TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

悪魔の手毬唄('61)

白いオープンカーに乗り、サングラス姿で鬼首(おにこうべ)村に颯爽と登場する、角刈りでスマートな健さん金田一が異色の珍品。

物語途中から登場する、白木静子と言うメガネっ子の助手を従えている所は、片岡千恵蔵版の継承であるが、今回は、彼女よりも、美空ひばりの実弟である小野透扮する大学生を助手がわりにして、最初っからホームズ張りの鋭い観察眼推理をここぞとばかり見せつける嫌味ったらしさを見せてくれたりする。

警視庁の嘱託であり、どうやら白いスポーツカーをぶっ飛ばしては、日本中の事件を解決して廻っているスーパー探偵という設定らしい。

片岡千恵蔵が作り上げた、原作とは全く別のヒーローとしての金田一像を、当時新人だった高倉健が継ぐ形として、この作品は作られたのではないだろうか。

東映特有のスター映画、ヒーロー映画としての金田一ものなので、原作とは全く違う流れになっている。

そもそも、おりん婆さんが登場していないし、手毬唄は登場するが、原作のような見立て殺人ですらない。

磯川警部は、神田隆(「妖怪大戦争」でダイモンに乗り移られる悪代官で有名)だが、これがなかなか聡明温厚で人情派の刑事を好演している。

仁礼里子を演じているのは太地喜和子である。

殺される予感に怯えながらも、あれこれ勝手に行動する、やや厄介なタイプのキャラクターを演じている。

小野透は正直な所、品がなく、魅力不足と言うしかないが、「亀の湯」の女中は、「犬神家の一族」(1976)の坂口良子を彷彿とさせるような明るく可愛いタイプのキャラクターになっている。

原作ファンとしては噴飯ものの映画だろうが、健さん主演の独自の探偵ものだと解釈すれば、これはこれで楽しめなくはない。

変と言えば、これ以上変な金田一耕助ものもないだろうが、その変さ加減が、観て行くうちにちょっと病み付きになったりもする。

若き健さんが、妙に輝いて見えなくもないからだ。

この健さん金田一、シリーズ化してもらいたかった気もする。

そうすれば、健さん金田一愛用の白いスポーツカーは、007のボンドカーのように色々な仕掛けが披露された可能性すらあったような気がする。

スーパーヒーロー金田一耕助…、正に、東映にしか生み出せなかった独自のキャラクターなのかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、ニュー東映東京、横溝正史原作、結束信二脚本、渡辺邦男脚本+監督作品。

トンネルを抜け、一台の車が夜の道を走っている。

助手席で不機嫌そうなのは、人気歌手和泉須磨子(八代万智子)、車が向っているのは、彼女の故郷である鬼首(おにこうべ)村なのだが、彼女がさっきから不機嫌なのは、運転していたマネージャーが、彼女が頼んでいた妹、仁礼里子への帰郷を知らせる手紙を出し忘れていた事を聞いたからだった。

運転手は、遅れて姫路から出したと言うが、それでは自分の方が先に村に到着してしまう。

マネージャーは何とか須磨子の機嫌を直そうと、もうすぐ須磨川ですねと言いながら、もうすぐ須磨子がこの前録音した子守唄の放送が始まると教える。

間もなく林道へ出たところで、車が停まる。

トラックからでも落としたのか、丸太が二本、道をふさぐように転がっているのに気づいたからだ。

運転手は、その丸太を退かせる為に、車を降り、必死で動かそうとする。

その間、須磨子はトランジスタラジオを取り出して、自分が歌っている子守唄を聞き出す。

次の瞬間、マネージャーは須磨子の悲鳴が聞き、慌てて、車に戻ろうとするが、そのマネージャーも又、何者かに襲われてしまう。

助手席に倒れた須磨子の身体の近くには、彼女が歌う「鬼首村に伝わる古い手毬唄」が流れるトランジスタラジオが置かれていた。

岡山県鬼首村警察署

和泉須磨子殺人事件捜査本部には、多くの新聞記者たちが詰め掛けていた。

担当する磯川警部(神田隆)は、村一番の実力者の娘である須磨子が殺された事で、随分仁礼家の当主から圧力がかかっているのではないかとの質問に、捜査に家柄の違いなど関係ないと否定するのだった。

鬼首村に向うバスの中でも、乗客たちが、この殺人事件の事で持ち切りだった。

村出身の人気歌手が殺されたとあって、青年団ものぼせ上がっているのだと言う。

そのバスに、鬼塚の停留所からお告げババアことおいと(五月藤江)が乗り込んで来て、後部座席に座っていた見慣れぬ青年の横に座ると、乗客たち全員に向って、どうせお前たちは、仁礼家に御機嫌伺いに出かけるのだろうと皮肉を言う。

そのボンネットバスを追い抜いて行った、白いスポーツカーがあった。

乗っているのは、長身にサングラス姿の青年(高倉健)。

その姿を観て、乗客たちは、和泉須磨子のファンか何かだろうと推量するのだった。

村の「亀の湯」旅館の前にスポーツカーを停めた青年が、珍しがって旅館から出て来た女中に手荷物であるバッグを渡すと、楓の間に案内される。

青年が旅館に入る所で、そうした長逗留している年輩客三人と出会う。

その内の一人、石山(石黒達也)という足が悪いらしい老人は、金田一の隣の部屋らしかった。

明日お発ちですか?と聞かれた青年は、気が向いたら、この宿にしばらく停まる事になるかも知れないと言うので、女中は驚く。

ここに長く泊まっているのは、神経痛、リウマチなど病気に効く温泉目当てに、長逗留する年輩客ばかりしか泊まらない旅館だったからである。

青年が、仁礼家は大きい家だそうだねなどと女中に聞いて来たので、女中は、この村の真ん中にお屋敷があり、この地方随一の大金持ちで、このどの事件では、そのご主人が警察を叱り飛ばしたりして大変だったそうですよなどと、興味深そうに教える。

その時、石山が謡を歌い始める。

女中の話では、いつもあれが始まると長いのだそうだ。

その頃、仁礼家では、須磨子の葬儀が行われていた。

長男の仁礼源一郎(大村文武)が、妹の里子(志村妙子=太地喜和子)に父親の剛三(永田靖)を呼びに行かせていた。

その剛三は、18年間村からいなくなって、5日前に村に戻って来たと言う辰蔵(中村是好)と言う男に出会っていた。

酒に酔った辰蔵は、今、同じ酒好きである放庵の家にいると言う。

そこにやって来た里子が、亡くなった姉、和泉須磨子が文化会館で歌った最後の歌を今から追悼番組としてテレビで放送する所だから、一緒に観ようと誘いに来る。

テレビの前には、親戚一同が揃って、須磨子の最後の姿を観ようと集まっていた。

追悼番組が始まり、在りし日の須磨子が、最後の歌となった「手毬唄」を歌いはじめる。

♪裏のお庭の竹やぶで、一羽の雀が言う事にゃ、あの子器量良し手毬をつけば〜、赤い手柄ガラガラ揺れて〜、袂くわえた紅が散る〜紅が散る〜♬

しかし、それを聞いていた剛三は、急に顔をしかめて耳を押さえると、その場から逃げ出してしまう。

♪村のはずれのお社で、二羽の雀が言う事にゃ、あの子器量良し願掛け参り〜、梅ノ木に恋文結ぶ〜、袂くわえた紅が散る~紅が散る~♬

その時、庭先から顔をのぞかせた辰造が、とんでもない古い歌を歌ってるんだなどとTVを観て声を上げたので、追い払われる。

♪氏神様の細道で、三羽の雀が言う事にゃ、あの子器量良し人待ち顔で〜、ぽっと染まってあら恥ずかしい〜、袂くわえた紅が散る~紅が散る~♬

三番まで歌い終わった須磨子は、この歌は、自分の生まれた村に古くから伝わる手毬歌だと、匿名のファンの方から手紙で教えてもらった曲だが、差出人は分からないと説明する。

その頃、「亀の湯」でも、石山、吉田(増田順司)、黒めがねの日下部(山口勇)ら湯治客が集まって、今のTV放送を観終わった須磨子殺しの話で盛り上がっていた。

怪談話のように興味本位で話していた湯治客たちに、反発したのは、今日、バスでやって来た青年だった。

その青年の横に座っていた、あのスポーツカーの男が、あなたは、仁礼里子と同じ阪神大学の学生遠藤さんではないか?里子さんは今、…と、突然話し掛けて来る。

自己紹介した訳でもないのに、自分の素性をズバリ当てられた遠藤和雄(小野透)は、驚くと共に、初対面の相手の素性を怪しみ警戒する。

すると、相手の男は、何故、遠藤の素性を言い当てたのか、論理的に説明し出す。

あなたは、TVで須磨子さんの放送があると聞いて二階から降りて来たが、汗をかいたのでいつもポケットに入れているはずのハンカチを探したが、入ってなかったのでズボンのポケットを探ってハンカチを取り出した。

その時、筆で書かれた「仁礼里子様」と書いた封筒が見えたが、そこに大学の校章が押してあった。

筆で書かれていた所を見ると弔辞でしょう。

あなたは、TVでこの番組があるのを知らなかったから、慌てて降りて来たのでしょう。

それを聞いていた客たちは、青年の観察眼と推理力に下を巻くのだった。

そこへ、放庵(花沢徳衛)が酒瓶片手に酔ってふらりと現われ、この世は怪談のようなものだと呟いて通り過ぎて行く。

金田一は、何故、客たちの前で、推理力をひけらかすような行為を見せたのか?

石山と日下部、そして、謎の青年の三人が一緒に入浴している所に、放庵が、あの手毬唄を口ずさみ、自分は五つの時から、この子守唄と温泉の事だけは知っていると言いながら入って来る。

その頃、葬儀に参加した遠藤和雄は、仁礼家から里子に、外に出ないか?と誘っていた。

仁礼家の中では、須磨子の追悼会をしようと村の青年団が源一郎の元に集まっていたが、当の源一郎は、親父が迷惑がっているからと、面白くなさそうに集会を解散させてしまう。

剛三は、戻って来た源一郎が広間から酒を飲んでいたり、あんな青年団等と付き合うのは止めろと叱りつけるが、源一郎の方は、父親が、今回の事件と関係ありそうな出来事を隠したがっている事に反発する。

沼の側にやって来た里子は、和雄に、何か不幸が起こりそうだと怯えながら告げる。

目に見えない恐怖って確かにあってよ。この沼だって、落ちたら吸い込まれて出ることが出来ないんだって…と、底なし沼であることを教える。

するとそこに、あのお告げババアが現われ、仁礼家のお嬢さん、危ない、危ない…。わしは神のお告げしか言わんし、見知らぬ男がうろつくと村の空気が乱れると無気味な事を言うので、ますます里子は怯えるのだった。

お告げババアが去った後、和雄が何気なく触ろうとした花を観た里子は、いけない!それは毒草よ!と叫ぶ。

仁礼家の様子を表からそれとなく観察していた謎の青年に近づいて来たのは、相変わらず昼間から酔った辰蔵だった。

彼は、立派な屋敷ですねと言う青年に、屋敷は立派でも、中身は立派かどうかは分からないと皮肉を言いながら立ち去って行く。

青年は、色々この村には問題がありそうだな…と呟く。

鬼首署では、磯川警部が鑑識の結果報告を受けていたが、須磨子の遺体の側に置かれていたラジオからも、被害者とマネージャー以外の指紋が発見できなかったと言う点に頭を捻っていた。

磯川警部は、地元だけで聞き込むと、悪口ばかり集まるので気をつけなければいけないと、部下たちに教えていた。

その頃、「亀の湯」の湯治客たちは将棋をさしながら、「楓の間」に泊まっている謎の青年は、実は刑事なんじゃないかと噂していた。

石山は、又、温泉のお陰で、神経痛が楽になりました。すねに傷持つ何とやらですかな?などと言って温泉に向かうが、その言葉を聞いた黒眼鏡をかけた日下部は、何やら動揺する。

仁礼家に戻って来た里子は、兄の源一郎から、さっきの大学生は何だ?とか、何かお前の所に変わった手紙は来なかったかと尋ねられる。

実は、半年前、父親の元に脅迫状が届いたのだと言う。

源一郎は、その脅迫状と今回の須磨子殺しのが関係しているのではないかと怯えており、猟銃を持って話すので、里子は危ないと注意する。

源一郎は里子に、あの大学生をボディガード代わりにして、神戸に帰れ。お前は寮の方が安全だと諭すと、親爺には色々秘密がある…と呟く。

その後、二人して父親の所へ行き、秘密があるのだったら聞かせてくれと頼むが、剛造が全く答えようとしないので、酔って精神的に不安定だった源一郎は、姉さんは殺されたんですよ。僕は死んだ方が良いのかと叫び、剛造から、うるさいと怒鳴られてしまう。

「亀の湯」の「楓の間」に泊まっていた謎の青年は、廊下の隅に置いてあった小さなコインのようなものが動いている事から、廊下の奥の壁が扉になっており、それを開くと非常階段に繋がっている事に気づく。

そこに、隣の部屋から、又、石山の唸る謡が響いて来る。

謎の青年は、宿に戻って来た和雄に、里子と会ったのかと不躾にも尋ねる。

仁礼家では、遅配された姉、須磨子から自分に宛てた手紙を里子が発見し読んでいると、やって来た剛造がそんなものを読むなと言って奪い取ってしまう。駆けつけた母親の宮子(不忍郷子)も泣き伏せる。

その手紙には、金田一耕助と言う人物を鬼首村に呼んだと書かれてあった。

その時、源一郎の自室の方から猟銃の発砲音が聞こえて来たので、二人が駆け付けると、猟銃を抱きかかえるように咽を血に染めた源一郎の死体が横たわっていた。

源一郎は、賊に襲われたと判断したのか、半鐘をうって、村中を起こせ!と逆上する。

その半鐘の音は、「亀の湯」にも聞こえて来る。

女中が、仁礼家で又事件が起こったので、村の男衆は全員、山狩りの手伝いをするように言われていると伝えに来る。

謎の青年は、非常階段の前に置いてあった目印が動いていたので、元の位置に戻しておくと、スポーツカーに和雄を誘い、一緒に仁礼家に向う事にする。

仁礼家は、村中から集まった人間でごった返していた。

里子は、やって来た和雄を見つけると、思わずしがみついて来ると、一緒にいらしてと誘う。

そこに、警察一行が到着する。

磯川警部は、屋敷内に入り込んでいる村人たちは捜査が混乱するから出てもらうよう、駐在に命ずる。

現場にやって来た磯川警部は、検死の結果、銃弾が顔面を貫通していると聞かされる。

銃声が一発だったと、その場にいた剛造から聞いた磯川警部は、自殺か?と呟くが、その時、こんなに大勢いたのでは捜査が出来ない。少し離れて下さいと言いながら勝手に現場に入り込んで来た青年は、源一郎の死体を見るなり、咽と銃に距離が全くない。すぐ近くから発射したんだな…と指摘する。

磯川から誰かと聞かれた青年は、「亀の湯旅館」に泊まっている者ですと言いながら名刺をさっと渡す。

名刺を読んだ磯川警部は、あなたが金田一耕助さんでしたかと驚く。

庭先で金田一を聞いて驚いた和雄は、怪訝そうな里子に有名な人だと教える。

しかし、剛造は、こんな奴こそ怪んだと追い出そうとする。

山狩りはどうします?と聞かれた磯川警部は無駄だと答える。

そんな磯川に金田一は、「他殺に見せ掛けた毒殺です」と書いた名刺をさり気なく渡して屋敷を後にする。

里子は和雄に、姉さんからの手紙にあの人のことが書いてあったわと教えるが、そこに近づいて来た宮子の弟である栗林(山本麟一)から、君たちはグルだな?等と言われ、屋敷を追い出される。

屋敷を離れ、沼の近くにやって来た金田一は白い花を発見する。

その近くにあるお告げババアの住まいには、酔った放庵が辰蔵は見つかったか?と聞きに来て、そのままふらふらと姿を消してしまう。

その直後、外に立っていた金田一の姿を見つけたババアは、彼が白い花を持っているのを観て、それは毒草じゃ、そんなものを持つと祟りがあるぞ、帰れ!と追い払う。

旅館にスポーツカーで戻って来た金田一は、先に戻っていた和雄から里子さんが会いたがっていると知らされ、旅館に入る。

里子は、石山たち逗留客と一緒に1階の控えに座っていたが、和雄は彼女を2階に連れて行く。

金田一は、非常階段前の目印のボタンを見ると、元のままだと呟いていた。

和雄と共に部屋にやって来た里子は、手紙で姉さんが、あなたに頼んだって知ったんですと金田一に伝える。

金田一は、須磨子からはこちらも手紙をもらっており全て承知していると、二人を車で送って帰る事にする。

運転していた金田一が里子に、姉さんが最後に歌った歌を知っていましたか?と聞くと、あの曲を聴いた時、父は顔色が変わりましたと教える。

その直後、道にオイルが撒かれていた為、金田一はハンドルを取られ、スポーツカーを木にぶつけてしまう。

すぐ側にはあの底なし沼があり、何者かが車をスリップさせ、沼に落とそうと企んだものと思われる。

犯人の目的は里子殺害だと想像された。

そうした事もあり、夜中の1時に仁礼家に戻って来た里子を、屋敷の前で待っていた栗林は、送って来た和雄と金田一の責任かのように言い掛かりを付けて来る。

帰宅後も、誰かから狙われているような不安が消えない里子は、旅館の和雄に電話を入れるが、その姿を又しても栗林に見つけられ、電話を切られてしまう。

和雄の方も、何時の間にか、日下部が側で電話を盗み聞きしているのに気づく。

忘れられていた手毬唄を、須磨子に匿名で送りつけて歌わせたのは誰か?

沼の側で推理していた金田一は、近づいて来た村人や駐在に、足取りは掴めたかと聞くが、見当がつかないと教えられる。

剛造はなぜ手毬唄を聞いて怯えたのか?祟りの毒草とは…?

金田一は、石仏の側に生えた毒草の白い花を観ながら推理をしていた。

その後、宿の温泉に浸かって考え込んでいた金田一は、裸の磯川が入って来たのに気づく。

磯川は、やはり金田一の推理通り、源一郎の吐いた血と首の血は別物で、源一郎の死因は銃殺ではなく毒殺だった事を教える。

ちょうど亀の湯の客たちに事情を聞きに来たのだが、あなたがここだと聞いて伝えに来たのだと言う。

金田一はその後、須磨子からの手紙を和雄にも見せ、自分の助手をやるんだなと半ば強制的に指示を出すと、警察はどうしたと聞く。

すると、たまたま部屋にやって来た女中が、もう村から引き上げたと答えたので、金田一は、君に聞いたんじゃないよと呆れる。

仁礼家では、すっかり怯え切った里子が、もう家を出ると言い出していた。

それを宮子と共になだめていた栗林は、剛造の部屋に来ると、僕が2日早く帰れば良かったんだなどと言いながらわざとらしく剛造の肩を揉みながら、脅迫状を受け取ったんですって?相手は誰なんです?などと探りを入れて来る。

剛造は、仁礼家の全財産を慈善事業に寄附し、無一文になれと書かれた脅迫状の事を打ち明ける。

それを聞いた栗林が、宮子おばさんから青池と言う男の事を聞いた事があるが、関係あるのでは?と言うと、その男の作男だった辰蔵が18年振りに村に現われた事を剛造は思い出すのだった。

その時、や死期の中から須磨子が唄う手毬唄が聞こえて来る。

その歌に顔をしかめた剛造は、里子の部屋に駆けつけると、部屋でかけていたレコードを取り上げ、こんなもの!と言いながら割ってしまう。

金田一と和雄に、自宅で歌う手毬唄を聞かせていた放庵は、この歌で仁礼の旦那のことは思い出せんと断っていた。

辰造なら知っているのでは?と金田一から聞かれた放庵は、辰造は昨日から帰ってはいない。仁礼の息子が殺されたときはここにいたが…と教え、あれも飲んべえだが、「亀の湯」に行く途中にある、今は廃虚になった牧舎にいるかも知れないと言う。

その牧舎と近隣の土地は、今では仁礼家の所有になっていた。

車を持ってきますか?と和雄は金田一に聞くが、僕の居場所を教えるような者だと言って、金田一は断ると、歩いて牧舎に向かうことにする。

途中、金田一は、昨日撒かれていたオイルは、牧舎から持って来たんだな。そうだとすると、辰造は共犯と言うことになると呟く。

案の定、廃虚になった牧舎内に潜んでいた辰蔵を発見した金田一は、外から、仁礼源一郎が殺された事を教えると、辰蔵は急に怯えたような表情になり、おら、知らねえ!とそっぽを向いて、取りつく島もなくなってしまう。

牧舎を後にした金田一に、ついてきた和雄は、あのおじさん、狂っているみたいだけど、共犯ですかね?と疑問を口にする。

金田一も、また、分からなくなったな…と呟く。

牧舎の中では、辰造が、仁礼の息子が殺された…と独り言を言っていた。

その頃、仁礼家では、剛造が庭先に落ちていたガラス瓶を見つけ、あいつは生きている、あいつが落としたんだ…と呟いていた。

又、沼の近くに来ていた金田一は、毒草じゃ、祟りがあるぞ!と叫んでいたお告げ婆さんの言葉を思い出していた。

すると、近くで猟銃を撃つ音が聞こえる。

金田一と和雄の姿を見つけた栗林と村の青年団たちが、猟銃を空に向けわざと撃ちながら、嫌がらせで近づいて来たのだった。

笑いながら遠ざかって行く青年団を観ながら金田一は、栗林は君のこと邪魔なんだよと和雄に教え、里子君に万一のことがあるとすれば毒殺だよ。因縁だねと呟く。

剛造は、20年前の事を思い出していた。

(回想)土地財産を剛造に奪われた青池が、それが私から恩を受けた者のすることか!と剛造に訴えに来ていた。

それから一ヶ月後、再び、剛造に会いに来た青池は、家族5人が食べるため、一ヶ月分の生活費を出してくれないかと頭を下げていた。

しかし、剛造は、自分にそんな事をしてやる義務はない。お門違いも甚だしい!と突っぱねる。

(回想明け)一方、金田一は、沼の側に立つ石仏の側に立っていた毒草が、最初から生えていたものではなく、誰かが供えたものである事に気づく。

(回想)青池が家に無心に来てから半年後、今度は、剛造の元に辰蔵がやって来て、青池の奥さんが3人の子供と毒を飲んで手毬唄を歌いながら沼に身を投げたと知らせに来る。

(回想明け)剛造は、それを聞いた日の事を思い出しながら、苦しんでいた。

金田一は、分かった!と突然言い出し、和雄をもう一度牧舎に連れて行く。

屋敷の庭先で、あいつが生きている訳がないと苦しんでいる父親の様子を心配して、里子が近づいて来た所に、辰蔵がふらりと現われて、お悔やみに来ましたと言うので、激高した剛造は、源一郎を殺したのはお前か!と辰造につかみ掛かる。

すると、辰造は、警察だと言い出し、旦那さん、俺が息子さんを殺したと言っている。そうする?と里子に問いかけるが、剛造は、大きな声を出すな!と辰造を止める。

その頃、牧舎の中を観察していた金田一は、夕べ、ここにいた辰蔵は、源一郎殺しの犯人を観たに違いない。この土地の持ち主は青池と言うことになるが、その男は死んでいるんだよと興味深そうに言う金田一は、牧舎の中に転がっていたオイル缶を発見すると、和雄は、やっぱり辰造は共犯というわけですね?と問いかける。

やがて金田一は、辰蔵が釘を握ったため怪我をしたらしき血痕が付着した木枠を示しながら、ここから見られる視界は限られている。犯人はここで何かを隠したんだ。それを辰造はじっと観ていたに違いない。血の手形が動いていないだろう?と和雄に説明する。

その後、辰造はここで出て行った犯人を見送りながら、この場で腰を落としたに違いないと、入口横の木柱に付いた血痕を示す。

その時、警官と青年団が牧舎にやって来たので、辰造はこの草むらに隠れたに違いない。そこに血が付いているだろう?と金田一は示してみせる。

犯人はこの鬼首の町に住んでおり、時々ここに来ては、仁礼家の様子をうかがっていたんだ。

夕べ、辰造は、一言で分かるようなことをその犯人が口にしたのを聞いたのだろう。例えば、奥さんの名とか…。犯人の家族は死んでいる、毒を飲んで。それと同じ毒で仁礼の長男は殺された。恐ろしい20年の執念だ。僕は牧舎の言われも調べた。須磨子さんの手紙をもらったときから捜査を開始したんだ。僕のバックには、科学的で機動性のある組織が付いているんだと言いながら、金田一は名刺を和雄に渡す。

それを観た和雄は、金田一耕助が警察の嘱託だったんですね!と驚く。

金田一は、絶対、牧舎の中に入らず、外から見張っているようにと和雄に言い残すと出かけて行く。

「亀の湯旅館」の前では、眼鏡をかけた若い女性が金田一の帰りを待っていた。

金田一の助手、白木静子(北原しげみ)だった。

ここは不便な所で、30分もバスを待たされたとぼやいた静子は、金田一の部屋について行くと、須磨子の手紙から指紋が出たが、前科はありません。手紙の消印は岡山でしたと金田一に伝える。

鬼首署では、磯川警部が、青池一家の消息の確認を取っていた。

当時、村にいた岡田巡査(沢彰謙)の話では、村が洪水に襲われた後、青池の家は跡形もなくなくなっていたが、4つの遺体が残り、その遺体を観た村人たちが全員、剛造も加わって、それは青池一家のものだと証言したと言うが、今一つ確証がなかった。

磯川警部は、青池は行きているかも知れんな…と呟くと、手紙にその男の指紋があります。毒殺に使用された毒は沢桔梗から取ったものでしょうと言いながら、金田一と白木静子が刑事部屋に入って来る。

当時の青池の指紋は残されてはいなかった。

あなたは青池を知っているはずだ!と磯川警部は金田一に詰め寄るが、金田一は、犯罪の確証が掴みたいんですと答えるだけだった。

その頃、牧舎の外で監視をしていた和雄は、一升瓶を片手に、酔った辰蔵が帰って来るのを確認するが、驚いた事に、その後を里子がついて来るではないか。

里子は、草むらから飛び出して来て、君はこんな所に来てはいけない!早く家に帰って!と勧める和雄に、あのおじさんは手毬唄を知っているので、話を聞きたいのだと言って抵抗する。

そこに、仲間を連れた栗林がやって来て、里子を奪い取ろうとして、和雄を袋叩きにし始める。

栗林は里子を連れ帰ってしまう。

そんな表の騒ぎを他所に、牧舎の中にいた辰蔵は、旦那さん、申し訳ありませせん。あいつが偽造した実印さえなくさなければ…、この土地も牧舎も旦那のものだったんだ…と1人で詫びていた。

その時、辰造は、ふと観たオイル缶の底に、自分が昔なくしてした実印を発見すし、これさえありゃ…と泣き始める。

さらに、毒の入ったガラス瓶も近くの藁の中から見つけた辰造は、やっぱり旦那が、仁礼の息子を…。あの時、俺が旦那から取り上げたのに…と呟くと、興奮を鎮めるように一升瓶を口に運ぶのだった。

そこへ、白木静子を伴った金田一が戻って来て、倒れている和雄を見つけると助け起こす。

気がついた和雄は、辰造が牧舎に入ったと知らせる。

牧舎の中では、辰造が、夕べ旦那が来たに違いない。旦那、俺が命を賭けて匿ってやりますぜ…と独り言を言っていた。

そんな辰蔵がいた牧舎に入って来た金田一は、夕べ青池が来たでしょう?そして何か隠したでしょう?と問いかける。

静子と外にいた和雄は、里子君をこのままにしていては危ないと呟いていた。

金田一は辰造に、20年前、奥さんが飲んだ毒はその花から採ったんでしょう?夕べ、青池は、毒の瓶を隠したでしょう?と問いつめるが、辰造は知らないと答えるのを拒む。

白木静子と和雄が牧舎の中を覗き込むと、仁礼の娘はどこにいる?と叫んだ辰造が突如苦しみ出す。

金田一は、ただちに静子に警察と医者への連絡を頼むと、倒れた辰蔵は、旦那、奥さんが死ぬ前に歌っていた手毬唄が聞こえると言いながら息絶える。

金田一は、それを仁礼が聞いたんだな…と合点しながら、一升瓶の中味を見つめる。

その時、和雄は、側に落ちていた毒入りのガラス瓶を見つけると、これだ!青池の奴、事件の発覚を恐れて、辰造まで殺したんですね!と金田一に問いかける。

その頃、「亀の湯旅館」に来ていた磯川警部は、石山の謡が録音されたテープレコーダーを押収していた。

そして、日下部と吉田に対しては、君たちは公金横領だと指摘して逮捕していた。

石川は散歩に出ているらく不在中だったので、磯川警部は矢野刑事(関山耕司)に指紋採取を命じ、山田刑事には仁礼の娘の所へ向かわせていた。

牧舎にやって来た石川に、金田一は、青池だなと呼び掛ける。

しかし、石山はとぼけて、歩く訓練で沼まで散歩に来ただけだと言いながら、その場を立ち去ろうとする。

その石山に立ちふさがった金田一は、仏に花を供えたのはあんただと指摘させると、石山はその場に凍り付いてしまう。

旅館に泊まっていた石山こと青池は、部屋のすぐ横の非常階段から抜け出すと、犯行を繰り返していた。

だが、源一郎を殺した直後は、半鐘が鳴り始めたため、宿に戻って来た石山こと青池は非常階段は使えなかった。

風呂から上がって来た振りをして階段の所に落としていたあんたのタオルは、先の方しか濡れていなかったと金田一から問いつめられると、覚悟を決めたかのように青池は牧舎の中に入って来て、すまんと言いながら死んだ辰蔵を抱き締めるのだった。

和雄は、オイルを撒いたのは貴様だろう!と青池に詰め寄る。

そんな牧舎に里子が近づいていたが、その後を追って来た剛造が行くなと止めようとする。

牧舎に2人が近づいて来ると、牧舎の中から気がついた青池は、仁礼剛造!と叫びながら飛びかかろうとする。

20年の哀しみと苦しみ察してくれ!と言いながら、取り出した拳銃を撃とうとする青池を、ばかな真似は止せ!と言いながら金田一は制する。

そこへ栗林がやって来て、銃を撃って来た青池につかみ掛かろうとして、それを防ごうとした金田一にぶつかる。

隙を観て剛造につかみ掛かった青池は、仁礼!俺じゃ、青池じゃと訴える。

白髪のヒゲだらけになった石山の顔に、昔の青池の面影を見いだした剛造は、おのれ…、やっぱり生きてたのか!と驚く。

青池は、貴様…、俺の実印を偽造して、この土地一番の金持ちになりやがって…。お前に浮浪者のみじめさ、3人の子供を失った哀しみが分かるか?2人の子供を殺されて、この苦しみ分かるか?と訴えかける。

そこに白木静子が磯川たち警察を連れて来る。

磯川警部は青池に、君と剛造のことは全部調べた。法にも涙がある事を胸に刻んでくれと言い聞かすが、その言葉を聞いた栗林は、警察が何てことを言うんだ!と抗議する。

金田一は、見つかった実印を取り出して見せると、青池は、これじゃ!こいつが偽造した実印じゃと興奮する。

栗林は、この人殺したちを捕縛しろ!と磯川たちに訴える。

すると、お待ちください!金田一さんは警察の嘱託です!と白木静子が説明する。

金田一は毒入りのガラス瓶を青池に見せながら、この瓶に見覚えがありますね?辰造の死体の側に落ちていたものですと言う。

するとそれを観た青池は、私が昔、自殺しようとした時、辰造に取り上げられたものですと答える。

金田一は、辰造殺害の容疑者は、仁礼さん、あなただ!と剛造に向かって指摘する。

証拠は?と剛造が怒鳴ると、金田一は、一升瓶がありますと答える。

刑事が牧舎の中から一升瓶を持って来ると、それを見た里子が、それはうちの!と叫ぶ。

その発言を封じようと、知らん!青池が入れたんだ。源一郎のときと同じようにと剛造が言うと、同じ毒だとどうして知ってるんです?と金田一が追求する。

そして、剛造に近づいた金田一は、その懐から同じような形をしたガラス瓶を取り出す。

剛造は、それは持病の胃腸薬だと言い張ったので、ではこの場で飲んでみてくれと金田一が言うと、剛造は何も言えなくなってしまう。

辰蔵が屋敷の庭で落としたのを拾ったんでしょう?と、金田一は推理する。

その時突然、牧舎の中にいた青池が、置いてあった毒入りの酒を一気飲みしてしまう。

そして、倒れた青池は、子供達よ、母さんよ、随分待たせたな…と言いながら、絶命するのだった。

事件が解決し、和雄と共に、死んだ青池昌平の墓参りをした里子は、仁礼の財産は全部、社会福祉に寄附する事にしたと金田一に打ち明ける。

白木静子から、この後は九州に行くのか、東京に戻るのかと聞かれた金田一は、一度東京に戻ろうかと答える。

そこにやって来た磯川が、あの毒は、青池が仁礼家で落としたのを剛造が拾ったそうですと報告し、青池の死は自分の失態だったと言う。

それを聞いた金田一は、にっこり笑いながら、あなたの失態が、青池の最後の幸せな言葉を言わせたんだと慰めるのだった。