TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

男はつらいよ フーテンの寅

シリーズの第3作目だが、シリーズ中唯一、山田洋次監督ではない作品。

久しぶりに見直したが、やはり、後期の作品とはひと味違うパワー溢れる作品になっている事に気づく。

細部に至るまでアイデアが盛り込まれており、密度が濃い印象を受ける。

寅次郎は博と取っ組み合いの喧嘩をするくらい元気一杯だし、旅館で演芸を披露したり、口八丁手八丁の芸達者な所も楽しめる。

正に「元気一杯のバカ」、まるで「無法松の一生」の松五郎と同類の無邪気なバカを観る事が出来る。

インテリのような学こそないが、決して勘が悪いわけではなく、ちゃんと炬燵を修理したり、中気で口が不自由な老人の言葉を察してやるような事は出来るのだ。

春川ますみ扮する駒子の話を聞いただけで、すぐに夫婦の気持ちのねじれを察し、その日のうちに2人を仲直りさせてしまう所など、ただ者ではない「切れ者」のイメージ、人情の機微に通じている苦労人とさえ思わせる。

人に対する親切も、何か見返りを期待したり、計算づくでやっているのではない。

多少、渡世人としての見栄も混じっているが、基本は素の気持ちから出ている行動だと思う。

だから人は寅次郎を憎めない。

哀れなのは、そんなに他人に対しては良い人間なのに、自分や身内の気持ちには無頓着だったり、気持ちを察すると言う事が出来ないと言う所だ。

自分の恋愛感情をコントロールできないのは、俗にいう「恋は盲目」から来るものだし、身内に対しては「甘え」があると言う事かもしれない。

そう言う寅次郎のキャラクターの根本的な部分が、こういう初期の作品を観ているとはっきり見えるような気がする。

冒頭に登場している宿の女中が、まだ可愛らしい時代の樹木希林だったりするタイムマシンのような面白さや、初代おいちゃん役の森川信と寅との喜劇人同士のおとぼけ会話も楽しめる作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1970年、松竹、小林俊一+宮崎晃脚本、山田洋次原作+脚本、森崎東監督作品。

木曽のな〜御岳山♬

蒸気機関車が通り過ぎる。

地方の旅館では、今正に結婚式が行われている最中で、飲めや歌えの大騒ぎ

帰りかけた参加者を呼び返していた酔客の一人が、たまたま廊下に出てきたマスクをした泊まり客にも酒を勧める。

泊まり客は車寅次郎(渥美清)で、マスクを外して酒を飲もうとするが、思わずくしゃみをして、盃をぶちまけてしまう。

ボロ部屋で寝込んだ寅次郎は、やって来た女中(樹木希林)から東京の人かね?話しかけられ、江戸っ子よと答えながら、持っていた写真を見せる。

女中は、写真を見ながら、奥さんかね?と聞き、可愛い人だねと感心すると、寅次郎は調子に乗って、写真の赤ん坊が子供で、一緒に写っているのはおふくろとオヤジよと答える。

幸せそうな家族写真と思い込んだ女中が、自分は孤児だと言って泣き出したので、良い婿さん見つけるんだぞと言い聞かせた寅次郎は、女中が部屋を出て行くと、いくら可愛くても妹じゃしようがねえやと呟く。

写真に写っていたのは、生まれたばかりの満男を抱いたさくら(倍賞千恵子)とおいちゃん(森川信)おばちゃん(三崎千恵子)だったからだ。

また列車が通り過ぎ、揺れる障子窓を閉めようとした寅次郎だったが、指を挟んでしまい、痛がって寝床に入った途端、障子窓自体が外れ、頭に落ちて来たので、思わず、落ち目だね〜と呟く。

タイトル(寅次郎ががまの油売りなのか、剣舞のような芸を披露している様子、お堂で弁当を食べていると、村の子供たちに囲まれて照れている様子、あぜ道で、やって来たトラクターに道を譲ろうとすると別な道にそれてしまったり、通りかかったが学生たちの自転車とすれ違い様、自転車が次々とあぜ道から落ちて行く様子、海辺で船の影にしゃがんでいた女性に食いかけのバナナを渡そうとすると、女性と抱き合っていたらしき逢い引きの男が立ち上がり、寅次郎はしらけて浜辺の方へ向かう様子など)

葛飾柴又

忙しく働いていたおいちゃんに、客が来るので団子を10箱ばかりくれと「とらや」にやって来たのは、裏の印刷屋のタコ社長こと梅太郎(太宰久雄)

縁談、先方は乗り気だよと言うタコ社長の話に、一瞬、何の話だったっけ?と戸惑うおいちゃんだったが、寅さんの縁談だよと言われ、そう言えば…と思い出した所に電話がかかって来たので出ると、何と相手はその寅次郎。

今どこにいるんだ?東北か北陸か?と問いかけるおいちゃんだったが、今噂していた所なんだ。帰っておいでよと勧めるが、電話の向うの寅次郎は、ほらほら店の前に客が来ているよと言う。

実は、とらやの目の前の公衆電話からかけていたのであり、意味が分からないおいちゃんを差し置いて、寅次郎自ら「とらや」の店先にやってくると、客に挨拶をする。

受話器を持ったまま、帰って来た寅次郎を観たおいちゃんはぽかんとしていた。

その夜、印刷屋の仕事を終えた博(前田吟)も交え、居間でおいちゃんと酒を飲みながら談笑し始めた寅次郎に、おいちゃんは、そろそろ店を手伝ってくれないかと頼み、博も、兄さんも旅ガラスの暮らしは辞めて…と説得する。

それに耳を傾けかけた寅次郎に、博が、兄さんのために縁談を用意したんです。家の社長が前々から進めてくれていたんですよと切り出す。

おいちゃんも、先方にはお前のことを、気っ風が良くて男っぷりも良くてと褒めてあるんだと言いながらも、実は先方は河内屋の女中なんだがねと説明し、おばちゃんも、会うだけ会ってみたら…と勧める。

寅次郎がまんざらでもない風だったので、博はさっそく今夜話してみると言い出し、寅次郎はあまりに急な展開に戸惑う。

それでも、どんな人が良いんだい?などと振られると、最初は、ババアじゃなければ誰でも良いよ。強いて言えば、気だての優しい人かな…などと言い始め、その内、朝、冷たい水ではなく暖かいお湯で亭主に顔を洗わせるような女房が良いねなどと調子に乗り始め、おばちゃんに、小便する自分の上着の裾を持たせたりし始める。

さらに、いつも化粧して、疲れて帰って来た亭主には三つ指を付いて、お疲れさま…と言うくらいじゃないと、酒の燗も人はだで、女は常日頃からたしなみが必要…とがどんどん注文をつけ始め、そのまま居眠りを始めたので、さすがに黙って聞いていたおいちゃんや博、比較対象として引き合いに出されたおばちゃんらの表情が全員厳しくなる。

翌朝、その話を聞いたタコ社長も、そんな女今時どこを探してもいないよ。そもそも寅さんなんて、態の良い失業者だよと怒っていた。

しかし、二階から降りて来た寅次郎は上機嫌で、友達の所に洋らん(洋服)を借りに行って来ると言うので、タコ社長は、見合いは1時だよと教える。

その1時になり、見合い場所の河内屋に慌ててやって来たタコ社長は、今日が手形の締切日だったのを忘れていたんだと遅れた詫びを言う。

観ると、おいちゃんと一緒に先に待ち構えていた寅次郎は、借りて来たスーツを着ているものの、明らかに緊張しまくっていた。

そこに、女中の見合い相手がやって来たので、タコ社長は駒子さんと呼びかけるが、恥ずかしそうに顔を上げた駒子(春川ますみ)と、少し遅れて顔を上げた寅次郎は、互いに唖然とした表情になり、おめえは仙台の狸小路にいたお駒さんじゃねえか!と寅次郎が相好を崩す。

あれ、お前、確か亭主がいたんじゃねえか?と寅次郎が思い出すと、駒子は泣き出し、それを観ていたタコ社長は急に用事を思い出したと言い出し中座するし、おいちゃんも、急に用事を思い出したと言い、あたふたと部屋を逃げ出して行く。

その後、駒子は酒を飲み、泣きながら身の上話を寅次郎に語りかける。

亭主に女が出来たので、自分も腹いせに男にくっついてやろうと思ったら、(タコ)社長が、頭が弱くて大ボラ拭きで顏は下駄みたいな男がいるって言うので、下駄でも良いやってヤケになって…と言いながら吐きそうになり、今つわりなのと言い出す。

つわり?と驚いた寅次郎は、じゃあお前、もう仕込んであったのか?と呆れ、自分も思わず吐きそうになる。

「とらや」では、源吉(佐藤蛾次郎)が、寅次郎が帰って来たと報告したので、先に帰っていたおいちゃんは、怒ってないか?とおどおどして待ち受けていた。

ところが、店に入って来た寅次郎は、そんなおいちゃんから、これから千住に行くのでタクシー代貸してくれとねだると、ひょっとすると今晩、結婚式になるかもしれないと言い残して出て行く。

夜、駒子と、その亭主の中村為吉(晴乃ピーチク)を「とらや」に連れて来た寅次郎は、店先でちょっと2人に説教すると、これで万事めでたしだ!と一人で納得する。

そこにタコ社長がやって来て、寅さん、もう結婚式だって?となどと言う。

寅次郎はおばちゃんにしたくは出来ているか?と聞き、何もないと知ると、源吉に、急いで仕出し屋へ行って、15〜6人前料理を頼んで来い。酒も買ってきて、見番に行って芸者も呼んで来いなどと命じる。

その晩は、駒子と為吉の結婚式と言うのでどんちゃん騒ぎになり、寅次郎は、やって来たハイヤーに2人を乗せると、運転手に熱海までやってくれ。料金は「とらや」に請求してくれなど言って送り出してしまう。

その後、おばちゃんは、ハイヤーなんて自分は一度も乗った事ないよと抗議し、おいちゃんも何で赤の他人の為に家が散在しなくちゃ行けないんだと寅次郎に激怒する。

すると寅次郎は、自分たちさえ良ければそれで良いのか?と反論し出したので、博も、兄さん、最前から言葉が過ぎるよと注意する。

寅次郎は、何だ?職工!お前のような冷たい人間にさくらをやるんじゃなかったなどと言い出す。

さくらはその日、赤ん坊が熱を出したので「とらや」には来ていなかったのだが、さすがに、その言葉には切れた博は、表へ出ろ!とけんか腰になり、寅次郎と博は庭先でにらみ合う事に。

おばちゃんは、誰か来てぇ!と助けを呼ぶが、聞こえているタコ社長らはかかわり合いたくないので出て来ない。

博は、寅次郎を殴りつけると、背負い投げを食らわせ、倒れた寅次郎の腕を固める。

側にいたおいちゃんは、応えたら謝るんだ!今度帰って来たら、お前を幸せにしてやりたいと思っていたのに、それを冷たい人間だなどと、良くも言ってくれたな!と叱りながら泣き出してしまう。

それを地面に押さえつけられながらじっと聞いている寅次郎。

翌朝、コートを着て旅立つ事にした寅次郎を、見送りにきたさくらが、別に悪い事をしたわけじゃないわよね。哀しいわよね、お兄ちゃんだってとかばってやり、どうしても行っちゃうの?と戸惑っていたが、そこに兄さん!と叫びながら駆けつけてきた博も、昨日はどうもすみませんでしたと詫びる。

寅次郎はそれを気にする風でもなく、あばよ、さくらを頼むぜ。さくら、幸せになるんだぞとかっこをつけて土手を上って行くが、途中で足を滑らせ転んでしまったので、慌てて、起き上がると、コートを肩にかけて歩いて行く。

そんな寅次郎に、お兄ちゃん、もうすぐ寒くなるから、温かくしなけりゃダメよとさくらは声をかける。

一月後…

おいちゃんとおばちゃんは、珍しく温泉旅行に出かける事になり、タコ社長や源吉に見送られていた。

タクシーに乗り込むおいちゃんは、寅に旅先でバッタリ出会ったりしてななどと冗談を言って笑う。

湯の山温泉に着いたものの目当ての旅館の見当がつかない2人は、バスの車掌に「もみじ荘」は?と聞くと、目の前に立っていた老人を教えられる。

その老人徳さん(左卜全)が「もみじ荘」の番頭らしかった。

何とか「もみじ荘」の部屋に到着した2人だったが、炬燵に入りかけたおばちゃんは、中が暖まっていない事に気づく。

そこに女中が来て、さらに女将のお志津(新珠三千代)直々に挨拶に来て、炬燵の事を聞いたので、おばちゃんは切れているみたいよと教える。

女将は詫び下がって行ったので、残った女中に今の女将の事をおいちゃんが問いただすと、ご主人に先立たれたそうだが、きれいなので客の人気も高く、惚れ込んで、客だったのがそのまま居着いて番頭になった人もいるんですよと言うので、おいちゃんは、そんな奴の顔を見てみたいねと笑う。

女中が、今その人の顔が観れますよ、炬燵を直しにきますからねと言って「寅さ〜ん!」と外に呼びかけたので、おいちゃんとおばちゃんは凍り付いてしまう。

部屋にやってきたのは、予想通り、旅館の法被を着た寅次郎だった。

思わず、おいちゃんとおばちゃんは炬燵から身を遠ざけ、寅次郎の方も炬燵の方に気を取られ、客の顔をちゃんと見ないまま修理を始めたので、お客さんたち東京からですか?私も東京に叔父貴夫婦がいるんですが、もう片足を棺桶に突っ込んでてねなど1人でしゃべりだす。

やがて修理を終え顔を上げた寅次郎は、目の前にいるのがおいちゃんとおばちゃんだと言う事にようやく気づく。

3人で酒を飲み始めるが、何でここにいるのかと聞くと、人助けよ。女将が元お嬢さんの素人で、泣いて頼まれたので仕方なく…と寅次郎は粋がる。

そこに、ベテラン風の仲居おすみ(野村昭子)が酒を運んで来るが、その時部屋の電話が鳴ったので仲居が出ると、雪の間で余興を御希望だそうだよ寅次郎に伝えるが、そんなとこ行けるかとはねつけかけた寅次郎だが、電話の相手が女将さんだと知ると、急に態度を変え、すぐに行きますと電話に返事して部屋を出て行く。

残ったおすみが言うには、あの人はテキ屋で、半月ほど前に健康バンドのようなものを売りにきたのだが、原を下しちゃったらしく何度も便所を借りる騒ぎになり、そのまま捨て猫みたいに居着いちゃったらしい。女将さんにぞっこんで、余興の最中に女将さんの名前を呼ぶくらいなんですよと呆れたように教える。

雪の間では、三度笠の股旅に扮した寅次郎が、芸者の染奴(香山美子)とコンビを組んで、素人演芸を披露していたが、客が想像する通り、最後には「お志津!」と女将さんの名前を呼んだので大受けになる。

おいちゃんとおばちゃんが帰る時、バスを見送りにきた寅次郎においちゃんは、あまり高望みするなと注意するが、それを理解している風にも見えない寅次郎は、走り抜けて行ったバイクを避けようとして柵にひっかかり転んでしまう。

バイクの青年信夫(河原崎建三)は、地元の中華料理屋で、他の芸者たちと食事をしていた染奴の所へやって来ると、芸者辞めて妾になるんだって?といきなり問いつめる。

しかし染奴は、あんたは東京でんんびり大学に行ってれば良いのよと相手にしないので、信夫は、もうとっくに大学なんか辞めたよと答える。

そこにやって来た寅次郎は、信夫を観ると、さっき転ばされたバイクの相手と分かり、帰れよ!染奴を横恋慕しているな?と言いがかりをつける。

その時、信夫がコップの水を寅次郎に浴びせたので、表に出ろ!と言う事になる。

近くの橋の上でにらみ合った寅次郎は、相手をビビらそうと仁義を切り始めるが、信夫がナイフを抜いて来ると自分の方がビビり始める。

そこへ駆けつけたのが、染奴が呼んで来たお志津だったが、近づいた途端、寅次郎は欄干から足を滑らせて下へ落下してしまう。

気がついた寅次郎は、「もみじ荘」に寝かされており、お志津が看病にやって来たのでどぎまぎする。

そこに、信夫も姿を見せたので、寅次郎は緊張するが、お志津が言うには信夫は自分の弟なのだと言う。

そのまま信夫は、詫びも言わずに奥へ下がってしまう。

あの子は、母が亡くなってからぐれてしまい、今では私の言う事も聞いてくれなくなった。自殺するんではないかと心配しているんですなどとお志津が言うので、俺はインテリがかかる「イロノーゼ」と言うもので、インテリの頭の中はテレビの鵣川わみたいに複雑過ぎるので考え過ぎるのでしょう。その点、私なんかは線一本ですから…などと言い、その後、信夫の部屋に自分から行ってみる。

炬燵に入っていた信夫と差し向かいになった寅次郎は、お前の気持ちは分かっている、こういう事はベテランに任せろ。相手はシャーゲー、芸者だよ。言葉じゃなくお手てで口説くんだ。炬燵の中で相手の手をそっと触れ、相手の反応を観ながらぐっと掴むんだ。その時相手の目を観ちゃ行けない。これが炬燵の恋だよ…などと恋愛指南をし出す。

そこに、お茶を持ってお志津が入って来、さらに染奴もやって来たので、寅次郎は染奴を信夫の差し向かいの位置になるよう譲ってやる。

お志津は信夫と染奴とは幼なじみだと説明し、寅さんは、元気がよくて男気があって…と褒め出したので、調子に乗った寅次郎は、女将さんに為なら、ウンコ溜だって入っちゃうなぁ〜!なんてとんでもない事を言い出し、呆れたお志津が部屋を出て行くと、何か話があるんじゃなかったの?と言う染奴まで、何も言い出さない信夫に怒って帰ってしまう。

その後も、何かに照れていた寅次郎がひっくり返ると、炬燵の中で握っていたのは信夫の手だったと分かる。

信夫は一体誰の手だと思っていたんだ!と怒り出し、寅次郎が自分の姉に思いを寄せている事に気づくと怒って出て行ってしまう。

地元の「僧兵まつり」の日

外で会っていた信夫はお志津に、姉さんと俺とはもう関係ない。それで良いんやろ?と縁切りのような発言をしていた。

俺は最初から、あの旅館を継ぐ気なんてなかったと言う信夫に、本当にやりたいことがあるの?あるんだったら良いんだけどとお志津は心配する。

そこに、お志津の娘みち子を抱いた寅次郎が近づいてきて、黙って出て行くなんて、テキ屋風情のやる事と同じと信夫に言うと、お志津には、行く所は察しが付きます。もう一度だけ戻って来させますと約束すると、信夫のバイクの後ろに乗り出発する。

信夫がやって来たのは、染奴の実家がある貧しい一角だった。

バイクを降りた寅次郎は、周囲を見回すと、庶民の暮らしは貧しいな〜…とため息をつく。

染奴に付いて入った実家にいたのは、中気で身体が不自由なくせに酒を飲んでいる父親清太郎(花澤徳衛)だった。

その父親の前に上がり込んだ寅次郎が、よいよいのお父っあんのために妾になろうってのか…と染奴に同情すると、信夫は、あんな旅館を叩き売れば、そんな金くらい何とでもなると言うので、思わず寅次郎は殴り飛ばし、貧乏人が一番辛いのは、金持ちに金で頬を叩かれる事だと言う。

信夫も、俺だって分かる。染ちゃんが金で身体を売ることくらい…と言うが、染奴は、うちは妾なんてなりとうない。信夫さんのお嫁さんになりたいのと口が不自由な父親に訴えるが、清太郎が何を言っているのか分からない。

すると、寅次郎が、俺には分かる。お父っあんは嬉しいと言ってるんだと言い、清太郎も頷く。

清太郎が又何かを言いながら涙を流し始めたので、寅次郎は、染子、お前が妾になると言ったときも芸者になると言った時も、俺は腹の中で泣いていたんだ。今は嬉しくて泣いているんだ。一刻も早く駆け落ちをしろと通訳してやる。

それを聞いた信夫は染子の手を引いて表に出て行くと、やがてバイクが走り去る音が聞こえて来る。

家の中で清太郎と二人きりになった寅次郎は、あんさん、ご同業でしょう?長のお勤め、ご苦労さんでしたと挨拶すると、清太郎は、神棚に置いてあった譲渡状を指し示す。

中を開いて読んだ寅次郎は、目の前にいる染子の父親の名が坂口清太郎と言うのを知ると、自らも仁義を切り始める。

「僧兵祭り」を見知らぬ男性吉井と娘みち子とで見学していたお志津の元に戻って来た信夫は、染めちゃんと東京で働くよ。これで行き先も目的もちゃんとしただろう?と伝え、お志津は後部座席の染子に、信ちゃんをよろしくねと頼む。

バイクを出発させようとした信夫はお志津に、姉ちゃんも、早くすっきりした方が良いよ。罪作りだよと言い残し走り去って行く。

残った吉井は、これであなたも旅館と言う大きな荷物を一生背負って歩く事になりましたねと話しかけると、お志津は、私、決心しましたと答える。

その後「もみじ荘」に戻って来たお志津は、ベテラン番頭の徳さんと仲居のおすみを前に、旅館を近々畳み、今年中に祝言をって先方が言っているのだと打ち明ける。

仲居と徳さんは薄々事態に気づいていたようで、両者とも辞めた後の事は考えてあると言う。

板前や他の女中たちには、彼らが話してみるので大丈夫だろうと言うが、もう1人いると徳さんが言い出す。

寅次郎は、お志津の娘のみち子を連れ、ロープウェイに乗って展望台まで登っていた。

展望第に着いたものの、あまりに寒いので、みち子に上着を着せてやっていた寅次郎は、くしゃみを連発し始める。

寅次郎は、又、「もみじ荘」で寝込み、心配したお志津が卵酒を持って様子を見に来ると、ごめんなさいね、みち子の為なんですってねと詫びる。

そして、実は寅さん、とても言いにくい事ですけど…と、お志津は「もみじ荘」を畳む決心を打ち明けようとするが、何か勘違いして顔を上気させる寅次郎の顔を見ていると、何も言えないまま奥に戻って来る。

それを知ったおすみは、では自分が言って来ると寅の部屋に向かうが、すぐに、がっかりした様子で戻ってくると私には言えませんよと報告する。

仕方がないので、今度は徳さんが向かうが、寝ていた寅次郎を起こそうと手を胸に当て揺り起こそうとすると、その手を急に握られ、お志津さん!と寝言を言うので、結局徳さんも何も言えないままだった。

翌日、お志津はみち子を連れ、吉井の元へ向かう事にする。

それを見送ったおすみは、お嬢様がはっきり言ってくれないから、寅さん、妙な誤解をして…。私からちゃんと話しておきますと玄関口でぼやいていると、そこに、夕べの卵酒が聞いたので、風邪なんかイチコロよ…などと言いながら明るい顔をした寅次郎が歯を磨きながらやって来る。

女将さんに一言礼を言って来るかななどと言いながら、お志津の部屋に向かおうとしたので、慌てて呼び止めたおすみは、話があると言いながら寅次郎を座らせると、きれいな人がいてね…などと例え話を始める。

それを聞いた寅次郎は早合点して、私、独身主義だから…と言って話の腰を折ろうとする。

慌てたおすみは、あんたの事じゃないよ。相手は大学の先生で立派な人がいるのよ。女の方も好きでさ。ところが岡惚れしている男がいてね、何とか諦めてもらおうと思うのと話を続ける。

寅次郎は、また早飲み込みし、俺がそいつに諦めさせれば良いのか?と言いながら、また歯を磨き始め、ひょっとして女将さんか?誰なんだ、そのバカは?…と考えていたが、ようやく何かに気づいたように黙り込む。

そうよ、バカはお前だよと指摘する徳さん。

その後、「おせわになりました」と書かれた寅次郎の書き置きが残って寅次郎の姿は消えたので、解決したと思った徳さん、おすみ、女中の3人で、あんな男は2、3日経てば忘れるよなどと噂をし合っていたが、その時、庭先に人影を見つけ、寅次郎がまだ立ち去っていなかった事を知る。

女将さんに一言別れを言おうと思っているんだと気づいた徳さんだったが、彼ら3人がいたのは、そのお志津の部屋だったので、寅次郎が近づいて来る気配を感じ、みんな固まる。

おすみが甲高い咳払いをすると、それをお志津と勘違いしたのか、障子の向うの影が停まり、寅の別れの言葉を一言聞いてやっておくんなさいと寅次郎は語り出す。

この一月、寅は幸せでございました。お志津さん、お達者で…。

もし10年、20年経って、雪の降る寒い夜、昔の事など思い出す事がありましたら、湯の山に寅と言うバカな男がいたとでも思い出しておくんなさい。ごめんなすって…

障子の影が薄れたので、そっと開けてみた徳さんやおすみたちは、寅次郎が立ち去って行く姿を観る。

一本道を歩いていた寅次郎とすれ違った車には、お志津とよし子と吉井が乗っており、寅次郎に気づいたお志津は車を停めてもらうが、寅次郎の方は気づかないまますすきの中に入ると、椿の花を折って手にすると、また道に戻って来て、亭主持つなら堅気をお持ち〜♬と歌いながら歩き始める。

柴又の帝釈天の鐘突き堂に、日奏(笠智衆)ら僧がやって来る。

その日は大晦日、除夜の鐘を叩く為であった。

「とらや」では、さくらがお蕎麦ができたわよと、まだ働いていた店のおいちゃんたちに声をかける。

そこに、駒子と為吉夫婦もやって来たので、博も交え、全員、テレビを前に、年越しそばを食べ始める。

やがて、テレビの中の除夜の鐘が鳴り、1969年さようなら、あけましておめでとうございますと言うので、おいちゃんたちも新年の挨拶を交わす。

駒子は、寅さん、今頃どこにいるのかしら?と案じる。

その時、何気なくテレビを見ながら蕎麦を食べていたさくらは、九州霧島からの中継レポーターの後ろを横切った寅次郎を観たような気がする。

レポーターが、その場にいた見物客の中にいた寅次郎にマイクを向けたので、寅次郎はテレビ画面に向かい、日本の国民の皆さん、新年あけましておめでとうございますと挨拶をする。

それに気づいたおいちゃんやおばちゃんたちも、全員、テレビ画面に釘付けになる。

レポーターが、ご家族は?お子さんは?と聞くと、寅次郎は、2人、否3人になるかなどと噓を言うので、それを聞いたおいちゃんは、何が子供だ。あいつは本当にバカだねと呆れ、さくらは思わず泣き出してしまう。

レポーターは、他の人にマイクを向けようとするが、マイクにしがみついた寅次郎は、お志津よ、元気にやっているか!などと、まるで女房に呼びかけるようにテレビに向かって叫ぶ。

そのテレビ画面がカラーで写っている吉井家では、お志津やよし子が吉井と共に、テレビなど感心なさそうに正月の準備をしていた。

テレビ画面では、テレビ局員がまだ何か言いたそうな寅次郎を押さえつけていた。

後日、桜島からの連絡船上、乗客たちに啖呵売を教える寅次郎の姿があった。