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おヤエのもぐり医者

おヤエシリーズの一本で、上映時間56分の中編作品。

女中ものではなく、本作での若水ヤエコはお嬢様風の町医者を演じている。

実は本当の医者ではなく…と言う設定なのだが、相変わらず人に対してどこまでも優しいキャラクターなのはそのまま。

シリーズ当初から出ているのは森川信だけとなり、途中参加の藤村有弘、坊屋三郎に加え、本作には世志凡太が参加している。

さらに、若手のインテリ風二枚目として待田京介が参加しているのも珍しい。

本作では、森川信が重要な役柄を演じており、お涙ものとしてはかなりベタな展開ながら、達者な所を見せてくれる。

小林旭主演でヒットした「南国土佐を後にして」が1959年の8月公開で、本作が同年の10月公開なのだが、いかにペギー葉山が歌うこの曲がヒットしていたかが分かる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、日活、高橋二三脚本、春原政久監督作品。

下町の淀んだ川縁にある「若水医院」にパトカーが近づいて来たので、診察室で暴れていた子供たちや診察を待つ患者たちは緊張する。

その時、診察室では、スリの虎吉(藤村有弘)が鼻の治療をヤエ子(若水ヤエコ)に診てもらっている最中だったからだ。

その地区は貧しい住人ばかりで、この病院の常連の中には、警察の厄介になりそうな連中が含まれていた。

警官の山田(木崎順)が玄関を入って来たので、患者たちは身構えるが、院長を呼んでくれと言うので、くず屋の常吉(世志凡太)が、診察室に、先生、おまわりさんが来ましたよと伝える。

すると、治療をしていたヤエ子は、近くにいた老いた父親甚作(片桐恒男)を連れ、玄関口に向かう。

あなたが院長ですかと老いた父に向かって聞いた山田警官の問いに、ヤエ子がそうですと答え、あなたは?と言う質問には看護婦ですと答える。

山田警官は、お宅にあるカメラの製造番号などを全部これに書き込んでくれと言って、世帯調査票のようなものをヤエ子に渡して帰って行く。

誰かを捕まえに来たわけではなかった事を知ったヤエ子は、甚作を診察室へ連れて戻り、又、寅吉の診察に戻ろうとするが、その時突然、甚作が倒れてしまう。

ヤエ子はパニックになり、医者を呼ぼうとし、騒ぎを聞きつけた患者らも診察室を覗き込むが、倒れた甚作は、ヤエ子、心配ないよと呟いた後、息絶えてしまう。

葬式後、ヤエ子は父の遺影の前で悲しみに沈んでいた。

病院には「売家」の貼紙が貼られ、ヤエ子は病院をやめる決心をしていた。

その貼紙前に集まっていた近所の常連患者たちは、この病院がなくなっては困るので、取りあえず掛け合ってみようと言う事になる。

彼らを迎え入れたヤエ子は、自分は福島の田舎に引っ込むつもりで、看護婦の免状しか持ってないので医者は出来ない。

今までやっていたのは、医師免許を持った父親が側にいたから良かったのであって、今後、私だけでやれば医師法違反で逮捕されてしまう。

資格がない自分だけでは、医者の看板を揚げるわけにはいかないと説明する。

それを聞いていた常吉などは、俺はとっくにくず屋の鑑札など取られたが、まだ商売していると説得するが、ヤエ子は、もぐり医者などやったら、私は刑務所に行きますよと拒否する。

その時、近所の男が飛び込んで来て「毒を飲んで一家心中!」と言うので、さすがに驚いたヤエ子はその男に付いて行く。

ようやく見つけた場所に立っていた男は、フグ毒に当たった男ならここにいる。地面に埋めると直ると言うのでと言いながら地面を指す。

そこには、地面に首まで埋められた徳さん(森川信)がいた。

さらに、こっちにもいると言うので、家の中を覗くと、そこでは徳さんの一人娘えみ子(鏡ひろ子)が吐いており、それをメガネの青年が介抱していた。

あんたが、フグなんか食べさせたの?とヤエ子が青年に詰問すると、自分は向かいに引っ越して来たばかりの若林(待田京介)と名乗る。

失業して食えないからと、フグの肝を拾って来て一家心中をしたらしいと言うので、その肝を持って来させると、それはフグではなく、鰹の腸だった。

それを知った徳さんはがっかりする。

病院に帰って来たヤエ子に、待っていた寅吉や常吉は、今、治療をやったじゃないか、今後も今のように治療を続けてくれと頼むが、さっきのは例外ですとヤエ子は断る。

妊婦の売春婦おしげ(久木登紀子)も堕してくれと泣きついて来るが、妊娠9ヶ月で堕せるわけないじゃないかとヤエ子は呆れる。

そんな病院に飛び込んで来たのは、メンバーの一人水野(石丘伸吾)が盲腸になったと言うチンドン屋の親方(坊屋三郎)とそのおかみさん(雨宮節子)だった。

ヤエ子は手術なんて出来ない。他の病院に行ってくれ。医師法違反で監獄へ入れられるんだと断るが、親方は、監獄にはおちの家内を代わりに行かせるからなどと無茶を言う。

困るヤエ子を前に、その場にいた近所の連中が、勝手に手術台にピエロの扮装をした水野を乗せてしまう。

水のの苦しむ姿を目の当たりにしたヤエ子は、手術をする決意をし、助手を誰かやってくれと頼む。

しかし、ヤエ子が親方を指名しても、臆病風に吹かれ声を上げない。

そこにやって来たのが、徳さんの薬を取りに来た若林で、助手なら私がやりましょうと名乗り出てくれる。

待合室で手術を待つ事にした親方は、虎吉やおかみに、タバコをねだるが、ないと言うので、自分の煙草を取り出して吸おうとすると、虎吉もおかみも自分のタバコを取り出して吸い始めたので、親方は呆れる。

その時、パトカーのサイレンが近づいて来たので、手入れだ!と思い込んだ全員は緊張し、親方は待合室の電気を消してしまう。

そこに玄関から入って来た警官を、全員が押さえつけようともみ合いになる。

手術中、静かにしてくれと若林が診察室から顔を出すと、警官は、本庁からの連絡で殺人ですと伝えると、親方たちを睨んで、お前たちの顔、覚えておくぞと言い残して帰って行く。

若林が警察関係者だと知ったおしげは、ここの先生は警察に手術の手伝いをさせた事になるじゃないかと慌てる。

診察室で無事手術を終えたヤエ子は、あなたには心得があるわねと若林の手伝いに感謝するが、若林は用があるので失礼しますと言い残し帰ってしまう。

手術を終え、ほっとしていたヤエ子だったが、その時、おしげが痛いよ!!と叫び出したので、もう診ないと拒否するが、あまりに叫び声が大きいので様子を見に行くと、生まれる直前だと分かり、慌てて、その場にいた男たちに産湯の準備をさせたりする。

その後、若水医院の表には「御用の方は裏口から」と言う貼紙が貼られていた。

入院してベッドの上でクラリネットを吹いていたのは、盲腸の手術が成功した水野だった。

往診から帰って来ていたヤエ子は、川岸で警官と共に何か検査をしている若水から、盲腸の患者はもう大丈夫ですか?と声をかけられたので返事をしようとするが、警官がいる事に気づくと、慌てて往診鞄を後ろに置いてあったリヤカーの荷台に放り込んで適当に相づちを打っていたが、気がつくと、リヤカーをおじさんが運んで行っていたので、慌てて追いかける。

病院に戻って来たヤエ子は水野の様子を見に行くが、ベッドはもぬけの殻で、置き手紙だけが残っていた。

そこには、自分は、音楽家を目指して上京したが、結局チンドン屋にしかなれなかった。故郷の高知に帰り、ムルト沖で鯨でも獲って暮らそうと思う。治療費は払えないのでその代わり、クラリネットを置いて行きます。勘弁して下さいと書かれてあった。

ヤエ子は、がっかりするが何も言わず、ベッドの上に置いてあったクラリネットを取り、「南国土佐を後にして」を吹き始める。

すると、拍手が聞こえたので窓から外を観ると、食中毒が治った徳さんと娘のえみ子が橋の所に立ってこちらを見ていたので、病院に招き入れる。

唐草の風呂敷を背負っているので、それは何かとヤエ子が聞くと、内職の造化が入っているのだがオシャカが多くて…と答える徳さんの身体が震えている。

どこか具合が悪いのかと聞くと、実は朝から何も食べてないのだと言うので、ヤエ子は余り物のそうめんを出して2人に食べさせてやる。

腸なんて拾って来たりして…、何であんな事やったの?とヤエ子が聞くと、徳さんは、元トラックの運転手だったが、事故起こして、その後、女房には逃げられたんだと告白する。

そこへやって来たのは、チンドン屋の親方とおかみさんで、こちらにも置き手紙があったが、水野が治療代も払わないまま逃げ出したんだって?と謝りに来る。

徳さんが直った事を喜んだ親方らだったが、徳さんの話から、ヤエ子がクラリネットを吹ける事を聞くと驚く。

ヤエ子は、父が音楽が好きだったので…と恥ずかしがるが、吹いてみてくれと親方から頼まれたので、一節吹くと、水野より巧いと親方は感心する。

それを聞いていた徳さんが、自分も吹けたらね…と言うのを聞いたヤエ子は、自分が徳さんにクラリネットを教えるので使ってやってくれないか。自分が責任を持つからと親方に頼む。

親方は、先生が責任を持ってくれるなら…と不承不承承知するが、徳さんは喜んで、取りあえず前借りとして2000円借りれないかと言い出したので困惑する。

ヤエ子は、働くとなりゃ、地下足袋の一つも買わないといけないだろうからと弁護してやり、親方は仕方なく、2000円を徳さんに貸してやる。

ある日、ヤエ子が徳さんにクラリネットを教えていると、娘のえみ子が見知らぬ男の子を連れて来たので、その子は誰?とヤエ子が聞くと、池田光男(安藤啓治)君と言って、お父さんは警察の部長なのよと言う。

驚いたヤエ子は、えみ子を病院内に招き入れると、もうあの子をここへは連れて来ちゃダメよ。あの子の口からバレたら、私は医師法違反でこれですからね…と手首を組む仕草をして注意する。

何とか、クラリネットを吹けるようになった徳さんは、チンドン屋に加わって働き始めるが、つい、通りがかりの男が捨てたタバコを拾ってその場で吸い始めたり、イマイチ仕事熱心ではなかった。

そんなある日、なかなか徳さんが来ないので、親方が家に様子を見に行くと、足が痛いと寝ている。

今日は、肉屋の宣伝を頼まれているので困るよと言いながら、親方が徳さんを外に引っ張り出し、演奏を始めようとするが、その直後、徳さんがその場に倒れてしまう。

若水医院で徳さんの足を診察したヤエ子は、大手術を要すると判断する。

それを聞いた徳さんは、親子心中をするよりマシなので、やっておくんなさいと頼む。

そんな病院に肉屋の主人が怒鳴り込んで来たりしたので、困った親方は、クラリネットがいないのでは商売できない。先生は保証人じゃないですか。何とかして下さいと迫って来る。

やむ終えず、ヤエ子はピエロのメイクと扮装をして、チンドン屋のクラリネット吹きとして参加する事になる。

その時、若林が通りかかり、ピエロの顔を不思議そうに覗き込んだので、バレると思い慌てたヤエ子は、橋のすみの方に逃げる。

しかし、おかみさんが、そんな顔をしていたらバレやしませんよと慰めてくれる。

その夜、常吉と親方に手伝わせ、徳さんの膝の大手術を始めたヤエ子だったが、その時、庭先に警官の姿と共に若林がやって来る。

カーテンの裏に身を隠したスリの虎吉は、匿ってくれと言う。

しかし、診察室に入って来た若林は、何か虎吉は僕の姿を診て勘違いをして逃げたようだが、さっきあいつがどぶ川で指先を洗っていたので、この辺の水には毒があるので注意してやろうとしただけなんだと言う。

ヤエ子の姿が見えないので、先生は?と若林が聞くと、親方はトイレに行ったとごまかす。

実は姿を診られたらヤバいと思い、ヤエ子は手術台の下に隠れていたのだが、手術の途中で席を立つとはとんでもないと言いながら、若林は徳さんの手術を自分で始める。

ヤエ子は看護婦らしく、手術台の下から、若林が支持する道具を素早く渡して行く。

その後も、ヤエ子は、手術がすんだ徳さんへのクラリネットの指導は続いていた。

しかし、ベッドで吹いていた徳さんはベッドから落ちかけ、私は生まれつき音痴なんだよとヤケになるので、ヤエ子は、あんたの足はもう直っているんだよと説得するが、このまま寝かせといて下さいと徳さんはだだをこねる、

そんなやる気を出そうとしない徳さんに困ったヤエ子は、いつまでもあんたの為にチンドン屋をやっていられないよと叱りつけ、何とか立たせようとしていたが、そこに、赤ん坊を抱いたおしげがやって来る。

そのおしげの方にヤエ子が向かうと、もう徳さんはその場に倒れたので、自分で立ちなさいとヤエ子は叱りつける。

その時、刑事と警官が診察室に入って来たので、ヤエ子は覚悟を決めるが、刑事が逮捕状を差し出したのはおしげの方だった。

おしげがすんでいるドヤから麻薬が出たのだと言う。

連れて行かれるおしげに、この赤ん坊はどうするんだい?とヤエ子が聞くと、赤ちゃんは生みたくないのにあんたが生ませたんだからあんたのせいよと言い残して行く。

そんなある日、えみ子は小学校の父兄参観日に光男と一緒にやって来る。

徳さんは来られなかったが、光男の父親である池田部長がやって来て、他の父母たちと一緒に授業参観を始める。

「お医者のお姉さん」と題した作文を読むように先生から指名を受けた井上えみ子は、家の近所のお医者のお姉さんは、貧しい人からはお金を取らないで診てくれるので偉い人です。お姉さんは看護婦で医師法違反になるそうですが、医師法違反と言う意味は分かりませんが、とてもみんなから感謝されています。私もお姉さんのような医師法違反になりたいです…と自分の書いた作文を読んでしまう。

そんな事は知らないヤエ子は、みんなでプレゼントを持ち寄って病院にやって来た虎吉や常吉、チンドン屋などから日頃の治療を感謝され、ささやかな感謝パーティを開いてもらっていた。

立てない徳さんも、酒に釣られてパーティに参加して来ると、みんなと一緒に乾杯をした後、先生は裏町の天使ですよと感謝し、チンドン屋のおかみさんも、天使以上ですよと褒め讃える。

うれしくなったヤエ子は、酒も飲まず、みんなに振る舞うと、自分は「おこさ節」を歌い始める。

その時、庭先から山田警官がやって来て、今日は署長命令で来たのだけれど、医師法違反で一緒に来て下さいと言う。

その場にいたみんなは凍り付き、今頃になって…と恨み言を言うが、覚悟を決めていたヤエ子は、来るべきものが来たんです。徳さん、赤ちゃんをお願いします。この家は売るなり貸すなりして、ミルク代を絶やさないようにと頼むと、おとなしく山田について行く。

徳さんは、預かった赤ん坊をえみ子に抱かせると、先生!先生!と声を上げながら必至に立ち上がろうとするが倒れてしまう。

やっぱり俺はダメだ…、すみませんと徳さんは謝る。

警察署の留置場に入れられたヤエ子は、先に入っていたのがおしげだと気づく。

おしげは、やっぱりバレたんだねとヤエ子に同情するが、ヤエ子は、赤ちゃんは徳さんに預けて来たよ。この頃良く笑うようになって来たんだよと教えてやる。

しかしおしげは、そんなに可愛かったら、先生にあげるよと憎まれ口を聞くだけ。

翌朝、チンドン屋の音楽で目が覚めたヤエ子は、クラリネットの音もするので、徳さんが来ているのではないかと思い、まだ寝ていたおしげを起こして踏み台になってもらうと、高い窓から橋の方を見やると、はたして、徳さんがクラリネットを吹きながら、親方やおかみさんといっしょに演奏していた。

明らかに、ヤエ子に見せようとしているらしく、その場を動こうとしなかったチンドン屋だったが、徳さんは、背中に背負った赤ん坊を留置所の窓の方に向けて見せてやる。

それを見たヤエ子は、えかった(良かった)、えかったと喜び、足が直ったんだもの…、これで親子が食べて行けると安心する。

あんたの坊やが何も知らずに笑っているよと教えてやると、さすがにたまらなくなったおしげは交代してくれと言う。

ヤエ子が今度は踏み台になってやると、赤ん坊の顔を窓から観たおしげは泣き始める。

そんな徳さんたちチンドン屋の側にやって来たジープから降り立ったのは若林だった。

ヤエ子が医師法違反で掴まっていると言う話を聞いたらしき若林は、任しときたまえと言って警察署に向かう。

警察署長(小泉郁之助)の部屋にヤエ子と共にやって来た若林は、自分は本庁の監察医であり、あの川の付近で風土病があるので、その研究に来ていたのですと打ち明ける。

署長は、手術の際などは医師免許を持ったあなたがいつも付き添っていたので医師法違反にならないと言うのですね?と若林の言わんとする所を汲んでやり、ヤエ子は無事釈放になる。

それを警察署の前で待ち受けていた常連たちは喜び、虎吉はヤエ子をお姫様だっこをして、みんなと一緒に橋を渡って行くのだった。