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B・G物語 二十才の設計

女性社員が、OLと言う呼び名ではなく、BGと言われていた時代の青春ドラマ。

女性の初任給は9000円ぽっちで、しかも何年働いても、昇給も昇進もない身分だったことが分かる。

今の感覚からすると、明らかな男女差別であり、これでは女性は働きがいなど湧くはずもなく、女子社員と言えば「結婚までの腰掛け」と言うイメージが当時あったのも仕方ないと思う。

そんな中、次のステップである結婚への夢を持ちながら、なかなかうまくいかないBGと若き男子社員の悲喜劇が描かれている。

好きな人からは相手にされず、意外な人から愛を告白され、その運命に翻弄される若人たち…と言った所だろうか。

若干、コミカルなキャラとして描かれている江原達怡と浜美枝が、最後に幸せを掴む安堵感はあるものの、主役の星由里子に関しては、かなり最初からシリアスな展開が待ち構えており、笑って見守るような軽いタッチにはなっていない。

特にこのラストは意味深長と言うか、取りようによっては「リドルストーリー(謎物語)」のラストのような解釈も出来るような感じがする。

杏子が、自分は津沢と共に大阪について行かない決心をしただけだったら、まだ分からないでもないのだが、要子に津沢の居所を教え、大阪に連れて行かせようとする心理が微妙なのだ。

一番単純な解釈は、最後に津沢が読んだ杏子の手紙をそのまま素直に受け取る事で、杏子は、津沢への愛情の深さで要子には負けた事を悟り、あっさり自分は身を引き、要子に愛の勝利者として津沢を与えたと言う考え方なのだが、津沢が要子から離れたがっていると言う気持ちも知っているはずなので、何だか、津沢に対しては一番望まない現実を押し付ける事で復讐しているような気もする。

そんな複雑な解釈をしたくなるのも、それまでの杏子と津沢の関係が純愛風には見えないからだ。

明らかに途中までの津沢の気持ちは遊びだったし、途中からも、はっきり純愛に切り替わったと言う風に見えないのだ。

だから、彼と杏子が最後結ばれる…と言う展開になったとしても、観ている方としては何だか釈然としない気持ちが残ってしまうような気がする。

津沢は快心したにしても、それまで、あまりにも嫌な面を観客に見せ過ぎているからだ。

やはり、津沢は、杏子と言う無垢な娘を翻弄した罰として、最後は要子と言う現実を押し付けられたのだと解釈した方が良さそうに思える。

津沢に感情移入しにくいのは、そのキャラクター設定だけではなく、演じている稲垣隆と言う見覚えのないイケメン俳優のイメージの弱さもあると思う。

これが、当時のもう少し名のある男優だったら、その俳優が持っているイメージで、キャラクターをカバーした部分もあったと思う。

例えば、夏木陽介とか佐藤允などが津沢を演じていたら、もう少し違った印象になっていたのではないかと思うのだ。

演技力云々ではなく、他の作品でのイメージなどから来る役者イメージとしての確たる信頼感と言うか…

稲垣隆と言う人には、それが全くないのだ。

他にも何本か、当時の映画に出ていた人のようだが、さっぱり記憶に残っていない。

そうした役者イメージの希薄さが、最後まで信用できないと言うキャラクターイメージを持たせているのではないかと思う。

その他の常連組で言えば、水野久美と浜美枝は、他の映画とは違い、ちょっと地味なポジションを演じていると思う。

藤山陽子は、上品できれいだけど、生活感がなさ過ぎて、結婚には向いていないように見えるので、大道久仁子役にはぴったりな気がする。

江原達怡と北あけみは、かなり儲け役のような気がする。

いつもは目立たない役が多い草川直也も、この作品では珍しく目立つ役を演じている。

児玉清は…、良い役とも悪い役とも言えない、ちょっと微妙な役柄だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、東宝、源氏鶏太原作、井手俊郎+田波靖男脚色、丸山誠治監督作品。

キャメラが引き、タイトルバックの模様が、窓ガラスに貼ってあったハンカチの模様である事が分かる。

栗村杏子(星由里子)は、目覚まし時計の音でにこやかに目覚め、台所でトースターにパンを差し込むと、トランジスタラジオをかけ、その音楽に合わせ、鏡台の前で朝の身支度を始める。

隣の部屋で寝ていた兄の太郎(船戸順)は、目覚ましの音やラジオの音楽がうるさいらしく、迷惑そうに起きて来て、まだ6時過ぎだよと妹の杏子に文句を言う。

しかし、今日がBG(ビジネスガール)初日である杏子は、男と違って女は支度に時間がかかるのと答える。

太郎は、そんな妹を微笑ましく観ながら、両親がない自分たちが会社に入れたのも、津沢さんが専務に口を聞いてくれたお陰だ。満員電車ではくれぐれも痴漢に注意しろよなどとあれこれ先輩らしくアドバイスをすると、両親の遺影に今日から杏子が勤めを始めますと挨拶し、杏子の写真をカメラに収め、初出勤の朝とでも題しようと笑う。

満員電車の中、早速、臀部に暖かいものが触れて来たのを感じた杏子は、背後に立っていた中年男性(有島一郎)に、何するのよ!生暖かい変なものくっつけて来ないでよ!と気丈に抗議するが、その男は、持っているのは弁当だよ。出来立てだから暖かいんだと反論し、勘違いを悟った杏子はバツが悪くなって黙り込む。

日東電機の新人歓迎会に出席した杏子は、病気の社長に替わり挨拶する津沢専務(松村達雄)の話をまじめに謹聴する。

その頃、ようやく同じ日東電気営業部に出勤して来た兄の太郎は、同僚の女子社員大道久仁子(藤山陽子)と挨拶を交わすが、同じく同僚の松村たね子(浜美枝)が、眠そうな太郎のために煎れてくれた特別に濃いお茶を机に置いてやる。

そこに、花島課長(宮田洋容)と同僚の深見和夫(江原達怡)が出勤して来て、太郎の机の上に置かれたお茶を勝手に飲んだ深見は、その苦さに思わず顔をしかめるのだった。

そこに、津沢専務の息子津沢浩(稲垣隆)がやって来たので、太郎は挨拶をする。

杏子が配属されたのは総務部だった。

部屋にやって来た杏子が紹介された吉岡課長の顔を見た時、両者は固まってしまう。

さっきの満員電車で、痴漢と間違えた中年男だったからだ。

そこに、津沢浩がやって来て、先日まで大阪に出張していたが今朝帰って来たと吉岡課長と挨拶を交わす。

杏子は、小野せつ子(水野久美)の隣の席に座る事になり、向かい合った前の机に座っていた宮城素子や内田美子を紹介される。

少し先輩格の内田は、今来た津沢さんは、根はおぼっちゃんでなかなか良い人よと杏子に教える。

その直後、杏子を呼び寄せた吉岡課長は、仕事中は今のようなおしゃべりはやめるようにと注意しながら、今日の君の仕事は、私の弁当を食べる事だと言いながら、自分が持って来た弁当箱を渡すと、自分は用があるからと言って外出する。

困惑しながら席に戻って来た杏子に、課長、いつも弁当を持って来るの嫌なのよ。だけど、奥様が栄養学校の出身なので毎日持たされるのと説明し、内田も、一週間もそれ食べてたら太るわよと笑う。

その日、杏子と太郎の兄妹は、雪よ岩よ♬と歌いながら一緒に新大久保のアパートに帰宅して来る。

杏子は太郎に、これから自分は貯金をしようと思う。お兄さんの給料が今23000円で自分が9000円、2人の給料を合わせると、貯蓄も出来るはずと言い出す。

後日、兄と一緒にボウリングに出かけた杏子は、先に帰ると言う兄と別れ、1人歩いていると、オープンカーに乗った瀬沢に声をかけられる。

誘われて一緒に出向いたナイトクラブでは、3人の女性トリオ(スリー・グレイセス)がステージ上で歌っていた。

瀬沢は、初めてお会いしたのは銀座でしたね。これであなたとは偶然2度もお会いした事になりますが、3度目からは偶然じゃなく合うようにしませんかと誘って来る。

いきなりの誘いに返事を躊躇する京子だったが、お兄さんの許可はちゃんと取りますと瀬沢が言うので、一応承知する事にする。

6月15日の誕生日が来るまでまだ未成年の杏子だったが、その日初めてカクテルを飲んでみる。

その頃、先にアパートに戻っていた太郎は、同僚の深見と共に、すき焼きを食べながらビールを飲んでいた。

深見は太郎に、杏子さんを嫁さんにしたいんだと言い出すが、太郎は、そんな話は直接妹に言ってくれと戸惑うだけだった。

ナイトクラブを出て、オープンカーで送ってもらっていた杏子は、運転していた瀬沢からいきなりキスをされる。

僕はあなたの事が好きでたまらなくなったんです。これからも付き合って下さいと告白する瀬沢だったが、杏子は兄の事が気になり、僕の事を好きになってもらえませんかと言う瀬沢に、分かりませんわと答えるしかなかった。

帰宅した杏子は、食べ散らかした部屋で寝ている太郎を発見し、後片付けを始めるが、それに気づいて起きた太郎は、さっきまで深見が来ていたのだが、お前を待ちくたびれて帰ってしまった。

深見の奴、杏子の事嫁さんに欲しいそうだと伝えるが、それを聞いた杏子は、私、お嫁に行かないわ。いつまでも兄さんと暮らしたいのと答えるだけだった。

翌日の昼休み、杏子がせつ子と一緒に会社の屋上にやって来ると、兄の太郎が、深見や他の社員と一緒に、おお牧場は緑♬と歌を歌っている姿を観て驚く。

太郎が唄など得意ではない事を知っていたからだ。

それを聞いたせつ子は、大道さんに誘われたからじゃない?と耳打ちする。

歌を歌っているグループの中心でアコーデオンを弾いていたのが、営業課の大道久仁子だった。

大道久仁子はせつ子の高校の時の同級生だったそうで、その後、大学の英文科に進んだが、大株主の親が厳しく、娘も普通の苦労をするようにとこの会社に勤めさせているのだとせつ子は教えてくれた。

昼休みが終わり、屋上にいた太郎も部署に戻ろうとするが、そこにやって来た深見が呼び止め、物陰に連れて行くと、重大事件だ。小沢に聞いたのだが、夕べ、杏子さんは津沢と逢い引きしていたらしいと言うので、妹に聞いてみると太郎は答える。

化粧室で浮かない顔でメイクしていたBG(桜井浩子)が、BG病かななどと言いながら出て行ったのを聞いていた杏子に、せつ子が、BG病と言うのを説明してくれる。

第一期は、張り切ってBGになったものの、夢と現実のギャップに悩み始める事。

第二期は失恋期のようなもので、最初の濃いってうまくいかないものなのよ。

第三期は、25過ぎた辺りで陥り、会社にいても男のように昇級も給料のアップもないので、イライラして来るのだと言う。

総務部に戻って来た杏子は、吉岡課長に呼ばれ、これから大道さんから補聴器を注文され届けに行くので、一緒について来るように。相手は大変厳格な方なので態度には注意するようにと命じられる。

大道家にやって来た2人は、ピアノを弾いていた長男の雄造(児玉清)と出会う。

その側に九官鳥が鳥籠の中にいたので、杏子が「こんにちは」話しかけると、九官鳥も「こんにちは」と答える。

では私も…と挑戦した吉岡課長だったが、九官鳥は即座に「バカ」と言い返しただけだったので、杏子も雄造も苦笑する。

雄造が父親を呼びに行った後、ソファに座った吉岡課長は、今の雄造さんは久仁子さんの兄さんで、作曲家の卵だそうだが、今はアルバイトでナイトクラブでピアノを弾いているらしいと杏子に教える。

大株主のくせに、息子や娘に苦労をさせている事を知った杏子がケチンボですねと言うと、吉岡課長も、自分ももう6年間も課長をやっているのにいまだに昇進せん。社長は病気なので、ここの爺さんの一声でもあれば…などと調子に乗ってしゃべっていたが、気がついたら後ろに、その大道老人(小川虎之助)が立っていたので、驚いて詫びる。

しかし、杏子が、補聴器をお使いになるほど耳が遠いのでは?と言うと、確かに…と気づいた吉岡課長は、ちょっと今の失態を忘れると、大きな声で、最新式の補聴器を持って来た事を大道老人に伝える。

しかし、そんな大声を出さんでも良い、補聴器がいるのはうちの家内だと、横に立っていた夫人(岡村文子)を紹介した老人は、君は相変わらず粗忽だな。まだまだ部長にはほど遠いななどと吉岡に告げる。

その後、津沢と又ドライブに出かけた杏子は、君の兄さんにはちゃんと話しておいた。杏子さん、僕と結婚して下さいと告白されたので、思わず、ええ…と答えてしまう。

その頃、飲み屋で深見と飲んでいた太郎は、津沢さんから話を聞いたが、妹とはまじめな付き合いらしいし、妹の方も好きらしいと伝える。

すると深見は、当てになるもんか。あいつは偽紳士だと言い出したので、太郎は変な八つ当たりは止せと止める。

しかし、深見は、本当だ!と言って聞かなかった。

その頃、津沢は、杏子を「外苑荘」なる連れ込みホテルに誘っていた。

僕に恥をかかせるのかと迫る津沢に、結婚まで待ってと言いながら、さすがに杏子が躊躇していると、あんたたちをずっと付けてたのといきなり現れた女が話しかけて来る。

この男は悪い奴なんだ。あなたは早くお帰りなさいと言われた杏子は、戸惑いながらもその場を立ち去る事にする。

今のはどうやら、津沢が前に付き合っていた女らしいと気づいた杏子は、アパートに帰って来ても青ざめていたので、出迎えた太郎は何かあったのか?まさか、津沢さんと間違いをして来たんじゃないだろうねなどと問いつめられる。

杏子がかろうじて否定すると、お願いがあるんだと言い出した太郎は、今後津沢さんとは付き合わないで欲しいと言い出す。

杏子は、私、津沢さんが好きなの。結婚申し込まれたのよと教えるが、太郎は、足尾さんと言う元BGは、津沢さんに子供を堕ろさせられた上に、会社を辞め、今はキャバレー勤めをしているそうだ。明日、僕は津沢さんに頼んでみる。重役の息子だから、その後、辛い思いをする事になりそうだが、杏子のためなら何でもないさと言う。

それを聞いた杏子は、兄さん、私諦めますと答えたので、いつか今日の事を笑って話せる日が来るさと慰めた太郎は、泣き出した杏子に、お前、深見の事をどう思う?などと聞いてみるが、嫌よ、今そんな事言うなんて…、お兄さんひどいわ!と杏子から拒絶されてしまう。

翌朝、出社途中の杏子に、近づいて来た深見が声をかけるが、杏子は暗い表情のままだった。

その後、太郎に会った深見は、杏子は津沢さんを諦めるそうだが。君も嫌だと言っていたと教えられがっかりする。

その頃、父親の津沢専務から呼ばれた浩は、三井さんから、お前に嫁をもらわんかと言われた。大道さんの娘はどうだ?一つ考えてみてくれよと言われるが、あまり興味がないし、それよりも給料が足りないので小遣いをくれとねだる。

津沢専務は、遊ぶのもいい加減にしろ!と叱りつけながらも、いつものように金を渡してしまうのだった。

営業課では花島課長が出かけたので、先日、屋上でアコーデオンを弾いていた大道久仁子を撮った写真を太郎が観ていると、松村たね子も近づいて来て、今度は私を撮ってくれないと甘えて来る。

でも相手にされない事を知ったたね子は、私なんかじゃピントがぼけちゃうもんねとすねてしまう。

津川浩は大道久仁子を廊下に呼び出すと、自分たちの結婚話が進んでいるらしい事を話し合うが、親し気に話し合うその2人の様子を、たまたま近くにいた杏子は目撃してしまう。

総務部に戻って来た杏子は、吉岡課長から、桁違いの間違いを杏子がしたことを指摘され叱られてしまう。

その直後、せつ子から、あなたに電話よと言われたので出てみると、相手は先日連れ込みホテルの前で会った足尾要子(北あけみ)からであった。

指定された喫茶店に行くと、待っていた要子は、津沢さんのこと決心した?と聞かれたので、別れないと答えると、私だって別れないわ。会社を辞めるとき10万もらったけど、一生つきまとうわ。あの人だって、私を欲しがる時があるわなどと笑いながら言うので、不愉快になった杏子はすぐに店を出て行く。

会社の屋上では、兄の太郎が津沢を呼び、今後は妹に近づかないで欲しいと頼んでいたが、ホテルに誘った事でも聞いたのか?と問いつめて来た津沢は、杏子との事はお断りしますと頭を下げる太郎に、良く俺に言うよな。今頃…と不快感を露にする。

妹をあなたの玩具にさせません。足尾要子さんのように…と太郎が断ると、いきなり津沢は殴り掛かって来る。

それを止めたのは、心配して屋上にやって来た大道久仁子だった。

部屋に戻って来た太郎は、花島課長から、今何時だと思っているんだ?と1時25分過ぎである事を指摘され、この伝票を今日残業しても全部やれ!と命令される。

席に戻って来た太郎は、隣の深見から、半分俺がやってやると言われ、近づいて来た松村たね子からは、何で課長があんなに機嫌が悪いか分かる?さっき、津沢さんが課長に告げ口していたのよと教えられる。

その日の5時、化粧室でメイクを直していたせつ子は、一緒にメイクを直している杏子の顔色が悪いので、色々メイクのアドバイスをしてやりながら課長から叱られたくらいで落ち込まないでと慰め、もうBG病かな?と冗談を言うが、杏子は真顔で、もう第二期くらいかも…と呟く。

深見の協力のお陰で、何とか残業せずに伝票整理を終えた太郎は、トイレで深見に礼を言い、どっかでおごるよと言う。

だったらナイトクラブへでも行こうと深見が言い出したので、金はあるのか?と心配すると、その場にやって来た同僚(二瓶正也)を呼び止め、この前、麻雀で借金した3000円返せと迫る。

大の方に行きたかったその同僚は、仕方なくその場で3000円を支払いトイレの中に消える。

喜んだ深見だったが、その直後、別の同僚が入って来ると、急いで太郎をトイレの外に連れ出し、今の奴にはこっちが2000円を借りてたんだと説明する。

その時、隣の化粧室から、杏子とせつ子が出て来たので、4にんでナイトクラブに出かける事にする。

クラブに到着した深見は、メニューの中から一番安いジンフィズを4人分頼むと、後は踊って時間を潰さないと損だと言い出し、自分は杏子と、太郎はせつ子と踊ろうとフロアに出て行く。

その時、杏子に近づいて来たのは、大道雄造だった。

ここでピアノを弾いており、今はバンドチェンジの時間などで踊ってくれませんか?と言うので杏子は相手をする事になる。

その結果、深見は1人で席に戻り、ジンフィズをちびちびと飲み始める羽目になる。

太郎と踊り始めたせつ子が、今日の杏子さんは元気がないわねと言うと、今日はあいつの慰労会なんですと太郎は答える。

杏子と踊っていた雄造は、6月15日は、妹久仁子の誕生日なんですよと言うので、驚いた杏子が私も同じ日ですと答えると、じゃあ、一緒に誕生会をやりましょうと誘われる。

その夜、アパートの寝床に入った太郎は、隣の部屋で寝ている杏子に、もう津沢の事はもう忘れたか?と声をかけて観るが、杏子は、今日行った店、実は津沢さんに初めて誘われて行った店だったのと答え、せつ子さんの事どう思う?と逆に聞き返すと、まあ75点だなと太郎が言うので、大道久仁子なら何点?私は、せつ子さんみたいな人の方が絶対良いと思うんだけど…と付け加える。

翌朝、津沢浩は、又父親の津沢専務に呼び出され、夕べも又帰って来なかったなと小言を言われていた。

浩は、大道さんの事には熱くなれないと言うと、結婚は事業だ!と津沢専務は言い聞かそうとする。

それを聞いた浩はしらけ、次の社長を父さんは狙っているってみんな言ってるよと教える。

それを聞き流した津沢専務が、他に女がいるのか?会社の女か?と聞いて来たので、浩は今度は本気です。好きなんですと答える。

津沢専務は、結婚しても浮気するか二号にでもすれば良いではないか。女なんて可愛がってやれば良いのだとうそぶく。

昼休み、食堂で一緒に昼食を取っていた杏子はせつ子に、兄の事どう思う?と聞いてみる。

せつ子は、お兄さんには好きな人がいるわと笑う。

食器を返しに行った杏子は、そこにやって来た津沢とばったり会ってしまう。

互いに気まずい空気が漂うが、津沢は一方的に、話があるので、6時にこの前のビルの角で待っていると言い残し去って行く。

銀座和光の時計塔が夕暮れの6時を指している。

杏子は、ビルの隙間からそっとのぞいていたが、津川は約束通り、ビルの角で自分を待ち受けていた。

途中、近くのタバコ屋からタバコを買った津川は、側にいた靴磨きから火を借りるが、その時停まっていた車のバックミラーに、こちらを覗いている杏子が写っていたので、近づいて、やっぱり来てくれましたねと挨拶をする。

どこか話が出来る所へ行きましょうと歩き始めた2人だったが、杏子が入ったのは、人通りの多い歩道の真ん中にあった公衆電話のボックスだった。

津沢が不思議がると、ここでも話は出来ますし、ここなら誘惑も出来ないでしょうからと杏子は身構えながら津沢に言う。

仕方なく自分もボックスの中に入った津沢は、今はあなただけが好きで、足尾さんとはずっと前に別れた。あなたに知り合うずっと前なんです。本当に愛したのはあなたが初めてなんですと言いながら抱きついて来ようとしたので、思わず杏子は、110番線用ダイヤルを回して逃げる。

杏子に逃げられた津沢は、その後、足尾要子がいる店にやって来ると、要子の前で、ダブルのウィスキーを一息で飲み干してしまう。

明らかにやけ酒だった。

6月15日、杏子、太郎、小野せつ子、深見ら4人は、大道久仁子の誕生パーティに招待されていたが、あまりにも自分たちが場違いなので、部屋の隅のソファーで小さく固まっていた。

ピアノで「ハッピーバースディ」を弾いているのは雄造だった。

杏子は馴染みの九官鳥に、こんにちはと話しかけると、九官鳥はおめでとうと返事をする。

そんな杏子の側にやって来た雄造は、久仁子と一緒にバースディケースにナイフを入れるように勧める。

2人が一緒に入刀している時、やって来たのが津沢で、振り向いてそれに気づいた久仁子は喜ぶが、杏子の方は固まってしまう。

雄造はシャンパンを勧めに来るが、杏子の顔色が悪い事に気づく。

杏子はベランダに出て外の空気を吸うが、そこに津沢が近づいて来たので、杏子はあっちへ行って下さいと頼む。

それでも津沢が動かなかったので、やて来た深見はちょっとしつこ過ぎますよと津沢に注意する。

君は関係ないだろうと言われた深見は、実は自分は杏子さんにプロポーズしたんですからと言うので、驚いた津沢は杏子に確認すると、杏子ははっきりいいえと否定する。

津沢はそれを聞いて安心したようだったが、私もいつか結婚するつもりよ、でも津沢さんとは結婚しませんと言い残して杏子は去って行く。

結局、その杏子に同行する形で、太郎や深見、せつ子も一緒に電車で帰ることになる。

新大久保で太郎と杏子が降りると、車内に残ったせつ子と深見はともにふられたように寂しい表情になる。

深見はせつ子に、30分間僕のやけ酒に付き合って下さいと頼み、途中で降りると、馴染みの飲み屋に入り、お互い失恋仲間としてと言い合って、日本酒を飲み始める。

あなたが栗村を好きな事は知っています。栗村ってバカだなぁ、身分違いな恋して…とせつ子に同情した深見は、僕も馬鹿さ、杏子さんに好かれっこないのに…と自嘲する。

深見は、正直に言って下さい。僕、男として魅力ないですか?と問いかけ、せつ子が困っていると、急に現れた杉浦五平(草川直也)と言う男が親し気にせつ子に声をかけて来る。

せつこの前の男だったんだと言うその杉浦は、今商売してうまくいっているので、もう一度よりを戻さないかとせつ子に迫る。

せつ子が嫌がっているのを観た深見は間に入ろうとするが、杉浦はそんな深見が邪魔らしく、表に出ろと凄んで来る。

深見は相手をしてやると出かかるが、せつ子は、あの人は拳闘をやっていて、4回戦まで行ったのと深見を制止しようとする。

それでも、僕は喧嘩が巧いんだと言い、せつ子を先に出した深見は、女将(三田照子)から酒を一杯もらってその場で飲み干すと、構えていた杉浦に近づいて行く。

途中、酔ってよろける振りをしながら、杉浦の近くで倒れた深見は、バカにして見下ろす杉浦目がけ、イスを持って立ち上がると殴り掛かり、すぐに店の外に駆け出すと、表で待っていたせつ子を連れて逃げて行く。

人通りのない歩道にやって来たせつ子は、軽蔑するでしょうと恥ずかし気に深見に語りかけながら、その顔に泥がついている事に気づくとハンカチで拭いてやる。

杏子さんのバカって言って下さい、僕は栗村のバカって言いますと言い出した深見。

2人は一緒にその言葉を言い合い、その直後、2人は抱き合ってキスを交わすのだった。

翌朝、先に起きた杏子は、兄の太郎が布団から出て来ないので、会社に行かないの?と聞くと、昨日、津沢と大道久仁子の結婚が発表されたショックで、すっかり兄は気落ちしている事を知る。

太郎が言うには、課長から、結婚式の準備をするように頼まれたと言うので、さすがにそれは精神的にきついだろうと察した杏子は、出社すると、花島課長に会いに行き、兄は風邪で休ませて頂きますと伝える。

それを聞いていた松村たね子が心配して熱はあるの?を尋ねて来たので、45度くらいかしら?と杏子は適当に答えてしまう。

営業部を出かかった杏子に近づいて来た大道久仁子は、自分は今日で会社を辞めるけど、ちょっと話があるので、帰りに付き合って欲しいと言う。

その日の帰り、久仁子に付いて一緒にナイトクラブに向かうと、久仁子の隣に座って来たのは雄造で、本当は雄造からの話があるのだと言う事が分かる。

僕の事どう思いますか?と聞いて来た雄造は、僕、杏子さんが好きで仕方ないんです。両親も知っていますからと告白すると、バンド交代のため楽屋に戻って行く。

杏子は久仁子に、兄はあなたの事が好きで好きで仕方ないんですと伝えると、久仁子は、私も好きでした。でも、恋愛と結婚は別のものよと久仁子は答え、今日はここへ津沢さんが来るのと言うので、杏子はすぐに帰ることにする。

しかし、クロークの所で、杏子はやって来た津沢と鉢合わせになってしまう。

津沢は、君が久仁子さんの兄と付き合っているとは知らなかったよ。まあ僕より、大道家の方が裕福だもんね。僕たちが義兄弟になるとは思ってもいなかったよなどと嫌みを言って来たので、思わず、バカ!と言いながらビンタをした杏子は、私、今日こそ、あなたの事を嫌いになったわ!と言い残して帰るが、その様子を、近づいていた久仁子は全て目撃していた。

席に戻った久仁子に、何も知らずに近づいて同席した津沢は、あなたとの婚約は取り消させてもらいたいんですと言い出す。

さっきクロークで、あなたの気持ちははっきり分かったわと答えた久仁子は、踊って下さる?と頼み、2人は黙って踊り始める。

杏子がアパートに帰ると、そこには、兄の太郎と一緒に夕食を食べている松村たね子がいる事に気づく。

たね子は、熱があると言うので来てみたら、ぴんぴんしてるじゃないと杏子を睨み、太郎は、たね子の料理を褒め、互いに中が良さそうだったので、杏子も味見をしてみて同感だと褒める。

夕食後、たね子を送って行っていた太郎が、何かお礼に出来る事をさせて下さいと申し出ると、たね子は接吻して下さい。私前から栗村さんの事が好きだったのと言う。

踏切の警告灯が鳴り出し、やっぱり大道さんじゃないとダメなのね…と気落ちしたたね子だったが、電車が通り過ぎる轟音の中、太郎はたね子を抱きしめるとキスをしてやるのだった。

翌朝、会社では、津沢専務が、浩が婚約を解消した事をきつく叱っていた。

津沢は家を出て行きますと宣言し、津沢専務も、良し、本当に出てけ!と怒鳴りつける。

杏子は、自分の机で、太郎とたね子、深見とせつ子の合同結婚式の写真を観ていた。

他のBGたちも嬉しそうにその写真を眺めていたが、そこに近づいて来た吉岡課長までもがそれを見せてくれと言い、兄さんたち、まだ新婚旅行から帰って来ないのかと聞くと、君も1人じゃ寂しいだろうから、今日はうちに来ないか?家内の手料理でも一緒に食べようと誘って来る。

その日、言葉に甘えて、吉岡課長の自宅について行くと、妻の百合子(塩沢とき)が待ち構えており、招かれて部屋に入ると、そこには津沢が座っていたので杏子は驚く。

お父さんと喧嘩して1人で大阪に行ったそうだと説明する吉岡課長。

2人きりになった津沢は、僕今まで甘えてました。これからは自分で責任を持とうと思うのです。友人の紹介で、大阪で会社に勤めましたと杏子に話しかけて来る。

津沢君は僕の大学の後輩なのだと、杏子を騙すように家に招いた事情を詫びた吉岡は、一旦、着替えるため部屋を出て行く。

今度の会社は、一切親のコネなどはありません。明日、大阪に帰ります。返事を欲しいんですと迫る津坂。

食後、最寄り駅まで送って来た津坂は、新大久保までの切符を杏子に買って渡しながら、返事を待っている様子。

一晩考えさせてと答えた杏子は、明日13時半の急行「西海」で帰ります。それまで吉岡の家に泊まっていますからと言う津坂と別れてアパートへ帰る。

アパートの部屋に入りかけた杏子は、近くに立っていた足尾要子に気づく。

津沢さんの居場所ご存じない?会社を辞めたそうだけど…と聞いて来たので、思わずいいえと答える杏子。

今どこにいるのかしら…。私もあなたみたいに忘れたいわ…、いつかはひどい事言ってごめんなさい。津坂さんの事になると、見境が付かなくなって…と杏子に詫びると、要子は立ち去って行く。

翌日の東京駅

12時30分、佐世保行き急行「西海」のデッキ前で、杏子の来るのを待ち構えていた津沢だったが、覇者ベルが鳴ってもやって来ない事を知ると、寂し気に列車に乗り込む。

列車が発車した直後、駅のホームの柱から姿を現す杏子。

自分の席に戻って来た津沢は、その前に座っている足尾要子を観て仰天する。

要子は、杏子さんから教えてもらったのと言いながら、預かって来た手紙を手渡す。

そこには、浩さん、私も浩さんが好きだった。でもお別れする決心をしました。要子さんの方がずっとあなたの事を愛している事を知ったから。私たちは会うのが遅過ぎたのです。私はまだ20歳です。これからじっくり人生の設計図を描いてみたいと思います…と書かれてあった。

それを読み終えた津沢に、要子は、私が邪魔だったら、この切符は捨てて下さい。私は横浜で降りますと言う。

津沢は、読み終えた杏子の手紙を破り捨てると、窓から、通り過ぎる川に向かって投げ捨てるのだった。

翌朝、杏子は何もかもすっきりしたような晴れやかな顔で出勤するのだった。