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吉川晃司主演の一見サクセスストーリー風の青春映画

音楽映画というほど印象的な音楽シーンはないし、サクセスストーリーというほど主人公は成功していない。

挫折を味わい、色々もがきあえぐ青春物語と言った方が近いような気がする。

この手の映画に不可欠なカタルシスシーンがないので、何となく食い足りなさが残らないではない。

一応、NPCレコードでデビューする辺りが「カタルシスシーン」なのかもしれないが、予算がないためか大掛かりなショー的演出はなく、マルチ分割画面を使ったちまちました演出になっている。

このために、それまでの下積み時代とのギャップがきちんと伝わって来ないので、チャンスを掴んで成功の1歩手前まで上り詰めたという状況に見えないのだ。

その辺のサクセス描写が弱いので、吉夫の話したゴシップネタで、そこからまた転落してしまうという挫折感もあまり伝わって来ない。

このストーリー、よく考えてみると、主役の民川裕司が、男(プロデューサー)をとっかえひっかえしてのし上がって行く、亜美と同じ道を歩んでいるように見える。

大手のレコード会社の仕掛人たちの力でスターになる印象を受けるのもすっきりしない所だろう。

そもそも、この民川裕司の成り上がり描写で一番引っかかるのは、彼の才能が「一般大衆の支持」を受けて世に出た描写がほとんど見当たらないことだ。(特にラスト近く)

主人公自身が作ったデビュー曲がヒットし、一躍主人公は有名になるが、その直後にスキャンダルが表面化し、主人公はピンチを迎える…、この辺の展開はティーン向けのアイドル映画としてはありがちなのだが、例えばその後、ベタな発想だが、謹慎した裕司を待望するファンレターが会社に殺到したり、客は来ないと諦めかけたコンサート会場が超満員だったので、改めてレコード会社は彼の人気を再認識する…とかの分かりやすい展開で良かったのではないか?

スキャンダルであっさり転落し、また元の下積み生活に戻ってインディーズに活路を見出すかのように見えるこの作品だと、裕司が苦心して作った曲自体も、実は大したことがなかったというように感じてしまうのだ。

所詮芸能界とはそんなもの…という大人の冷めた目線をそこに感じ、その辺が、青春ものとして見ると、何となく共感しにくいような気がする。

民川裕司は、主役として、亜美とははっきり違う生き方に見えないとまずいのではないか?

そう考えると、この作品の中で唯一異彩を放った存在になっているのは、山田辰夫演ずる貝塚吉夫である。

容貌にも才能にも恵まれず、若さ故の勘違い幻想だけで行きて来た彼が、あることをきっかけに自分の隠された才能に目覚め、スターとして認められて行く…。

彼は、誰かスポンサーやプロデューサーが支援してくれたわけでもなく、自分の力だけで客の人気を勝ち得ている。

こちらの方が、観客が素直に共感できる、典型的な「サクセスストーリー」ではないだろうか?

ただ、こちらも、自ら、チャンスをつかみかけた裕司をバックアップするつもりでライブディスコから出て行かせたはずなのに、その裕司が売れると、手のひらを返したように「俺を捨てて行った裕司」などとライブでしゃべっているのが解せなかったりする。

悪意はなくて、単なる自分が知っている「ネタ(冗談)」としてしゃべっただけとも受け取れるが、そうだとすると、この吉夫の方も、たった3年くらいの下積みで得た業界知識で受けているだけで、先行きは長くなさそうな男ということになる。

この吉夫同様、民川裕司の成り上がり方も、ものすごく「チャラく」見えてしまう。

そもそも、演劇を目指して上京したはずなのに、その夢は早々に捨て去り、途中から、自分独自のサウンドにこだわるシンガーに目標がすり替わってしまっている辺りも何となく「いい加減」に写るし、1年近くかかって作り上げた渾身の自分の曲で世に出かかったにしては、その後の挫折の絶望感や反発描写も弱く、「何とかなるさ」的な軽い受け止め方をしているようにしか見えないのも気になる。

この主役、どこまで「本気」なんだろう?という猜疑心が出て来るのだ。

その辺の民川裕司の姿勢を「クール(かっこいい)」と受け止めるか、「薄っぺらな奴」と捉えるかで、この作品の印象はがらりと違って来ると思う。

夢に挫折したような大人たちばかりが登場し、それを若さで打ち砕くような分かりやすいサクセスストーリーになっていない辺りが、リアルというよりも、妙に業界慣れした脚本家の愚痴を聞かされているようですっきりしなかったりするが、その辺が、低迷していた当時の日本映画や、全盛期の勢いを失っていたかに思えるナベプロなどと重なって見えるような気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1984年、渡辺プロダクション+シネマハウト+ニュー・センチュリー・プロデューサーズ、丸山昇一脚本、大森一樹監督作品。

「広島発ひかり23号到着です」というアナウンスが聞こえる東京駅の空撮から、カメラは東京の町並みを映しながら移動し、東京港に行き着く。

構内の作業員らが何人か集まり、海の方を唖然とした表情で観ている。

彼らが観ていたのは、バタフライをしながら岸に迫って来る1人に青年の姿だった。

岸壁に上がって来た青年に、1人の作業員が、アメリカから来たんかい?と尋ねると、青年は中国と答えたので、上海辺りか?と聞き返すと、広島というので、中国地方のことだと分かる。

青年は半ズボン姿に濡れたシャツを羽織ると町の方へ歩き始める。

タイトル

裸足でずっと歩いて来た青年民川裕司(吉川晃司)は、靴屋の前で様子を見ており、靴を買った客が出て行った直後、今の人が脱いで行った靴を下さいと店に掛け合い、スニーカーを譲ってもらう。

その後、皇居前に向かった裕司は、はとバスの一行を見つけたので、こっそりその列に混じり、はとバスに乗り込んでしまう。

国会議事堂前辺りを通過した後、西新宿の高層ビルを見上げ、結局六本木にたどり着く。

とりあえず飛び込みで、「男子カウンター、ウェイター募集」の貼紙が張ってあった店に入るが、あっさり断られてしまう。

裕司は、無一文ではダメだと悟ると、自販機の釣り銭返却口に手を突っ込み、小銭を探し始める。

さらに、自販機の下に落ちていた100円玉を見つけたので、それで履歴書を買うと、そのレジの所で内容を書き込み、「ボーイ募集」の貼紙があった「パンの木」と言う喫茶店に入る。

支配人の白木隆介(蟹江敬三)はカニしか食わないと言いながら茹でガニを食べながら、裕司の提出した履歴書を読んでいた。

カニ好き?と聞かれた裕司は、あまり食べたことがないと答えると、食べてみたらと勧められる。

実際に食べて見ると、カニは旨かった。

家出したんだろう?長くやっているから一目で分かるんだと白木が言ったので、裕司はあっさり高校3年だと打ち明ける。

履歴書に書かれた住所は本当みたいだと感じた白木は、家には手紙出しとくよと言ってくれ、結局、裕司はボーイとして雇ってもらえることになる。

店には、同僚の貝塚吉夫(山田辰夫)とレジ係の芝淑江(高瀬春奈)が一緒に働いていた。

淑江はしょっちゅう男から電話がかかって来る太り気味の女だったが、その日も電話がかかって来たので呼ぶと、トイレから出て来たばかりの淑江のスカートの後ろがまくれ上がったままなのを裕司は観てしまう。

吉夫も芸能界を目指しているらしく、元々演歌を歌っていたが、今の目標はジュリーだという。

吉夫のアパートに遊びに来た裕司が、レッスンしんどい?と聞くと、17才のときから3年、通称ザルと呼ばれているオーディションを15回受けているけど、いまだに目が出ないのだという。

「夜のヒットスタジオ」に出なくちゃねと裕司が励ますと、吉夫も「ベストテン」出なくちゃなと応じ、村を出て来る時もらった寄せ書きを披露する。

夜の俳優座の所へ来たぶらりとやって来た裕司は、近くに港があって、日本仲をヨットで廻っている人が来たから、それに乗せてもらって上京したと吉夫に教える。

週2回のレッスン料が高いのですかんぴんだけど、歓迎パーティをやろうと言い出した吉夫は、この辺の人間は見栄っ張りだから、ちょっとしか手をつけないで捨てちまうんだと言いながらレストランの裏の残飯をかき集め、あっという間に、酒とつまみを用意し、近くの公園で2人きりのパーティを始める。

裕司は踊り始め、高1の時バンドをやって、好き勝手にしていたけど、なんかやらかすたんびに職員室に呼び出されて、ふざけるなって…と話す。

それを聞いた吉夫は、見返してやろうぜ!とぶち上げ、公園のベンチに「Yoshio Kaizuka」とサインを刻み込み、勧められた裕司も、その横に自分の名前を刻み付ける。

「パンの木」で、吉夫は雑誌「デ・ビュー」を読み、「競馬ブック」を読んでいた白井は、給料までの繋ぎとして、1万円払ってくれた。

吉夫が言うには、白井という男、元々プロテニスプレイヤーを目指していたが、縦移動は巧かったが、横移動が下手だったので、それ以来ずっとカニばかり食べるようになったらしい。

そんな中、今日は午後から休ませていただきますと言って芝淑江が帰ると、彼女は元バレリーナ志望だったが、今は妻子ある男と巧くいっているらしい。群馬から出て来て駆け落ちを繰り返しているうちに太ったんだと吉夫は言う。

その時、突如、店内が明るくなったと感じた裕司が振り向くと、女優の野沢亜美(鹿取容子)が店に入って来て「レスカ」を注文したので、それを吉夫に伝えるが、そっと「レスカ」って何ですか?と聞いてみる。

そんな裕司を新入りと知った亜美は、あなたも歌手志望なの?と声をかけてくれるが、演劇を目指していますと裕司は答える。

しかし、その後、生の演劇を観に行った裕司は、がっかりして吉夫のアパートに戻って来ると。こっちは田舎の演劇ですもんとレベルの違いにショックを受けたようだった。

そんな裕司に、吉夫は努力だよと励ます。

自分は、来週の「BIG スター誕生」に出ることになったと報告した吉夫は、御だろ?といきなり言い出すと、裕司相手に性教育を指導し、その後、近所の公園に覗きに出かける。

吉夫は、ポートレート撮るときなんか、1、2時間くらいじっとしていなくちゃいけないから、その練習になるなどと屁理屈を言う。

公園から帰りかけた2人に声をかけて来たのは、吉夫の宮崎の先輩の奥さんだという。

その妻こずえ(赤座美代子)と娘2人と一緒の夕食の席に招かれた2人は、ジャン・ピエール・ メルビル脚本、監督、アラン・ドロン主演の「サムライ」が大好きな映画監督だという、酔った河野誠(平田満)から、自分の経歴を延々と聞かされる羽目になる。

テレビの「番長デカ」でデビューしたが、その時10回本を書き直させ、全部夜のシーンにして一切セリフがない本邦初のハードボイルドにしたが、結局、その回は放映されずお蔵入りになったという。

さすがに何度も聞かされているのか、飽きた娘2人とこずえは寝室に引き取るが、河野は、ただ待っているだけじゃなく、今でも本は書いているが、35枚から先が進まないんだと続け、走行しているうちに、師匠のジャン・ピエール・ メルビルが死んだじゃないかと嘆く。

今の映画界は100年遅れている!男の美学がない!とわめいた河野もいつしか酔いつぶれて、床に寝込んでしまう。

テーブルの上のものは全部食べて下さいと、寝室のこずえから声をかけられた2人は、遠慮なく平らげることにするが、吉夫は、もう10回以上聞かされている。サイテーだよと愚痴る。

翌朝、起きた河野は、こずえから170円の小遣いだけもらい、ミニバイクで大工仕事かなにかのバイトに出かけて行く。

ある日、「パンの木」では、かつて「シャンプーガール」としてCMに出ていた亜美が、マネージャーらしき榎本(上田耕一)という中年男から脱ぐ正月映画に出ないかと口説かれていた。

今のままの清純派だと、せいぜいカバーガール止まりだよと言われていた。

吉夫の方は淑江から、テレビに出るなんてすごいじゃないと感心されていた。

その後、客からコーヒー代を270円しか受け取ってない。10円足りないと注意された裕司は、10円くらい自分で払いますと言い訳し、ちょっと出かけて来ますと言い残して店を飛び出す。

裕司は、夏期講習を受けた帰りらしい女子高生3人の会話を聞き、故郷の広島での高校生活を思い出していた。

今頃、自分の高校でも夏期講習をやっているはずだった。

公園のベンチで寝そべっていた裕司は、突然、父親の年和(神山繁)が覗き込んで来たので飛び上がる。

どうやら、店を訪ねて来て、吉夫にここまで案内されて来たらしかった。

何でも、作家の中江吾市さんに書いてもらった文章が、新聞に載せる時手違いがあったので、それの謝罪のために上京したのだという。

もう用事は済んだので、6時の新幹線で帰るらしい。

学校には欠席届を出しておいたが、卒業まで後半年なんだから、高校くらい出ろという。

裕司は、今まで、バンド、水泳、演劇、やろうとしたことは全部断られてきたので、やりたいことを貫きたい。それには東京が一番!と主張すると、父親は黙って、帰りの切符を裕司の胸ポケットに突っ込んで帰って行く。

レモンを買って店に戻る途中の裕司は、ロンサムボーイ!とマンションの上の窓から声をかけられる。

それは亜美だった。

ちょうどレモンが切れたのと、部屋にやって来た裕司に亜美は言う。

仕方なく1つ分けてやった裕司に、年を聞いて来たので18と答える。

私がデビューした頃だわと喜んだ亜美は、ファンだという裕司に、今私が何の番組に出ているか知っている?と意地悪な質問をして来たので、裕司は素直に謝る。

昔は、1日にファンレターが50通も来たけど、今は1通も来ないと落ち込んでいるような亜美に、この前のポルノの話どうなったんです?美保純みたいなのもいるし…と裕司は話しかける。

淫らなことをする?と急に誘って来たので、急には出来ないです。女優さんでしょう?と裕司が断ると、今度の日曜日、お芝居に行かない?その後、淫らなことをするの、驚いた?と亜美は笑う。

テレビ出演を間近に控えた吉夫は、ストレスから極度の便秘に苦しんでいた。

部屋に来た裕司から話を聞いた吉夫は、自分の白いジャケットを貸してくれる。

2人で鏡の前に立って見るが、背の低い吉夫は、このタッパじゃロックシンガーは無理だな…と自嘲するので、ハート&ソウルですよと裕司は慰める。

そんな裕司に、やり方知っているか?と言って来た吉夫は、ベッドで枕相手に、女の抱き方を教え込むのだった。

しかし、日曜日、待ち合わせの場所にやって来たのは見知らぬ女だった。

マンションの管理人だというその女、木村花江(白川和子)は、亜美は彼氏のカメラマンと八丈島に撮影に行ったと言い、女は、男をとっかえひっかえしてのし上げっていくのよと教える。

花江は、芝居の観劇中、裕司の股間を触って来たり、裕司の手を、自分の着物の裾から内側に入れようとして来たので、急に立ち上がった裕司はそのまま帰ることにする。

花江は、あら?出ちゃったの?等と言いながら、外まで追いかけて来るが、無視して裕司は歩き続ける。

年上の人 美しすぎる♬

その頃、吉夫の方は、「BIGスター誕生」でジュリーの歌を歌っていたが、結果はいつも通り、がっくりしてエレベーターで下りて来るが、その入口には裕司が待っていた。

2人してバーにしけこむが、吉夫が、そこの無愛想なママ(室井滋)から洋モクを買って吸い始めたので、咽に悪いのでは?と裕司は心配するが、もう良いんだよと吉夫は投げやりだった。

外に出て歩いていた吉夫は、背番号90のジャイアンツのユニフォームを着た男と肩が触れ、向うが因縁をつけて来たので、裕司も一緒に喧嘩になる。

その後、猛スピードで逃げ出した2人は、サウナに入ることにする。

大きなカニの看板の前に出た2人は「パンの木」に行くかどうか悩むが、そこに「あんたら、暇かに?」と声をかけて来たのが見知らぬ男、矢作努(原田芳雄)だった。

吉夫と裕司はチンピラ風の服を着せられ、矢作の子分を装って、とある会社に乗り込むと、矢作が、そこの会社員桑畑一郎(西田健)に、金の返済を柔らかい口調で頼み出す。

自分の父親は牧師で、母親は和裁の先生だったので、乱暴はことは出来ない性分なんですなどと言っていた矢作だったが、吉夫が矢作が取り出したタバコに火をつけようとライターを差し出した時、急に切れた口調に代わり、吉夫を殴りつけようとしたので、桑畑や他の社員たちは、皆完全にビビったようだった。

帰りの電車の中で、ヤクザ野党と後がうるさいからと言いながら、矢作は2人に1万円ずつ払ってくれる。

矢作が降りて行った後、吉夫は、たった5分で俺らの日給より高いと唖然とする。

その後、2人は、又、サウナで矢作と出会う。

矢作は、元ウエルター級チャンピオンだったが、子供が出来てプロになれなかった。26の時、92kgあったので、それからずっとサウナにきているが、10年経ってけど、いまだにウエルター級には戻れないとぼやく。

噓でしょう?と言う吉夫に、お前18には見えないな?と矢作が言って来たので、いくつに見えます?と吉夫が逆に聞くと、やっぱり18と言う。

「パンの木」のレジ芝淑江は男の元へ走って店を辞めたようだった。

ライヴディスコに勤めることにした吉夫だが、相変わらずぼーっとして元気がないので、20才でもう燃え尽きたのかよ?間違えたと思っているんじゃない?やりたいこととやれること…、もう1度見せてくれよ、お前のやりたいこと!と裕司は励まし、店のバンドが置いていたギターを抱えると、俺だってギターくらいは弾けるぜと言いながら演奏を始める。

吉夫は、壁際に寝返りうって♬と歌い出すが、その時、バンドの連中がやって来て、お前ら何してんだ?と因縁をつけて来る。

裕司は、あんたらが下手なんで、遊んでたんだよと言い返し、喧嘩騒ぎになる。

結局、バンドは怪我をしてしまい、急遽ギターの1人として裕司がバンドに参加、吉夫もボーカルとして店に出ることになる。

しかし、あまりの下手さに、踊っていた客たちは引いて、テーブルに全員腰降ろしてしまったので、やけになった吉夫は、止めた!と言ってマイクスタンドを蹴り倒してしまう。

すると、前に出て来た裕司が、そのマイクスタンドを足で起こすと、ギターを弾きながら歌い始める。

客たちは、テーブルから立ち上がり踊り始める。

それを脇で観ていた吉夫はがっくり肩を落としてしまう。

次の日から、ボーカルは裕司、吉夫はタンバリン担当になっていた。

裕司は途中で踊りのパフォーマンスも披露する。

そんな大門正明を観に来ていたマネージャーの柴田勝尾(大門正明)が、うちに来ないかと誘って来る。

柴田は、痔主のようだった。

カウンターで話が弾んでいる2人を観ていた吉夫は恨めしげだった。

次の出番が始まったので、吉夫は裕司に、その人待っているんだろ?こっちは俺が決めてやるからと勧める。

その日のバンドのボーカルが裕司ではないことに気づいた観客たちはざわめき出すが、吉夫は、悪いけど、今日は裕司は来られない。今日は俺が代わりにやると言うと、女の子たちからブーイングと帰れコールが始まる。

その罵声を浴びせられた吉夫は完全に切れ、サイコーだよ、上等じゃねえかよ、村の衆!と客に切れ始める。

そんな吉夫の姿を、店の奥で観ていた矢作に、裕司は吉夫が必要な時に渡して下さいと言って、自分が父親からもらった切符を預けて店を後にする。

しかし、帰れコールの中、開き直った吉夫は、やっと分かった!俺にはお前たちが必要なんだ!お前らセンスないんだ。同じ穴の狢じゃないか!と叫び出したので、矢作は持っていた切符をその場で破り捨てる。

裕司を地下の部屋に連れて来た柴田は、そこに集まっていたバンドのメンバー(ROGUE)たちに会わせる。

しかし、裕司がボーカルとして加わったそのバンドの仕事は、交通安全キャンペーン用のガラガラのイベント会場だったり、野球の穴埋め用に待機させられるラジオ放送だったりする。

裕司は柴田に、レパートリーを全部取っ替えませんか?今の一番良いロックをやりませんか?本当のロック…と頼むが、頭の固い柴田は俺に任せておけば良いの一点張り。

切れた裕司は、あんたが食いつぶした10年と、俺たちはこれから生きる10年は違うんだよ!とわめくが、そんな裕司にもそれなりのファンが付くようになっていた。

そんなファンにチヤホヤされていた裕司は亜美と再会する。

裕司と2人になった亜美は、今はどう言う方面で有名なの?ロックンローラー?と聞いて来る。

吉夫くんも言ってるよ、随分変わったって…と言う亜美に、裕司は誰のせいでしょう?と問いただす。

あの時は…と狼狽した亜美に、冗談だよと返した裕司だったが、暗い表情の亜美に訳を聞くと、苦手のDJやっているのだと亜美は答える。

ポルノの話どうなったの?と聞くと、決めちゃえば楽になるんでしょうけど…と呟く亜美。

2人はいつしか元町にやって来ていたが、裕司は、広島でバイクを飛ばしていた時白バイ警官に捕まったときの話をしていた。

(回想)親類が危篤なのでと言い訳すると、白バイの警官は違反切符を切った後、自分が先導し始めたので、仕方なく付いて行く振りをして、適当な病院に駆け込むと、その3階の病室に勝手に入り込み、そこの窓から下で待っていた警官に礼を言うと、その警官はVサインをして帰って行った。

(現在)その話はかなり受けたようで、亜美はいつの間にか笑っていた。

亜美と裕司はホテルで過ごしていた。

裸の亜美はベッドに横になっていた。

このままじゃ、「パンの木」のマスターみたいだ、決めたよ。バンド抜けるよと呟いた裕司は、君も止めたら?ポルノ…と勧める。

その言葉を聞いた亜美は、ありがとう。久しぶりに笑って吹っ切れたわと感謝する。

野沢亜美は、ポルノ映画の出演を決め、映画スタジオに入って行く。

一方、貝塚吉夫の方は、バンドをバックに芸能界の毒舌を語るMCとして成功していた。

バンドを抜けた裕司は、「スターダスト」と言う安マンションの207号室で暮らし始めるが、1週間も部屋から出て来なかったので、心配した管理人の深水敬造(田中邦衛)が様子を見に来る。

ずっと引きこもり、今が昼か夜かさえ区別がつかなくなっていた裕司は、自分だけのサウンドを探し求めていた。

ある日、何かのメロディに導かれるように、部屋を出て屋上にある深水のいるアクリル天井の部屋に来る。

透明な天井からは夜空の星が透けて見えていた。

何しに来た?と問いかける深水に、誰が作った音楽?と聞いた裕司だったが、カセットの曲を聴いていた深水は、俺の弟と答える。

会いたい!と裕司が頼むと無理だ、死んだ…、星になったと答えた深水は、カセットを取り出すとそれを裕司に渡すと、星になれ!と伝える。

裕司は、関川造船所という所で働きながら、曲作りに励み出す。

やがて1年が過ぎようとしていた。

デモテープを送っていた、NPCレコードの遠藤五郎という人物から手紙が届く。

裕司は世話になった関川達也(宍戸錠)に礼を言って東京へ戻る。

西新宿の高層ビル内にあるレコード会社にやって来た裕司が、エレベーターから降り立つと、そこには光に溢れた世界が待っていた。

レコーディングをし、デビュー曲が世に出ると、ヒットチャート上位に躍り出、コーラのCMも決定する。

全てはヒットの仕掛人たちがバックを支えてくれた。

街に設置された自分の巨大ポスターを窓から観る裕司は満足していた。

その巨大ポスターに写った自分の顔が笑ったような気がした。

その頃、ライヴディスコでは、オリコン雑誌で裕司のヒットを知った吉夫が、ステージで裕司の過去をネタにしゃべっていた。

切れ痔のおっさんに連れて行かれ、自分を捨てたことなどを聞いたファンたちはざわめき出す。

そんな吉夫に記者が裕司のゴシップを聞きに来たので、ポルノ女優と寝たことなどまでぶちまけてしまう。

これが雑誌に載ったため、裕司のコーラのCMの話は流れてしまう。

遠藤五郎(工藤賢太郎)が、レコード会社側の意向として、1年以上セールスを自粛することになったので、君が望むなら、アメリカに修行しに行っても良いと勧めてくれる。

しかし裕司は、急いでいるんだ。走るのを止めないでくれと頼む。

沿道は、今の話は会社側の意向であり、これから言うのが俺の意向だと言い出す。

マンションに戻った裕司に、亜美から電話が入る。

一緒に食事をしないかという誘いだったが、俺はまだやることがあるんだ。こんな俺にも声をかけてくれてありがとうと裕司は皮肉で返す。

亜美は、ベッドの上で1人電話を切る。

吉夫はまだ、ライブディスコで、裕司ネタを披露していた。

気づくと、客の後ろに裕司本人が聞きに来ているではないか。

吉夫は、待ってたぜ、こっちへ上がって来いよビッグスター!と声をかけるが、裕司は笑うだけで動こうとしない。

客をその場に待たせた吉夫は裕司と外に出て2人きりになる。

また俺のことネタにするんだろう?民川裕司のネタでライブショーのスターになったんだろう?と裕司は皮肉りながらも、テレビの仕事決まったって?と聞く。

そんな裕司が煙草をくわえようとしたので、タバコは良くねえぜ、シンガーだろ?と返した吉夫は、客が待っていると言い残してステージへ戻って行く。

俺がスターになっても、お前言ってるよな?こんなこともありましたって…と裕司が声をかけると、帰りかけた吉夫は、言わないってと笑う。

裕司は、公園のベンチに刻まれていた自分たちのサインを発見して苦笑する。

画面がモノクロに変化し、黙々と1人でレッスンを続ける裕司。

やがて、遠藤五郎に招かれ、ステージに登る。

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カラー画面に戻り、客(スクリーン)に向かって挨拶をする裕司。