何だか「スター・ウォーズ」を連想してしまうような腹違い兄妹の悲劇を描いた通俗メロドラマだが、これがかの溝口健二の若い頃の作品と知ると、ちょっと意外な感じもする。
まあ、晩年、巨匠と呼ばれたような名匠たちも、若い頃から晩年のような作風だったわけではないのは当然で、こうした作品の積み重ねでキャリアを積んできたということなのだろう。
テニスルック姿でちらり登場する令嬢が、戦後、化け猫女優で有名になる入江たか子さんらしいが、別にアップショットがあるわけでもないので、あらかじめ弁士の方がそう教えてくれていなければ判別は不可能に近かったと思う。
フィルムの欠落も多そうだし、基本的に無声映画なので、話はそう複雑ではない。
今観ると、あっという間に話が進んでしまう短編映画のような印象である。
貧しさ故に芸妓に身を落とした1人の薄幸な娘に恋してしまった3人の男たちが、互いに身内や知りあい同士だったと言う噓のような偶然話なのだが、例え不自然ではあっても、そのくらいの設定にしないとこの話はこの時間では収まらなくなってしまう。
しかも、男性客に対しては、男の女遊びは末代までの不幸の元なので身を慎みましょう。女性客に対しては、男は薄情なので甘い言葉には気を付けましょうという教訓まで含んでいる。
単純と言えば単純というしかないが、当時の無声映画というのはたいていこんな内容だったのだろう。
そう説明的で長い字幕はつけられないし、後は弁士の話術力でおもしろおかしく脚色して客を楽しませていたのだと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1929年、日活太秦、菊池寛原作、木村千疋男脚色、溝口健二監督作品。 芸術も罪悪も堕落も蔓延している東洋第一の都市…(東京の風景を背景に) 昔恋し 銀座の柳…(作詞:西条八十 作曲:中山晋平「東京行進曲」の歌詞) 工場 家路を急ぐ若い2人… 道代(夏川静江)は、両親を相次いで亡くし、工場勤めの叔父を助けて暮らすようになるが、ある夜、その叔父も工場を首になり、道代を3000円で芸妓にしろと言われたが、死んだ妹にすまないと妻に打ち明けているのを隣の寝床の中で聞いてしまう。 道代の母親は新橋で芸者をやっていたが、その最期の床に道代を呼ぶと、父親は薄情者だった。男というものは、惚れた次の瞬間からもう女に飽きている。そんな男には心を許してはいけないよと言い残し、自分が持っていたプラチナの指輪を道代に託すのだった。 ある日、富豪の息子藤本良樹(一木札二)が、令嬢の早百合(入江たか子)とテニスを楽しんでいたとき、ボールが逸れて、金網越しに崖下の長屋の前に落ちてしまう。 テニスコートは高台にあり、拾いに行きたくても金網が邪魔で降りられない。 その時、下の道にいてそのボールを拾い上げたのが道代で、彼女はボールを投げて返そうとするが、金網に当たってどうしてもボールは跳ね返って落ちてきてしまう。 しかし、道代は何度もボールを投げ返そうと試みる。 そんな健気な娘の姿を観た良樹は、テニスコートから彼女の写真を写しておき、その時のことを日記に書き記していた。 おさきの代わりに、女中で雇おうと良樹は考えていた。 しかし、その後、道代を探しに出向いた良樹だったが、いつの間にか道代は姿を消していた。 ある夜、良樹の父(高木永二)が来ていた料亭に挨拶にやって来た芸者は折枝と名乗るが、実は彼女こそ芸者になった道代であった。 東洋信託に勤めることになった良樹は、会社で、竹馬の友で1年先輩の同僚でもある佐久間雄吉(小杉勇)に挨拶に行くと、今夜7時から築地の料亭「錦水」で歓迎会をやるので、大いに飲むぞと誘われるが、良樹は芸妓には興味がないと答える。 その夜「錦水」では、部長がすっかり調子に乗り踊っていた。 佐久間が、ステキな美人が来るぞと声をかけ、そこにやって来た芸者は折枝だったが、良樹はその芸者があの時のボールを拾ってくれた娘とは気づかなかった。 帰りの車の中で、佐久間は結婚に向けて頑張ると言い出す。 彼はさっき会った折枝に一目惚れしたのだった。 一方、折枝は、良樹の父親から、3カラット半というダイヤの指輪を無理矢理渡されながら迫られていた。 しかし折枝は、その指輪を投げ捨てて帰るが、気がつくと、母親からもらった指輪をなくしていることに気づく。 その折枝の指輪を座敷で拾っていた良樹の父親は、その料亭の女将に、折枝の借金を返して自前にしてくれ。自分はもう彼女を座敷に呼ばないと告げていた。 ある日「カフェ イーグル」という店に良樹が来ると、良樹のことを知っているらしい女給が、道っちゃんの家の崖上の人でしょう?と話しかけて来る。 彼女が言うには、道子は新橋で評判の芸者になっているらしい。 それを聞いて、あの時の折枝が道子だと気づいた良樹は、1時間後、「錦水」で折枝に結婚を申し込む。 その後、今度は、佐久間からも結婚を申し込まれた折枝は、先ほど、藤本さんから申し込まれたと聞かされる。 翌日、出社した佐久間は、芸妓に興味がないなどと言っていた藤本が、芸妓に結婚を申し込んだ不誠実さを責める。 良樹は、テニスコートで折枝こと道子に出会って以来、彼女を探し求めていた事情を打ち明け謝罪する。 しかし、佐久間は、君が親友なので渡さないと言い放つ。 しかし、このことを息子から聞いた父親は猛反対し、あの娘とのことは諦めてくれと頼む。 その後、折枝に会った父親は、良樹は自分の息子であると打ち明ける。 お前との結婚の許しを求めて来た。許してあげたいが、お前は良樹とは腹違いの妹なのだと言うので、それを知った折枝は泣き崩れてしまう。 その姿を観ながら、父親は報いだ…と肩を落とす。 その父親と折枝の元に、酔った良樹がやって来て、許してくれなくても折枝を連れて家出をしますと申し出るが、折枝は俺の隠し子だったのだと父親が告白すると、たまりかねた折枝は父親に抱きつく。 その後、良樹は佐久間に手紙を送る。 そこには、折枝は可哀想な娘だ。君にかかっている。折枝を頼むと書かれていた。 その頃、折枝は母親の墓参りをしていた。 恋をした罰なのでしょうか?…そう墓に問いかける折枝は、すでに父親のことを許していた。 やがて、折枝は佐久間の元に嫁ぐ。 良樹から佐久間が受け取っていた手紙を読ませてもらった折枝は、実は良樹は自分の兄さんだったのですと教える。 それを聞いて全てを察した佐久間は、必ず幸せにしてみせますと折枝に約束する。 良樹はイギリスに渡ることになり、港に佐久間と折枝が見送りに来る。 東京の町並みがそんな彼らを見守っていた。 |
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