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秀子の車掌さん

1941年度、南旺映画、成瀬巳喜男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

配給を担当したらしき当時の東宝の企業ロゴがまず面白い。

戦後、馴染みとなった丸に東宝の文字、周囲に虹色の光芒が広がるパターンではなく、右から左へ読ませる「東宝株式会社」という立体文字が、広角レンズ特有の歪みを描きながら、昨今の3DCG文字のように登場する。

甲州街道と青梅街道が分岐する山梨辺りが舞台だと思われる。

甲北乗合バスは、車体もオンボロ、最近は、ライバルの開発バスにお客を奪われ、ほとんど利用する客もない。

その車掌である、おこまさん(高峰秀子)は、そんな会社の状態に危機感を抱き、ある夜聞いたラジオ番組をヒントに、名所ガイドを取り入れたら、お客が戻ってくるのではないかと思い付く。

旅館に逗留中の、東京の小説家、井川権三という男に、元八と共に原稿の依頼をしてみる。
快く引き受けてくれた井川は、さっそく、おこまさんに読み方の指導までする熱心さ。

しかし、実際に、おこまさんがそのガイドを実地で始めようとすると、客が延々と歌っている女学生ばかりだったり、なかなかタイミングがつかめず、思うように実行できない。

しかも、運の悪い事に、バスが子供を避けようとして転覆、おこまさんは怪我をしてしまう。

事故の知らせを受けた会社の経営者は、保険金目当てに、破損状態を大きく見せ掛けろと、元八に命ずるが、車好きの元八は頑として承知しない。

東京の小説家も同乗していて、事情を知っていると分かった経営者は、コロリ、態度を変え、新しいバスを購入するのだった。

真新しいバスで張り切るおこまさんと元八。
東京に帰る井川を踏み切りで待ち受け、列車に手をふって見送る。

しかし、その頃、バス会社の経営者は、儲からないバス事業を止める準備をしていたのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

淡々とした日常をユーモラスに描いた井伏鱒二の原作をそのまま映像化している。
何もない地方の情景、緩やかに経過していく時間、登場する人物達も、みなのんびりしており、悪い人間等一人もいない…。

ドラマチックな事など、何も起こらないのに、観ていて、何故か心癒される。
高峰秀子も愛らしいが、運転手役の藤原鎌足の飄々とした演技が印象に残る。

戦時が始まった時期に作られたとは思えない程、ゆとりのある小品。