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暗黒街('56)

「暗黒街」シリーズの第一作で、三船敏郎、志村喬、宮口精二と言った「七人の侍」トリオが出ているヤクザ映画である。

監督がベテラン山本嘉次郎だし、作られた時代背景や東宝作品と云う事もあり、後年の東映任侠映画などとは全く雰囲気が違う独特の世界になっている。

ここで描かれているのは、表面上は実業家に姿を変えている現代(もちろん作られた当時の…と云う事だが)ヤクザの世界である。

意図的に鉄と云う古いタイプのヤクザを登場させ、そう言う古いヤクザを否定する親分として志村喬、さらに若い鶴田浩二が、その志村扮する会長までも操ろうとする最先端のインテリヤクザ風のキャラクターを演じる事で、一見、優しい一般人に見えるような人物でも、うかつに近づくと危険な人種がこの社会にはいますよと云う事を、観客に分かりやすく描いた啓蒙映画のようなものと捉える事も出来る内容になっている。

その罠に引っかかるのが、世間知らずな現代っ子インテリ女性と言うわけ。

観客は、この無垢なインターン女性と同じように、臆病で好々爺然とした志村喬のキャラに、前半は騙されてしまう。

ところが後半、その志村喬が豹変し、不気味な怖さを見せ出すと、やっぱりヤクザって怖いと、インターン先生と同じように観客も気づくのだが、この辺の演出が成功しているかと言うと、さすがに今観るとちょっと陳腐な印象を受ける。

鉄が人間ドックを人間タンクと言い間違えたり、堺左千夫扮する高見が、消防車のサイレンとパトカーを聞き違えて大騒ぎになるなどと言ったユーモア表現が中途半端に挿入されているため、後半のサスペンスが何となく削がれてしまっている気がするのだ。

なかなか動き出さないように見える三船の捜査主任の描き方なども、今の感覚からするとまどろっこしく見えるだけだし、後半、インターンに禁止されていた酒やタバコをヤケになって飲み、想像通り、すぐにぶっ倒れてしまう志村喬の描写など、ギャグと捉えるべきかどうか迷うほどである。

つまり、どう観ても、後年の東映任侠もののようなシリアスタッチではないのだ。

こうしたユーモア表現は、明るい遊園地のメロディーが流れる中、暗い競輪場のレースコースで掴まる鶴田浩二のシーンのように、怖さを強調するための意図的な「対比法」のつもりだったのかもしれないが、今観て効果的に感じるかと言うと、逆に古めかしさしか感じないように思える。

ゲスト的な扱いだったからか、三船は登場シーンも少ないし、何だか無個性なまじめ青年キャラクターで終わっている。

本編の主役は鶴田浩二なのだが、頭が切れ、女好きなチンピラが、堅気の女に恋心を抱き、ついヒーローめいた事をやってしまうと云う事なのだろうが、青山京子演ずるインターン河野弓子同様、そのキャラクター設定は一見シンプル、実はちょっと捉えにくい印象も受ける。

鉄に呼び出されたときの、わざとらしい怯え演技などは、彼はあくまでも一般人に近いと云う事を表現するための監督演出だったのかもしれないが、前半の切れ者イメージとのギャップがあり過ぎるため、そんな小心翼々たるキャラクターなのか?とちょっと首を傾げてしまう。

宮口精二もわざとらしいメイクで強面風に見せかけているが、他の東宝系役者同様、本来、迫力のある強面ではないため、かなり芝居めいて見える。

一番、役に合って見えるのは、男を利用する事に長けているホステスを演じている根岸明美ではないだろうか?

この作品での青山京子は、決して美人と言った印象でこそないが、ころころとした可愛い印象があり、世間知らずなお嬢さんの役には合っているのかも知れない。

マニア的には、冒頭の警察署で三船が話をしている時、その向かって左側に座って話を聞いている記者を演じているのが、ゴジラの着ぐるみ俳優として知られる中島春雄氏である事などが楽しかったりする。

作品の出来としては色々疑問も感じないではないが、全く退屈と云うほどではなく、それなりに観どころが詰まった作品だとは思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、東宝、菊島隆三原案、若尾徳平脚本、山本嘉次郎監督作品。

暗い夜の街に光る「暗黒街」と云うアーケードネオン

タイトル

すすきが揺れる空き地の奥に大きな工場が建っている。

競輪場

栄町商店街と書かれたアーケードの映像などが映り…

この街には工場、船着き場、倉庫などが多いが享楽機関も多いので街全体が荒んでいる…。いまだに親分、子分などと言っている連中が巣食っている…、そう新聞記者連中を集めて解説しているのは、警察の新任捜査主任熊田(三船敏郎)だった。

謹聴していた記者たち(中島春雄ら)に、皿に盛ったドーナッツを振る舞った熊田は、この街を大掃除したい。今じゃ実業家面をしているが、ヤクザはヤクザだ。そう言う連中を大掃除したいんだと熊田は決意を述べる。

その後、パトカーに乗って街の様子を見に出かけた熊田は、病院の前に大勢人が集まっているので、何だね?あれはと隣に座っていた巡査に聞くと、あれも大掃除の対象かも知れませんね。古谷と云う大ボスですと巡査は教える。

退院したばかりらしい古谷(志村喬)を取り囲んだ子分連中の中、古株の六郷の鉄(杉山昌三九)が花束を差し出しながら、人間タンクからのご退院…と挨拶しかけるが、タンクじゃねえ!人間ドックだ!と古谷は怒鳴りつける。

次いで、岡部(宮口精二)がおめでとうございますと頭を下げ、次いで土屋(岡豊)などベテラン陣が挨拶するが、土屋は誰かいない気がして尋ねると、岡部が庄司の奴ですと教える。

庄司隆夫(鶴田浩二)は、任せられているキャバレーの中でホステスを前に、最近、売上が減って来ている。店の売上が落ちれば君らの給料にも響くんだと発破をかけていた。

そこに1人遅れてホステスの安達夏江(根岸明美)がにやつきながらやって来たので、君の最近成績良くないねと注意した庄司は、今夜から全員2点ずつ減らすと宣言したので、ホステスたちはがっかりしたため息をつく。

支配人室に貼ってあった「シャンペン1本につき3点付ける」と云うホステスへの特典サービスの貼紙を従業員が剥がして燃やして部屋を出ると、すれ違いに夏江が入って来て、2マンばかり前借りさせてくれと頼んで来たので、そんな話なら会長に頼んでくれ。自分はこれから会長の家に退院祝いに行かなければいけないんだと庄司が冷たくあしらうと、自分も後で行くわと答えた夏江は、出かけようとした庄司とキスをする。

自宅に戻って来た古谷は、仏壇を開いて先立った妻のお民に手を合わせると、もう血圧もすっかり下がったので、まだそちらに行けなくなったなどと冗談を言う。

後ろに控えた子分たちも仏壇に頭を垂れる。

テーブルに着いた古谷は、業績が良いのは牧野の土建だけで、パチンコ屋のこの様は何だ?と入院中の各部門の業績結果への説教を言い始める。

特に、お地蔵さんからの上がりの激減振りはどう言う事だ!と、鉄を強く叱責する。

鉄は面目をなくしたように、新しい捜査主任が来たので色々うるさくなり、ここの所、場銭を取ってないのだと言い訳するが、六郷の鉄とも呼ばれるお前がと古谷から言われると二の句が継げなかった。

そこにやって来て古谷に挨拶をしたのが庄司で、お前なんで病院に来なかった?と古谷が叱ると、持って来た帳簿を黙って差し出す。

それを観た古谷は急に機嫌を直し、俺が入院中、売上が上がったのは庄司の所だけじゃないかと他の子分たちに言い、女たちの売上の率を下げた事にも気づいた古谷だったが、とにかく入院前の倍近くも売上が上がっているので感心するしかなく、お地蔵さんのシマもやらないか?と鉄の目の前で庄司に勧める。

しかし、庄司は、露天商から売上をかすめても大した額にはならないし、連中に凄んでみせるくらいだったら誰でも出来ますからなどと生意気な返事をしたので、それを聞いていた岡部が叱りつける。

鉄が、ともかく今日は、親分が人間タンクから出て来た目出たい日なので…などと言い出したので、古谷が又訂正すると、恥をかかされた鉄はそっと部屋を出て行く。

それとすれ違うようにやって来たのは夏江で、部屋に入って来るなり、古谷に抱きつき甘えかかる。

夏江は古谷の情婦だったのだ。

古谷は、そろそろ始めるかと言い、酒宴を始める。

その頃、お地蔵さんのシマにやって来た鉄は、露天で商売していた学生を殴りつけたり、中年女性の店を叩き潰していた。

岡部が古谷から盃をもらっていると、庄司も古谷の側に来てお流れを頂戴したいと言い出す。

そして、パチンコ屋の跡地を自分に任せてくれませんか?等と言い出したので、古谷が今日の所は仕事の話はよそうと言っていると、高見(堺左千夫)が飛び込んで来て、鉄が暴れている。大正8年以来の大嵐だと報告する。

しようがねえなと言いながら立ち上がりかけた古谷だったが気分が悪いと言い出す。

それを観ていた庄司は、今流行りのノイローゼですよ。さっきから心配ばかりして酒を飲んでるじゃないですかと言うので、岡部は又叱りつけ、医者を呼ぶように子分らに声をかける。

すると古谷は、この人を呼んでくれと庄司に紙を渡し、血圧が!血圧が!と苦しむ。

庄司は、その紙に書かれた住所に向かうと、古谷組のものですが、河野先生はいらっしゃいますか?と、下宿のおばさんに尋ねる。

すると若い女性(青山京子)が出て来たので、往診をお願いしたいので先生を呼んで下さいと頼む。

奥に一旦引き下がったその女性がコートを着て戻って来たので、先生は?と不思議層に庄司が聞くと、自分が河野弓子です。まだインターンの学生ですがと言うではないか。

あっけにとられた庄司だったが、弓子は、古谷の事を眼底検査など何も痛くないものでも怖がって…、あんな弱虫初めてなどと言い出す。

夏江に手を握りしめられ、床についていた古谷の元にやって来た弓子を、庄司の奴、医者を呼びに行ったのに若い娘を連れてきやしたぜなどと子分が報告したので、それが先生だ!と叱りつけた古谷は、弓子が入って来ると人払いをする。

玄関口にやって来た夏江は、そこにいた庄司に、何?あのチンピラ?と聞き、庄司はいつもの所で先に行って待ってるぜと言葉をかけ、先に出かけて行く。

どうしたんです?と古谷に聞いた弓子は、酒を飲んだと聞くと、あれほどお酒はやめて下さいとお願いしたのに…、脳溢血になったらどうするんです?と脅しす。

脳溢血!と怯えた古谷は、時々来てくれませんか?と言い出したので、それでは週に1度様子をうかがいに来ましょうと弓子も承知すると、肝臓の薬をしてきましょうと云いながら大きな注射の用意を始める。

すると、古谷は、まだ刺してもいないうちにうめき始める始末。

古谷は醜態を子分には見せられないと思ったのか、開いていたふすまを弓子に閉めさせると、グロンサンを注射される。

待ち合い旅館で夏江と合流した庄司だったが、ずっと1人でパチンコ屋の跡地のアイデアを考え込んでいたので、夏江は不機嫌そうに甘えかかる。

そこに按摩(河崎堅男)が訪ねて来るが、庄司も夏江も呼んでいなかったので間違いだと分かる。

それでも、せっかく来たんだから揉んでもらおうかと云う事になり、按摩が庄司の身体を揉み始めた瞬間、そうだ!と庄司は叫ぶ。

「平和マッサージ温泉」の企画書を庄司から見せられた古谷は驚く。

庄司が言うには、トルコ風呂や温泉だけではなく、マッサージが主の施設にすると言うからだ。

それも、今流行りの若い女を使うのではなく、本物のメ○ラを使う。つまり身体障害者を雇うと云うのだ。

人間からピンをはねるのが一番だと言う庄司に、確かに幡随院長兵衛の時代から「人入れ」と言って来たくらいだと古谷もその説の正しさに頷きながらも、しかし、メ○ラやメッ○チのピンをはねると云うのはどうも…と躊躇する。

すると庄司は、いや、むしろ身体障害者に仕事を与えたと云う事で会長の評判は上がりますと云うではないか。

それを聞いた古谷は、来年、俺は市会議員に立候補するつもりだしな…と乗り気になる。

さらに庄司は、身体障害者の仕事は無税になると、六法全書を読んで聞かせる。

後日、パチンコ屋の跡地を任せられる事になった庄司は、改装を請け負っていた岡部らの元に来ると、工事が遅れているじゃないかと文句を言う。

観ると、岡部を始め、店の主導権を庄司に奪われた事を面白く思ってない古谷組の連中が睨みつけて来る。

次の瞬間、木材が庄司の頭の上に落ちかかって来たので、間一髪身を除けた庄司だったが、左手を負傷してしまう。

岡部は医者に行った方が良いぜと親切ごかしに言うが、大丈夫だと言って庄司が帰ると、今のは誰がやった?と二階を睨む。

高見が、あんまりあいつが生意気なことを言うのでつい…と名乗り出ると、今度やるときはもっと巧くやれと岡部はやんわり指示を出す。

その頃、河野弓子は、3回目の往診に来た後、古谷に朝食をごちそうになっていた。

縁側で一服した弓子は、古谷がタバコを吸おうとするので止めるように注意をする。

そして、その古谷から治療代と言われ封筒を差し出されるが、多すぎると言い、2枚だけ札を抜き取る。

そこにやって来た庄司は、釘に引っ掛けたので治療をしてもらえないかと、工事現場で負傷した左手を見せる。

そして、古谷には、工事が遅れているので、会長からせっついてもらえませんかと直訴する。

帰りかけた弓子を自動車で送らせようと古谷が言うので、弓子は、今度の日曜日、車を貸してくれませんか?鎌倉の療養所に行く用事があるのでと頼む。

次の日曜日、弓子は庄司に運転してもらって、鎌倉の「海浜サナトリウム」に来ると、その後砂浜で休憩する事にする。

弓子が言うには、レントゲンの出物があるので来たが、ちょっと手が出ないのだと言う。

それを聞いた庄司が、会長から借りれば良いじゃないか?会長は君に気があるんだから…、何だったら、僕が口をきいてやっても良いぜと言うと、弓子は結構ですと断る。

とは言えやはり話自体には興味があるようなので、ただちょっと好きだなって顔さえすれば良いんだと庄司が教えると、いきなり弓子は庄司の頬を叩いて、失礼よ!と怒ったように立ち上がる。

庄司は呆れたように、君が教えてくれと云うから…と呟く。

一旦立ち去りかけた弓子だったが、また戻って来ると、せっかく車で来たのに、電車で帰るなんてバカバカしいわなどと言うので、僕は大抵女の気持ちは分かるつもりでいたけど、君は分からないと庄司は言い、一体、レントゲンってどの位するのか聞くと、5万円と云うので、拍子抜けしたかのように笑い出す。

庄司はもっと高額かと思っていたからだ。

東京に戻って、マッサージ施設の工事現場に戻って来た庄司は、人だかりがしているので何事かと店の前まで来ると、原因不明のぼやが出たのだと云う。

入口付近には、新任の熊田捜査主任も立ち会っていたので、庄司は一応挨拶をする。

熊田が、君は誰かに恨まれているような事はないかね?この店のバックは古谷さんの所だろう?などと熊聞いて来たので、庄司は自分1人でやっているんですと答えるが、熊田は、するとじゃあ、パチンコの方はよっぽど儲かっていると見えるねと笑いながら探りを入れて来たので、庄司は答えに窮してしまう。

その後、キャバレーの個室に夏江としけこんでいた庄司に、掃除のおばさんが電話がかかってますよと知らせに来る。

相手は古谷で、すぐ来いと云うので、古谷がそれを夏江に伝えると、バレたんじゃないかしら?と夏江は心配しながらも、金づるなんていくらでもあるんで良いのとあっけらかんと言う。

「土木建築 古谷組」の事務所にやって来た庄司は、部屋の中から聞こえて来る古谷の怒声に思わず足を止める。

中に入ると、不機嫌そうな古谷と岡部がおり、何の用事ですかと云う庄司に、しらばっくれるな!自分の胸に聞いてみろ!と古谷は珍しく怒鳴りつけて来る。

何の事か分からないと庄司が戸惑っていると、お前、何で町田組に工事の請け負いを変えた?うちの土建部に何か文句あるのか!と古谷は息巻く。

庄司が、単に見積もりを出させたら、あちらの方が安くて早くし上がりそうだったので替えただけだと答えると、それじゃ、岡部の顔は丸つぶれじゃないか!断れ!と古谷は命じる。

不承不承それを受け入れた庄司だったが、その代わり、個人的に5万ばかり金を拝借できないかと頼む。

また女か?と古谷が聞くので、人助けですよと庄司は答えると、キャバレーの方でそのくらいの金ならどうでも出来るじゃないか?と古谷が嫌みを言って来たので、会長は私をそんな人間だと思ってらしたんですか?じゃあ、結構です!と怒って、庄司は帰ってしまう。

その後、工事現場に戻って来た岡部は、そこにいた鉄に、庄司は会長の女に手を出しているようだと告げ口する。

鉄は、その後、庄司を工事現場に呼び出すと、お前がいると、古谷一家のためにならない。親分の女に手を出すような奴は許しちゃおかない。いくら頭が良くても、こいつには敵わないからな…と言いながら、拳銃の引き金を引く真似をして見せる。

その頃、古谷は夏江にせがまれ、5万円渡していたが、まさかお前、庄司にいたぶられているんじゃないだろうな?と睨みつける。

すると夏江の方も負けじと、パパも老いらくの恋と云うか、新しい恋人が出来たんじゃないの?とからかう。

翌日、喫茶店で弓子と出会った庄司は5万円を渡し、急ぐ事はないけど、返せる時が来たら返してくれと告げる。

弓子はその金を素直に受け取る事にする。

庄司は、これでやっと君の信任を得られたんだねと笑顔になる。

弓子の方も、庄司さんてもっと冷たい打算的な人かと持っていたと微笑むと、どうしてヤクザになったのと聞いて来る。

すると庄司は、僕はヤクザじゃない。仕事として古谷組に入っているだけでヤクザ根性なんか受け継いでいませんと否定する。

頭を使えば、あんな連中どうにでもなるんだと言う庄司に、どうして私に親切にして下さるんですと弓子が聞くと、あなたが好きだからですと庄司は真顔で答える。

恥ずかしいのか、弓子は借用書を書きますと言ってその場で紙に書いて渡す。

アパートに帰って来た庄司はベッドに横たわると、すぐにその借用書を燃やしてしまう。

そこにやって来た夏江は庄司にキスをするが、臭い!と言うなり身体を離し、消毒液の匂いがすると、庄司がインターンと付き合っている事を当てこすると、どうして一緒にドライブなんかしたの?と嫌みを言う。

あの女だけは絶対にダメ!と夏江は嫌悪感を露にするが、庄司は、本当に社長に気があるのか探りを入れただけさとごまかす。

そこにやって来た鉄が、庄司を外に連れ出す。

夏江と2人きりの所を観られた庄司は、今度こそやられると覚悟を決めて出かける。

夏江も恐怖を感じ、すぐに古谷の家に電話を入れる。

暗い部屋の中に連れて来られた庄司は、複数の仲間に囲まれ、会長は知っていなさるのか?と怯えながら聞く。

鉄は、何か女に言い残す事はないかと言いながら拳銃を取り出す。

庄司は、俺をやればお前だってただじゃすまないぞと虚勢を張るが、ムショには慣れてるからな。命が惜しくてヤクザがやってられるか!と鉄は動じない。

その時、「ばかやろう!」と怒声が聞こえたかと思うと、古谷が入って来て、鉄から拳銃を取り出すと、庄司と共に自宅に連れて来て、今は新任の捜査主任がおれたちに眼を付けているんだ。庄司が怪我したら奴らの思うつぼじゃねえか!と鉄を説教する。

鉄は反省し、どうか指を詰めてやってくれと古谷に頭を下げるが、古谷はそんな旧時代な真似はしたくないと拒否する。

とことん恥をかかされ続けの鉄は、親分さんも変わった…と泣き出し、横で聞いていた庄司はまるで浪花節だと冷笑するが、古谷はそんな庄司にも、お前は何も悪くないのか?夏江が欲しけりゃくれてやる!どうも、お前は女癖が悪くていけねえと睨みつけるのだった。

後日、庄司は喫茶店の表を通りかかった時、店の中に座っている弓子を見かけ中に入って声をかける。

弓子は友達を待っている所だけど…と言いながらも、快く同じテーブルに座らせる。

その直後、その友達だと云う鈴木敬一(小泉博)がやって来て、弓子の隣に座る。

田舎で開業医をしていると云う鈴木は、年に1度か2度上京するだけなので、弓子とは滅多に会えないらしい。

鈴木は、同じテーブルに座っていた庄司の正体を怪しんでいたが、その時、レジで大きな声で凄んでいたチンピラ(大村千吉)が、仲間に促されて庄司に気づくと、急に低姿勢になり、兄貴、今日の事はご内聞に…とぺこぺこしながら帰ってしまい、バツが悪くなった庄司も席を立って帰る。

残った鈴木は、誰だい?あの人…と店を出て行った庄司の事を弓子に聞く。

自分が診ている古谷さんと云う患者さんの組の腕利きで、キャバレーの支配人と弓子が教えると、鈴木は不愉快だよと顔をしかめる。

弓子は、私はそんな女じゃないわと鈴木を安心させようとするが、そんな弓子に近づいて来たウエイトレスが、この前お忘れになっていたものですと、弓子の手袋を持って来る。

鈴木は、庄司の世話になっているんだろうけど、ここで毎日会ってるんだねと聞くと、弓子は怒って帰ってしまう。

慌てて追いかけて来た鈴木は謝り、弓子の機嫌もすぐに直ったので、近くにあったとんかつ屋で食事をしようと言う事になる。

鈴木は、弓ちゃんが国家試験に合格したら結婚して、小児科を増設しようと2人の将来を語り始めるが、弓子がレントゲンを買ったと言うと、お金どうしたの?さっきの鈴木さんに借りたの?と、又不安な顔に戻ってしまう。

弓子が5万円借りた経緯を打ち明けると、ちょっとおかしいな?何万と云う金を…と、話が巧すぎる点を鈴木は指摘し、そんな曖昧なお金は嫌だな。他の男からもらったのが不愉快なんだ。庄司ってヤクザだろう?君あの人の事好きなんだろう?…と突っ込んで来る。

又もや不機嫌になった弓子は、良い人は誰でも好きよ!と言い返すと、お茶を捨て、その湯のみに、給仕が持って来たおちょうしの酒を入れて飲み始める。

その頃、夏江は、キャバレーの常連客の相手をしていた。

客は夏江に気があるようで、彼女にせがまれるまま小切手を渡したので、今夜はものに出来ると思い込んでいるようだった。

支配人室にいた庄司は、突然入って来た弓子が酔っている事に気づく。

鈴木って人は?と聞くと、喧嘩して別れて来たと答えた弓子は、庄司さん、この前好きだって言ったけど、噓なの?好きって、どの程度の好きなのよ!と絡んで来ながらソファで眠ってしまう。

夏江は、帰ろうとする常連客のオーアバーを取りに奥に入った時、泥酔した弓子を抱えて、自分の部屋に入って行く庄司の後ろ姿を目撃し、ちくしょう!と悔しがる。

ベッドに寝かせた弓子の額にキスをしてやる庄司だったが、急に立ち上がった弓子は帰ると言い出す。

庄司はそんな弓子に、今日はここでゆっくり寝て行きなさい、これで中から鍵をかけて…と部屋の鍵を渡すと、自分は出て行く。

その頃、古谷の家に1人来ていた鉄は、どうか盃を返しておくんなさい。これ以上、庄司の奴と同じ釜の飯を食うのは我慢できねえんで…と頭を下げていた。

話を聞いていた古谷は、庄司を殺ろうってんだろ?お前1人でやったって事にすりゃ、確かに俺には迷惑かからなくなるが、お前はどうするんだ?と聞く。

若い頃から苦楽を共にして来たお前にそんな事させねえさと言い聞かせようとする古谷に、落ちぶれたヤクザの最後の花を咲かせてやっておくんなさいと鉄は譲らない。

そりゃあ、少し、了見が違やしねえか?今の社会は…と古谷はさらに説得しかけるが、そこに飛び込んで来たのが夏江だった。

夏江は、庄司には別な女が出来たの。医者の卵のあの女が酔っぱらって、自分で庄司の部屋に入って行ったのよと告げ口する。

しかし、古谷は本気にせず、庄司から引っ張り込んだんだろうと笑うが、夏江は、あの5万は、あの子にやったのよと言うと、さすがに血相を変え、立ち上がったので、親分が行っちゃいけねえと止めた鉄は、今度こそあっしが頂きますよと言い残して部屋を出て行く。

しかし、古谷も、あんな若造のために組を潰してなるか!と興奮する。

しかし夏江は、その後すぐにキャバレーの支配人室に電話を入れ、鉄がピストルを持って行ったわよと庄司に教えるのだった。

すぐに庄司は部屋を抜け出すが、その直後、また電話がかかって来るが、もう誰も出るものはいなかった。

店の外に出た庄司だったが、すでに待ち構えていた鉄の手下たちに取り囲まれてしまう。

一旦は振り払って逃げ延びようとした庄司だったが、そこに鉄たちが立ちふさがる。

庄司は、鉄たちに促され、場所を移動し始めるが、踏切の所で又走ろうとして羽交い締めにされてしまう。

万事休すと感じた庄司は、踏切の側の交番に警官が1人立っていることに気づくと、踏切が上がった途端、又走り出す。

鉄の手下たちが追いかけて行く様子を観ていた警官は本署に電話を入れる。

庄司は、楽し気なメロディーが鳴り響いている遊園地の裏手に入り込む。

そして競輪場のコースに逃げ込んだ所で、鉄たちに取り囲まれてしまう。

庄司は斜面を登って逃げようとするが、鉄の発砲で足を撃たれ、滑り落ちた所に又銃弾を受けてしまう。

その時、パトカーのサイレン音が近づいて来たので、鉄たちは血まみれになった庄司の身体を抱えて車に乗せるとその場を逃走してしまう。

明るい遊園地のメロディーが響く中、現場に到着したパトカーだったが、すでにそこには誰もいなかった。

本署で待ち受けていた熊田捜査主任の元に戻って来た松尾警部(桜井巨郎)は、現場に残っていたあの血の量から考えて重傷のはずですが、どこかに連れて行ったんでしょうと報告する。

熊田は、市内の医者や薬屋に手配を徹底するよう命じる。

その後、開業医や病院、街の薬局には、全て刑事たちが張り込む。

古谷の部屋に入ってきた岡部は、庄司の奴、出血がひどく、あのままでは死んでしまいますと報告する。

古谷は、弓子を呼んで来るように命じると、いつサツに踏み込まれてもぼろが出ないようになってるな?と念を押す。

古谷の家に連れて来られた弓子は、今日は今から国家試験があるんですけど…と迷惑がるが、古谷は今までと全く違った厳しい口調で、一家が生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ!試験もクソもあるか!と怒鳴りつける。

その時、サイレンの音が近づいて来た、部屋に飛び込んで来た高見が、サツの手が回りました!と古谷に報告する。

ドスは始末しろ!と命じた古谷の言葉をきっかけに、子分たちは弓子の目の前で、部屋の天窓などに隠していた大量のに本当や機関銃を運び出そうとする。

弓子は唖然として立ちすくんでいたが、高見がバツが悪そうに、すみません、火事らしいですと訂正に来たので、古谷は殴り飛ばす。

すっかり怯え切った弓子は、私、もう時間がありませんから…と断って帰ろうとするが、子分たちに掴まり、岡部が鍵を開けた奥の離れの部屋に連れて行かれる。

そこに寝かされていたのは庄司だった。

そん部屋のイスに座った古谷は、怪我をしているんだ診てやってくれと頼み、どうしてこんなひどい怪我を…と、庄司の身体を観た弓子がおののくと、ピストルの弾が入っているんだ。どうだ?傷の具合はと聞いて来る。

このままだと死んでしまいます。弾を抜かないと。私こんな手術で来ませんと弓子が断ろうとすると、だったら応急手当をしろ!絶対死なすんじゃねえぞ!と古谷は凄んで来る。

その頃、本署に戻って来た松尾警部は、手掛かりがつかめません。どうも古谷の家が臭い…。支配人の姿も見えませんと熊田捜査主任に報告していた。

熊田は車の用意を頼む。

庄司の部屋に2人きりにされ、何とか応急手当をし終えた弓子は、古谷さんがあんな怖い人とは知らなかった。あなたと付き合ったばかりにこんな事に…と後悔していた。

熊田は古谷家を訪問すると、2人きりで挨拶をし合う。

庄司と云うキャバレーの支配人がおりますね?と熊田が世間話のように切り出すと、田舎の方にちょっと…と熊田は答える。

田舎はどこですか?と熊田が重ねて聞くと、確か、滋賀県の方でしたか…と古谷は言葉に詰まる。

夕べも、競輪場でヤクザの喧嘩が始まったと云うので、行ってみたら誰もおらず、警察の黒星でしたと熊田は笑い、さりげなく立ち上がって、縁側の方へ行って庭先を眺める。

古谷はちょっと慌てて後を追うが、熊田は、電気が灯っている離れの部屋の窓に、厳重な鉄柵がついている事を見逃さなかった。

この辺は物騒ですからな…と冷や汗ものの返事をした古谷だったが、それ以上熊田は長居はせず、すぐに帰ってしまったので安心する。

すぐに岡部が近寄って来て、感づきやがったんですかね?と案じながらも、外は警戒厳重で、今、庄司を外に運び出せませんと古谷に告げる。

その頃、国家試験にやって来なかった弓子の事を心配した鈴木敬一が下宿先を訪ねて来るが、不在と知ると困惑する。

庄司の部屋に閉じ込められていた弓子を、高見が、会長がお呼びですと呼びに来る。

高見に付いて部屋に向かっている時、廊下の電話が鳴り、それを取った高見は、河野弓子はいませんか?と云う鈴木の声を聞くが、そんな人いませんよと答えて切ってしまう。

部屋に入ると、古谷があれほど禁止していたタバコを吸いながら酒を飲んでいるではないか。

話があるんだ。こっちに来なと言われたので、渡し、庄司さんに注射をしなければ…と「断ろうとする。

廊下の電話が又鳴り出し、高見が出ると、また鈴木からだったので、しつこいなと呆れた高見は、受話器を垂らしたまま去って行く。

「もしもし!」と言う鈴木の声が垂れ下がった受話器から聞こえて来るが、その受話器に、部屋から這いずって来た庄司がすがりつく。

古谷から脅され、やむなく側に行った弓子は、無理矢理抱きしめられ、お前いつから庄司と出来てる?お前も案外アプレだな〜と耳元で囁かれる。

その時、ふすまが開き、そこに立っていた庄司が、傷がとても痛むので注射をしてくださいと弓子に頼む。

離れに戻った弓子は、まださっきの注射が効いているので痛くないと言う庄司に、ごめんなさい!そんな身体で無理して私を助けて下さったのね…と礼を言うと泣き出してしまう。

君は俺を恨んでいるだろうな…、鈴木って人は良い人だな。今電話して来た教えた庄司は、君はそんなにあの人が好きなのか?逃げるんだ!とにかくやってみるんだ!何、殺すものか。奴らは自分の身が可愛いだけなんだと言って、ドアを開けてやる。

弓子は玄関に向かって逃げ出すが、すぐに岡部たちに掴まって戻って来てしまう。

すると、庄司は、手にしたメスで岡部の頬を切り裂く。

さらに、離せ!と凄んだので、弓子を捕まえていた子分らは思わず手を離してしまう。

その直後、高見が、親分がぶっ倒れた!とみんなの前に飛び出して来たので、頬をハンカチで押さえた岡部は、何か治療をしろ!と弓子に命じる。

しかし弓子は、こんな悪い人!と拒否したので、貴様!親分を見殺しにする気か!と言いながら、岡部が弓子を殴り始める。

逃げ出そうとする弓子だったが、廊下にはドスを光らせた子分らが待ち構えているので出られない。

もう逃げられないと悟った弓子は泣きながら、注射の準備をし出す。

庄司は、廊下の電話で110番を回そうとするが、すぐに子分たちから殴られ邪魔されてしまう。

岡部は、その場にいた子分たちに金を渡し、すぐに逃亡するよう命じる。

その間、弓子は古谷に注射をしていた。

子分たちは、家の前に停めた車のトランクにドスなどを移し替えると、岡部が車の用意ができましたと古谷に告げる。

岡部は弓子も連れておけと子分らに命じ、古谷が子分らに支えられながら玄関で靴を履きかけていた時、突然玄関が開き、そこに何人もの刑事や警官と共に立っていたのは熊田捜査主任だった。

古谷恒次郎さんですね。逮捕令状が出ておりますと丁寧な口調で熊田が告げると、古谷はご厄介になりますと頭を下げ、子分たちにはおとなしくしているように告げる。

その会話を聞いていた弓子は、やっと助かったと気づいたのか、気が抜けたようにその場にしゃがみ込んでしまう。

後日、無事救出された庄司が入院していた病室に見舞いに来た夏江は、タバコを吸わせてやる。

そこに訪ねて来た熊田捜査主任は、どうだね?容態は…と庄司に尋ね、連中は当分臭い飯を食う事になるだろうと教える。

鉄はどうしました?と庄司が聞くと、故郷に帰っていたので、指名手配にした。河野弓子は許嫁と一緒に田舎に帰ったと教えると、君に渡してくれと云われて来たと、弓子から預かって来た5万円を渡して帰って行く。

庄司はその金を、遠慮する夏江に返す。

夏江は、人を待たせてあるからと言って部屋を出て行くが、病院の外に待っていた車の後部座席で待っていたのは、あのキャバレーの常連客だった。

その客の車に、パパ待った?と言いながら夏江が乗り込み車が走り去るのを、病室の窓から見下ろしていた庄司は思わず微笑んでいた。

パチンコ屋の跡地にかかっていた「マッサージ温泉」の看板は、今や工事も中止し、荒れ果てた無人の店舗の前で薄汚れたまま垂れ下がっていた。

路上には風が吹き抜けて行く。