼間約束したアコからだと知ると、そのまま受話器をそっと置き、階段を上って、2階の電話を盗み聞いていた婆やに、いくらでおヤエさんに買収された?と聞き、その倍の200円を払うと、田園調布駅に8時に待ち合わせしていると教えるんだと命じ、玩具のピストルを向けて脅す。

婆やは、おヤエからも情報料として100円受け取ると、今英二郎から言われた通りの内容を伝える。

その間、英二郎は、鈴が付いている裏木戸から、鈴を押さえて鳴らないようにしながらそっと外に出て行く。

田園調布駅に到着した英二郎は、アコたちと合流すると、あそこに交番があるので、おヤエが来たら、家出娘と告げ口してやろうと言う事になる。

さっそくアコが交番に行くと、そこにいた警官(森川信)に、モジモジしながらも、遅れてやって来たおヤエを指差し、あそこに家出娘がいますと告げ口する。

警官はその言葉を信じ、もんぺ姿のおヤエに近づくと、いつ東京に来たのかな?と質問する。

おヤエは呆れたように、もう8年になると答えるが、ひどいズーズーベンだねと指摘されたので、私は完全なる東京弁です。あんたも相当ズーズー弁じゃないですかと逆襲する。

しかし、警官は笑いながら、僕は警官に奉職してもう18年になるんだよ。訛なんかあるはずないじゃないかと怪し気な標準語で答えるのだった。

いたずらが成功し、イカしたねとはしゃぎながら歩き始めた英二郎らは、酒でも飲もうと言い出すが、みんなゲルピン(金がない)だと言う事に気づく。

すると英二郎が、手っ取り早いマネービル(財産づくり)の方法があると言い出す。

結局、英二郎に会えずじまいで屋敷に帰って来たおヤエだったが、出迎えた婆やが、焦ったように、お金は届いたか?と妙なことを言うので、書斎に向かうと、英介が、おヤエの筆跡風のメモを見せる。

そこには、「3000えんいります おヤエ」と書かれてあり、おヤエが自分が描いたのではないと言うと、又、英二郎にやられてしまったかと英介は嘆く。

それにしても、何故、おヤエそっくりの筆跡が書けたんだろう?と英介が首を傾げると、いつも私がお坊ちゃんのテキストの清書をしているので、それをマネしたんですとおヤエは説明する。

その時、また電話がかかり、おヤエが出ると、英二郎からで、もう5000円持ってきて下さいなどと言うので、一緒に付いて来た英介に伝えると、さすがに堪忍袋の緒が切れた英介は、お黙んなさい!私も金のなる木を持っているわけじゃないんだと大声を上げ立ち去ろうとしたので、坊ちゃんからの電話、噓だと良いですけどね。本当だったら…とおヤエは一抹の不安を感じるのだった。

結局、英介には内緒で、こっそり屋敷を抜け出し、英二郎が麻雀をやっている場所に金を持ってきたおヤエだったが、こんな事を続けていると、今に本当にされなくなりますよと忠告する。

しかし、麻雀仲間の熊吉(弘松三郎)から、ブクロに面白い所があるから行こうと誘われた英二郎は、かじりがいのある親爺さんのすねに乾杯!などと言って気勢を上げるだけだった。

その後、英二郎の部屋を掃除をしていたおヤエは、英二郎の亡き母親の写真を見つけたので、もう坊ちゃんは2晩も帰らないんですよ。必ずこのおヤエが探し出しますから…と誓う。

その後、屋敷の近くの渋谷近辺を隈無く歩き回ったおヤエだったが、英二郎を発見する事は出来なかった。

屋敷に戻り、英介の前で手をついたおヤエは、女中暴行して8年になりますが、こんなに芯の疲れる家はありませんと報告する。

英介は気の毒がり、来月から5%ほどベースアップするからとねぎらうが、おヤエはそんなんじゃない。いずれ坊ちゃんが警察沙汰にでも巻き込まれるのではないかと思うといても立ってもいられなくて…と心痛を打ち明ける。

その時電話がかかり、おヤエが出ると、池袋の「グッドナイト」と言う店に8580届けて欲しい。さもないと殺されそうなんだと言う英二郎からの伝言だった。

電話を切り、その内容を英介に教えると、さすがに英介は怒り出し、もう寝ようと言い出す。

池袋の「グッドナイト」にいた英二郎は、いくら何でもビール3本とハイボール5杯で3580円はないだろうと文句を言っていたが、熊吉は英二郎を地下室に連れ込む。

その頃、女中部屋に戻って来たおヤエだったが、580円なんて刻んできた所をみると、今度こそ本当かもしれないと呟き、隣で眠りかけていた婆やに、3000円ばかり貸してくれない?と頼んでいた。

婆やは、おヤエのお人好し振りに呆れ、ご主人に知れたらむだな事をするなって叱られるよと注意する。

それでも、こっそり屋敷を抜け出したおヤエは、池袋に向かい、何とか「グッドナイト」と言う飲み屋を見つけ出す。

ちょうどそこに出前にやって来た女店員を見つけたので、200円渡し、帽子と服と岡持を譲り受ける。

喜んで帰って行く女店員に、おヤエは警察へ連絡してと頼むと、店の中に入って行く。

変装したおヤエを出前持ちと思い込んだマダムは、ラーメンは地下室だと教える。

言われた通りに地下室に行ってみると、そこにはラーメンを注文した熊吉と英二郎がいた。

英二郎は、出前持ちがおヤエと気づいて目を丸くする。

コショウも持ってきたかと熊吉が言うので、岡持を空けるとちゃんと入っている。

おヤエは、まずラーメンを取り出すと、渡す振りをして丼ごと熊吉に投げつける。

さらにコショウを熊吉にぶつっかけ始める。

いきなりにの奇襲攻撃に一瞬ひるんだ熊吉だったが、すぐにおヤエを掴むと部屋の奥に引きずり込み、殴り始める。

それを観ていた英二郎はたまらなくなり、熊吉に飛びかかって行く。

2人は殴り合いを始め、その弾みで、ビール瓶を積んであった巨大な棚が崩れ、2人とも生き埋めになってしまう。

そこに警官2名がこらっ!と言いながら駆けつけて来るが、おヤエは、何がこらだ!今頃来たって遅いよ!と逆に叱りつける。

警官は、崩れた棚の下敷きになっている2人に気づき引きずり出す。

大怪我を負い自宅で医者の往診を受ける英二郎が、うわごとのように、おヤエさん!と呼びかけたので、付き添っていたおヤエはその手を握ってやると、おヤエはここにいますよと答える。

やがて、英二郎の呼びかけは、ママ!ママに変わったので、おヤエはつい泣き出してしまう。

それを見つめる父、英介に兄の英一、姉の絹子たち。

医者が、答えてあげなさいと言うので、おヤエはつい、ママ!と呼びかける英二郎に、ママはここにいますよと答えてやる。

往診を終え、手を洗い終わった医者が、英二郎君はお母様を慕っているのですねと言いながら帰るので、何も答えられない英介たち。

その時、庭の方から、一番ぴったりな人がいるはずですと言う声が聞こえる。

アコ、トンちゃん、健ら仲間たちだった。

彼らは「英坊に」「おヤエさんを」「あたえよ」と書かれた3枚のプラカードを掲げ、おヤエさんを英二郎のママにしろと言うメッセージを込めた歌を歌い出す。

それを聞いたおヤエは思わず泣き出す。

いつの間にかベッドに起き上がっていた英二郎も大粒の涙を流していたが、ベッドから抜け出し、仲間たちに合流すると、一緒に歌に加わる。

たまらなくなったおヤエは奥に引き込み泣き崩れる。

そんなおヤエの元にやって来た英介は、英二郎のママさんになってくれるね?と声をかける。

その後、英二郎は、亡き母親の遺影の前で、1人ギターをつま弾いていた。

そこにやって来た婆やは、何故か泣きながら、とっておきの情報を買いませんかと英二郎に注げる。

おヤエさんがね、お別れの手紙を…と言うので、驚いた英二郎が女中部屋に駆けつけると、部屋の中でテープレコーダーに声を吹き込んでいるおヤエの声が聞こえて来る。

お坊っちゃま、許して下さい。今は良いでしょう。でもお坊っちゃまが大きくなった時、女中上がりの母親が重荷になる時が来るはずです。私はお暇するのが一番良いのです。お坊っちゃまが天国にいるお母様さえ忘れない限り、生きているのです。母親は家の中に1人いれば良いのです。さようなら。どうか今後は正しい路を歩いて下さい。

廊下でその声を聞いていた英二郎は号泣する。

そんな英二郎の側に来た婆やは、もう一つ情報があります。これはただで良いんですよと言って、別の部屋を教えるのでそこに行ってみると、亡き妻の遺影を前に、英介が、母さん許してくれ。私の妻になろうと言うのではない。英二郎の母になってもらいたいのだ。英二郎はおヤエさんに懐いているし、今の英二郎には母親が必要なのだ。そうしてやる事が、あの子にとって一番良い事だと思うと泣きながら告白していた。

その父親の優しい本心に触れた英二郎は、ますます大粒の涙を流す。

そんな中、おヤエは、裏木戸から外で出て行こうとしていたが、そんなおヤエを庭の隅から婆やが泣きながら見送っていた。

さらに、木戸に付いた鈴が鳴らないように、内側からそっと英二郎が押さえてやっている事もおヤエは気づかなかった。

おヤエは屋敷に向かって一礼すると、お坊っちゃまさようならとつぶやき、その声を、鈴を押さえながら、木戸の内側で聞いていた英二郎も黙って泣いていた。

庭の隅でその様子を観ていた婆やは、立派だよ。兵隊の位で言えば大将だ。女中の大将だ!とおヤエの行動を褒める。

おヤエは雨が降る並木道を傘をさしながら去って行くのだった。