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ある脅迫

何やら、この作品のハリウッドリメイクが進行中と噂されている上映時間1時間程度の中編サスペンス劇。

この当時の日活サスペンスは、いわゆるスター映画でなくても質が高かった事が分かる。

クセのある役柄を演じる事が多い西村晃が、身内からも馬鹿にされるほど卑屈で情けない男を演じているのがまず珍しい。

その西村晃と対象的に、人を踏みつけ、出世コースをひた走っている傲慢なエリートを演じているのが金子信雄。

いわゆる「勝ち組」と「負け組」に分かれたこの2人の立場が途中で入れ替わる…という構造自体はシンプルな話なのだが、なかなか見応えがある佳作になっている。

後半の謎解き部分を見ると、観客が欺かれていた仕掛けが明かされるのだが、最後の最後には、さらにその裏をかくオチが待っていると言うのが嬉しい。

「犯罪は割に合わない」と言う教訓がはっきり透けて見える犯罪ストーリーになっているのだ。

西村晃の妹役を演じている白木マリの負け犬女キャラも珍しいような気がする。

映画好き、ミステリ好きにはそれなりの満足感を味わえる作品ではないかと思うが、キャスト的にも内容的にも全体的に地味な事は確か。

この手のこじんまりとした作品をハリウッドが映画化しても、今の日本だけではなく、世界的にも興行的には難しいのではないだろうか?

昨今のやたらに長い長編作品に飽きてきた眼には、このくらいの中編でもしっかり満足感を味わえる映画は作れるんだと改めて思い知らされたような内容だった。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、日活、多岐川恭原作、川瀬治脚色、蔵原惟繕監督作品。

機関車がトンネルに入る。

タイトル

機関車は「直江津駅」に到着、その客車から降りて来た1人のサングラスにコート姿の男(草薙幸二郎)が町中を抜けやって来たのは、「新潟銀行 直江津支店 通用口」だった。

中にいた小使の野崎(浜村純)は、突如、無人のはずの銀行に、サングラスの見知らぬ男が拳銃を構えて立っていたので緊張する。

しかし、サングラスの男が引いた引き金は、拳銃型ライターのスイッチだった。

どこから入ってきたんだ?と聞くと、裏木戸をがたがたやっていたら開いたんだと男は言い、机に置いてあった「次長」の名札を取ると、この人に会いたいのだが…と言う。

次長なら、今、送別会に行っている。今度、本社の業務部長に栄転するんだと野崎は教える。

その頃、その送別会が行われている料亭の女中部屋で、おちょうしのおかん番をしていたのは、座敷で盛大な送別会を開いてもらっている次長滝田恭助(金子信雄)と小学校時代からの幼馴染みで、今は同じ銀行の庶務係で万年平行員として働いている中池又吉(西村晃)だった。

同じ部屋にいた女中(清水千代子)は2人を良く知っており、いくら今は立場が違うからと言って、おかん番までする事はないじゃないかと注意していたが、中池は、俺はここの方が落ち着くんだと言うだけだった。

女中は、そんな卑屈な態度の中池に同情したのか、滝田さんは頭取の娘さんと結婚したから出世しただけじゃないと慰めるが、滝田は大卒、俺は中卒、最初からこうなるのは分かってたんだ…と呟く。

そこにやって来たのは、中池の妹で芸者の雪枝(白木マリ)だった。

滝田の送別会から抜け出して来たので既に酔っており、兄貴、一杯飲もう!と不機嫌そうに絡んで来る。

悪い酒だな…と呆れたように呟いた中池は、妹を避けるように部屋を出て行く。

その頃、滝田の方は、送別会の上座で、隣に座った無能な支店長からあれこれお世辞を言われ、恐縮していた。

その時、支店長は宴席に戻っていた中池を手招き、滝田は、今日は恭さん、又さんの昔に戻って飲もうと言いながら盃を取らせる。

しかし、中池は相変わらず卑屈で馬鹿丁寧な態度を崩さなかったので、支店長は注意する。

滝田はそんな中池の事を、昔からのろまだけれど良い奴なので今後もよろしくと、支店長に頼む。

その直後、中池は滝田に、熊木さんという人から電話ですと耳打ちするが、滝田は知らんね…と答え、宴席に加わっていた地元の町工場の社長小野(山田禅二)に春日山音頭踊りを踊るように頼む。

送別会の後、支店長と共にハイヤーで自宅に戻って来た滝田に、暗闇から声をかけて来たのは、あのサングラスの男だった。

中池は、妹雪枝の家にいたが、酔った雪枝は中池のだらしなさに憤っていた。

久美子さんのことだって…と、滝田に女まで取られた事をいまだに覚えていたのだ。

滝田は兄さんを利用して!みんな兄さんのお人好しのせいよ!私も滝田に…と何事か胸に秘めているようだった。

その頃、サングラスの男熊木伸二(草薙幸二郎)と2人きりで旅館に来ていた滝田は、妻の久美子以外の女と一緒に自分が写っている写真を見せられ苦境に立たされていた。

その女は、熊木の妻だったという。

どうやら美人局のようだった。

熊木は、滝田が滝田が女を囲うために印鑑を偽造、浮貸しをしていた事を脅していたのだった。

ハンコ屋の控えも持っていると言いながら、熊木は滝田の名前の入った領収書を取り出して見せる。

300万、明後日の朝6時まで用意してくれ。出来なかったら、これらの証拠品を警察に郵送すると熊木は言い出す。

そんな金などない!と滝田は焦るが、あんたの机の後ろにうなるほどあるじゃないかと熊木が言うので、滝田はその意図する事を察し、そんな事は出来ないと断る。

しかし、熊木は、そんな滝田に拳銃を渡し、灯台下暗しって言葉を知っているかい?誰も銀行の次長が銀行強盗するとは想像もしまい。そんな事は探偵小説にだって書いてないからなと笑う。

帰宅して書斎に座り込んでいた滝田に、引っ越し準備をしていた妻の久美子がやって来て、父から電話があり、すぐに部長から重役にしてやるって言ってましたわとと伝えた後、生返事の滝田の異変に気づき、どうかしたのか?と尋ねるが、少し酔ったのでもう少ししたら寝ると言い、久美子を部屋から送り出した滝田は、タバコを吸おうとして、上着の懐に入れて来た拳銃に気づくと、思わず取り出してじっくり眺めながら物思いに耽るのだった。

滝田は銀行の通用口のブザーを押し、出て来た小使いの野崎を銃で殴りつけ昏倒させる。

その後、宿直室で寝ていた行員も殴りつけ、金庫室に向かうと、ダイヤルを回し、使い古しの紙幣をバッグに詰め込む。

その時、突然非常ベルがなり出したので、慌てて通用口から逃げ出そうとするが、何故か、扉の鍵が開かない。

パトカーのサイレン音が近づいて来たので焦っている所で、滝田は目覚める。

夢だったのだ。

書斎でうたた寝をしていたらしい。

その時、突如電話が鳴ったので、驚きながらも受話器を取ると、さっきの熊木からで、明後日の御前6時ですよと念を押す電話だったので、今頃誰から?と又やって来た久美子をごまかしながら、電話を切ってしまう。

すると、又電話がかかって来たので、出なくて良いと久美子を下がらせた滝田は、しばらく放っておいたが、なかなか鳴り止まないので、思い切って受話器を取ると、相手は熊木ではなく、中池だった。

明日、自分のおごりで一緒に飲まないかという誘いだったが、面倒だったのでそのまま切ってしまう。

中池は、妹菊枝の部屋に来ていたが、菊枝は炬燵に入ったまま寝ているようだったので、中池も泊まる事にする。

その時、眼を開けた菊枝は、兄貴の馬鹿、意気地なし!と悔しそうに呟くのだった。

翌朝、銀行内で滝田と事務の引き継ぎを行っていた支店長が、金庫に書類をしまいかけたとき、非常ベルが鳴り出したので、滝田はびくっとしてしまう。

支店長は最近故障するので困るとぼやきながら、すぐに、警察に、今のは誤報だったと通達するように部下に命じる。

その後、応接室で小野に会った滝田は、明日までに300万都合してくれないかと頼むが、小野は、急にそんな大金できるはずがないと断り、餞別代わりにと、花咲く時計という文字盤の中心部が回転して花状の模様が動く小さな置き時計を置いて行く。

気落ちした滝田の元へやって来た中池は、熊木という人がこれをと…と手紙を差し出すと、返事が聞きたいと外で待っていますと伝える。

滝田は一見鷹揚な態度を崩さず外に出るが、そこには誰もいなかったので、一緒に付いて来た中池は不思議がる。

手紙には、屏風谷で明朝待っていると書かれてあった。

焦る滝田に中池は、夕べは電話などして悪かった。最後に2人で飲みたかったのだが、相沢君が病気になったので、僕が今夜の宿直を代わる事になったので、どうせ行けなくなったんだと卑屈に謝罪する。

それを聞いた滝田は何故か急に上機嫌になり、そうかそいつは運が悪かったななどと苦笑しながらも、その夜、そんな中池を無理に誘って飲みに出かける。

滝田は、次長の僕が一緒なんだから宿直なんて気にするな。どうせ、みんなちゃんと宿直なんてやってないんだなどと言いながら、しきりに時計を気にする中池に酒を勧める。

銀行へ戻ろうとする中池を説き伏せて料亭にまで連れ込んだ滝田は、この辺も昔は麦畑だったな…と、料亭の縁側から外を見渡して過去を懐かしがるが、あの頃から、俺は恭さんに敵わなかった…、久美子さんの事だって、俺にとっては重荷だったんだ…と愚痴っていた中池がとうとう酔いつぶれると、1人料亭を抜け出して銀行へ向かうが、その途中で、中池の妹の菊枝とバッタリ出会う。

菊枝は滝田に、お別れに来たのと言いながらも、あなたは清々しているでしょう。出世の妨げが一つ遠ざかるんですから。私は8年間も騙されていたんだ…と嫌みを言う。

滝田は、そんな話は2人でどこかで…と戸惑い、近くの旅館に連れ込む。

部屋に来た菊枝は、滝田に抱きつくと、こんなことになるんだったら、あんたの子供でも生んどけば良かった。そうすれば、もっときれいに別れられたのに…と恨み言を言い出す。

何とか、菊枝と別れた滝田は、その足で銀行の通用口に来ると、用意して来た変装を始めるが、慌てていたので、サングラスを落としてしまい、片方のレンズを割ってしまう。

早朝の4時10分だった。

仕方ないので、帽子を深くかぶり、手袋と靴カバーを装着し、覆面をしてコートを着ただけでの滝田は通用口のブザーを押す事にする。

夢の中と同じように、小使いの野崎が近づいて来て、中からどなたですか?と尋ねて来るが、返事をしないでいると、いたずらかと怒りながら戻ろうとするので、又、ブザーを押すと、頭に来た野崎は門を開けて外を覗こうとする。

滝田はその野崎に銃を突きつけ、中に入ると、用意して来たロープで野崎を縛り上げる。

想像通り宿直室は無人だったが、驚いた事に、泥酔していたはずの中池がその時戻って来たので、滝田は仕方なく、銃を突きつけて中池を脅すと、電話線と非常ベルの回線を切断させた後、金庫室を開けるように促す。

しかし、中池は怯えながら、金庫室の開け方は、支店長や次長など一部のものしか知らないんだと言うので、やむなく滝田は銃で脅しながら、中池に次長の机の引き出しを開けさせ、その中に入っていたマニュアルを出させる。

中池は、銃を突きつけられているので、抵抗も出来ず、結局、そのマニュアルを読みながら金庫室のダイヤルと、その中の金庫のダイヤルを両方とも開けてしまう。

覆面をした滝田は、開いた金庫の中から古紙幣ばかりを選びもって来たバッグに詰め込むが、焦っていたので、途中、紙幣を床にばらまくという失態も見せる。

それを慌てて拾い集めていた滝田は、自分をじっと中池が見つめている視線を感じ、思わずかぶっていた帽子のひさしを降ろす。

その時、突然、ベルが鳴り響いたので、滝田は肝をつぶすが、ベルの音源を探しに行くと、それは、自分の机の上に置いてあった「花咲く時計」が時報を知らせていただけだった。

そのスイッチを切って金庫室に戻って来た滝田に、じっと待っていた中池は、それだけで…、300万だけでよろしいんですか?と聞いて来る。

もちろん声を出すのははばかられたので、何も言い返す立ち去りかけた滝田だったが、中池が背後から、これもお持ちになったらどうかと思って…と言いながら差し出したのは、花咲く時計だった。

両者は互いに見つめ合い、突如笑い出した滝田は、やっと気づいたか?と言いながら帽子と覆面を取ると、転勤のお土産に、みんなをあっと言わせようと思っていたんだ。ちょうど防犯週間だし…と言い訳をする。

じゃあ、冗談だったのか?と中池が答えると、当たり前だろう。まさか本当にこの俺が銀行強盗をするはずがないじゃないかと笑い飛ばした滝田は、このバッグの金を元に戻し、野崎君の縄をほどいて事情を話しといてくれたまえと言い残すと銀行を後にする。

その足で、屏風谷海岸に向かった滝田は、そこで待っていた熊木に、もう1週間待ってくれと哀願する。

しくじったのか?と冷めた目で滝田を見つめた熊木は、直江津警察宛の封筒を取り出して、郵便局へ行って来るぜ。俺は約束を破る奴が大嫌いなんだと言いながら、その場を去ろうとする。

そんな熊木に対し、滝田は持っていた銃を向けて脅そうとする。

しかし、熊木は恐れもしないので近づいて来るので、思わず引き金を引いた滝田だったが、拳銃は発射しなかった。

最初から弾なんか入っちゃいなかったんだよ!と言いながら滝田に組み付いて来た熊木を振りほどこうともがいていた滝田だったが、その内、熊木は足を滑らせ、近くの崖から落ちかける。

必死に両手で崖っぷちを掴み、頼む!助けてくれ!悪かった、謝る。滝田さん!と命乞いして来た熊木だったが、そのままずるずると足場が崩れ、海に落下して行ってしまう。

そのまま帰宅した滝田は、熊木から奪い取って来た書類を書斎で燃やしながら笑い出す。

そこに久美子がやって来て、何してるの?と聞くので、滝田は朝から火遊びさ。直江津最後のな…と答えて又笑うと、銀行に行って来ると言って出かける。

その頃、銀行では、宿直の中池がいるのに、今朝方強盗に入られたらしいという噂で行員たちは持ち切りだった。

そこに、支店長と一緒に現れた滝田は、昨日私は1日強盗をやりました。本社に行くにあたって一つ実験をしてみたかったのです。当銀行が、顧客から安心される完全な銀行かどうか試してみたかったのです。しかし、結果は失敗でした。渡しのような素人でも、至極簡単に強盗が出来たからです。こんな銀行に、顧客が虎の子を預けるでしょうか?夕べ、当直の人をある場所に誘った所、その人は何のためらいもなくやって来ました。しかし、その人をその後宿直室で発見したのは救いでしたと行員たちの前で演説する。

当然、全員、中池の失態を思いながら、じろじろと中池の方を見つめ、中池はいたたまれなさそうに小さくなるだけだった。

支店長は、そんな中池を情けなさそうに叱るが、今回の責任は私や支店長にもあるのですから中池の事は不問にしてくれと滝田は支店長に頼む。

滝田と支店長が、そんな話をしていた部屋に入ってきた中池は、ちょっと…と滝田を呼び出す。

廊下に出て来た滝田は、飛んだ迷惑をかけたな。何も君を犠牲にするつもりじゃなかったんだと笑いながら詫びるが、中池は面会人が来ているんだ。応接室に待たせてある。名前は熊木と言い、これを渡してくれと言われたと告げながら封筒を渡すと、滝田の表情は一変する。

恐る恐る応接室にやって来た滝田だったが、部屋には誰もいなかったので、後ろから付いて来た中池に誰もいないじゃないかと高圧的に聞くと、いるよ、ここに…と中池は答える。

熊木の代わりに。俺でも用は足りるんだ。恭さん、君、本気で銀行強盗には一旦じゃないのか?と聞いて来る。

テストのつもりなら、何で古紙幣ばかり取ろうとしたんだい?それに君が取ったのは、きっちり300万だった。

必要だったんだろ?と追求して来る。

滝田は苦笑しながら、俺が金に困って泥棒したとでも言うのかい?と反撃しようとするが、今日の中池はいつもと違い自身に満ちていた。

変じゃないか?東京のヤクザが何で君の浮き貸しを知っていたんだ?

君は、囲い女のヒモからたかられていたんだろう?

僕が奴に知らせたのさ。脅迫状は俺が書いていたんだよ。ハンコ屋のコピーだってコピーが3枚残っている…と言いながら、中池は、今朝方証拠は全部燃やしてなくなったと安心していた滝田の目の前に取り出して見せる。

今回の事でも、君はぺこぺこ謝れば俺は良かったんだ。

それをみんなの前で笑い者にしやがって…。君を殺人罪で訴える事も出来るんだ。俺はあの後君を追って屏風谷へ行ったんだ。しかし、駆けつけた時にはもう…、可哀想な事をしたよ、熊木も…と中池は無表情に滝田を責め続けるので、とうとう降参した滝田は、僕に出来る事なら何でもする。いくら欲しい?出世が望みなら、課長でも部長でもしてやる!とすがりついて来るが、中池は憤慨しただけだった。

とうとう勝った!この10年間、俺はこの日が来るのを待ち望んで来たんだ!高慢ちきなお前を叩き潰す事だけが夢だった。いつも人を踏みつけにしやがって。久美子さんの事だって、雪枝の事だってそうだ!と中池は自分と滝田の立場が逆転した事を悟り、泣き笑いの表情になる。

出来る事ならどんな償いでもする!となおもすがりついて来る滝田に、止せ!と拒否した中池は、応接室内の電話に向かおうとしたので、滝田は警察に密告されるのかと怯える。

しかし、中池はコーヒーを滝田のツケで注文しただけだった。

汽車が出発するのは3時半だろう?元気で行って来たまえ。俺は送らないぜと中池が言い出したので、今度の事は黙っていてくれるのか?一生恩に切るよと滝田が頭を下げると、中池は黙って応接室を出て行く。

久美子と共に、無事、新潟へ向かう列車に乗り込んだ滝田は、車中で、変死体が屏風谷で上がったという新聞記事を読んでいた。

妻の久美子の方は、夫の心の葛藤など全く知らないように、今度の家の庭は広いそうだから、バラでも作ったらどうかとお父さんが言ってましたわ。あなたは今後新潟銀行を背負って立つ人なんですからと、生返事をする滝田に注意する。

その時、見知らぬ青年が近づいて来たので、滝田は刑事課と緊張するが、その青年は名刺を滝田に手渡しながら、自分は本社の庶務課に勤める宮崎と言います。隣の三等者に乗っておりますので、何か御用の時には御呼びくださいと丁寧に挨拶して来たので滝田は胸を撫で下ろす。

一方、久美子の方は笑いながら、今の人を観てたら中池さんの事を思い出したわ。あの人、同じような事なさっているでしょう?と言う。

その時、背後から近づいて来た車掌が、三等車の方が呼んでいますと滝田に声をかけて来たので、今の宮崎かと勘違いした滝田は失敬だなと立ち上がるが、車掌は後ろの車両ですと言いながら、さっき宮崎が来た前の車両とは別の車両に案内する。

そこで、滝田の袖口を引っ張って合図をしたのは中池だった。

送らないぜとさっき俺が言った意味が分かったかい?恭さん、これからはどこまでも付いて行くからな。これからは俺があんたの手綱を握る役だ。良いね?…と向かいの席に座った滝田に告げる。

銀行は?と滝田が聞くと、辞めて来た。あんたに面倒見てもらった方が割が良さそうだからねと中池は笑い、タバコをねだるので、滝田はもう何も聞く力もなくなったように1本渡してやり、ライターで火をつけてやる。

そのライターの火がつきっぱなしの状態になっているので、中池は相手の動揺を見透かし、笑いながら注意してやるが、その時、1人の男(青木富夫)が滝田さんですね?と声をかけて近づいて来ると、警察手帳を差し出す。

それを観た滝田と中池は、共に固まったまま動けなくなってしまう。

列車はそんな2人を乗せ、どこまでも走り続けて行く。