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地獄の用心棒

役の上では37歳と言う設定だが、実年齢は32歳頃、絶世のイケメンだった時代の三國連太郎がペイ中(麻薬中毒者)を演じている潜入捜査もの。

潜入捜査するのは、その三國演ずる植田の、戦争中命を救ってくれた班長で、今は麻取りになっていた北川を演じる河津清三郎。

三國が後年の作品で見せる彼独特の演技パターンの大半は、もうこの時代に確立しているような気がする。

女に対する優しさと裏腹の野獣的な振る舞いなどは、この時代の三國だったら実生活でもこうだったのではないかとつい想像したくなるような格好良さ。

正にかつてのアラン・ドロンのように、その美貌に悪が似合う。

だから、三國のアイドル映画風に観れば大変魅力的な作品なのだが、河津清三郎の方からの潜入捜査ものとして観ると、かなり甘い展開になっている。

そもそも、警察手帳と拳銃を持って、敵のアジトに乗り込んでいる所が不自然と言うしかなく、その場で身体検査されれば一発で身分がバレてしまうはずだ。

この作品では、正体を怪しむ親分や仲間たちがいるのに、戦友を疑おうとしない三國がそう言う事をさせないと言う設定になっているので、後半まで身分がバレないですんでいるだけである。

これは用心棒的立場にいる三國としてはかなり不自然な行動と言うしかなく、最初は何か考えがあってそうしているのかと思いきや、花売り娘に正体を教えられるまで気づかなかったり…と、どうにも奇妙な展開になっている。

花売り娘に警察の人間である事がバレてしまった河津清三郎の方も、どう考えても逃げなければ危ないのに、だらだら三國の側に張り付いているのもおかしい。

おかしいと言えば、ペイ中の父親を案ずる花売り娘美佐子が、警察を憎んでいると言うのもちょっと不思議な感じで、通常、この手の可憐な娘のように素直に感情移入できない部分がある。

ひたすら植田の事を思い詰め、恋は盲目状態になっていると言う風な描写が不足しているからかもしれない。

つまりサスペンスものとして考えると、河津は常に安泰な状態にあるように描かれており、ハラハラ感はない。

これはおそらく、最初から河津清三郎に焦点を当てていると言うより、あくまでも三國で見せようとしている意図があるからだろう。

言わば、河津清三郎は話の流れの中で狂言回し的存在と言う訳だ。

だから最後は、三國の芝居の独壇場になっており、河津の方はその傍観者に成り下がっている。

全体的にパンチ不足な印象はあるが、それなりに楽しめる娯楽映画にはなっているように思う。

「RUBY」周辺はセットだと思うが、当時の横浜駅や中華街、有楽町界隈辺りのロケ風景は珍しい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1955年、日活、浅野辰雄脚本、古川卓巳監督作品。

疾走する車

その車は「横浜2km」と書かれた標識の横を通り過ぎる。

横浜警察署

署長室にやって来た北川(河津清三郎)を出迎えた所長は呼びブザーを押し、ペイ中の老人の目黒甚平(汐見洋)を尋問中だった伊藤刑事(千秋実)を呼び出す。

伊東刑事は甚平に、美佐子さんに心配かけるなと声をかけ釈放してやる。

厚生省麻薬捜査官北川は、署長室に出向いて来た春日保安主任(二本柳寛)と麻薬担当の伊藤刑事に紹介される。

警察署から出て来た甚平はとぼとぼと帰路につくが、それを先ほどから表に停まっていたトラックの前で待っていた運転手が後をつけ始める。

春日保安主任は、この地区でのペイ捌きの地区と関係者と思われる人物たちを隠し撮りした写真などを北川に見せる。

今回、関東信越地区担当だった北川がこちらに来たのは、横浜の連中に顔を知られていないからだった。

写真を一枚ずつ確認していた北川は一枚の男の写真で手を止める。

植田進37歳と春日主任は教え、37も偽名を持っているので、1年ごとに名前を変えているような奴ですと伊藤刑事も付け加える。

北川は、かつて戦争時代、自分の部隊におり、弾丸の中から植田を救い出した時の事を思い出していた。

その後、港の外国船が見える警察署の屋上に伊藤刑事と共に上がった北川は、まだ植田の写真をじっと見つめ物思いにふけっていた。

伊藤刑事は植田に会いたがっている北川に、ペイ屋になって会った方が手っ取り早い。ペイ中かペイ屋を装って話しかけるんですと勧める。

その後、「順海閣」などとアーケードに書かれた中華街にやって来た北川は、ペイ中(麻薬中毒者)を装っていた。

飲屋街を歩く北川は「トミー」と言う飲み屋に入り、明らかにペイ中の女将に薬を打ってくれないかと頼むが、女給は、隣の店に行ってみなと言うだけ。

隣の店に入って同じように言うと、客だった学生が、麻薬亡国って知らないのか?とバカにして来る。

なかなかペイ屋は見つからず、諦めかけていた北川だったが、「ホテル パナマ」の前で店を出していた占いの婆さんが怪しいと目をつけ、品物ねえか?東京にもねえんだ。ここは仲間から聞いて来たとかまをかけてみると、あっさり、近くのバス停付近でたむろしていた男たちの所に案内してくれ、その男たちがとある建物に連れ込む。

コナ欲しいんだと北川が言うと、そこにいたチンピラ風の男(高品格)は、腕を見せてみろと言う。

そのとき、階段裏にいた男が、その人は俺に用事なんだよと声をかけて来る。

探していた植田(三國連太郎)だった。

植田はそこにいた連中に、ちょっと家を開けてくんねえか?と頼み人払いをすると、北川と2人向き合い、思わず互いに大笑いし合う。

中華料理屋に連れて行かれた北川は、植田のおごりと言う事で、あれこれ接待される。

その店の非常口の所では、子分たちが集まっていた。

一人のチンピラはギターを弾いている。

子分の1人が、北川って人、ヤバくないのか?と階段途中に立っていた植田に迫るので、それは親分の意見か?お前の思いつきか?と凄んだ植田は、答えられない子分を、お前いつからそんなに偉くなったんだ!と言いながら階段を蹴落とす。

その後キャバレーに北川を連れて来た植田が、奥の部屋を貸してくれとマダムに頼むと、持って来てくれた?あっちのお客さんが欲しがっているわと言いながら、マダムはキーを貸してくれる。

いつからペイ中になったんです?と植田が聞くので、北川は腕をまくって注射痕を見せるが、そんなペイの痕ねえやと植田は笑う。

班長、あんたいつか、多摩の中から助けてくれた事があった。今となっては余計なことをしてくれたと思っている。仲間に強制され、ペイ中にさせられた。それ以来、ペイ中がペイ中にたかって生きるような泥沼に引きずり込みたくないんだ。班長、今ここで別れてくれよと植田は言う。

しかし、北川は、自分にはガキが6人もおり、これまでにペイを4000円で売った事もある。噓だいつも商売で使っている手だと打ち明けると、今夜は泊まって行ってくれと植田は言う。

クロークに降りて来ると、デカ長が来てやがるとバーテンが植田に耳打ちする。

そこにいたのは伊藤刑事で、それに気づいた北川は目で合図する。

植田は、じっと北川を観ている伊藤刑事が疑っていると感じたのか、そっちのは観かけないなと言う伊藤刑事に、友達ですよと弁解し、どうせつけて来るくせにと嫌みを言う。

伊藤刑事は、臭い所には足が向くものだ。ガイガー計数器のようにと答える。

キャバレー「RUBY」に北川を連れて来た植田は、チャイナドレスを着たマダムの洋子(山本和子)に紹介した後、店に来ていた花売り娘の美佐子(長谷川菊子)から、お父さんを知らないかと聞かれ、甚平さんなら外国人のパーティにでも紛れ込んでいるんだろうと答える。

その後、植田は洋子と踊る。

パック(ジャック・アルテンバイ)と言う外国人仲間は、カウンターで飲んでいる北川を怪しみ、バーテンにあいつは何だ?と聞く。

バーテンも、肩の張り方が怪しいと目を光らせたので、バックは親爺に言っとくかと呟く。

踊りながら物陰に隠れた植田は、いきなり洋子の頬を叩くと、強引にキスをする。

屈辱された洋子は、あんたなんてペイ中で女も満足させられないくせにこんなことして、何さ!と怒鳴りつける。

それがどうしたんだよと開き直った植田が二階に上るのを密かに目で追っていた北川は、自分も二階に上がってみる。

そんな「RUBY」には、2人をつけて来た伊藤刑事も来ていた。

二階の個室に入った植田は、電気のスイッチボックスを壁から引き抜くと、そこに入っていた麻薬袋を取り出し、それを水に溶かして自らの腕に注射をする。

そこに北川が入り込むと、もうろうとした植田は、班長のベッドはこっちだと自分が横になっていたベッドを空けると、自分は隣のベッドに横になる。

これがないと生きていかれないんだ。班長、打つんじゃねえぜと、薬を見つかった事も気にしていない様子で植田は呟く。

植田は、タバコを吸いかけ、そのままテーブルに突っ伏して眠ってしまう。

北川は窓からしたの歩道に立っていた花売り娘の姿を観ると、上着の中に入れていた警察手帳と拳銃をベッドの下に隠し、電気のスイッチを引き抜いて箱になっている仕掛けを確認すると、電気を消す。

翌朝も、花売り娘の美佐子は「RUBY」にやって来る。

北川は、バック、植田、洋子と共に朝食をよばれていた。

植田は、バックからキーを受け取ると、中華料理屋に向かい、秘密の部屋に入って行く。

誰だ!と男の声が聞こえるが、その声がする部屋に勝手に忍び込んだ植田は、トルコ風呂に入っていた亀山()に、切れたんです。分けて下さいと頼む。

亀山は、ベッドの横になるとトルコ嬢にマッサージを始めさせるが、隣の部屋に座り込んだ植田は、捌き過ぎたんだ。俺にヤクくれよ!と哀願するが、亀山は任せられないときっぱり言い捨てる。自分の分が欲しいんだったら、今度からここへ来い。洋子に手を出すな。いつまでも自分の嫁と思っているんだと叱りつける。

薬が切れて来た植田は、その部屋に飾ってある不気味な仮面やワニの標本などが歪んで見えて来るようになる。

禁断状態になりつつある事に気づいた亀山は、老いぼれ楽士の甚平を捕まえて来たら1本やる。お前なら知っているだろう?言って来いと命令する。

その頃、「RUBY」2階の部屋に残っていた北川は部屋の中を捜査し、額縁の裏側に隠してあった写真を見つけていた。

その写真には、植田と洋子が仲睦まじく写っていたので、北川はそのまま、洋子の部屋に行ってみる。

洋子は、抱いていた愛犬のスピッツを放すと、私風呂に入る所だったのよと北川に告げる。

あんたもペイ屋?ずる賢そうには見えないわね。買い屋?売り屋?などと馴れ馴れしく話しかけて来た洋子は、友達として聞くけど、植田はいつから変わったんです?と言う北川の問いかけに、私は神戸から追いかけて来たんだけど、そしたらもうあんなだったと答える。

昔は貿易会社に努めていたんだけど、麻薬を扱っているうちにミイラ取りになって…。みんな打ってるんですもの。窒息しそうだわと心底嫌そうに言う洋子に、今の主人は誰と北川が聞くと、亀山よと答える。

亀山の名を聞いた北川は、捜査線上にあったかな?と考え込み始める。

刑事のような尋問に耐えかねた洋子は、ヒスを起こしたのか、北川に向けて水をかけて来る。

一方、薬が切れかけていた植田は、車を飛ばし、別のキャバレーで客相手に踊っていた女給に、ペイをくれとねだり、いきなり殴りつけたりする。

植田は、薬を求めてさまようが、いつの間にか、別の車が尾行して来ている事にさえ気づかなかった。

貧しい住居の一つの部屋にやって来た植田は、片言の日本語を話すアジア系らしき男に薬をねだり、その男は植田の怒声に怯えて薬を渡す。

その部屋には、陣平が寝かせられていたのに気づいた植田は、美佐ちゃん泣いてるぜ。顔が見えるじゃねえかと言って、布団代わりに身体にかけてあった上着を顔の上にかけてやるが、その様子を、尾行して来た組織の男らしき人物が玄関から覗いていた。

「RUBY」に戻って来た植田は北川に金を渡そうとするが、金はあるんだと言って北川は受け取らなかった。

そして、東京に大口の相手がいるのでコナ大将を知らないか?と北川は植田に聞くが、植田は知らないなとしか答えなかった。

大口の商売が巧くいったら、まともな商売したいんだと北川は訴えてみる。

その時、また店にやって来た美佐子が通路に出て来た植田に、お父さん知らない?植田さん、お父さんのうち知ってるわね?教えてよと言い泣き出す。

その2人の会話を室内から聞いていた北川は、知っているなら教えてやれよと植田に声をかける。

仕方なく植田は美佐子と北川を伴って、アジア系の男の家に来てみるが、もうそこには甚平も男の姿も無かった。

美佐子と北川は、その後も植田の後を尾行してみる事にする。

植田は、近くから聞こえて来る修行僧たちが打ち鳴らす太鼓の音に怯え出し、急に走り出すととあるビルの物陰に逃げ込んでしまう。

植田を見失った北川は、美佐子と2手に別れて植田を探す事にするが、北川はパトロール中ん警官2名を見つけたので近づくと、白い上着の男を観かけなかったか?と尋ねる。

警官があなたは?と尋ねて来たので、北川は警察手帳を出して身分を証明するが、その様子を戻って来た美佐子が目撃してしまう。

警官が去った後、道を戻って来た北川にすがりついた美佐子は、今、警官に見せたのは何?北川さん、警察の人でしょう。植田さんを捕まえないで!と訴えて来る。

植田は良い奴さ。でも植田が打ったクスリで何人の人が死んだか分からない。君のお父さんを探そう。ただしどんな事があっても僕の事をしゃべらないと約束してくれと北川は頼み、今日はもう遅いからと言って、美佐子を送って帰ることにする。

バーにやって来た植田からくれよと薬をねだられたバーテンは、ここは連絡所だ。今も変なのが来ている。後ろで水ばかり飲んでいる客がいるだろうと、カウンターに座っていたメガネの男を目で指しながら、突っぱねる。

耐えきれなくなった植田は、又、亀山の店に来ると、奥の部屋で眠っていた女を叩き起こしたので、女は怯えて泣き出す。

騒ぎに気づいた亀山が姿を現し、苦しんで転倒した植田に、いつあいつを追い出すんだ?と聞きながら、薬の包みを1つ投げ与えてやる。

その頃北川は、人気のない場所にある公衆電話から本部の春日捜査主任に電話を入れ、娘にバレたらしいので、取りあえず植田の元を離れたいと言う事と、大口買い付けの準備をしてくれと言う2点を伝える。

その後、キャバレーのフロアにいた植田にあった北川は、ここをおさらばすると告げるが、何か目鼻があるのか?ないんだったらここにいてくれれば良いさと植田は言い、フロア内で酔った外国人が暴れ出したのを観ると、殴って気絶させ足を引っ張ってフロアから引きずり出してしまう。

町を救急車が走り抜け、警察署に呼ばれた美佐子は、甚平の遺体を前に泣き崩れていた。

美佐子は、その場にいた警官たちに、警察は何もしてくれなかった。憎んでやる!と恨み節を投げつけるが、行方不明の届けは出していたのかな?と聞かれると、それができないんだよと悔しがる。

目黒甚平殺害事件の捜査として、「RUBY」に乗り込んで来た春日捜査主任は、そこにいた植田にその旨を伝える。

店に手入れが入った事は、すぐに亀山にも知らせが届く。

北川も、植田や洋子、バック、他の従業員たちと共に警察署に連行され、事情聴取を受ける事になるが、担当した伊藤刑事は、住所不定で、身元保証人は植田だけだと言う北川だけは怪しいので残して他は帰そうとするが、北川の身を案じた植田と洋子は、自分も一緒に残ると主張。

そこにやって来た春日捜査主任は、全員帰してやれ、その代わり、北川はお前が責任を持って預かれよと植田に言いつける。

警察でいじめられている風に見えた北川に同情した洋子は、親爺に話してみると言ってくれる。

外人墓地で行われた目黒甚平の葬儀の後、出席していた植田と北川に、伊藤刑事が、甚平は誰かに殺されていたよと耳打ちし、勝手に植田の車に乗り込んで送ってもらう。

亀山が花村は来てなかったねと言いながら「RUBY」の洋子の部屋にやって来たので、あんた、ペイ男以外は信用しないのねと皮肉を言い、私はここからハイチャしたいのと言うと、ハイチャ(さよなら)したい?とその言葉に亀山は激高する。

そこにやって来たのは中国人の陳(殿山泰司)で、呼びつけた洋子は、大口が欲しい人がいるんですがどのくらい回せます?と相談する。

陳は生(現金)ありますか?と聞くので、100万切ると洋子が答えると、この手の仕事は男に任せた方が良いと言い出したので、儲けは半々よと洋子は条件を付ける。

その後、北川は洋子からメガネの男を紹介される。その男は鉄くずありますか?と切り出して来るが、それは薬の話のようだった。

後日、その男と北川、洋子、植田の4人は列車で東京に向かう。

色々な品物が置いてあるオークション会場にやって来た4人だったが、北川に接近して来た同行のメガネの男は、自分は東海地区から来た(麻薬取締官)だと自己紹介するが、ここにはプロが大勢いるので気を付けましょうと北川は注意する。

4人は、そこで出会った女のグループとまず接触し、商談を始めるが、値段が折り合わず破談。

次いで、メガネの男が、デパートの屋上で檻に入った猿のスケッチをしている男に目星をつけ接触すると、ここには警察が入っているらしいとの合図があったので、場所を変えてそのスケッチの男と改めて接触し、横浜駅で取引をする事に決める。

伊藤刑事が、車の中で弁当を書き込んでいると、派手なジャンパーを来たチンピラ、ゴン(土方弘)が横浜駅にやって来る。

取引の連中が駅に集まったと聞くと、チンピラが取引相手を乗せ出発した車を伊藤刑事らの車2台が尾行する。

この尾行に気づいた子分たちは、一斉に隠れ家を飛び出して行く。

バックは、シャワーを浴びていた洋子の部屋に勝手に入り込み、旅行かね?と聞く。

おこぼれを上げようか?と洋子が声をかけると、バックは、「おこぼれ?」と聞き返す。

純情だね、見直したよと言いながら、スピッツを抱いて浴室から出て来た洋子は笑う。

そこに、陳を連れ亀山が部屋にやって来て、女の出る幕じゃないと洋子に言い渡す。

しかし、洋子は、私はここから出るのと言い残して部屋を出て行こうとするが、行けるもんなら行ってみろと凄みながら、洋子の服を引きはがすと、ブラジャーの中に入れていた薬の袋を抜き取り、2、3年くらいは生活できる量じゃないかと呟く。

最後の望みを絶たれた洋子は悔しさで泣き出すが、亀山は黙って部屋を出て行く。

「RUBY」の一室に集まった取引相手を前に、亀山は始めましょうと声をかけ、両者は薬の包みと現金の束を一緒に机の上に差し出す。

植田は、現金の束の包みをナイフで切り裂き、中の札束が本物かどうかを確認する。

そんな「RUBY」の店の前には、又しても花売り娘の美佐子がやって来る。

近くには、あの占いの女も店を出していた。

店の中に入ろうとする美佐子を、植田さん今仕事中と言ってバックが止めるが、美佐子は大変なのと緊急事態である事を訴えたので、バックは植田を呼びに行く。

店の他の部屋では外国人女性ダンサーが踊りの練習をしていた。

二階から植田が下りて来て美佐子に会うと、美佐子は警察の人が来ているようなの。植田さん逃げてと訴える。

どうして分かったんだよと植田が聞くと、伊藤刑事に、植田さんがいるかどうか観て来いと言われたし、北川さんは、あんたを捕まえようとしているのよ。サツの人だもの…と打ち明けてしまう。

そんなバカな事はねえよと否定しながら二階に上った植田だったが、廊下に北川を呼び出すと、班長!最後だけそう呼ばして下さい。あんた、何か隠しているんじゃないか?と迫る。

北川は観念したのか、植田、俺はお前を救いたいんだ。俺はもう一度、お前を泥沼の中から救いたいと告げる。

それを聞いた植田は、もう遅いや…。やっぱりそうか…と呟く。

任務上とは言え辛かった。そうする事でお前をこの魔窟から救えると思ったんだと説明する北川の様子を、自分の部屋から出ていた洋子は聞いていた。

洋子は植田にすがりついて来ると、植田、ここを出て行きなさい。2人でここを出ましょう。この北川さんは私たちを救い出してくれるのよ。分かって!と泣きながら訴える。

そのとき、取引の部屋から出て来た亀山は、植田!取引中にその真似は何だ?と怒鳴りつけ、拳銃を向けて来る。

その背後に廻った洋子も胸から小型拳銃を取り出し、植田に向け発砲した亀山を射殺する。

倒れた植田は右手を負傷していたが、接近して来るパトカーのサイレンを聞くと、亀山が落として拳銃を拾い上げ逃走する。

踏み込んだ警察によって陳たちは逮捕される。

植田は、港の方に逃げ込み、採石場のベルトコンベアを登って行く。

警察車両が集結し、春日捜査主任は非常線を張るように命じる。

工場内のスピーカーから、凶悪犯が入り込みましたが、作業はそのまま続けますが、ご注意くださいと言うアナウンスが流れる。

ベルトコンベアを這い上がって行く植田の脳裏には、俺はお前を泥沼の中から救い出したいんだと言う北川の声や、2人でいつかここを出ましょう。私は出るきっかけが欲しかったの!と訴える洋子の声が響いていた。

ベルトコンベア上の植田は、追って来た警官隊に向かって発砲を始める。

下でその様子を観ていた北川は拡声機を使って、植田!上に行ってはいけない!と呼びかけるが、植田は聞こうとせず、どんどんベルトコンベアの頂上に向かって行く。

どうして俺はこんな目に遭うんだ?みんな俺の為に集まっている。俺は死にたくない。俺が自分の世界を守って、どうしていけないんだ?邪魔しないでくれ!

植田は心の中で叫びながらベルトコンベアの上にある作業室に到達すると、床の割れ目から下の警官隊に向かって発砲し始める。

応戦する警官の弾が植田に当たって倒れる。

工場内に鳴り響くサイレン音

俺が死んでも、みんな生きてる…。

俺はいつまでも生きていたい…

生きていたい!生きていたい!

北川がベルトコンベアを登り、作業室に到着すると、そこに血まみれの植田が入口の方に向かって倒れていた。

北川は無言でその死体を見つめるしかなかった。