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眠狂四郎殺法帖

市川雷蔵が狂四郎を演じた大映版シリーズ第1弾。

加賀百万石の命運を握る秘密が隠された石仏を巡り、忍者を雇う前田宰相斉泰の一味と、少林寺拳法の使い手を味方にする富豪商人との争いに、狂四郎が巻き込まれると言う伝奇物語風の展開になっている。

狂四郎の周囲には、芸者の歌吉、元スリの文字若、そして前田家の奥女中千佐…と魅力的な美女たちがそろっており、狂四郎に味方する忍者の登場など、敵味方共に個性的なキャラクターが登場し、大衆娯楽時代劇としては申し分のない展開となっている。

シリーズ第1作目となる本作では、狂四郎が、元々孤児ながら、13才まで空然と言う僧に育てられていた生い立ちや、その不幸な生い立ち故に、人や世の中を恨んだりするひねくれた性格になった事、さらに自分と同じような不幸を背負った人間の影を見抜く事が出来る事などが語られている。

本作の一番の見所は、少林寺拳法を操る僧を演じている城健三朗こと若山富三郎と狂四郎の円月殺法の対決。

さすがに、大映のライバル関係だった勝新の実兄だけに好敵手として描かれているが、チャンバラの名手と言われた若山富三郎の少林寺拳法と言うのも珍しい。

勝新の妻となる中村玉緒を抱く芝居をする雷蔵の心境を知りたくなるが、当時の雷蔵にとっては、赤ん坊の頃から良く知っている女の子と言う感覚だったらしい。

この当時の中村玉緒は、本当にきれいで清楚なお嬢さんと言った感じだが、女の身体を武器に狂四郎に挑む所など、若いながらもなかなか熱演している。

強欲な商人銭屋五兵衛を演じている伊達三郎も、癖のある悪役振りを披露しており、最後の最後まで楽しませてくれる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、柴田錬三郎原作、星川清司脚色、田中徳三監督作品。

眠狂四郎(市川雷蔵)は、河岸付近で伊賀者らしき忍者から、突如火の点いた手裏剣を投げられ、気の乗らないまま、逃げた1人を除き、他の全員を叩き斬ってしまう。

その様子を、近くの野次馬に混ざってみていたのは、加賀藩前田家の奥女中千佐(中村玉緒)と根来竜雲(木村玄)であった。

人を斬った狂四郎は、何事もなかったかのように闇に消えて行く。

タイトル

馴染みの船宿「喜多川」にやって来た狂四郎は刀を手入れしていたが、そこに芸者歌吉(扇町景子)がやって来て甘えかかる。

さらに、江戸一番の巾着きりと自称する金八(小林勝彦)がやって来て、袖擦り小路で陳孫(城健三朗=若山富三郎)と言う坊主から文を預かって来たと狂四郎に渡す。

文には「明日巳の刻、亀戸、清古寺、臥竜の梅の下にて 陳孫」と書かれてあった。

それを読んだ狂四郎は、ここへ来るまでの河岸で役人が騒いでいたろう?と聞くが、金八が何も…と答えたので、6人もの死人が消えた?と不思議がるが、すぐに、歌吉を寝所に誘うと、金八には、明日、文字若の所へ行くと伝えてくれと言って追い返す。

その頃、戻って来た根来と千佐から、差し向けた雇い忍者が6人も殺されたと聞いた前田宰相斉泰(沢村宗之助)は、素性が分からぬと言う狂四郎に興味を持ったようで、千佐に、そなたの働きで狂四郎を当方の味方にしてくれるか?こういう仕事は女の方が向いておると頼む。

死体を処分したのも、根来だったのだ。

それを聞いた千佐は、身寄りのない私をお側近くに留め、子供の頃から慈しんで育てていただいた千佐はとうに命は捨てておりますと答える。

斉泰は、眠に陳孫を消させたら、そやつも消すのだと根来に命じる。

さっそく、狂四郎に会いに文字若(真城千都世)の常磐津指南の店を訪れた千佐は、身寄り便りのない自分の命を守ってくれ。相手は陳孫と言う唐人で、先年、金沢で捉えられ獄死した銭屋五兵衛の一味だと依頼する。

自分の父は、加賀藩の奉行をしていたが、銭屋事件に巻き込まれ連座して切腹したが、その時、加賀藩の命運を握る品を隠したと思われ、銭屋の一味から付けねらわれているのですと説明する。

なぜ、前田家の奥女中なら藩主が守らん?と狂四郎が問うと、殿さまの寵愛を拒み続けているので…と言い、自分を抱く代わりに100両の金で引き受けてくれと頼む。

身体を売るより死にますると言う千佐に興未を持った狂四郎は、仕事を引き受ける事にすると、文字若にしばらく千佐を預かってくれと頼むと、清香寺の臥竜の梅に向かうが、外まで追ってきた文字若は、冷たくすると、又、元のスリに戻っちまうよときれいな娘を預けて行った狂四郎に焼きもちを焼く。

そんな文字若に、常磐津に来ている連中がみんな言っているぞ。袖擦り小路の文字若は、歌はダメだが、腰を振って歩く姿は男を吸い付ける。俺もそう思うとお世辞を言って機嫌を取り結ぶと、狂四郎は出かける。

梅の下で待っていた陳孫(若山富三郎)に会った狂四郎が、貴公は唐人か?と聞くと、否、祖先が天正年間に渡来した陳源品なので、唐人の誇りを名を留めておるのだと言うので、明国少林寺から少林寺拳法を伝えた?と狂四郎が問うと、13代末裔陳孫と答えた次の瞬間、飛び上がって、側にあった石灯籠を足で破壊する。

貴公の円月殺法といずれかの?と挑戦的な口調の陳孫だったが、俺の味方に付いて欲しいか?死んだ銭屋の復讐をするため、江戸に出てきたと頼んで来る。

狂四郎から銭屋との関係を聞かれた陳孫は、獄死した銭屋とは抜け荷仲間であったと告白する。

俺らに抜け荷をさせておきながら…と、宰相斉泰への恨みをぶちまけた陳孫は、千佐と言う奥女中が会いに行ったろう?あれは宰相の間者だぞと教える。

加賀藩の事から手を引けと言う陳孫に、断ると言ったら?と狂四郎が答えると、俺を小馬鹿にした奴は後悔すると凄む。

その時、根来率いる忍者たちが現れ、陳孫に襲いかかったので、梅の短冊!と狂四郎に伝えた陳孫は、忍者たちを少林寺拳法で蹴散らすと逃げ去ってしまう。

「円月の砕ける波ぞ 佃島」そう書かれた短冊を斬り取った狂四郎。

その頃、千佐に密会し、狂四郎は手強い。まだ陳孫とはかみ合っておらんと教えていた忍者の捨丸(高見国一)は、この仕事、あんたなら出来るかもしれん。女だからな。だが、あいつがあんたを抱いたら、俺はあいつを殺すと言い出す。

そこへ、狂四郎が帰って来て、文字若と会うと、千佐を俺の「巣」に連れて行くぜと伝える。

船宿「喜多川」に連れて来た千佐に、俺の前に座っているのは美しい悪魔だ。お前、間者だろう?と突きつける狂四郎は、俺が一番嫌いなのは、人間を品物のように使う奴だと言い放つ。

それを聞いた千佐は、あなたは思っていたより恐ろしい方…、存分になさいませと言うと、自ら行灯を吹き消す。

すると狂四郎は、今度は色仕掛けか?身体は売らんと言ったはずだが?と皮肉を言う。

売りはしません。あなた様に差し上げますと言う千佐に、お前はすでに身体を捨てておる。抱かれてもお前は燃えまい?と問いかけた狂四郎は、前田家の運命を左右するものを教えろ!と迫るが、千佐は存じませぬと答えるだけだった。

すると狂四郎は、互いに用はなくなったな。帰れ!灯りを点けて行けと叱りつけるが、千佐がその言葉に従おうとしていると、急に気が変わったのか、待て!お前、この家にいろ。死ぬ事を覚悟して上屋敷に帰るんだろう?つまらん忠義なんてばからしいものに凝り固まるな。もうお前は間者ではない。俺は人間と言う人間に腹を立てている男さ。そのくせ俺も人間だ。気に入れん奴らに一泡吹かせたくなっただけさ…と言い出す。

お前、不幸な育ちではないか?俺は不幸な育ちのものが持つ影が分かる。俺の不幸な生い立ちがそうさせる…と続けた狂四郎は、何も返事をしない千佐に対し、そうか…、お前も孤児か…と察する。

佃島近くの海に小舟を浮かべ、釣りをするでもない狂四郎に付き合った金八は退屈していた。

舟底に寝そべって刀を抜いてみた狂四郎は、海と空と、そして無双正宗…と呟くと、僧空然(荒木忍)の元で、円月殺法を完成させた頃の事を回想する。

海辺で円月殺法を披露した狂四郎に、空然は、その正宗を生かすも殺すもお前の心次第だと告げる。

若き狂四郎は、俺には、暗黒無頼の人間世界こそ似つかわしいと答えて、空然の元を去ったのだった。

その回想を断ち切ったのは、岸から飛んできた石つぶてだった。

目をやると、そこにいたのは陳孫だった。

陳に案内され、とある家に付いてきた狂四郎は、金八を先に返すと、自分だけ中に入ってみる。

大川の下に位置するらしきその奥の部屋に案内されて入ると、そこに待っていたのは、加賀で獄死したはずの商人、銭屋五兵衛(伊達三郎)だった。

何をやらせたいと狂四郎が問うと、味方になって欲しく、身辺の警護をしてくれればお礼は望み通りと言う。

例のもの、どこに隠している?と狂四郎がカマをかけるが、まだ、何もご存じないくせに…と銭屋は苦笑しながらも、シャムロ国(今のタイ)の碧玉仏と言う仏像の中に、加賀百万石がひっくり返るものが入っていると教える。

加賀を潰す気か?と狂四郎が聞くと、血の涙を流させたい。人に抜け荷をやらせながら、用が済むと命を狙い…と銭屋は恨みを吐き出す。

銭屋は、天下を動かしてみせます。あなたはどちらの味方です?と言うので、狂四郎がどっちの味方でもないと答えると、懐から短筒を取り出した銭屋は、あなたは銭屋の味方になるでしょうと脅してきたので、俺を信じないなら後ろから撃てと言い残し、狂四郎は部屋を出て行く。

部屋の外で待っていた陳孫から、あんたの剣を俺の空手で奪って取ると言う陳孫に…と言われた狂四郎は、剣を取れずにまだ命があったら、俺の命令に1度だけ従えと前置きし、銭屋は今までどこにいた?と聞くと、シャムロ国と教えられる。

碧玉仏で前田を脅したのはお前だろう?と聞くと、そうだ、震え上がって、銭屋を牢から出したと言う陳孫に、青い宝石像の中に何が入っている?と聞くと、外国から持ち込んだ禁制品に、公儀御用と札を立て街道を通る時に、それを証明する加賀宰相直筆の送り状が使われた。面白いじゃないか、その紙切れが加賀百万石を潰す事になる。国法を犯して密貿易を隠し通そうと、敵は必死になって、銭屋と俺を狙っている…と陳孫が答える。

確か、前田は参勤交代で加賀に帰るはずだが?と狂四郎が問いかけると、3日後だ。俺たちも発つ。暴れてやるぞ…と陳孫は不気味に笑い出す。

船宿「喜多川」に戻って来た狂四郎は、店の前で、子供たちと一緒に「かごめかごめ」をやっている千佐を見つけ、微笑みながらも眼で合図をして、近くの橋の下まで来ると、銭屋五兵衛が生きていた事を教えると、自分も加賀に向かうと告げる。

その頃、「喜多川」では、13の時まで狂四郎を育てた空然が訪ねて来て女将(橘公子)と会っている横で、文字若と柳橋の歌吉がかち合い、互いに狂四郎を巡って言い争いをしていた。

そこに戻って来た狂四郎は、空然を見つけて喜ぶが、その時、突如下から上がってきた陳孫が、千佐は俺がもらった。欲しければ加賀に来いと言い残して姿を消す。

狂四郎は頬かぶりをして、前田宰相斉泰の上屋敷に忍び込むと、千佐が五兵衛の手に渡った。見殺しにする気か?千佐は間者だし、五兵衛は生きている。銭屋から奪った宝物を返してやれと頼むが、宰相斉泰は、痩せ浪人の指図は受けぬ。銭屋と陳孫を殺したら3千両出すと答えたので、金で俺の面を張る気か?と逆上した狂四郎は、たまたま部屋に入ってきた妾のお宮の方の帯と着物をその場で斬り裂いてみせる。

前田宰相斉泰の参勤交代が始まる。

その列を密かに追っていたのは、捨丸だった。

僧に化けた銭屋五兵衛と陳孫も、捉えた千佐を連れ、行列を監視していた。

宰相斉泰は、眠は到底こちらに味方せぬし、知り過ぎている。斬れ!と根来竜雲に命じていた。

前田一行を付けていた狂四郎が、根来率いる伊賀者に襲撃される。

伊賀者たちをあっさり斬り捨てた狂四郎は、最後に残った根来に、円月殺法見せてやる。これがお前の見納めだ。この剣が完全な円を描き終わるまでにお前は死ぬと告げ、その言葉通りに根来を倒す。

そんな狂四郎の前に姿を現した捨丸は、お強い!俺を雇わぬか?と誘って来るが、狂四郎は断る。

それでも捨丸は、千佐殿を取り戻すのに、刀だけで足りると思うか?と問いかけて姿を消す。

その後、川で剣を洗う狂四郎。

加賀 金沢の城下

銭屋五兵衛と陳孫は、僧に化けて城下に潜入するが、前田家の警戒が厳しい事を悟ると、たまたま側を通りかかった托鉢僧の列に紛れ込み、そのままとある廃墟に隠れる。

そんな2人を付けていたのが捨丸で、狂四郎の元に姿を見せると、陳孫の隠れ家が分かった。千佐様がいるに違いない。自分を雇え、押し掛け忍者だなどと言うので、狂四郎は呆れて、お前惚れているな?千佐に…と言う。

その頃、捉えられた千佐は、かつて、銭屋に使われていた元船頭たちに囲われていたが、そこに役人がなだれ込んできたので、金を払っていた陳孫は、貴様、売ったな?と船頭の一人を怒鳴りつけながら闘う。

そこに紛れ込んだ狂四郎は、千佐に裏から逃げろと勧め、千佐は、能面師仁兵衛(南部彰三?)の家でお待ちしておりますと狂四郎に告げて1人で出て行く。

庭に出た狂四郎は千佐は貰い受けた!と陳孫に伝え、やるか!と挑んできた陳孫に、やらん、この場は2人で切り抜けようと答え、共に役人と闘い始める。

仁兵衛の家へ訪ねて来た狂四郎を見た千佐は側に寄ろうとするが、俺に近づくな!人を斬ってきたんだ。血の匂いが染み付くぞと注意するが、もうどうにもならない…、千佐は…、あなたは申されました。そなたは身体を捨てている。抱かれても燃える女ではないと…、今夜は違います。燃えぬかどうか、ごらん下さいませと言いながら抱きついて来る。

強く抱いて!例え今夜だけでも…!と必死にせがむ千佐を、明日はどうとでもなれと言いながら、狂四郎は抱いてやる。

翌朝、仁兵衛は、二階から降りて来た千佐が1人微笑んでいる姿を見て不思議がりながらも、そなたの母とは幼なじみなのだから、遠慮はするなよと言葉をかけてやる。

そんな千佐が外へ出ると、同じく二階から降りてきた狂四郎に、お可哀想に…、お嬢様をお幸せにして下さいませ。あの人があんなに微笑んでいるのは初めてですと話しかけた仁兵衛は、千佐の生い立ちを話し始める。

加賀にやって来たもう2人がいた。

文字若と金八である。

2人とも宿賃さえなかったので、得意のスリで金を稼ごうと、町中で物色していたが、そんな2人を見つけた捨丸が、狂四郎のいる仁兵衛の店に連れて来てやる。

狂四郎は、笑いながら家の前を通り過ぎていく捨丸を発見する。

その後、捨丸は、又、僧に化けた陳孫と銭屋五兵衛を付け、とある場所の塀を陳孫が手で突いて壊し、中から箱を取り出すのを見つける。

その様子を塀の角から見ていた狂四郎も、金八にあの箱が奪えるか?と頼んでいたが、文字若が自分がやると言い出す。

金八が近づいてきた陳孫に身体をぶつけ牽制すると、文字若が素早く、銭屋の手にあった箱を奪って逃げ去る。

陳孫はその後を追うが、文字若は持っていた箱を、塀の内側に投げ入れる。

陳孫も、塀を飛び越えて中に入ると、そこにいたのは箱を受け取った狂四郎だった。

狂四郎に挑みかかった陳孫だったが、屋根の上から様子を観ていた捨丸が、陳孫の腕目がけて蛇を放り投げたので、邪魔されて怒った陳孫は、腕に絡み付いた蛇を引きちぎって捨てるが、すでに狂四郎の姿は消えていた。

銭屋の元に戻った陳孫はしてやられたと悔しがるが、銭屋は、まだこちらには打つ手は残っていると言う。

金八と文字若が、仁兵衛の家に戻ってみると、暴行された仁兵衛が部屋の中に倒れていた。

その頃、千佐に会っていた狂四郎は、持ってきた箱を開けさせると、中から取り出した碧玉像の底から前田宰相斉泰直筆の証明書を取り出す。

そんな部屋の外に現れた捨丸は、ついにお目にかかった。先刻の働きに対する報酬だと喜び、お前たち2人の秘め事も天井に忍んで見届けたのを知っているかとあざ笑いながらも、何から何まで、狂四郎、おぬしに負けたと言い残し姿を消す。

再び2人きりになった狂四郎は千佐に、お前は前田宰相斉泰の娘だ。仁兵衛が何もかも語ってくれた。母は遊女だったそうだが、今は尼になり、白光院と言う寺に住んでいるらしい。この仏像が欲しければ、お前にやる。父に渡せば、加賀百万石は安泰だと言うと、千佐は頂きますと答える。

前田宰相斉泰の屋敷に戻って来た千佐は、箱を手渡すが、中には石ころしか入っていなかったので、激怒した宰相斉泰が石像はどうした?と問いつめると、預けてきました、眠狂四郎に…、お父様!と千佐は答える。

狼狽する宰相斉泰に千佐は、実の父は情け知らずの加賀藩主、千佐は慰みごとで生まれてきた遊女の子ですと訴え、私が敵方に付いたら?と問いかける。

許さん!と激した宰相斉泰に、殿様のご威光を恐れ、敵方に付かぬと思っておいでか?欲しいのはあなたの涙の一しずく。それも敵いませぬ…と、千佐は嘆くと、銭屋の財宝は?と尋ねる。

すると、宰相斉泰は、鍵のかかった部屋の扉を指し示し、そなたに与えて良いぞと懇願するような目つきで千佐に答える。

しかし千佐は、加賀百万石、私が取り潰しましょうか?加賀の支配者は私でございます。土下座を所望します。父と呼ばせはしませぬ。土下座を!と迫る。

実の娘の訴えにひれ伏した宰相斉泰は、その場に土下座をすると、頼む!助けてくれと懇願して来る。

そんな情けない父親に、私の命令、何事もお聞きなさりますか?今後、職を辞し、御隠居して、眠り狂四郎には二度と手を出さぬ事と銭屋に財宝を返す事を約束させる。

ひれ伏して承知する父の姿を見た千佐は、これが加賀宰相の真の姿…と言いながら泣きながら笑らうのだった。

その後、狂四郎と共に、白光院の母の元へやって来た千佐だったが、何者かに母は殺されていた。

薄幸のまま世を去った母に抱きついた千佐は、こんなむごたらしい…。母と子の喜びも知らず、世の中から捨て去られ…と嘆くが、その母御の死に顔を誰にも見せたくなかろう?と声をかけた狂四郎は、懇ろに母親の墓を作ってやる。

その墓の前で、遊女の末路店、私も遊女の子…と呟く千佐に、止めろ!世の中にはもっと不幸なものはいると制した狂四郎は、今まで俺は、自分から進んで殺した奴はいない。みんな他人が殺させやがった…と告白する。

そんな狂四郎に、千佐はお堂の中に隠していた碧玉仏を託すと、父は銭屋に財宝を返すと誓いましたと報告する。

銭屋がお前の母を殺したんだ、みんなこのために…と言いながら、狂四郎は手に持った碧玉仏を観る。

その時、銃声が響いたかと思うと、千佐が倒れる。

陳孫と、短筒を手にした銭屋五兵衛がお堂の中に入って来る。

罪のないものをなぜ殺した?と狂四郎が問いかけると、銭屋は、宝の在処を吐かなかったからさと平然と答え、あんた、思ったより甘い男だねと言いながら、銃の引き金を引く。

狂四郎はその場に倒れる。

側に寄って来た銭屋を、撃たれた振りをしていた狂四郎は斬り捨てる。

生きていた事を知った陳孫と狂四郎は、近くの浜辺に出て対決をする。

円月殺法を披露した狂四郎だったが、陳孫はその刃を真剣で受け止めてしまう。

刀を奪われそうになった狂四郎だったが、小刀を抜いて陳孫の身体を遠ざけると、取れなかったなと言う。

負けを認めた陳孫は、約束だ、命令してくれと言うので、銭屋の事件から手を引けと狂四郎は命じる。

引こうと約束した陳孫は、又会おう。その時は貴殿の刀を必ず奪い取ると言い残して去って行く。

お堂に戻った狂四郎は、倒れていた千佐を抱き起こそうとするが、狂四郎様…と語りかけた千佐は、こうなるのが私の身の定めと言うので、巡り会わなければ良かった、俺たちは…と狂四郎が嘆くと、いいえ、その時から私は生き始めたのです。ただ一筋、女の幸せ、嬉しゅうございます…と言い残して息絶える。

気がつくと、まだ死にきれなかった銭屋が、碧玉仏の方へ這って来ていた。

その手が石像に届きそうになった時、石像を掴んだ狂四郎は、それを台の上に置き、死闘を繰り返して欲しがった像がここにある。どうした?思うがままに遂げられる欲望がここにあると告げる。

銭屋は、もはや届きそうで手が届かない位置にある石像に手を伸ばしながら、諦めるものか…と呟いて死ぬ。

海辺の崖の上にやってきた狂四郎は、これが宝か?死の固まりか?加賀百万石がどうなろうと知った事か!もうこの世には美しいものはないのか!と叫ぶと、持って来た碧玉仏を海に投げ捨てるのだった。