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サラリーガール読本 むだ口かげ口へらず口

ホテルの内部を舞台にしたコメディだが、いわゆる「グランドホテル方式」のように、複数の客室の人間ドラマに焦点を合わせた混合ドラマと言うより、どちらかと言えば、従業員たち裏方に焦点を当てて描いている「内幕もの」に近いような気がする。

それも、どちらかと言えば「働く女性」の方に焦点を当てた「女の子映画」

横山道代などに代表されるような元気一杯の女性陣に対し、いつも同じくどき文句で誰彼となく声をかけるチャラ男風の江原達怡や、いかにも情けない軟弱男風の加藤春哉など、女性客が楽しめるように、男の描き方は全体的にコミカルに描かれている。

冒頭、東京駅からタクシーに飛び込んだお玉が、朝の従業員チェックに並ぶまでをコミカルかつスピーディに見せる手法など、なかなか洒落ていると思うし、全体的に垢抜けした都会型のコメディのような印象を受ける。

明るいキャラのお玉が主人公かと思うとそうではなく、彼女はすぐにホテルを辞めてしまい歌手に転向すると言う意外な展開の後、金持ち夫人としてホテルの客として戻って来るなど、一種狂言回し的役割になっている。

ちなみに、この映画を観に行った名画座で、このお玉役の中島そのみさんが来場して、一緒にこの映画をご覧になっていた。

御自分の姿が登場すると、懐かしそうに笑っておられた。

半世紀近く、そのお姿をお見かけしなかっただけに、意外な遭遇に感動すると共に、そのご健在振りに涙が出そうになるほど嬉しさを感じた。

もう、元気一杯スクリーンの中で活躍されていた若さこそなかったが、お馴染みのお声は今も同じであった。

映画に話を戻すと、話の仕掛け自体は途中で薄々気づく程度のものなのだが、若くてきれいな白川由美と佐原健二のラブロマンスが楽しい。

憎まれ役の口やかましいメイド主任を演じている塩沢ときの手慣れた芝居もなかなか。

プログラムピクチャーとしては、かなり出来の良い部類に入る作品ではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、東宝、若尾徳平脚本、岩城英二監督作品一覧。

東京駅を飛び出したお玉こと土屋玉子(中島そのみ)は、駅前のタクシーに飛び乗ると、「第三ホテルまで急いで!」と運転手に頼む。

ホテルに着くと、出迎えたドアマン(加藤春哉)は、降りて来たのがお玉と知ると仰天するが、お玉がホテルの中に駆け込んで行ったので、今のはホテルの客じゃなかったのか?と運転手から聞かれる。

メイドだよと答えたドアマンだったが、運転手から、お玉の乗車料金80円を請求され、当惑する。

ロッカールームで急いで着替えるお玉。

その頃、ホテル内では、滝支配人(森川信)が、従業員たちの身だしなみと服装のチェックを行っていた。

濾過の片側にずらりと整列したメイドたちは両手の甲を差し出し、それを順に触って行く滝支配人は、指輪をしているメイドに注意する。

次に廊下の反対側に整列したコックや他の従業員たちの服装もチャックして行くが、その時、メイドの列に割り込んで来たお玉に気づくと、君!また遅刻かね。今回は二割減俸だ!と厳しい処分をその場で言い渡す。

アメリカのステップラーの言葉を引用し、滝支配人の挨拶が始まるが、特に女子従業員の皆さんは、仕事中、むだ口かげ口へらず口などを聞かないようにと言い渡す。

その後、厨房では、コック長新井正太 (沢村いき雄)が寸胴の中の料理の味付けをしていたが、そこにやって来た娘でメイドのみき(野口ふみえ)がお腹空いた何かない?と意地汚いことを言うので、サンドイッチを後で作ってやると言って追い出す。

従業員の石原章二(江原達怡)は、メイドの永沼美子(小西瑠美)に、今日一緒に食事に行かない?僕は女性が満腹になる顔を見るのが幸せなんだなどと誘っていたが、約束があるのと断られていた。

そんな中、ホテルの案内係に近づいて来た青年は、予約はないけど部屋はあるかと言うので、308号室に案内する。

3階のメイド主任松本勝子(塩沢とき)は、案内係から308号室に客が入ったと知らされると、父親が作ってくれたサンドウィッチを頬張っていた新井みきやお玉、長沼ら3階担当のメイドたちにその事と知らせる。

308号に青年を案内したみきは、チップを渡されそうになったので、当方ではサービス料には言っておりますので頂く必要はございませんと断るが、まあ良いじゃないかと迫られると、お母さんに叱られますと困惑する。

みきは、お母さんと言うのはメイド主任の呼び名だと説明する。

青年は立ち去りかけたそのみきに、メイドの勤務時間や休憩の有る無し、根掘り葉掘り色々な事を聞こうとするが、メイドは早番、遅番二交代制で、休憩はほとんど取る暇がない事などをみきが答えると、礼を言って帰す。

メイドコーナーに戻って来たみきが今の話をすると、お玉たちは、それはきっと労働基準局の人ではないかなどと推理する。

すると、松本メイド主任が、303号室の外国人のお客様が呼んでいますと言うので、みきや美子は尻込みする。

英語が話せないので、外国人の前に行くと上がってしまうと言うのだ。

すると、お玉が、自分に任せておけと言って出かけて行く。

303号室をノックすると、中から出て来たのは拳銃。

しかしそれは、外国人客の子供が持っていた玩具だとすぐ分かったので、お玉は調子を合わせて、撃たれた真似などして見せる。

その後、部屋の中に入ったお玉は、外国人夫婦が何やら英語で言い合っているのを聞き、何やら「ペーパー」と言っているらしかったので、メイドコーナーへ戻ると、トイレットペーパーが欲しいんだってと言って美子に持たせる。

そんなお玉に、松本メイド主任が、311号室のお客さん、7時に起こして欲しいって言われてたんじゃない?今はもう7時半よと言われたので、慌ててモーニングコールをかける。

まだ寝ていた311号室の客、徳永健策(柳家金語楼)は、モーニングコールに慌てて目覚めると、受話器を取ろうとして枕元の水入れを顔に持って来て水をかぶってしまう。

もう7時半だと知った徳永は、つばめに遅れるからすぐに朝食を持って来てくれと頼む。

メイドコーナーに戻って来た美子はお玉に、ペーパーって新聞の事だったのよ。私恥かいちゃたわと怒りながら戻って来る。

朝食を徳永の部屋に持って行こうとしたお玉だったが、途中にさっきの外国人の子供がおり、また拳銃を撃つ真似をするので、撃たれた真似をしてしまい、持っていた料理をこぼそうとした所に松本メイド主任と徳永が合流してちょっとしたもつれ合いになり、朝食のお膳は徳永の丹前にこぼれてしまう。

松本メイド主任はお玉を、あなたは口だけは一人前だけど、他は何をやっても半人前ね!叱りつけ、朝食の代わりの支度をさせた後、滝支配人の部屋に連れて行く。

滝支配人は、事情を聞くと、もはや配置換えしかないと言い出し、厨房の皿洗いなんかはどうだろう?と提案するが、松本メイド主任が、この子のようなおっちょこちょいには勤まりませんと否定するので、トイレ掃除くらいしかないんじゃないかと言う結論になる。

しかし、それを我慢して聞いていたお玉は、辞めりゃ良いんでしょう!と捨て台詞を残してホテルの正面玄関から出て行く。

ドアボーイに止めてもむだよと言い残すが、ドアマンは困った顔で、止めやしないけど、これまで立て替えといた180円返してくれと頼む。

それでもお玉は、餞別だと思って諦めて!と言って去って行く。

その後、第三ホテルにやって来た山崎十郎左衛門社長(江川宇礼雄)は、受付の藤山朝子(横山道代)に滝君を呼んでくれと頼む。

滝支配人が来て挨拶をすると、五郎が、10時に羽田に帰って来るそうなので迎えに行く、君も来てくれと頼むと、これで僕は楽隠居だ!等と上機嫌でホテルを出て行く。

この会話を近くで聞いていたドアボーイらから、社長の息子の五郎がホテルにやって来ると言う噂は、色黒でひげ面らしいなどと言う怪し気な情報まで加わってたちまち全従業員に広まる。

コック長の新井も、息子さんはアメリカ留学していたんだなどと仲間たちに教えている。

ところがその後、受付の方に社長から電話があり、息子は飛行機に乗っていなかったので、その内そっちに行くかもしれんとの電話が入ったので、又従業員たちは大騒ぎになる。

そんな中、噂道理の色黒で顔中ヒゲだらけの男(由利徹)がやって来たので、受付係は五郎だと思い込み、空腹だと言う五郎をドアボーイが食堂の方に案内する。

その様子を観ていたエレベーター係は、すぐにメイドたちにこの事を知らせ、五郎が到着した事はすぐに全従業員に広まる。

そこに、社長と滝支配人が戻って来て、五郎が到着しているとの受付の話を聞いて喜び、食堂へ向かうと、そこで肉にかぶりついていたのは全く見知らぬ男だった。

滝支配人が受付係の勘違いを叱りつけている時、食事を終えたひげ面の男が近づいて来て、滝支配人に名刺を手渡す。

よろず代理業鏑屋仲四郎と名乗ったひげ面の男は、借金の断りとか客引きなど何でも引き受けると言うが、滝支配人は当方は、そう言うものは一切必要ありませんと断る。

すると、なめるのか!と急に態度を豹変させた鏑屋は、俺はこのホテルの株を5株持っている株主だと開き直る。

そんな鏑屋に、おとなしく帰りたまえと割り込んで来たのは、308号室に泊まっていたあの青年だった。

その青年を観た社長は、五郎!と喜び、鏑屋は、覚えてろ!と捨て台詞を残して帰って行く。

メイドたちの間では、プロレスラーみたいなひげ面男をハンマー投げでぶっ飛ばしたのよと、又、話に尾ひれがついて、五郎の話で盛り上がっていたので、松本メイド主任が怒り出す。

社長室に来た五郎は、アメリカで学んだ経験から言うと、部屋からの収益と食堂など物販の利益は1対1にしなければいけないと思う。効率の悪い和室を全部洋室にしようと思う。また、従業員の負担も今は大き過ぎるので、人数を増やして、更生施設や休養施設などを作るつもりだなどと言うので、山崎社長は、今後は全面的にお前に任せるよと承知する。

そんな山崎社長が、お前まさか、アメリカに好きな人でもいるんじゃないだろうな?などと言い出し、実はお前の花嫁候補は決まっており、取引先の家具を作っている会社社長の娘さんで、今日来るはずだから会ってくれと一方的に話す。

五郎は突然の話に面食らい、そんな話はごめんですよと逃げ出してしまう。

早番を終えた藤山朝子と永沼美子が、甘味所「ふなじ」でお汁粉を食べていると、松本メイド主任が1人で店に入って来る所を目撃する。

少し遅れて、石原もやって来て、松本メイド主任と同じテーブルに座って、何でも注文して下さい。僕は女性が満腹感を味わうのを観るのが幸せなんですなどといつものセリフを言っている。

自分らも、石原から同じセリフを言われて誘われた事がある朝子らは、2人の席にわざと近づき、お母さん!とメイド主任の事をからかうように呼びかける。

松山メイド主任は、石原さん、これはどう言う事ですか!といきり立つ、席を立つと帰ってしまう。

朝子たちは、石原の前の席に勝手に座ると、女性が満腹感を味わうのを観るのが幸せなんでしょう?と言うなり、どんどん注文し始めたので、石原は慌ててしまう。

ある日、ホテルの受付をしていた朝子の元に岡野卓也(太刀川洋一)と名乗る大阪から来たらしき客がやって来るが、それに気づいた五郎が声をかけ、これは僕の従兄弟だからと朝子に伝える。

岡野は、午前中に大阪から来たのだが、明日は北海道へ行かねければいけないのだと五郎に告げ、朝子は320号室を用意する。

そんなホテルに泊まり込んでいた、メガネをかけた女流作家松宮登紀子(柳川慶子)が外から戻って来るが、それを待ち受けていた編集者が、うちの原稿を明日までにお願いしますと頼んで来る。

松宮は、明日の朝まで30枚と言う注文を、忙しいけど、何とかやってみると答えエレベーターに乗り込む。

320号室にやって来た岡野は、一緒に付いて来た五郎から、ここは前は和室だったんだが、洋室に替えたんだと聞くと、宿は日本式の方が良いなと言う。

そこにお茶を運んで来た新人らしきメイド花田英子(白川由美)を観た岡野は、一目で気に入ったようで、あの子を320号室の係にしてくれと五郎に頼む。

メイドコーナーに戻って来た英子を奥の部屋に呼び込んだ松本メイド主任は、あなたまさか、副社長に媚を売るような事をしたんじゃないでしょうな?と言うので、英子が否定すると、今、あなたを320号室の係にするようにって連絡があったの。やっぱりきれいな人は目立って得ねと松本メイド主任は嫌みを言う。

そんなメイドコーナに戻って来た別のメイドが、311号のお客さんが日本間が良い。ないのだったら他のホテルに移ると言っていると松山メイド主任に報告する。

私が行ってみますと口を挟んだ英子が311号室に行くと、そこに泊まっていたのは常連の徳永健策だった。

自分が今までこのホテルを利用していたのは日本間があったからで、こんな狭い部屋のふわふわのベッドでなんかは寝られないと苦情を言うので、お客様は確か市会議員でいらっしゃいますよね?と話しかけた英子は、と言う事はやがて県会議員、末は代議士におなりになる方ですから、その時、外国へ行かれて、ベッドで寝られないでは困りますので、その訓練のためと思われてはいかがでしょうか?と説得すると、君、良い事言うね…とすっかり機嫌を直した徳永は、スーツに付いた議員バッジを誇らし気に磨いてにやけるのだった。

早番が終わった朝子は、ロッカールームで着替えしていたが、石原とデートするらしきメイドが嬉しそうに着替え終わって出て行きかけたので、石原には気をつけるように注意する。

その時、コック長の新井がいきなり入って来たので、朝子たちは悲鳴を上げるが、新井はみきを探しに来ただけだよと言い訳するので、彼女は遅番だからいないわよ!と朝子は追い返す。

その後、永沼美子と朝子は、石原が待ち受けていた裏口にデート相手のメイドと一緒に付いて来たので、それを見た石原は慌てて逃げ出してしまう。

そんな朝子らは、ホテルを辞めたお玉が通りかかるのを観かけ声をかけると、今は歌手になっちゃったと言うではないか。

冗談だと思って笑う朝子らに、お玉は「ミュージックサロン スィートサロン」なる店の名を教え、聞きに来てと誘うので、半信半疑で行ってみると、本当にバンドを控えて歌うお玉がいるではないか!

「むだ口かげ口へらず口〜♬」と言うセリフまじりのポップな曲調に、客席で聞いていた朝子たちもノリノリになる。

夜の「第三ホテル」のメイドコーナーに、311号室のお客さんが蕎麦を取ってくれと言っているとメイドが報告に来る。

それを聞いた松本メイド主任は、うちの規則で外からの店屋物の注文は出来ません。どうしても食べたいのなら外に出て頂くしかないわと言っていると、そこに丹前姿の徳永がやって来て、じゃあ、今から外に行くと不機嫌そうにやって来る。

その姿を観た松本メイド主任は、恐れ入りますが、外出なさるときはお着替えをなさって下さいと頼み、それを聞いた徳永は、ここは蕎麦も自由に食えんような宿なのか!二度と泊まらん!と怒ってしまう。

312号室では、女流作家松宮登紀子が、5〜6誌の原稿を同時進行で書いており、それぞれの雑誌名を書いたタグの所に、間違わないように、書き上がった原稿を振り分けていた。

そこに、水を注文されたメイドがやって来たので、何か、小説になるような面白いネタはないか?例えば、自殺とか殺人とか、あるいは、お客様との恋愛とか…といきなり聞いて来たので、そのメイドがそうした事は何もありませんと答えると、じゃあ睡眠薬を買って来てと頼む。

一方、ホテル内のバーで岡野と会っていた五郎は、実は大阪で会員制ナイトクラブを始めたのだが、適当なホステスがいなくて困っている。花田英子と言うあのメイドはなかなか見込みがありそうなので欲しいのだが、君から口説いてみてくれないかと岡野から頼まれる。

その花田英子は、こっそり徳永の部屋に、外から取った蕎麦を持って来てやっていた。

食べ終わった容器をこっそり持ち出そうとしていた英子だったが、目ざとい松本メイド主任に見つかってしまい、これはどう言う事なのかと詰問されてしまう。

お客様へのサービスと思って…と弁解する英子に、松本メイド主任は、昨日今日入ったばかりの子が生意気な事を言って!と叱りつける。

近くに来てその話を聞いた五郎は、英子を別室に呼ぶと、君は今より条件の良い仕事があっても、ここをやる?と聞く。

英子はそれに答える前に、自分の方もお聞きしたい事があるのですが、メイドはお客様へのサービスが大事なのでしょうかあ?それともホテルの規則が大事なのでしょうか?と問いただす。

五郎は、日本の旅館は客に構いすぎると答えるが、英子は日本人には日本人の習慣がありますから…、失礼ですが、副社長はアメリカに留学なさって、日本の事情をお分かりになっていらっしゃらないのではないでしょうか?私は、副社長は、もっと理解のある方だと思ってましたけど失望しましたわと言い残して部屋を出て行く。

終業後、ホテルから帰る英子を追って来た五郎は、さっきはすまなかった。車で送るよ。明日、夕食でも食べながら話したいと声をかける。

翌日、320号の岡野がすでにホテルを出たと受付で聞く。

その横のロビーで、徳永を送り出していた英子が仕事に戻った後、五郎が常連客の徳永に声をかけると、今のメイドさんがいなかったら、このホテルともグッドバイするつもりだったと徳永は言う。

その頃、厨房にやって来たみきが、慰安旅行の話し合いをするので集まってと声をかける。

そんな中、花田英子だけが用事があると言って先に帰ったので、他のメイドたちは、あの人も石原さんとデートするのでは?と疑い後をつけると、ホテルを出た英子に石原が声をかけている所を見かけたメイドたちは、やっぱりと笑い合う。

しかし、英子は石原の誘いをあっさりはねつけて帰ってしまう。

一方、副社長室にいた五郎と滝支配人の元にやって来た松本メイド主任が、312号室の松宮先生の様子がおかしい。昼になった今も起きて来ない。夕べ、睡眠薬を買って来てくれと言っていたなどと報告していた。

部屋に駆けつけてみた五郎は、机の上の原稿は白紙のまま、その横には睡眠薬の瓶から薬がこぼれており、ベッドで眠ったまま、いくら呼びかけても起きない松宮の様子を観ると、ロビーで待っていた編集者に、先生は病気なので、今日の所は帰って下さいと頼む。

その後、再び松宮の部屋に戻って来てみると、松宮は眼を開けており、編集者はどうしたと聞くので、今帰ってもらったと五郎は教える。

それを聞いた松宮は、ああ助かった!と喜び、急に起き上がると、実は睡眠薬など飲んでないし、原稿が書けなかったので芝居をしていただけ…と言うではないか。

狂言だったと分かった五郎と松本メイド主任はあっけにとられてしまう。

遅れて英子とのデートの場所に向かった五郎だったが、待っていた英子の様子がおかしいので訳を聞くと、お待ちしている間に考えたのだが、メイドがこんな風に会ってはいけないんだと思うのだと答える。

五郎は、夕べは話せなかった話があり、従兄弟が大阪のナイトクラブで君に働いて欲しいと言っているのだが、気持ちを聞かせて欲しいと伝える。

僕は行かしたくない気持ちがある。従兄弟は又4、5日したら来るそうだけど…と五郎が説明していると、五郎が車を停めている場所のパーキングメーターの料金を払って欲しいと係員が近づいて来る。

時間はどれだけ?と言って来たので、五郎は、この人が承知してくれるまでと答え、僕は君が好きだ。結婚してくれ!といきなりプロポーズすると、従兄弟の話は断ってくれないかと頼む。

英子は、ええと承知する。

第三ホテル従業員たちの慰安旅行が始まる。

バスで目的地の旅館「快楽荘」に向かっていたが、途中、崖崩れのためバスがこれ以上進めない事が分かる。

宿まで6kmだと言うので、全員、そこから歩いて向かう事になる。

石原は、これまで誘って来た女性たちから次々と荷物を持たされて参ってしまう。

とんだことになったので、歩きつかれた新井コック長は、ケチケチ旅行を考えた娘のみきに嫌みを言う。

その頃、ホテルでは、ロビーに降りて来た松宮女子が、やってきた編集者たちを見つけ慌てて又エレベーターに乗り込んでいた。

編集者たちは、その松宮を追いかけようと隣のエレベーターに乗り込むが、松宮は、再び開いたエレベーターからすました顔をして下りて来ると、社長室にいた五郎の所へやって来ると、編集者たちにバレないようにホテルから出る所ない?と聞いて来る。

五郎は松宮を連れて裏口から出ようとするが、そこにも編集者が張っていたので、やむなく自分の車に松宮を乗せてその場から脱出する。

一方、何とか快楽荘にたどり着いた一行は、すっかり疲れ切っていたが、ちっとも係の者が部屋に来ない事を不思議に思っていた。

そこに、ここの従業員たちも慰安旅行に出かけており、川の氾濫で帰れなくなっているのだとみきが知らせに来る。

それを聞いた英子は、私たちもみんなで手伝いましょう。相しないといつまで経っても夕食にありつけないわよ。同業者が困っているのを観ていられないじゃないと言い出したので、松本メイド主任は、とんでもない。それじゃあちっとも慰安にならないじゃないの。私は絶対やらないからねとごねる。

みきは、その分、宿賃負けてもらいましょうなどと又ちゃっかりした事を言い出す。

そんな事は知らない男性陣は、のんきに部屋で遊んでいたが、新井がブザーを押すと、やって来たのは娘のみきで、板前さんが1人しかいないので手伝って欲しいと言いに来る。

しかし、新井も、東京の一流ホテルのコックが、こんな田舎の旅館の手伝いなんか出来るか!と憤慨する。

とは言え、その後、1人で刺身をさばいていた主人(丘寵児)の元にやって来た新井は、自ら刺身を切り始める。

番頭の法被を着込んでいた石原は、山口と言う客が来ると、自分が番頭のように客室に案内するが、その姿を目撃した松本メイド主任は呆れながらも、いつしか自ら進んで配膳係の役割をやり始める。

その頃、銀座のバーで松宮女子のお相手をしていた五郎は、途中でホテルに帰ろうとするが、帰るんだったら、またお薬飲んじゃうわよ。松宮登紀子が死んだら、さぞホテルの良い宣伝になるでしょうねなどとからかって来たので、仕方なく、また酒のおつきあいを続ける羽目になる。

その様子をカウンター席で見かけた「ピンクタイムス」の記者は、すぐに編集長に電話を入れる。

酔った松宮女子は五郎を口説き始めるが、その後、店の外に出て来た松宮女子が五郎にしなだれかかっているのを、車で駆けつけ待機していたカメラマンが写真に撮ってしまう。

翌朝、2人の写真が大きく載った「ピンクタイムス」を、花田英子を始めとするメイドたちも観てしまう。

その後、岡野卓也が又第三ホテルを訪れて五郎に会うと、英子の引き抜き話の成果を聞くが、あまり芳しくないと知ると、自分で話してみると言い出す。

五郎は、滝支配人から呼ばれ、「ピンクタイムス」を見せられるが、今なのはでたらめだよと言うものの、火のない所に煙は立たないと申しますし、すでに松宮女子は昨夜ホテルを引き上げてしまわれたと言うではないか。

そこにやって来た花田英子は、五郎と滝支配人に今日限り辞めさせて頂きますと言い、理由を尋ねる五郎に、副社長ご自身がご存知のはずと言う。

松宮女子との事を疑われたと察した五郎は、必死に英子を追って弁解するが、英子は岡野さんと大阪に行く事にしたと言うので、五郎はすぐ岡野の部屋に電話すると、確かに、彼女と今夜の9時の夜行で帰るつもりだと言うではないか。

一方、第三ホテルの正面入口に横付けした車から降り立ったのは、着飾ったお玉とその夫らしき紳士(宮田洋容)だったので、出迎えたドアマンはあっけにとられる。

紳士はドアマンにチップを手渡し、お玉は、いつか借りた車代よと微笑む。

受付の側でお玉を出迎えた滝支配人もびっくり!

一番良いお部屋をと言うお玉に対し、110号室がありますと答えると、110番なんて嫌よ!とお玉が言うので、では210号でと言う事になる。

東京駅にやって来た五郎は、大阪行きの夜行列車のカーテンが下がった寝台を一つずつ覗きながら、必死に英子を探していた。

うっかり覗き込んだ見知らぬ中年女性が悲鳴を上げるどころか、自ら胸元を見せつけてアピールして来たりなど、冷や汗をかきながらカーテンの隙間を覗いていた五郎が、とあるカーテンの中にきれいな足が組まれているのを観て、一瞬、失礼!と言って通り過ぎるが、一瞬考え直してそのカーテンの中をじっくり確認すると、足を組んでいたのは花田英子だった。

五郎は、僕は君を迎えに来たんだ。さあ降りるんだ。僕は君を大阪には行かせたくない。父に会わせるんだと必死に訴える。

すると英子は微笑みながら、私は最初から大阪兵く気はありませんでしたし、松宮さんとの事など全く気にしてませんでしたと言うではないか。

気がつくと、背後に立っていたのは、ニコニコ笑っている父山崎十郎左衛門と従兄弟の岡野卓也ではないか。

岡野は、お父さんに頼まれたんでね、悪く思わないでくれと謝って来たので、始めから父の策略だった事が分かる。

翌日、ベッドで目覚めたお玉が受付に電話をしながら、誰も来てくれないじゃない!お客をなんだと思ってるの!と憤慨していた。

ホテルの従業員たちは、ホテルで結婚式をすませ、入口に横付けした車に乗り込み出発する五郎と英子の新婚カップルを見送っていた。

ホテルの上階の窓からも、多くのメイドたちが、2人を祝福するように紙吹雪を巻いていた。