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悪の報酬('56)

伊藤雄之助主演の珍しい通俗サスペンスもの。

まだ若かった三國連太郎が、髪などに老けメイクをして中年の黒幕らしき人物を演じていたり、東宝特撮映画などでお馴染みの田島義文が出ていたり、歌手のディック・ミネが悪役として登場していたりと、今観ると珍しい映像が登場する。

ディック・ミネは、声も良いし、黙っていると悪役風の風格もあり、なかなかの存在感がある人だと思う。

伊藤雄之助の妻を演じているのは、キネ旬データベースでは「坪内美詠子」と書かれているが、どう観ても、若かりし頃の山岡久乃としか思えない。

娘役の仁木てるみは、当時3、4歳くらいか?

チンピラのケン役を演じている若い高品格も見物である。

この作品ではかなり重要な役柄であり、後半、スタントなしの背面からの階段落ちも披露している。

タイトルバックに使われている刑務所の外壁が延々と続くマット画合成や、芝浦の倉庫街でタクシーがひっくり返ったり、ラストのガソリンスタンドの爆破シーンなどは日活特殊技術課の仕事。

タクシーがひっくり返るシーンはミニチュアながらなかなか巧い。

上原謙主演の「悪魔の囁き」(1955)にちょっと雰囲気が近い部分があり、無線が小道具として使われていたり、表面上は篤志家風の紳士が、裏では悪の黒幕であったりする趣向は同じである。

伊藤雄之助がケンとの対決シーン以外では終始、優しいおじさん風で、最後まで憎めないキャラクターになっている所が印象的。

この種の黒幕ものでは、正体がばれると急に極悪人の素顔を見せると言う「ジギルとハイド」パターンが多いだけに、終始温厚と言うのは珍しいように思うし、その分、悲劇性が残る。

娯楽映画としての出来はまずまずと言った所だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、日活、星雅二原作、陶山鉄+舛田利雄脚色、野口博志監督作品。

地面に落ちる刑務所の入口の檻の影をバックにタイトル

ディック・ミネが歌う「錐の中の男」と刑務所の実刑を背景にキャストロール

関東刑務所の前に佇んでいたのは、刑期を終え、その日の午後、出所するはずの夫荻原良助(冬木京三)を待ち受けていた妻の房(山村くに子)だった。

そこに乗り付けた乗用車から降り立った2人の男は目配せし合い、1人の方(ディック・ミネ)が房に近づくと、荻原良助さんの奥さんですね?警視庁の剣持さんの命令で参りましたと挨拶をする。

常々夫が世話になっていた事を聞かされていた房は、2時になって、夫の荻原良助が出て来ると、警視庁の方が自動車を…と萩原に伝え、乗用車に乗って出発する。

その直後、同じく、関東刑務所の前に乗り付けた車から降りて来た剣持徹警部補(水島道太郎)は、入口に立っていた看守に、萩原は良助もうでましたか?と聞き、自分の名前を告げると、看守は首を傾げ、先ほども剣持さんを名乗る立派な車が迎えに来ていて、それに乗って夫婦とも行きましたと答える。

とある立派な豪邸の茶室に女中に連れられてやって来た和服の男(三國連太郎)は、その部屋に先に来ていたらしき人物に、俵藤が万事運びました。事態は急迫しています。先生も今回の成功を心から祈っておられますと伝える。

お堀端で引き上げられていたのは、関東刑務所で萩原夫婦を乗せて行った車であった。

現場を監視していた菅井警部(菅井一郎)と剣持警部補は、むしろをかぶせられていた房の死体を確認していた。

剣持警部補は心配していたのですが…と、助けられなかった事を悔やんでいた。

警視庁の剣持警部補の部屋に戻って来た菅井警部は、運転手の死体が見つからない事から、事故を装った殺人だと断定する。

剣持警部補は、今回の犯行は、萩原の偽札作りの技術を狙ったものに違いないと言い、それに同意した菅井警部は、上村刑事(田島義文)に偽札関係の前科者を洗い出すように、そして他の刑事たちには、盛り場のチンピラなどにも目配せをするように命じる。

剣持も新橋界隈の盛り場に向かい、地回りからラーメン屋で情報を聞き込もうとしていたが、そこに女連れで入って来た1人の若者が、剣持の顔を見るなり逃げ出してしまう。

地回りは、功は中古自動車のブローカーをやって儲けているらしいですぜと、今逃げ去った男の情報を教える。

その足で、「モービル石油」のガソリンスタンドにやって来た剣持は、事務室で働いていた顔なじみの磯部桂子(雨宮節子)に外から合図して、裏手にある栗橋重夫の家に回り込んでお邪魔する。

居間では、炬燵に入った幼い勇一(香川良久)と晴美(二木てるみ)がテレビの外国アニメに夢中になっていたが、時々来る剣持が姿を見せると喜んで抱きつく。

その時、テレビの映像が乱れたので、2人の子供たちはがっかりするが、直してとせがまれた剣持も、テレビは直せないんだと困りながらも、スマートボールで手に入れた景品を土産として2人に渡し、機嫌を取る。

そこに、栗橋重夫(伊藤雄之助)が、地下の貯蔵庫を観ていたもので…と詫びながら入って来る。

妻の文子(山岡久乃)は、茶でも入れますからと剣持に挨拶するが、栗橋は、それよりも一本つけてくれと文子に頼み、ここはテレビを買ってから子供たちに占領されているのでと弁解しながら、剣持を事務所の方に誘う。

事務所の桂子が仕事をしている横に腰を降ろした剣持は、赤坂の所長に聞いたら感心していたよ。孤児院に寄付しているんだって?と切り出す。

栗橋は照れながら、女房も僕も孤児だから…と言う。

功くん、どうしてる?新橋辺りの麻薬関係者と付き合っているらしいけど?お堀端の殺しも、この辺の土地勘がある奴らしいと剣持が持ちかけると、功が何か?と栗橋は表情を曇らせる。

功は、栗橋の妻文子の弟なのだった。

否、そう言うわけじゃないが…と剣持は言葉を濁したが、奥に行って文子に会った桂子は、功さんのことを剣持さんが聞いていると伝える。

栗橋が、何をしているんだ?もう剣持さん帰ってしまったぞと言いに来ると、文子が心配そうな顔をしていたので、桂子がしゃべったんだなと苦笑する。

その直後、事務所にその功(牧真介)が転がり込んで来て、仲間に追われていると言うので、奥の自宅に向かわせた栗橋は、後から追って来たケン(高品格)ら3人のチンピラから、イサムをどこに匿った?あいつ、薬のいちゃもんから相手を刺しちまったんだと言うので、取りあえず、5万をチンピラたちに渡した栗橋は、治療代は自分で病院に持って行くと伝え、その場は引き取らせる。

奥の自宅に逃げ込んでいた功は、あの兄貴、気に食わないんだなどと栗橋の悪口を口走っていたので、聞いていた文子は出て行って!と叱りつける。

すぐに飛び出して行った功だが、文子は桂子に財布を手渡すと、渡して来てと頼む。

そんな妻たちの様子をうかがっていた栗橋は、功君は?と何も知らなかったように文子に問いかけながら近づくと、組合の会合があるし、イサム君の事もあれこれ手を回しておかないと…と伝え、恐縮する妻を残して出かけて行く。

有楽町駅前で集まったケンと功らチンピラ連中は、たった今、栗橋からせしめて来た5万を分け合っていた。

そのケンを呼び寄せたテツは、この狂言を考えたのは俺だ。寄越しなと手を出し、ケンが持っていた5万の内から、功に渡した残りを全部巻き上げてしまう。

そんなテツやケンに、何をしてるんだ!太田先生がみえるんだと声をかけて来たのは、キャバレー「黄金馬車」の支配人俵藤勇(ディック・ミネ)だった。

実は、関東刑務所から萩原夫婦を車に乗せて立ち去った2人とは、俵藤とテツの2人だったのだ。

功は、俵藤支配人に、俺にも太田先生を紹介して下さいよと頼み、いつからお前そんな身分になったんだと逆に叱られてしまう。

そうした連中の様子を、間近の飲み屋から密かに監視していたのは剣持警部補だった。

「黄金馬車」の地下室に幽閉され偽札を作らされていていた荻原良助は、このところ夢見が悪い。女房に何かあったんじゃないかと心配だ。太田さんに会わせてくれと、ドアの窓越しにに哀願していたが、全く相手にされなかった。

俵藤は、マダム典子(日高澄子)の側に来ると、太田先生のご機嫌を直して下さいよ。萩原の女房の件以来、ご機嫌斜めなんだ。太田先生の背後には南郷先生と言う人がいますからねと頼む。

「黄金馬車」のフロアでは女性ダンサーが踊り、剣持警部補は客に成り済ませてビールを飲んでいた。

ステージでは女性歌手が歌っていた。

トイレに立つ振りをして楽屋の奥に入り込もうとした剣持だったが、一人のチンピラが近づいて来たので。慌ててトイレに身を隠すと、もうすぐ太田先生がお帰りになると言う声が聞こえて来る。

トイレの洗面所でそのまま様子をうかがっていた剣持は、奥から酒瓶や飲んだグラスを乗せたトレイを片手に戻って来たウエイターの手を掴むと、それは前から知っていた老人()だった。

今では真面目に働いていると言うその老人のトレイの上に乗っていたグラスをハンカチに包み、こっそり持ち去る剣持警部補。

地下室にやって来た俵藤支配人は、偽札作りをボイコットしている萩原が、女房に会わせてくれと泣きついて来たのを殴り倒し、精出せばいつでも会えるんだ!と怒鳴りつけて部屋を出て行く。

床に倒れた萩原はさめざめと泣き始める。

G・ハーゲン(I・ビュック)なる外国人から、薬は積み出すばかりになっていますと伝えられていたマダム典子は、近づいて来た俵藤支配人に、早く萩原に仕事をさせるよう命じる。

ある日、磯部桂子は功とこっそり外で落ち合っていた。

桂子は、孤児院出身だった自分を養女にしてくれた栗橋のことを悪く言う功を注意する。

功も、自分と姉の2人は、3月10日の爆撃で焼け出された所を、海軍から戻って来た栗橋に拾われたんだと打ち明けながらも、ある日、その栗橋が、狂った世の中に踏みつぶされないように金儲けして来ると言い残して急に姿を消し、1年経って戻って来た時には紳士になっていたが、それ以来、何故かあの人の事は好きにはなれないんだと言う。

桂子は、私との約束守っている?と問いかけ、絶対薬を使わない事と言う2人だけの約束を思い出させるのだった。

栗橋家では、また訪問していた剣持と栗原が将棋をやっていた。

そこにやって来たガソリンスタンドの従業員が、客が来ていると栗橋を呼びに来たので、店の方へ行ってみると、そこにいたのは、いつかのチンピラ、ケンたちだった。

少し出してもらいたいとまた金の催促だったが、功が怪我をさせたと言うのは噓だったらしいね?と栗橋が言うと、お堀端の殺しに関係あるんだよとケンは言い出す。

それを聞いた栗橋は動揺を見せながらも、今手元に金がないので、2、3日中に又来てくれと言い追い返す。

心臓病の手術を終え退院したと言うアイゼンハワー大統領のニュースを流していた栗橋家のテレビ映像が、また突然乱れ始めるが、妻の文子は明日の子供たちを連れた小旅行を前に巻き寿司を作っていたし、子供2人は、明日が晴れるようにてるてる坊主を作っていた。

そこに戻って来た栗橋は、2人の子供を抱きかかえて庭の木にてるてる坊主を下げさせるのだった。

翌日、家族は、船に乗って東京湾観光に来ていた。

栗橋は子供に聞かれ、優しく浚渫船の説明などしてやっていたが、何事か悩んでいるようだった。

ケンを呼び出した俵藤支配人は、お前、ちょろちょろするな!カツやバイやる柄か?太田先生からご注意が来ていると叱りつけ、ケンが出て行くと、テツにケンを捕まえておくように命じる。

その日「黄金馬車」に来て、萩原と機械も始末するようマダムに命じた太田に、プライベートな話があるとマダムは言い、酒を勧める。

警視庁の剣持警部補の部屋に着た菅井警部は、先日剣持が持ち込んだグラスに付いた指紋には前科がなかったと報告する。

剣持警部補が「黄金馬車」で聞いた「太田」と言う人物が、顔のない男のようだった。

そこに刑事が入って来て、隅田川の浚渫船が男の死体を引き上げたとの報告をしたので、剣持と菅井はすぐに現場に向かう。

浚渫船が引き上げたのは、印刷機械に縛り付けられていた萩原の死体だった。

須山刑事(雪岡純)とうどんを食いながら、太田が高飛びをする危険性がある事を話し合った剣持警部補は、引き続き「黄金馬車」を張ってみる事にする。

その後、「黄金馬車」の近くをうろついていた剣持は、近くのスマートボールやで働いている老人を見かけ呼び寄せる。

先日「黄金馬車」でトレイを運んでいたウエイターをやっていたので、店を辞めたのか?と聞くと、ここも同じ系列の店なのだと言う。

太田と言う奴を知っているか?と聞いてみた所、最初は警戒して口を開かなかったが、やがて、海軍の通信士だったらしい。以前、ラジオが壊れた時、太田さんが直してくれのだが、その時、テツジさんがそう話していたと言う。

その後、太田から「今夜9時、竹島桟橋、ケンも新栄丸に乗せろ」と言う指示が届く。

剣持が栗橋邸を訪れると、子供たち2人が、会津に別荘を買ったのだと教えてくれる。

そこに、先日の小旅行のときの記念写真を持って栗橋がやって来たので、剣持は、君は海軍の通信下士官だったね?と確認し、太田と言う通信技師を知らんかねと聞く。

しかし、栗橋は、知らない。海軍と言っても数が多いですからと恐縮する。

そこに桂子が電話ですと栗橋を呼びに来たので、剣持は辞去する事にする。

「黄金馬車」の近くでゴミ箱をあさっていた須山刑事は、剣持警部補と密かに接触し、ドルブローカーの動きに注意してくれと言う指示を受ける。

マダム典子は、荷物の運び出しの準備をしていたテツたちの所に来て、太田からの連絡で、警察が動いているらしいので計画変更だと伝える。

剣持は、「黄金馬車」からビールの空き瓶を運ぶトラックが出発するので、パトカーで調べて欲しいと、近くの喫茶店から本部に電話を入れていた。

トラックのバックナンバー「4-60741」と知らせ、新橋方面に出発したと連絡する。

その直後、「黄金馬車」の裏口から、後ろ手に縛られたケンと小包くらいの箱を持ってテツと功が出て来ると、車に乗り込んで走り出したので、それに気づいた剣持は、通りかかったタクシーを止め、それを追跡始める。

トラックはやがて、数台のパトカーに制止されるが、助手席に乗っていたマダムは、あらかじめ予想していたのか微笑んでいた。

警官がどこに行くのか?と聞くと、マダムは新宿の問屋に空き瓶を届ける所だと微笑みながら答える。

テツやケンを乗せた車は港に向かっていたが、その途中、ケンは、まさか俺、お陀仏にされるんじゃねえだろうな?と怯え出す。

芝浦の倉庫街へやって来たテツらの車が角を曲がると、そこには、俵藤支配人が乗った車が待ち受けていた。

俵藤はライトをつけ、車を急発進させると、テツらの車を追跡して来て、今正に角を曲がったタクシーの正面に姿を現したので、タクシーの運転手は驚いてハンドルを切り損ね、路肩の材木にぶつかり横転してしまう。

停まった俵藤は、横転したタクシーから血まみれではい出そうとし、力尽きた剣持警部補の姿を確認してにやりと笑う。

テツたちの車から降りて来たケンは、後ろ手に縛られたまま、隙をついて逃げ出してしまう。

俵藤はその場にいた功に拳銃を渡し、やれ!と命じる。

功はケンを追って行くしかなかった。

その後、待ち合わせの場所にやって来た俵藤は、そこで待ち受けていた男に、持って来た小荷物を渡して去る。

警視庁にいた菅井警部は、芝浦倉庫で車が横転、運転手は即死し、後ろに乗っていた剣持捜査課長らしき人物が負傷し病院に収容されたと言う緊急通報を聞く。

その直後、病院の剣持の妻から電話を受けた文子は、剣持が事故にあったと栗橋に知らせ、栗橋はすぐに病院に向かう事にする。

病院に見舞いに来た栗橋に、菅井警部は、剣持警部補は手の骨を折っただけですんだと教え、今回のは事故に見せかけた巧妙な犯罪ですと説明する。

さらに、剣持君は今、事件の核心にかなり迫っており、太田なる人物の指紋も入手しているのですと言いながら、その指紋の拡大写真を栗橋に見せる。

その頃、栗橋的に来ていた功は、あんな奴、影で何をしているか分かったものじゃないと栗橋の悪口を言っていた。

それを聞いた文子は、思わずビンタし、功は又出て行くが、文子は何事かを考え込んでいた。

そこに栗橋が戻って来て、剣持さんは大丈夫だったと報告するが、それを出迎えた文子は、私、ちょっとうかがいたい事があるの。この頃のあなたに暗い影がある事くらい妻の私には分かります。近頃のあなたは普通ではありません。先日、地下の貯蔵庫で真空管を見つけました。何をやってらっしゃるの?と問いかけるが、栗橋は、何を言い出すんだ。僕がお前や子供たちのためにどんなに苦しんで来たか…と困惑する。

もし、不正なお金なら…と文子が追及を止めないので、よさないか!と制した栗橋は家を飛び出してしまう。

1人残された文子は泣き出してしまう。

栗橋は夜の道をさまよっていた。

その後、前にも来た南郷篤志(三國連太郎)の茶室にやって来た栗橋は、事態は緊迫しています。私の家内が気がついたらしいのですと報告するが、南郷は、私の荷物を迅速に運び出してもらいたい。追求はあなたの線で食いとめ、他に累を及ぼさないようにしてくれ。細君にそこまで気づかれたのなら消すのです。あなたができないのなら、私の方から手を差し向ける。とにかく明日までに荷物を運び出せと一方的に命じるだけだった。

「本日休業」の札を下げていたガソリンスタンドに戻って来た栗橋を待っていたのはケンだった。

約束通り来たので30万寄越せと言う。

栗橋は、30万もの大金を店には置いていないので置いてある所まで付いて来いとケンを誘い、所長室から地下の貯蔵庫に案内する。

ガソリン缶を収蔵していた貯蔵庫に降りて来たケンは、栗橋からタバコを勧められ、つい1本もらってライターを付けようとした栗橋の背後の壁に「火気厳禁」と書かれた札を見つけ、慌てて吸うのを止める。

まだお陀仏になりたくないのか?と薄ら笑いを浮かべる栗橋に殴り掛かったケンは、逆に殴り返されたのでナイフを取り出す。

そのナイフで栗橋を刺そうとするが、ナイフはガソリン缶に穴を開けただけで、栗橋は難なくケンを殴り飛ばす。

敵わないと察したケンは勘弁してくれと謝るが、薄のろのくせに良く俵藤の所から逃げて来たなと栗橋が言うので、何故それを知ってるんだ?お前は誰だ?と急にケンは怯え出す。

栗橋はケンに迫りながら、強請るなら相手を観ろ!俺が太田だ!と栗橋は正体を打ち明ける。

栗橋は、「消火栓」と書かれたボックスを開くと、中から出て来た小型机でメモ書きを始めるが、その時、鍵束を机の端においていたので、ケンはその鍵束を取り、地下室から逃げ出そうとする。

栗橋は、階段を上りかけたケンの背後から銃を撃ち、転がり落ちて来た所にとどめを数発撃ち込むと、死体を階段横に引きずって行って隠し、ケンが床に落としていたジャックナイフを拾い上げると、今夜9時 新栄丸で…と無線を撃ち始める。

所長室に戻って来た栗橋はそこに功が立っていることに気づく。

功は、ケンがここに来ただろう?と聞くので、ああ、あの薄のろ大将か…と答えた栗橋は、奴を生かしちゃおけないんだと息巻く功を殴りつけ、隠し持っていた拳銃を取り上げてしまう。

お堀端の事件は誰がやったんだ?と栗橋が問いつめると、功は、知らない。自分は中古車を買っただけだと答える。

そんな功に、功君、僕は決して良い兄さんではなかったかもしれない。でも君たちを想っていた気持ちは確かだ。貧乏の頃は楽しく暮らせたのに、金を持ってから、君が子供らしい反発を感じたのも分かる。もうどこにも行かないでくれと栗橋が説得すると、感極まった功は、兄さん!と叫んで立ち去って行く。

栗橋は、その場に来た桂子に、すまないが、連れ戻して来てくれと頼み、桂子は後を追って、外で泣いていた功に、帰ってと声をかける。

功は、分かっているよ、もうどこにも行かないよ。どうして兄さんを嫌ったんだろう?とつぶやき、功さんがわがままだからよと言い聞かそうとした桂子に、今日は久々に昔の兄貴に会ったような気がしたと答えた功は桂子と一緒に歩き出す。

栗橋家では、会津の別荘に一家が引っ越す事になり、文子らはその準備をしていたが、栗橋はアルバムの家族写真を嬉しそうに眺めながら、その一枚をそっと剥いで、上着の中に隠すと、功も連れて行ってやれ。田舎でしばらく暮らせば、薬も忘れるだろうと文子に声をかける。

栗橋は、ガソリンスタンドを処分したら後から会津で合流すると言う事になっていた。

入院中の剣持警部補の元にやって来た刑事は、海軍から戦時中の乗務員名簿を手に入れたが、それを調べてみると、太田と言う通信技師は沖縄戦で死んでいる。その隣に、栗橋の名前が載っていると報告する。

その時、鑑識の中村さんが菅井警部を呼んでいると声がかかったので、病室にいた菅井警部は外に出て行く。

すでに起き上がっていた剣持警部補は、通信に詳しい上村刑事に、テレビのアンテナに無線のアンテナを仕込む事は出来るか?無線を使うとテレビの受像機の映像は乱れないか?と尋ね、上村刑事は、アンテナを仕込む事は可能だし、テレビの映像は乱れるでしょうねと答える。

廊下で鑑識の中村から、この指紋写真を誰に見せましたか?と聞かれ、太田の指紋の拡大写真と、その写真の片隅に付着していた指紋の拡大写真を2枚示された菅井警部は、その2枚の指紋が全く同じだと言う事に気づく。

太田は、この指紋写真を見せられたごく身近なものだと言う事だった。

夜、とある場所にやって来た南郷篤志は、絶対ここに来てはいけないと命令しただろうと側に立っていた栗原に語りかける。

栗原は、自分はあんたに血も涙もない男に仕立てられた。今こそそれを証明してみせましょうと言い、タバコの火を貸してくれと言いながら接近して来た南郷に、コートから取り出した拳銃を押し付けるといきなり発砲する。

撃たれた南郷は驚いたように、俺を殺しても、俺の背後には君の知らない大きな組織があるんだぞ。君はバカだよと脅かすが、栗原は無言のまま、さらに発砲する。

青森駅行きの列車に乗り込んでいた文子、桂子、勇一、晴美らは栗橋が来るのを待ち構えていた。

そこに、弁当を下げた栗原が到着し、その弁当を子供らに渡すと、食べ過ぎちゃいけないから、向こうに付いてから開けるんだよと約束させる。

実はその弁当箱の中には、栗原がアルバムからはぎ取っていた思い出の家族写真が一枚挟み込まれていたのだった。

栗原がホームで家族を送り出す様子を観ていたのはこっそり来ていたマダム典子だった。

マダムは、遠ざかって行く列車を見送っていた栗原の肩を叩くと、良いパパさんね。私、うらやましくて涙が出ちゃった。私も一度で良いから大手を振ってあなたとあんな話がしたいわと語りながら駅を後にする。

こうして2人並んで歩いていると何に見えるかしら?とマダムが呟くと、栗原は、ギャングには見えないだろうと無表情に答える。

さっきのホームで観た顔と、今の顔、どっちが本当のあなたなのかしら?とマダムは言う。

一度あなたの本当の気持ちが聞きたかったの。本当に私を好きだったの?それとも利用価値だけだったの?と問いかけると、栗橋は、いつの間にか私の身体の中には2つの人間が存在するようになっていた。自分でも良く分からないと答え、君はどうして僕に尽くしてくれるのか?と逆に問いかける。

マダムは、私の父も海軍の将校だった。あなたには、父と同じ海の匂いがするのねと答える。

2人はガソリンスタンドに戻って来ると、マダムが栗原からもらったケースを返そうと差し出すが、それは君に上げると言う栗橋と共に、事務所の中に入って行く。

「黄金馬車」の捜査に参加していた剣持警部補は、栗橋からかかって来た電話を受ける。

俵藤はいないと答えた剣持は、俺だよ、剣持だよと教え、君の家はもう警官に取り囲まれていると教える。

その後、栗橋のガソリンスタンドにやって来た剣持に、上村刑事が、地下でこんなものを発見したと言いながら、「今夜9時に新栄丸を出せ」と栗橋が走り書きしたメモを見せる。

もはや、栗橋が太田である事は明白だった。

警官隊を乗せたトラック舞台が接近して来る。

地下の貯蔵庫では、栗橋とマダムが酒を注ぎ、乾杯をしていた。

その頃、竹芝桟橋付近で新栄丸の到着を待ち受けていた俵藤とテツは、エンジン音が海から聞こえて来たので、車を降り海を見つめる。

その背後には、警官隊が接近していた。

新栄丸には、水上署の警備艇が接近していた。

新鋭丸に乗っていたG・ハーゲンは、威嚇射撃して来る警備艇には価値目がないと察し、撃つなと部下たちに命じていたが、やがて新栄丸は拿捕される。

菅井警部と剣持警部補はガソリンスタンドの周囲に迫っていたが、剣持警部補は須山刑事と2人で店の中に入り込み、地下の貯蔵庫の扉を発見する。

ドアに鍵はかかっていなかったので階段を降り始めた剣持は、そこにいた栗橋とマダムを発見する。

栗橋の方も剣持に気づくと、あんた、そんな身体で動いていいのか?と心配する。

私は栗橋を好きだった。君が太田とはどうしても思えないと剣持が語りかけると、栗橋はいつもすまなかったと思っていたんだと詫びる。

素直に来たまえと手を差し伸べた剣持だったが、もう遅いよと言いながら、栗橋はライターの灯を点す。

地下貯蔵庫にはガソリンが流れ出していた。

剣持さん、逃げてくれ!あんたまで巻き添えにはしたくないんだ!と懇願する栗橋に、子供の事は考えた事がないのか!と叱りつける剣持。

止めてくれ!裸一貫の土方から築き上げて来たものが消えて行くんだ!と言う栗橋。

君の背後にいるものの名を教えてくれと迫る剣持に、そんなものは人間がいる限りなくならないんだ!と叫ぶ栗橋。

剣持の背後から様子をうかがっていた須山刑事は、栗橋が、さらにガソリンを床にぶちまけたのを観ると、剣持の身体を捕まえ、無理矢理上に連れて行くと、外に駆け出し、そこにいた菅井警部や警官隊に対し、みんな下がれ!と声をあげる。

貯蔵庫の中では、栗橋とマダムがしっかと抱き合っていた。

ライターはもう床に落としていたが、コートのポケットから銃を取り出した栗橋は、マダムと抱き合ったまま、床に向かって発砲する。

次の瞬間、ガソリンスタンドは大爆発を起こす。

炎上するガソリンスタンドを観ながら、これで終わらせてたまるか。背後にいる奴を追求するんだ!と剣持警部補は呟いていた。