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おヤエのあんま天国

おヤエシリーズの第4作目で、上映時間57分の中編。

笑いとペーソスで織りなす人情コメディだが、松竹の泣き笑い人情ものともちょっと雰囲気は違っており、このシリーズは回を追うごとに話が面白くなっているような気がする。

今回は、両親を早くに亡くした姉役の若水ヤエ子が、唯一の肉親である弟を親代わりに女手一つで育てる苦労話になっている。

森川信、柳沢真一、岡村文子、藤村有弘、渡辺篤と言ったシリーズ経験者に加え、今回は、小川虎之助と新人の藤野功が加わっている。

按摩ものは動きがあるので、比較的笑いが取りやすい素材だと思うが、この作品でも、先輩の真似をして客の身体を玩具のように扱ったり、客だった小川虎之助が新米按摩のおヤエに、逆に按摩を伝授してやるなどと言ったユーモラスなシーンがある。

タモリのハナモゲラ語が出現するまでは、でたらめ外国語と言えば藤村有弘が有名だったが、映画でその特技を観られるものはそう多くない。

この作品では、冒頭部、いきなり藤村有弘のでたらめ外国語が登場するので注目したい。

後半は、按摩仲間と弟が、おヤエの意に反して恋仲になってしまったり、世間知らずのおヤエの方は結婚詐欺の男に引っかかってしまうと言う悲しい展開が待ち受けているが、最初から、弟を育てていると言う説明がきちんとされているため、急にシリアスタッチの展開になってもそう不自然さは感じない。

そのシリアスタッチから、又、自殺ネタの笑いを生み出そうとしている所などはなかなか巧いと思う。

失恋や弟に去られた失望感などと言ったかなりシリアスな素材とユーモアとは一見マッチしないような感じがするが、この作品では見事にかみ合っており、あざとさのようなものはあまり感じない。

こういう展開が成り立つのも、脚本の力だけではなく、ヒロインたる若水ヤエ子と言うキャラクターが、悲喜劇同時に表現できる希有な女優さんだったからかもしれない。

お涙頂戴の、ちょっと古臭い話と言ってしまえばその通りなのだが、大衆娯楽としてはなかなかの佳作に仕上がっていると思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、日活、高橋二三脚本、春原政久監督作品。

夕暮れ時、赤ん坊を背負った若水ヤエ子(若水ヤエ子)は、一軒の旅館にやって来ると、布団に横になっていた客(藤村有弘)に挨拶をし、背負っていた赤ん坊を受け取ってもらって、その赤ん坊を横にイスに横たえると、身体をもみ始めるが、すぐに赤ん坊がぐずり出したので、そちらをあやし始める。

客は何語かで怒り出すと、他の姉さんを呼んでくれと手を叩いて宿の人間を呼ぼうとするが、その手にすがりついたヤエ子は、どうか働かせて下さい。話を聞いて下さいと必死に頼み、実は自分は、2年ほど前まで「泉屋」と言う旅館で下働きの女中をしていたのだと打ち明け話をし始める。

おヤエには、同じ東京の大学に行っている孝志(藤野功)と言う弟がおり、肉親を早くに亡くした今、家族は姉弟の2人だけだったので、自分が親代わりになって孝志を育ててきたのだった。

そんなある日、電話をかけて来た孝志に出会って、いつものように小遣いを渡そうとしたおヤエだったが、孝志はこれっぽちじゃダメなんだ。実はアルバイト先の会社が潰れたので、先月分から家賃を払っていないのだと言うではないか。

「泉屋」に戻り、前借りを主人(伊丹慶治)に願い出たおヤエだったが、おヤエはすでに2ヶ月分も前借りしていたので、とても3ヶ月先の分まで払う事は出来ないと断られてしまう。

その時、主人に挨拶をして部屋に向かったのは、泊まり客から呼ばれて按摩をしに来た友達の千鶴子(中村万寿子)だった。

金の工面が出来ない事を知り困りきって外に出たおヤエは、易者(鈴木三右衛門)に金運を占ってもらうが、その易者が言うには、あんたには水難の相があると言うので、見当違いだと怒ってしまう。

そんなおヤエに声をかけて来たのが、按摩を終え、帰る途中の千鶴子だった。

おヤエが金に困っているのだと打ち明けると、それじゃあ付いて来ない?と言われ、千鶴子がおヤエを連れて来たのは彼女が勤めている「築地治療院」だった。

事情を聞いた主人の楠本(森川信)と女将のキシエ(岡村文子)は、「泉屋」の方は辞められるのか?と聞いて来る。

借金は月賦で返す事になったので大丈夫だとおヤエが答えると、それじゃあ安心だと言う事になり、おヤエは、この按摩治療院の新人として住み込みを許される事になる。

さっそく、仲間が集まる部屋に連れて来られたおヤエは、千鶴子に紹介され挨拶をする。

しかし、いざ寝ようとすると、おヤエが練るスペースが全くない事に気づいた千鶴子は、押し入れの中で寝てくれないかと言い出し、座布団を布団代わりに貸してくれる。

今のおヤエは、素直にその境遇に身を任せるしかなかった。

おヤエはすぐに孝志に手紙を出し、姉ちゃんも頑張るから、あんたも頑張るんだよと伝え、自分の新しい日課の紹介をしていた。

おヤエの生活は朝の飯炊きから始まった。

その後、日本高等鍼灸学園に通い、基礎知識を学ばなければいけなかった。

先生から人体図を示され、筋肉の名前を聞かれた生徒たちは一斉に手を上げるが、全く知識がないおヤエも、つい勢いに押されて自分も手を挙げてしまったため名指しされたので、「バイキンと思います」等と答え、みんなに笑われてしまう。

「築地治療院」に帰って来ると、楠本から按摩のやり方を指導される。

仕事の受注はキシエが行い、送り込む按摩の選定も彼女の独断で行われていた。

その日、辰己屋から大量客の注文が入ったので、キシエは千鶴子に、新人のおヤエを連れて一緒に行くように頼む。

おヤエはまだ、もみ方など知らないと不安がるが、千鶴子が私の真似をしていれば良いのよと教える。

大部屋にやって来た2人は2手に分かれると、早速手前の客からもみ始めるが、おヤエは千鶴子のやる通り真似をして行く。

しかし、やはり見よう見まねに過ぎないので、客の評判は悪いが、そんな事も気にせず、ひたすら量をこなすしかなかった。

最後には、客から「君、美人だね」と口説かれた千鶴子が、「皆さん、そうおっしゃいます」と返しているのを聞いたおヤエ、「君、あまり巧くないね」と客から嫌みを言われたのに、「皆さん、そうおっしゃいます」と思わず答えてしまい、自分で「え?」と戸惑ってしまう。

2人は多数の紙幣を手に出来たので、こんなに儲かる商売だとは思わなかったとおヤエが喜ぶと、ここの電話番に30円、先生たちに90円払わなければいけないのよと教えられ、結局、130円しか残らない事を知らされる。

ある日、楠本はモデルとしておヤエを指名すると、新しい技を教えてくれる。

まずは、客の身体を横向きにして、背中側に自分が座る事。次に、相手の上になった肩に手を置き、その手をもう一方の手で取る事。

こうやる事で、男客に襲われる事を防ぐのだと言うのだった。

しかし、寝室に戻って来た仲間は、一番手っ取り早い方法を教えてくれないんだものと楠本の指導に不満を漏らすので、それは何かとおヤエが聞くと、女の特権を使う事よと言うので、一瞬なんの事か分からなかったおヤエだったが、相手がガードルを上げている姿を観ているうちに、あ、そう…と気づく。

翌日、泉屋から、腕の建つ子をとの注文を受けたキシエは、何を思ったかおヤエを派遣する。

久々に、泉屋に行ったおヤエは、主人と女将(堺美紀子)に挨拶をするが、腕利きを頼んだのに?と、今日が初めてだと正直に教えたおヤエを寄越した事を不思議がるが、あの客は甘いから大丈夫だろうと言う事になり、座敷へと向かわせる。

そこに待っていたのは頑固そうな老人森園(小川虎之助)だった。

森園は、まず肩からやってもらおうと正座するが、横に寝かせる方法しか習ってなかったおヤエは無理矢理森園を押さえ込もうとして、何をするんだ!と森園に叱られる。

様子がおかしい事に気づいた森園が、君は何年按摩をやっているのかと聞くと、まだ一週間ですとおヤエが答えたのでがっかりするが、このままでは追い返されると悟ったおヤエは、特権を利用するのよと言う昨日の仲間の言葉を思い出すと、森園ににじり寄り、その手を取ってキスをしようとしたので、バカもん!と怒鳴られて投げ飛ばされてしまう。

おヤエは謝り、これには深い訳がありまして、弟の学費を稼がなければいけないのですと説明すると、急の森園は、それならば、按摩のコツを教えてやると言い出し、自らおヤエの身体をもみ始める。

汗だくになって森園が教える中、モデルになったおヤエの方はすっかり心地よくなり眠り込んでしまうのだった。

森園から起こされたおヤエは、いつものように、お粗末様、250円頂きますとちゃっかり料金を森園から受け取って帰ろうとする。

そんなおヤエが廊下に出た所で、向かいの部屋にいた長岡なる客(柳沢真一)が僕ももんでくれと言って来たので、おヤエは、自分は新米ですけどと…と正直に打ち上げるが良いと言う。

部屋に入ったおヤエは、こういうお客さんはどう言う特権を利用したら良いのか?等と悩むが、普通にもみ終えると、男は大きな札を渡して来る。

おヤエが釣りを出そうとすると、釣りは良い。今話を聞いたが、弟さんを大学やっているんだって?しっかりやんなさいとその男は優しい言葉をかけてくれる。

おヤエは、寝床に入っても、学校の勉強を1人続けていた。

1月になり、泉屋で、野口(渡辺篤)と言う客の身体をもみ終えたおヤエに、料金を払おうと財布を捜していた野口がないと言い出す。

野口はお前が怪しいと言い出し、否定するおヤエに一枚ずつここで脱いで証明してみろと言うので、泣く泣くおヤエは衣服を脱いで行くが、これ以上脱いだら軽犯罪法違反になります!と必死で下着を押さえるおヤエ。

その時、女将が入って来て、野口さん!と怒鳴りつけると、この人はこういう病気なんだよと慰めてくれるが、緊張が解けたおヤエは思わず泣き出してしまう。

その後、弟の孝志が無事、東京法科大学を卒業したので、これで後は姉さんが卒業できれば一安心だと、卒業式に出向いたおヤエは喜ぶが、孝志の顔色はさえず、ル○ペンじゃ仕方ないだろ?俺、就職試験に落っこちたんだと言い出す。

何とかしてやりたいと思ったおヤエは、依然親切にしてもらったあの森園に相談に行くと、法科を卒業しているのなら、大阪と東京に出張所を持っているうちの東京主張所の方で修行してもらおうかと言ってくれる。

おヤエは感激するが、他ならぬ、おヤエちゃんのためだから…と森園は言ってくれる。

その夜、「築地診療所」へ帰って来たおヤエは、弟の卒業祝として、仲間たちにラーメンをごちそうしてやる。

みんなは孝志の就職を喜んでくれたが、おヤエが、でもお金がなくて、孝志は学生服のまま出社しなければいけない。背広の一着も買ってあげたいのだが…とこぼすのを聞いていた千鶴子は、では自分が貯金をおろして貸してあげようと言ってくれる。

おヤエは思わず、すみませんと感謝し、また涙するのだった。

かくして孝志は自分のアパートにやって来たおヤエと千鶴子の前で、買ってもらった吊るしの背広を着てみせる。

その晴れ姿に感激したおヤエは、お姉ちゃん、無学な女だけど、いつまでもお姉ちゃんと呼んでくれますかなどと言い出したので、孝志は当たり前じゃないかと答える。

死んだ父ちゃん、母ちゃんに見せてあげたかった…と続けたおヤエは、後は良いお嫁さんを見つけるだけだと言うので、姉ちゃんこそ早く良い人見つけなよと孝志が勧めると、千鶴子は、長岡さん、好きだって言ってたわよとおヤエに伝える。

「築地治療院」では、富子が松下と言う男と今日会って下さるんでしょう?などと私用電話をしていたので、電話番のキシエが顔を出し、この頃毎日男に電話しているけど気を付けてくれないと困るよと注意する。

そんなある日、千鶴子は、結婚相手の素行調査で外回りをしていたと言う孝志を呼び出し、外でデートしていた。

彼らが、とある橋に来かかると、川を進むボートに乗ったおヤエと長岡が見えた。

遠目にも二人の仲は深まっているように見えた。

その後、遊園地に連れて来たおヤエに、長岡は、9月に学校を卒業し、国家試験を受けたら、自分が大阪に一件家を持っているので、そこで商売を始めたら良いじゃないか。ボクは結婚しても良いと思ってるんだと言ってくれたので、おヤエは幸せでメガ廻りそうになる。

さらに長岡は、母の形見だと言う指輪まではめてくれて、きっと母親も喜んでくれるだろうとおヤエに優しく言ってくれる。

おヤエはその後、孝志のためのネクタイを買って、アパートへ向かい部屋を開けると、そこにはキスをしている孝志と千鶴子がいたので、3人は互いに固まってしまう。

僕たち結婚するんですと言う孝志の言葉を聞いたおヤエは動揺し、いけないよ!いけないよ!私はこういう人と結婚させようと思っていたわけではない。私は按摩の生活がどんなものか知っているから言うんだ。あんたの嫁さんは、堅気の、花も生け花もお茶も出来るような人じゃないといけないと叫ぶ。

それを黙って聞いていた千鶴子は、そんな夢みたいな…と呟くが、孝志は私にとって夢なの!とおヤエは言う。

その時、孝志が、姉ちゃん、僕たちもう、分かれられないんだ…と言うので、その意味に気づいたおヤエは、え!と言ったきり、ただ立ちすくむだけだった。

良く分かったわ。姉ちゃんは今日から1人で生きて行くから、あんたたちは2人で幸せになると良いわと言い残し、おヤエはアパートから去って行く。

その後、森園興信所等橋出張所にやって来たご夫人は、応対した孝志相手に、世田谷に住む松下としおと言う人物を捜して欲しい。自分は彼から、20万もする指輪をもらって近々結婚の約束をしていたのに、聞いた住所にいないのだと言う。

相手ののろけ話にたじたじになりながらも、相手の特徴を聞いた孝志は、脇の下にほくろがあると言うことを聞く。

その手掛かりを元に、聞き込みを始めた孝志だったが、とある団地で出会った夫婦者の奥さんの方が、それだったら大木さんじゃない?と言い出したので、一緒に話を聞いていた夫の方は、何でお前が脇の下の事まで知っているんだ!と嫉妬心むき出しで文句を言い始める。

その後、聞き込みを続けると、半年前、芸者屋の女将と一緒に来た中沢さんじゃないかと言う情報を得る。

その女将に会うと、中沢さんに間違いないと言う。

その頃、おヤエは長岡から電話をもらっていた。

中沢なる人物を追ってとある旅館に来ていた孝志がそこの女中に話を聞くと、20万くらいすると言う指輪をもらったのだと言って、その女中も中沢と結婚の約束をしていると言う。

その女中に教わった中沢のいる部屋を見やった孝志は、窓際に座っている中沢なる人物が、以前、姉のおヤエと一緒にボートに乗っていた長岡と言う男と同一人物だと言う事に気づく。

間違いなく、中沢こと長岡は結婚詐欺師だと気づいた孝志は、何とか姉に会ってその事を知らせようと「築地診療所」までやって来るが、すでに姉は出かけた後だった。

おヤエは、長岡の泊まっている部屋に来ていた。

長岡はそんなおヤエを押し倒すとキスをする。

そして、君は預金があるんだから、約束通り持って来ているんだろう?と言い出したので、おヤエはそう言われたって急には…と、返事に窮する。

その時、突然、ふすまが開き、山田三五郎だな?結婚詐欺容疑で逮捕すると告げ、山田と呼ばれた長岡は素直に立ち上がると、お手数かけましたと頭を下げる。

しかし、目の前の事態が把握できないおヤエは、刑事の後ろに立っていた孝志の姿を見つける。

刑事に連行されて宿を出て行く山田を、指輪をもらった女中は泣きながら見送っていた。

部屋に残っていたおヤエに孝志は、身辺調査して行くうちに、あいつが悪い奴だと分かったんだと事情を説明するが、自分の恋路を邪魔されたと思って…と言うと、おヤエは孝志の頬をビンタする。

その後、胸を患って寝込んでしまった千鶴子を自分のアパートで寝かせていた孝志は、牛乳など買って来て飲ませようとしていた。

千鶴子は、私のために姉さんと仲違いさせてしまって…と謝るが、孝志は優しく慰めるのだった。

警察に山田の面会に来ていたおヤエは、抱きつきながら、私は10年でも20年でも待ってるから…と伝えるが、そこに山田に騙されていた他の女たちも駆けつけて来て、皆おヤエと同じような事を言い出したので、ひどいんだ…、生まれて初めてキッスしたのに…とおヤエは呟く。

他の女たちも、自分がもらった形見の指輪を見せ合い始め、山田は留置所へと戻されたので、廊下に出たおヤエは、自分の指から指輪を引き抜くと、その場に捨てて出て行く。

その後京橋郵便局にやって来たおヤエ。

一方、孝志は所長の森園に、お金を少し貸してもらえないか?女房が産み月なので…と遠慮がちに申し出ると、森園は喜んで出すと言う。

そこへ駆け込んで来た楠本とキシエは、「色々お世話になりました。グッバイ」と書かれたおヤエからの電報を見せ、これは書き置きですよと青ざめる。

河辺に置かれた下駄と足袋。

裸足になったおヤエは川に足をつけようとするが、冷たくて入れない。

そこに何をしているのかね?と声をかけて来たのは警官で、事情も聞かず岸に引き上げてくれる。

その頃、自殺しそうなおヤエの行方を、治療院の仲間たちや森園、キシエ、孝志らが必死に探しまわっていた。

おヤエは、線路に入り込むと、迫り来る機関車を観ながら、線路に身を横たえる。

ところが、おヤエの近くに来た時に、機関車は脇の線路に曲がって走り去ってしまう。

治療院の仲間たちは、川に何か浮かんでいるとキシエを呼ぶが、それはただのカボチャだった。

そんな中、いつの間にか孝志の姿が見えなくなっている事に気づく。

森園は、赤ん坊が生まれるんだよとキシエに教える。

最後に一目弟に会いたいと思い、その孝志のアパートへやって来ていたおヤエは部屋を覗き込むが、そこには誰もいなかったのですごすごと帰って行く。

その直後、身重の千鶴子を抱えてアパートの管理人のおばさんが部屋に連れて来る。

その後、孝志も戻って来て、そろそろ生みそうな千鶴子を病院に連れて行きたいので車の手配をおばさんに頼むと、こんな時間に車が見つかるかどうか分からないので、裏の製材所に頼むと言いながらおばさんは出かけて行く。

おヤエは、枝振りの良い木を見つけると、手ぬぐいの繋いだものに石を結びつけ、枝に放り投げて輪っかを作ると、そこに首を突っ込んで死のうとするが、その時、おヤエの苦手な犬が近づいて来たので、怖がったおヤエは木に登って犬を追い払おうとする。

しかし犬は、おヤエの腰巻きをくわえて持ち去ってしまう。

製材所の荷台に、千鶴子を乗せ、病院へ向かっていた孝志だったが、そのトラックが木の下を通りかかった時、木の上にいたおヤエの垂らしたヒモがトラックに引っかかり、ヒモに引っ張られる形で、おヤエの身体は荷台に投げ出され気絶してしまう。

探していた姉がいきなり出現した事に驚いた孝志は、おヤエを揺り起こすが、おヤエはもう死んだものと思っているようだった。

もうろうとしていたおヤエだったが、生きるんだ!千鶴子が子供を産むんだと孝志に言われると、エエッ!と仰天して飛び起きると、目の前に横たわっている身重の千鶴子の姿を観る。

千鶴子は胸が悪いので生むなと言われているのに、俺のために生んでくれるんだと説明する孝志の言葉に感激したおヤエは、お姉ちゃんがバカだった。今後は姉ちゃん、生まれ変わって、お前たちの赤ちゃんを育ててやりますから…と孝志と千鶴子に告げるのだった。

母親の千鶴子は、今は療養所に入っていると言うおヤエの長い打ち明け話を聞き終えた客は、感激したのか、按摩代に赤ん坊のミルク代を添えておヤエに払ってくれる。

旅館を出たおヤエを呼び止めたのは、以前観てもらったあの易者だったが、又、おヤエの顔を観ると、あんたには水難の層があると言うではないか。

またそんないい加減な事言って…とちょっと怒りかけたおヤエだったが、気がつくと、背中が濡れている事に気づく。

背負っていた赤ん坊がお漏らししたのだった。

出た出た…、まさしく水難だ…と笑ったおヤエは、急いで夜の街角を帰路につくのだった。