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おしゃべりな真珠

高校を卒業し、社会に出たばかりの4人の女性を巡る友情と、それぞれ違った形の愛情体験を描いた青春物語。

子供時代、伊東ゆかりは結構好きな歌手だった。

ナベプロ3人娘(園まり、中尾ミエ、伊東ゆかり)の中でもお気に入りは伊東ゆかりだった。

可愛いとも思い、布施明と共演していた(?)テレビドラマ「S・Hは恋のイニシャル」(1969)なども観ていたような記憶がある。

しかし、この映画で今、まじまじと伊東ゆかりの顔を眺めていると、何でこの頃の伊東ゆかりってこんな個性的な顔なんだろう?と失礼ながら思ってしまう。

好きだった女性アイドルの容貌の事など言うのは気が引けるのだが、映画のスクリーンで改めて観ていると、本当に気になって仕方がない。

3人娘が主演だったのなら、その1人としての伊東ゆかりはそんなに気にならなかったと思うが、一応この作品、伊東ゆかりが主演なのである。

主役と言っても、この作品でも4人組の1人と言った感じで、特に出演シーンが多いわけでも、複雑な演技を要求されている感じでもない。

普通の娘らしく振る舞っていればOKみたいな設定である。

容貌はともかく…などと書くのも失礼だが、歌は巧いし、芝居もそこそここなしており、特に巧くもないが、素人臭い感じもあまりない。

今の感覚からすると、高卒でいきなりスチュワーデスや人気作家に原稿を頼むような出版社の編集者などになれるのかな?と言う素朴な疑問を抱くし、劇中18歳と言っているのに、飲酒のシーンが出て来るのは、当時は問題なかったのだろうか?などと余計な心配もしてしまう。

今東光原作と言うイメージからはかなりかけ離れた青春ドラマのような気がするが、そもそも今東光の小説をそんなに読んでいるわけではないので、単なるこちらの勉強不足から来る認識不足なだけかもしれない。

ステキなお金持ちのおじさまを池部良が演じているのはまあ分かるにしても、奈々子に色目を使って来る叔父役が佐山俊二と言うのはちょっと意表を突かれた感じ。

蘭子が惚れる作家の卵を演じている大辻伺郎に至っては、かなり違和感を感じないではないが…

映画としてはやや単調な感じで、男の目線で観ると若干退屈と思わないでもないが、これは明らかに若い女性を意識した映画なので、男がとやかく言う種類の作品ではないのかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1965年、今東光原作、馬場当脚色、川頭義郎監督作品。

高校の卒業式で校長の挨拶を聞いている奈々子(伊東ゆかり)と蘭子(島かおり)は、クラスメイトの加代子が来ない事を心配し合っていた。

その森下加代子(金子勝美)は、セーラー服姿のまま、ボンゴを叩いている末川(川津祐介)の部屋で踊っていた。

末川は、バイトでバンドをやっている男だったが、学校なんて反吐が出そうだ。俺、メキシコに行くんだ。向うは享楽的だからななどと夢みたいな事を呟いていた。

加代子も連れてってと頼み、気軽に承知した末川は、彼女に抵抗されながらキスをする。

卒業式後、金持ちの娘で、大学進学を決めていた明美(竹村ナナエ)の自宅に蘭子と共に招かれた奈々子は、明美の従兄弟で居候をしている神崎栄助(早川保)や明美や彼女の母親の前で得意の歌を歌ったり、ゴーゴーを踊って楽しんでいた。

そこに明美の父親が帰還、加代子も顔を出す。

卒業後の英介は京都の大学へ行くらしい。

父親が、女性陣の進路を聞くと、蘭子は「文芸公論」に入ったと言い、奈々子は航空会社に就職が決まったと答える。

加代子は、ファッションモデルとしてすでに活躍し始めていたが、私、自信ないですと謙遜していた。

その加代子は、帰宅後、何かを洗い流すようにシャワーを浴びるが、加代子の母親で評論家の克子(津島恵子)は、出版社からの原稿の依頼の電話を受けていた。

「文芸公論」で働き始めた蘭子は、人気作家五十嵐の所へ原稿取りに行かされることになる。

五十嵐は、若い蘭子が珍しかったのか、君なんか誘惑されちゃうと思うよなどとからかって来るが、その間にも別の編集者が原稿を依頼に来る。

五十嵐は、この原稿の後になるから夜になるよと伝え、その編集者は承知して、一旦帰って行く。

蘭子に五十嵐は、同じく人気作家の竹沢なんか寝る時間もないので立って書いているんだって…などと内輪話をしながら、自分自身もうたた寝を始める。

日比谷公園で栄助と明美はキスをしていた。

明美は、パパがあなたの事を、ダメなのは人の期待に応えられない所だって言ってたわよと伝える。

自分との愛情に積極的になれなかった栄助に皮肉を言ったのだった。

その後、明美と奈々子、蘭子の3人は、東京駅から「ひかり」に乗って京都へ向かう栄助を見送っていた。

奈々子と蘭子は、栄助さんの事は私たちの間で不可侵条約を結んでいたんですなどと打ち明ける。

夜の銀座、バーに集まり、お酒を飲む事にした蘭子と奈々子、明美。

蘭子が、人気作家なんてマスを埋める機械みたいなもので、一ヶ月1500枚も書くんだって、気負っていただけにがっかりしたわと仕事の打ち明け話を披露していると、そこに、フィアンセの吉村(三上真一郎)を連れ、加代子も合流する。

吉村は末川と一緒にやっていたバンドを辞め、今ではサラリーマンになっていたが、ついみんなが知っている末川の話題になる。

吉村は、末川は自分に媚びているんだなどと辛辣な言い方をするが、蘭子は、それを黙って聞いていた加代子はボンゴが好き、ラテンが好き…とからかい、蘭子と加代子との間に、一瞬緊張感が走るが、それに気づいた奈々子が、仲直りの乾杯!と言葉を挟んでその場を取りなす。

その後、帰宅するため、地元駅近くでクレンジングを買っていた奈々子は、居候をしている叔父安藤喜代松 (佐山俊二)が会社から帰って来たのに出会ったので一緒に歩き始めるが、安藤は、奈々子から酒と男の匂いがすると言い出す。

君の両親亡き後、自分が親代わりなんだから、軽はずみな事をしてもらっては困るよ。赤線がなくなって、最近の男はあぶないんだから…などと言いながら、安藤は奈々子の身体に抱きついて来る。

それを振り払って家に帰り着いた奈々子だったが、その様子の異変に気づいた叔母は、何かあったの?と聞き、うちの人なんか、まじめなだけで課長になったような人だけど、世の中の男はあんな人ばかりじゃないからねなどと見当違いな言葉をかけて来る。

そこに、安藤が帰宅して来たので、奈々子と安藤の間には気まずい空気が漂う。

その後、奈々子が一人暮らしを始める決心をすると、安藤との事情を知らない叔母さんは、あまりに勝手なんじゃないかい?と嫌みを言うが、蘭子、明美らび手伝ってもらい、トラックで荷物を運び出す。

そのトラックに、安藤まで乗り込もうとしたので、叔母が止める。

事情を知っている明美などは、走り出した荷台の上で奈々子を勇気づけるのだった。

ある日、加代子のファッションショーを観に来た奈々子と蘭子と明美は、吉村が客の接待をやっている姿を目撃する。

しかし、当の加代子は、その後、公園で末川と会うと、白昼堂々、強引にキスされていた。

加代子はそんな図々しい末川の態度に反発を覚え帰りかけるが、末川が、勝手にしろ!と言い残して去って行くと、結局、その後を追って行くのだった。

「文芸公論」で働いていた蘭子は明美から電話をもらい、奈々子の引っ越し祝いをしないかと誘われる。

ちょうどその時、編集長から持ち込み原稿を読んでもらえなかった作家志望の青年がとぼとぼと帰りかけ、出口と資料室の扉を間違えて開けていたので、蘭子は注意してやる。

その青年が帰ったあと、持ち込み原稿の感想を一週間目に聞きに来るなんて…と、その非常識振りに呆れたようだった。

電話の件で、明美と喫茶店で会っていた蘭子は、近くの席に座っている先ほどの売り込み青年を発見し声をかけると同席する。

秋山(大辻伺郎)と名乗ったその青年が持っていた原稿をその場で読みはじめた蘭子は、貸して下さい。じっくり読みますと頼む。

秋山は嬉しいのか、頭をかき始め、そこから落ちたフケがコーヒーの中に入ったにもかかわらず、それを飲み干したので、一緒に観ていた明美は顔をしかめる。

奈々子が一人暮らしを始めたアパートを訪れた明美は、引っ越し祝いとして現金を手渡そうとするが、友情にお金が入るのは嫌と遠慮した奈々子は、2枚だけもらう事にする。

仕事の話を聞かれた奈々子は、スチュワーデスになって世界が狭くなったと答え、久々の再会にみんなはしゃいでしまう。

日本航空の飛行機で大阪にやって来た明美は、そこにタレントを迎えに来ていた吉村と出会う。

八坂でコンサートがあるのだと言う吉村に、明美も京都に来たのだと打ち明ける。

明美が訪ねたのは神崎栄助の下宿先だったが、栄助は不在だと教えてくれた下宿屋の娘(香山美子)の姿を観ると、明美の心は穏やかではなくなる。

明美は、自分は都ホテルに泊まっているので、栄助さんにお伝えくださいと伝言を頼んでホテルに向かう。

ホテルから実家に電話をした明美は、栄助は東京に来ていると知らさせ驚く。

完全に行き違いになったのだ。

電話に出た母親は、無断で京都へやって来た明美の軽率さを叱る。

面白くない明美は、その後吉村と落ち合うと、京都名物のあぶり餅を一緒に食べ、一緒に寺巡りなどしてみる。

仕事に明け暮れていた吉村は、清々しいな〜…と感激したようだったが、浮気なんかしちゃダメだぞ、吉村君!と明美がからかうと、加代ちゃんには、京都で君に会った事を話すよと吉村は答える。

2人はその後も意気投合し、何だか楽しい時間を過ごすのだった。

明美の帰りの飛行機に乗務していた奈々子は、咳き込んでいた老婆の客に薬を持って来ると、水を飲ませたコップを明美に預け、自分はその老婆が連れていた少女が不安そうな顔をしていたので、だっこすると歌って慰めてやる。

その様子を明美の隣に座った紳士(池部良)は、微笑ましそうに観ていた。

少女が寝付くと、奈々子は席に戻してやり毛布をかける。

明美がコップを奈々子に戻し、奈々子が乗務員室に下がって行くと、隣の紳士が、気持ちの良い方ですねと話しかけて来たので、明美は誇らしい気分になり、高校のクラスメイトなんですと教える。

帰宅した明美は、栄助の置き手紙を読み、その後、手紙に書いてあった場所で栄助に会うが、可愛いと思う気持ちと愛情とは違うんだって事が、最近ある人に出会って分かったと栄助は言い出す。

それを聞いて高ぶった明美は、抱いて!と迫るが、そう言う命令するような事止めてくれます?叔父さんの家に居候なんてするんじゃなかったと栄助は不快感を示す。

京都で会った人の事を聞くと、弘子と言う人だと言う。

引っ越す時、本をリヤカーに載せて運んでくれたり献身的だった。

その晩、2人は愛を確かめ合ったんだと告白した栄助の頬を、明美は叩いて帰って行く。

狭い秋山のアパートにやって来た蘭子は、三輪先生が原稿を読んでくれるってと報告しながら、お土産として買って来た餃子の包みを開け始めるが、机に向かっていた秋山は、小説より他の事を考えていた。寝ている時間を8時間として1日16時間、その人は今何をしているんだろうな?って思ちゃうんだと言う。

誰かの事を思い詰めているらしいので、きれいな人?と自分で餃子を食べ始めながら無邪気に聞く蘭子に、秋山は、俺、全部欲しいんだ。君なんだ!君が好きなんだ!君の真珠の用な身体を誰にも渡したくないんだ!と迫って来たので、蘭子は慌てて逃げ出す。

その後、羽田空港で奈々子に出会った蘭子は、男って何者なのよ?と嘆息するが、奈々子は五戸さんと言う人から、先日は思いがけない光景を見せてくれてありがとうと添えて送って来たのと言いながら、真珠のネックレスを見せる。

こういうの反発感じちゃうと言う奈々子に、蘭子もどう言う気なんでしょう?その人…と首を傾げる。

そこにスチュワーデス仲間(狩野翔子)が、電話だと知らせに来る。

電話を聞いた奈々子は、明美からの連絡で、加代子が行方不明になったんだってと蘭子に教える。

吉村は、加代子の母克子から、加代子が行方不明になったのは吉村の監督不行き届きであったと苦情を言われていた。

克子から加代子を押し付けられた形の吉村は、素直な気持ちで付き合えるかどうか…と加代子が、末川のような下劣な男と付き合っているらしい事を匂わせていた。

そこに、当の加代子がふらりと帰って来ると、今の会話を聞いていたのか、吉村もママも嫌いよとすねる。

克子はそんな加代子の頬を叩くと、自分はこれから末川の所へ行きますけど?と言うと、吉村も同行すると言い出す。

その間、加代子が自宅に軟禁状態にあると聞いた奈々子、蘭子、明美は会いに来る。

末長のアパートにやって来た克子と吉村は、加代子との関係に付いて詰問するが、末川は、幸せにしますよ加代子の事は…などと言うので、呼び捨ては止めて下さい!と克子は切れる。

吉村は末川に、君はキャバレーのバンドマンが今暁なのか学生が本業なのか?と問いかけると、末川は吉村がサラリーマンである事をからかうように、お前は奴隷か犬か?と逆に聞いて来ると、俺はメキシコで自分を賭けてみたいんだなどと吹きまくる。

克子は、でも心中の片割れにはさせませんわと言い、吉村は誘拐罪でブタ箱入りさと脅かす。

加代子の事は諦めてもらいますと克子が話していた時、加代子を連れ出して来た奈々子、蘭子、明美たちがやって来る。

それを見た克子は、何ですか?あなたたちは?友情の行き過ぎですよ!野次馬根性じゃないですか!と叱りつけ、加代子には、末川さんは、あなたが好き勝手に追いかけているって言ってるのよと伝える。

お前は、愛情を押し付けられて窮地とでも言いたいんだろうと末川に迫るが、そういう会話を聞いていた加代子は絶望的な表情になる。

それを鬱陶しく感じたのか、末川は帰ってくれ!面倒な事は嫌いなんだと言い出したので、緒戦部外者に過ぎない奈々子、蘭子、明美の3人は、とぼとぼと帰るしかなかった。

私たち、まるっきり実力ないじゃない。完全なる敗北って気しない?と言い合い、すると言う結論になる。

後日、真珠の販売店に寄った奈々子は、自分がもらった真珠の値段を聞くと、12万円の品物だと知る。

アパートに戻って来た奈々子は、何だか嬉しくなり、おしゃべりな真珠の唄を歌い出す。

後日、五戸に会った奈々子は、これは頂けませんと真珠を返そうとする。

こんな高価なものは受け取れないんです。私はイミテーションで良かったんです。夕べはドキドキして眠れませんでしたと告白する。

五戸から年を聞かれたので、18ですと答えると、五戸は、ぜひ受け取って欲しい。収めてくれますね?と真珠を受け取ろうとはしなかった。

すると奈々子は、本当は欲しかったんです。でも返さなければいけないと思って…と複雑な乙女心を明かす。

五戸は、自分は貿易商をやっており、ニースに会社がある。東京ではホテル住まいで寂しい暮らしなんだと自己紹介する。

奈々子は、私も孤児なんですと、五戸と車で移動中打ち明ける。

寂しくないかい?と聞かれた奈々子は、雨の日が寂しいくらいですと答える。

ホテルに帰って来た五戸は、奈々子にカプチーノをごちそうする。

ご家族は?と奈々子が聞くと、子供が1人おりましたと答えた五戸は、でも女房の愛人の子でした…と言い出す。

相手は役人から代議士になった男で、女房がその男の選挙応援をしている所を偶然見かけた時には複雑な気持ちになったと言う。

後日、奈々子は、アパートにやって来た明美から栄助の事を聞かされる。

京都から女文字の手紙が届き、パパから借りたお金を少しずつ返すと言って来たのだと言う。

それを聞いた奈々子は、それは栄助さんの弁解だと思う。あなたを傷つけないようにしているのよ。あなたは負けたのよ。あなたは前から、自分は金持ちのお嬢さんだと言う妙なコンプレックスが会ったわと指摘する。

明美は、私、逃げようとしていたのねと気づく。

奈々子は明美に、この事はおしゃべりな蘭子には話さない方が良いわとアドバイスするが、噂は影とやらで、そこにその蘭子が訪ねてくる。

蘭子は、やっと編集長が秋山の書く文章をフレッシュだと認めてくれるようになったと嬉しそうに報告するが、この事は加代子には話さないでねと頼む。

するとそこに、その加代子までもがやって来る。

奈々子から五戸の話を聞いた蘭子は、五戸大造研究会と言うのを作らないとからかい、久しぶりに、奈々子が歌う「おしゃべりな真珠」の唄をみんなで聞く。

蘭子は、ガソリンスタンドでバイトをしている秋山にサンドイッチの差し入れなどして食べさせていた。

そこにやって来た車のカップルが、給油中、堂々と運転席でキスをしていたので、蘭子は恥ずかしくて目を伏せてしまうが、戻って来た秋山が言うには、あんなのはしょっちゅうだと言う。

今の自分は自分で感じないと書けないんですなどと秋山が言うので、蘭子は、あなたは経験主義だから書けないのよと励ます。

すると突然秋は、あなたはバージン喪失の経験した人いませんか?友達に…などと蘭子に聞いて来る。

蘭子は、バージンを失うときの現実感なら私に聞けば良いのよと答えたので、秋山は面食らう。

私、海に抱かれた事があるの…と蘭子は続ける。

海こそ私の初恋の人…、これ、あなたの小説にあったかしら?と言うので、感激した秋山は、ありました!と言いながら思わず蘭子にキスをする。

末川の事が諦めきれない加代子は、また末川のアパートに1人で来るが、部屋の中でボンゴの音が聞こえるのでそっとドアを開けてみると、そこには見知れぬ女がボンゴに合わせて踊っていた。

加代子に気づいたその女は、入ったら?深刻ぶらないで…と言うが、耐えきれなくなった加代子は逃げ帰ってしまう。

帰宅すると、母の克子が、あなた、まだ末川と会っているんじゃ?と聞いて来る。

あなたって、馬車馬みたいに突っ走って潰れるタイプかしら…、もっとゆっくり歩いて行くのよ。あなたは、女の最初のものをなくすってことは、シームレスを履くようなものだって言ってたけど、あなたがそんなに知恵を振り絞っていたとは…

何でもないのよ。加代子は同じ過ちを犯さないわ。女は気持ち次第で、いつも仕立て下ろしのように生きられるものなのよと言い聞かす。

加代子は思わず、克子に抱きついて泣き出す。

奈々子は、その後も五戸と会い、銀座でデートをしていた。

楽しく会話をしながら十字路に差し掛かった時、横から出て来た出前の自転車が奈々子に接触してしまう。

出前の男(高畑喜三)は、気をつけろと言い捨てて立ち去ろうとしたので、それを捕まえた五戸は、君、おりて詫びたまえと注意するが、金坊どうした?と出前の男に近づいて来たのは、地元のチンピラ風の2人だった。

金坊がこいつに妙な因縁をつけられたと言うので、後は任せておけと言うなり、チンピラ2人は五戸に襲いかかって来る。

一旦は殴り倒された五戸だったが、立ち上がると、2人のチンピラを投げ飛ばしてしまう。

その後奈々子は近くの薬局で、五戸の負傷した左手を手当てしてやる。

その五戸を見つめながら、男の人ってみんな…と言いかけるが、でも私の父の手はこんなではなかったわと自ら否定する。

キャバレーに連れて来られた奈々子はカクテルをごちそうになるが、五戸は若い者がこんな老人の手に興味を持つのは良くないとやんわり言い聞かす。

テーブルから立ち上がった五戸は、音楽に合わせ、1人で愉快そうに踊り始める。

それを観ていた奈々子も、五戸の隣に並ぶと一緒に踊り出す。

いつしか2人の頬が触れ合いそうになり、奈々子はちょっぴりドキドキするのだった。

タクシーで自宅アパートまで送ってもらった奈々子は、ちょっと寄って行かれませんか?お茶くらい差し上げますと誘い、五戸もそうだな…と同意する。

部屋に入ってきた五戸に、奈々子はもらった真珠のネックレスを取り出して見せると、五戸さんの事を一杯話して下さいと頼む。

五戸は、東北に八戸ってところがあるだろう?南部藩には五戸って言う所もあると、自分の名前の由来を話し始め、昔は地頭職と言う小大名だったと言う。

それを聞いていた奈々子は、五戸と言う土地には、キリストが逃げて来たって言う伝説がありますよねと言い出し、五戸さんはヘブライ人なのねなどと混ぜっ返す。

そんなおしゃべりをしていると窓の外に雨が降り出して来た音が聞こえて来たので、奈々子は、今夜は心細くありません、1人じゃないんですもの…と甘えてみせる。

そんな奈々子を観ていた五戸は、可愛い…と呟くが、明日又会ってくれますね?と言い残して帰りかけたので、奈々子は思わず、五戸さん、帰っちゃ嫌です!と頼む。

しかし大人である五戸は、あなたのようなお嬢さんにそんなことを言わしちゃいけない。雨の音があなたをこんな川言い人にしたんです。健気なあなたを観ていると身が引き締まる。さあ、泣いてはいけない。明日ホテルで、愉快なユダヤ人に会わせます。愉快な話を聞きましょう。来てくれるね?きっと…と言いながら、五戸は奈々子の涙をハンケチで拭ってやる。

奈々子は折り畳み傘を五戸に渡し、微笑みかける。

それをさした五戸は雨の中、ステッキを持って帰って行く。

加代子は、何かを吹っ切ったように、水着のファッションショーに出演していた。

吉村も、接客に急がしそうだった。

明美と蘭子に招かれて来ていた秋山は、急に立ち上がると、人が仕事をしているのを観ると、机に向かいたくなったと言い出し、それを聞いた蘭子も嬉しそうに一緒に帰って行く。

1人取り残された明美に話しかけて来たのは、京都以来会う吉村だった。

1人で歩いているあなたの後ろ姿はステキだと吉村が言うので、自尊心傷つけられた?私も失敗したばかり。電車の乗り換えみたいに簡単に言わないで!と膨れると、あなたは何だか大人になり、優しく見える。僕にはすごく快適に見えると言い、いつしか2人は手を組んで歩いていた。

翌日、奈々子が約束通りホテルに来ると、部屋で待っているようにと受付で言われる。

五戸が泊まっている部屋に入ると、中には誰もおらず、ベランダに、夕べ彼女が貸した傘が開いて干してあった。

それを畳んで部屋に戻って来た奈々子はテーブルの上に置いてある手紙に気づく。

そこには、滞在中はありがとう。午前中ニースに発ちます。あなたをニースに連れて行こうかとも思ったが、あなたと共に家族を気づく年ではありません。飛行機から見えるんじゃないかと思って、傘を広げておきました…と書いてあった。

五戸はすでに飛び立った飛行機の中だった。

奈々子は再びベランダに出ると、空を飛び過ぎて行く飛行機に向かい、傘を開いて振ってみせながら、「さよなら!おじ様!」と呼びかけるのだった。