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座頭市物語

有名な勝新主演のヒットシリーズ第1弾。

過去何度か観ているが、久々に見直してもやはり面白い。

天知茂演じる平手造酒の事は強く印象に残っていたが、今回、南道郎演じる蓼吉も実に魅力的なキャラクターだった事に気づいた。

ずる賢こくて小心で実に嫌なキャラクターなのだが、そんな嫌なチンピラが、市の身の回りの世話をさせられると言う辺りの設定が巧い。

やがて、その蓼吉の妹、おたねが登場し、座頭市にぞっこん惚れてしまうと言う展開も興味深い。

直接的に、飯岡組のヤクザたちの嫌らしさを描いて行くのと同時に、そんなヤクザと一線を画するように見える座頭市にしても、人の愛情など受ける価値がないクズ人間であると言う事を市自らに語らせる事で、ヤクザと言う存在を徹底的に否定している。

市は天下の嫌われ者ヤクザであって、決してヒーローなどではない事を徹底して観客に伝えているのだろう。

シリーズ第1作だけに、色々市の興味深いエピソードが語られている。

市は、この作品の3年前まで、普通の按摩だったと市自ら語っている。

しかし、そのままではどんなに頑張っても目明きを見返す事は出来ないので、執念で居合いを学習し、信じられない技と心眼を身につけた…と言う事らしい。

ハンデに甘んずる事を嫌う負けじ魂、何かに対する執着心が、連れ添いをもらって平穏に暮らすと言う選択肢を最初から市に拒絶させている。

その辺の事情は、実は、次の2作目で語られている。

大映京都時代劇特有の丁寧な構図と陰影の深み。

完成度の高い、見事なプログラムピクチャー作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1962年、大映、子母沢寛原作、犬塚稔脚色、三隅研次監督作品。

※本文中、今では差別用語と言われる言葉が登場しますが、作品の作られた時代、作品の内容から考え、避けてしまっては意味の通らない部分もあり、基本的にそのまま使っていますのでご了承ください。

花見客が踊っている中、客の肩をもむ座頭市の背中

タイトル

米俵を運んでいた荷車に乗せてもらい飯岡組の店の前に到着した座頭市(勝新太郎)は、農民に感謝して店の中に入る。

店にいた猪助(中村豊)は、座頭市から親分に会いに来た座頭市と伝えておくんなさいと頼まれるが、親分は今いないと答えると、では待たせてもらいますと言うので、奥のタコ部屋まで手を引いて連れて行ってやる。

そこには、飯岡組の子分たちがたむろしており、昼日中から博打に興じていた。

部屋の隅に座らせられた市は、庭先に梅が咲いていると匂いで気づくが、すぐに顔をしかめ、何だか臭えな…と呟く。

それを聞いた子分たちは色めき立ち、何が臭いんだ?と市を睨みつける。

汗と垢が腐ったような匂いがするんで…、ここは兄さんたちのタコ部屋なんですね?と答えた市は、あっしに壺振りをさせてくれませんか?仲間に加えてくださいよと博打に興味を示す。

おめえ、振れるのか?と子分の蓼吉 南道郎がからかい気味に聞くと、あっしもヤクザなんで…と市は言う。

面白がった子分たちは、市に壺を振らせてみるが、振った壺の外にサイコロが転がってしまう。

「1」と「5」だった。

それを観た子分たちは、笑いをかみ殺し、みんな「丁」に賭け、1325文もの金が賭けられるが、誰も「半」には賭けない。

市は空の壺を持ち上げたので、「5」「1」の「丁」と言う事になり、市は負けてしまう。

しかし、市はそれにめげず、もう一回やらせてくれと、持っていた小判を取り出してみせたので、子分たちは喜んで受ける。

市は壺を振り、又外に転がり出たサイコロは「1」と「4」だったので、全員「半」に賭ける。

すると、市は、壺を持ち上げようとして、手前に落ちていたサイコロに気づくと、あ、いけねえ、懐からこぼれちまったと言いながら、素早くその2個を袖の中に入れると壺を持ち上げる。

すると、壺の中にもちゃんとサイコロが入っており、それは「丁」の目だったので、誰も無言の中、「丁」だったんですねと言いながら、市は金を全部拾い集めてしまう。

子分たちは、今のはいかさまじゃねえか!こいつ詐話師だぜ!といきり立つが、市は平然と金を集めると、あんたがた、壺を外れた駒に賭けたんですか?賭けってのは、壺の中に賭けるもんじゃねえんですか?どうりで臭えわけだ。飯岡って親分さんの人柄も分かったよと言いながら帰りかける。

それを見送った蓼吉は、口封じにやってしまおうと言い出し、2人で市を追いかけて外に出るが、そこに帰って来た飯岡助五郎親分(柳永二郎)と出くわしてしまう。

どうした?と聞かれた蓼吉たちは、何でもねえんで…とごまかして、親分と一緒に店に戻ると、玄関口で座頭市がわらじを履いて出かけようとしていたので、それを観た助五郎親分は大喜びする。

座敷に再び上げさせた市を、親分は、日光で会った人だが、すごい剣の使い手なんだと子分の政吉(千葉敏郎)や清助(守田学)たちに紹介する。

それを聞いていた子分たちは半信半疑の表情だったが、助五郎親分は、酒壺を居合いで斬ってしまったんだなどと言うので、座頭市は必死にもう結構ですと話を止めると、この辺で金になりそうな仕事はありませんか?と聞く。

助五郎親分は側に控えていた蓼吉に、これから市さんの世話一切をお前がやれと命じる。

その後、面倒を観ている松岸の半次(三田村元)と言う男が、関八州の役人小山真介なる人物の妾お芳(真城千都世)を下げられた挨拶に来て、一緒に夕飯になる。

自分の部屋で蓼吉に肩をもまれながらその事を聞いた座頭市は、役人の妾をもらった人がいるんですかと驚き呆れる。

しかし、助五郎親分は、これで半次も自分も関八州の後ろ盾が付いて、何をやっても怖いものなしだと夕食の席で喜んでいた。

その時、半次が、笹川の所に江戸から腕利きの浪人ものが付いたそうだと噂を教えると、助五郎親分は、うちにも強いのが転がり込んで来たからちょうど良い。あいつの居合いを見せてもらおうと、政吉に呼びに行かせる。

しかし、座頭市は、今日はそんな気になれませんんで…と政吉の使いを断ると、居合い斬りは見せもんじゃねえ!と蓼吉の前で怒って、ふて寝してしまう。

座頭市が断ったと政吉から聞いた助五郎親分は激怒し、市が蓼吉から身体を揉んでもらっていたと聞くと、それじゃ、あべこべじゃねえか!と悪態をつく。

市は、庭先に誰か来ているのに気づくが、それは部屋にいた蓼吉に会いに来た妹のおたね(万里昌代)だった。

庭に降りて来た蓼吉に、おたねは、お咲ちゃん、どうするの?おなかは大きくなるし…、身重になったら捨てるなんて…と、兄が捨てた恋人の事をしかりに来たのだったが、蓼吉の方は、おたねが別れた兄貴分の清助とよりを戻せと反論する。

しかし、おたねは、ヤクザの女房なんて金輪際ならないよ!お父っあんに言いつけてやるから!と怒りながら帰って行くので、蓼吉は妹の名前を呼びかけて追おうとする。

蓼吉は清助と会ったので、必ずおたねを戻してみせるからと約束する。

そんな蓼吉に、釣り竿を持った市は、魚釣れるとこないかい?と聞き、ため池ならあると聞くと、ため池ならフナだな…と呟いて出かけて行く。

市が釣りを始めると、一人の浪人ものが隣に腰を降ろし、一緒に釣り竿を伸ばす。

釣れましたよと眼が見えないはずの市が教えたので、浮子の動きがどうして分かった?と浪人が聞くと、何となく気配で…と市が答えたので、浪人は驚いたようだった。

浪人平手造酒(天知茂)が市の正業を聞くと、無職です。飯岡さんの所にわらじを脱いでおりますと市は答える。

お侍様は?と聞かれた平手の方は、笹川の居候で、江戸から流れ着いたと答えるが、お身体、悪いんじゃないですか?と市から言われたので、何の異常もないが…と答えたものの、口元に着物を押し宛てて少し狼狽する。

おでんやのおたねが、飯岡組の賭場の客に飯を持って来て帰る。

その横の「賽銭勘定所」の中に飯屋があると市を連れて来た蓼吉は、自分はちょっと用があるので、一時ほど後に迎えに来ると言い残して去って行く。

おたねは、そんな兄に気づき、お父っあんが話があるんだってと呼び止めようとするが、蓼吉は無視して立ち去ってしまう。

おたねはおでん屋に戻り、父の弥平(山路義人)に逃げてったと報告している所に、先ほどから話を聞いていた市が入って来ておでんを注文すると、自分は助五郎親分の厄介になっていると自己紹介すると、蓼さんのお父さんでしょう?と話しかける。

その時、近くの助五郎の賭場で騒ぎが起こる。

笹川の子分が客に紛れて入り込み、自分の組の賭場に引き抜こうとしていたのがバレたのだった。

助五郎親分は、袋だたきにした笹川の子分に、繁造にいつでも相手になってやると言っておけ!と言い放つ。

そんな騒ぎを知った弥平は、近々出入りがあるかもしれないと顔を曇らせ、飯岡と笹川は、ことごとく張り合っているのだと市に教える。

その頃、平手造酒は笹川の家の台所で、飯炊婆さんのお兼(小林加奈枝)に冷や酒を頼んでいた。

お兼は、平手の身体を心配しながら酒を汲みに行くが、1人残った平手は、突然、剣を抜くと、その場で振ってみせる。

そこに、酒を持ったお兼が戻って来て顔をこわばらせる。

そんな平手を見つけて近づいて来た笹川繁造(島田竜三)は、先生にはまさかのときのお力になってもらいたいと用心棒役を依頼する。

しかし、平手は、わしは人を斬るために刀は抜かんと断るが、繁造は意に介さぬ風で、相手は飯岡助五郎で…と打ち明けたので、その名を聞いた平手は驚く。

一方、その助五郎の方は、灸をすえながら子分たちの前で、繁造の奴、盲蛇に怖じずとは…と呟いていたが、政吉から、盲は禁句ですぜと注意され苦笑すると、江戸から来た奴と市の奴を噛み合わせたら面白れぇなどと言い出す。

助五郎は蓼吉を呼ぶが、今いないと言う。

政吉は、市と言う人はたかが盲じゃないですか。本当に強いんですか?と助五郎の言葉を信じかねるようなことを言うが、その時、その座頭市が子分たちの後ろの方でちゃっかり話を聞いていた事を知り、黙り込む。

助五郎親分の側に近づいて来た市は、自分をメ○ラだのカ○ワなどと言われるのは良い、その通りだから。

でも、たかがメ○ラだとか、メ○ラのくせに…と侮った文句を言われるのは嫌なんです。

あっしも、3年前まで笛を吹いていた按摩です。修行すれば検校や師匠にもなれるが、そんなものでは目明きは驚かない。

あんたら、こんな事が出来ますかい?と言った市は、火の灯った蝋燭を持ち上げると、空中に放り、一瞬の居合い抜きで、蝋燭の芯まで縦にまっぷたつに切り裂いてしまうと、自分の部屋に戻って行く。

市の生意気な態度にむかっ腹を立てた助五郎親分だったが、市の部屋にやって来た時には満面の笑顔だった。

笹川と出入りになったら手伝って欲しいと頼みながら3両を市に手渡すが、市は、あっしの命が3両?と不満そうに言ったので、じゃあ、5両出そう。…8両ならどうだ?と不機嫌そうに値を上げて行く。

結局、3両は手付けで、後の5両は仕事をする時に渡すと言う事で話はつく。

その直後、蓼吉が戻って来たので、市は、何かやってきやしたね?とからかい気味に小指を突き出してみせる。

翌朝、いつものため池に釣りにやってきた平手は、近所の農民たちが騒いでいるので訳を聞くと、若い女が死んでいるんだと言う。

ため池に浮かんでいたのは、蓼吉から孕まされたお咲(淡波圭子)だった。

仲間たちと一緒に朝飯を食っていた蓼吉の元にやってきたおたねは、お咲が死んだ事を伝え、例え兄さんが手をかけていなくったって、殺したようなもんじゃない!早く会ってやれば死なずに死んだかもしれないのに…と憤る。

蓼吉は、お咲が、俺の子を孕んだなんて誰にも言うなよと妹に口止めする。

そんな蓼吉に、市は言葉をかけ、又釣りをしにため池に出かける。

そこで又、平手に会ったので市は喜ぶが、平手は、今朝方ここで水死人があったので、今日は殺生は禁止だよと言い、通夜のつもりで、今日は俺と酒に付き合わんかと誘う。

笹川の家を出て、今では、浄勝寺に身を寄せていた平手は、市と酒を酌み交わしながら、出入りになればお互い敵味方、その前にわしは一度、貴公と手合わせしたい。下らん喧嘩で争いたくないんだと言い出す。

市が、メクラの私に何をしろと…と戸惑うと、わしは貴公が見破った通り労咳だ。吐く息の乱れで見破ったのであろう。その右肩の盛り上がりには執念が固まっていると思うが…と平手は言う。

そんな平手の肩をもみ始めた市は、あっしの技なんて歯磨き屋がやっているような居合いで、大道芸に過ぎませんと謙遜しながら、旦那はこんな下総はずれに来るような方じゃないと思いますと答える。

平手は寂し気に、貴公もわしも天涯孤独だ…と呟くが、そこに、寺の小坊主が顔を出し、笹川の親分さんが来たと伝える。

部屋に入ってきた繁造は、見知らぬ市を怪訝そうに観るが、無害そうだと思ってか、いよいよ飯岡とやり合う事にしたと平手に話しかける。

市は、それじゃあと言って帰ろうとしたので、繁造は、外は闇夜だから気を付けなよと言葉をかけながらも、市が出て行くと、奴が持っているのは仕込みの刀じゃねえか?何者なんです?と平手に聞く。

飯岡の居候だそうだと聞くと、驚いた繁造は、それじゃあ、帰って何を言われるかも知れねえと心配し、子分2人に口封じに後を追わせる。

勝負を見届けに行かんか?と平手が刺そうと、繁造は、なあに、すぐに帰ってきますよと市を見くびっている様子。

それでも平手が出かけたので仕方なく後を付いて外に出る。

途中まで、小坊主が送って来たが、背後から近づく気配を感じ取った市は、行灯だけ受け取って小坊主は先に寺に返すと、その場で行灯を吹き消し、これで条件は同じだろうと誘いをかける。

襲いかかってきた笹川の子分2人は、市の一瞬の居合いで倒されてしまう。

それを林の奥から観ていた平手と繁造は斬られた2人の側に来ると、ありゃ、何者です?と繁造が驚きを隠さず尋ね、観た通りメ○ラだ。見事だと平手は感心する。

飯岡組に帰って来た市を出迎えた蓼吉が、どこに行ってたんです?心配してたんですよと言うので、ため池に落ちたんじゃないかって心配したんですか?と市は皮肉っぽく答える。

その頃、子分2人の死体を浄勝寺の住職に託した繁造は、市は自分が引き受ける。鉄砲で撃ち殺しますから、それ以外は助けて下さいと平手に懇願していた。

翌朝、蓼吉が市のひげを剃ってやると、市は、浄勝寺に平手さんと言うお武家さんがいるので、3升ばかり上酒を買って持って行ってくれないかと頼む。

280文をもらって承知した蓼吉だったが、台所であった目下の猪助に、2升5合、上酒じゃなくていいから届けろと命じ、差額はちゃっかり自分の懐に入れる。

言われた通り、酒を買って、浄勝寺へやってきた猪助だったが、そこに笹川の子分2人が見張っていたので、異常を感じ逃げ出そうとするが、捕まって袋だたきに遭う。

その後、飯岡組の敷居に、猪助の惨殺死体が放置される。

顔の上に笹の葉が置かれていた事から、笹川組の仕業と気づいた助五郎親分以下子分たちはいきり立つ。

その頃、笹川繁造は、出入りになれば、平手が1人で30人はやってくれると子分たちと作戦を練っていたが、そこに女房のお豊(毛利郁子)が、平手さんが血を吐いて倒れたと知らせに来る。

飯岡組の方では、猪助を北枕にして寝かせると、猪助は一体何しに行ったんだ?蓼吉が台所でさっき会ってたじゃねえかと言い出すが、蓼吉は知らねえよとごまかす。

おたねのおでん屋で食事をした後、外に出た市は、猪之助さんと言えば、飯岡を訪ねて来てしょっぱなに口を聞いたんだ。可哀想に…、夕べの仕返しかもしれねえ…と気づく。

その直後、おたねは、店の中で市が忘れて行った手ぬぐいに気づき、外に出ようとした所に、兄の蓼吉が入ってきて、一緒に連れて来た清助とよりを戻せ。返事次第では、今夜、飛んでもねえ事になるぜと言い残して自分は先に帰って行く。

清助は嫌がるおたねに抱きつくと、無理に身体を奪おうとするが、抵抗されたので、ドスを抜き、その顔を斬ってやると凄む。

その時、暗闇から石つぶてが飛んできて清助がひるむと、闇に中から現れたのは、忘れ物を取りに帰って来た市だった。

市は、おたねを送って行くと誘うが、その時、清助に向かって、誰かいるのかい?と睨みつけたので、市の腕前を知っている清助は何も言えないまま、去って行く2人を見送るしかなかった。

月夜の池のほとりまでやってきたおたねは、出入りになったら手伝いするんでしょう?と心配そうに話しかけてきたので、市は、実は逃げる算段をしているとこですと答える。

そして市は、無性におたねさんの顔を観たくなったと言い出し、おたねの方は、こんな顔ですと、自ら市の手を握って自分の顔を触らせる。

市さんには、こんな所にほくろがあるんですねと言うおたねは、私にもあるんですよ、子供がたくさん生まれるほくろだそうですと言うので、市は、いくら生まれても、ヤクザにしちゃいけませんよ。あっしは自分がヤクザやって来たので、ヤクザのばからしさと知っているからでしょうと説く。

翌日、飯岡助五郎親分は、政吉に、笹川に果たし状持って行け。江戸の用心棒が血を吐いてぶっ倒れたそうだ。やるなら今だと命じていた。

そして、帰って来た市の部屋に来た助五郎は、猪助の弔い合戦をやる事になったが、あんたに5両渡さなくてもいいようなあんばいだと言い出したので、市は、3両は手付けだったんじゃねえですか?第一、メ○ラなんて連れて行ったら、飯岡の名に傷がつきますぜと手伝いを渋る。

それを聞いた助五郎は激怒し、出て行きやがれ!と怒鳴りつける。

そんな市の部屋に庭先から近づいてきたおたねは、出入りになったんですねと声をかけるが、市は、私は行かなくても言いらしいですと笑顔で答える。

おたねは、おでんを持ってきたと差し出すが、そこに入って来た兄の蓼吉は、市さん、逃げるんだってな?笹川の用心棒が血を吐いたんだ。とっとと出て行きやがれ!と罵倒して、妹の持ってきたおでんを蹴飛ばしてしまう。

やがて、飯岡組は、6隻の小舟に乗って川を上り始める。

それを知った笹川組では、人数では勝ち目がないので、「こもしきの袋小路」に誘い込もうじゃないか。あそこなら、こちらは隅々まで知り尽くしているから有利だと相談しあう。

その後、浄勝寺で寝込んでいた平手を見舞いにきた笹川繁造は、先生が倒れたのを知った飯岡が仕掛けてきたと報告すると、平手は、銃を使うのか?と聞く。

そして、無理して起き上がると、使わないでくれ。わしが斬る。今日は大分良いなどと言い、小坊主に着替えの準備をさせる。

その直後、駕篭で市も浄勝寺へ見舞いに来るが、出迎えた小坊主が、先生は笹川の手伝いに行ったと言い、これをもらいましたと印籠を手に握らせてくれたので、覚悟して行きなすったか…と呟く。

そこに、おたねも駆けつけてきて、自分を連れて行ってくれ。自分は一生市さんの杖になるつもりだなどと言い出す。

それを聞いた市は、俺なんか、コ○キ同然のヤ○ザだ。若い娘が座頭の手なんか引いていたら、笑いもんになりますぜと言い聞かすと、又、駕篭に乗って出かけて行く。

それを見送るおたねは、街道で待っていますよ!と去って行く市に声をかける。

川岸に到着した飯岡組は、遠くに固まった数人のヤクザを発見、繁造の身内か?といぶかしがるが、そのヤクザたちが急に逃げ出したので、子分たちはおもしろがって後を追いかけ始める。

その後を追う助五郎も、案外、笹川の方から泣きを入れて来るかもしれねえぜなどと笑っていた。

狭い袋小路に逃げ込んだ笹川組は、民家の中に身を潜め、後から追ってきた飯岡の子分たちを叩き殺し始める。

その時になって、政吉たちは笹川と一緒の平手の姿を認め、慌てるが、もう逃げようがないので、立ち向かって行き、あっさり斬られてしまう。

それを観た助五郎は、畜生!市を手放すんじゃなかった!と悔しがる。

袋小路での戦いは凄惨を極め、家の中にいた農家の女房までも巻き込まれて斬り殺される有様。

農民たちは、太鼓を叩いて念仏を祈るしかなかった。

飯岡組の子分たちを斬りまくっていた平手は途中で喀血するが、笹川繁造は、やるだけやらせとけと無責任なことを言う。

一方、助五郎は家の中で頬かぶりをすると、そっと逃げ出そうとするが、そこに蓼吉がいたので、一緒に連れて行く。

そんな所に、市が駕篭に乗って駆けつけてきたので、その姿を見つけた平手は、思わず、座頭市!貴公を待っておったのだと叫ぶと嬉しそうに近づいて来る。

市は、旦那、病気だと言うのになんてことするんです!と嘆く。

しかし平手は、入らぬ世話だ!と拒むと、来い!真剣勝負だ!死に土産に、わしの太刀筋を観たくないか?と言うので、市も覚悟を決め、やるからにゃ、後には引きませんよと応ずると、近づいてきたチンピラたちにてめえたち、手を出すんじゃないぞ!と睨みつける。

2人は橋の上で相対峙する。

市は平手に頭を下げると着ていた羽織を脱ぎ、欄干にかけると、斬りあう。

一瞬の動きだったが、平手は咳き込む。

一旦、鞘に収めた刃を再び抜いた市は、再度、平手と交差する。

平手は市の肩に頭を乗せると、見事だ…。つまならん奴の手にかかるより、貴公に斬られたかった…と呟く。

市は、平手の身体を抱きとめ橋の上に横たえると、自分の羽織を上にかけ、泣き出す。

その勝負を観ていた飯岡組の子分たちは喜び、繁造を殺せ〜!と雄叫びを上げるが、そんな中、助五郎と蓼吉は、川に浮かんだ小舟の中にむしろをかぶって隠れていた。

笹川繁造らは、その後、飯岡組に追いつめられ惨殺されてしまう。

浄勝寺には、平手を運んできた血染めの駕篭が到着しており、小坊主が泣いていた。

川に浮かんだ小舟の中には、死んだ飯岡組のヤクザたちが累々と積み重ねてあった。

蓼吉は市に、兄貴分の政吉や清助が死んだので、俺が代貸しになったと喜んで報告していた。

助五郎も上機嫌で、目出てえなと言いながら市に酒を勧めようとするが、ばかやろう!と怒鳴った市は、助五郎が持っていた丼と側に置いてあった一斗樽を居合いでまっぷたつに斬ってしまう。

そこの船には、お前のために、犬死にとも知らず死んでいった奴らが並んでいるのに何が目出たいんだ!俺たちはヤクザ、言わば天下の嫌われ者だ!お天道様に顔向けできない日陰者の癖して、何を良い気になってお天道様に顔出している?大バカやろう!と怒鳴りつけると、持っていた3両をその場に投げ捨てて浄勝寺に向かう。

市は小坊主に供養代を払うと、7年経ったら供養に来ます。こいつも一緒に埋めて下さいと言って、持っていた仕込み杖も手渡す。

その様子を木陰から盗み見していた蓼吉は、にやりと笑うと、寺から出てきて遠ざかって行く市の後から、刀を抜いてそっと近づいて来る。

しかし、背後からの気配に気づいた市は、斬り掛かってきた蓼吉を捕まえると、土手から川に叩き込んでしまう。

その川は、泥で身動きが取れず、蓼吉はもがき苦しみながら沈んで行く。

一方、襲ってきた相手が誰だか知らない市の方は、どうせ、ろくな奴じゃないだろうと言い捨ててその場を立ち去ると、街道を避け、山道を汗だくになって登って行く、

下の街道では、おたねが待っているのも市には見えなかった。