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78歳の監督と80歳の主演俳優の新作に、あれこれ難癖を付けるのはためらう。

お二人に、若い頃のようなパワーや才気を期待する方が無理な事も分かる。

取りあえず、無事完成して良かった。健さんお元気で公開を迎えられて良かった…と言う辺りに止めておくのが礼儀上正解かも知れないし、この作品を名作、感動作と評価する人もいるだろう。

ただ、映画を観てしまった以上、個人的に感じた事は書きたい。

作品に対し、遠慮して口を閉ざしてしまうのも失礼だと思うからだ。

別に、出来が悪いとは思わない。

だが、個人的に降旗監督とは相性が合わないのか、過去、健さんとのコンビ作品で面白かったと心底感じた作品は一本もなく、今回の作品も、残念ながら今ひとつ面白いとは感じられなかった。

老齢の監督作品だけに、全体的に淡々としており、特に違和感があると言うわけではないのだが、特にものすごく共感できると言うものもない。

こちらがまだ未熟過ぎて、きちんと魅力を把握し切れていないせいかもしれないが、全体的に無難すぎるまとめ方のような気がする。

正直、健さんが降旗監督と長年コンビを組んで何本も映画を撮って来ておられる気持ちが良く分からなかったりもするが、健さんは降旗監督の感性を理解しておられると言う事なのだろう。

それでも、完成披露試写会の席で、最近になってようやく監督の言いたい事が分かって来たように思う、本当にダメな俳優ですと健さんが冗談まじりに発言していたのを聞くと、ひょっとすると健さん自身も、降旗監督の映画を心底納得していたわけではなかったのかもしれないなどとも感じた。

今回の作品は、年を取るとはどう言う事なのか?と言う事を表現したくて撮ったと降旗監督が語っておられたが、その言葉通り、ここにあるのは「過去」にばかり執着する老人の姿である。

その老人を残し先立った妻は、夫がこの後、そう言う過去にとらわれて余生を送る事を案じ、自ら、夫を旅に出させ、新しい世界を観る事によって、過去を断ち切り、自分らしく生きるようにとのメッセージを遺す…と言う、何となくありきたりな話が骨格となっている。

その旅を続ける間に、主人公の老人が何人かの人と遭遇し、その人たちからも色々なメッセージを受け取ると言う展開になっているのだが、過去=妻の幻影に取り憑かれた老人は、せっかく旅を続けても、絶えず、亡き妻の幻影と共にある。

それは、妻と一緒に旅行できなかった夢を実現しているのだともとれるが、ロードームービーとしては、新しい場所に出会う新鮮さや感動を抑制してしまう逆効果になっているように感じる。

北陸富山から九州平戸までは相当な距離だと思われるのに、この映画で観ていると、何だか、2つくらい隣の県への移動くらいにしか感じないのだ。

そこで出会う人物が全員訳ありの人ばかりと言うのも、いくら話を面白くするためとは言え、わざとらしい気がする。

キャラクターとしては、やはり、草なぎ剛や三浦貴大、綾瀬はるかと言った若手が皆生き生きとした良いキャラになっているのに対し、北野武や佐藤浩市のキャラはいかにも作り物めいて見える。

健さん演じる主人公のキャラにしても、人一倍謙虚でまじめと言う従来の健さんのイメージをそのままなぞっているだけの印象で、安心感はあるものの意外性は何もない。

話の展開も何となく予想できる範囲内のような気がするし、そつなくまとめただけ…のような印象もある。

一番納得できないのは、妻の最後の言葉を受け取るのが、10日間の期限付きである事。

健さんは、車での旅をたまたま選んだので、途中で色々な人に出会ったり、過去の妻との思い出に浸ったり…と、色々考える時間が出来ており、それが結果的に、最後の妻の言葉を読んだ時の解釈の参考になっているような気がするのだが、これはたまたまそうなったと言うだけの話。

仮に、健さんが空路とか、もっと早く目的地に着く方法を選んでいたら全く結果は違っていたはずで、妻が期限を切った意味がこの映画では良く説明されていないように見える。

何か、その期間中に故郷に着けば、特別な事が待っていると言う事もない。

期限を区切れば、仕事をしている夫は仕事を休んで(もしくは辞める決心をして)旅行に出る事になるのは予想されるはずで、そんな事を妻が夫に強いる説明が何もないのだ。

だから、最後の言葉「さようなら」も含め、妻の遺したメッセージは不可解に感じるだけで、今ひとつ観客に届かない。

デジタルで色調を変えたような画面もいくつか見受けられるが、失礼ながら、老齢の監督があえて新しい手法にチャレンジしてみたんだろうな…と言う以上の感想はない。

健さんとデジタル処理は似合わないように感じるのは偏見か?

個人的には、最初の方は座り芝居が多い大滝秀治の足腰を心配したが、最後に、ややおぼつかない足取りながら歩くシーンが付け加えられていたので、まだ多少は歩く事が出来るのだなと安心した。

健さんは、完成披露試写会での登場などを観る限り、まだ足腰は大丈夫のようだ。

次があるとしたら、今回のような、何となく無難にまとめあげた良い話、誰もが想像する通りの健さん…ではなく、もっと破天荒な役柄を演じて欲しいものだと願う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2012年、森沢明夫原作、青島武脚本、降旗康男監督作品。

北陸、富山刑務所

寄宿舎で1人、アイロンを当てていた指導技官・倉島英二(高倉健)は、窓辺に吊るした風鈴の音を聞きながら、その風鈴を口で吹いて鳴らしていた妻の洋子(田中裕子)のことを思い出す。

(回想)良い音…と倉島が言うと、でも秋になったら外さないと…。季節外れの風鈴の音は寂しいわと洋子は言っていた。

(現在)その言葉を思い出した倉島は、風鈴を外し、今は亡き洋子の遺影を見つめる。

タイトル

刑務所に出勤し、所内の木工室で囚人に技術を教える倉島。

その仕事中、倉島を呼びに来たのは、刑務官の塚本和夫(長塚京三)で、面会人が来ていると言う。

その面会人の女性はNPOの人のようで、生前、洋子さんから預かったものがあり、2通の絵はがきなのだが、その内の1通は局留めで故郷の方に送ったので受け取って欲しい。それを観られる期限は10日間ですと言う奇妙な事を伝えて来る。

1通だけその場で読むと、それは洋子の手になる絵が描いてあり、面食らう倉島に、その女性も、こういう依頼は初めてだと言う。

倉島は、自分のワゴン車の後部ドアを開けると、そこには作りかけの木工細工のようなものが乱雑に詰め込まれていた。

(回想)生前、病院のベッドで寝ていた妻の洋子に、そのワゴン車を運転して、好きな絵でも描いたら良いよ、早く直ってよ…と倉島が勧めていた車だった。

洋子は、その車の中に、病室に置いてあった青いガラスの小さな花瓶を置ける場所作ってよと頼んでいた。

(現在)洋子の命日、塚本家に呼ばれた倉島は、洋子から習ったと言う焚き合わせを紹介する塚本の妻の久美子(原田美枝子)と塚本に、故郷の海に散骨をしてくれと絵はがきに書いてあった。一度海を見てみたいと思って、洋子の故郷である平戸に行く決心をした事を打ち明けた後、3人でビールを注ぎ合うと、洋子の遺影に向かって献杯する。

塚本は、倉さんは一生独身のままだと思っていただけに結婚したときは驚いたと打ち明け、妻の久美子も、それも相手が童謡歌手の人と聞いてもっとびっくりしましたと笑う。

(回想)妻の井出洋子は、刑務所の慰問に来ていた童謡歌手だった。

数年後、木工部で作った神輿の完成品を観ていた洋子に、数年前まで慰問に来ておられた井出さんですよね?あの頃歌っておられた「星の歌」は、生まれた故郷の夜空を思い出させてくれましたと声をかけた倉島は、失礼しましたと詫びると、洋子を近くのバス停まで送って行くが、刑務所に戻りかけた倉島を追いかけて来た洋子は、慰問なんかじゃなかったんです。たった一人の為に歌っていたんです。でも2年前に亡くなりました。皆さんを騙していました、すみませんでしたと、唖然と立ち尽くす倉島に向かって頭を下げて来る。

倉島は、木工所で倒れた神輿を作る男の事を思い出していた。

男の遺品には何枚もの絵はがきがあり、そこには雀の絵が描かれていた。

塚本が言うには、内縁の妻か何かがおり、いつも絵はがきが届いていた。

男は雀の餌付けをしており、内務規定では違反だったのだが見逃していたと説明する。

(現在)倉島は、ワゴン車の後部にイスなどの木工製品を起き、手製のキャンピングカー風に改造すると、洋子の骨壺を黒い布で包んで、車に乗り込む。

そこに駆けつけて来た塚本は、倉さん、黙って、こんなものを置いとかれては困る。総務部長としては受理するわけにはいかない。休暇と言う事にしておきますと退職届を差し出しながら言ってくれる。

倉島は、1度2人だけで旅をしようと言っていたので、あいつと出かけてみようと思いますと塚本に挨拶して車を出発させる。

しばらく走り、ポリタンクに水を汲もうと、とある市場に立ち寄った倉島は、蛇口の所に立っていた小太りの男(北野武)から、自分は時間あるので先にどうぞと勧められ、礼を言って水を汲む。

その後、またしばらく走ってガソリンスタンドで給油していた倉島は、キャンピングカーが横付けして来て、暴走族のクラクション音のような音を響かせたので運転席を観ると、さっきの小太りの男が降りて来て挨拶する。

男は、倉島の車の中を覗き込み、手作りですか?と感心しながら、俺なんか、出来合いのを買っただけですから…と恥ずかしがる。

今日は車中泊ですか?と言うので、倉島が、近くのコンビニかスーパーの駐車場辺りに停めようかと思っているんですけど…と言うと、簡単に停められると思ってるんでしょう?でも最近は色々うるさくて停められないんですよ。近くの川にオートキャンプ場があるんだけど行ってみませんかと誘って来る。

オートキャンプ場にやって来た倉島は、さっきの水で入れたコーヒーですと言って、テーブルに座っていた男に差し出す。

男は、旨いですねと言い、行き暮れてなんとここらの水のうまさは…と呟いたかと思うと、山頭火ですけど、ご存知ですか?と聞いて来る。

放浪の詩人と言うくらいしか…と倉島が答えると、実は自分は3月まで国語の教師でしたと言う。

女房に先立たれ、退職したら日本中旅しようと言ってたんです。放浪と旅の違い分かりますか?目的があるかないかです。目的は旅ですね。山頭火は放浪でしょうね。自分が思うままに放浪してそれを句にしたんですなどと解説する。

倉島が富山から長崎まで行く予定だと言うと遠いですねと言い、さっきの旅の定義にはもう一つあって、帰る所があると言う事ですと付け加える。

夜中、倉島はふと目覚めておき上がると、窓から水辺を見透かす。

(回想)海辺で、一緒に流木を拾っていた洋子との思い出が蘇ったのだ。

浜辺に座り、倉島は洋子に、海の近くに住むってどう思う?と切り出す。

嘱託の技官も来年で終わりにしようと思うんだ。転勤、転勤の明け暮れだったからね。どっかでゆっくり暮らしたいんだと倉島は話す。

(現在)車を降りた倉島は、夜の水辺に牟田って立ち尽くしていた。

そんな倉島の様子を、キャンピングカーから黙って見つめる杉野輝夫(小太りの男)。

翌朝、出発しようとした倉島は、すでにキャンピングカーは出発しており、自分のワゴン車のサイドミラーに結ばれたレジ袋に気づく。

中には、山頭火の「草木塔」と言う本が入っていた。

京都に着いた倉島は、雨が降って来たので、コンビニで買い物をした後、運転席で「草木塔」の一節を読んでいた。

その時、窓ガラスをノックする音に気づいて、サイドウィンドウを開けると、一人の若者(草なぎ剛)がバッテリーコードお持ちじゃないですか?と聞いて来る。

その後、バッテリーコードを繋いでみた若者だが、車が動かない事を知ると、バッテリーじゃないんだ。困ったなと隣の車の中で言っている。

どこまで行くんですか?と倉島が聞くと、大阪までと言うので、途中まで乗せて行きましょうかと言うと、助かりますと喜んだ若者は、後ろ開けてもらえますか?といきなり言い出す。

運んでいた荷物を積み替えると言う事らしかった。

走り出した倉島に礼を言う青年は、北海道の阿部商店の田宮裕司と名乗り、全国をイカめしの実演販売で廻っている途中なんですが、一緒に廻っている奴に不幸があって、北海道に帰しちゃったもので…と打ち明け、普段から人を見る目には自信があり、お客さんなら助けてくれると思ったからなどと無邪気そうな笑顔で言う。

大阪のデパートの実演販売の場所まで荷物を運んでやった倉島が、実演販売ってこんなに大変だとは思わなかった。何か手伝う事があったら…と社交辞令的に言うと、じゃあお願いしますと言う事になり、いきなりイカを洗わされるはめになる。

販売目標なんてあるんですか?と聞くと、1日2000は売れると田宮は言う。

僕は全国廻っているけど、デパートとかばかりで観光地なんか行ったことないんですよ。失礼ですがご家族は?と田宮が聞いて来たので、1ですと倉島が答えると、僕には女房と小学1年の子供がいますと田宮は自己紹介する。

そこに、南原慎一(佐藤浩市)と言う手伝いの男が田宮を主任と呼びながらやって来たので、田宮は倉島を紹介し、3人でやれば早く終わるよと言うので、結局、倉島は最後まで手伝わされる事になる。

その日の仕事が終わり、3人は飲み屋に寄り、ビールで乾杯する。

仕事の事を聞かれた倉島は、公務員とだけ答える。

田宮は10年今の仕事で働いており、南原は4年だと答える。

どこまで行かれるのですか?と聞かれたので、平戸の薄香まで行こうと思ってますと倉島が答えると、田宮の携帯が鳴り出し、田宮は席を外す。

南原が、どうして主任を乗せたんです?と聞いて来たので、あの強引さに負けました。あなたが来なかったら2000杯のイカを洗わされる所だったと倉島は苦笑する。

そこに戻って来た田宮は明日もちょっと手伝ってくれませんか?お客さんの喜ぶ姿が観たくありませんか?などと言い出し、その日の謝礼を渡そうとしたので、倉島は固辞する。

田宮は礼を言い、明後日は門司にいますから、良かったら寄って下さいと倉島に告げる。

田宮たちと別れ、大阪の商店街をぶらついてみる事にした倉島は、一軒の店でショーウィンドーに飾ってあった道具に目を留め立ち止まる。

欲しいんでしょう?と洋子の声が聞こえる。

欲しいけどちょっと高いんだと倉島が答えると、これからも退職技官として働けるんだから…と洋子は買うように勧めるが、でも、俺にはもったいないと倉島は遠慮するが、気がつくと、洋子の姿はどこにもなかった。

(回想)阪神がセントラルリーグで優勝を決めた日、倉島と洋子は、テレビ中継を前に大騒ぎしている客たちのいる店で、お好み焼きを食べていた。

洋子は、あなたはいつもありがとうと言うのが口癖ね。私が望まなかったから子供も持たなかった…などと、自分の事を想ってくれ、いつも謙虚な姿勢を崩さない倉島に感謝していた。

その時、阪神が優勝したのか、歓声を上げた客の一人(岡村隆史)が、洋子にビールのコップを差し出し、みんなと一緒に万歳をする。

倉島は、「天空の城」と呼ばれている竹田城跡を登っていた。

その頂上では「天空の音楽祭」と言う催しが行われており、そこで洋子が歌っていた。

聴衆の中に混じり、その歌を聴いていた倉島に気づいた洋子は、歌い終わった後近づき、せっかく来て頂いたのに巧く歌えませんでした。今日で歌う事は止めます。歌う事に嘘をついてしまいましたからと言い出す。

大切なものって、なくしてしまってからその価値に気づくものなんです。あの中では流れている時間が止まっています。忘れて良いんじゃないでしょうか。あなたの時間も止まってしまいますと倉島が話しかけると、忘れる為にあの人の事を聞いてくれませんか?と洋子は頼む。

(現在)工場地帯を通り過ぎた倉島は、ワゴン車の後ろで、料理を作っていた。

(回想)入院していた洋子に、倉島が茶を入れてやると、ちゃんと食べて下さいね。簡単なレシピを書いておきましたからとメモを渡し、塚本さんに迷惑ばかりかけられちゃいられないからと言う。

(現在)倉島は、そのレシピを観ながら慣れない手つきで料理を作るのだった。

(回想)転勤の引っ越しの日、近所の子供を見かけた洋子は、子供ってあっという間に大きくなるわねと、部屋の掃除をしながら倉島に話しかけて来る。誰かと再会するのって悪い事じゃないわと倉敷に気を使わせないように言う。

倉島が、指導技官の免許を取ろうと想うんだと言い出すと、刑務官を辞めるの?と洋子は驚いたので、木工部の連中と一緒に働きたいんだと倉島は答える。

その木工部の連中と、富山神輿を完成させた倉島は、担いでみて良いでしょうか?と刑務官に尋ねる。

かけ声はいかんぞと言われたので、取りあえず無言で、木工部の連中は自分たちが作った神輿を担いでみる事にする。

その神輿が実際の祭りで練り歩く日、倉島は洋子と連れ立って、見物に来ていた。

デジカメで神輿を映していた倉島だったが、その合間に、こっそり洋子の写真も収めていたので、それを知った洋子は恥ずかしがる。

(現在)下関に到着した倉島は、保険会社から保険金に関する書類に一部不備があるので、もう一度押印して欲しいと言う保険会社からの電話を携帯で受けていたが、感心なさそうに、今旅行中ですからとだけ言って携帯を切ってしまう。

そこに、聞こ覚えのある暴走族風のクラクションが聞こえ、観ると、杉野輝夫のキャンピングカーが停まっていた。

関門橋を見下ろす展望台で並んだ2人は、いつの間にか亡くした妻の話になっており、悪性のリンパ腫で、治療が間に合いませんでしたと倉島が打ち明けると、それでは奥様もあなたも辛かったでしょうと同情した杉野は、うちのは脳溢血であっけないものでした。俺が日頃からうるさかったので、あっちは清々したかもなどと言い、旅と放浪の違いには、帰る場所があるかどうかだと前に話してましたがと倉島が振ると、そんな事言いましたっけ?ととぼけた杉野は、1人になったんです。帰る場所なんて探せば良いじゃないですかと続ける。

そして、倉島の車の中にあった「草木塔」を見つけると、これ、読んで頂けました?と聞いて来るが、そこに1台のパトカーが近づいて来て、このキャンピングカーはあなたのですか?福岡県警から車上荒らしとして手配が来ているんですと問いかけながら、警官が倉島に近づいて来る。

杉野は観念したように、俺のですと答え、警官に連行され、倉島を振り返りながら、放浪するうちに迷っちゃったんですよと呟く。

参考人として、あなたもご同行くださいと言われた倉島は、下関警察署について行く事になる。

富山刑務所に身元を確認しました。とんでもない男と知り合われましたねと、1人の係官(浅野忠信)が椅子に腰掛けていた倉島に声をかけて来る。

中学の教師をやっていると言っていましたが?と倉島が確認すると、そんな作り話までしていましたかと係官は呆れるが、この本はあなたのだと言っていますから持って行って下さいと「草木塔」を手渡す。

警察署を出た倉島は、塚本に携帯を入れ、心配をかけた事を詫び、別に被害はないし、かえって世話になったんだと説明する。

塚本は、神輿の注文が入ったので、倉さん、くれぐれも無理はしないでと言い、電話を終える。

近くにいた妻の久美子は、実は今まで黙っていたけど、洋子さんから頼まれて、NPOの人に自分が手紙を渡したのだと塚本に打ち明ける。

それを聞いた塚本は、俺は嫌だからな、散骨なんて…。墓がないなんて寂しいじゃないかと呟く。

散骨、無事にすめば良いけどねと久美子も案ずる。

関門橋を渡って門司に到着していた倉島に、田宮から携帯がかかり、何だか声が疲れてますねと心配したような田宮は、今夜はホテルに泊まりませんか?うちが契約しているホテルがあるんです。今夜また一杯やりませんか?と聞いて来る。

田宮と南郷に再会した倉島は、飲み屋で注文したイカさしを受け取った南原は、やっぱりイカはイカ刺しですよねと笑う。

ある程度飲んで、そろそろお開きにしませんか?倉島さんも疲れておられるようだし…と田宮に声をかけた南原だったが、田宮はそれに耳を貸さず、明日も付き合って下さい。帰っても寂しいだけなんです。どうしてビジネスホテルってどこも同じような作りで、朝起きた時、ここはどこなんだろうって?と想ってしまいたまらなく寂しくなるんですと絡んで来る。

そう言うものを引き受ける覚悟がないんだったら、こんな暮らしは辞めた方が良いと南原が口を挟むと、辞めるに辞められないんです。女房に男がいるんですといきなり田宮は言い出す。

だけどはっきりさせるのが怖いんです。だから続けるしかないんです。話聞いてくれませんか?と倉島に頼んで来る。

倉島は、実は自分は女房を亡くしたんです。その遺骨を故郷の海に散骨したい。明日が女房からのハガキを受け取る日なんです。だから、今日は付き合いますよと答える。

その後、台風25号が急に接近しているとニュースを流しているホテルの部屋のベッドで横になっていた倉島は、又もや、クリスマスの日、洋子と2人で自宅にタクシーで帰って来た楽しい夜の事を思い出していた。

(回想)洋子は、部屋の窓から見えるクリスマスツリーのイルミネーションを指差しながら、あなたが灯っていると言いながら、自分と倉島の胸をそっと叩いてみせる。

(現在)ノックの音で目覚めた倉島がドアを開けると、そこには南原が立っており、あの子供みたいな開けっぴろげなところがうらやましかったりもするんですがねと弁護しながらも、先ほどの田宮の詫びを言う。

向こうに着いたら船の当てでもありますか?と南原が聞いていたので、向うで探そうかと想っていますと倉島が答えると、もし船が見つからなかったらこの人に連絡してみて下さい。昔釣りに行った時、世話になった人ですと言い、一枚のメモ書きを手渡して帰って行く。

そこには、大浦吾郎と言う名前と住所が書いてあった。

翌日、平戸大橋を渡り、目的地である浮香に到着した倉島は、郵便局に寄り、洋子の手紙を受け取るが、中に入っていたのは又しても絵はがきだった。

白く小さな灯台の前で途方に暮れる倉島だったが海は台風接近為荒れて来ていた。

それでも倉島は、散骨したいので船を紹介してもらえないかと漁業組合に掛け合ってみるが、金の問題ではなく、そう言う事に手を貸すと、後々問題になるから、組合としては難しい…と言って断られる。

そんな中、倉島は足下に転がって来た傘を拾ってやり、持ち主の若い女性濱崎奈緒子(綾瀬はるか)に返してやる。

別の猟師たちにも頼んでみた倉島だったが、誰も受けてくれるものはいなかった。

奈緒子は、母親のやっている食堂のテレビで、自分の父親が海で遭難した時のような強い台風が来ていると知る。

そんな食堂に倉島が入って来たので、奈緒子はお勧めは煮魚定食ですと勧め、倉島がそれを注文すると、実は作り過ぎてあまちゃったんです。でも美味しいですよと明るく話しかけて来る。

そこに、アイスボックスに詰めた魚を持った若者大浦卓也(三浦貴大)が入って来て、表の車はお客さんのですか?と倉島に声をかけて来る。

何かご迷惑でも?と倉島が聞くと、否、ここらで富山ナンバーなんて珍しいのでとと言う若者は、散骨の為に船を探しているんだが、大浦吾郎さんと言う人を知らないか?と倉島が聞くと、家のじいちゃんだけど…誰に聞いたんですかと若者は言う。

倉島が、南郷と言う人で釣りで世話になったと言っていたと答えると、船の事は船頭のじいちゃんに聞かんと…と卓也はためらう。

それを聞いていた奈緒子は、何とかしてやって。薄香の猟師は薄情だって言われるけんと卓也に迫る。

食後、港のに倉島を案内して来た卓也は、来月あいつと結婚するのだが、今喧嘩しているのだと言う。

卓也の自宅にいた、大浦吾郎(大滝秀治)と言う老人は、申し訳なかばってん、他所を当たってくれとけんもほろろの返事だった。

南原と言う名前を聞いても、知らないと言うだけ。

薄香の猟師は薄情と言われると卓也は説得しようとするが、薄情かどうか、この人が知っとるたいと言われた倉島は、失礼しましたと頭を下げ、辞去する事にする。

ワゴン車に戻った倉島は、骨壺を開け、骨をつまんで手のひらに乗せ、途方に暮れていた。

風雨が強まって来た夕暮れ時、暖簾をしまおうとして店の外に出て来た奈緒子は、闇の中に停まっている倉島の車の灯りに気づく。

倉島は、窓ガラスを叩く奈緒子に気づきウインドーを開けると、お母さんがうちに泊まりませんかってと言うので、断ろうとすると、こんな日は人の言う事受けんと!台風が直撃するんですよと奈緒子は説得する。

その言葉に甘え、店にやって来た倉島は、二階に寝床が用意してあると言う母親多恵子(余貴美子)に向かい、自分はここで結構ですと頭を下げ、店の隅のソファを借りる事にする。

夜中、眠れないので付き合って下さいと肴と一升瓶を持って来た多恵子は、奥さんおいくつだったんですか?と聞いて来る。

53です。13で、この島を出たと言ってましたと倉島が答えると、自分の夫は2つ下だったから、知っとたかもしれんね。7年前、猟に出かけて帰らなかった。海難事故は、死体が見つからなくても、3ヶ月で死亡認定がされる。大浦吾郎さんを紹介した人はどんな人でした?と多恵子が言うので、旅の途中で知り合っただけですと倉島は答える。

大浦さんには、自分にはまだ迷いがある事を見透かされていたようです。女房が死んでからハガキをもらいました。どうして生きているとき読まなかったんだろう?そればっかり考えてましたと倉島が吐露すると、夫婦やからって、全部相手の事が分かりはしません。これを頼りにここまで来ただけで十分じゃないですかと答えた多恵子は、窓の外を観ながら、風邪が少し弱くなって来たみたい。奥さん、海に帰してあげられるでしょうと言う。

翌朝、台風は通り過ぎ、倉島は岩場で、晴れ渡った海を眺めていた。

町をぶらついてみた倉島は、いくつも額縁が飾られている一軒の家の窓を見つけ、立ち止まって室内を見回していたが、その中に古い少女の写真を見つけ、その少女が妻洋子だと直感すると、思わず帽子を取ると、ありがとうとつぶやき、窓ガラスをこつんと叩いてみせる。

白い小さな灯台の所に戻って来た倉島は、二枚の洋子からの絵はがきを風に飛ばす。

絵はがきは、描いてあった雀のように遠くへ飛んで消えて行く。

再び大浦吾郎の家を訪れた倉島は、昨日は失礼しましたと詫び、改めて、妻の散骨のために船を出して頂けませんかと頼む。

吾郎は、明日になれば海も鎮まるだろうと答える。

その後、港の船にいた卓也は倉島に、奈緒子に船を出すと言ったら喜んだ。俺、奈緒子の事を幸せにしてやりたかとですよ。7年前、あいつが高校3年の時、父が海で遭難し、毎日、あいつは港で捜索の船を待っていた。その時の顔を覚えているんです。それでもこの海を好きだと言ってくれます。猟師の俺と結婚してくれますと感極まったように告げる。

優しい人と一緒になるんだねと倉島は語りかける。

奈緒子は、大にぎわいの店で急がしそうに働いていたが、母多恵子は、何事かを考えているようだった。

夕方、ワゴン車にいた倉島の元に、岡持を下げやって来た多恵子は、夕ご飯まだでしょう?と言いながら、持って来た食事を差し入れすると、船、良かったですね。明日はもっと静かな海になるでしょうと言い、家の人もこの海で漁師だけやっていれば良かったんです。妙な儲け話に乗って焦ったのが良くなかった。遭難した後、保険金を元に今の店を持ったのですが、あの人が残してくれたのはあの店だけです…と悲し気に打ち明ける。

そして、お願いがあると言い出した多恵子は一枚の写真を倉島に託す。

それはウエディングドレス姿の奈緒子と卓也が写った結婚写真だった。

明日海に流してもらえませんか?あの人に届くかもしれませんと言うので、倉島は分かりましたと言って写真を受け取ると、刑務所で働いていた頃の自分を思い出す。

翌朝、奈緒子が、私と母さんからと言って手渡す花束を受け取った倉島は、卓也が操縦し、船尾に吾郎が座った船で出発する。

ある地点まで到達すると、吾郎がここで良か、ここなら誰の迷惑にもならんし、ここはこいつの親爺も眠っとる。この前は意地の悪い事を言ってすまんかったと倉島に詫びて来たので、いいえと答えた倉島は、骨壺を開けると、中の骨を手に取り、海の中に流し込む。

帽子を取って一緒に手を合わせていた吾郎は、今日の海は優しいね。こんな海に帰れた奥さんも喜んどるだろうと言い、棚束を海に投ずる倉島に話しかける。

港に戻って来た大浦に感謝した倉島に、おい、油代だけもらっておけと卓也に告げた吾郎は、久しぶりにきれいな海ば観たと言い残し、さっさと立ち去って行く。

その後、倉島に声をかけようとした卓也に、気の利かん人やねと止めたのは奈緒子だった。

海を見つめる倉島は、風鈴を吹いていた頃の洋子を又思い出していた。

(回想)季節外れの風鈴の音くらい悲しいものはない…と言う洋子

(現在)封書を作った倉島は薄香を出発する。

食堂の前に無言で立つ多恵子。

郵便ポストに手紙を投函する倉島。

門司で行われていた祭りで、実演販売を田宮と共にやっていた南原は、携帯を受け、そのままテントを出ると、関門橋の見せる広場で待ち受けていた倉島に再会する。

大浦吾郎さんの船で無事散骨を終えたと報告した倉島は、実は、女房からの最後の絵はがきには「さようなら」としか書いてありませんでした。

だから、とても迷いました。そしたら、あの町の食堂の女性から、迷って当たり前じゃないんですかと言われました。その言葉を聞いて、妻の遺言の意味が分かったような気がします。

あなたにはあなたの時間がある…、そう言いたかったんだと思います。

その女性がこの写真を海に流してくれませんかと言って…、そしたら、届くかもしれないって…と言いながら、多恵子から預かった奈緒子と卓也の結婚写真を南原に見せる。

それをじっと観ていた南原は、小さな港だったでしょう?あそこで育って、奈緒子は生まれました。小さな港から漁に出る…、それだけで良かったのに…。壊れた船で漂流していた時、ふと考えたんです。このまま遭難した事にすればどうだろうって…。私は南原になってもう7年になります。でもあいつは、あの港で暮らしている…と告白する。

実は自分は刑務所の刑務官だったんです。

刑務所で受刑者が、人を使って情報を外に漏らす事を鳩を飛ばすと言います。今日は自分が鳩になりました…、そう告げた倉島は、南原に別れを告げ、少し離れた所にあるテントの中で黙々と実演販売を続けている田宮の姿を黙って眺め、そのまま港の方に歩んで行くのだった。