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南の風と波

実際にあったた機帆船遭難事件を元に、橋本忍が「私は貝になりたい」(1959)に次いで、脚本と監督を担当した作品らしく、舞台も「私は貝になりたい」と同じ高知だし、「私は貝になりたい」でフランキー堺の女房役だった新珠三千代がこの作品でも重要な役所を演じている。

貧しいながら日々の暮らしを送っていた人々が、事故で家族の大黒柱を失ってしまうが、やがて、その痛手から少しずつ立ち直り、力強く生き始めるまでを描いた文芸作のような雰囲気の作品になっている。

漁村が舞台ということもあり、星由里子と夏木陽介コンビの夏のラブロマンスは「潮騒」などを連想させたりする。

淡々とした日常描写の積み重ねでドラマを描いているため、特に、事故後の各家庭のいざこざも、辛くて観ていられないと言ったこともなく、冷静に見つめて行ける。

特筆すべきは、この作品での藤原釜足や飯田蝶子と言ったベテランが、ちょっと観、本人ではないように見えるくらい老け役に徹している所であろう。

飯田蝶子の方は入れ歯を外して意図的に老けた姿を強調しているが、藤原釜足の方はメイクの加減なのか、一瞬別人のように見えたりする。

星由里子の母親を演じている菅井きんも、始終不機嫌なクセのあるキャラクターを演じており、注意して観ていないと菅井きんだと気づかないかも知れない。

作られた時代が時代なので、役者たちは総じて若々しいが、痩せた田中邦衛の屈折した青年像は、「若者たち」で見せた頼りがいがある長兄のイメージとも違い、無口で鬱屈した雰囲気を醸し出している。

対称的に、兄役の小池朝雄の方は、頼りがいがあり爽やかな海の男を演じている。

星由里子の方がこの作品のヒロイン風で登場場面も多く、新珠三千代はそれに次ぐくらいのポジションだと思う。

彼女たちをはじめ、この作品では特に誰が主人公ということはなく、一隻の機帆船に乗り合わせていた人間たちの家族とその周辺の人たち全員が脇役と言った感じで、メインらしき人物もいなければ、スターらしきスターも出ていないため、全体的には地味な印象を受けるが、逆に言えば、脇役ファンが細部の芝居を観て喜ぶような内容と言うべきかも知れない。

全員巧いのだが、夫を亡くし、子供を育てるために、男にすがりついて生きようとする気性の荒い母親を演じている荒木道子や、その相手の吃音気味の男を演じている織田政雄辺りも相変わらず巧い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、東宝、中島丈博脚本、橋本忍脚本+監督作品。

夏、四国高知県のとある寒村にバスが到着する。

降りて来た漁業組合長川島(松本染升)は、カンカン帽のリボンに挟んでいた切符を忘れ、車掌の前でもたついたので、待っていた女たちからからからかわれる。

一緒に降り立った井上たつ(賀原夏子)は、孫の千恵子(藤島かな子)を背負っていたが、歯医者に行ったのだが、今日は休みだったし、もう歯痛は治ってしまったなどと乗り込む女たちに話しかける。

雑貨屋の圭吉(浜村純)の店でアイスキャンデーを買い、材木の仲買も大変だなどと川島が90日の手形を見せながら愚痴っていると、そこに小学生の山本盛男(菅野彰雄)が母親の使いでやって来て、100円を通帳にしてくれと言いに来るが、圭吉は民生委員の会合に出かける所だったので、たまたま休んでいたたつにやってくれと頼んで出かける。

川島は、たつがあやしている千恵子を観て、随分太ったなと話しかけると、峰男が帰るたびに赤ん坊は太ると嬉しそうに答える。

今日も泰平丸は戻らんかな…などとたつは息子の帰りを待ちわびているようだった。

そんな中、その機帆船泰平丸が帰って来る。

船長竹内栄吉(西村晃)の長男で小学生の岬一(多田道男)が、それを知って、母親の富子(新珠三千代)に知らせに自宅に帰った後、港に着いた泰平丸に乗り込んで大阪からの土産を探す。

乗組員の1人井上峰男(小池朝雄)は、顔を真っ黒にして働いていた妻の道子(富士栄喜代子)が嬉しそうに出迎えにきたので、何だその顔は?とちょっと照れくさそうに叱り、赤ん坊の千恵子(藤島かな子)は?と聞くと、お義母さんが守していると答えた道子は、馳走の準備を死に家に先に戻る。

同じ泰平丸には、若い原順平(夏木陽介)や、峰男の弟英次(田中邦衛)も乗っていた。

富子は、行商の魚売りの婆さんから魚を買って、今日は寿司でも作ろうと張り切るが、寝たきりの義母マスノ(飯田蝶子)は、行商の婆さんから最近近所で死んだ年寄りの情報を聞かされ、あれこれ話していた。

雇われ船長である栄吉は、川島の店から高知の雇い主に電話で無事到着したと連絡を取ると、浜に置かれた古鉄を観ながら、次の荷物にするかどうか思案していた。

川島は、迷っていると運送トラックに取られてしまうぞ、考えといてくれと言う。

浜で、獲れた魚の仕分けをしている漁民たちの所に近づいてきた原駒治(藤原釜足)は、いつものように、晩飯のおかず用にカマスを分けてくれと言いに来るが、漁師たちは、毎度のことなので、魚もただじゃないんだと迷惑そうに断る。

しかし、その場で手伝っていた加代(星由里子)が、自分の分を分けてやると駒治に優しく声をかける。

自宅に帰って来た駒治は、唯一の家族である孫の順平が寝転んでいる姿を発見し喜び、湯を沸かしてやると張り切るが、順平は夕方まで寝せといてくれと言うだけだった。

久々に、富子の晩酌で夕餉を囲んだ栄吉は、阪急デパートから買ってきた電気炊飯器を自慢げに見せていた。

長男岬一、長女君子(丸山千恵子)、次女時枝(板屋幸江)らは、自分たちの土産がなかったので不満を言うが、栄吉は、お前らはいつも母さんから可愛がってもらってるが、母さんは父さんが可愛がらないと誰が可愛がる?と愉快そうに答える。

そこに寝ていたマスノまでが来たいと言い出したので、富子が身体を支えながら食卓に連れて来ると、自分は夕食は食べたか?などとすでに認知症が始まっていたマスノは、自分の兄弟3人の女房のうち、富子が一番好きなので、死ぬまで自分をここに置いてくれと栄吉に頼んで来たので、言われた栄吉は苦笑しながら複雑な表情を浮かべる。

峰男は、母親のたつに、付きに何度も抱けない女房の道子をあまり顔が汚れるほど働かせるなとそれとなく頼む。

たつは、分かったよと言うと、夕食の片付けを始めた道子に、自分がやるからと声をかけ、さっさと寝床に入った夫の相手をするように促す。

道子が兄の寝室に入り障子が閉められると、弟の英次が恨めしそうな表情でその寝室を見つめる。

そこに、順平たちが持ってきた兄弟2人分の給金24000円をたつに渡し、一緒に飲みに行かないか?と英次を誘うが、英次は断る。

駒治が張り切って夕食の準備をしている所に、飲み屋のユキ子(丘照美)が、順平から頼まれたと言って酒瓶を持って来ると、順平はうちの店で飲んでいるので晩飯はいらないと言っていたと伝えたので、久々に水入らずでの夕食を楽しみにしていた駒治は落胆する。

飲み屋では、大阪から久々に帰郷していた清(鈴木和夫)が、ここはいくら故郷とは言っても大阪から遠過ぎると愚痴をこぼしていた。

そこにユキ子が戻って来たので、洋介(関田裕)が早速口説き始めるが、ユキは相手にしない。

順平たちは、これから女を買いに行こうと言い出すが、そこに兼子(佐羽由子)と共にやって来たのが加代だった。

加代は、出かけようとする順平に行かないでと頼むが、順平はうるさそうに振り払うと、男友達たちと一緒に店の前に停まっていたバスに乗り込み、ユキ子から、男たちが今からどこへ行くか聞いた加代は思わず涙ぐむのだった。

翌日、栄吉は泰平丸に古鉄を積み込んでいた。

井戸で水を汲んでいた加代は、近くを通りかかった女たちから盆の送り火に行かんのか?と声をかけられるが、あっちは行かん!と不機嫌そうに答える。

家に水を運んでいた加代に近づいてきた順平が、今晩船で待っていると声をかけるが、加代は嫌!と無視し、家の中では、帰って来た加代に母親の松代(菅井きん)が、今外で誰と話していた?と不機嫌そうに尋ねる。

知らんと加代は無視するが、松代はそこにいると言いながら、石を順平の方に投げつけると、帰って来た加代の弟の勇(依田宣)に、今外に誰がおった?と聞き、順平だったと確認する。

松代は娘の加代に、自分が決めた男と結婚するんだときつく言いつける。

駒治は順平に小遣いをねだり、1000円だけせしめると、あまり無駄遣いするなと注意する。

しかし、浴衣に着替えた順平は、おじはその年まで生きとって何の楽しみがある?と言い出したので、駒治は好き好んで年を取ったわけではないと答え、早く死ねとでも言うのか?と聞き返すと、おじにもその方が楽じゃろが…と言いながら、順平は出かけて行く。

栄吉の家には、夫に先立たれ女手1つで子供を育てている菊江(荒木道子)が、長男の晴久(小林政忠)を、船乗りにしたいので次の出航の時、泰平丸に乗せてくれと頼みに来ていた。

晴久は、12日は下河原の祭りじゃなどと船に乗るのをためらっている様子だったので、菊枝は、もう子供じゃないんだからと叱りつけながら、ここらで男が生きるには、仲仕か漁師か船乗りになるしかなく、船乗りが一番金になるんだと説得する。

菊枝に乳飲み子がいることをはじめて知った栄吉は、浅間が死んでもう5年になるのに?と不思議がるが、一緒に話を聞いていた富子がそれとなく合図したので、事情を察し笑ってごまかす。

そして、船に乗るのは大変なことで、野菜は食べられないし、夜も満足に寝ていられない。冬は、びゅーびゅー風が吹く中を立っとらんといかんぞと晴久に忠告する。

その頃、暗くなった無人の浜辺で順平は加代に会っていた。

加代を抱こうとした順平だったが、加代は機嫌が悪く、汚い!夕べは商売女を買って!と言いながら順平を突き飛ばす。

波打ち際に尻餅をついた順平はその場で浴衣を脱ぎ捨てると、パンツ一丁になって夜の海に泳ぎ出したので、急に心配し出した加代は、順ちゃん、戻って来て!と叫ぶ。

やがて、泳いで戻って来た順平は、身体を清めて来た。許しよと言いながら、跪いて加代に手を差し伸べると、加代も感極まって跪き、2人はしっかり抱き合うのだった。

加代は、結婚してねと頼み、順平は秋までにする。船長に仲人をやってもらうので、富子おばさんに頼んでみるときっぱり約束する。

安心した加代は何か順平に打ち明けることがありそうだったが、今度話す…と言葉を濁し、明日は盆踊りねと嬉しそうに呟く。

翌日の盆踊りは盛大に執り行われ、櫓の廻りで順平と加代は並んで踊っていたが、2人の間に急に兼子が割り込んで来たので、順平との距離が開いた加代はふくれる。

そんな祭りの最中、店を出していた駄菓子屋(谷晃)は、盛男が菓子を万引きする所を見つけ捕まえる。

近くにいた兄の晴久は驚いて盛男にどうしたんだ?と聞き、菓子屋に謝る。

盛男を連れ晴久が家に帰って来ると、赤ん坊(斎藤浩)を玄関口に寝かせたまま、母親の姿はなく、男物の草履が玄関先に脱いであったので、黙って又外に出て行く。

その直後、菊枝が障子を開け、誰が来たかと玄関を覗くが、奥から男の声がする。

外に出た盛男は、何か食いたいと泣き出す。

そんな兄弟を見かけた峰男は、泣いている盛男に小遣いを渡してやる。

その後、千恵子を抱いて盆踊りを観に行った峰男だったが、酔った英次が暴れていると聞き、慌てて止めに向かう。

亡き父に似て酒癖が悪い英次は青年会長相手にくだを巻いていたが、近づいてきた峰男がビンタして家に連れ帰る。

英次は玄関口に倒れ込み、水をくれとわめくので、道子が飲ませようと身体を寄せると、不気味な目で見つめて来たので、身の危険を察した道子は思わず身体を離してしまう。

一方、盆踊りの櫓の上では、順平が太鼓を叩き、それを下から加代が嬉しそうに見つめていた。

翌日、泰平丸が晴久も乗せ出航して行く。

千恵子を背負った道子や岬一が港に見送りに来ていた。

浜辺で網の点検をしていた加代は、一緒に仕事をしていた兼子から順平としばらく会えないなとからかわれると、10日も経てば会える。順ちゃんは私のもの。秋には式も挙げると誇らし気に伝えるのだった。

その後、反物を売りに来た行商から、スカートにする半端物の布を購入した加代だったが、雨が降って来たのに気づく。

それから4日も雨が降り続く中、富子の所にミシンを借りに来ていた加代は、せっかく買った布地の大半を無駄にし、ブラウスを縫っていたので、富子が勿体ながると、兼子がスカートを作ったので…と加代は面白くなさそうに答える。

そして、加代は富子に、お願いがあると言い出す。

その頃、駒治は、藁を売りに来た婆さん(牧よし子)の藁に文句をつけ、一束50円の藁を値切ろうとしていた。

桶屋の京作(織田政雄)の家にやって来た菊枝は、雨続きで子供たちに飯を食わせられんと泣きつくので、京作はむげにも断れず金を渡してやると、早よ去ねと追い払う。

床屋で髪を刈っていた圭吉の背後では、暇つぶしで将棋をしていた若者(西条康彦)らが、順平と加代の噂話をしていたが、それを聞いていた圭吉は、それは本当に惚れとると断言する。

その頃、加代は富子から、式の時に着る着物を借りて喜んでいた。

そこへやって来たのが川島と圭吉で、大阪の荷主から泰平丸がまだ到着しないという連絡があったという。

あちこちの港に電話してみたが…という言葉を聞いた富子、加代は船は沈んだのか!と驚き、寝床で聞いていたらしきマスノまで、異変を察知したのか這って来て船が何ぞ?と声をかける。

富子は、峰男の母たつの所に走ってやって来ると、船の異変を知らせる。

噂を耳にしたらしき菊枝が富子の元にやって来て、うちの晴久は?と聞くが、又やって来た川島がもう絶望じゃと教える。

しかし、菊枝は何とかしてくれや!と叫ぶ。

新聞に、室戸沖で機帆船が行方不明になったとの記事が載る。

泰平丸に乗らず助かった英次が、新聞記者の人が呼んでいると駒治に言いに来る。

駒治が川島の家に来ると、泰平丸の遺族たちがそろっており、記者(加藤和夫)が順平のことを話してくれと頼むので、わしはあの子1人だけが頼りだった…と答える。

写真はないかと聞かれた駒治は呆然としながらもないと答えるが、その場にいた兼子が、加代ちゃんが持ってると言い出し、他の女たちも貸しちゃれと加代に迫るが、加代は嫌ちゃ!と叫ぶとその場を逃げ出す。

仕方がないので、遺族の集合写真を撮ることにするが、栄吉の妻の富子がいないので、栄吉の長兄の安一(小栗一也)が自宅にいた富子を誘いに来るが、富子は動こうとはせず、寝床のマスノも行かんで良いと応援する。

結局、富子抜きで遺族写真をカメラマン(児玉清)が撮ることになる。

後日、バスで同乗したお時やん(原泉)が、富子やたつに慰めの言葉をかける。

浜で網引きをやっていた菊枝は、貧乏させて来て何の楽しみも与えてやれなかった晴久が不憫でならんとこぼしていたが、虫が知らせたのか、晴久は船に乗りたがらなかったのに、自分が無理に乗せたばかりに…と悔やんでいたが、その話を聞いていた網引き仲間の女が、男を連れ込んでいた女には、15の子供は邪魔だったんじゃないかと言われたのでいきり立つ。

相手の女も、日頃から菊枝の行状には言いたいことがあったらしく、さらに文句を言って来たので菊枝はその女に飛びかかりつかみ合いの喧嘩が始まる。

その頃、川島の所に来ていた圭吉は、船主が保険を250万しかかけていなかったと聞かされていた。

そんな雀の涙のような金でどうする?と圭吉は愕然とする。

松代は自宅で、順も女癖が悪かったと死んだ順平の悪口を言うと、加代も何とかせんとと嫁入りの話をしていたが、それを聞いていた加代はたまらなくなって家を飛び出してしまう。

京作が菊枝の家に来てみると、菊枝は酔っており、京作を見ると帰ってくれといきなり言い、人は私のことを、晴久を邪魔者扱いした。あんたと2人で晴久を殺したと言うと据えた目で呟くと、確かにあの子が邪魔なときがあったと本音をぶちまける。

それを聞いていた京作は、二度とそんなことを言うたら承知せん。海が5人を殺したんだ!と少し、吃音気味に説き伏せる。

浜辺に1人やって来た加代は、海に向かって、順ちゃん、帰って来て〜!と呼びかけていた。

駒治は、自宅の玄関口で誰かが泣いているのに気づき、様子を見に行くと、それは加代だったので驚いてどうした?と声をかけると、うち、順ちゃんの子が出来とると言い出したんで驚愕してうちに上げる。

おらの血を継いどるんじゃの?と確認した駒治は、よう、おらに話してくれた。お前も辛かろうが、運が悪かったと思って…と慰めながらも、その子はどうしたもんじゃろうのう?…と思案し、加代が順平と一緒になることを約束したと聞くと、生んで育ててくれ。おらの血を引く子はその子しかおらん!と頭を下げて頼む。

順ちゃんも喜ぶやろか?と加代は逡巡するが、駒治は喜ぶとも!と太鼓判を押す。

飲み屋では、順平の仲間たちがいつものように飲んでいたが、盛り上がらないので帰ろうとするが、女将おきん(一の宮あつ子)が今日は自分が1本おごるから、皆で順ちゃんの話をしようと言い出す。

すると、1人の青年(西條康彦)が、以前、順平が加代の手紙を読んでいたのでからかったら殴られたというエピソードを紹介する。

すると、おきんは、加代ちゃん、どうするんだろう?これよ、これと言いながら、おなかが膨れたジェスチャーをしてみせたので、その場にいた兼子は、加代が順平の子を妊っていることを知りがっかりすると同時に、私、今まで加代ちゃんに意地悪ばかりして…と告白して店を飛び出して行く。

その後も泰平丸の5人の遺体は発見されなかったが、圭吉は峰男の叔父として、川島とも協議の上、合同葬儀を執り行うことにする。

唯一発見された泰平丸の差し板が棺に納められていた。

栄吉の家では、富子の子供やマスノをどの家が引き取るのかという栄吉の兄弟たちによる家族会議が行われていた。

長兄安一の女房春江(新村礼子)が、強行に自分の家にマスノや子供を引き取るのには反対する。

三男の勝正(綾川香)も困りきっているだけだった。

次男節男(佐田豊)の妻熊恵(河村久子)は、うちには子供がいないので岬一をもらいたいと言い出す。

そんな中、富子を呼んだマスノは、自分もそう長くないので、ここにおらしちくれ。春江の世話になどなりたくないと懇願するが、富子は、許しておばあちゃん…、私にはどうしようも…と断ると、無理かの…と諦めたのか、急にマスノは冷淡になり、もうええ!あっちに去ね!と、布団の中でそっぽを向き、声を荒げるのだった。

兄弟たちがいる座敷に戻った富子は、あっちにも子供くらい育てられる。どこにもやらん!と言い出すが、女の細腕では…と、兄弟たちは相手にしなかった。

結局、節男が岬一と君子を引き取ることになる。

峰男の家では、この頃、幼子の千恵子が良く泣くようになったとたつが愚痴っていた。

その千恵子をあやしながら道子が外に出ると、焼香に来ていた圭吉がたつに、あれも25で後家は可哀想だ。いっそのこと、里に帰したらどうか?そうすれば又相手が見つかるかもしれんと提案する。

その頃、浜辺に千恵子を背負って1人やって来た道子は泣いていた。

順平の焼香に来ていたお時やんら婆連中は、駒治が一升瓶の酒を飲んでいるので、あまり飲まん方が良いと注意するが、これは順平がおらにために買ってくれた酒なんだ。一緒に飲もうと思っていたのに…と駒治が言うと、何も言えなくなる。

そのお時やんが、加代が夕べからおらんようになって、松やんはキ○ガイのように探しとると言うではないか。

翌日、兼子に付き添われて、具合が悪そうな加代が村に帰って来る。

家に戻って来て事情を知った松代は、布団に横になった加代を殴りつけるが、付き添っていた兼子が、おばさんも女なら分かるでしょう!と止める。

そこに駒治がやって来て加代の様子を聞いたので、松代は怒りながら、子供は堕してきたがやと告げる。

それを聞いた駒治は仰天し、良くも騙したな!この年寄りを!このあばずれ!売女!などと加代を罵倒しながら上がり込もうとする。

松代はそんな駒治に対し、お前の血のつながった子など生ませられるか!人の娘を傷物にして!と怒鳴り帰して突き飛ばすと、倒れた駒治が動かなくなったので、その様子を観ていた兼子が慌てて駆け寄る。

駒治は死んだのではなく、絶望のあまり動けなくなっていたのだった。

たつは圭吉の店に来ると、道子を英次の嫁にするのはどうかと相談し、自分が道子に話してみるという。

帰宅したたつは、道子に圭吉の店に行くよう勧める。

その後、戻って来た道子は、辰野前に手をついて、これからもよろしゅうに…と挨拶をしたので、たつは止めれ、そんなこと…と手を挙げると、自分は今後の相談に圭吉の所へもう一度出向いて行く。

布団に道子を寝かせようと蚊帳の中に入った道子だったが、その後に、英次が入って来ようとする気配を感じると、待って英ちゃん、兄やんの初七日がすむまで…と後ろ向きのまま声をかけ、英次も、黙ってその言葉に従うのだった。

翌日、富子は岬一と君子を連れて帰る節男をバス停に見送りに来ていた。

節男に促され、岬一と君子は富子にさようならと言ってバスは走り出すが、手を引いて連れて来ていた末の娘時枝(板屋幸江)は、兄ちゃんたち、もう帰らんがなと口にする。

帰宅し、外で時枝がマリつきをして遊んでいる中、一人自宅に籠っていた富子はうなだれていた。

食卓の片付けをしようと茶の間に来た富子は、そこに置いてあった電気炊飯器を観て栄吉を思い出したのか、泣き伏すのだった。

後日、川島が男(中島春雄)に、倉庫の中の仕事を頼んでいたとき、1人の警官(石川進)がやって来て、見つかったという水死体の写真を見せ、5人のうちの誰かかも知れんので、それが誰なのか調べてくれないかと頼んで来る。

もはや、水死体の特長は、奥歯に金をかぶせていることくらいだと言う。

まずは、峰男の家に向かった川島は、たつに峰男は金歯をしていなかったかと聞くが、辰は怪訝層に否定する。

その時、道子が英次と仲睦まじそうに仕事に向かう所だったので、たつは、道子の前で峰男のことを言うのは止めてくれ。あれも、もう忘れようとしているのだからと川島に注意する。

次に、菊枝の家にやって来た川島は、留守番をしていた盛男に、晴久はいくつだった?と聞くと、自分は7つで、兄ちゃんは8つ上だったというので、すぐに対象から外す。

15才で金歯などしているはずがなかったからだ。

そこに、秋恵が戻って来て、朝から一升瓶の酒を湯のみについで煽ると、呆れて観ていた川島に、これがないと…と言い訳しながら、米を買って来たから、自分で焚いて食べろ。夜の分まで焚くんだぞと盛男に言いつけて着替え始める。

駒治の家では、又、駒治が藁売りの婆さん相手に無理な値切り方をしている最中だった。

婆さんの方も、リウマチで足が痛いのに、ここまで半里もリヤカーで運んで来たのに…と泣きそうになったので、お前が泣かなきゃ、おらの方が泣くことになるなどと言いながら、駒治は残りわずかな、何とか5円だけ負けさせ金を手渡す。

そこに圭吉と川島がやって来て、圭吉は生活保護が受けられるようにして来たからと駒治に伝える。

駒治は感謝しながら、川島の方の用事を聞くが、川島は、聞いとこうと思うことがあったが、もうどうでも良いわと言う。

圭吉と川島は一緒に駒治の家から帰ることになるが、その途中、松代と出会う。

松代は、加代に良い縁談の口がある。向うは1町2反も田んぼを持っていると自慢げに2人に打ち明ける。

川島は、泰平丸の遺族の家を訪ね歩いている理由を圭吉に打ち明け、歯に金歯を入れとる言うたら栄吉くらいしかないと思うたので、訪ねるのは最後にしたと説明する。

圭吉は、富子はあれ以来、めそめそ泣いてばかりらしい。もっとしっかりした女だと思うていたが…と、意外そうに川島に教える。

そんな2人が富子の家に到着して見ると、肝心の富子の姿はなかった。

2人は、どこに行ったんやろ?と不思議がるが、通りかかった婆さんが、富子なら2、3日前から浜に網引きに行っとる。もう泣くだけ泣いて、涙ものうなったと言うとったと教える。

浜では、富子だけではなく、元気を取り戻した加代も一緒に網を引くろくろを回していた。