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黒部の太陽(完全版)

ようやく完全版を観る事が出来た。

短縮版を観る限り、正直あまり面白い作品だとは思えず、良くある「凡庸な大作」だったのでは?と感じさせたが、完全版は全くの別物とも言う印象で、見応え十分、日本映画史に残る傑作の1本と言って過言ではないと思う。

この作品が、70年代以降の大作に数々の影響を与えたのだろうと言う事は短縮版でも気づいたが、今回観ていて、さらにその思いを強くした。

まず、北川の家に源三や国木田が集まるシーン。

母親=高峰三枝子、三女君子=川口晶、叔父国木田=加藤武の組み合わせで、いかにも単純でおっちょこちょい風の加藤がいきなりそうだと手を打つシーンを観ていると、これは「犬神家の一族」(1977)を連想しない方がおかしい。

清水将夫演ずる地質学教授が、工事関係者を前に、地質の解説をするのは「日本沈没」(1973)を連想させる。

雪の日本アルプスを延々と映したり、登山シーンがあるのは、「八甲田山」(1977)など一連の山岳ものの走りだろう。

掘削現場での出水シーンなどのスペクタクルは「海峡」(1982)などの元ネタだと思われる。

短縮版では、裕次郎が三船を立てているような編集だったが、完全版ではほぼ同格の扱いになっており、裕次郎のシーンも少なくない。

特に、古いタイプの父親源三との確執とその修復までもがきっちり描かれて行く。

短縮版ではかなり簡略化されていたキャストロールも全部登場し、芦田伸介、志村喬、寺尾聰などの登場シーンも確認できる。

北川役の三船敏郎が、藤村専務とサウナの中で裸で語り合う行き詰まるシーン。

太田社長を演じる滝沢修が、藤村専務に土下座をして工事続行を頼むシーン。

古いタイプの人夫である源三が、新しい時代の工法から取り残されて行く無惨さ。

その父親に、どこか似て来る息子役の裕次郎。

北川の娘牧子が白血病で死ぬ設定などは、今観るとあざとく感じないではないが、全体的に本物の機材や風景を使った迫力があり、特に、破砕帯の湧き水に苦しめられる所の執拗な描写は圧巻。

正に、手に汗を握り、息詰まる展開とはこの事だと思う。

一見、オールスターの日活作品のようなイメージがあるので、宍戸錠や高品格と言ったお馴染みの顔が登場しないのはちょっと寂しい気もするが、後年の「西部警察」や「特捜最前線」と言ったテレビドラマでお馴染みの顔ぶれがそろっているのを発見するのも楽しい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1968年、三船プロダクション+石原プロモーション、井手雅人+熊井啓脚本、熊井啓監督作品。

この物語は、戦後の爪痕から復興した日本人の物語である…と言うようなテロップ

日活配給ロゴ

闇の中、彼方に昇りかける太陽のオレンジ色の光芒の画像からこの映画は始まる。

タイトル

熊谷組ほか、協力会社名

雪の日本アルプスを背景に、画面左から、「芦田伸介」を始め、50音順にキャストロールが画面右に向かって流れて行く。

昭和31年6月、雪積もる険しい日本アルプスに調査に訪れた、関電黒四建設事務所の次長、北川(三船敏郎)と、トンネル設計者吉野(岡田英二)らと共に日本アルプスを登っていた。

お~い!黒部が見えたぞ~!と先頭のガイド役が叫び、北川は、周囲の山々を見渡すと、いや~すごいなと思わず口から出る。

標高2900m

富山から資材を運ぶんですと説明される北川は、トンネル工事の見聞のため先行して登っていた森山班のメンバーの一人が足を滑らせ、崖下に落下していく様を目撃する。

夕方までにダムの建設予定地に到達した北川は、たき火で暖を取りながら、ここがダムの底になるんですねと感慨深気、ガイド役も、その壮大な計画に驚く。

関西電力に戻って来た北川はは、所長の平田(佐野周二)から、武本(信欣三)らと共に、黒四ダム建設の現場責任者に指名されるが、これから記者会見が始まると言う中、困惑したような表情で、せっかくですが撤回してもらえませんか?と平田に申し出る。

平田は損な北川に、俺も年だ。そう脅かさんでくれよ、まあ、その話は後でゆっくりとなだめ、会見場へ移動する。

後日、会議室では、重役の芦村(志村喬)が、黒四の工事はどんな工事になるか分からない。入札にするとどんな金額になるか見積もりが立たないと発言していた。

それを聞いた太田垣社長(滝沢修)は、だったら匿名にしよう。うちが提示した金額で動いてくれる会社だけにやってもらうと即断をする。

厳正な審査の結果、1工区1社、5つの会社が選出された。

黒崎(芦田伸介)が、選出された5社を招き、1社ずつ担当工区と仕事内容を伝える。

熊谷組、佐藤工業、大成建設などが集まっていた。

芦村は、各社の代表たちに、工事中、決して犠牲者を出さないようにと念を押すと、黒四にはこちらからも優秀なスタッフを送りますので、各社も最高の人材を集めて欲しい。

黒崎は、6月23日までにお返事を願いますと各社代表に告げる。

太田垣社長は、社長室にやって来た北川に、渋っているんだって?と聞き、君には丸山ダムを昭和26年にやってもらったね?その時の経験が次の佐久間ダムを作ったんだよ。火力が主になりつつある今、水力発電でも安定させなければいけない。実は黒部ダムは戦前から構想があったんだが、それから3、40年調査をやって来たんだ。黒部が出来るかどうか…、資本金130億の会社が400億の仕事をするんだと説明し、経営者と言うものは10割自信がある事だけをやっているだけでは事業とは言えない。自信が7割あったらやるのが本当の事業なんじゃないかな?と熱く語るので、黙って聞いていた北川は、社長、やらせて頂きますと返事をする。

熊谷組の藤村専務(柳永二郎)に呼ばれていたのは、昔気質の現場主任岩岡源三(辰巳柳太郎)だった。

トンネル堀に命を賭ける源三は、この話はわしの所に来ると思ってましたと不敵に微笑む。

北川家の前で油絵を描いていた牧子(日色ともゑ)に、近づいて来た車から降りて来て由紀ちゃんだったな?と話しかけて来たのは、叔父で間組の国木田(加藤武)だった。

牧子が自分は由紀ではないと答えると、北川家は女の子が多すぎると国木田は首をすくめながら自宅に入って行く。

その日は、熊谷組の岩岡源三と共に、北川に挨拶に来たのだった。

出迎えたのは、北川とその家族、妻の加代(高峰三枝子)、三女の君子(川口晶)。

君子はその時まだ帰宅していなかった長女の由紀を、付属幼稚園の先生をしていると教えると、そう言えば、オヤジさんの息子も京大工学部を出て設計事務所に働いていると言ったな?と源三の顔を見た国木田は、そうだ!2人を一緒にしたら!と手を叩いて急に言い出すと、設計事務所の番号を聞き、すぐさま席を立って電話口にいく。

設計事務所で仕事をしていた岩岡剛(石原裕次郎)は、女子事務員が電話を受け、間組の国木田さんからだと言うと、用件は何かと聞いてくれと手を休めず伝える。

女子事務員が用件を聞くと、国木田は、オヤジさんが倒れた、早く来てくれ!といきなり電話口でほらを吹く。

北川の自宅にやって来た石岡を出迎えたのは、帰宅した由紀(樫山文枝)だった。

岩岡は父親である源三の側に座るが、互いに目を合わさない。

黒四を請け負う事になったと言う源三の話を聞くと、剛は、掘れると思っているのか?フォッサマグナがあるのに…中学生でも知っている事だと出したので、北川も、本来ならボーリングをやってからやるべきだろうができないのだと返事をする。

源三も知らなそうだったし、小学校しか出ていないと言う国木田が、そのフォッサマグナと言うのは何だと聞くので、剛は自分の前に置かれていた割り箸を「く」の字型にへし折ると、それを日本に例え、破砕帯の説明をし始める。

フォッサ・マグナ(破砕帯)を貫通する事はできない。落盤、出水をどうする?それでもやるのか?今なら断れると、この計画の無謀性を指摘し、戦時中の黒三の時の話を持ち出すと、いきなり源三は他人宅である事も忘れて激昂する。

ガキの時分からわしは土方だった。削岩機が俺の命だ。そのせいで女房はこいつを生んで逃げた。その女房も5年前に死んだ。

こいつ(剛)とは今日はじめて会った。

俺は日本一のトンネルを掘るのが夢だった。わしはこれを待っていたんだ!一生一度、これが最初で最後の仕事ですと言っていた源三は、いきなり湯のみを裏返しにしてテーブルに叩き付け割ると、黒部の中でダイナマイトに吹っ飛ばされる男になりてぇ!と仕事に対する執念を吐露する。

その後、京都の店で間組の大野(高津住男)と2人きりで酒を飲んでいた剛は、オヤジは自分のために掘っているんだと話し始める。

口先ではきれいごとを言っているが、犠牲者が出る事なんか何とも思っていない。人夫たちを虫けらみたいにしか考えていないんだ。

おれの中に、あいつと同じ血が流れているのを断ち切りたくて京都に来たんだと言う。

太田と会ったのは、戦争が終わる1年前で、当時は良く2人で悪さをやったと笑いあう。

2人は登山仲間でもあったが、冬の黒部登山は出来ずじまいだった。

黒部の工事を始める事は戦争に巻き込まれるようなものだ。気がつくと被害者が累々と出ている事になるだろうと岩岡が嘆くと、お前、酒が弱くなったなと大野はからかうが、剛はすぐに、ごまかすな!と反論し、フォッサマグナ、破砕帯には間違いなくぶつかる。どっちが当たるんだ?お前んとこか?オヤジの方か?と突きつける。

昭和31年8月1日、いよいよ工事が始まる。

第一工区を担当する間組は、長野県側から迎え堀りを開始するため、山に集結するが、大型機材が持ち込めないので、土方が手彫りで進むんだ!シャベルが潰れたら、爪で土をかき出せ!と現場監督の国木田は人夫たちを前に檄を飛ばすが、工事課長の大野は、大型資材も徐々に投入しますからとフォローし、もし事故が起きても家族は会社が面倒を見ますが、くれぐれも事故のないようにと頼む。

土条(大滝秀治)が鉄杭の先を岩盤に当てるポーズを取り、酒を岩にふりかけ、工事開始の儀式を終える。

その対面側に当たる第三工区を受け持つ、熊谷組の下請け岩岡組は、山脈の地下を横切る工事に取りかかる。

第四、第五工区も始まるが、ここは黒部鉄道が利用できた。

その黒部鉄道に乗って黒三ダムに近づいていたのは、北川や小田切(二谷英明)、黒三ダム経験者のベテラン森(宇野重吉)だった。

森は、けやき平まで来ると、昔はここが地の果てだった。この先には人間の手になるものは釘一本なかった…と当時を思い出す。

感傷的になっていた森を連れ、一行は高熱トンネルの地下トロッコに乗り換える。

ここは100数十度の岩盤があり、発破をかける時、早く点火しないと自然爆発するような場所だと森が解説する。

当時は戦時中であり、軍の命令だったが、今思っても総毛立つと、森は昭和13年を回顧して呟く。

絶えずホースで岩盤に水をかけながら、ふんどし一丁の裸の男たちが、ドリルを高熱の岩盤に突き立てていたのだった。

何年も地獄にいると、地獄にいる事が分からなくなる…。人夫が片輪になってもやり抜くしかなかったのだ…。300人近い労務者が死んだ。否、殺されたと言った方が良いだろうと黒三ダムに到着した森は言う。

それを横で聞いていた北川は、アルプスで目撃した森山班のメンバーの滑落の場面が脳裏をよぎる。

そこに近づいて来たのは、佐藤工業の一員として参加している森の息子の賢一(寺尾聰)だった。

その背後からは、大成建設グループもやって来る。

第五工区は丸ビル2階分に相当する空洞を地下200mの地点に作るのが役目だった。

若さ故か、賢一が作廊って山どれかな?何だ近いな、と山を甘く観ている様子だったので森は叱る。

第四工区を担当する佐藤工業は、さらに奥地の作廊に基地を作らざるを得なかったのだ。

彼らは、10kmに及ぶ連絡トンネルと水路トンネルを作廊から第一工区目指して掘り進める仕事を担当する。

山に沿って作られた狭い道を資材を背負って登っていた作業員の一人が足を滑らせ、谷底に落下してしまう。

京都では、岩岡剛と由紀が、竜安寺の石庭で遭っていた。

工事に真っ正面から反対なさったのは岩岡さんだけでしたと由紀は話しかける。

父は乗り気ではありませんでしたが、あの日から覚悟を決めたみたいです。父は会社のどなたからか説き伏せられたのでしょう。破砕帯って避けられないのですか?と聞くので、剛は五分五分ですと答える。

父は、その時の事を覚悟しているんでしょうね。犠牲者も出るでしょう。どう乗り切る覚悟をしたんでしょうね?と由紀は呟く。

秋口、剛は久々に一人でアルプスを登ってみた。

北川のいる宿舎を訪れた剛は、黒部の見納めになるでしょうと呟き、北川は、私たちがやっている事はどうなるんでしょう?あなたたちにとって…と聞くと、敵ですねときっぱり言い放ち、敵に乾杯!と北川と酒を酌み交わす。

北川は、あなたのように気ままに山を歩いてみたいが、定年まで無理ですな…と苦笑し、由紀と会って来たと聞くと、心配していたんじゃないですか?あの子は生真面目ですからと言う。

今回の仕事についてあんなに正直に言ってくれたのはあなただけだ。迷惑じゃなかったら由紀と付き合ってくれませんか?と頼むと、剛は、僕、根性曲がりですよと苦笑し、承知するが、北川が、オヤジさんも呼びましょうか?と言い出すと、止めて下さい!会えば必ず喧嘩ですから。本当の敵はオヤジなんです。黒部の工事に不安があるのは、オヤジに引っかかるものがあるからなんです…と急に不機嫌になる。

北川は、オヤジさん、神経痛で難儀しているようですよと教えると、ああ、膝ですか…と剛は知っているようだった。

岩岡組の宿舎で、医者(内藤武敏)から右膝を診てもらっていた源三は、工事は1年くらい休ませた方が言いだろうと、側に付いていた千田(鈴木瑞穂)に伝えていた。

このままだと、膝上から切断しなければ行けなくなると言うが、それを聞いていた源三は、じゃあ、ぶった切ってくれ!明日から注射して掘ってやると乱暴なことを言う。

そんな源三を見舞いにと、北川は剛と連れて現場にやってくるのだが、剛は、出たね、地金が…と剛像の事をあざ笑い、今夜はっきりしよう。あんたにあるのは金欲、名誉欲、そして妾だ!欲のためなら人殺しだってする。子供殺しだ!と剛は断罪する。

(回想)黒三ダム建設の時、源三は現場にいた長男の与一に無理矢理発破をかけさせ、爆死されたのだった。

(現在)何故時分で発破仕掛けなかった?何故兄にやらした?あれ以来、おふくろは俺を連れて京都に来た。

それを苦々しく聞いていた源三は、戦争に勝つためだった。お国のためだ!死ぬのは当たり前じゃないか!と怒鳴ったので、剛は、とうとう本音が出たね。そいつを言わしたかったんだ。とうとう言ったねと言いながら涙ぐむ。

図星だろう?足だって痛むはずさ…と嘲笑すると、激高した源三が殴り掛かって来たので、千田が羽交い締めして止める。

そんな源三の醜態を前にした剛は、そうさ、それがあんたの本性さ!と突きつける。

そんな親子喧嘩を観ていた北川は、黒三は工事じゃなかった。軍の監視の元行われていた。今度は本当の工事だと剛に訴え、ここへ来てあなたがやっている小与は個人的な事だと注意するが、剛は、過去に犯した事はどうでも良いんですか?と反論する。

破砕帯にはおそらくぶつかるでしょう。犠牲者が出るかもしれない。泣くのは家族だ。倒産する会社も出るかもしれん。それでも工事はやらなければならんのですと北川は訴える。

今度は何のためですか?日本の平和のためですか?日本の繁栄のためと言って、オヤジが青竹で人夫を殴るのは残酷だと言い張る剛に、オヤジさんを責めるのは簡単だ。でもそれじゃあ、仕事で死んで行った人が浮かばれませんよと北川が言うと、本気でおっしゃっているんですか?と剛は驚き、北川は本気ですよと真顔で答える。

宿舎の外に出て夜空を眺める剛に近づいた北川は、良い天気ですな。明日も山は大丈夫でしょうと話しかける。

俺が泊まる所はあるか?と剛が聞いたので、一晩くらいならと一緒に外に出て来た千田は答えるが、剛は、いやずっとだ、冬になるか、春になるか…と言い出す。

季節は冬になっていた。

トンネル工事現場にトロッコに乗り、北川や坑夫(榎木兵衛)たちが入る。

坑内事務所に来た北川は、順調に行ってますねと、もっとも施工者が楽と言う事はないでしょうがと熊谷組の担当者に話しかけるが、それを聞いた担当者は、北川さん、駆け引きで言っていると思っているんですか?と不快感を示す。

そんな中、源三が、じゃんじゃん前進だ!と人夫たちに命じていた。

トンネルの掘削部分では、剛がじっと削岩機の様子を眺めていた。

発破作業も始まっていた。

源三は、デレデレするな!と人夫たちを叱り飛ばしていたが、その時、背後から接近して来たトロッコに気づき、思わず避けようとするが、右膝が思うように動かず転んでしまう。

駆けつけて来た剛に、てめえ、いい気味だと思ってやがるだろう?だが、まだまだくたばらねえからな!と憎まれ口を叩きながら、源三は、近くにあった角材を手にすると、それで自分を右足を何度も叩き始める。

北川は、そんな源三をトロッッコに乗せ、医務室に連れて行かせる。

剛が気づくと、人夫たちが腰を降ろし、休んでいたので、さあ、行こうか!と声をかけ、作業を再開する。

ある日、娘たちがスキーをしに来たと聞いた北川は近くのホテルにやって来るが、そこに三女の君子がいたので、牧子は?と聞くと、20分も滑らないうちに疲れたと言っていたと言う。

剛と共に、山頂付近に来ていた由紀は、黒部の最後を見届けるんだっておっしゃってたのにトンネルに引っかかってそれっきり…。私、ちょっとつまらなかったと甘えてみせる。

剛は、この下で労務者たちが作業しているんです。僕たち高等教育を受けたような人間には敵わない人たちです。それがオヤジのような奴とどう関わるか、それを確かめるには、自分で現場に入るしかなかったんですと打ち明ける。

第二工区は1700m掘り進んでいた。

昭和32年4月下旬

平田は、作業が遅れ気味になっている事を事務所内で心配していた。

北川は、切端(きりは)が軟弱で…と説明していたが、そんな中、剛から現場にすぐ来てくれと電話を受ける。

現場に向かった北川は、天井部分がきしみ始めている不気味な音を聞き緊張する。

剛は、仲間たちと一緒に、必死に補強作業を進めていた。

4月30日

大規模な水漏れが始まる。

剛は、専門家に地質の調査をやらせて下さいと北川に頼む。

北川は、1人もけが人を出してはいけないと念を押し、補強作業は徹夜で行われたが、その夜中…

どうやら、落ち着いて来た様子だったので、久々に発破をかけてみる事にする。

5月1日午前4時

発破をかけ、掘削機械を前進させる。

しかし、天井が崩れそうな事に気づき、急いで撤退する。

朝、北川たちも現場に入って来て、スリッパをどんどん持ってけ!と指示を出す。

天井は、溶接で補強して行くが、それでも山が動く音が響き、北川は緊張度をます。

轟音が響いたので、作業していた人夫たちは一斉に上を見上げ、北川は、全員退避!と命じる。

次の瞬間、切端が崩落し、大量の水がトンネル内に流れ込み、剛たちに迫って来る。

◀休憩▶

第二部

昭和32年5月2日

事務所内で、地質学者(清水将夫)が、工事関係者を前に破砕帯の解説を行っていた。

湧き水が今後、減るのかどうかについてははっきりした事は分からななった。

そんな解説に興味が無い源三は、イスの上に横になってねてしまう。

剛は、パイロットトンネルを掘って水抜きを行い、8mの長さのコンクリートの補強を行うと今後の作業説明する。

しかし、その作業は、次々に頓挫して行く。

掘っても掘っても水が湧き出して来たからだった。

そんな中、北川がトンネル内に様子を見に行くと、壁際に源三がのけ者にされたように1人突っ立っていた。

そんな北川に速達が届けられる。

30日に、牧子が貧血で倒れ、毎日。250ccの輸血が必要だと言う知らせだった。

その後も、パイロットトンネルは、次々に湧き出る水で難航していた。

黒部に襲い春が訪れるが、トンネルの現場は悪化していた。

6月になると切端撤退が続いた。

そんな中、咳き込む人夫が数名現れ、ランプの火が消えたので、悪性ガスが発生した事を悟った北川は退避を命じる。

パイロットトンネルは100m掘った地点で諦めるしかなかった。

1号パイロットの途中から3号パイロットを掘り始めたが、これも20m進んだ所で湧き水が出て中止。

3号パイロットから4号パイロットを掘り始めたが、これもすぐに崩壊してしまう。

2号パイロットトンネルだけがやっと49m掘り進んでいただけだった。

トンネルの外には、棒を杖代わりにした源三がやって来ていたが、トンネル内に入るでもなく、棒をその場に捨てて帰って行く。

北川と平田らはこの事態に絶望感を覚え始めていた。

しかし、そんな中、剛だけは、まだ方法はある。まだまだパイロットトンネルを増やし、2号パイロットから5号パイロットを掘ったらどうかと提案する。

平田も、その内、水も減るでしょうと楽観的なことを言う。

そんな中、由紀から松本でお会いしたいと言う電話を受けた剛がレストランに会いに行くと、牧子がいけないんです。白血病なんです。長くて後1年…、化学療法で死期を伸ばすしかないんですと由紀が告げる。

お父さんにはどうしました?と剛は聞き、由紀が首を振ると、内緒にしておいた方が良い。トンネルは今、大変な山場なんですと伝える。

破砕帯はどんなにしても抜けなくてはいけませんねと由紀も承知するが、もし事故が起きたら…と心配する。

犠牲者は1人も出しませんよと剛が答えると、あなたは父と同じ立場になるのじゃないかしら?と疑念を口にし、労務者たちも分かってくれるはずですと剛が言うと、お変わりになったわ…。初めてお会いしたときは、あんなにこの仕事に反対なさっていたのに、今は私1人…と由紀は嘆息する。

その後も、湧き水との戦いは続いていた。

水に流され負傷した人夫の服を破いて、怪我の様子を見た北川は、駆付けてきた医療班に診断させ、担架で外に運び出させる。

気がつくと、人夫たちは座り込んで仕事を止めており、中の一人が、ちゃんと計画立てろって…と嫌みを言ったので、それを聞いた北川は黙ってその場を去るしかなかった。

坑内事務所に来た北川を待っていた源三は、ざまあねえな、土方にへっぴり腰になるようじゃ。けが人1人もないなんて、何の言い訳にもならんよと嫌みを言う。

その頃、剛は、平田に北川の娘が白血病である事を打ち明けていた。

平田も言わない方が良いと賛成するが、剛は、他の口実を作っても、2人を会わせたいんですと言う。

後日、本社に寄った帰りの北川は、京大病院に入院していた牧子を見舞いに来る。

病室には、妻の加代や娘の由紀や君子もいたので、北川は剛から預かって来た手紙を由紀に手渡し、貧血症だって?と聞き、牧子には高山植物の写真など土産を手渡す。

その後自宅に戻って来た由紀は、剛からの手紙を読み、お父さんはまだ牧子さんの病気の事を知りません。何とか引き止めて下さいと書かれてあった。

しかし、北川は、荷物をまとめると、今夜中に帰ると言い出したので、由紀は必死に今夜だけは泊まって、明日朝もう一度、牧子を見舞って行ってちょうだいと頼む。

北川は笑いながら、また帰って来るよと言うが、又っていつなの?と由紀が怖い顔をすると、さすがに異変を察し、お前たち、何か隠しているな?と娘や加代に聞く。

あの子は…と加代が話し始めたので、由紀は止めようとするが、白血病で後1年の命なんですと告白する。

治療法は?と北川が聞くと、どんな治療法もないのです…と崩れそうになった加代を北川はしっかり抱きとめる。

その夜、病室に再び訪れた北川は、ベッドで寝ている牧子の姿を目に焼き付けるように見つめると、そっとドアを開けて去って行く。

その気配に気づいたのか、牧子は目を開ける。

トンネル内では、側にいた剛に源三が、おい図面屋、この水はきりがあるのか?と聞いていた。

日本海から繋がっているとすると、きりはないってことだなと剛は答え、今年の正月、井戸水が枯れた事があったな。この水が山にたまったものだとすると、正月になる事には減るってことかな?と冗談を言うと、笑いかけた源三は、急に剛の冗談に乗った自分を恥じたのか、とぼけるな!と叱りつける。

坑内には焦燥感が漂っていた。外からは家族のいら立ちが募り、それは偽の電報となって現場に届くようになった。

「父危篤帰れ」とか「母危篤帰れ」と言った内容の電報である。

労務担当者に、現在の人員を確認した北川は、500人ちょっと…と聞かされ驚きを隠せなかった。

700人いるとばかり思い込んでいたからだ。

北川は、今の3交代制を2交代制にしてもらうと言いだしたので、それを一緒に聞いていた剛は、現場を絞り上げて、破砕帯を抜けるつもりですか!これ以上、どうしようもないのですよ!責めるなら上の方でしょうと抗議する。

ある日、北川は、熊谷組の藤村専務とサウナで裸同士の対決をしていた。

北川は。いきなり、いくら欲しいんです?いくら出せば抜いてくれるんです?5億ですか?7億ですか?10億ですか?ときりだす。

それを聞いた藤村専務は、金儲けのために工事を伸ばしていると言うのですか?失敬だぞと憤慨する。

それでも北川は、駆け引きはいい加減にして下さい。明日、うちの太田垣社長が来るのです。いくら欲しいんです?と重ねて聞く。

藤村専務は、本当に抜けないんだから…。こうなったら腹ぶちわって話しましょう。確かに今回の仕事は儲けが少ない。これは我が社だけではないはずだ。二ヶ月経っても三ヶ月経っても破砕帯は抜けない。

最初はたかをくくっていたんだが、現地に来て分かった。君、ありゃ、全く抜けないよ。うちはトンネルの掘削に関しては自信がある。そのうちが抜けないって言ったら抜けないんだ。うちの下請けの岩岡なんか、金を出しさえすれば何でもやる男だ。それが抜けないって言うんだから、もう万歳だよ。

わしはこれまで、金さえ出せば何でも出来ると思っていたが、今回ばかりは…と藤村専務は吐き出す。

それでも、北川は立ち上がり、壁を見つめながら、人間に金と時間と知恵を与えたら、何でも出来るはずですと力説する。

しかし藤村専務は、そんな事はない、例えばガンだ。あれは、どんなに人間に金と時間と知恵を与えても解決するかね?と反論する。

北川は、牧子の事を思い出したのか、願でも直る!直りますとも。直らないと言っているのは医者だけです。彼らは公式しかないから…。もっと、心とか、哀しみとか、そう言うものを考えてみようとしないから…

今でもトンネルは1日7cm掘っているんです。1cm、1mでも、自然がくたばるか、人間がくたばるか、徹底的にやり抜くんです!藤村さん!お願いしているんです!結論を聞かせて下さい!と血を吐くように伝える。

翌日、太田垣社長が芦村や平田を従え、水がじゃんじゃん漏れているトンネルの進捗状況を視察に現場にやって来る。

しかし、太田垣社長は切端で懸命に仕事をしていた剛に、どうだろうか?巧く抜けるだろうか?と尋ねるが、そんな太田垣社長を剛は、やるだけの事はやっている。ベストは尽くしている。観れば分かるでしょう?と邪魔扱いする。

太田垣社長は、分かる、分かると詫びを言い、さっさとトンネルを出て行く。

事務所に来た太田垣社長は、もう他に技術はないだろうか?と集まった現場関係者たちに聞く。

シールド工法と言うのがありますが、これは金もかかるし、他に転用が利かないので…と言う意見を聞いた太田垣社長は、金で解決する事だったら何でも僕に言ってくれと答え、藤村さんダメですかな?と、その場に出席していた藤村専務に問いかける。

その後、藤村専務は、平田や芦村、北川と共に、料亭で待たされていたが、そこに遅れた詫びを言いながら太田垣社長がやって来る。

太田垣社長は藤村専務の前に正座をし、11億使って下さい。足りない分は何億でも出しますと手を付いて頭を下げる。

藤村専務は、仕掛けが大きくなればいくらか気休めにはなるでしょうが…と困りきるが、太田垣社長は、金や名誉はどうでも良いんです。私は敗戦後、長男と長女を亡くしました。長男は勤労奉仕の過労、長女の方は栄養不良と兄を失ったショックで…。私は失って一番惜しいものをなくしています。もう何を失っても惜しくないのです。熊谷組さん、ぜひ!11月からシールド工法を使って、突貫工事をお願いします!来年の冬の間に破砕帯を突破しないと、また水が出ます。12月からどうでしょうか!と必死に頼まれると、そりゃあ…と返事に窮し、もう、やけくそでやりますわ!と返事をするしかなかった。

その後、すぐさまシールド工法が第三工区のトンネル内に導入される。

岩岡組の事務所では、源三が看護婦から、膝の治療を受けながら、トンネルと言うのは人間様が作っているものだ。日本は昔からそうやって来たんだ。苦労が大きければ大きいほど出来上がったときの嬉しさも大きいんだ。みんな!心を一つにして頑張ってくれ!と労務者たちに発破をかけていた。

そこにやって来た剛は、先生に叱られたんだって?と源三をからかいながら、俺、かみさんをもらうかもしれんよと伝える。

第三工区以外の現場でも、倦怠感が募り始めていた。

第一工区を担当していた間組でも、人夫たちが国木田に反抗的な態度を取り始めていた。

第四工区の佐藤工業でも、その内、第三工区の方が穴を開けてくれるまで待っていた方が良いと言うような怠けムードが広がり始めていた。

そんな中、森賢一だけは、私たちがちゃんとやっている事が、向うの励みにもなっているのではないですか?などと休憩時間中に言ってしまったものだから、他の人夫たちから、坊や扱いされてしまう。

第三工区の中のパイロットトンネルに発破を仕掛けていた人夫(佐野浅夫)は、マッチを擦っている間に、仕掛けた発破の導火線が自然発火した事に気づくが、次の瞬間大爆発で吹き飛ばされてしまう。

坑内にサイレン音が鳴り響き、2人の遺体を剛がトロッコで外に運び出して来る。

岩岡組では、人夫たちが造反を起こし、組を抜け出そうとしていた。

何だ、夜逃げか?と源三が立ちはだかると、俺たちは命までは売らねえからな!と言われたので、近くにあった棒を握って殴り掛かろうとする。

そこに、オヤジ、止せ!と言いながら戻って来た剛が、今のサイレン聞こえただろう?川村と山田が死んだ。すぐに家族に知らせてくれと伝えると、部屋を出ようとしていた人夫たちは騒ぎ出す。

パイロットを掘ろうと言い出したのはお前だな?殺したのはお前だ!と1人の人夫(下條正巳)が剛を指差す。

剛は、あの時は、ギリギリやれると思ったんだと反論し、源三も、こんな事くらいでブルっている奴は土方じゃない!と凄むが、死んだ奴らはぎりぎりまで発破をつけようとしていたに違いないと親友だった安部(下川辰平)が言う。

人夫たちは、お前たち親子は金だけが目的だ。俺たちがいなくても、熊谷組からちゃんと金が出るんだろう?わしらとは別な人間ですたいと答える。

その言葉を聞いた剛は愕然とし、本当にお前たちは俺をそんな風に思ってたのか?と聞くと、科学的かなにか知らんが、あんたはオヤジとは正反対で、やりにくかったよ!と言い残し、首だ!お前ら出て行けと叫ぶ源三を残し、半分以上の人夫たちが事務所から出て行ってしまう。

塩撒いとけ!と憎々し気に言い放った源三に、剛が、これで150人帰った…と伝え、残った連中に給料上げてやってくれと頼むと、剛、お前も段々分かって来やがったな?と言いながら、自分の腹巻きから大量の札束を取り出したので、オヤジ、バカな真似は止せ!と剛は呆れる。

その後、とうとう湧き水が止まる火がやって来る。

それを聞いた剛も、喜んでトンネルの中に入る。

パイロットトンネル10本、その総距離は500m、汲み出した水は13万リットルにも及んだ。

その頃黒部は秋になり、渇水期に入っていた。

10月から抜き掘り式に替え、水は急激に減っていた。

由紀はで、結婚式は牧子さんのこともあり、お父さんと相談して年末に決めましたと書かれた剛からの手紙を読んでいた。

トンネル内の切端では、剛と安倍が立ち、北川が側で見守る中、岩盤を大金槌で叩いてみる。

その音を聞いていた平田が、ただいま、破砕帯を抜けましたと宣言する。

12月2日午後2時35分の事であった。

由紀と剛の結婚式が行われ、白無垢の花嫁衣装を着た姉の姿を観るため、牧子も病院を抜け出していた。

お姉さんたち、お似合いよと祝福した牧子は泣きだし、だって、観たかったのよ、お姉さんを…と言う。

君子は、見違えちゃった。貫禄ねと姉たちを褒める。

その頃、第四工区の佐藤工業も順調に掘削を続けていた。

そんな中、切端近くにいた森賢一は、後ろから近づいて来たトロッコに轢かれてしまう。

入院した賢一の元に、森がやって来て、お父さんだ、分かるか?明日になったらお母さんも来てもらうからなと呼びかける。

窓の外には雪が降る夜、一晩中父親の森はベッドの側に付き添っていた。

昭和33年2月22日

いよいよ、第一工区と第三工区が接近し、通じ合う間近になる。

間組の土条 は、先鑿はこっちが頂くぞ!と人夫たちに檄を飛ばす。

第三工区側の剛に、間組側から坑内電話がかかり、発破をかけると知らせて来る。

やがて、発破は爆発するが、何故か抜けず、国木田は、ダメだ〜!とがっかりする。

2月23日

坑内電話で大野と繋がった剛が、ちゃんと掘ってるんだろうな?と冗談を言うと、大野の方はこっちは20年前の工法でやってるんだ!と笑いながら言い返す。

もう、貫通直前だったので、どちらも余裕が出て来たのだった。

病院にやって来た由紀は、又、ベッドに寝ている牧子を見舞う。

牧子は哀しそうに、お姉さん、私、立てなくなったのと言い、付き添っていた母の加代は、熱があるのよと説明する。

由紀は、牧子の弱虫!と叱る。

2月24日

25日

北島は、3時間休憩しよう。6時から再会だ。今夜は徹夜して作業しましょう。無理をしてけが人を出したくないと提案し、全員、引き上げて行く。

剛もタバコを吸い、その場に残っていたが、やがて削岩機を取り上げると、一人岩盤に向かい始める。

間組の方でも、土条が先鑿を取ろうと張り切っていたが、切端の前に立っていた国木田は、岩盤の向うから聞こえて来るドリル音に気づく。

やがて、岩盤の一部が崩れ出し、国木田が笑顔で観ている中、ドリルの先端が突き出して来る。

トンネルが貫通した知らせを受けた人夫たちは一斉にトンネル内になだれ込んで来る。

源三もヨロヨロとトンネルに近づくが、そのまま中には入らず、足を引きずりながら宿舎に戻って行く。

午後7時40分

剛が最後の発破のスイッチを押す。

白い煙が立ち上り、やがて、間組の連中が歓声を上げながら雪崩込んで来て、剛たちと抱き合う。

国木田は嬉しそうに、オヤジさ〜ん!と何度も呼びかけるが、人夫たちの中に源三の姿は見当たらなかった。

貫通の儀式が始まり、先鑿をとった岩岡の方から先に切らせて頂きますと進行役が告げると、剛と土条 が、それぞれ中央に置かれた祭壇の両側に立ち、大きく柏手を打つ。

さらに、塩を振り、酒をその辺り中に振りかける。

そして、がっちり剛と土条は手を握りあうのだった。

一斗樽が次々に運び込まれ、その場で鏡割されると、ヘルメットで中の酒をくみ出して、数百人はいると思われる人夫たちに振る舞われる。

剛と大野は笑いあうが、そのとき、天井から下がっていた黒い赤十字マークの旗を観ていた剛は、観ろ!と声をあげる。

人夫たちもその声に応じ、全員旗を見上げる。

旗は、緩やかに揺れていた。

風だ!黒部の風だ!と剛が叫ぶ。

平田や安倍も見上げていた。

誰ともなく、万歳の声がトンネル内に響き渡る。

北川も涙目でそれを観ていたが、そこにやって来た女事務員が、北川さん当てに電報ですと剛に手渡して行く。

剛はその電報を北川に渡し、北川は軍手を脱いで、壁際の灯で電報を読む。

「午後3時、黒四の完成を祈りつつ、牧子死す 由紀」と書かれてあった。

平田が音頭を取り、全員乾杯をすると、北川に挨拶してくれと声がかかる。

哀しみをこらえながら、北川は、みんなに礼の言葉を述べる。

一昨年の夏に着工し、一年余年、皆さんのお陰で貫通しました!本当にありがとうございました!そう言って、柄杓の酒を飲み干した北川は、しばらく顔を伏せたままだった。

山肌に発破の音が鳴り響き、トラック部隊が数十台通過する横を、剛は現場から帰っていた。

ダムの基礎作りが始まり、電気を通す鉄塔が建てられて行く。

源三は膝の毒が全身に回ったのか、すでに末期症状に陥っていた。

剛、由紀夫婦、千田、国木田などが見守る中、椅子に腰をかけた源三はうわごとを言っていた。

あんなもん、俺のトンネルじゃない!穴掘り始めるんだ!与一、発破かけろ!おい与一、戻れ!与一〜!戻れ〜!

源三の頭には、昔の与一と一緒の現場が蘇っていた。

気がつくと、興奮状態だった源三はイスに静かに横たわっていた。

オヤジさん!千田が呼びかけるが、もう返事はなかった。

北川は、バスガイドが黒四ダムの解説をし、登山客たちが明るく歌い騒ぐバスに乗り、黒部ダムの下のトンネル内で降り立つ。

北川の胸には、太田垣社長が藤村専務に土下座をした日の事などがよぎっていた。

「ここより破砕帯」と書かれた看板を観る北川。

その頃、剛の方は、1人でアルプスを登っていた。

黒四ダムで、北川と剛は合流するが、そんな剛の横を老夫婦が通り過ぎて行った。

息子賢一を失った森とその妻きく(北林谷栄)だった。

北川は、工事の犠牲者を悼む記念碑の前に立っていた。

その北川に、あ、いけねえ、バスの時間だ。お父さん行きますか?と声をかけた剛だったが、しばらく立ちすくんだまま周囲を見つめていた北川は、ああ…と返事をして、剛と一緒に立ち去る。

広大な黒部の雪山が広がる。

そして、その山の向うから朝日が登って来る。


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