TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

口から出まかせ

森繁が女好きのトランスポーターになり、訳ありの車を運転する途中、色々な女性や事件に巻き込まれるというロードムービー。

それにしても、リュック・ベッソン監督作品で有名な「トランスポーター」という名称が、この時代から邦画でも使われていたことに驚かされた。

陸送屋とも言っているが、礼子役の津島恵子は、ちゃんと「トランスポーター」と言う言い方もしている。

若々しく口八丁手八丁と言った感じで、コミカルだった時代の森繁が楽しめる作品となっている。

個人的に注目したのは、劇中、森繁がゴジラの名を使って即興の歌を歌っていること。

この作品が公開された1958年と言えば、「ゴジラの逆襲」(1955)と「キングコング対ゴジラ」(1962)の間に当たり、「美女と液体人間」や「大怪獣バラン」と言った作品は公開されていたが、ちょっと怪獣や特撮が停滞していた時期である。

もちろん、東宝配給なので、宝塚映画としては系列の製作会社としてお愛想のつもりもあるのだろうが、陸送屋が口ずさんでみせるほど、ゴジラの名前は庶民の間に定着していたということかも知れない。

さらに、当時の男の子の間に拳銃ごっこが流行っていたことなども分かる。

清川虹子演ずる妻の貞子役も軽妙で達者、森繁との息の合った所を見せてくれる。

後半ちらり登場する記者の中に、ハンチング帽にトレンチコート姿という、どう観ても「七人の刑事」の沢田部長刑事にそっくりなキャラが混じっているので、芦田伸介ではないかと思って観ていたが、宝塚映画に彼が出るだろうか?と疑問も感じないではなく、後でキャスト表を調べてみたら、やっぱり本人だったようだ。

TBSの人気番組となる「七人の刑事」が始まるのは、この後の1961年からのようなので、格好などが似ていたのは偶然だったということだろう。

一見、軽いタッチのお気楽な通俗娯楽作品のように思えるが、ちゃんと売春防止法を絡め、当時の底辺に生きる女性たちの苦しみなども描いてみせてくれている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、宝塚映画、菊島隆三脚本、 内川清一郎監督作品。

この作品は全て創作であるという断りテロップ

配給会社東宝ロゴ

製作会社宝塚映画ロゴ

東京の町並み

車の車窓が国会議事堂に近づく。

第八議員会館の入口に到着した車から降り立った日之出モータースのセールスマン石田(堺左千夫)は、待っていた熊坂長五郎議員の秘書栗山(佐々十郎)に車をお届けしたと報告すると、これがただの車かと感心し、こんな所に停めてもらっては困る。先生のお国の方まで届けて欲しいと言い出す。

熊坂の故郷である出雲今市までの運送費もこちら持ちでやれと言われた石田が会社に戻ってそのことを加藤支配人(十朱久雄)に伝えると、支配人も呆れ、あの車は、代議士が買ったのではなく、他の人間が買ったものなんだと打ち明けるが、その金を払った人間の名前は教えられないのだという。

とりあえず、月末までに送り届けてくれれば良いということだったので、加藤支配人は、ちょうど一仕事を終え、会社に戻って来た陸送担当の平野に仕事を頼むが、今夜辺り、女房がパンクしそうなのでダメだと断った平野は、あいつにやらせれば良いじゃないですかと、表で客相手に車の説明をしていた陸送屋宮本小次郎(森繁久彌)を見るが、あいつは最近セールスの方に夢中なんで都合が悪いんだおと支配人は頭を抱える。

宮本は、金持ち風の夫婦相手に、席が倒れてベッドになる、ベッドカーを熱心に売り込んでいた。

今や、3Cの時代「カー、キャメラ、キャッシュ」ですから、この種の「モーテル」が最近の流行ですと言葉巧みに女房の方を車の中に引き込むと、イスをベッドにし、自分も添い寝してみせて満足度を味あわせるが、それを観ていた主人の方が不愉快そうになり、そのまま妻を連れて帰ってしまう。

そこにやって来た加藤支配人は、渋々宮本にその車を今市まで送って欲しいと頼むと、栃木の今市ですか?と聞く宮本に、出雲の今市だと答え、途中に君の故郷の丹波篠山もあるから寄って行けば良いと低姿勢で頼む。

宮本は承知し、何か言いたそうだったので、すぐに給料の前借りのことだと気づいた加藤支配人が金額を聞くと、8万円だと言うので、片手だと答えると、すぐにOKですと嬉しそうに宮本が答えたので、加藤支配人はまんまと計られたと気づく。

石田が車の様子を見に来ると、宮本が車のナンバーを「ろ 84649」と書いており、白ナンバーではまずいし、数字は「ロハでよろしく」という意味だと解説する。

出発前、家に帰った宮本は、妻の貞子(清川虹子)から握り飯は10個で良いかと聞かれたので、遠足に行くんじゃないんだから5つで十分だと答える。

財布を見せてごらんと言われたので財布を渡すと、中には500円しか入ってなかったので、これじゃあ、浮気も出来ないだろうねと安心したのか、貞子はへそくっていた5000円を財布に入れてやる。

それを観た宮本は、会社から前借りでもらった1万をそっくり返すよと言いながら貞子の前に投げ出す。

貞子はすっかりそれが全額だと信じ込み、あんたの正直な所が好きだよと喜ぶ。

そして、2、3日留守にするんだろう?と寝室へ誘おうとし始めたので、宮本は、最近糖尿がひどくなって…と断ろうとするが、そこに、長男の由坊(富松高志)が玩具のピストルを振り回しながら帰って来る。

何でも、流感で学校が早引けになったらしく、姉ちゃんたちもうすぐ帰って来るというので、貞子は邪魔が入りがっかりするが、宮本の方はピンチを脱し安堵する。

そして、宮本は車を運転して自宅を出発する。

その頃、日之出モータースの加藤支配人は、石田から若い女性のお客さんですと告げられ、どんな女性だ?と興味なさそうに表を見るが、そこに立っていたのが美しい女性だったのですぐに応対に出て行き、用向きを尋ねる。

その女性礼子(津島恵子)は、昨日ここにあったナッシュはどうなさいました?と聞いて来たので、もう売れたのでここにはないと加藤支配人が答えると、自分は大学で社会科を専攻していて、汚職の実態のレポートを書きたいのでと、調べている理由を打ち明けるが、加藤支配人は職業上の秘密なので教えられないと返答を拒む。

礼子は、車の買い主は熊坂長五郎でしょう?知りたいのは送った方ですと迫るが、車は既に国に送りましたと支配人が答えると帰って行く。

加藤支配人は石田に、ああ言うのが、書きますわよって奴だと言う。

その時、熊坂の栗山秘書から電話があり、車で運んでもらいたいと言うので、もう車は国に向かっていると加藤支配人が答えると、栗山は熊坂長五郎(上田吉二郎)の部屋に報告に行くが、中ではパジャマ姿で愛人の山西陽子(藤間紫)の背中に公約を貼ってやっていた熊坂が、中に入らずそこから報告しろと命じるので、ドアの外から車はもう出発したようですと報告すると、車をすぐに探すんだ!と熊坂から怒鳴りつけられる。

その頃、宮本がやって来たのはデパートで、7階まで直通のエレベーターに乗り込むと、7階で乗り込もうとした客たちに、故障なので乗れませんと断ると、エレベーターガールと2人きりになり、良い車があるのでドライブに行こうと誘う。

そのエレベーターガールは宮本のガールフレンドの1人だったが、仕事中なので行けないときっぱり断られる。

次に向かった喫茶店のみどり(塩沢登代路)からは、行きたいけど今来客中だと言われて断られる。

パチンコ屋のガールフレンドは、亭主がムショから出て来たばかりなのでと断られたので、仕方なく、宮本は女房の貞子を呼び寄せるが、何と、1男3女の子供たちまで連れて来たので、うるさいドライブになってしまう。

横浜の外人墓地から江ノ島、小田原城址、宮の下、元箱根とやって来た宮本家族は、車を降り土産物屋に入った所で、貞子がおなかが空いたので、ここでおにぎり食べようと言い出す。

しかし、今日は車の持ち主だぞ。恥ずかしい真似は止めろと、店内に持ち込んだ握り飯にむしゃぶりつき出した子供たちと貞子を叱りつける。

店の外にいたレイクサイドホテルの送迎車の運転手が誘って来たので、見栄を張った宮本は家族を連れホテルのレストランに向かうが、ウエイター(立原博)に子供たちが芋コロッケなどと注文するので、ございませんと断られたりするので、恥をかきたくない宮本は、部屋を取って、そこに注文した料理を運んでもらうことにする。

子供たちが食い散らかした料理をもったいなさそうにあさる貞子に注意しながらも、宮本の方も、ナイフを1本くすねようとしていた。

しかし、料理を下げに来たウェイターにすぐに見つかってしまい、バツが悪くなった宮本は、そのウェイターに分不相応な高額チップを与えてしまう。

その頃、ホテルの外に遊びに出ていた由坊は、又玩具のピストルで妹や姉たちをからかっていたが、お父さんに怒られるわよと注意されると、父親が乗って来たナッシュワゴンのダッシュボードの中に隠してしまう。

そんな由坊らを発見したのは、陸送の帰りにたまたま前の道を通りかかった平野だった。

部屋では、せっかくホテルの良いベッドがあるので、又もや宮本と貞子が良い雰囲気になりかけていたが、そこにずかずかと入り込んで来たのが、油にまみれた平野で、雰囲気の欠片もない言葉をかけて来たので追い出してしまう。

そこにウエイターが料金の請求書を持って来て、うちはその都度お支払いをお願いしますというので、宮本は又又高額な料金を支払うしかなかった。

見栄を張ってこんな高いホテルにやって来た自分のことは棚に上げ、すっかり不機嫌になった宮本は、ボートに乗ろうと部屋に戻って来たよし坊の頭を叩いたり、それを止めた貞子の頬まで叩き、お前たち帰れ!と怒鳴りつけてしまう。

1人になった宮本はサングラスをかけ、ナッシュを飛ばして目的地に向かおうとするが、三島神社前でスピード違反として警察に掴まってしまう。

派出所で宮本から事情を聞いていた警官は、本署から電話を受け、宮本に、何やらかしたか知らんが、小田原署の方に行ってくれと本署から連絡があったと伝える。

一応免許証はその派出所に預ける形にし、車を小田原に向けた宮本であったが、途中、箱根付近で、車が故障したので手伝って欲しいと、道に立っていた男から呼び止められるが、それどころじゃないと断った宮本は、そのまま車を走らせるが、後方を走っていた夫婦が乗った車はその男の言葉を信じ、車を降りたばかりに、拳銃を突きつけられ車を奪われてしまう。

その男は、石川次郎吉(多々良純)と言う自動車強盗だったのだ。

小田原署に到着した宮本は、駅前通りの「西松」という店で車に積んでもらいたいものがあると連絡を受けたと巡査(早川恭二)から伝えられ、その店に向かう。

苛つきながら荷物を待っていると、店から出て来たのは熊坂長五郎と山西陽子の2人で、荷物は自分たちのことだという。

後部座席に乗り込んだ2人がいちゃいちゃし始めたので、宮本は面白くなかった。

熊坂と陽子がキスしようとすると車がバンドし、それが度重なるので、熊坂が文句を言うと、宮本が、この辺は「箱根の玄界灘」と呼ばれる有名な悪路であることを教え、文句があるなら政府に言ってもらいたいと答えたので、さすがに熊坂はそれ以上言い返せなかった。

それでも、陽子と2人きりになれないので、熊坂は宮本に、どっかその辺でストップし、君はタバコでも吸って来いと邪険に扱うが、その直後、検問があり車はストップする。

その際、熊坂は身分を隠すため、警察の質問に、佐々木竹蔵という貿易商で京都まで行く途中だと噓を答える。

検問を通過した後、車を停め、トランクから金物を2本取り出した宮本は、あんたはさっきの検問で佐々木竹蔵って言ったな?俺は宮本武蔵の子孫で宮本小次郎というものだと二刀流の真似をしながら熊坂と陽子のカップルを車から降ろすと、さっきのは口から出まかせを言っただけで、自分は本当の熊坂だと弁解する2人をその場に残して車を出発させる。

その頃、礼子は三島神社前派出所で宮本のことを聞いていた。

応対していた警官は、奴の免許証を預かっているので、取りに来ますよと教えてくれるが、昭和石油のガソリンスタンドで待ち受けていた礼子は、戻って来た宮本の車を呼び止めると、無銭旅行をしているので沼津まで乗せてくれないかと頼む。

女好きな宮本はすぐに承知し、礼子を乗せると、派出所に寄らずにそのまま走り抜けてしまう。

宮本は助手席に乗った礼子に、修善寺でも行ってみないか?と誘うが、礼子は、あなたはトランスポーターなんでしょう?私は熱海の方が良いわなどとはぐらかせながら、公衆電話の所で電話するのでと言いながら停めさせる。

ところが、公衆電話に近づいた礼子は、近づいて来た別の車に乗り込んでそのまま走り去ってしまったので、待機していた宮本はがっかりしてしまう。

追いかけようとした宮本だったが、近くにいた警官が話しかけて来たので、諦めるしかなかった。

その後、修善寺の「宮之家」という店に到着した宮本は馴染みの芸者ぼたんを呼んでもらうが、出て来たぼたんは違う女で、先代のぼたんだったら、とっくに長岡の方に住み替えしたと言う。

何でも、愛知県の犬山観光事業の社長さんが呼び寄せたらしい。

その2代目ぼたんは、宮本のことを社長と思い込んでおり、先代には3万ほど衣装代の貸しがあるので払ってもらえないかと言う。

その場は取り繕って払ってやるから領収書持って来いと返した宮本だったが、2代目ぼたんが店に入るとすぐに車に戻り、さっさと逃げ出してしまうのだった。

静岡、駿府城址、岡崎、矢作橋、名古屋を通過し、車は犬山に到着する。

「夢の国」という店では、ピンハネ反対など待遇改善を叫んだ従業員の女たちのストライキ中だったが、そこにやって来た宮本が、ここにぼたんがいないかと聞くと、それはまさ子のことではないか?と気づいた女が奥にいたぼたん(淡路恵子)を呼んでくれる。

宮本はようやく巡り会えたぼたんに、犬山観光と聞いて来たが、大山観光の間違いだったことにようやく気づき、何とかここを見つけたと苦労話をする。

ぼたんは、ストライキ中であることに遠慮しながら、とりあえず2階に上げた宮本に、組み合いがうるさいのでここで仕事は出来ないと断りながらも、車で出来るんじゃない?と言い出し、とりあえず風呂に入ってきたら?と勧める。

ぼたんが言うには、ここの社長というのはヤクザなので怖いらしい。

その時、そのヤクザの社長大山(中村是好)が帰って来て、店の前で止まっていたナッシュを見つけると、上客だと思い込み、ぼたんに大事にしろと声をかける。

そして、風呂に入っていた宮本へも挨拶をした大山だったが、頭を洗い始めた宮本は、風呂番の爺さんだと思い込んだのか、背中を流してくれと頼むと、ここの社長はヤクザらしいが大変だろ?などと言い出す。

大山は、上半身を脱いで背中を洗ってやるが、その背中には立派な刺青が彫ってあった。

頭を流して顔を上げた所で、ようやく相手の刺青に気づいた宮本は、主人の大山ですと名乗られたので、何も言えずに固まってしまう。

その後、宮本はナッシュでぼたんとドライブに出かけるが、「夢の国」に残った女将は、玉抜きじゃないかと心配する。

しかし、大山は、車のナンバーを覚えているので大丈夫だと答える。

宮本は、ぼたんにせがまれるまま関ヶ原から滋賀県大津市の膳所(ぜぜ)までやって来る。

瀬田の唐橋付近で世が明けてしまい、車を停めた宮本だったが、ぼたんがくしゃみをしながら、鼻紙を忘れて来たので買って来てくれとねだる。

仕方なく、鼻紙を買って戻って来た宮本だったが、既に車内にぼたんの姿はなく、丹波篠山に帰ります。2万円拝借します。私は宮本さんが社長ではなく陸送屋だと前から知っていましたが、陸送屋の宮本さんの邦画好きです。梶原まさ子…と書かれた置き手紙が置いてあるだけだった。

京都

礼子は、まだ準備中のとあるバーに入って来て、箱根の自動車強盗、京都に来た層よと新聞を観ながらおしゃべりをしていたホステスの1人に、ママさんはいないかと聞くが、まだ帰ってない。料亭「小柳」と言うのもやっているのでそちらではないかと教えられると、そのまま帰ってしまう。

その直後、店に戻って来た山西陽子は、余計なことを言うんじゃないよ。今のは旦那のお嬢さんよとホステスに教える。

料亭「小柳」では、熊坂長五郎が芸者の踊りを観ていたが、踊りが終わると全員座を外させ、その日呼び集めていた売春業者たちに、売春防止法が通りそうなので、色々やりにくくなっているが、人の噂も75日、後2、3年もすれば元に戻ると伝える。

業者たちは、贈り物はお気に召しましたでしょうか?と熊坂に聞く。

例の車は、売春業者たちが熊坂に贈った贈賄だったのだ。

栗山秘書が、まだ車の名義替えはやっていないと教えると、熊坂は結構と満足げに頷く。

昭和石油のガソリンスタンドで仮眠をとっていた宮本が出発しようと外に出た時、近くを通り過ぎ、「小柳」に入り込んだ礼子を見かけたので、店の前まで来てみるが、その直後、あの大山までがやって来たので身を隠して様子を見ることにする。

熊坂の座敷に飛び込んで来た栗山が、お嬢様がこちらの奥様を!と告げる。

熊坂が行ってみると、乗り込んで来た娘の礼子が女将の陽子にあなたがやっているのは売春じゃない!と言い争いをしている最中だったので、両者にビンタをして止めさせる。

陽子は悔しがり、熊坂の腕をつねり返す。

礼子は、お母さんと選挙民たちに言うわと言い残して料亭を飛び出して行く。

そこに、車があったので思わず乗り込んだ礼子だったが、運転手の宮本がどこへ行きましょうと聞くと、あんたと同じよと答える。

しかし逢坂を過ぎた辺りで山道に差し掛かると、勢いで乗ったものの、女1人で良く知らない中年男の車に乗り込んだことを礼子は後悔し始める。

そんな礼子をからかうように、宮本は、ウエディングマーチを口ずさんだりするので、礼子も負けじと笑い飛ばしてみせる。

そんな宮本の車の前に現れた警官が、1人の老婆(飯田蝶子)を福住まで乗せて行ってくれないかと頼んで来る。

丹波篠山の中間地点の福住まで2時間もかかるじゃないか!と、行きがかり上断れず、老婆を乗せてしまった宮本は不機嫌になるが、礼子の方は同乗者が出来たので安心したようだった。

老婆は酔っているようだったので事情を礼子が聞くと、婚礼の前祝いに飲んだという。

誰が結婚するのかと聞くと、自分だというではないか。

やがて、懐からスルメと自家製だというマムシ酒を取り出した婆さんは、運転していた宮本にまで酒を飲ませ、自分は16の時に茨城からこの地に嫁に来たが、男運が悪く、何度も未亡人になった。今度の相手もすぐに死ぬだろうと笑いながら説明すると、ご機嫌な様子で、「♬鼻のでかいのが嫁に行かされ、インドで象の婿取った〜♬」と歌うので、宮本も調子に乗り「口のでかいのがゴジラに知れて、クジラ飲むように頼まれた〜♬」と歌って返す。

やがて、目的地らしき飯屋の前で、紋付を着て待っている爺さん(左卜全)がいたので、婆さんを降ろしてやると、2人は「愛ちゃん」「太郎さん」と名を呼び合って仲睦まじく去って行く。

宮本は、それまで後部座席に乗っていた礼子を助手席に乗せ出発すると、宮本がムーディな音楽をかけ始めたので、局を替え、ラジオニュースにした礼子だったが、自動車強盗の石川次郎吉のことを言っていたので怯え出す。

そんな礼子を抱き寄せながら、君は初恋の人に似ているなどと宮本は口説き始めるが、抵抗してダッシュボードに片手をかけていた礼子は、蓋が開いたその中にピストルが入っているのに気づくと、その銃を宮本に向けて、自分は箱根の自動車強盗の片割れだ!車を停めろよ!と脅す。

宮本が降りると、礼子は1人で車を運転してその場を逃げ出すが、すぐに運転を誤り、路肩に車輪を落として停まってしまう。

追いかけた来た宮本は、運転席で気絶していた礼子を起こすと、丸太を探して来てタイヤの下に噛ますと、礼子も協力して何とか車を元に戻す。

その途中、玩具のピストルを拾い上げていた宮本は、名前くらい聞かせろよと迫り、礼子は、詫びもかねてか、素直に礼子と教える。

宮本は運転席にあったマムシ酒の瓶を取り上げると、こんなものがあるから悪いと言いながら投げ捨て、しばらく運転してくれ。俺は後ろで休ませてもらうと頼む。

丹波篠山に到着した宮本は礼子に、しばらく恋人の真似をしていてくれと頼むと、ぼたんの実家を訪ねるが、出てきたまさ子は又別人で、修善寺で一緒に働いていたぼたんなら、速達が届いていると宮本に手渡す。

そこには、色々嘘をついて来たが、お金は里子に出していた子供を引き取るために必要だった。借りたお金を返すため、もう一冬、温泉場で働きます。うまくいかなかったら子供の株主として諦めて下さい。株主の中で、自分の名前を教えたのはあなただけですと書かれていた。

そん手紙を助手席の礼子に渡し、車を運転し始めた宮本は大泣きしていた。

やがて、宮本は実家の墓参りに来ると、俺も女に生まれていたらパンパンになっていたかも知れない。こんな顔だから、お茶ばかり引いていただろうと、哀れなぼたんのこととだぶらせて話す。

俺は陸送屋だ。親爺も爺さんも水呑百姓だった。一旗揚げようと上京したが、結局何も出来なかった…と反省する宮本の前にあった墓石が、急にぐらついて転がり落ちたので、親爺が降りて来た。俺が悪かった!と宮本は詫びるのだった。

話を聞いていた礼子の方も、車に乗り込むと、自分は最初から宮本さんのことを知っていたのだと打ち明ける。

やがて、そんな2人が乗ったナッシュの前に、足にまめができたので、バスの停留所まで乗せてくれないかと頼む男が立ちふさがる。

素直に乗せてやった宮本だったが、停留所に来てもその男が降りようとしないので不審がると、急に後部座席から手を伸ばし、礼子が乗っていた助手席を倒してベッドにしようとしたその男の付け髭が落ち、拳銃を取り出したので、箱根の自動車強盗石川次郎吉だと気づく。

車を停めろと脅された宮本だったが、俺はてこでも動かねえ!と見栄を切ると、ハンドルを離そうとしなかった。

しかし、拳銃を突きつけられて来たのでやむなく停めると、自分も上着のポケットに入れていた玩具のピストルを取り出し次郎吉に向ける。

互いに車を降り、車の廻りで相手の隙を狙い合う。

やがて宮本がピストルの引き金を引くが、玩具なので何も出ず、次郎吉の方も引き金を引くが、水が飛び出して来ただけだった。

たがいに本物の銃ではないことが分かると、つかみ合いが始まるが、次郎吉は車を奪って逃げ去ってしまう。

この事件は公となり、盗まれた車は、全国赤線組み合いから熊坂議員への贈賄だったと報道されてしまう。

事件を知った加藤支配人は宮本に電話をかけて寄越し、草の根を分けても車を探し出せと檄を飛ばす。

すっかり参った宮本は、警察のジープが走り去るのを見つけると、自分も乗せてくれ!と後を追う始末。

地元警察署に世話になることになっただが、警官天野(沢村いき雄)が東京から電話がかかって来たので、部下に宮本を呼びに行かせると、宮本は留置場の中に勝手に入り込み、正座して自己反省している所だった。

電話は妻貞子からで、喧嘩したけど、今でも愛しているという伝言だったと天野巡査は伝えてやる。

出雲今市では、安木節コンクールなるイベントをやっている最中で、実家に帰郷していた熊坂は、その特別審査員として出かけようとしていた。

そんな父親に、女のことでお母さんをノイローゼにさせ入院させたり、車のことが新聞に出るとびくびくしたりするくらいなら、売春業者汚職なんて一番汚いことをするような真似は止めてと頼んでいた。

しかし、そんな娘の願いに耳を傾けることもなく、贈答品で埋もれた応接室を出てイベント会場に向かおうとした熊坂だったが、玄関口に新聞記者たち(芦田伸介ら)がやって来る。

記者たちは、東京地検が全国赤線組み合いをガサ入れし、見つかった名簿の中の先生の名前に二重丸が付いていて「済み」と書かれていたのを発見したらしいが、これは贈賄を受けた証拠ですよねと追求するが、熊坂は言葉巧みに否定する。

そこに入って来たのが、ドロドロの状態になったナッシュで、運転して来た宮本は、お待たせしましたと降りて来るが、熊坂の顔を見て、以前、自分が車から追い出した男だと気づくと、平身低頭詫びるのだった。

証拠の車がやって来たので、記者たちはさらに熊坂を追求しようとするが、熊坂は相手にせず、記者たちも決定的な証拠がないので、一旦屋敷を出て、門の外で待機するしかなかった。

宮本は、強盗が城崎温泉の所で乗り捨てて行った車を見つけたので、すぐにパンクや汚れは元に戻してみせますというと、ナッシュを元の状態に戻す。

ところが熊坂は陸送代を宮本に手渡すが、こんな傷物は受け取れんよと言い出す。

宮本は、そんなことをされては私は首になります。この傷をつけたのは前科十犯の強盗です!お金も返しますと必死に頼むが熊坂が言うことを聞かないので、突然、開き直る。

どうせただでもらったものじゃないか!小さな傷のことで対面保って!そんな口から出まかせばかりを言うな!俺が今までこらえていたのは、母ちゃんや子供がいるからだ!良し、持って帰る!門を開けろ!私は国民の1人として、記者の前で全部ぶちまけてやる!と言い放った宮本だが、止めて!とそれを止めたのは屋敷から出て来た礼子だった。

宮本さん、お願いです!お父さんのことを許してあげて!と宮本に頭を下げると、父親に向かって、お父さん!宮本さんがこんな思いをしてまで車を運んで来てくれたのも、皆お父さんが悪いんです!と責める。

さしもの熊坂も言葉なくうなだれ、聞いていた宮本も、思わずもらい泣きしてしまう。

そこにやって来た栗山秘書が、今、駅前の公衆電話から連絡があり、奥さんがお着きになったそうですと宮本に教える。

それを聞いた宮本は、急に頭を抱え込むのだった。

その後、雪が降る出雲大社では、結婚式を挙げないままで今まで過ごして来た貞子のたっての願いで、角隠しの花嫁衣装を着た貞子と、モーニングを着て、ちょっとよろけ気味の宮本が、晴れて結婚式の写真を撮ってもらっていた。