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男はつらいよ 寅次郎物語

シリーズ39作

今回は、寅さんが子供と旅をする話がメインになっている。

もはや、寅さんが暴れ回る初期のイメージとは違い、ダメな父親代わりの役柄を演じるのである。

子供の亡くなった父親の位牌に説教するシーンなど、自分自身に対する説教になっているのを、寅さん本人もはっきり自覚している辺りが興味深い。

ラスト近く、女房子供のために汗水流して働くのが本当の姿で、自分の仕事などでたらめだとまで言い切っている。

さくらが「そこまで分かっていながら…」と哀しむのも当然である。

冒頭の夢のシーンでの、父親との確執、別れ…

秀吉という子供の名前を巡り、自分は名前のせいで出世できなかったという愚痴

自分と同じような渡世人の哀れな死…

寅さんだって、とことんバカではないのだから、それらが自分に責任があることも分かっているのである。

だから、秀吉を母親に対面させた後は、自分になついて慕って来る子供をきっぱりはねつける。

自分のような人間に付いて来てはダメになる。それをしっかり言い聞かす寅さん。

ラストで、俺たちみたいな人間が(幸せな暮らしをしている真人間に)声をかけるんじゃないとまで言っている。

この時期の寅さんは、自分というものに対するうぬぼれや勘違いは全くなく、冷静に自分のダメさ加減と向き合っているのだ。

まだ多少羽目も外す部分もあるが、基本的にはしっかりした大人…と言うか、人生の下り坂をそろそろ感じ始めているようにも見える。

だから、シリーズもこの辺りになると、もう喜劇という印象は薄くなっており、人生の哀歌と言うか、ペーソスの映画になっているのだ。

後半、船着き場の突堤を走りながら船を追って来る秀吉の姿は、あたかも「伊豆の踊子」のラストのようだ。

特に「お涙頂戴映画」というほどではないが、寅さんの哀れさ、寂しさを感じ、しんみりした心持ちにさせる一篇である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1987年、松竹、朝間義隆脚本、山田洋次原作+脚本+監督作品。

ミニチュアの葛飾柴又「とらや」周辺(無声映画風)

さくら、俺は近頃子供の頃の夢を見るんだ。あの寒い雪の夜のことさ…

俺はオヤジが大嫌いだった。

育ての母親が、謝んなさい、お前が悪いと子供の寅に言い聞かすが、俺は家を飛び出した。

お兄ちゃん!と泣きながら折って来る妹さくらに、偉い人間になって帰って来るからなと言い残して去って行く、中学時代の寅次郎

恥ずかしい話よ、今でもあの時と同じようなことやってるんだ…

お兄ちゃ~ん

女の子の呼び声で目覚めてみると、そこは中妻駅のベンチだった。

表に、友達と遊んでいた兄を呼んでいる小学生くらいの女の子がいた。

タイトル

橋を渡っていた寅次郎(渥美清)の背後から近づいて来た車に声をかけられて振り向くと、そこに乗っていたのはポンシュウ(関敬六)たち、香具師仲間だったので、寅も喜んで乗せてもらう。

地元の縁日で商売をする寅たち。

さくら(倍賞千恵子)は暗い表情で、息子の満男(吉岡秀隆)と一緒に高校から出て来ると、どうして黙ってたのよ?と問いかけるが、満男はさくらと一緒に帰るのも恥ずかしがり、別々に帰ることになる。

「とらや」では、おいちゃん(下絛正巳)が寺へ用事へ出かけることになり、手伝いに来ていたあけみ(美保純)がそれを見送っていたが、そこにさくらが帰って来て、おばちゃん(三崎千恵子)らに、三者面談で進路の話をしたのだが、満男が大学へ行くかどうか決めてませんと言ったと困った様子で報告する。

その頃、柴又駅前の自動販売でジュースを買った小学生が、プルトップを巧く開けられずにいると、通りかかった満男がそれを開けて渡してやる。

すると、その子供が、お兄ちゃん、寅さん知ってる?と聞いて来たので、満男は驚いてしまう。

どこから来たのかと聞くと、その子は、郡山と答え、寅さんから来たハガキを取り出してみせるのだった。

その後「とらや」に帰って来た満男を出迎えたあけみやさくらは、一緒について来た子供を見て唖然とする。

寅さんに会いに来たらしいと満男が教えると、寅さんは今いないとあけみが教えたので、子供は会釈して帰りかけるが、それを呼び止めたさくらは自分は寅さんの妹だと教え、どこから来たのか?と聞いてみる。

福島県郡山から来たらしいと満男が教えると、お母さんは?と聞くといないと言うし、お父さんは?と聞くと死んだと子供は答え、俺が死んだら、寅さんの所へ行けと父親から言われたのだという。

それを聞いたおばちゃんは、孤児かい…と哀れそうにため息をつく。

名前を聞くと、佐藤秀吉(伊藤祐一郎)と子供が答えたので、思わずあけみは噴き出すが、満男に失礼だと注意される。

とりあえず、遠くから1人旅をして来たらしいことが分かったので奥に上げて休ませることにする。

満男は自宅に帰るが、途中、源公(佐藤蛾次郎)に、裏ビデオ観るか?と声をかけられるが無視する。

博(前田吟)やおいちゃんも一緒に夕食を食べていた時、秀吉を見にタコ社長(太宰久雄)もやって来る。

秀吉は兄さんの商売仲間の子で、父子家庭だったらしいと博がさくらから聞かされていた。

おいちゃんがどうする?と相談すると、博は、郡山の施設にいたんじゃないかと言い、警察に渡すのが良いのじゃないかと提案するが、それを聞いていたおばちゃんは、警察に渡すなんて私がそんな残酷なことはさせないよと反対する。

さらにおばちゃんは、気になることがある。この子は寅ちゃんの息子じゃないかしら?と言い出したので、さくらやおいちゃんたちは笑い出す。

しかし、タコ社長がありえるよ、顔がそっくり等と言い出したので、面白がっているんだよとおいちゃんは不機嫌になるし、博は、とりあえず2、3日様子見ますかと、いつものようにそつなくまとめる。

その時、秀吉の荷物を調べていたおばちゃんが、父親の位牌や、母親の写真らしきものを見つける。

博やさくらも、その写真を確認して見るが、母親というのはなかなかの美人であった。

翌日、寅が荒川の土手を帰って来ると、野球のユニフォーム姿で子供連れの地元の男が声をかけて来たので、お前の子供か?可哀想に、将来が見えたようなもんだなどと憎まれ口を叩いたので、自転車を降りた親子は、悔しかったら、自分で子供を作ってみろと去って行く寅に石を投げつけるのだった。

「とらや」では、あけみがオネショした布団を干してあるのを見つけ、しょんぼりしている秀吉を励ます。

さくらは、秀吉の学校のことで地元の小学校に相談に行ったという。

あけみが秀吉を連れて外に出かけようとしている時、寅がひょっこり帰って来る。

寅は秀吉を見て、あけみの子供か?などと聞いて来るが、子供の顔を見ているうちに、あれ?どっかで見た顔だな?と言い出し、お前、秀吉か?と聞く。

あけみが、父親が死んで、母親は蒸発したらしいと教えると、ようやく寅も事情を察したようだった。

お膳の前に座った寅は、秀吉の父親のことを説明し出す。

背中に般若の刺青を入れていたことから「般若の政」と呼ばれ、飲む打つ買うの三拍子だったが、最期はサラ金地獄に堕ちたらしいという。

鹿島神社の祭りの時、子供が生まれたって言い、俺に名付け親になってくれって言うので、「秀吉」と自分が名付けてやったのだという。

俺も、寅次郎なんて名前だから出世し損ねたなどと言うので、聞いていたおばちゃんは、秀吉だって、草履持ちとか色々苦労して出世したんだよ。じゃあ、お前が秀吉って名前だったら出世したのかい?などと嫌みを言う。

何?と気色ばんだ寅を落ち着かせようと、おいちゃんは、これからどうするかだと言葉を挟む。

寅は、おふでさんを探すのよと言い出す。

あけみがふでの写真を出してみせると、おばちゃんが、その人、母親としてちょっと無責任じゃない?と言う。

すると寅は、おふでさんがミシンを踏んでいると、昼間から酔っぱらった政が酒を買って来いと命じる。身体のために控えたら?等と言おうもんなら、髪の毛つかんで引きづり回すような亭主なんだよと事情を説明する。

どうやって探すのかと聞かれた寅は、仲間内の行く所は大体分かる。小岩のポンシュウの所に行ってみると言い出し、出かけて行く。

店の前で、さくらとバッタリ出会うが、これは奥さん、しばらく、ちょっと急いでますからなどと他人行儀な挨拶をして寅は行ってしまったので、さくらは唖然とする。

江戸川の土手にやって来た満男は、寅さん観てがっかりしたろう?と問いかけ、秀吉は正直にうんと答える。

満男は、でも見かけほどひどくない。俺結構買ってるんだと言いながら、草スキーのやり方を教えてやる。

その夜、さくらは、父さんが学歴がないばかりにどんなに苦労したか知ってるでしょう?と、満男が大学受験を決めていないことに付いて説教していた。

博も、お前、野球で1店負けした時泣いてたじゃないかと、戦うことの大切さを教えようとするが、満男は、笑っちゃうよ、スポーツと大学受験を一緒にするなんてと口答えして、部屋に戻ってしまう。

その時、寅から電話がかかって来て、今社長と飲んでいる所だけど、おふでさんの行き先を突き止めた。和歌山の旅館で女中をしているそうだ。こっちに来て一緒に飲まないかと誘って来たので、電話を受けた博は、気晴らしに1杯屋って来るよ、明るく楽しいおじさんと…とさくらに告げて家を出る。

翌日、寅は秀吉を連れ、和歌山に出発することになるが、町内一同集まって、寅に餞別を渡すと、車に乗り込む寅を見送るが、見送り仲間と一緒にバイバイと言っている中に秀吉がいたので、慌てて秀吉も寅の車に乗せる。

一方、福祉事務所に出向いたさくらは、母親には母親側の事情があるかもしれないのに、勝手に子供を母親に会わせに行かした素人判断を注意されていた。

そう言う場合、施設に保護するのが普通で、母親を調べるのも私たちの仕事ですというのだった。

「とらや」に帰って来たさくらからそのことを聞かされた博は、確かにまずかったなぁ…と反省するが、おいちゃんは、善意でやったことだから…と仕方ないと言った言い方をする。

そこに電話がかかって来て、さくらが出ると、相手は警察だというので驚く。

天王寺駅派出所の警官(イッセー尾形)は、今、車寅次郎という男性と秀吉という子供預かっているが、母親を捜しに行く所だというのは本当ですか?と言う問い合わせだった。

さくらがそうですと答えると、警官は、あっさり帰って良いと寅に言うが、ふてくされた寅は、お前さんのお陰で和歌山に行きそびれたから、今晩泊まる安い宿を紹介しろと言い出す。

警官がビジネスホテルで良いかと尋ねると、そう言う所は止めてくれ。畳の敷いた旅館で、10時にパートさんが帰ってしまうような所でもダメで、1泊1000円くらいの所はないか…などと、寅はいつものような芝居口調で条件を言い始めたので、日本の現状を把握しとらんのとちゃうか?と警官は呆れる。

結局、紹介してくれたのは、帰りかけたパートのおばさん(正司敏江)が自分が食べるものをつまみに持って来てくれるようなボロ旅館だった。

秀吉を布団に寝かせ、自分はカップ酒を飲んでいた寅は、秀吉が持って来た位牌に「釈善政…」と戒名が書かれてあるのを目の前に観ながら、何が「善」だい、悪いことばかりやりやがって…、どんな人間でも取り柄があって、哀しまれ惜しまれ死ぬもんだ。お前が死んだの哀しんだのはサラ金の取り立て屋だけだって言うじゃないか。たった1度の人生をどうして、そう粗末にしてしちまったんだ?お前は何のために生きて来たんだ?…と説教を始めていた。

何?自分のことを棚に上げて?当たり前じゃないか。そうしなけりゃ、こんなこと言えるはずないだろ?と冗談めかして話し終える。

外は雨模様だった。

翌日、2人は列車で和歌山に到着するが、車中、秀吉は、仲睦まじい親子連れをうらやましそうに観ていた。

駅前に停まっていたタクシーの運転手たちに情報を聞き、和歌浦の北村荘グランドホテルに大分前にいたらしいとの曖昧な情報を得た寅は、秀吉を連れ、その旅館に向かう。

しかし、外に秀吉を待たせ、寅がホテルに入って事情を聞いて来るが、出て来た寅が言うには、美人故、ふでを巡って客同士のもめ事があって、とっくにどっかに行っちゃったらしい。

がっかりしていると、ホテルの従業員が出て来て、おふでさんから年賀状をもらっていたことを思い出したと、そのハガキを持って来てくれる。

送り先は、奈良県吉野だったので、吉野だったらこれから出かけても暗くなるまでに着くなと判断した寅は、秀吉を連れてホテルを後にする。

化粧品の販売をしていた高井隆子(秋吉久美子)は、その日の仕事を終えると、車で翠山荘という旅館にやって来る。

出迎えた主人(笹野高史)に、2人の予約だったが1人でも大丈夫かと聞くと、2割増になりますが良いですか?と言われるが、それで承知して上がる。

その直後、主人は、店の前に、木の棒を杖にして、ふらふらになってやって来た寅と秀吉を観て固まってしまう。

寅が、おふでさんを呼んでくれと頭を下げて来るが、4月の終わりに止めて、もうおらんわ。他の女中たちに妬まれて…、自分から辞めてしまったと主人は言う。

そんな主人が、秀吉の顔色が悪いと指摘したので、寅はとりあえずここに泊めてくれと頼む。

「梅の間」に泊まっていた隆子は、隣の「萩の間」から、寅が慌てるような声が聞こえて来たので、ちょっと気にしていると、その後部屋に来た女中が、隣の客の連れた子供の具合が悪いらしいと教えてくれる。

真夜中、すでに寝ていたさくらの家の電話が鳴ったので、満男が電話に出るが、寅からだと言うので、仕方なくさくらが代わると、秀吉が戻した(吐いた)と言うではないか。

額を触って!お兄ちゃんのじゃない!坊やのよ!焼けるように熱い?すぐお医者さんを呼びなさい!子供ってもろいもんよ!とさくらは声を荒げる。

電話を切った寅は、だから生き物を飼うの嫌なんだとぼやく。

主人を呼んで、医者を呼ばせるが、こんな時間に来てくれるかどうか?と主人は面倒くさそうな様子。

その時、「梅の間」から顔を出した隆子が、私が面倒見るからと言ってくれたので、寅直々に医者を呼びに行くことにする。

しかし、病院で起きて来た老人は、自分は耳鼻科で、しかももう隠居(松村達夫)だと言い、息子は今いないと言うではないか。

それでも、寅は、自ら診療鞄を持ってその老医師を無理矢理旅館まで連れて来る。

部屋にやって来た老医師は、高熱で顔が赤い秀吉の様子を見るなり、何でこんなになるまで放っといたんだ!と寅を怒鳴りつけ、今夜が勝負だと表情を引き締める。

どうやら、老医師は、部屋にいた隆子と寅を子供の両親だと勘違いしている様子だった。

老医師は、紙に何かを書くと、もう一度病院に行って、婆さんに薬をもらって来いと寅に言いつける。

部屋を出かけた寅に隆子が、父さん、タオル帳場でもらって来てと頼んで来たので、寅も調子に乗り、母さん、後は頼んだよと言い残して出て行く。

その後、老医師がお母さん、お尻を出してと注射の用意をしながら言ったので、隆子は自分の尻を押さえて恥ずかしがる。

あんたじゃない!子供のだ!と老医師は呆れる。

翌朝、秀吉は目を覚まし、おじさん、咽が渇いたと言う。

それに気づいて起きた隆子は、額に手を当て、熱が下がっている!と喜び、良かったね!と言いながら秀吉を抱きしめる。

そして、隆子が部屋の隅で眠っていた寅を起こすと、寅も、直ったか、良かった、良かったと安心する。

隆子は、旅館の外に出て、自動販売機でジュースを買ってやる。

「とらや」の方では、やって来たさくらが、まだ電話ない?と聞いて来る。

まだないと知ると、自分で、寅から聞いた和歌山の旅館というのを頼りに、博が調べてくれた翠山荘に電話をしてみる。

すると、電話に出たのは見知らぬ女性で、さくらが車寅次郎の親戚のものですが?と言うと、その女性が、お父さん、電話と呼びかけ、寅に代わる。

寅は簡単に秀吉は直ったと伝え電話を切ってしまうが、さくらは、今、女性がお父さんと言って、お兄ちゃんが、母さんと呼んでたわと不思議そうな顔をして呟く。

それを聞いていた博は、空耳だよと笑うが、念のため、今度は自分が帳場に電話を入れると、出た主人が、車さんなら、買い物に出た所です。奥さんと一緒にと言って切る。

翠山荘の主人は、受話器を置いた後、あ!夫婦じゃなかったか…と勘違いに気づくが、まあ良いかで済ませてしまう。

しかし、電話を聞いた博の方は呆然とした表情になっていた。

買い物に出た隆子と寅は、まだ互いに名乗り合ってもいなかったことに気づき、自己紹介し合う。

淡路島生まれだという隆子は、男と2人で泊まるはずだったけど、向うに用事が出来たので1人で泊まることにした。崖にでも飛び込もうかと思ったと言うので、死ぬなんて簡単に言うものじゃないと寅が言い聞かせる。

あいつが来てたら、父さんたちに何があっても下らない時を過ごしていたに違いない。あの子の唇がチアノーゼって言うの?真っ青になっていたとき、酒でもタバコでも男でも断ちますからって祈ってたのと隆子は言うので、寅も、俺も女断ちますからって祈ってたと返すと、隆子は思わず噴き出してしまう。

朝、あの子の唇に血の気が戻っているの観たら、自分の命も戻したような、冷たい水が胸を降りて行ったような幸せな気持ちになってね…と隆子は呟くのだった。

その時、翠山荘の主人が近づいて来て、子供がお腹空いたって言ってますと伝えると共に、おふでさんの住所が分かったとも言う。

その夜、寅は布団に寝ていた秀吉を前に悩んでいた。

母さん、喜んでくれるかどうか分からなくなったな。男好きな女だから、金持ちの主人もらって、子供もいたりすると厄介だぞ。ここから柴又に帰るって手もあるんだ…と又、芝居がかった想像話を1人始める寅だったが、気がつくと、横で秀吉は既に寝入っていたので、がっかりする。

そこにおちょうしを持って隆子がやって来る。

母さん、これからどうするんだ?と寅が聞くと、小さな車に乗って旅が続くの。いつか父さんに会いたくなる日が来るんだろうなと隆子は言うので、俺も旅人だからいつでも会える。俺も女断ちして待ってるよと答えると、何故か隆子は泣き出してしまう。

私、粗末にしてしまったわ、大事な人生なのに…と言うので、大丈夫、まだ若いんだし、まだ良いこと一杯待ってるよと寅は慰める。

それを聞いた隆子は、そうね、生まれて良かった。そう思えるようなことがね…と微笑むと、ここに寝ても良いでしょう?私にも、このくらいの子おったんよ。可哀想に堕ろしてしもうたけど…と言いながら秀吉に添い寝しようとする。

しかし、次の瞬間、秀吉が寝小便をし出したことに気づき跳ね起き、掛け布団をめくると、勢い良く飛び出した小便が、覗き込んだ寅の口元を直撃する。

寅は、飲んじゃったよ、ごくんと…と顔をしかめる。

翌朝、大和上市駅で列車に乗り込む寅は、見送りに来てくれた隆子に対し、秀吉に礼を言わせると、母さんも、今度会う時は、もっと幸せになっているんだぞと言い残す。

隆子は、駅前から小型車に乗って旅立って行く。

伊勢志摩

連絡船で賢島にやって来た寅は、船長(すまけい)に松井真珠という店の場所を聞くと、すぐ目の前にあるのを教えてくれる。

店に入り、丁寧に自己紹介した寅がおふでさんは?と聞くと、女将(河内桃子)が驚いたように、秀吉を観て、おふでさんのお子さん?と確認すると、すぐ行きましょうと言いながら店の外に出て来る。

何でも、おふでさんは、病気で養生をしているのだという。

近くにいた船長に、タクシーを呼んで来てと女将は頼むが、船長は時間があるので、俺が送って行ってやると言い出す。

ちょっと乱暴な運転だったが、女将、秀吉、寅が着いたのは、お紙の父の別荘だった所だという閑静な屋敷だった。

女将が屋敷の中に入り、ふでを呼んで来る間、寅は秀吉に、母さんというんだぞと確認させる。

そこにふでが出て来て、寅さん!と驚いたので、寅は、息子を連れて来たよと答える。

寅が恥ずかしがっていた秀吉を前に押し出すと、ふでの方が駆け寄って来て、母ちゃんと言った秀吉を抱きしめる。

寅さん、どう言うこと?とふでが聞いて来たので、般若の政は死んだよ。この子を俺に頼むって言って…。思い出したくないだろうけど、俺に免じて許してやってくれと寅は答える。

「とらや」で、無事母親と会えたという寅からの知らせを受けたさくらは喜ぶ。

御座行きが出航しますよ!と船長が港で声を上げている。

寅は、松井真珠の店先で、女将に出発の挨拶をしたので、今夜、ふでさんとご飯を食べる約束でしょう?と女将は驚く。

船着き場に向かう途中、水中メガネをしていた秀吉に、母ちゃん大事にしろよ。またどっかで会おうと話しかけたので、秀吉は、おじちゃん、どこ行くの?と事情が分からない様子で聞く。

柴又に帰って、みんなに話してやるんだよと寅が言い聞かすと、秀吉は、俺も一緒に帰ると言い出す。

横で聞いていた船長が、今晩だけでも泊まっていけば?と話しかけて来るが、頼む辛口を挟まないでくれと頼んだ寅は、俺はお前のオヤジと同じだ。良い年して、親の面倒も見ない。そんなおじさんみたいになりたいか?とこんこんと言い聞かせたので、秀吉は泣き出してしまう。

船長を促して船に乗り込んだ寅は、二度と秀吉の方を振り向こうとはしなかった。

連絡船が動き始めると、秀吉が、おじさ〜〜ん!と泣きながら突堤を走って追いかけて来る。

ええのか?行ってしもうて…と船長は案ずるが、構わん、どんどん行ってくれと寅が頼むので、切ないことやなぁ〜…と船長は泣きそうになる。

その話を、後でさくらから、そのいきさつを聞いた御前様(笠智衆)は、良かった、良かった。仏様が寅の姿を借りて母親に会わせたのだろうと言うので、さくらは驚いてしまう。

仏様は愚者を愛しておられますと説明した御前様だったが、横で、たき火の焼き芋を食べようとしている源公を見ると、あれは、愚者以前です。困った…と嘆くのだった。

「とらや」に戻って来たさくらは、二階で休んでいた寅に昼食を持って行ってやり、御前様が褒めてたと教え、もう師走よ、早いわねと呟く。

すると、寅は、ぼちぼち旅に出るか…。病気でもないのに、ふらふら遊んでいたらお天道様に申し訳ない。博みたいに女房子供のために汗水たらすのが働くって言うんだ。俺らは口からでまかせを言って、客を騙しているだけと言い出したので、さくらは、お兄ちゃん、それが分かっていながら…と哀しい目をするが、寅は、それが渡世人の辛い所よとはぐらかすのだった。

部屋を後にした寅が、財布を忘れて行ったことに気づいたさくらは、その中に少し小遣いを入れておいて、店を出る寅に渡す。

ちょうどそこに満男が帰って来たので、駅まで送らせることにする。

柴又駅に着いた寅は、元気がない満男に、どうした?失恋でもしたか?セーラー服の女にと聞き、これで参考書でも買えと言って、財布から3000円出して渡す。

その時、財布の中の札が増えているような気がした寅だったが、特に深くは考えないでしまう。

その時、満男が、おじさん、人間てさ、何に為に生まれて来たのかな?と問いかけて来たので、面食らった寅は、生まれて来て良かったなぁ〜って思うこと、何遍かあるじゃないか?そのために行きているんじゃないか?お前にも良いことあるよ。頑張れよと声をかける。

正月

「とらや」には、寅に会おうと高井隆子がやって来ていた。

博やさくらから、寅からの手紙を見せてもらいながら、今頃どこにいるかな?父さん…と隆子が口にしたので、さくらたちは、電話で聞いた「父さん」「母さん」の謎が解ける。

そこにタコ社長がやって来たので、おばちゃんは、この人、タコと隆子に紹介するが、社長が憤慨したので、あんた、名前なんだったっけ?とおばちゃんは真顔で聞く。

おふでさんからの礼状が、賢島から届いていた。

伊勢 二見浦

寅は仲間のポンシュウに、お前、人間は何のために行きているんだ?と問いかけるが、ポンシュウが首をかしげているだけなので、お前の頭じゃ考えなくてもいいと結論づける。

その時、もう1人の仕事仲間が、あれは、般若の政の女房じゃないか?と道をやって来た親子連れの方を指したので、仲間たちに身を隠させた寅は、俺たちみたいな人間が声をかけちゃあいけないと諭しながら、ふでと船長が秀吉の手を引いてやって来るのを目撃する。

そうか…、船長が秀吉の父親か…、良いだろう。あいつだったら良いだろうと寅は呟き、いつものように、啖呵売を始めるのだった。