TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

おヤエの家つき女中

「おヤエのママさん女中」の姉妹篇らしく、おヤエが女中であると言う以外は、全く前作とは別の設定になっている。

大月博士と云う独身男の屋敷に10年も女中奉公をしていたおヤエが、急に渡米する博士から、屋敷の借金を後1年払ってくれたら、この家を君に譲ると言われ、その言葉を信じてその後の1年間を孤軍奮闘すると云う話になっている。

前回同様、おヤエはわがままな下宿人たちに振り回されるお人好しのまじめな女中と云うキャラクターになっている。

ペーソスメインだった前作に比べると、この作品は幾分笑いの要素が増えているが、せいぜいユーモアものと云った所で、爆笑と云うほどのレベルではない。

生真面目な博士役に西村晃、女好きな社長役に小沢昭一…と、意外性のないキャスティングにも若干物足りなさを感じるが、元軍人役の森川信、その妻を演じている武智豊子共に、あまり本領を発揮し切ってないような気がする。

おヤエが密かに恋いこがれる二枚目の学生役を演じている柳沢真一も、きざったらしいだけで何となくイメージが違うのではないか?

とは言え、58分の中編作品としてはまずまずアイデアも詰まっており、暇つぶしには十分な、それなりに楽しい小品にはなってると思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、日活、高橋二三脚本、春原政久監督作品。

羽田空港から出発するノースウエスト機に今正に乗り込もうとする宇宙心理学の権威大月博士(西村晃)に向かい、「先生様〜!先生様〜!」と展望デッキから叫んでいたのは、博士の家の女中だったおヤエ(若水ヤエ子)であった。

大月博士はアメリカに招待されて渡米することになったのだった。

おヤエさん、うちのことを頼んだよ…、あごひげの大月博士は、展望デッキを見返りながら笑顔で呟く。

おヤエは、今まで世話になった大月博士への感謝の気持ちと、屋敷に1人ぽっち取り残される寂しさのあまり泣き崩れる。

屋敷に戻って来たおヤエは、渡米前に大月博士からしっかり言いつかっていたことを思い出す。

部屋の中には、いなくなったあの優しい大月博士の幻影が現れ、その言葉を復唱し出す。

10年間良く働いてくれたお礼に、退職金代わりにこの屋敷をおヤエに譲りたいが、まだ殖産住宅の金を全部返し終わっていない。

後1年間払い切れば、おヤエのものになる。

お金を稼ぐために貸間を始めるんだ。

3部屋貸し、1部屋の家賃を月7000円にすれば2万1000円の収入になる。

そこから3000円を住宅のローン代の返済に回し、洗濯機や冷蔵庫の月賦代が後8ヶ月残っているので月々4000円、おヤエさんの食費が月々10000円、生活費が1000円、3000円は仙台の笠森ヒデと云う人に毎月送金して欲しい。

それらの支払を忘れないように、表に月々払った分を○印を付けて行くんだよ…と云う伝言だった。

今まで目の前で優しく説明してくれた大月博士の幻影が急に消えてしまったので、おヤエはあたふたと部屋の中を探し始める。

気を取り直したおヤエは、さっそく「貸間あります」の札を屋敷の前に吊るして外出する。

町の不動産屋の前に来たおヤエは、権利金、敷金もない家なんて今時ないよと追い出された老夫婦に気づき声をかける。

屋敷の部屋に案内して来たおヤエに、今は恩給暮らしの元軍人らしき篠山(森川信)と、茶や生け花などを教えて生計を支えていると云うその妻しずか(武智豊子)は、すぐに借りると言い出し、7000円をその場で支払う。

もう一度外出しようと仕掛けていたおヤエの前に、「メリヤスの藤川産業」と書かれたオート三輪が停まり、その荷台から降りて来た藤川(小沢昭一)とその妾らしき杉枝(高友子)が「貸間あります」の札に興味を持ったらしく、そこで鉢合ったおヤエに案内させ部屋を観ると、洋間仕立てが気に入ったのか、こちらもその場で藤川に7000円払わせて入居を決めてくれる。

あんたは誰だ?と藤川から横柄に聞かれたおヤエは、毅然として、自分はここの管理人ですと胸を張るのだった。

その直後、玄関口にやって来たのは学生の青田(柳沢真一)だった。

アルバイトらしく、その場で持って来たナイトクリームなど売ろうとするので、いらないとおヤエが断ると、松吉は貸間を借りたいと言い出す。

とりあえず、無事3部屋とも住人が見つかり、最初の収入21000円が手に入ったので、さっそくおヤエは、大月博士から言われた通り、仙台市和泉町に住む笠森ヒデ宛に3000円現金書留に詰め、表の最初の月の各欄に○印を付けて行く。

そんなある日、勝手口にやって来た三河屋のご用聞き松吉(神戸瓢介)が、おヤエに缶詰をプレゼントすると持って来るが、そこにやって来た篠山が、杉枝の部屋から聞こえている音楽の音がうるさいと苦情を言う。

仕方なく、杉枝の部屋に注意しに行くと、応対した杉枝から、この音楽が分からないの?と言われ追い出されてしまう。

元陸軍少将だと威張る篠山はおヤエの管理能力のなさを嘆き、備前長船を持って来い!と怒鳴るが、刀は先月、お米に変わりましたとおしずから言われてしまう。

翌日、今度は、篠山夫婦の部屋から騒音が響き出す。

朝から太鼓を叩き、クラッカーを鳴らしながら読経を始めたのだ。

杉枝はおヤエに文句を言いに来るが、夕べの音楽とおあいこよと言って、おヤエは相手をしなかった。

さらに青田までもが、安眠妨害なので家賃の値下げを要求する!と言いに来たので、仕方なく、青田の分だけ1000円値下げすることにする。

早くも収入に異変が生じてしまったおヤエは、今はいない大月博士に詫び、1000円分は自分が節約することで補うことを約束するのであった。

1年後にこの家が自分のことになることの記念に、おヤエは自分の家の紋所を旗に刺繍し始める。

3月になると、奥様修行の一環として、おヤエはお茶やお花を習うことにする。

有名な料理研究家(江上トミ)から料理も習うことにするが、高いヒレ肉の代わりに尻の肉を使って初めて焼いたビフテキは焼き過ぎて、自分で試食するときナイフフォークが歯が立たず、皿から飛び出した肉を前の席の生徒に拾ってもらい、皿に投げつけると、堅過ぎて皿の方が割れる始末だった。

それでも、何とか「情熱」と云うテーマで自己流の生け花を作ってみたおヤエは、心惹かれる青田の部屋に持って行って見せると、青田は優しく、おヤエさん、この頃とってもきれいになったねと言葉をかけてくれるのだった。

半年が過ぎ、表の○印も半分埋まって来る。

ある雨の日、女中部屋の窓から中を覗き込んでいた男の姿が一瞬青田に見えたおヤエだったが、それは御用聞きの松吉だった。

松吉は、おヤエが現金書き止めの宛名を書いているのを観ると、笠森ヒデって何者なのか?ひょっとして大月博士の隠し子かなんかとちゃうか?などと茶々を入れて来る。

博士はそんな人じゃない!と怒ったおヤエだったが、自分が速達を出して来てやると松吉から言われると、ついその好意に甘えてしまう。

その直後、篠山がおヤエを呼びに来る。

何事かと、篠山の部屋に向かうと、そこには天井からの雨漏りを防ぐ容器で埋まっていた。

篠山夫婦は部屋の中であるにもかかわらず、傘をさして座っているではないか!

これには管理人として責任を感じたおヤエは平謝りして、翌日すぐに屋根家(榎木兵衛)を呼んで修理を頼むが、16000円もかかると言われショックを受ける。

結局、結婚資金として長年ためていた自分の郵便貯金5万円に手をつけることにしたおヤエだったが、その後、篠山と杉枝から女中として雇われ、何とかその報酬も毎月の収入源として付け加えることになる。

かくて、おヤエは「家付き女中」と言う形で元の仕事に戻ることになる。

そんなある日、篠山の戦争中の部下たちが部屋に集まり、久々に旧交を温める会合が開かれる。

おヤエは、おかんの準備をしていた。

遅れてやって来た木村兵長は、台所で軍服に着替えると、すでに集まった仲間たちの部屋に入り、金糸勲章を胸に下げて飲んでいた篠山に、命を受けやって来ました!と挨拶をする。

出迎えた篠山は、収容所を出て10年、みんな苦労をしている中、村長になったのはお前だけだと木村を褒める。

追加の酒を盛って来たおヤエは、全員立ち上がり、40年間軍人生活を送って来たと云う篠山に向かって敬礼する異様な姿を目撃する。

ある日、青田に動物園に連れて行ってもらう約束をしたおヤエは、朝風呂を使っていたが、そこに藤川が突然乱入して来る。

おヤエが抵抗していると、そこに妾の杉枝がやって来て藤川と大喧嘩を始めたので、おヤエは裸のまま這々の体で浴室の外に逃げ出す。

おヤエとの仲を邪推し嫉妬した杉枝は、藤川の身体を浴槽に付け、その上に蓋をして自分が乗っかってしまうのだった。

得意の相撲の技を使って藤川の襲撃を防いだおヤエだったが、額に小さな怪我をしてしまったので、そこに絆創膏を貼った情けない姿で動物園に行くが、驚いたことに動物園の象も又、額に大きな絆創膏をバッテンに貼っていた。

しかしおヤエに同行して来た青田の方は動物には興味なさそうで、すぐに美術館の方におヤエを連れて行く。

今度は、おヤエの方がチンプンカンプンだった。

せっかく2人で食べるお弁当まで用意して来たおヤエだったが、美術館を出た青田はバイトがあると言って、1人でさっさと帰ってしまう。

おヤエはがっかりして家に帰って来るが、翌日、いつものように、大盛りの賄い飯を持って青田の部屋にやって来ると、青田はいなかった。

夕べも帰って来なかったようだ。

又もやがっかりして帰りかけたおヤエに、篠山が洗面所が汚れていると苦情を言う。

そんな篠山に今月分の家賃をもらってないとおヤエが答えると、急にへりくだった態度になった篠山は、部屋におヤエを連れて来ると、今、内閣が総辞職しなければならない事態になっている。自分は、恩給の値上げを某大臣に働きかけている所なのだが、その資金として3万円足りない。この事態を何とか乗り切れば、恩給も増えるので倍にして返せるのだが…と言い出す。

難しいことは分からないおヤエは、では自分が今、その3万円を立て替えておけば倍にして戻って来るのですね?と念を押し、又もや、自分の結婚資金に手を付け3万円を篠山に貸すことにする。

自分の部屋に戻りかけていたおヤエは、杉枝の部屋の前でガス臭いことに気づき、杉枝を呼びながらノックするが返事がない。

緊急事態と感じたおヤエがドアの鍵を開け中に入ってみると、器具から取り外したガスホースからガスが出ているではないか!

急いで窓を開け放ち、元栓を締めたおヤエは、ベッドに手を合わせて並んで寝ていた藤川と杉江を叩き起こす。

発見が早かったので幸いにも2人とも無事だったが、死なせてくれ!と哀願して来る。

鍋底景気で会社が潰れたのだと藤川が泣き言を言うので、おヤエは、あんたも男だろ?しっかりしろよ!家に帰れば、奥さんや子供も喜ぶわよと説教し、泣いている杉枝に対しても、あんたも元女中だったのなら、新しい働き先でも見つけるのよ。それまでは家賃をただにしてやるからと言い聞かす。

その騒動を覗きに来ていた篠山には、あの3万円のこと忘れないでねとおヤエは念を押すのを忘れなかった。

翌朝、ようやく帰って来た青田は、あんまりこの家に戻って来ていないので、その分家賃を差し引いてくれとおヤエに頼む。

さらに、先日の篠山さんが頼んだ酒代は、おヤエ名義で注文があったので払ってくれと、松吉と三河屋の主人(河上信夫)が勝手口にやって来たので、おヤエは驚いてしまう。

文句を言いに、篠山の部屋に来たおヤエは、部屋の中が家財道具一切なくなっていることに気づく。

近くで歯を磨いていた杉枝は、部屋の様子を観ると、夜逃げとは見事じゃないと皮肉を言う。

おヤエは、篠山に騙され、3万円も持ち逃げされたことに気づき、呆然と立ち尽くすしかなかった。

結局、4850円の酒代も全部おヤエが払うことになるが、3万円を騙されたことを知っている松吉が主人に説明してくれたので、同情した主人は、ここは痛み分けと云うことで、うちも半分出すから、2400円払ってくれと言ってくれる。

がっくりして郵便局に貯金を下ろしに行こうとしたおヤエは、帰って来た杉枝から、身の振り方を賭けることにしたと告げられ、たまっていた家賃をもらえると言うので、おヤエは家を自分のものにするのが目前となる。

いつものように、家紋を刺繍していたおヤエの部屋の窓から覗き込んだ松吉が、自分の気持ちを分かってくれと告白して来るが、おヤエがそういう話、興味ないのとすげなく答えると、やっぱり青田のことを…、覚えてろよ!と捨て台詞を残して去って行く。

おヤエはそんな松吉のことなど気にせず、明日になれば私と青田さんのうちになるのよ…と嬉しそうに呟くのだった。

翌日、屋敷の前に停まったオート三輪には、「メリヤスのオクノ」と新しい会社名が入っていた。

そこから降りて来た杉枝がこれが今度のパパさんなのとおヤエに紹介したのは、この前、藤川のオート三輪を運転していた奥野(弘松三郎)だった。

呆れたおヤエに奥野は7000円の家賃を払ってくれる。

そんなおヤエに、立ち去る藤枝は、おヤエさんも私を見習うと良いわと捨て台詞を残して新しいアパートへ向かう。

おヤエは、シーユーアゲイン!と呟いて見送る。

ともかく、受け取った7000円から、いつものように3000円を仙台の笠森ヒデに送るため現金書留の用意をしたおヤエは、表の全部の覧に○印を付け終え、辛抱した甲斐があったわ…と思わず、この屋敷を手に入れた満足感で泣き出す。

おヤエが密かに結婚を夢見た青田もその後、屋敷を出て行ったのだった。

その時、突如、部屋に見知らぬ若い娘が乱入して来て、家を観させてもらうわと言い出したので、驚いたおヤエはあなたは誰ですか?と問いかける。

しかし、娘(中島そのみ)は何も答えず、勝手に家の中の部屋を見て回ると、まあまあね…とつぶやき、自分は笠森ヒデで大月博士の隠し子よと言い出す。

1年待っていたら、お家を上げるってパパに言われたと云う娘は、あんたも、女中として置いて欲しいんだったら置いてやっても良いけど、そうじゃなかったら暇をやるわと言うではないか。

その言葉を聞いたおヤエは、先生はそう言うお気持ちだったんですか…、ヤエはバカですね…と呟き、ショックを受ける。

やっぱりヤエは田舎に帰ります…と自室に戻りかけたヤエだったが、玄関に郵便配達人がやって来て、あなたは大月博士の代理人ですか?と聞き、笠森信と差出人が書かれた速達を渡す。

その場で、その中味を読んでみたおヤエは、笠森信と云うのは、これまで毎月送金して来た笠森ヒデの長男であり、ヒデは大月博士が学生時代下宿をしていた家主である事を知る。

大月博士は、その下宿屋にいた時、1度だけ踏み倒したことがあったので、それを詫びるつもりか、その後も毎月母宛に送金してくれていたが、母ヒデは78歳にて昨日他界したので、もう送金には及ばないと書かれてあった。

それを読み終えたおヤエは、ヒデを名乗る娘が真っ赤な偽物だったことに気づき、なんてひどい女!と言いながら泣き出してしまう。

側にいて、バレたことに気づいた娘は、松吉から頼まれたんだ。あんた、1度、あいつに書留を出して来てもらったことがあるだろう?と言うではないか。

一瞬とは言え疑った大月博士にも詫びたおヤエは、その娘を家から叩き出すと、完成した紋所の刺繍の入った旗を、庭先の掲揚台にくくり付け旗を引き上げるのだった。

良かった、良かった…、田舎の父ちゃん、母ちゃん、おヤエも女中をして11年目に、家を一軒持ったよ。家だけわね…と旗を見上げたながら呟くと、又泣き出すのだった。