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どですかでん

1970年、四騎の会(木下恵介、市川崑、小林正樹、黒澤明)の作品であり、黒澤明初のカラー作品でもある。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

電車が大好きな六ちゃん(頭師佳孝)は、ちょっと知的ハンデがある子で、毎日、自宅から貧しい人たちが固まるように住んでいる場所までを、電車のまねごとをしながら往復していた。

てんぷらやをしながら、女手一つで六ちゃんを育てている母親(菅井きん)は、そんな六ちゃんが不憫でならず、毎日、お経を欠かした事がない。

一方、貧しい住宅が並ぶ一角には、様々な人間達が暮らしている。

毎日酔っぱらっては、義理の娘をいたぶって生きている男(松村達雄)とか、ひょんな事から、互いの女房を交換してしまう労働者仲間(田中邦衛&井川比佐志)とか、家を持たないくせに、将来自分が作る家の話ばかり子供相手にしている男(三谷昇)とか、女(奈良岡萌子)に裏切られ、完全に精気を失ってしまった男(芥川比呂志)とか、悪妻(丹下キヨ子)と、奇妙な顔の病気を持ちながらも、生真面目に働く中年サラリーマン(伴淳三郎)とか、絶えず違う男に抱かれては産んだ子供らを、分け隔てなく育てている亭主(三波伸介)とか…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

世間一般の目から見れば「どん底」のような状態の人間たちの生活振りを、一人一人追いながら、人間の弱さ、幸せとは何かを問い掛けているような作品になってる。

毎日、住宅地の中央にある洗い場に集まっては、各々の生活を話題にしている奥さん連中。
達観をしたように静かに暮らす老職人(渡辺篤)らが、そうした不思議な人間模様を観察する立場として描かれている。

個々の家庭内での、小さなドラマは描かれるものの、映画全体として、白黒時代の黒澤作品のようなダイナミズムはない。

作家主義の強い作風であり、興行的にも失敗した事から、作品自体も失敗作のように思われがちだが、今、改めて観てみると、色々考えさせる、奥深い作品である事が分かる。

六ちゃんの自宅一面に貼られている電車の絵の鮮やかな色彩や、極彩色で塗り分けられた住宅地や女性陣らの服装など、原色を好む、後年の黒澤らしさが、早くも見て取れる。

初期の娯楽作品とは一線を画す、黒澤のもう一方の特長であるアート的作品と理解して観れば、個性豊かな秀作だという事が分かると思う。

個人的には、芥川比呂志の異様な芝居と、健気に父親を支える乞食の子供の存在が強く印象に残った。